東京六芒星決戦~星を射る者達

作者:小鳥遊彩羽

●星を射る者達
「クロム・レック・ファクトリアでの戦い、お疲れ様」
 トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はそう言って、クロム・レック・ファクトリア、及びディザスター・キングの撃破を叶えたケルベロス達を労った。
 その上で、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)と阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)の警戒により、死神の大規模儀式が行われることが判明したと続けた。
 それは、最近多発していた死神による事件が集約された大儀式であり、都内の6ヶ所で同時に儀式が行われる、言わば『ヘキサグラムの儀式』となる。
「儀式が行われるのは『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の6ヶ所。この6ヶ所は、ちょうど、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点になる場所なんだ」
 今回の事件では、戦闘力が強化された下級の死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった死神の戦力に加えて、第四王女レリの直属の軍団も加わっている。更に竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されており、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦と想定されている――そう、トキサは言った。
「皆には、この六ケ所の儀式場の一つに攻め入ってほしいんだ」
 今回の作戦では、6つの儀式場における全ての儀式を阻止しなければならず、それぞれの場所に十分な戦力を配置する必要があるだろう。
 儀式場の外縁部には、数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入者を阻止しようとしている。だが、レインボーブリッジの儀式場のみ、外縁部の防衛戦力が第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっているようだ。
 儀式を行っているネレイデス幹部は、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラがそれぞれ配置されている。
 ネレイデス幹部は儀式に集中しており、少しでもダメージを被ると儀式を維持することが出来なくなるようだとトキサは続けた。
 つまり、外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達、その上でネレイデス幹部にダメージを与えることが出来れば、作戦は最低限成功となる。
 儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟って撤退を開始し、儀式中断の7ターン後に生き残っていた死神は全て撤退してしまう。よって、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、この7ターンの間に撃破しなければならない。
 しかし、ネレイデス幹部は強敵である上、儀式場内部では更に戦闘力が強化される為、単独チームの戦力では撃破は難しく、また、周囲に護衛が残っている場合や、外縁部の戦力が増援として殺到するような事態になれば、これも幹部の撃破は難しくなる為、状況によっては儀式を中断させた後はそのまま撤退することも視野に入れておくべきだろう。
 だが、ネレイデスの幹部が多数生き残った場合、今回のような大儀式を再び引き起こす危険性もあるため、可能な限り討ち取って欲しいとトキサは言った。

 外縁部には数百体という大戦力が展開しているが、『侵入者の阻止』を目的としている為、儀式場周囲の全周を警戒しており、突破する際に戦うのは数体から10体程度となる。
 白百合騎士団一般兵は3名程度の小隊での警戒を行っており、突破する際に戦うのは3体或いは6体程度。また、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外になるようだ。
 ただ、全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が増援として儀式場内に雪崩れ込む場合があるので、その点は注意が必要だろう。
 儀式場内部には、ネレイデス幹部を守る護衛役が配されている。
 築地市場の戦場には、『炎舞の死神』アガウエーがおり、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』を集めている。
 豊洲市場の戦場には、『暗礁の死神』ケートーがおり、数十体の屍隷兵『ウツシ』を集めている。
 国際展示場の戦場には、『無垢の死神』イアイラがおり、数十体の屍隷兵『寂しいティニー』を集めている。
 お台場の戦場には、星屑集めのティフォナがおり、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体を護衛としている。
 レインボーブリッジには第四王女レリがおり、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と、10体程度の白百合騎士団一般兵を護衛役につけている。
 東京タワーには、『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体護衛として引き連れている。
 儀式を阻止するだけならば全ての護衛を相手にする必要はないが、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、護衛を撃破、もしくはネレイデス幹部から引き離す必要があるだろう。
「今回の儀式は、ドラゴン勢力が熊本城で行った魔竜王の復活に勝るとも劣らない規模であると推測される。死神がこれまでに引き起こしてきた数多の事件が、この大儀式に集約されていると言っても過言ではないだろう」
 ゆえに、儀式を阻止できなかった場合の被害も、計り知れないものになる。
「皆で力を合わせて、何としてもこの儀式を食い止めてほしい。――頼んだよ」
 トキサはそう言って説明を終え、ケルベロス達に後を託した。


参加者
星詠・唯覇(星天桜嵐・e00828)
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
紗神・炯介(白き獣・e09948)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)

■リプレイ

 都内の6つの場所で同時に展開されている、死神の集団『ネレイデス』による儀式。
 それを阻止するため、東京湾に架かる巨大な橋――レインボーブリッジへと突入したケルベロス達は、すぐさま待ち受けていたエインヘリアル――白百合騎士団の一般兵達と刃を交えることとなった。
 レインボーブリッジに集まったのは全部で7チーム。その内の6チームが、芝浦ふ頭側の入り口に当たる芝浦アンカレイジから突入を果たした。残る1チームは、対岸の入口に当たるお台場海浜公園から動き出していることだろう。
 連絡用にとイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)が持参した無線機は、案の定繋がる気配はなく。また、外縁部隊が互いに位置するのは橋の両端であり、距離があるため、内部での合流も初めから不可能だった。だが、離れていても共に戦う仲間として信を託し、彼らは敵陣へと踏み込んだ。

「ケルベロス共を迎え撃て! レリ様の元へ行かせるな!」
「我らの剣は、レリ様の為に!」
 白い鎧を着たエインヘリアルの女騎士達が、ケルベロスの存在に気づき迎撃の構えを取るのが見える。女と言えど、相手はエインヘリアル。いずれも2メートルを優に超える身の丈を持つ彼女達が犇めく様はそれだけで圧巻の一言だった。
 だが、ケルベロス達は怖じることなく果敢に攻め込んでいく。
「もうこんな大規模な儀式、びっくりだよ。でもわたしたちが絶対阻止するからね、勝手にはさせないんだから!」
 イズナは地面に展開させたケルベロスチェインで守護の魔法陣を描く。
 その守りは付与を試みようとした突入班ではなく、こちらの前衛陣へと齎された。
 志を同じくしてこの戦いに臨んでいる突入班の同胞達はそれぞれ個別に守りや耐性を重ね、突破のための布陣を整えていることだろう。
 場は一瞬にして混沌となりながらも、敵を見定めた白百合の小隊がそれぞれの得物を手に襲い掛かってくる。
 唸る風と共に力任せに振り下ろされた、巨大な星剣の一撃。
 その衝撃を、セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)は乙女座の星辰を宿した白銀の騎士剣で弾き返し、そのまま剣を正面に構えた。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士として、貴殿達に戦いを申し込みます!」
 凛と名乗りを響かせて、セレナは星と月の加護への願いを託した剣から乙女座のオーラを敵群へ飛ばす。
 庇うような動きを見せた一体へ、すぐさまウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)がバスターライフルの銃口を向け、敵のグラビティを中和し弱体化するエネルギー光弾を撃ち出した。
「屑共め……ウジャウジャと目障りなんですよ……!」
 ほぼ同時に、光弾の軌跡を辿るように標的の懐へと迫っていたシルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)が、『零の境地』を載せた拳を叩きつける。
「一匹残らず消し去ってやりますよ……!」
 全身の地獄を骨装具足に閉じ込め、顔もフルフェイスで覆われて、シルフィディアの表情は窺えない。
 けれど、吐き捨てられた言葉には、燃え盛る炎のような、デウスエクスへの激しい怒りと憎しみが籠められていた。
 今この瞬間に民間に犠牲が出ないとしても、見過ごせば大惨事が目に見えているのなら。
「……何としても止めるに決まってるじゃない」
 増援はここで留めてみせるという確かな意志と、儀式の阻止の成功への願いを胸に心と刃を一体とし、アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)が自らに宿すは霊的防護を断ち切る力。『静』と『動』の刃を合わせた、巨大な鋏を模した白銀の剣を手に、アリシスフェイルもまた敵陣の只中へ飛び込んでゆく。
 如何に恩義を感じ忠誠心が高かろうと、何よりも助けたい『人』達ではなく彼らに牙を剥く者ならば、想いはただ一つ。
「私は一切の躊躇はしないわ」
 例え、それがエゴであろうとも。
 その時、不意に目の前に立ち塞がった敵が、ルーンの光を帯びた斧をアリシスフェイル目掛けて振り下ろした。
 躱そうと身動ぐよりも、刃が届くほうが速い。
 だが、アリシスフェイルを襲うはずだった衝撃は、直前で巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)によって受け止められ、肩口を抉るように斧刃が突き刺さっていた。
「癒乃っ、」
「――大丈夫です、心配はいりません」
 白い肌を血の色で染めながらも癒乃はアリシスフェイルの声に落ち着いた声で応じ、マインドリングから浮遊する光の盾を具現化させる。同時に、シャーマンズゴーストのルキノも祈りを捧げ、速やかに傷を癒していった。
「さて、――お手伝い、頼んだよ」
 紗神・炯介(白き獣・e09948)の声に応えて現れた小さな鬼の子のあやかしがイズナに寄り添って治癒力を高める一方で、テレビウムのカランが流す動画の調べに乗せて、星詠・唯覇(星天桜嵐・e00828)は軽やかに地を蹴った。
(「死神の大きな動き……これで何かわかるといいのだが」)
 家族を失ってから唯覇がずっと追い求める存在。そこに繋がる何かを掴むことが叶えばという思いもあれど、今は仲間達と共に目の前の敵を倒すのみと降る星の煌めき纏う蹴撃を叩き込めば、盾の騎士が崩れ落ちる。
 まずは1体、そして更に攻撃を重ねて2体、3体と、最初に立ちはだかった小隊を撃破する頃には、戦線を突破した同胞達が、次なる戦いの舞台へと向かっていくのが確認出来た。
 だが、ここに居る8名とサーヴァント達は、外縁部に留まったまま。
「さて、我々はしっかりと陽動を行いましょうか。――汝、動くこと能わず、不動陣」
 指先で五芒星をなぞり、詠唱を紡ぎ上げながらウィッカが言う。
 ここに残った彼らの目的は、儀式を阻止する為に儀式場へと向かった突入班に対する外からの援護だ。
 外縁部に未だ多く残る兵達。それらを引きつけ、内部への増援に行かせない為の――時間との戦いが始まったのである。

 次第に激しさを増していく剣戟の音。
 巨大な敵の群れが蠢く中を、ケルベロス達は疾走しながら戦い続けていた。
「……ちょっと不利みたいだね」
 メディックとして後方から広く戦場を見渡しながら、イズナが皆へ『合図』を告げる。
 手元の懐中時計は、戦いが始まってから3分が経過したことを告げていた。
 対岸で戦うもう一つの部隊や、儀式場へと向かった突入班の面々。
 彼らの状況が今どうなっているのかは、ここからではわからない。
 自分達に出来るのは、仲間達を、そして己を信じて戦い続けることだけだ。
「白百合の花言葉は『尊厳』。――その名を冠す騎士団の名を汚すような者が、この場に居るのですか?」
 セレナが念じた先で極限まで集中させた精神が解き放たれ、兵士の身体が爆ぜる。
 反撃とばかりに斬り掛かってきた兵と星剣を激しく交えながら、セレナは更に、怒りの丈をぶつけてゆく。
「不幸な女性をあのような形で救おうとするなど、断じて許せません。騎士は弱き人を守り、手を差し伸べるもの。その手を汚させて得られる幸福など、絶対に認めません!」
 白百合の騎士達は、一人一人の強さは然程の脅威ではなかったものの、やはり数の差は圧倒的だった。セレナと斬り結ぶ兵へ狙いを定めようとした炯介の視界に、横合いからセレナへ躍り掛ろうとしている別の兵の姿が映る。
 躊躇なく身を挺して繰り出されたオーラの拳を受け止めながら、炯介はふと首を傾げた。
「……君も、元人間?」
 何気なく問う声に答えはない。だが、元より期待はしていなかった。ゆえに炯介はそう、とだけ短く返し、悪魔の名を冠した黒く重厚なライフル銃の引き金を引く。
 炯介の心に過る、届かなかった願いと手。
 番犬としての責を果たした、何時かの戦いの記憶。
(「……どんな事情があれ、今度も」)
 至近距離から撃ち込まれた凍結光線に全ての熱を奪われ、凍りついた兵士が砕け散った。
 自らが得意とする魔術を巧みに操り、的確に敵の動きを封じて回るウィッカは、乱戦の最中、隣り合ったシルフィディアにふと問うた。
「シルフィディアさん、大丈夫ですか?」
 同じ旅団に属し親しい間柄であるシルフィディアは、ウィッカの声に我に返ったようにこくりと頷く。
「はい、ウィッカさんも……大丈夫でしょうか……」
「おかげさまで。……ですが、思っていたよりも敵が強いですね。援軍を要請してきた方がいいかもしれません」
 僅かに神妙な面持ちでウィッカが続けた言葉は、敢えて目の前の兵達に聞かせるように。
 そうですねとシルフィディアも答えながら、飛び掛かってきた兵士目掛けて怒りを込めた激しい雷を放つ。
「……なかなかやり難いわね。後は任せて、少し態勢を整えましょ」
 潮風にさらされた髪を軽く払い、アリシスフェイルはすっと息を吸い込んだ。
「天石から金に至り、潔癖たる境界は堅固であれ。海原沈み深き底、天空昇り遥か果、累ねた涯の青を鏤める――蒼界の玻片」
 アリシスフェイルの澄んだ声に応えて、最前線で戦う者達の足元に灰と黄の光を帯びた六芒星が浮かび上がる。すると、空と海との狭間に翔ける想いを閉じ込めた蒼界の玻片が、青と白のステンドグラスを思わせる障壁となって彼らに守りの加護を齎した。
「そうだな……確かに強い! ……援護要請も必要かもしれんな……」
 苦い声で唯覇は呟くも、だが、と己を叱咤するように顔を上げる。
「――その怒りにひれ伏せろ!」
 心のままに唯覇が歌い上げるのは、彼方の天より雷鳴轟く暗雲を招く歌。カランの応援動画に合わせて響き渡った旋律が、強烈な電撃となって敵を撃つ。
「竜の喉、御使いの光輪……今再び、調停の時をはじめましょう」
 祈りを捧げるルキノの傍ら、癒乃の口から力ある言葉が紡がれる。喉を、声を、竜の勇者の息遣いに代え、癒乃は咆哮に偉大なる調停者の威光を乗せて放った。
 唐突とも言える、死神達の侵攻作戦。神出鬼没な死神の目論見らしいといえばそれまでだが、それにしてはあまりにも急な作戦だと癒乃はささやかな懸念を抱く。
(「何かの布石でなければいいのですが……」)
 ――その時だった。
 後方に控えていた小隊の幾つかが、ケルベロス達の存在を脅威ではないと認識したのだろう。展望台へ向かおうと踵を返すのが確かめられた。
 それを見たイズナが、すかさず声を上げる。
「みんな、敵が逃げるよ! 後方の本隊に、援護に来てもらうように連絡するね!」
 そうして取り出した無線機をエインヘリアル達に見えるように掲げれば、待て、と展望台に向かおうとしていた小隊を引き止める声が響く。
「逃げるとは心外だな。……逃げようとしたのはお前達のほうではないのか」
「――逃げるだなんて、一言も言ってないのだわ」
 悠然と構え、アリシスフェイルは告げる。
 その後ろでイズナが無線機から顔を離し、再度声を上げた。
「連絡ついたよ。すぐに来てくれるって!」
「さあ、どうする? 後ろの君達が展望台に行っている間に、ここに残った者達は全滅しているかもしれないけれど」
 笑みに余裕すら交えて告げる炯介に、小隊の面々は顔を見合わせ――そして、改めてケルベロス達へと向き直った。

 無論、イズナが持っている無線機はどこにも繋がらない。
 ここに居るのは自分達だけで、後方に本隊のケルベロス達が控えていることもない。
 あたかも苦戦しているかのように振る舞い、更に強力な本隊が別に居るよう装って。
 警戒すべき状況であると認識させた上で、展望台内部への増援を防ぐ為にケルベロス達が仕掛けた『はったり』を、兵士達は信じた。
 しかし、それも長くは続かない。
 多勢に無勢の中、ケルベロス達はその後も激しい戦いを繰り広げたが、一向に現れる気配のない『本隊』に兵士達が再度疑念を抱き始めるまでに、さほど時間は掛からなかった。

 戦いの始まりから10分が経過する頃には、こちらも大分消耗していた。
 盾を務めていたサーヴァント達は力尽きて戦場から姿を消し、残る炯介と癒乃も既にヒールの効かないダメージを多く抱えていた。特にルキノと魂を分かち合う癒乃はいつ倒れてもおかしくない程にまで削られていたと言っても過言ではない。
「アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
 セレナは一瞬の内に自らの肉体に魔力を巡らせ、瞬間的に限界まで向上させた能力の全てを使い、自らを剣として兵士の急所を斬り捨てる。
 その瞳には決して揺らぐことのない強い闘志が満ちているものの、他の仲間達同様、身体は傷だらけだ。
「融け堕ちて苦しめ……!」
 それでも尚一人でも多くデウスエクスを屠らんと、シルフィディアは両手の地獄を鋭く強靭な爪へと変化させ、敵を斬り裂いた。シルフィディアが抱く憎しみを塗り込めたかのような地獄の毒に忽ちの内に侵食され、兵士はもがき苦しみながら崩れ落ちてゆく。
「……そろそろ、頃合いかな」
 ライフル銃を下ろし、炯介がぽつりと呟く。戦い続けること自体はまだ可能だが、盾である自分達が倒れれば戦線は一気に瓦解するだろう。ここで自分達が倒れてしまっては、元も子もない。
「そうですね、十分に時間は稼いだと考えて良いでしょう」
 ウィッカは五芒星を描きながら注意深く戦場を見渡し、それから、展望台の方へと目を向ける。遅かれ早かれ、死神との決着もそろそろ着く頃だ。ここに残る兵士達が増援として駆けつけたとしても、内部に残る者達が撤退するだけの時間はあるだろう。
「私達の役目はここまでね。後は任せましょう」
 アリシスフェイルが想いを重ねて放ったブラックスライムが、エインヘリアルの巨躯を丸呑みにする。その隙に癒乃が掲げた縛霊手から敵群を滅ぼす巨大光弾を発射し、唯覇が炎を纏った激しい蹴りを浴びせれば、小隊の最後の一人が倒れ伏し、次の小隊との距離が空く。
「みんな、おつかれさま! 行こう!」
 イズナの声にケルベロス達は一斉に踵を返し、元来た道を辿って撤退していく。
 事前に知らされていた通り、後を追ってくる者はなく。ケルベロス達は無事に外へと逃れることが出来たのだった。

 レインボーブリッジの外へと脱出し、振り返ったケルベロス達は、展望台へ向かった同胞達が次々に海へと飛び込み、脱出を図る姿をその目で確かめることになる。
 そして、後に、全ての場所で儀式の阻止が叶ったことと、ここレインボーブリッジにおいては『約定の死神』アマテイアが撃破されたことを知る。
 だが、死神の勢力ではないエインヘリアル達は、第四王女レリを筆頭に、その殆どがレインボーブリッジに留まったままだ。
 未だ脅威は残るものの、それでも未曾有の災厄は防がれた。
 しかし、一時の休息すら許されぬまま、次なる戦いは目前に迫っている――。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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