東京六芒星決戦～陰謀の果実

■リプレイ

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　築地場外市場を囲む大通りを、鰹と鮪の形をした死神たちが渦を巻くように巡る。
　曇り空の下、ひと気のなくなった街は、水底に沈んだ廃墟の如く。
「まるで冥府のよウだな……地獄の番犬にハ関係のなイことだが。立ち入らせてもらウ」
　君乃・眸（ブリキノ心臓・e22801）を始め、三班……２４人の番犬たちが走り込んでいく。途端に目を光らせた二匹の魚が、身を翻して。
「来ルぞ。キリノ」
　相棒のビハインドが瓦礫を飛ばし、眸が鮪を弾き飛ばす。だが魚の群れは怯むことなく、次々に降りて来る。
「築地に魚類とは死神にしてはいいセンスじゃないか。さ、鮮度のいいうちに冷凍しておこう」
「あんまり喰いたかないが、俺は焼き魚だぜ。ま、焦げるより先に、ぶっ壊しちまうかもしれねーけど」
　メイザース・リドルテイカー（夢紡ぎの騙り部・e01026）と尾方・広喜（量産型イロハ式ヲ型・e36130）がにやりと笑い、吹雪の精霊と無数の熱弾が空を舞う。氷結と爆発が魚たちを撃ち抜く中、天音・迅（無銘の拳士・e11143）が微笑んで。
（「気のいい仲間に恵まれたな……他班との連携もある。だらしないところは見せられない」）
　彼は扇を靡かせ、合図を送るように派手に鬨の声をあげる。
「さあ、絶対に成功させて見せるぜ！　みんな、行くぞ！」
　雪崩れ込んで来る魚群に、一斉攻撃が炸裂する。爆音と閃光が飛び交い、魚たちは次々に撃ち落とされて。
「この人数なら、ただの的だね。さて！　どー考えてもロクでもない企みを、叩っ斬りに行きますか！」
　エリシエル・モノファイユ（銀閃華・e03672） が敵の群れを蹴り払う中でも、魚たちは炯々と瞳を光らせ、焼け付く触腕を伸ばし、爆発する魚卵を降り注がせる。
　だが。
「さあ、皆！　癒しは僕が引き受けた！　振り向かずに駆け抜けて！　すぐ仲間が追いついてくるから、踏ん張ろうね！」
　新条・あかり（点灯夫・e04291）が、落内・眠堂（指切り・e01178）と共に、色鮮やかな爆炎を散らし、その攻撃を拡散する。僚班もそれぞれに障壁や癒しを展開して、番犬たちは加速する。
「さあ後援、この合図に続け！　雑魚共は今に此の勢で溺れるぜ！」
　そして眠堂は、空を見る。
（「ちょっとした虚仮威しだが、増援多数と惑ってくれれば上々……まあ、こいつらにそんな知恵があればだけどな」）
　それは波状攻撃に見せかけ、外縁部の敵を釘付けにする策。皆、次々に後続へ呼びかけ、大戦力の到来を演出する。
　最後尾を進む玉榮・陣内（双頭の豹・e05753）が、猫ともみ合っていた鰹を、鎖で両断しながら。
（「尤も、実際の戦力は六班……今回、全戦場がほぼ均等の戦力配置だ。厳しい闘いになるだろうな」）
　後続の二班は、すでに突撃を始めている。自分たちが突き破った箇所を通る分、すぐに追いつくだろう。
　だがたった一班で外縁部に残る第三波が、この魚群を前にどれだけ持ちこたえられるかは、賭けだった。
「さて、始めるか……異文化交流戦って奴を」
　番犬たちは、築地場外市場へと乗り込んでいく。

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　死の海流と化した大通りを抜け、細路地の迷宮へ。
　突入した瞬間、燻る臭いが鼻を突く。
「来るぞ……！」
　無数の唸りが路地裏より轟いた。怒りに身を焦がし、積み上げてあったビールコンテナを砕いて、姿を現すのは。
「……屍隷兵『縛炎隷兵』。再び相対すルとは。哀れダが、構っていル時間はない」
　放たれる爆炎を払いのけ、キリノと眸が前面に押し出る。敵を金縛りにかけて胸元から閃光を撃ち放つ。だが敵は、路地から更に湧いて出る。
「次々、来るね。でも人数ならこっちも十分。負けないよ。炎に怯まず、先へ進んで！」
　吐き散らされる火炎を、あかりが雷電の壁で抑え込む。その援護の下、広喜は焔の拳を振るって。
「一緒の班に負けらんねえもんな。さあ、すぐに寝かせてやる。真っすぐ突っ切るぜ」
「同感。斬り込みは任せな。圧し包まれたところで、斬り破るだけさ！」
　エリシエルが刃を振るい、殴り倒された縛炎隷兵の首を飛ばした。
　だがその勢いを、メイザースが押し留めた。突き進む二人の横腹から喰らい付こうとした一体を、黒い影のようなもので縛り上げて。
「地を這う者に、重力の枷は容赦をしない……二人とも、突出してはならないよ」
「ああ。作戦は護衛と幹部の分断だ。現れたぞ。ヌスラー（盗人）共の片割れが」
　鎖鞭をしならせて死人を薙ぎ払い、陣内が後方を見る。後ろから突入してきた二班が路地を曲がり、舞い踊る火焔と向き合っていた。
　だが援護に行くのは、自分たちの役目ではない。
「あれがアガウエーか。馬鹿げた宴でも、賑わうもんだな。手厚い持て成し、有難えこった！」
　眠堂の放った氷結の護符が、死人たちを瞬く間に凍てつかせていく。三班構成の攻めの前に、怒気の炎を吐き散らす死人は次々に崩れ落ち、同時に新手も湧いて出て……。
「よし、後続二班がアガウエーを押し込んだ！　ゾンビ退治はここまでだ！　幹部班、抜けるぞ！」
　多節鞭で敵を払い、迅は信号弾の合図を待たずに声を上げた。
　路地を走り抜ける二班の後方から、死人の群れが追いすがる。だが。
「雑魚共が！こんなもんで、オレの後ろに攻撃を通せると思うなよ！」
　竜人の雄叫びと共に、足止めに残った一班がそこへ突撃していく。
　踊る火焔は押し込まれ、群がる死人は引き離され。
　二班は死の路地を脱して、角を曲がり……。

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　その先に、二班は見る。
「見つけたぜ……！」
　燻るビルの根元に広がる、蒼い魔法陣。その中心に杖をさして祈りを捧げる、白いローブの女。そして、傍らの狼が顔を上げるのを。
　僚班から、銀髪の青年が長銃を構えた。それに続き、眠堂も輝く護符を天にかざして。
「異界の魚とその親玉風情が、死を語るんじゃねえよ……いま、黙らせてやる。合わせるぜ。我が御神の遣わせ給う徒よ……急ぎ来れ、颶風狂瀾！」
　放たれるは、閃光と御業。凄まじい力が魔法陣に衝突し、落雷の如く大地が揺れる。
『っ……！』
　儀式で集めた力でその身を持ち堪えさせたか。死神は舌打ちと共に意識を引き戻した。
「さあ、続けるよ！」
　エリシエルの斬撃が飛び、続けざまの一斉砲撃がすぐさまそこへ殺到する。
　その時、女が傍らに連れていた狼が飛び出した。
「あれは……！」
　陣内が驚愕を込めて呟いた次の瞬間、死神の姿は爆煙の中に消える。だが彼はそれに構わず、即座に振り返った。
「気をつけろ！　あの狼は、グラビティのヴィジョンでも、ファミリアやオウガメタルのような命ある武装でもない……！」
「！？」
　その警告の中、眸もまた目を見開いていた。
　彼らは、わかったのだ。『同じ力』の使い手であるがゆえに。
「デウスエクスに同じ能力者を見ルとは。間違イない……あれは解放固定型グラビティ。サーヴァントの一種ダ……！」
　輝く狼に身を護られ、死神が煙を振り払う。
『ケルベロス……！　馬鹿な、ここまで来るとは……』
　僚班の誰かが召喚した氷騎士が突撃していく中、死神はシッと息を吐いて狼を放った。遠吠えと共に影で出来た群狼が湧き出でて、前衛に襲い掛かる。
「猫、護れ……！」
「くっ……キリノ！」
　石化の呪いを穿つ無数の牙から、二体が仲間を庇う中、死神は怒りに顔を歪ませる。
『……何故だ。約束の時間は過ぎている。一度交わした約定を、お前が裏切るはずがない。何故来ない……ディザスター・キング！』
「！？」
　覚えある名に、驚愕したのも一瞬。
　死神の杖が稲妻のように閃光を放ち、前衛を打ち据えた。
　狼の影に当てられた石化の呪いが、それで一気に加速するのを見て。
「石化の群狼を放った後、溜めなしで呪詛を増幅させる連携攻撃だって？　なんとも剣呑な。デウスエクスの使い魔とはね！」
　石化の侵食に蝕まれながら、エリシエルが刃を振るった。その斬撃を狼は鋭く尖った毛並みで逸らし、素早く跳躍する。
　それを見て、咄嗟に跳び出したのは、あかり。
「……狼は、僕たちが！　そっちは本体をお願い！」
　破邪の舞いで呪いを祓い、僚班を振り返る。黒髪の少女が頷いて。
「……死神は任せて！」
　僚班がプサマテーに突撃していく中、唸り声を上げる狼と睨み合う。
「聞いて……あの狼は護り手だよ。本体を庇われたり回復したりしたら、とても間に合わない。僕たちで釘付けにするんだ」
　頷いたのは、メイザース。その身を、眸の放った破邪の力で満たして。
「興味深い……個の強さが権威に直結する価値観の中で力を二分割するのは、よほどの事情が必要ということかな。だが、指示は了解だ。呪術医の本領を、お見せしよう……！」
　コートを払った瞬間、カプセル弾が次々と放たれた。狼は弾幕の中をジグザグに跳ねまわり、怯むことなく前衛に喰らい付いて来る。
「あの死神は回復支援メインだから、自前の剣と盾がどうしても欲しかったってとこか！　じゃ、俺たちがコイツの押さえに回るのは、悪くない。さあ、捌いてみせな！」
　蹴り込んだ陣内ともつれ合う狼に向けて、迅が掌打の舞いを打つ。放たれた衝撃波が狼を打ち据え、巨狼は吠え声を上げて跳び上がった。
　仲間たちが動きを抑え込む中、広喜がそれを追って。
「本当はご本人に挨拶したかったんだが、邪魔するんならしかたねーよな。よお、使い魔。儀式もてめえらも……直せねえくらい、ぶち壊してやるよっ」
　その拳が地獄の炎を纏わせて輝く牙と馳せ合った。

　……その、向こうで。
『なるほど。キングはここに来られないほどの状況に追い込まれたということか……』
　死神は忌々しげに天を仰ぎながら、戦場に閃光を走らせる。
　番犬たちの布陣を切り裂き、その目が見据えるのは、時間。
　残りは……五分。

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　広喜が耳のデバイスに触れれば、狼の足元が炸裂する。
「こういうのは慣れねえが、どうだよ」
　だが突如、輝きと共にオリーブの枝葉が狼の身を包み、負傷を瞬く間に塞いでいく。
「本体の援護か……！　本体が癒し手、使い魔が盾。徹底的な守りの布陣。だが力を二分したなら、俺たちだけでも抜けるはず。攻めは、緩めない……！」
　眠堂は虹を走らせて滑り込み、狼の顎を蹴り抜く。
「ああ。本体が使い魔を癒すほど、向こうの援護にもなる。とことん搦め手がお好きなようだが、死は終着点だ。再生の可能性ごと、凍り付くといい……！」
　メイザースのステッキが氷結を込めてめり込んだ。
　だが巨狼は傷つきながらも唸り声と共に光り輝き、その毛並みを針の如く逆立てる。
「自己回復するほどより堅牢になる仕組みか……！　お前らの大道芸は十分見せてもらったぜ。お代はこいつだ！　受け取りな！」
　迅の放った氷結弾が、咆哮を上げる狼を更に凍てつかせる。だが幾度氷結を撃ち込んでも、それは伸びあがるオリーブの枝葉が払い散らす。
「クソッ……！」
　死神には、まともに闘うつもりはない。癒しと護りに傾注し、時間を稼ぎ抜く腹だ。
『あと少しの間……！』
　時は更に二分を進み、もはや残りはごく僅か。
『時を稼げ、我がしもべ……！』
　その囁きが聞こえた者はどれだけいたか。死神は僚班へと向き直り、巨狼は咆哮と共に無数の影狼を呼び寄せる。皆を護っていた猫が遂に石と化して、その姿が砕け散る。
　だが。
（「本体の注意が、逸れた……！　なら五分終了前に、総攻撃の準備を整わせる。僕はその為に、癒し手としてここにいる……！」）
　あかりが手に舞わせた流銀が、雲を裂く陽光のように輝いた。前衛に喰らい付いていた群狼が、石化の呪いと共に引き千切れて行く。
「行って！」
「了解だ、あかり」
「ああ。任せたまえ」
「猫を、やったな」
　眠堂が護符を、メイザースがステッキを、陣内が鎖を。
　三者三様の一撃が、一気に狼を貫く。
　だが狼は身を捻り、キリノ目掛けていきなり跳び上がった。紅い泡を吹きながらも目を血走らせ、その首筋を喰い破る。守護霊の姿が光と散った、眼前に。
　その主が、迫っていた。もう一人の、相棒と共に。
「流石の守り、そして力だ。だが、主従の攻撃の長所は知っていルか？」
「俺はわかるぜ。相棒が一杯いるってことだろ？　さあ行くぜ……相棒！」
　それは、模範回答ではなかったかもしれない。だが眸と広喜は笑みを交わすと、跳び込むように巨狼の胸を打ち抜いた。二人分の拳で。
　悲鳴と共に狼の体が舞い飛ぶ。
　その下で刀に指を掛けているのは。
「ま、そーいうこったね。最初はちょっと驚いたけど。うまいこと連携を断ち切れば、いつもの鉄火場さ。さあ……万理断ち切れッ！」
　太刀筋に籠められた神の名をエリシエルが口にしたとき、巨狼の体は二つに割れる。
　その姿が消失した時、五分終了のアラームが鳴り響いた。
「よしっ！　予定通りだ！　いっくぜぇえ！」
　拳に衝撃を集める迅を筆頭に、番犬たちは死神へと全ての力を解き放った……。

『っ！？　まさか……倒すなど！』
　死神は遂に盾を失い、一斉射撃がその身に殺到する。
　炸裂する弾幕がその身を圧する中、死神を睨み据えるは、黒い影。
「俺は今、最高に気分が悪い。サルベージ……お前らが生きていくには必要で当たり前のことかもしれないが……そういうの、地球の言葉で“冒涜”って言うのさ。知ってるか？」
　因縁の種族にして、同じ能力者へ向けて、陣内は渾身の怒りと鉛の矢を撃ち放った。
『がっ……！』
　防御を貫いた一撃に死神は足を揺らしながら、引きさがる。
（『あ、あと何分だ！　あと……！』）
　必死の形相でオリーブの枝葉を伸ばそうとする死神を、僚班の仲間が圧し包んでいく。外縁部やあの路地に取り残されれば、自分たちがそうなっただろうに。
　そして。
「これで終わりだ」
　赤髪の青年が駆け抜ける。
『……っ』
　瞬斬に気付く間もなく、死神は引き攣った吐息を漏らして、崩れ落ちる。
　時計の針は、六分目の半ばを告げていた……。

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　闘いは、終わった。
「ひゃー。勝ったぜ。残った敵はどーなった？」
「……消えタ、な。影のよウに」
　広喜と眸を先頭に、彼らは路地に戻る。
「みんな、無事だったね。よかった……」
　手を振る仲間を見て、あかりが息を吐く。
　エリシエルは、薄暗い空を眺めて。
「流石に魚は大方逃げたか。外縁部には無茶させたね」
「ありがたいな。おかげで幹部を倒せた。護衛の死神は？」
　眠堂が振り返れば、メイザースが頷いた。
「向こうも仕事は果たしたようだ。今夜は祝杯をあげられるかな」
「屍隷兵も大体、片付いたみたいだぜ。築地は、完勝だ」
　迅と陣内が拳を合わせる。
　だが勝利の悦びの中、同時に不安もまた残る。
（「キング、か。あの男が率いるはずだった援軍は……どこへ？」）
　クロム・レックに居たのは、あくまで防衛戦力。
　つまりここへの援軍部隊が、どこかで編成されていたはずなのだ。

　死神が呼び寄せた災禍は、まだ渦を巻いている。
　そんな予感を抱きつつ、彼らは薄暗い路地を出る。
　そして……。

作者：白石小梅	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年11月22日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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