東京六芒星決戦~堕神計画

作者:紫村雪乃


「クロム・レック・ファクトリアの撃破、そしてディザスター・キングの撃破していただきありがとうございます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は微笑んだ。が、すぐに微笑みを消すと、続けた。
「アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)さんが警戒していたとおり、死神の大規模儀式が行われる事が判明しました」
「死神の大規模儀式?」
 問うたのは凄艶な美女だ。和泉・香蓮(サキュバスの鹵獲術士・en0013)であった。
「最近多発していた死神による事件が集約された大儀式であり、都内の六ケ所で同時に儀式が行われる『ヘキサグラムの儀式』です」
 セリカはこたえた。
 儀式が行われるのは『築地市場』、『豊洲市場』、『国際展示場』、『お台場』、『レインボーブリッジ』、『東京タワー』の六ケ所。この六ケ所は、丁度、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点になる場所であった。
「今回の事件では、戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった死神の戦力に加えて、第四王女レリの直属の軍団も加わっているようようです。更に、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されており、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦であると想定されています」
 告げると、セリカは具体的な作戦内容の説明を始めた。
「判明した儀式場の一つに攻め入ってください」
 セリカはいった。六つの儀式場の全ての儀式を阻止しなければならないので、それぞれの場所に十分な戦力を配置する必要があるのだった。
 儀式場の外縁部には数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブそしてルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入者を阻止しようとしている。レインボーブリッジの儀式場のみ、外縁部の防衛戦力が第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっていた。
「儀式を行っているネレイデス幹部は、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラ。それらは儀式を行う事に集中しており、少しでもダメージを被ると、儀式を維持する事はできないようです」
「つまり、外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達し、ネレイデス幹部にダメージを与える事が出来ればいいのね」
 香蓮がいった。
「はい。儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始します。その後、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまのです」
 ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、死神戦力が全て撤退してしまうまで――具体的には七ターン――に撃破しなければならない。ただ、ネレイデス幹部は強敵である上、儀式場内部では更に戦闘力が強化される為、単独チームの戦力では撃破は難しいのだった。
 また、周囲に護衛の戦力が残っている場合や、外縁部の戦力が増援として殺到している状態では幹部の撃破までは難しいかもしれない。状況によっては、儀式を中断させた後は戦闘せずに撤退を優先するべきかもしれなかった。
「けれどネレイデスの幹部が多数生き残った場合、今回のような大儀式を再び引き起こす危険性もあるので可能な限り討ち取っていただきたいのです」
 敵戦力ですが、とセリカは続けた。
「外縁部には数百体という大戦力が展開しています。けれど『侵入者の阻止』を目的としている為、儀式場周囲の全周を警戒しており、突破する際に戦うのは数体から十体程度となるでしょう。白百合騎士団一般兵は三名程度の小隊での警戒を行っているので、突破する際に戦うのは三体或いは六体程度。また、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外となるようです」
 ただ、全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込み増援となる場合があるので、その点は注意が必要であった。
「死神が引き起こしていた数多の事件がこの大儀式に集約されているといっていいでしょうね。必ず阻止しないと」
 香蓮には珍しく、真面目な顔でいった。


参加者
西水・祥空(クロームロータス・e01423)
リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
クレア・ヴァルター(小銀鬼・e61591)

■リプレイ


「うようよいますね」
 要項に煌く銀髪の青年がいった。その視線の先、東京国際展示場を取り巻くように戦闘力強化型の下級死神が浮かんでいる。ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスだ。
 気難しげにしかめられた青年の顔がさらにしかめられた。そうすると端正なはずの彼の顔が台無しになるのだが、本人はそれほど気にしていないようである。
 彼の名は西水・祥空(クロームロータス・e01423)。記憶を地獄化したケルベロスであった。
「マグロとカツオ……相変わらず、見ていると鉄火丼が食べたくなるわね」
 円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)という名の少女がニッと笑った。黒猫のウェアライダーだけあって、猫を思わせる魅惑的な美少女だ。
 すると、どこかぼんやりしたところのある――竜種の娘が口を開いた。
「何を狙っているか、分からないけど…きっと、見過ごしてはいけないものだろうから、阻ませてもらう…」
 娘――空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は紅瞳に天空すら貫くような強い光をため、淡々とつぶやいた。
「さぁ、はりきって死神の計画を阻止するぞ! クレイオーの撃破を目標に行動だ!」
 クレア・ヴァルター(小銀鬼・e61591)が躍り上がった。はじめての大規模作戦でわくわくしているのである。
 大きな目のクレアは可愛い少女のようであるが、オウガであった。戦闘種族らしく、戦いは大好きなのである。
「地獄にいくのは、死神どもだけで十分。じゃあ、とっとと入れ食い状態の釣り堀を突破しようか」
 娘が身構えた。人形のように綺麗な娘だ。このような戦場を前にして、しかし彼女には静謐がまとわりついていた。沈黙の魔女という自称もあながち大げさではあるまいと思われる。リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)だ。
「そうだな」
 頷き、リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)は閉じていた目を開き、武器飾りに触れていた手をはなした。
 この時、彼女は誓っていた。死神達の悪意によって未来を奪われた者達へ。必ず哀しみの涙に染った魂は解放する、と。
 その燃えるような想いは胸の底に秘め、ひたすら冷然たる美貌のまま、リィンはシュシュを一度解き、髪をポニーテールにまとめた。


 まず先陣を切ったのは二チームであった。下級死神の群れに突っ込んでいく。
「下級死神か。所詮は雑魚よな」
 その男は叫んだ。浅黒い肌のドワーフ。少年のように見えるのは童顔のためである。
 男――コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)は、彼の背丈よりも巨大な剣を振り上げた。スルードゲルミル。鉄塊のごとき無骨なその剣をコクマは振り下ろした。
 轟。
 巨剣が下級死神を真っ二つにした。それでもとまらぬ巨剣は大地を大きく穿っている。
「大丈夫か、プラン」
 コクマが問うと、プランと呼ばれた娘――プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)はうなずいた。
 煌く長い白髪、謎めいた淡い紫の瞳。豊満だが、パランスのとれたスタイルの美少女であった。巫女装束をまとっており、はだけた襟元からはむっちりした乳房が半ば覗いている。
「氷の騎士にお任せするよ」
 胸の谷間に挟んでいたカードをプランは手にとった。
 次の瞬間だ。氷の彫刻を思わせる騎士がカードから飛び出した。凍気の尾をひいて馳せ、下級死神を槍で貫く。
「ええい。邪魔だ」
 リィンの手から迸りでた鎖が下級死神を縛った。無月の星刀『蒼龍』が魚影を薙ぎ払う。
「あいつだ」
 二チームが攻撃した下級死神をめがけ、キアリもまた鎖を放った。アロン――オルトロスが神器の瞳で睨みけ、燃え上がらせる。
「ミッション、死神の大規模儀式の妨害と死神幹部の撃破」
 機械音声を思わせる静かな声で独語しつつ、リティは駆けた。冷静なリティは雑魚との戦いで戦力が削がれることが無駄であることを計算してのけている。
「邪魔すると、お腹から開いて干物にするぞ。いくら江戸前でも、お前等にはフレッシュさが足りないから」
 リティがカプセルを投げた。中身は対デウスエクス用のウイルスである。感染した死神が地に落ちて身悶えする。
「はっ。雑魚が。邪魔すんな」
 迫ってくる死神をクレアは殴りつけた。無造作でありながら、それ故に強烈無比な一撃だ。凄まじい破壊力に、死神が文字通り四散した。
 やがて、敵群が崩れた。真っ先に国際展示場のエントランスに駆け込んだのは祥空たちのチームであった。
「行って来いよヤロー共! 全部ブッ壊してこい!」
「そちらは頼みます。どうか無垢の死神に裁きを」
 仲間の声援を背に受け、四チームのケルベロスたちはエスカレーターを駆け上がっていった。


 飛ぶようにしてケルベロスたちはエスカレーターを駆け上がった。
 その途中のことである。銀光が散った。祥空の放ったオウガ粒子である。ケルベロスたちの感覚が超人域まで高められた。
「ぬっ」
 コクマは呻いた。
 六階の踊り場。幾体もの異形が群れていた。屍隷兵である寂しいティニーであった。
「あれは」
 プランが目を見開いた。屍隷兵のむこうに七階に通じるエスカレーターを発見したからだ。
「いくぞ」
 コクマが叫んだ。一斉にケルベロスたちが動く。屍隷兵もまた。
 唸る獣の爪、疾る角をはじき、あるいは潜り、ケルベロスたちはエスカレーターにとりついた。そのまま駆け上がる。
 やがて彼らは七階へ。ここにこそ儀式場があった。
 と、一つのチームが反転した。追いすがる屍隷兵を迎え撃つためだ。
 残る二十四人のケルベロスたちは先を急いだ。向かうは国際会議場だ。
 疾走は数秒。二十四人のケルベロスたちは国際会議場に飛び込んだ。そして、見た。会議場の中央で儀式を行おうとしている者の姿を。
 それは少女の姿をしていた。手足は細く、顔は可愛いといってよい。その顔に傲岸そうな笑みをうかべていた。名誉の死神、クレイオーである。
 やや離れたところに別の影があった。人魚のように下半身が魚の美少女。無垢の死神、イアイラであった。他に屍隷兵の姿もあった。
「見つけた…あれが、クレイオー…」
 無月が目を眇めた。するとコクマがニヤリとした。
「本当はイアイラを倒したかったが…だがそれもまたありよ。ところで貴様らは何故こんな儀式を行おうとした?」
 コクマが問うた。が、クレイオーはこたえない。
「まぁいい…貴様も末端の一人…知る筈もないか」
「なんだーちびっこだな! これはもう楽勝だな!」
 ふんと鼻息を荒くしてクレアが薄い胸をはった。するとクレイオーがふふんと嗤った。
「ケルベロスごときがこの『名誉の死神』クレイオーさまに勝てるとでも?」
 クレイオーは光輝く光球を放った。番犬達に叩きつける。さらには一条の光で番犬達を薙ぎ払った。さすがに驚異的な攻撃である。
「思っていますよ」
 静かに、しかし凄みのある声で祥空がこたえた。天性の神殺しである彼はデウスエクスなど恐れない。
「さて、ちびっこクレイオー」
 リティが澄んだ瞳でクレイオーを見つめた。ちらりとクレイオーが見返す。
 瞬間、キリリッと音がした。リティとクレイオーの双方から放たれる凄絶の殺気が空でぶつかりあい、空間に亀裂をはしらせたのだ。
「なんだ、番犬?」
「お前は悪戯が過ぎた。二度と地球に戻ってこられないように、地獄の底に送り返す」
「ほざくな。できるか、番犬ごとが」
「ほざいているのは、どっちだ。断ち切る等生温い……貴様等は噛み砕く!」
 リィンが叫んだ。いや、咆吼した。羅刹のような形相で。
 デウスエクスに対しての彼女の憎悪は深く重い。時折、それは御しきれぬものとなり、リィンを戦鬼へと変貌させる。
 リィンの手からアイスブルーに光る鎖が噴出した。


 鎖は翼があるかのようにうねりながら疾った。この時、すでにクレアはタイマーをスタートさせている。運命の七分が始まった。
「何っ」
 クレイオーが呻いた。その手に鎖が巻き付いている。が――。
 ギンッと鎖が断ち切られた。屍隷兵が鋭い爪をふるったのだ。さらに別の屍隷兵がリィンに襲いかかった。
 その時だ。銀光が散りしぶいた。祥空のオウガ粒子である。
 その銀光に濡れて立つ者があった。無月だ。蒼龍で屍隷兵の刃のごとき鋭い爪を受け止める。
「お前の攻撃は、通さない…」
 無月が静かに屍隷兵を見やった。
 瞬間、旋風と化したコクマが襲った。旋回の勢いを加えたスルードゲルミルの一撃が屍隷兵を吹き飛ばす。
「はっはは。弱いの、屍隷兵」
「ドローン各機、支援対指定完了……データリンク開始」
 リティの瞳を光が流れすぎた。彼女が電脳を通して操る小型偵察無人機が空を舞い、仲間とデータ交信を始める。
「あっ」
 キアリは見とめた。アロンの瘴気により屍隷兵の群れに間隙があいたのを。
 キアリは超鋼金属製の巨大ハンマーをかまえた。形態変化。選んだのは砲撃形態だ。
 クレイオーをポイント。キアリは撃った。吐き出された竜の破壊力を秘めた竜砲弾だ。
 着弾。凄まじい爆炎がクレイオーを包み込む。さすがのクレイオーもたじろいだ。
 その隙をついてプランがクレイオーに迫った。玉座の中にするりと滑り込む。

「すごいことしてあげるね 咲き乱れて果ててこわれちゃえ」
 背後からプランがクレイオーに抱きついた。細いうなじに舌を這わせ、右手でち退に乳房を揉む。左手は股間に忍び込ませていた。
 さらにである。プランは『過剰な快楽の記憶』をクレイオーに流し込んだ。
「な。何――」
 クレイオーにとっては初めての快感であったのだろう。その身を強ばらせた。
 が、それも一瞬のことだ。ぎりっと脣を噛むと、クレイオーは掌をプランにむけた。
 煌。
 ビルすら瞬時にして崩壊させるだけの破壊力を秘めた光線がクレイオーの掌かせ放たれた。直撃を受けたプランが吹き飛ぶ。
「こっちだ! ちびすけー!」
 叫びとともにクレアが空に舞った。流星を思わせる蹴撃。が、その蹴りはクレイオーに届かなかった。クレアの前に屍隷兵が立ちはだかったからだ。クレイオーの代わりに身を折る哀れな屍隷兵。


 二班による攻撃は苛烈であった。二分が過ぎる頃には、クレイオーを守る屍隷兵を全滅させている。
「テ、ティニーを斃したくらいでいい気になるなよ! わ、私は強いんだからなっ!!」
 傲岸な口ぶりはそのままに、しかし涙目となったクレイオーが光を放った。その時だ。
「クレイオー様、短気はお鎮めくださいませ。まだイアイラめがおります!」
 イアイラが引きつけていた番犬達を振り切り、数体のティニーと共にクレイオーの側へと駆け寄った。
「おぉ、イアイラ。良く駆けつけてくれた。其方がいれば百人力だ……!」
 感激したようにクレイオーが言葉を零した。そして安堵の笑みをうかべた。
「ケルベロスどもよ! 其方達の非礼、存分に返してくれるぞ!」
 涙を拭い、クレイオーはニヤリと笑った。

「どこまで行っても逃がさないんだよ」
 イアイラを追って八人のケルベロスたちが駆けつけた。これでケルベロスたちは二十四人。対するはクレイオーとイアイラ、数体の屍隷兵だ。
 それぞれが生み出す超絶の力の奔流。互いにぶつかり合い、凄まじい衝撃が会議場を席巻した。
「番犬め」
 イアイラは超質量をもつ水塊を放った。プランを庇ってコクマが吹き飛ばされる。
「力をあわせるんです」
 祥空が叫んだ。すると他チームの沙羅が動いた。クレイオーを切り刻む。
 一瞬生まれた隙をついて祥空が死神すら回避不能の一撃を放った。巨剣ライトキング・ハーデースがクレイオーの腕を粉砕する。
「させるものか」
 クレイオーを癒そうとする屍隷兵の動きを見てとり、リティが対デウスエクス用のウイルスカプセルを投擲した。これで感染したクレイオーの治癒プロセスは妨害できるはずだ。
「パワーで、ねじ伏せてやる! どうだぁ!」
 クレアの身から銀光が迸りでた。それは彼女のグラビティが作り出した銀の角である。撃ち込まれたクレイオーが身を折った。
「お、おのれ」
 血反吐を撒き散らすクレイオー。その目は迫る剣鬼の姿をとらえている。
「まだだ。まだ逝かせはせん」
 螺旋力をジェット噴射させて突撃。剣を模したエンブレムを刻印した腕部装着型の巨大杭打ち機をリィンは叩きつけた。撃ち出された超金属の杭が魔術的防護ごとクレイオーを貫いた。
 次の瞬間、玉座を凍りつかせられたクレイオーが飛び退った。そして着地と同時に渾身の魔力をこめた光球を放った。リィンめがけて。
 が、光球がリィンに届くことはなかった。無月が一刀をもって受け止めている。
「問題ない。まだ耐えられる…」
「十二創神のサルベージとか、無茶なことを考えたわね。でも、それもここで潰えるわ……!」
 キアリが叫んだ。するとクレイオーが光線を放った。
 瞬間、アロンが飛び出した。キアリを庇って光に灼かれる。
「やってくれたわね」
 一気に間合いを詰めると、キアリは脚をクレイオーの股間に叩き込んだ。俗にいう金的蹴りというやつだ。
 睾丸はないだろうが、苦痛はあったようだ。激痛にクレイオーは顔をゆがませた。
「クレイオー様! この――ッ!」
 憤怒の絶叫を放つと、イアイラが水塊を放った。
 それは偶然であったろう。狙ったのはまたもやプランであった。そして、これもまたもや庇ったのはコクマである。
 肉体を押しつぶされながら、しかし、この場合コクマは笑ってみせた。
「いまだプラン…撃破せよ!」
「任せて」
 乳房を揺らし、プランが艶やかな抹殺者と化して躍りかかった。
「いっぱい刻んであげる」
 耳を聾せんばかり刃音によりクレイオーの呪的守護を破りつつ、プランの手のチェーンソー型の動力剣が細い肉体を切り刻んだ。しぶく鮮血にプランの可愛らしい顔が朱に染まる。
 その時、クレイオーは気づいた。イアイラが倒れ伏していることに。鮮血にまみれたクレイオーが駆け寄る。
「クレイオー様……良かった……あなたさえご無事なら、悔いは――」
「うぅ……イアイラァ……逝くんじゃない……逝ってはだめだぁ」
 人魚の姿をした死神をクレイオーは揺さぶった。が、もはや彼女が目を開くことはない。と――。
 アラームが鳴り響いた。
「――覚えていろ。ケルベロス。我が身を護る為に散っていった者達の為にも、堕神計画は必ずなしとげて見せる。その時まで、精々あがき生き続けるがいい……――」
 呪詛めいた言葉を残すと、すうとクレイオーの姿が消えた。

 かくして戦いは終わった。
 結果は成功といえるだろう。が、クレイオー撃破はならなかった。
「儀式に参加しているネレイデスに、プロノエーが居ない……?」
 作戦の結果とは別に、キアリには気になることがあった。獄混死龍を生み出している死神のことだ。
「奴もいつか必ず討ち取らないと。その機会はいつかしら?」
 惨憺たる戦場を後にしつつ、キアリは独語した。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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