東京六芒星決戦~不定の定め

作者:黒塚婁

●大儀式破壊作戦
「まずは――クロム・レック・ファクトリアの破壊と、ディザスター・キングの撃破、見事であった」
 雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はそうケルベロス達を労った。
 さて、暫し休息をと言いたいところであるが――彼らしくもない言葉の後には、やはり彼らしい言葉が続いた。
 アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)や阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)の警戒により、死神の大規模儀式が予知された。
 それは最近多発していた死神による事件が集約された大儀式――都内六カ所で同時に行われる『ヘキサグラムの儀式』というものだ。
 儀式が行われるのは『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ケ所で、これは丁度、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点になる場所である。
 この儀式成就のため駆り出される戦力だが、戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵に加え、第四王女レリの直属の軍団も加わっているようだ。
 更に、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されており、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦であると想定されている。
「貴様らには何処かの儀式場を攻撃してもらう。無論、全ての儀式を止めるためには、充分な戦力を配分する必要がある」
 辰砂はそう言って、敵戦力の説明を始めた。

 儀式場の外縁部には、数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、侵入者を阻止している。
 レインボーブリッジの儀式場のみ、外縁部の防衛戦力が、第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっているらしい。
 儀式を行っているネレイデス幹部であるが、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラがそれぞれ配されている。
 奴らは儀式に集中している――どうやら儀式は少しでもダメージを受けると維持できぬらしい。
 つまり外縁部の敵を突破、儀式中心部に到達し奴らにダメージを与えることができれば、ひとまず作戦は成功となる。
 なお、儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始し――儀式中断七分後には、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまうだろう。
 奴らを討ち取るならば、七分以内、ということだ。無論――ネレイデス幹部は強敵であり、儀式場内部では更に戦闘力が強化されている。
 単独チームで成し遂げるのは難しいだろう。彼は断言する。
 そして周囲に護衛の戦力が残っている場合や、外縁部の戦力が増援として殺到したならば、尚更難易度は上がる。
「儀式を中断させた後は撤退すべき――という判断も必要やもしれぬ。もっとも、奴らは『仕切り直し』を狙う可能性が高い。ここで可能な限り討ち取るのが理想だろう」
 そして、彼は一拍おくと、具体的な編成について語り出す。
 外縁部には数百体という大戦力が展開しているが、それらは『侵入者の阻止』を目的としているため、儀式場周囲の全周を警戒している。突破する際、実際に戦う相手は数体から十体程になるだろう。
 白百合騎士団一般兵に関しては、三名程度の小隊での警戒を行っているので、三体から六体になるだろう。
 因みに外縁部から脱出する者は、攻撃の対象外となるようだ。
 注意すべき点としては、それら警備戦力は『ケルベロスの増援がこれ以上無い』と判断した場合、儀式場内に増援として雪崩れ込んでくる可能性があることか。
 それらを潜り抜けた先、儀式場内部に配備されたネレイデス幹部を守る護衛役だが――詳しい情報は後でまとめたものを見るように、と彼は切り上げる。
 さて、先刻告げた通り、儀式を止めるだけならば護衛を全て倒す必要は無い。だが、幹部を討ち取るつもりならば、それらの撃破或いは引き離しが必要となる。
 向かう戦力と戦場の状況を見つつ、適宜判断するしかなかろう。
「さて、戦況が目紛るしく感じる者もあるだろうが、それだけデウスエクス側も必死だということだ……このまま、あらゆる計画を瓦解させてやれ」
 辰砂はそう告げて、説明を終えるのだった。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)

■リプレイ

●突破
「折角だから観光で来たかったな。まあ終われば東京巡りヒール旅か」
 言って、櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)は黒い葉の影が落ちる意匠の緋色の扇を広げた。
「それ、いいですね」
 筐・恭志郎(白鞘・e19690)が朗らかに応じ、愛刀の下緒を手繰り、地に魔法陣を刻む。
 そんな二人をハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は一瞥する。
「気が早いな……まったく、頼もしい限りだ」
 軽口と共に、しなやかな動きで一歩踏み込みながらの連続ジャブ――空を撃った衝撃破は、宙から突進してきた鮪型死神の腹を撃ち、軌道を逸らす。
 そっちに行ったぞ、彼女が声をかければ、待っていたとばかり、カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)が竜砲弾を撃ち込んだ。
「派手にやらかしてますね。もう少し慎ましく生きる事を覚えたほうが良いと思います」
 どこからこんなに出てきたのかと、彼は首を傾げる。
「豊洲に溢れる魚は普通ので十分だっての。マズイ連中は手早く捌いて、親玉諸共冥府に送り返そーか」
 鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)が頷きながら、ゆるりと構えた。然し、柄に指をかけた瞬間――纏う気配は鋭利に変わる。
「――無論撤退でなく、その死を以て」
 凛と冴えた銀瞳で見据える先へ、抜刀と共に氷河期の精霊を放つ。強化された呪いの力が、その冷気を高め、二体の死神が見る間に霜で覆われていく。
「邪魔だよ」
 月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)がにべなく言い放ち、すっと空を断つように滑らせた愛刀より、物質の時間を凍結する弾丸を射る。
 深く穿たれた腹の傷より、更に氷の深度が増す。まるで氷の弾丸のようになった鮪型の死神が、その身体の儘転回して加速、突進してくる。
 それに応えるのは、藤色の双眸。
 死神の動きに合わせ此咲の胴で受け流すと、重ね、左に握った烙の刃を返して恐怖を刻みつけ、藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)は淡淡と言う。
「死神の思惑をみすみす逃す訳にはいきません。たとえどの様な儀式であっても、阻止するだけです」
 穏やかな気配は常時と変わらず、されど死神に向ける視線は冷酷であった。
 さて、空を泳ぐ鮪はそのまま真っ直ぐ駆け抜けたが、その先で炎を纏う礫に見舞われる。
「…足元注意、だな」
 地にグラビティと熱を注ぎ込むことでそれを仕掛けたビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)が腕組み、頷く。
「儀式の阻止は勿論だが、此処は流通の基盤となる大事な市場だ。きっちり取り戻さねばな」
 白橙色の炎を纏うボクスも炎を更に強めて同意する。食べ物が集まる聖地を荒らされて、若干ご立腹なのであった。

 豊洲市場を形成する大きな棟の間を、群をなして回遊している無数のブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノス――俯瞰より見たその状況では隙は殆ど無かった。
 元より一戦は不可避と知った上で戦い――然れど、これは前哨戦。
 ここで足を止めている暇はないと攻め込むケルベロスによって、二体の死神は見る間に身を削られた。
 最後に千梨が扇を薙げば、無数に広がった尾が強かに打ち据え、共々叩き落とす。
 周囲を見れば――他班も恙なく戦闘を終えていた。
 いよいよか。水産卸売場棟を仰ぎ、そっと彼は囁いた。
「死を齎すケルベロスと死を掬う死神と……果たしてどちらに分があるのかね」

●月光の死神
 水産卸売場棟内部――すかさず、ウツシ達を引きつけるべく開戦した二班の喧噪に紛れるように、残る二班はカリアナッサの元へと向かう。
 駆け抜ける際、景臣はつと焔靡かせる白髪の男へ視線を送る。
 彼がどんな思いでこれらの屍隷兵と向き合っているのか。僅かでもそんな彼の力になるために――死神を討つ。
 そう改めて胸に刻み、彼は前を向く。
 さて、普段であれば競りに使われているこの空間は、今はがらんどうであった。恐らく儀式のために無造作に『片付けた』のだろう。柱や床に、疵が残っている。
 ところどころ残るウツシに気取られぬよう、彼らは慎重に奥へと向かう。
 程なく柱や床に仄かに反射する青白い光に気付いたのは雅貴――辿り、至った先。
 目に飛び込んできたのは強く輝く魔法陣だった。
 地に描かれたその中心で『月光の死神』カリアナッサは長い黒髪を広げて座し、祈りを捧げている。
 左右に立つ銀色の燭台が、蒼い光を反射して彼女の横顔を染めていた。
「漸く……見つけた」
 囁くような声音が、ケルベロス達の間に響く。
 彼らに背を向け祈る死神は儀式に意識を注いでおり、迫る危険に全く気付いていない。
 恭志郎の胸に去来する、悔恨。かつて屍隷兵研究者を取り逃がした事――そしてこの戦場にいる、ウツシの事。
 人を逃がす為に立ち塞がった勇気あるものの結末が、こんな残酷な現実であっていいはずはない。
(「……それでも、まだ、出来る事があるなら」)
 彼は周囲を一瞥し、静かに息を吐く。
「行きます!」
 そして宣言すると同時――聖女のように祈る死神へ、星型のオーラを叩き込んだ。

 その衝撃を、死神は如何なる感情で受け止めただろうか――静かな動作で彼女はゆっくりと立ち上がる。同時、左右の燭台がくにゃりと歪み、液体の如く地に溶けた。
 さらり、長い黒髪が翻る。銀光を帯びるような輝きは、足元に集ったオウガメタルが左手に集約していくもの。彼女が真上に手を翳せば、魔法陣が天井に転写した。
 自らを取り囲むケルベロス達に一瞥くれ、ザリガニの形を為した銀を差し向けると、女は口を開く。
「我等の邪魔をするとは、大したものですね。……ウツシ達、そこの不躾な番犬共を今すぐ始末なさい」
 ゆらり――比較的近くに四体のウツシが、命に従い立ち塞がる。
 更にカリアナッサの左腕が、オウガメタルで為した月を掲げた。美しくも眩い銀色の球体は瞬く間に黒ずむ。
 ケルベロス達の影が濃く浮かび上がったかと思うと――其れは彼らを底へと誘うように縋り付く腕となる。
 すぐさま景臣と恭志郎が銀の粒子を放つ。ビーツーのハンマーが轟くと同時、ボクスは白橙色の炎を揺らし、ハンナに属性を注いだ。
「デカブツに守られてるお姫様ってか……引き摺り出してやるよ」
 ハンナは先行する竜砲弾を追いかけるように、死神に迫る――彼女はそんな揶揄に眉一つ動かさなかった。
 軽やかに刻む、乱打。しかし重ね放った衝撃は間に割ったウツシによって阻まれる。
「やっぱりこっちが先、ですね」
 舌打ちひとつ、退いたハンナの横を、風が軽やかに駆け抜けた。
 大人数が交錯する戦場の影をするりと奔り、カルナはウツシ達の背後を突く。それらの死角より突如現れた彼は、翡翠色の尾を振るって一同に薙ぎ払う。
 次々に攻撃を仕掛けられようと顔色一つ変えぬ屍隷兵へ――雅貴は目を細めた。
 此処までに、何体のウツシを見ただろう。その裏にある犠牲に、ただただ不快感を覚える。
「これ以上を、許すかよ」
 言葉と共に吹きつける吹雪――彼の召喚した精霊達を全身で受け止めたウツシ達を、聖なる光が照らす。
 黒翼を広げたイサギが高みより見つめる先は、屍隷兵ではなく。その奥で静かに佇む瞑目した死神であった。
 それへ千梨が扇を翻し、大霊弾を仕掛けた。だが、それは彼女の髪をそよがせただけ――ああ、これは厄介だ。関心したように、彼はひとりごちた。

 ウツシが龍の顎で食らいついてくるのを、景臣が此咲振るって押さえ、もう一体が放った毒は、ボクスが受け止める。
 続けて次の一矢を放つべく、ビーツーが死神を見やると――彼女のオウガメタルが地に溶け込んでいるのに気がつく。
 だが警告を発する間はない。
 音も無く静かにケルベロス達の足元へ広がったそれは、瞬間、全てを断つ鋏として具現化した。
 シャキンと小気味よい音が響くと、戦場には夥しい血が流れていく――。
「貴方たちの血で作る川は、とても綺麗ですね」
 それを眺めて死神は口元を綻ばせる。
「……やってくれますね。皆さん……!」
 皆の身を案じながら、恭志郎は鎖の魔法陣を描く。
「これでも多少は鍛えてますから。まだまだ、いけますよ」
 癒しを受け取りながら、飄と笑み、カルナは銀砂の髪を揺らして駆けた。傷こそ塞がっているが、彼の膝から下は真っ赤に染まっていた。
「でもまぁ、戦い甲斐がある相手ってのは嫌いじゃないですよ。強ければ強い方が楽しいですからね」
 カルナが飄乎と言うと、意見が合うね、イサギが微笑する。彼の姿も、似たような状態だ。
 未だ高みの見物を決め込んでいる死神を横目で見やり、続ける。
「目もくれないなんて、つれない女じゃないか。嫌いではないよ」
 でもまずは――邪魔者を片付けようか、と。
 それを契機に、言葉も視線も交わさず、二人同時に駆った。
「舞え、霧氷の剣よ」
 次元圧縮によって作られた八本の凍てつく刃をもって、カルナはウツシの足元で跳躍した。頭を飛び越えるような高さから、左腕を下げ――その額を撫でるように触れれば、八つの氷刃がウツシの全身を貫き。
「余所見をしてはいけないよ。私が狙っているのだからね」
 告げ、イサギは深く沈みこむ――敵の視界に残されたのは、蒼銀の髪の残像のみ。
 下から、白銀の軌跡を描くように刃が飛翔する。
 直刃の無骨な刃が優美な輝きをもって、ウツシの首を、刎ね上げる。その動作すら麗容であると自覚した笑みを湛え。
 彼らがそれぞれに着地した時には、全てのウツシが斃れていた――。
「……と、どうやらそっちも片付いたみたいね」
「雑魚の首をとっても、ねえ?」
 シナモンシュガーの髪を揺らし振り返った纏に、少し首を傾げてみせる。
「ふふ――さあ、御覚悟の程は宜しいでしょうか?」
 刃を手に、景臣が問い掛ける。
 ただひとり残され、取り囲まれているカリアナッサへケルベロスの視線が注がれた。
 だが、死神は微塵も動じぬ。
「良いでしょう……。ならば私自らの手で、貴方達の肉を抉って血と臓腑を撒き散らし、儀式の贄にして差し上げます」
 滔々と告げ、彼女は口角を上げた歪な笑みと共に、目を開く。
 顕わになった銀色の瞳は一切の殺気を隠さず――歴戦のケルベロス達をも威圧した。

●定め
 カリアナッサの月が、影を支配する。
「誰一人、贄になんてさせません……!」
 覚醒促す光輝くオウガ粒子を放出しながら、恭志郎が奮う。
 爪先で風を、踵で漣を呼ぶように――景臣が舞いを刻む。花弁のオーラがはらはらと舞い落ちる。
 花を散らし、砲撃が轟く。そして典雅な香が微かに漂うと、気弾が凄まじい速度で畳み掛けた。
 しかし死神に、カルナとイサギの追撃は軽くあしらわれた――千梨がふむと頷く。
「兎に角、命中を確保したいな。ビーツー、行けるか」
「無論だ」
 再び仲間への支援に向かうようボクスに指示し、ビーツーが力強い理力の蹴撃を仕掛ければ、千梨が扇を差し向けるに忠実に、御業がカリアナッサを掴む。
 一時、身動きを止めた彼女の前で、金の髪が踊る。
「先ずは軽く行こうか」
 軽やかにカリアナッサの目前へと踏み込んだハンナが、拳を次々叩き込む。拳の威力よりも確実にグラビティを撃ち込み相手を弱らせるのが、この打撃の真髄だ。
 そこへ、こいつもやるよと雅貴が黒鴉を放つ。
 真っ直ぐに翼を広げ飛来した鴉は、嘴と爪で仲間達が刻んだ呪いを更に深く刻み込む。
「禍根残す事無く、絶ってみせる」

 カリアナッサは、十を超えるケルベロスと死神は対等以上に渡り合った。
 殊に弱体者を狙う執拗さ――全身から放たれている殺気は、文字通りのそれであった。
「六分経過……!」
 恭志郎がカウントするのとほぼ同時、カリアナッサが地を蹴った。その動きから派生する攻撃はひとつしかない――止めねば。景臣は回復を捨て、ぐっと踏み込んだ。
「その命を捧げなさい」
 死神の言葉と共に、ザリガニを象ったオウガメタルは巨大な鋏と化し、鈍い光を放つ。
 返し、彼も居合う――。
「――お静かに」
 静齎す幽き焔を刃に乗せ、鮮やかに滑らせる。
 流麗な剣戟であれば、緩やかにも見えるが実際の交錯は一瞬――高いようで、鈍い音がした――肉どころか骨ごと断った音。
 滂沱の血潮の中、景臣が膝をつく。頸と、肩とひと繋ぎに追った深い傷は致命的だった。だが、彼は生きている。
 カリアナッサの肩へ如意棒がつっかえるように伸びて、軌道を少しずらしたのだ。
 そのまま如意棒を更に伸ばして死神を突き放す。
「――これも、自分に出来る事ならば。」
 護身刀の光と自身の内にある地獄の炎を共鳴させ、恭志郎は白い炎を景臣に纏わせる。
 何か告げようと、口を開こうとした彼を、ハンナが諫める。
「あんまり娘を心配させるのは良くないぜ。悪いパパだと思われちまう」
 軽口に、気を緩めたか。気を失った彼を庇うように立ち、ぼろぼろになった黒スーツ姿で凛乎と構えた。
 そして、皆が彼の作った機を無為にせぬよう追撃に走る。
「そう安々と逃がすと思ってました? 竜の牙の執念深さを甘く見過ぎですね」
 これで終わりにしましょうと囁き、八本の凍刃を手に直線的にカルナが迫る。同時、柱を蹴り上げ舞い上がったイサギが、無数の霊体を憑依させた刃をくるりと返した。
 お前のような女は嫌いではないけれど、前に呟いた一言を繰り返す。
「……でも、残念ながら『さようなら』だね。これが仕事だ、諦めてほしい」
 横と、上――更に、正面から白焔のブレスが死神の身を包んだ。
「これ以上の暴挙は許さぬ」
 更に白橙色の熱を割り、勝色の鱗が鈍く輝いた。
 地を強く踏み込んで低く飛び込んだビーツーの爪が、死神を守るオウガメタルを切り裂いて、朱を弾く。
 力強い仲間達の饗宴見据え、扇を正面に構え、千梨が嘯く。
「雪に月と来れば、花も無ければ、な」
 混沌とする戦場の中、死神だけをただ見つめ、舞う。
「散ればぞ誘う、誘えばぞ散る」
 すっと空間を区切るように扇が走れば、その領域に結界を、内に御業を招来す。
 それは鮮やかに咲き誇る桜となりて、花は風を呼び。風は水を招き――そして嵐に散る。
 美しい幻を浴びながら、最後に飛び込んだのは雅貴。
「――――オヤスミ」
 囁くような詠唱ひとつ。
 刹那、死神のあらゆる急所を目掛け、影より生じた刃が迫る。
 雅貴の矜持を載せた一閃は――掠めるだけでも敵に死の運命を結びつける魔術纏う刃であった。

 定刻を目前に――絶対に逃がさぬと守りを捨てた怒濤の追撃が愈々死神を追い詰める。
「そろそろケリを付けさせて貰うよ――」
 冷静な声音と同時、放たれた矢が死神の胸を貫く。
 死を決定づけられた死神は、その場にがくりと膝をつく。
「……私が死のうと『堕神計画』さえ成就できれば……血よ! 我等を祝福し、愚かな地球の走狗に呪いあれ! 遍く命の総てを贄として、終わりの果てに滅ぶが良い!」
 そう喚いた怨嗟の言葉ごと――無数のグラビティに呑まれ、光の塵と消えたのだった。

作者:黒塚婁 重傷:藤守・景臣(ウィスタリア・e00069) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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