東京六芒星決戦~死神の儀式を打ち砕け!

作者:そらばる

●ヘキサグラムの儀式
「クロム・レック・ファクトリア攻略に参戦された皆様はお疲れ様でございました。ダモクレスの主要基地攻略及びディザスター・キングの撃破という素晴らしい大業、わたくしもケルベロスの一員として誇りに思います」
 戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は穏やかに口元をくつろげて戦果を寿いだのち、重い睫毛を伏せると表情を引き締めた。
「ですが、敵は我々に休息を許さぬ腹である様子。アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)様他、警戒に当たっていたケルベロスにより、死神の大規模儀式が行われることが判明いたしました」
 都内六ケ所で同時に行われる『ヘキサグラムの儀式』。
 それは最近多発していた死神による事件が集約された大儀式なのだという。
「儀式が行われますは、『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』」
 鬼灯が示した東京都内の地図には、晴海ふ頭を中心として六芒星が描かれている。示された六ケ所は、ちょうど六芒星の頂点に当たる場所だった。
 これらに戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった、死神勢の戦力が配置されている上に、エインヘリアル第四王女レリの直属の軍団も加わっているという。
 竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されており、デウスエクス全体を巻き込んだ大規模作戦であると想定されている。

●東京六芒星決戦
「皆様には、判明した儀式場のうち、いずれか一ヶ所に攻め入って頂きます」
 6つある儀式場の全ての儀式を阻止しなければならないため、各々に十分な戦力を配置する必要があるだろう。
「儀式場外縁部には、内部への侵入を阻止せんと、数百体の護衛戦力が回遊しております」
 レインボーブリッジの儀式場周縁のみ第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵が、他は戦闘力強化型の下級死神ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが布陣している。
「儀式を実行しているネレイデス幹部は、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラが配されております」
 ネレイデス幹部は儀式を執り行うことに集中しており、わずかでもダメージを被ると儀式を維持できなくなるようだ。
 すなわち、外縁部の敵を突破し、儀式中心部に到達し、ネレイデス幹部にダメージを与えることが出来れば、作戦は成功となるのだ。
「儀式が中断されますと、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始するでしょう」
 もちろんすぐに逃げ出すわけではなく、幹部もケルベロスに対抗してくる。が、儀式中断のおよそ7分後には、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまう。
 ネレイデス幹部の撃破を目指すならば、この7分間以内に撃破せねばならない。
「しかし幹部は強敵。その上、儀式場内ではさらに戦闘力が強化されておりますゆえ、単独チームの戦力での撃破は至難でございましょう。また、周囲に護衛の戦力が残っている場合や外縁部の戦力が増援として殺到している状態でも、幹部の撃破は難しいやもしれませぬ」
 状況によっては、儀式を中断させた後は戦闘をせずに撤退を優先する、という判断も必要になるかもしれない。
「ですが、ネレイデスの幹部が多数生き残った場合、またぞろこたびの如き大儀式を引き起こし、元の木阿弥となる危険性もございます。可能な限り、討ち取る方策をご検討ください」

 外縁部には数百体という大戦力が展開しているが、それらは『侵入者の阻止』を目的としているため、儀式場周囲の全周を警戒しており、突破する際に戦うのは数体から10体程度となるだろう。
 白百合騎士団一般兵は3名程度の小隊で警戒しているため、突破の際には3体から6体程度と戦うことになる。
 また、外縁部から脱出しようとする者は、攻撃の対象外となるようだ。
「ですが、全てのチームが儀式場に突入、それ以上の増援がないと判断された場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込み、場内戦力の増援となる場合がございますゆえ、ご注意ください」
 儀式場内部には、ネレイデス幹部を護る護衛役も配されている。
 築地市場には『炎舞の死神』アガウエー。数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』を集めている。
 豊洲市場には『暗礁の死神』ケートー。数十体の屍隷兵『ウツシ』を集めている。
 国際展示場には『無垢の死神』イアイラ。数十体の屍隷兵『寂しいティニー』を集めている。
 お台場には星屑集めのティフォナ。死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体を護衛としている。
 レインボーブリッジには第四王女レリ。絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった直属の部下と、十体程度の白百合騎士団一般兵が護衛となっている。
 東京タワーには『黒雨の死神』ドーリス。アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体護衛として引き連れている。
「儀式を阻止するだけならば、護衛全てを相手取る必要はございません。が、ネレイデス幹部の撃破を目指すならば、護衛を撃破するか、もしくは幹部から引き離す必要がございましょう」
 幹部の撃破を目指すかどうかは、儀式場に向かう戦力と戦場の状況を見つつ判断するしかない。
 作戦決行は昼。当日は雨や荒天に見舞われることもなく、この季節の平均的な天候となるだろう。

「こたびの大規模儀式は、熊本城における魔竜王の復活にも引けを取らぬものであると推測されます。日頃死神が引き起こしてきた数多の事件が、この大儀式に集約されていると言って過言ではございません」
 護衛役であるデウスエクスの動き、戦場への戦力の配分など、考えるべきことは多い。
「必ずや儀式の阻止を。皆様が全力を尽くし、納得のゆく勝利をもぎ取ってくださることを、わたくしは願います」


参加者
アイリス・フィリス(アイリスシールド・e02148)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578)

■リプレイ

●渦巻く魚群
 築地場外市場、外縁部。
 辺りは一切の人けが絶え、大通りの上空を巨大マグロと巨大カツオの姿をした死神が夥しく周遊する、禍々しい光景が繰り広げられていた。潮の匂いと魚臭さが入り混じる。
「魚類デウスエクスどもがわらわらと……」
 折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)の乏しい表情の奥に、嫌悪がちらつく。人を殺すデウスエクスは嫌いだ。その中でも、人の死を弄ぶ死神は最上級に嫌いだ。
「うわぁ、すっごい数……」
 圧倒されたように呟くアイリス・フィリス(アイリスシールド・e02148)。
「でも、頑張ってみんなを守らなきゃね。私は盾なんだから」
 覚悟を決めるアイリスの隣に、リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)が並ぶ。
「頼むよ! この作戦も力を合わせてがんばろうね!」
「もちろん!」
 顔を見合わせ、堅い友情を確かめあう少女たち。
「しかし引くほど集まってるなあ……この機会に頭数減らし、やってる余裕なさそう」
 黒ビキニにケルベロスコートを羽織っただけの姿の峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)は渋い表情。
「やれやれ、いくらここが日本でも一番の水産取扱量を誇っていたとはいえ、海の他に余計な臭いが混ざりすぎだろう……死の臭いが」
 鼻が曲がりそうだ。ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)はそう呟き、悪臭を打ち消すように、慣れ親しんだ煙の香りを口内に転がした。
「いいでしょう。こうなったら、全て叩き落してやるわ……」
 夥しい敵の数に覚悟を決めて、争いを嫌う弱気を押し殺すルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)。
 築地の儀式場を戦場に選んだのは、計六班。
 綿密な襲撃計画に従ってまず、三チームが魚類型死神の渦を強襲した。狙うは一点突破。グラビティがまばゆく激突する。
「さあ後援、この合図に続け!」
 突破口が開かれると同時、上がった声に応じて次の二チームが突撃した。限られた人数を尽きせぬ増援と見せかける波状攻撃だ。
 そして最後に残った一行の負うべきは、今回の作戦を実行するための要となるべき役割。
「わらわたちは皆の成功を祈って足止めじゃな。では、ゆこうぞ!」
 ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578)を筆頭に、一行は最後の突撃を開始した。
「Vallop!!」
 ぶちのめせ! とばかりにヴィクトルが声を張り上げると同時、輝く数多のグラビティ。突破口から雪崩れ込んでいく他班へと追いすがろうと集まり始めた魚類型死神を、ケルベロスの攻撃が容赦なく襲い掛かる。
「あなたたちの相手はこっちだよ!」
 勢いよく敵陣に割り込み、星型のオーラを蹴り込む天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)。ワインレッドカラーのライドキャリバーがすかさず派手にスピンをかまして魚たちを蹴散らした。
 茜は純白の鋼糸の雨を降らせながら、儀式阻止に向かう班の背中へ小さく呟く。
「おねがいします」
 爆炎隷兵にアガウエー。因縁ある敵を誰かが撃破を信じて、茜は己の戦場へと視線を返した。
 儀式の阻止は、包囲網を突破した仲間たちに託された。残る戦力はここにいる八人と一匹のみ。
 数百体という魚類型死神の大戦力を、この頭数だけで外縁部に縫い留め続けねばならないのだ。
 過酷な戦いの開幕だった。

●引いては押して
 魚類型死神は、全長5メートルに及ぶ巨大カツオ『ブルチャーレ・パラミータ』と、同じく巨大マグロ『メラン・テュンノス』の二種。一ヶ所をつつけば、即時に十体程度が集まってくる。
「派手に壊してやるのじゃ。倒せるものはどんどん倒さねばのぅ」
 ララは類まれな命中精度をもってして、回避力の高い前衛の敵を重力を込めて蹴りつけた。単独でも一般人にとっては脅威となる連中だ、減らしておくに越したことはない。
「キング撃破の大仕事が終わったばかりだって言うのに! 次から次へと問題ばっかり起きてイヤになるけど、頑張らなきゃ」
 ひとりごちつつ、アイリスは両手のバスターライフルから巨大な魔力の奔流を照射し、魚群を薙ぎ払う。
 ひとまとめに打ちのめされた魚どもからも、随時反撃が飛んでくる。カツオ型のばら撒く魚卵がケルベロス達の足元で爆発を連鎖させ、マグロ型が内臓から捻りだす触手が動きを封じ、双方の突進攻撃が絶え間なく強襲してくる。
「そう、それでいいわ……そのまま私たちに集中していなさい」
 ルベウスはグラビティの衝撃に耐えながら、無数の黒鎖を具現化し、魚群に投げかけ捕縛した。一網打尽にされる脅威と視覚的な派手さも加わり、魚どもの警戒はいや増すばかり。
「輝かしき物を置き去りにして、この世界にお別れを……心地よいまどろみに身を任せて……共に、滅んでしまいましょう……」
 茜は心の奥底に硬く封じた世界への拒絶の思念を込めて、白い驟雨を降らせ敵へと感染させていく。
「骨の折れる戦場じゃのぅ。一つの作戦に、敵も味方もかように大規模に展開する戦いは稀じゃろうの」
 鋼の鬼と化したオウガメタルの拳でカツオ一体を捻りつぶしつつ、ララがぼやいた。
「こんなに大掛かりな儀式を狙うなんて、死神達も本気の本気を出してきたってことだよね! 何のための儀式か分からないけど全力で防いじゃおう! 死神の思い通りになんてさせないぞ!」
 リュコスはより一層やる気を漲らせ、雷纏ってド派手に敵陣へと突っ込んだ。
 マグロ一体を見事突き殺したところで、魚群の渦が大きく動き、数体の魚型が宙を泳いで増援にやってくるのが視界に入った。
 ケルベロスの判断は早かった。
「さすがに分が悪いね。一時撤退しよう」
「だね。すぐに戻ってくるから、そこを動かないでよ!」
 詩乃は胸部からエネルギー光線を発射し、恵は魔力を秘めた凝視で牽制しながら、外縁部から一度離脱した。
 戦場から脱出しようとするケルベロスを、魚群は追撃してこないが、警戒の視線は切れることがない。ケルベロス達は一種異様なプレッシャーを感じつつ、戦闘に突入しないギリギリの距離をとって、大急ぎで陣営に治癒を広げた。
 許された休息は一分もなかった。魚たちの視線がぽつぽつと途切れ、魚群の意識が渦の内側へと流れ始めた気配に、リュコスがはっと顔を上げる。
「やばい、そろそろ突っ込もう!」
「やれやれ、忙しないことこの上ない……。こちらヴェルマン。支援を要請する!」
 一斉に駆けだす仲間たちの後に続きながら、ヴィクトルは猫の顔を模した箱から囚人姿のネズミ獣人ウェアライダーの亡霊たちを吐き出し、仲間たちへと支援を飛ばした。
「……奥へは行かせない」
 儀式場へと向いた魚群の意識を、ルベウスの小さな体から繰り出される鎖が引き戻す。
「この突破口は絶対に守り抜くんだから!」
 まだ増援があるぞとばかりの、詩乃とジゼルカの息の合った大立ち回りが、魚群を激しく蹂躙する。
 再度のケルベロスの襲撃に、渦は外部への警戒を再開し始めた。
 魚群の殺意を一身に集め、ケルベロス達は戦いへ没頭していった。

●魚と踊れ
 ケルベロスと魚群との攻防は文字通りの一進一退だった。
 仲間たちが作った突破口を死守する形で派手に暴れ回り、適度に敵を減らしたのち一時撤退、申し訳程度の回復を挟んで、再突撃。ケルベロス達は、これをひたすら繰り返すという、途轍もなくしんどいやり方をせざるを得なかったのだ。
 魚類どもの攻撃は、一撃一撃は普段相手にするデウスエクスほど重くはないが、数が多い上に、放っておけば倒した以上の増援がわらわらと押し寄せてくる。要所要所の一時離脱は必須だった。
 さりとて戦力は一チームのみ。こちらに襲撃の意志なしと見做されれば、魚群は儀式場へと雪崩れ込んでしまう。敵の意識をこちらに縫い留め続けるために、まともな休息をとる暇もない。
「倒しても倒してもキリがない……覚悟してたけど、引き付け役ってキツイね……!」
 肩を上下させつつ、アイリスは炎のブレスで魚群を薙ぎ払う。
「なかなかにブラックだな……できればこいつを使う事態は避けたいが……」
 ヴィクトルは緊急連絡用の信号弾の感触を懐に確かめながら、人体自然発火装置を駆使してマグロを丸焼きにする。
「内蔵兵装起動、魔術回路と接続……完了。対象の身体状況をスキャンします…………完了。待ってて、今治すから!」
 不利な状況でも笑顔を忘れず、応急手当用マニピュレーターで傷を癒し、皆を鼓舞していく詩乃。
 ララは紅蓮の炎で魚群を焼き払いながら、他の班が去った儀式場へと視線を流した。
「長いの……連絡が取れぬというのは、落ち着かぬのぅ」
「デウスエクスが居ると通信使えないこと多いからね。こういう大規模な戦いだと特に」
 目にも止まらぬ速さでマグロの触手を撃ち砕きながら、仕方ないと肩をすくめる恵に、ララも頷き返す。
「そうじゃのぅ。じゃが、長いということは幹部を捉えてるはずじゃ、皆、がんばってくるのじゃぞ」
 奮闘の甲斐あって、魚群の渦は外部への警戒を切らさず、わずかの個体も儀式場へと増援に向かった様子はない。現状の攻撃濃度で当たり続ければ、この状況を維持できるだろう。
 ……とはいえ、しんどいものはしんどい。疲労と消耗の蓄積は容赦がなかった。
 度重なる魔術の行使に、ルベウスの胸元に埋められた宝石は灼熱を帯び、小さな体を苛み始めていた。呪具を駆使して負担を分散するも、その表情は次第に険しくなっていく。
(「熱い……けれど、まだ戦える……!」)
 噛み締める口の端に鉄の味がしても、それでも戦線を支える味方のために、少女は魔術を紡ぎ続ける。
「大丈夫、支えるよ。――13・59・3713接続。再現、【聖なる風】」
 恵は左手の中指に、淡く青白い光を放つ複雑な回路を浮かび上がらせた。余剰魔術回路の一部が解放され、疑似的な浄化の風を吹かせて仲間の不浄を取り去り、消耗を慰撫していく。
 エネルギーの矢でカツオ一体を射殺し、茜は空に鋭く視線を翻した。魚群は途切れることなく、いまだ夥しい数で渦をなし、次々とこちらへと増援に向かってくる。
「……すり潰れるまであいてしてやる」
 表情を変えぬまま静かな見得を切り、茜はさらなる戦いに没頭してしていく。
 絶え間なく追加される魚どもに取り囲まれ、少女たちは背中合わせに互いの背後を護りあう。
「後ろは任せてねリュコスちゃん!」
「ああ、ボクの後ろは任せたよアイリスちゃん! キミの背中はボクが守る!」
 同時に魚群へと飛び出すリュコスとアイリス。魚卵と触手、突撃を掻い潜りながら、炎が、槍が、取り囲む魚群を蹂躙していく。
 陣営を蝕む消耗に相反し、外縁部を取り巻く魚群の影はいっかな薄らいだ様子がない。それは戦い続けるケルベロス達にとって、果てしなく絶望的な光景だった。

●成し遂げた者たち
「キリがないのぅ……これの実験台になるといいのじゃ」
 ララは開発中の拘束弾を撃ち込み、発生する重力にカツオを巻き込み動きを鈍らせる。
「おとなしく同士討ちでもしてなよ!」
 恵の魔眼が妖しく光る。度重なる催眠の魔の手に引きずりこまれた魚が、いよいよ散発的に行動の制御を失い始めている。
「雪原を縦横無尽に奔る皇帝よ! 我が声に応え顕れ給へ!」
「『来たよ来た来た大物だ!』《久方ぶりの食べ物だ!》」
 アイリスの呼び出したペンギンのエネルギー体が二つの巨大砲台となって氷塊を発射し、リュコスは特殊な磁界にカツオを引き寄せ、ドーム状に捲り上げた地面の杭で刺し貫く。
 もはや幾度目の襲撃か。仲間たちの突破から何分経ったのか。
 確かめる余裕もなく、ケルベロス達はひたすらに魚群を撃破し続け、一時撤退と襲撃を繰り返し続けていた。
(「死神達の好きにさせてしまったら、沢山の死が、破壊が、あふれてしまう。私は、この星の皆の笑顔を、幸せを、この星の美しさを、護るために命を得たんだ」)
 連続する突撃の猛攻に晒されながら、歯を食いしばって耐え抜く詩乃。
「だから、絶対に退かない、絶対にあきらめない。絶対に、負けない!」
 決意が、胸部から一条の光となって魚の一体を撃ち貫く。
 胸の回路を灼熱させながら、ルベウスは魔術の行使をやめない。
「この世の全てはまるで雨風のように唄いながら通り過ぎていく……」
 魚群へと雨の如く降り注ぐのは、融解してなお赤熱する宝石。
 赤い雨が通り過ぎ、さらに追加された魚群の反撃に備えようとケルベロス達が身構えた、その時。
 外縁部を取り巻いていた渦ごと、すべての魚類型死神がピタリと動きを止めた。
 ケルベロス達が息を呑んだのは一瞬。不意に魚群全体が、これまでにない軌道で動き始めた。
 よもやこの状況で儀式場に援護に向かうつもりか……!?
「っ、待て――!」
 茜は背を向ける魚群に反射的に巨大光弾を撃ち込むが、魚どもは一顧だにせず散開していく。
「……いや、これは……」
 同じく光弾で魚群を打ち据えながら、ヴィクトルは目を細めた。
 魚の渦は、儀式場に向かったのではない。撤退を始めたのだ。
「撤退……そう、儀式を阻止できたのね」
「そういうことになるかのぅ」
 数多のカツオとマグロが空を泳ぎ去っていく光景を見上げながら、ルベウスとララは胸を撫でおろした。
「……敵は、討てたのでしょうか」
「さてな。ま、それは合流してから積もる話を分かち合おうじゃないか」
 儀式場の方向を気にする茜に、ヴィクトルはニヒルに笑って肩をすくめてみせる。
「えと……じゃ、じゃあ、これで終わり!? 終わりでいいんだよね!?」
「……だね。儀式場には一匹も入れなかった。ボクらの勝ちだ!」
「よかった……! 私たち、ちゃんと役割を果たせたんだね!」
 アイリス、リュコス、詩乃は、素直な達成感を爆発させる。
「でも、次に会ったら全部叩き潰すよ!」
 恵も満面の笑顔で、容赦のない言葉を撤退していく魚どもの背へと送った。
 疲労困憊、ボロボロになりながらも、ケルベロス達は満ちたりた爽快感とともに、作戦の終結を迎えたのだった。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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