東京六芒星決戦~術策と機智

作者:ほむらもやし

「クロム・レック・ファクトリア及びディザスター・キングの撃破お疲れ様でした! 見事で素晴らしい活躍だった。正に諸君らは英雄と呼ぶに相応しい!!」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は拍手で讃えた。
「で。アビス・ゼリュティオさんを始め、警戒に当たっていたケルベロスたちの機転により、死神の大規模儀式が行われることが分かった。儀式が行われるのは『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ケ所だ」
 これらは最近の死神による事件が集約された大儀式と見て良いだろう。
 その動員戦力は、戦闘力強化型の下級死神、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵、第四王女レリの直属の軍団と見られる。
 他、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されている。
「そこで諸君には判明した六箇所のいずれかに向かい儀式阻止の為に働いて貰いたい。勿論儀式場の外縁部には侵入を阻止するための防衛戦力が配置されている。レインボーブリッジには白百合騎士団のエインヘリアル一般兵、そのほかの五箇所には数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊している」
 防護された施設内ではネレイデス幹部が、儀式を行っている。
 築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラである。
「ネレイデス幹部6名は、いずれもダメージを受けると儀式を維持できなくなる。従って防衛戦力を突破して、儀式中心部に到達、攻撃を仕掛けダメージを与えれば事実上、儀式を阻止できる」
 儀式を中断したネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始し、儀式中断の7ターン後に、幹部及び敵残存戦力は全て撤退する。
 なお幹部は強敵であり、儀式場内部では通常よりも戦闘力が強化されている。
「儀式中断後の行動判断は現場に任せるのでメンバーでよく考えて下さい」
 敵戦力の多くは侵入者の阻止を目的に儀式場外縁に浅く配置されている。
 儀式場内部への侵入のみを目指すなら、全戦力を相手にしなくとも、数体~10体程度を突破すれば目的は果たせる。
 白百合騎士団一般兵については3名程度のグループが一単位で、戦闘は3体或いは6体程度が基本となる。
 また外縁部から脱出しようとする場合は攻撃対象外となるらしい。
 この行動は儀式場の警護が目的の為と思われる。
 故に全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと見破られた場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込んで来る可能性がある。

 各儀式場内部には、ネレイデス幹部を守る護衛役が以下のように配されている。
 築地市場:『炎舞の死神』アガウエー。護衛として、屍隷兵『縛炎隷兵』数十体。
 豊洲市場:『暗礁の死神』ケートー。護衛として、屍隷兵『ウツシ』数十体。
 国際展示場:『無垢の死神』イアイラ。護衛として、屍隷兵『寂しいティニー』数十体。
 お台場:星屑集めのティフォナ。護衛として、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体。
 レインボーブリッジ:第四王女レリ。護衛として、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンス、白百合騎士団一般兵十名程度。
 東京タワー:『黒雨の死神』ドーリス。護衛として、アメフラシと呼称される下級死神、数十体。
 以上である。
「突破すべき壁は挑戦しようとする者の前にあるものだよ。その先に切り開かれるのは君ら自身の道だ」
 太陽が昇るのを待つように世界の恩恵を享受する生き方もある。無理強いはしない。
 諸君の勇気に感謝する。そうしてケンジは出発の時間を告げた。


参加者
クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
ニケ・セン(六花ノ空・e02547)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)

■リプレイ

●突入の時
 巨大な禍が引き起こされる気配と予感に空気は張り詰めていた。
 ハリメーデーによって儀式が進められている最中のセントラル広場は、普段であればすぐにたどり着けるはずの場所。
 外縁部と設定する場所では先行する仲間の戦いが始まっている。
 この班の役割は儀式を阻止すると共にハリメーデを撃破することだ。
「今年も残すところあと数ヶ月、というのに変わらぬ賑やかさですね。死神は余計な仕事を増やすことにかけては一級品のようだ」
 クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)は悪態をついて空気を和ませつつも拳を小さく握りしめる。
 責任は重大だ。仲間が切り拓いた道を進み、是が非でも儀式場に突入して目的を果たさなければならない。
 現在、お台場に集ったケルベロスは48名。6班に分かれ半数が儀式場への突入、2班が護衛戦力を食い止め1班が外縁部の敵に陽動を掛ける予定で作戦は進んでいる。
「死神勢力と言えば、サルベージばかりだったのに、前に比べて色々活発になってきてますよね」
「そうだね。でも結局、このヘキサグラムの儀式って何のための儀式なんだろうねぇ」
 死神の活動が変わった気がすると呟く、ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)に、クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)は首を傾げ、分からなくとも、阻止しないといけないということだけは分かると、決意を滲ませる。
「その通りね。でも、死神もこちらの動きを察して、手を打ってくるような気がするのよね」
 依頼への重圧と責任感からか、四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)が不安を口にした正にその時、突入の機が訪れた。
「いざ、出陣でござる」
 果たして、マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)の声が、号令の如くに飛び、一行は突入を開始する。
 だが敵の対応も早い。駆け始めた直後に、側面から、別働の骸骨の如き魚人の異形——パイシーズ・コープスの一群が突っ込んで来る。突破のための交戦もやむなしと思いかけた瞬間、別の方向から声が聞こえた。
「構うな。ここは引き受けるから、存分やってくるが良い」
「助かります。ありがとう!」
 白い毛並みのオルトロスを連れた男に、レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)は笑顔を向けると、膝に力を込めて速度を一挙に上げた。

●儀式を止めよ
 セントラル広場はお台場の中央部に位置する。
 先行する対護衛班の活躍により、既に開かれた突破口の先には、深紅のローブを纏い儀式を執り行うハリメーデーの姿を確認できたが、すぐに直掩のパイシーズ・コープスの群れが視界を遮るように立ちはだかる。
「あはっ、厄介だよね。悪いけど、キミたちに用はないんだ。どいてもらうよ」
「キュッキュリーン! 死神という闇に立ち向かうはレピちゃんという光! 突っ込むだけです!」
 どこか楽しげな、アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468))の呟きに便乗する様にレピーダは、弾けるような笑みを見せて、カサドボルグ、残霊を光で縫い合わせた星の一振りを掲げ、突っ込んでゆく。
「確かに、ここまで来たら全力を尽くすだけだね」
 そうと分かっていても、ニケ・セン(六花ノ空・e02547)は、僅かにも有利にできるもの無いかとに、あちらこちらを注視する。敵の弱点が見つかれば僥倖、ポジションを見破れるだけでも役立つかもしれない。
 突入に成功したケルベロスは3班で24名。
 かくして、戦端はそこかしこで思い思いに開かれて、戦いはなし崩しに始まっていた。
「ティフォナよ。何を遊んでおるのじゃ。おぬしの忠義の志、いまこそ見せよ!」
 襲撃者と戦力的には互角というのはハリメーデーにとっては容易ならざる事態なのだろう。かなり慌てた様子で金色の杖を振り回し、本来なら此処で戦っているはずだろうと、ティフォナに対して悪態をついている。
「今来てもらっては困るの。お願いだから、持ちこたえてね——」
 ティフォナを含む増援が加勢すれば戦況は一挙に不利になる。対護衛班の武運を祈りつつ、クロノは赤茶の瞳を鋭く細めて彩雲剣アルヴァーレを振るう。間髪を入れずに、崩れ落ちる敵を踏み越え、ライドキャリバー『エア』のガトリング砲が唸りを上げる。
 ばら撒かれた弾丸が爆ぜて敵に焼け焦げた肉と骨の破片を散らす。
「不味い、かなり近いな」
 ニケが増援の気配を察する。護衛班が食い止めていると予測できるものの、破られて、前後から挟撃される事態になれば、こちらの班の全滅は必至。それに備えた対抗手段も無い。
 いつまで持つか、持たないか、分からないままに戦うのは懸念だが、今は信じて予定通りに戦うしか無い。何れにしても時間は限られているのだから。
「抜刀。其は……祈りであり、看取りであると」
 レピーダは言い放ち、冥府の冷気で複製したが如き聖剣、その数多語られし伝説の姿を振るう。
 冷気を帯びた斬撃に死せる魚人の気配が行き過ぎる。敵の援軍は未だ来ない。指示された命令に従うままのパイシーズ・コープスの群れは、自らの意思で盛んに攻め立てるケルベロスたちの猛攻に急速にその数と密度を削られてゆく。
 やがて攻撃は確実にハリメーデを捉え始める。
 そんなタイミングで撃発音が空気を裂き白の信号弾の煙が空に昇るのが見えた。
 それは外縁部の敵と戦う班の撤退を知らせる凶報。
 だがようやく首級に手が届いた今、これ討ち取らずして何時討ち取るというのだ。今を逃せばまた数多の不幸な終末が生み出されるならば戦い続けるしかない。
 敵はどのようにして撤退するつもりなのだろうか。周りを見渡すも混乱した戦場の渦中にあって退路はもちろんその動向を読み解くことも出来なかった。
 誰も倒れさせたくない。玲斗は黒雷と名付けたライトニングロッドを翳す。生み出された煌めきは雷の壁と共に消耗を重ねた者に癒やしをもたらした。
「あとはキミだけ。キミたちの企みも全部、ここで終わりにするよ」
 アンノは無意識に足音を殺しながら歩き射線を確保すると、手の内のネクロオーブ、ヘルアンドヘヴンに力を込めて熱を持たない水晶の炎を生み出した。
「なんじゃと、無礼者!」
 頭頂部に金のティアラを載せた、金髪ツインテールの幼女。わがままそうだが可愛らしい気もする。
 これが恐るべき儀式を仕切る首級の一人かと思うと、子どもままごと遊びに付き合わされたような、何とも間抜けな気分になってくる。
 だけど死んでもらうね。
 直後、熱を持たない炎は容赦なく襲いかかり深紅のローブを切り刻み、そこにラインハルトの放った気咬弾が追い打ちを掛けるように食らいつく。
 戦える時間はまだ残っているはず。直掩のパイシーズ・コープスもかなり数を減らした。
「本当の勝負はここからでござる。畳み掛けましょうぞ、ナノテル様!」
 味方の多くが攻撃を重視する中、ディフェンダーを引き受けたことが、今のマーシャには遠い昔のように感じられた。なんとか最後まで持ちこたえて、皆と共にハリメーデーを討ち取りたい。
 傷ついた身体を、ハート型のバリアに癒やされながらマーシャは強く願った。
「レピーダ、今までありがとう。流れ弾にはご注意を」
 周囲の戦いの気配は激しさを増している。クロハは、何度消し飛ばされても、諦めずにエフェクトを送ってくれるレピーダに言い置くと、可能な限りハリメーデーとの距離を詰める。
 ティフォナと戦う仲間たちの情勢も不明だが、外縁部からやってくる敵との挟撃となるのは確実だろう。従ってその命運が風前の灯火であることは確実な未来と予測できる。
 仲間が漂わせる張り詰める空気に、言葉に決意を乗せようとしたラインハルトは口を閉ざしたまま浅い息を吐いた。仲間の壊滅を予想しながらもハリメーデーを倒さなければならない。責任の重さに気が狂いそうになる。
 ただ願うだけでは何事も成し遂げられない。現実とはそういうものだ。そして敵であるハリメーデーもまた同じ現実のなかで、今正に思い通りにならない事態に苦しんでいるのかも知れない。
「おぬしらしつこすぎるのぅ!」
「光以て、現れよ」
 また、全身を地に縫い付けられる様な重力が襲い来る。
 応じて、玲斗の繰り出す光の術式が癒やしと共にその重圧を打ち消してゆく。
 このまま押し切れるよね。クロノが無邪気な希望を口にした瞬間、状況の急変を告げるように周囲の喧噪が一挙に増す。
 そして流星の煌めきを纏う蹴りを叩き付け、着したニケの警告が飛ぶ。
「破られた、こっちに来るよ」
 広場が戦場という状況も手伝って、ティフォナを抑えてくれていた2班の壊滅は瞬く間に誰もが知るところとなる。
 それはティフォナを含む護衛部隊のみならず、外縁部の敵までもが襲いかかってくることを意味する。
 相手にしていたら、ハリメーデーを倒せるはずはない。
 無茶をして攻撃を掛ければ、短時間で撃破は出来るかも知れないが、その目論見が非常に分の悪い賭になるぐらいのことは、考えなくとも分かる。
 それでも撤退を考える者も、攻撃の手を緩めようとする者もいなかった。
 なぜなら満身創痍の有様ながらもケルベロスたちは、儀式の中央部のハリメーデーを追い詰めていた。
 儀式を止めるという目標は既に達しているが、ハリメーデーを倒す好機が今であるなら、今後増えていく悲劇を食い止めるため、すべてを尽くして戦おう。
「まだだ! まだ終わっちゃいない! まだ1秒でも時間があるのなら必ず喉元に喰らいついてみせます!」
 ラインハルトは覚悟を決めながら、周りの仲間の動向を顧みることもなく、走る足に力を込める。
 既に、新手の敵は此方になだれ込みつつあり、このままでは遅かれ早かれ全滅してしまう。
 ハリメーデーの深紅のローブが翻り、翳される金色の杖。
 陽光よりも鮮やかな雷光の槍が降り注ぐ。展開されていた障壁は打ち壊されて、槍に貫かれたケルベロスたちの身体からどっと溢れた血が赤さびに似た匂いで周囲を満たした。
「これで手打ちじゃ、口惜しいがそろそろ撤退じゃのぅ」
 戦場から音が消える刹那、ハリメーデーが唇の端が緩みかけた瞬間、不意にアラームが鳴り響く。
 次の瞬間いくつもの不穏な気配が目の前に立ち上がるのを感じた。
「なんじゃと?!」
 許された残り時間のすべてを攻撃に費やす。今、この場で倒す。危険であってもやるしかない。
 ナノナノ『剣豪将軍ナノテル様』は既に落ち、マーシャも身体中の肉を抉られ立っている方がおかしな有様。それでも己を奮い立たせ強く地を踏みしめ、ハリメーデーに刃を向ける。
 なんとかダメージをひとつ重ねた。
 そして玲斗もまた、何度打ち消されても放ち続けた癒術を攻める力に変える。
 敵に囲まれての戦闘という危地が、彼ら彼女らの心を熱く急かす。
 いかに追い詰められたとしても、たとえ手足をもがれようとも、ラインハルトは戦うつもりでいた。赤い瞳の奥に敵を見据え、己の血と魔力から生まれた剣を投げ放つ。
「こっちじゃ、ティフォナ、なにをしておる、早う来んか!!」
 眼前のハリメーデーは金色の杖をぶんぶんと振り回しながら叫んでいる。その声に呼応するかのように周囲からは援軍が続々と迫って来ており、ハリメーデーに攻撃を掛けるケルベロスたちは絶体絶命の状況。
 その危機は比較的攻撃に晒されにくいと言われる後衛に立つ者にとっても他人事ではない。
 被弾したアンノは意識が消え去りそうな痛みを感じながら、ハリメーデーに向けて小動物の姿に籠めた術の魔力を射出する。それはハリメーデの周囲を飛び回り、必死の体当たりを加えてダメージを重ねる。
「やめんか。いい加減諦めるのじゃ!」
 続けてクロハの脚が宙を舞うと陽炎の如くに空気が揺れた。目にもとまらぬ高速の蹴りがハリメーデーに叩き込まれると、幼い容姿の身体は音を立てて盛大にバランスを崩してこける。
 これで為すべきことはなした、崩れ落ちそうな身体を気力だけで支え、背面と側面から来る骨の魚人の如き異形に備えてクロハ身構えて——次の瞬間その凶刃に貫かれて倒れ伏した。
 一方パイシーズ・コープスの攻撃を避けきり、クロノは構えを取り直すと乱れた呼気を整えた。
 しかしライドキャリバー『エア』が崩れ落ちるように倒れて動かなくなる。
「今までありがとうなの」
 言い置いて、顔を向ける暇も無いままに、ハリメーデーとの間合いを詰める。そして手にした彩雲剣アルヴァーレを振りかざす。
「それは水面に浮かぶ三日月の様、クレッシェンドファング・ヴァイ!」
 舞い乱れ乱れた剣は、言葉の通り、波紋に揺られた水面に映る三日月の如き跡を刻んだ。
 総攻撃は続き、自陣に浸透してきたパイシーズ・コープスと味方がそこかしこで交錯する。
 まだハリメーデーは倒れないのか。
「足は止めた。あとは頼む」
「防御は砕きました」
 入り交じる言葉、誰が何を伝えようとしたかなんてもう、分からなくなっていた。
 でもそれらのすべてはハリメーデーを倒すための思いを継ぐ言葉。
「あと少しだよ」
 自らの身体から溢れる血の量を見て取ったニケは覚悟を決めて、手のひらを前に翳した。放たれたドラゴンの幻影が鮮やかに輝いてハリメーデーの幼く見える身体を包み込む。
 燃え上がる炎、次の瞬間、視界に割り入って来た骨の魚人の拳に打ち据えられて、世界は暗転した。
「ごめんね。後は頼んだよ」
 時間と言う単位で見れば1分は短いが、ハリメーデーにとってはとても長い時間に感じられていた。
 負傷を顧みずに突っ込んで来るケルベロスたち、何がこの者たちを駆り立てるのか。
 これが、背後に守るべき存在を持つが故の感情なのか。
「何故じゃ、こんな莫迦なことが、あるはずが……」
 ほんのわずかの時間に、乱れ飛んでくる遠距離攻撃、突きつけられる刃、数えるのがいやになる程の攻撃を不運にも受け続けた、ハリメーデーは撤退を終えることも出来なまま崩れ落ちるようにして力尽き、そして倒れた。

●終わりに
「やった……のか?」
「間違いない」
 何もかもを捨てた攻撃が功を奏して奇跡を起こしたのか? それは分からない。
 次に同じ状況があったときに同じことをして成功する保証も無い。

 ただ、ハリメーデーを撃破したことだけは、確かだと此処に立つ皆が、認識している。
 だれがどうやってこの難敵を討ち取ったかなど、些細な問題だ。なぜならこの勝利は、たとえ数秒であっても援軍の合流を遅らせる為に、全滅の運命を顧みること無く戦い続けてくれた、対護衛班16名の奮戦無しにはあり得なかった。
 ティフォナと残っていたパイシーズ・コープスたちは潮が引く様に消え去って、撤退を終えたようだ。
 今、為すべきことは戦いの中で倒れた、仲間の救援だ。
 勝ち鬨を上げるのも、勝利を喜び合うのも、共に戦った皆でやるのだ。

作者:ほむらもやし 重傷:ニケ・セン(六花ノ空・e02547) マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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