先日のクロム・レック作戦の結果、ケルベロス達はクロム・レック・ファクトリア並びにディザスター・キングの撃破という、最大成果を収めることに成功した。
玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)は彼等の健闘を称えて労いながら、本題である今回の事件についての説明に移る。
「これまでの死神の動きを警戒していたアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)さんの情報収集の結果、死神達による大規模儀式が行われることが判明したんだ」
それは最近多発していた死神による事件が集約された大儀式であり、都内の六ケ所で同時に儀式が行われる『ヘキサグラムの儀式』というものだ。
儀式が行われるのは、『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の計六ケ所となっていて、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点になる場所だ。
今回の事件では、戦闘力強化型の下級死神や、死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、死神によって生み出された屍隷兵といった戦力に加え、第四王女レリの直属の軍団も加わっているようだ。
更に、竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認されており、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦であると想定されている。
「そこでキミ達には、判明した儀式場の一つに攻め入って欲しいんだ」
この大掛かりな儀式を防ぐには、6つの儀式場の全ての儀式を阻止しなければならない。その為に、それぞれの場所に十分な戦力を配置する必要があるようだ。
儀式場の外縁部には、数百体もの戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入者を阻もうとする。
因みにレインボーブリッジの儀式場の外縁部の防衛戦力のみ、第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵となっているようだ。
儀式を行っているネレイデス幹部は、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー、お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、そして東京タワーに『宵星の死神』マイラが配されている。
ネレイデス幹部は、儀式を行うことに集中しており、少しでもダメージを被ると、儀式を維持することはできなくなってしまう。
つまり、外縁部の敵を突破した後に、儀式中心部に到達し、ネレイデス幹部にダメージを与えることができれば、作戦は無事に成功となる。
「そして作戦が成功し、儀式が中断されると、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟って撤退を開始するみたいだよ」
その場合、儀式中断から7ターン後には生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまう。
もしネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、この7ターンの間に撃破しなければならないだろう。ただ、ネレイデス幹部は強敵である上、儀式場内部では更に戦闘力が強化される為、単独チームの戦力だけでは撃破は困難だ。
また、周囲に護衛の戦力が残っている場合や、外縁部の戦力が増援となって殺到してくる状態になってしまうと、幹部の撃破までは難しいかもしれない。
状況次第では、儀式を中断させた後は戦闘せずに撤退を優先するべきかもしれない。
だがネレイデスの幹部が多数生き残った場合、今回のような大儀式を再び引き起こす危険性もあるので、できれば可能な限り討ち取って欲しいと、シュリは付け加えて言う。
続けて敵の戦力についてだが、外縁部には数百体という大戦力が展開しているが、『侵入者の阻止』を目的として、儀式場周囲の全周を警戒している為、突破する際に戦うのは数体から10体程度となりそうだ。
白百合騎士団一般兵に関しては、3名程度の小隊での警戒を行っているので、こちらを選択した場合、3体或いは6体程度と戦うことになる。
「それと外縁部から脱出しようとする場合、キミ達は攻撃の対象外になるみたいだね」
つまり脱出する際は、追撃される恐れはないと考えれば良い。
但し全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込んでくることも考えられるので、その点は注意が必要だろう。
儀式場内部には、ネレイデス幹部を守る護衛役が各自で配備されている。
築地市場には、『炎舞の死神』アガウエーがおり、屍隷兵『縛炎隷兵』が数十体。
豊洲市場には、『暗礁の死神』ケートーがおり、屍隷兵『ウツシ』が数十体。
国際展示場には、『無垢の死神』イアイラがおり、屍隷兵『寂しいティニー』が数十体。
お台場には、星屑集めのティフォナがおり、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体を護衛としている。
レインボーブリッジには、第四王女レリがおり、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と、十体程度の白百合騎士団一般兵が護衛となっている。
東京タワーには、『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を、数十体引き連れているようだ。
儀式を阻止するだけなら護衛を全て相手取る必要は無いのだが、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、護衛を撃破するかネレイデス幹部から引き離す必要があるだろう。
また、儀式の護衛役であるデウスエクスは、戦力的に儀式の失敗が不可避であると判断した場合、ネレイデス幹部にダメージを与えて、儀式を強制的に中断させて撤退させるような決断をする可能性もある。
従って、一つの戦場に戦力を集めすぎると、敵が早々に諦めて撤退を選択し、ネレイデス幹部を討ち取る機会が得られなくなってしまうこともあるだろう。
幹部の撃破を目指すかどうかは、儀式場に向かう戦力と、戦場の状況を見ながら判断し、行動してほしいと、シュリは全てをケルベロス達に委ねて作戦の説明を締め括る。
今回の大規模儀式は、ドラゴン勢力が熊本城で行った、魔竜王の復活に勝るとも劣らない程の脅威であると推測される。ここまで死神が引き起こしていた数多の事件が、この大儀式に集約されているといっても過言ではない。
しかしどれ程大きな困難も、彼等はこれまで幾度となく乗り越えてきた。
ヘリオンに乗り込むケルベロス達の背中を頼もしそうに見守りながら、シュリは心の中で静かに武運を祈るのだった――。
参加者 | |
---|---|
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435) |
鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001) |
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850) |
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308) |
マリアンネ・ルーデンドルフ(断頭台のジェーンドゥ・e24333) |
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467) |
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545) |
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977) |
●生まれ出づるは災厄の星
東京都内で描く巨大な六芒星。
死神達が起こした事件の集大成と言うべき大規模儀式が、今まさに行なわれようとする。
この儀式を防ぐには、六ケ所全ての儀式を阻止しなければならない。その内の1つである『豊洲市場』に、6つのチームのケルベロス達が乗り込んでいく。
彼等を最初に待ち受けるのは、外縁部を周遊している下級死神だ。その先の儀式場に辿り着くには、侵入者を阻む魚の群れを突破する必要がある。
「まさか本当にこんな事をやってるとはね。立て続けに厄介事を起こさなくてもいいのに」
死神達の動きを警戒し、この状況を予測していたアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)は、顔を顰めてマフラー越しに溜め息を吐く。
「でも、これだけの規模の事件だからこそ、私達の手で止めないと」
喪服姿のファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)の、目元を覆うヴェールの先に見据えるは、儀式場のある水産卸売場棟。
そこへの突破を目指すべく、ファルゼンが手にした装置で極彩色の風を巻き起こし、仲間の戦意を呼び覚ます。
「死神の儀式は、絶対に阻止するであります!」
闘志も気合も十分に、気炎を上げるクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)が、虚空を漂う魚の群れに向かって突き進む。
クリームヒルトは担いだ巨大な槌に魔力を集めて照準合わせ、竜が吼えるが如き砲撃を、派手な爆発音と共に響かせる。
「奴等の企む陰謀は、この剣と、騎士の矜持に誓って必ず打ち砕いてみせる!」
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)はいつにも増して真剣味を帯びた表情で、気迫を滾らせながら疾駆する。闘気を溜めて放ったエリオットの気弾は、死神を逃さず追尾するかのように喰らいつく。
「相変わらず趣味の悪い火遊びが好きな連中だぜ。ま、コイツはキツいお仕置きが必要ってコトだよな?」
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)の青い瞳が鋭く輝き、先ずはこの場を突き抜けようと、大きく跳躍しながら飛び掛かる。
「――偽りの真理より来れ。全てを灰燼と帰す始原の炎を其の背に」
ダレンを援護すべく、マリアンネ・ルーデンドルフ(断頭台のジェーンドゥ・e24333)が詠唱せしは、加護を齎す奇蹟の秘術。マリアンネの紡ぐ言葉に応えるように、空から降りてきたのは赤い光を纏った御使いだ。
偽りの真理より生まれし、仮初めの神の力がダレンの身に宿る。そして焔の如き光を帯びた青年の、繰り出す蹴りが魚の腹に炸裂し、続けて鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)が追い討ちを掛ける。
「――貴方は勝負強い?」
纏の両手の指間に賽の目のように、表裏合わせて灯るは七つの火。ここは鉄火場、切った張ったの戦場で。赤い点々転がし転がし、運という名の怪物と――いざいざ勝負。
燃ゆる炎は死神達をあっという間に呑み込んで、火中の賽に棲まいし運を掴むべく、勝利に至る道を切り拓かんとする。
「余り時間を費やす訳にもいかないからな。済まないが、ここは任せた」
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)は後続の外縁班に声を掛け、彼等に後を委ねて突入していく。
死神達と相対し、右手に嵌めた籠手の中から取り出したのは、霊を鎮める力を宿した勾玉だ。アスカロンはその宝珠に呪力を篭めると、氷のような炎が立ち上り、魚を真っ二つに斬り落とす。
ケルベロス達は先ず一体を倒し終え、更に襲い掛かってくる死神達も、チームで力を合わせて蹴散らしていく。
斯くして4つのチームが魚の群れの包囲を潜り抜け、儀式が行われている水産卸売場棟に辿り着いたのだ――。
●狂える月の巫女
ケルベロス達が儀式場の敷地内に足を踏み入れる。その先で、彼等は早くも敵との遭遇を果たすのだった。
施設の奥では、『月光の死神』カリアナッサが儀式を行っているのだろう。その前には護衛の死神、ケートーと、配下の屍兵が隈なく配備されている。
この儀式を阻止した上で、ケルベロス達はあわよくば幹部の撃破を狙う作戦だ。それにはケートー達を引き付けながらカリアナッサに接近し、攻撃を加えなければならない。そこでケートー達への対応を、2つのチームが担うことになる。
「僕らはこのまま突き抜けよう。立ち止まっている暇はないからね」
アビスは努めて冷静に、それぞれが成すべき役割だけを考えて。多くの屍兵達にも怯むことなく、氷で形成された妖精の弓に矢を番え、戦闘行為を最低限に留めてこの場を切り抜けようとする。
「ボクが皆様を護るであります! 心配せずとも、必ず幹部の元まで届けるのであります」
騎士らしく凛然と、クリームヒルトがいつでも仲間を守れるように目を光らせる。
ケートー率いる屍兵の軍団は、その大半を護衛対応班の2チームが引き付けてくれたことにより、消耗少なく突破して――残った2つのチームが遂にカリアナッサと対峙する。
「漸く……見つけた」
ファルゼンの赤い双眸が、一人の少女の姿を映し出す。
青く輝く魔法陣の上に座し、背を向けながら祈りを捧げる死神の巫女がそこにいる。
カリアナッサは儀式で意識を集中している為、無防備状態だ。ケルベロス達は躊躇うことなく意を決し、儀式を止める一撃を放つ。
「行きます!」
開口一番、恭志郎が理力を載せた脚で蹴り込むと、星のオーラがカリアナッサに直撃し、衝撃で意識を乱した少女がくるりとケルベロス達の方を向く。
床につく程長くて艶めく黒髪翻し、その顔付きは微笑み浮かべて聖女のように優しげではあるのだが。瞳は閉じられたまま、視線を一切交わさぬ彼女の表情は――得体の知れない畏怖すら感じさせられる。
カリアナッサがすっと真上に手を翳す。すると床の魔法陣が天井側に反転し、魔空回廊へと繋がる途となる。
「我等の邪魔をするとは、大したものですね。……ウツシ達、そこの不躾な番犬共を今すぐ始末なさい」
穏やかな口調の中に秘めた殺意。死神の巫女は近くの屍隷兵に指示を出し、彼等を捨て駒にしてケルベロス達を襲わせる。
「悪辣な死神の手などに、この星の命を、委ねるわけには参りません――お覚悟を」
淑女然と振る舞うマリアンネの表情からは笑みが失せ、言葉に静かな怒りを滲ませる。
勇気を糧に殺されて、偽りの生を与えられた屍隷兵。その哀れな命を終わらせようと、頸の傷から噴き出る深紅の炎を練り上げて、生命喰らう地獄の矢弾を射出する。
「ケートーの犠牲者がまだこんなにいたなんて……。彼等がせめて人として安らかに眠れるように、その無念を晴らさせてもらうよ」
エリオットは以前にウツシと戦ったことがあり、死神の犠牲になった人々のことを想い、悲しみ堪えるように空の霊力纏った剣を振るう。
「悪足掻きは止すんだな。こいつらをいくら嗾けようが、俺達には無駄だ」
アスカロンが纏いし闘気は、命の残滓の具現体。呪力を帯びた魂魄が、刃の形を成して顕現し、屍兵の虚ろな生を斬り祓う。
「ココからは本気の獲り合い、斬り合い――覚悟キメて行くとしようか」
普段の飄々とした軽薄さとは一変し、ダレンが不敵に笑んで手にした太刀に力を篭める。
内に眠りし魔力を刃に宿し、振り抜く高火力の斬撃が、屍兵の体躯を深く裂き。隣に並ぶ愛しの妻に、横目で視線を送って目配せをする。
「OK! 思いっきり暴れろってことよね!」
最愛の彼から合図を受け取って、纏はニヤリと不遜に笑い、闘氣を高めて身構える。
全身から溢れる氣の全てを拳に集中し、威力を増幅させた一撃は――大気を震わせ屍兵を殴打、吹き飛ばされたウツシは激しく地面に叩きつけられる。
「……と、どうやらそっちも片付いたみたいね」
「雑魚の首をとっても、ねえ?」
ウツシ二体を撃破して、纏が苦笑いを浮かべるイサギ達と顔を見合わせた後。すぐ気を引き締め直し、残った死神の巫女に目を向ける。
彼等に襲い掛かったウツシは返り討ちにした。後はカリアナッサを逃さぬよう、2チーム掛かりで取り囲み、彼女を討滅するだけだ。
「良いでしょう……。ならば私自らの手で、貴方達の肉を抉って血と臓腑を撒き散らし、儀式の贄にして差し上げます」
口角を歪に吊り上げながらそう言うと、カリアナッサの閉じた眸が開眼し、彼女の頭上に浮かんだ月が、瞳と同じ銀光放って番犬達の目を眩ませる。そして月が瞬く間に黒ずむと、ケルベロス達の影から手が伸びて、彼等を闇の世界に引き摺り込もうと縋りつく。
「回復は任せて。死神の思い通りになど、決してやらせない」
すかさずファルゼンが、癒しの術を行使する。靴音響かせ華麗に舞えば、色鮮やかな花弁のオーラが咲き乱れ、仲間に纏わりついた闇の力を打ち消していく。
「反撃開始であります!」
クリームヒルトがライフル銃を構えて狙いを定め、光の弾をカリアナッサに撃ち込むと。爆ぜた魔力の塊が、敵の火力を吸い込むように中和する。
「……無駄だよ。その程度の攻撃、通すわけにはいかないね……!」
アビスの前には、幾重も重なる六角形の氷の盾が展開されていた。
死神の悪しき力を撥ね退け身を護り、次いで彼女の従者の箱竜、コキュートスが凍てつく冷気の息をカリアナッサに吹き掛ける。
「邪を討ち払う力を貸してくれ……『尋龍点穴』!」
この地を覆う気の流れを読みながら、アスカロンは携帯していた形代に、霊気を束ねて移し込む。その形代を媒介に、右手を翳してマリアンネに加護の力を付与させる。
「この星は、わたくしにとって大切な方と出会った場所。だからこそ、我が身に賭けても護ってみせます」
燃えるような紅い翼を羽搏かせ、マリアンネの放った一矢がカリアナッサの肩を射抜く。
「人の命を弄び、尊厳を踏み躙る死神達……僕は許さない。絶対に!!」
エリオットが死神への怒りを剣に篭め、雷気を帯びた刃を抜いて疾走し、死神の巫女に紫電の如き迅速の突きを見舞わせる。
儀式を阻止する任務は一先ず達成したが、再び儀式を引き起こされる可能性もある以上、ケルベロス達はこの戦いで決着を付ける気構えだ。
敵陣営が撤退する7分間、それまでに全てを終わらせようと、彼等は戦意を奮い立たせて立ち向かっていく――。
●月墜ちる時
「駄犬がよく吠えますね。だったら、息の根を止めてでも黙らせてあげましょう」
カリアナッサの持つザリガニ型の流体金属が、熔けて彼女の腕と同化して、巨大な鋏の腕と化す。それをカリアナッサが狂ったように振り回し、手当たり次第に番犬達を斬り裂いていく。
「――翼よ、治癒の光を纏うのです」
クリームヒルトが祈りを捧げるように念じると、眩く煌めく光の翼が前衛陣を包み込み、癒しの光で仲間の傷を治療する。
更にテレビウムのフリズスキャールヴも、応援動画を流して味方の闘争心を鼓舞させる。
カリアナッサを狙う2組の内、こちらのチームは回復と守りに重きを置いた布陣を敷いてきた。その作戦が功を奏したか、ここまで一人も倒れることなく戦線を維持し続けている。
「――見よ、この指の示す先にお前の運命を確定する」
纏が弓に手を添えて、紅を纏った指先から弦を引く。それは死神に、血染めの道を示すが如く、緋色の標の矢を撃ち放つ。
「正義の鉄槌、受けてみよ! ……なんてね!」
ダレンの昂る正義の心が青い光となって具現化し、聖光宿した太刀を振り翳す。悪意を祓いし剣閃は、峻烈なる軌跡を描いて巫女の邪悪な意志を断つ。
敵の幹部が相手であっても、得意の連携力を活かした戦い方で、互角の勝負を繰り広げるケルベロス達。このまま耐えつつ機を窺い、やがて時間は雌雄を決する時を刻もうとする。
「残りは2分……。時間がない、ここから全員総攻撃で行こう」
天青石が耀く懐中時計を握り締め、アスカロンが仲間に呼び掛ける。
例えこの身が倒れても、幹部の一人を仕留めるのなら――ケルベロス達は覚悟を決めて、最後の戦いに挑む。
しかし対するカリアナッサも死力を尽くして抵抗し、彼女の無慈悲な殺意は容赦なく、疲弊している番犬達を狙って迫り来る。
「その命を捧げなさい」
タン、と地を蹴り距離を詰め、巨大な鋏が不気味に光る。
朱色を帯びた銀が棚引く軌跡の先に、景臣が刀を構えて迎え撃ち、腹を括って斬り結ぶ。
「――お静かに」
響く剣戟、煌めく死閃。刹那の静寂の後に景臣の、視界に広がるのは鮮やかなまでの赤。
死へと誘う刃の餌食になった景臣は、自ら流した血溜まりに、沈むように崩れ落ちてしまう――。
「チッ……! これ以上好き勝手にさせるかよ!」
ダレンが声を荒げてカリアナッサを険しく睨む。
戦い半ばで斃れた仲間の為にも、絶対に――烈しく猛る心を一つに合わせ、十五の地獄の牙が一斉に、火力を集中させて攻め立てる。
「――天空に輝く明け星よ。赫々燃える西方の焔よ。邪心と絶望に穢れし牙を打ち砕き、我らを導く光となれ!!」
天に掲げる聖剣に、エリオットが人々を護る強固な意思を込め。死神達の野望を打ち砕かんと、折れることなき誓いを立てた斬撃を、真一文字に振り下ろす。
闇を切り裂く一撃に、カリアナッサが態勢崩して蹌踉めいた。その僅かな隙を、地獄の番犬達は決して見逃さない。彼等の捨て身の攻勢に、カリアナッサは気勢に呑まれるように力を殺がれ、深手を負って追い詰められていく。
それなら纏めて道連れに、と無数の生断つ鋏の群れを生成し、形振り構わず襲い掛かる――が、死に物狂いのこの一撃も、一丸となった護り手達が盾となり、全てを受け止め耐え凌ぐ。
「……この頸に刻まれた疵に比べれば、どうってことはありません」
鋏が腹部に突き刺さり、血を滲ませながらも必死に踏み止まって堪えるマリアンネ。そこへ入れ替わるように箱竜のフレイヤが、地面を翔けて死神の巫女に向かって体当たりする。
「――道は作ってやる。行け」
ファルゼンが持てる力の全てをアビスに注ぎ、友たる義妹の少女に最後を託す。
姉と慕いし淑女の想いを一身に受け、アビスが手負いの死神目掛けて氷の弓を引き絞る。
「そろそろケリを付けさせて貰うよ――」
手を放し、発射された矢は一直線にカリアナッサの胸を刺し穿つ。彼女の狂気の心は砕け散り、身体を蝕む激痛に、堪え切れずに死神の巫女は膝を突く。
「……私が死のうと『堕神計画』さえ成就できれば……血よ! 我等を祝福し、愚かな地球の走狗に呪いあれ! 遍く命の総てを贄として、終わりの果てに滅ぶが良い!」
ククッと禍々しく顔を歪めて哄笑し、この世の生を呪うが如く怨嗟の言葉を吐き捨てる。その彼女の声を掻き消すような番犬達の更なる怒涛の追撃に、力尽き、倒れて伏した少女の身体は、二度と起き上がることはなく。
命潰えた骸は、光の塵と消えて散り――その死を以て、戦いは終息へと向かっていった。
作者:朱乃天 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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