吸引します、グラビティ・チェイン

作者:七尾マサムネ

 東北の山中。まだ紅葉の残る木々の奥、廃棄家電の山があった。
 こうした場所は、ダモクレスにとって好ましい。新たな体を得るのにうってつけだからだ。
 案の定、機械の墓場をかぎつけ、一体の小型ダモクレスがやってきた。どれにしたものか……小型ダモクレスはしばし吟味した後、1つの家電に飛び込んだ。円盤形の、ロボット掃除機だ。『ロボット』とついている所に惹かれた……かどうかは定かではないが。
 手際よくヒールを終えると、ダモクレスは小型から大型へと再構築された。
「オソウジ……オヤクダチ……」
 巨大円盤型ダモクレスは、下部に搭載したスラスターを起動。
 他の廃棄家電や枯葉を吸い込むどころか吹き飛ばし、飛翔を始めた。目指すは市街地、人々のグラビティ・チェイン。

「アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)さんによって、新たな家電投棄場所が判明。廃棄家電のダモクレスの襲来を予知することができました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の報告に、アイリス本人がうなずいた。
「素体となった家電は、円型のロボット掃除機です。幸い、人的被害が出る前に対処する事が可能です。人々が虐殺されてしまう前に、現場である山中に向かい、ダモクレスの撃破をお願いします」
「そうだね。こんな危険な掃除機に吸い込まれちゃうのはいけないよ、いけないよ!」
 さて、ロボット掃除機を元にしたダモクレスは、空中に浮いている状態だが、飛行状態とまではいかないため、近距離グラビティの範囲内となるようだ。
「ダモクレスは、掃除機の機能を活用して攻撃してきます。まず、吸い込み口に対象を吸引し、内部の刃を回転させて切り刻む攻撃。同様に、単体を吸引し、切り裂きつつその体力を奪う事もできます。更には、こちらを追尾しつつ体当たり……これは掃除機と関係ないですが」
 なお、ポジションはスナイパーだ。掃除機だけに、スイーパー……スナイパー……何でもない。
「人々が掃除されてしまう事態だけは避けなければなりません。皆さんの活躍に期待します」
 それと、とセリカは1つ付け加える。
「山中には、紅葉を眺めるための公園が設けられています。無事、任務を達成した後、ここで休憩するのも悪くないでしょう」


参加者
月隠・三日月(暁の番犬・e03347)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
フェイト・テトラ(黒き魔術の使い手・e17946)
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
ソシア・ルーンフォリエ(戦舞奏唱・e44565)
レナ・ネイリヴォーム(イニチウムフェザー・e44567)
桜衣・巴依(紅召鬼・e61643)

■リプレイ

●空翔ける掃除者
 紅葉の山の陰から、円形のシルエットが姿を現わす。
「ロボット掃除機も空を飛んじゃうと、もうUFOみたいに見えてくるね?」
 アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)の率直な感想が、皆の意見を代弁していたかもしれない。
 侵略者の円盤を思わせて仕方ないこのシルエットこそ、地球人のグラビティ・チェインを狙うダモクレスである。
 ふおんふおん。聞くものの心を妙にざわつかせる音とともに、浮遊するダモクレスは、進路上に突如として姿を現わした忍……樒・レン(夜鳴鶯・e05621)に気づき、急停止した。
(「人の役に立ちたい、そんな思いが悪用されるとは哀れ也。この忍務、必ず成し遂げる」)
 何れはリサイクル等される可能性が有ったのでは、と思いつつ、いつもと同様に被害が出る前に倒すのみ、と心に決めるレナ・ネイリヴォーム(イニチウムフェザー・e44567)。
(「元は人の役に立つために作られたものを、人殺しの道具にするわけにはいかん。何より一般の方の犠牲を出さないためにも、何としてもここで食い止めなければな」)
 決意を込めて月隠・三日月(暁の番犬・e03347)が、ゲシュタルトグレイブを構えると、束ねた髪が揺れる。
「それにしても、廃棄機器ばかり狙ってますね……」
 ダモクレスたちの行動をふと思うソシア・ルーンフォリエ(戦舞奏唱・e44565)。
 そんな思案もそこそこに、ソシアは戦闘へと意識を集中させていく。
「自動で動いて掃除してくれる機械は定命化後に知ったので気になりますが、ダモクレスと化してしまったのなら壊すしか無さそうですね」
 桜衣・巴依(紅召鬼・e61643)も戦意を高めていると、ダモクレスの『顔』が怒りを表すものに変わった。
「オソウジー……!」
 後方に備わった推進器で、一気に接近してくる。
「ふええ……!」
 巻き起こる衝撃波に髪を押さえたフェイト・テトラ(黒き魔術の使い手・e17946)は、ライドキャリバーの『ライデルさん』を前方に走らせる。フェイト自身は、戦場を見渡せる位置へ。
 ダモクレスは、側面の推進器も使い、ぎゅいん、と姿勢を制御。確認されたのでもはや未確認ではないが、UFOに相応しい不規則な軌道を描く。
「掃除機にしたって攻撃方法がおっかないなあ。こうグローいホラー映画に出てきそうだよネ」
 すれ違いざま、吸い込み口を見てしまったペスカトーレ・カレッティエッラ(一竿風月・e62528)は、吸引される様子を想像して、少々ゲンナリした。
「まあそんなことをさせる前に逆にお片付けしてやろうか!」
 高く飛翔し、手が届かなくなる前に。ペスカトーレが、一気に攻撃を仕掛けた。

●清潔好きな暴れん坊
 レンの投じた手裏剣が、闇夜に舞うコウモリの如く、木々の間を縫って翔ける。
(「己の手助けにより得られた持ち主達の笑顔。最早それらに触れられぬ哀しみが機械軍を呼び込んだのかも知れんな」)
 金属音を響かせ、手裏剣を受けるダモクレス。アイリスが、その周りを駆け回った。
 軽やかなステップ……ダモクレスには、それがダンスだと認識出来ただろうか。いずれにせよ、アイリスのペースに巻き込まれ、乱舞を受けたボディは損傷していく。
「お助けします!」
 フェイトが、雷杖を突きあげた。天から降り注いだ雷撃が、ダモクレスへと炸裂する。
「スイコミマス……!」
 敵の注意を引くように走り回るライデルさんと並走するようにしながら、ダモクレスが、前方部分を少しばかり持ち上げた。
 吸い込み口から風が巻き起こり、前衛にいたケルベロスたちを、次々と吸い込んだ。
 5人もいたので、吸い込み口は混み合い、ダモクレスの『顔』は苦し気。
 吸い込んだ後は、内部に隠された刃が回転。しばし『お掃除』という名の手荒い攻撃を受けた後、ようやく解放される一同。
 吸引の風で毛並み乱れないかな~などと思っていたペスカトーレだったが、案の定だった。着地しながら髪を直すと、ルアーを投じた。
 空中でカモメに変じたそれは、ダモクレスの周りを飛び回る。やがて起こった小嵐が、ダモクレスをきりきり舞いさせる。
 その間に、巴依がオウガ粒子を、吸引を喰らった仲間たちに散布した。
 コーティングされたライドキャリバーの緋椿が、疾走する。勢いをつけてジャンプを敢行すると、中空に浮かぶダモクレスへと激突。その反動を生かして、再び山道へと舞い戻る。
 旋回し、次なる『お掃除』の機会を狙うダモクレス。
 だがそこに、ソシアの轟竜砲が発射された。砲撃を押し返そうとするダモクレスとの間で、力比べがしばし行われた。
 その隙に、ウイングキャットのミラが翼をはばたかせる。くるりと身を回すと、尾を飾っていたリングを飛ばし、ダモクレスにぶつける。
 そして樹上からは、三日月が斬りかかった。瞬時に生み出される炎の刀。初撃こそはじき返されたかに見えたが、斬撃は連続し、次第に装甲を切り裂いていく。炎の勢いが続く間に、出来る限り機動力を奪う。
 このダモクレス、加護を打ち破る力や、こちらの体力を奪う機能は厄介だが、こちらを継続的に苦しめる効果は持っていない。レナは味方との位置を絶妙に保ちながら、妖剣士の技を繰り出した。
 グレイブの刃に朱の呪を乗せると、一気に振り下ろすレナ。衝撃波が山の清澄な空気を断ち、その衝撃がダモクレスを破砕する。

●掃除機の掃除屋
 戦闘開始より数分。
 ダモクレスの度重なる攻撃により、ケルベロスたちも少々ダメージがかさんできている。
 皆の状態を鑑み、レンのオウガメタルより、光が乱舞する。輝く小さき欠片は、風に舞う葉、あるいは花弁を思わせる。
 フェイトが、今度は杖を味方へとかざした。元々清らかだった空気が、更に研ぎ澄まされていく。すると、傷ついた仲間たちから痛みが消え、頭が冴える。
 山道を踏みしめ、加速するライデルさん。敵が近づいて来たところを狙い、車体ごと突撃、相手に激突した。ぶつかりあう鋼と鋼。
 仲間に当たらないよう狙いを調整しつつ、ペスカトーレのガトリングガンが、唸りを上げる。容赦ない弾丸の群れが、ダモクレスをうがち、損傷箇所を広げていく。
「オソウジ、サセテー……!」
 ダモクレスが、巴依目がけ突撃した。
 どぉん、と土煙が上がる。巴依の体が、斜面に埋まっている。しかしそのお陰で、致命的なダメージを避ける事が出来たようだ。
 相手を調子づかせるのはまずい。味方の支援に奔走していたソシアが、バスターライフルを向けた。凍結光線モードにシフトし、敵を射撃した。
 それに続くレナの射撃。増幅した氷結効果が発揮され、ダモクレスの表層を、より厚い氷が蝕んだ。
 ダモクレス化した事により、多少温度が変化したところで、活動に支障はない……という訳もいかない。その証拠に、『顔』が、渋い。
 皆が攻撃を集中させている間に、アイリスは、絶好の狙撃ポイントに陣取っていた。狙いよりも威力を優先した一発が、ダモクレスを貫き、小爆発が起こった。
 巴依の描きあげた陣によって巻き起こった風が、ダモクレスに向かう。周囲の葉とともに、舞う蒼桜。その花弁はダモクレスにも吸い込み切れず、そのボディを切り刻んだ。
 ずぅん。浮力を失ったダモクレスが、墜落する。コンディションはあまりかんばしくないようだ。
「お、オソウジ……」
 半泣き、といったところか。
 演技力のあるタイプには思えない。敵の『表情』を素直に受け止め、弱って来たと判断した三日月がゲシュタルトグレイブの切っ先を敵に向けた。
 次の瞬間、ダモクレスが爆発する。ぐるんぐるん、と錐もみしながら、円盤は山の中腹に突き刺さった。

●季節の鑑賞者
 再び浮上した敵を目指し、アイリスが木々を足場に跳躍する。敵の上方から、マインドソードを突き立てた。
「今は紅葉した葉っぱもとっても綺麗なんだよ。自然に散るのはいいけど、吹き飛ばしちゃだめだよ、だめだよ!」
「オソウジ、オソウジ……!」
 機体を揺らしてアイリスを跳ねのけると、ダモクレスがライデルさんを吸い込んだ。単体に的を絞った掃除力が、猛威を振るう。
 あわあわするフェイトの心配とは裏腹に、ライデルさんの損傷は、軽微だった。
 レンが託した梵字輝く守護の盾が、ライデルさんを襲う衝撃を抑えていたのだ。
「嘗て持ち主達を笑顔にさせていたお前が無辜なる民の命を啜ることなぞ、本来なら望まぬことだろう。今俺達が、機械軍の呪縛から解き放つ……!」
 ほっと一息ついて……いる暇もなく。癒し手のフェイトは、レンに協力して、ウィッチドクターの技を披露する。
 ペスカトーレが、手元のガジェットを変形させると、ドリルが完成した。音を立てて回転を始めた衝角を携え、突撃した。
 ドリルが掘削している後方から、巴依の鎖が虚空を駆け抜け、味方の傷を癒す。
 ソシアの光線が、ダモクレスに命中すると、全体を包み込んだ。特殊な力場の作用で、心なしかしおれたようにも見えるダモクレスへ、レナがブーツで土を蹴った。
 一蹴り。それだけで高度の下がったダモクレスを飛び越える。くるり、遠心力も加算して、キックを浴びせる。地上に叩きつけられたダモクレスに、星型の紋様が刻まれたのを確かめ、着地するレナ。
 反対側から飛び込んで来た三日月の連撃が、剥き出しになった内部機構を、直接破壊する。
 三日月の炎の刃が燃え尽きるのと、ダモクレスが機能を停止するのは、ほぼ同時であった。
「モット……オソウジ……シタカッタ……」
 表示盤から、光が消える。そして、爆散。
 最期の言葉は、ダモクレスではなく、ロボット掃除機そのものの思念であっただろうか。
 黙祷する仲間たちとともに目標の撃破を見届けた巴依は、怪我人の手当や、周囲の片付けに取り掛かった。これから紅葉狩りをするには、少しでも元気な方がいいに決まっている。
 後始末を終えた一行は、近くにあるという公園に足を向けた。一般の観光客に混じり、紅葉を楽しむためだ。うきうきとした足取りのフェイト。
 三日月が眺める景色に加わるのは、温かいココアから立つ白い湯気。秋の深まり、そして冬への過渡期である事を感じさせる。
「ちょっと枯葉っぽい香りがしてなんだかいいよね、いいよね! 色もとっても綺麗だね、綺麗だね!」
 アイリスが、足元でぱりぱりと音を立てる落ち葉に、楽しさを覚える。
 ベンチでレナが一休みしていると、ミラを連れたソシアがやってきた。無意識に隣を空けたレナの横に、ソシアも腰を下ろした。
 あと少しで冬が訪れる。こういう木々も電飾とか飾られてすっかり様変わりするのかなーと、思いを馳せるペスカトーレ。
 紅葉狩りを楽しむ一般客。広がる鮮やかな景色。時間がゆったりと流れている感覚。どれも、ダモクレスによって踏みにじられていたかもしれないものだ。
(「我らが戦う理由を改めて確信した。是からも護り抜こう」)
 目に鮮やかな紅葉と、静かな空気。
 山の恵みを心行くまで味わうとともに、決意を新たにするレンであった。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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