東京六芒星決戦~ブレイク・ザ・コンステレイション

作者:鹿崎シーカー

「みんなお疲れ様! クロム・レック・ファクトリアは破壊成功、ディザスター・キングも撃破完了! 大金星だったね! …………で、次は死神なんだけど」
 笑みを神妙な表情に変え、跳鹿・穫は資料の束を取り出した。
 アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)、阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)の調査により、様々な事件を起こし続けていた死神の集団『ネレイデス』が大規模な儀式を行うことが判明した。
 この東京の築地市場、豊洲市場、国際展示場、お台場、レインボーブリッジ、東京タワーの六ケ所を起点として執り行われる『ヘキサグラムの儀式』は、複数種類からなる死神の軍勢に加え、エインヘリアル第四王女レリ直属の白百合騎士団、さらには竜十字島のドラゴン勢力をも巻き込んだ一大作戦だ。その目的は、古き十二創神をサルベージする『堕神計画』の完遂にある。
 もし十二創神の復活を許せば、その圧倒的な力により人類にデウスエクス大侵略期時代の災禍が再び降りかかることとなる。皆には儀式の妨害、及び儀式に携わる『ネレイデス』の
討伐をお願いしたい。
 儀式は前述した六ケ所のスポットでそれぞれ行われており、巨大な六芒星の儀式陣を生み出している。レインボーブリッジを除く陣の外周部は戦闘特化の下級死神『ブルチャーレ・パラミータ』と『メラン・テュンノス』が合計数百体配置されており、レインボーブリッジ周辺は白百合騎士団の一般兵が守備を固める。この防御網を突破して儀式のスポットに突入、各所につき一体ずついる儀式担当のネレイデスを攻撃して儀式を強制的に中断すれば、今回の作戦は成功となる。
 というのも、この大規模術式を発動するために、儀式担当は極度の集中状態を強いられており、少しでも集中が乱れるとたちまち儀式が維持できなくなる。儀式が失敗したネレイデスは七分以内に残存勢力を連れて完全に撤退してしまうので、もし撃破するならばこの間に倒しきる他無い。しかし、儀式場はある種の聖域となっているのか、ネレイデスは非常に強力な存在となっており、単独チームでの撃破は困難だと予想される。
 加えて、外周戦力は撤退するケルベロスを止めはしないが、ケルベロス側に増援が無いと知れば儀式場に大挙して押し寄せてくる。儀式妨害後の行動は任せるが、ネレイデスの幹部が一定以上生き残ってしまうと、いつか再び大規模儀式を発動する可能性がある。出来れば、この場で討ち取るのが望ましい。
 次に、敵戦力について詳しく解説する。
 外周戦力は先に説明した通りだが、彼らは外周全体に展開しているために、一点突破を心がければ多くても十体ほどの戦力を相手取る程度で済む。ただし、レインボーブリッジの白百合騎士団一般兵は、三名程度の小隊での警戒を行っているので、突破する際に戦うのは三~六体程度だろう。
 儀式場にいる戦力は以下の通り。

 築地市場:儀式担当は『巨狼の死神』プサマテー。護衛戦力は『炎舞の死神』アガウエーと数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』。
 豊洲市場:儀式担当は『月光の死神』カリアナッサ。護衛戦力は『暗礁の死神』ケートーと数十体の屍隷兵『ウツシ』。
 国際展示場:儀式担当は『名誉の死神』クレイオー。護衛戦力は『無垢の死神』イアイラと数十体の屍隷兵『寂しいティニー』。
 お台場:儀式担当は『宝冠の死神』ハリメーデー。護衛戦力は星屑集めのティフォナと十数体の『パイシーズ・コープス』。
 レインボーブリッジ:儀式担当は『約定の死神』アマテイア。護衛戦力は第四王女レリと『絶影のラリグラス』、『沸血のギアツィンス』を始めとする護衛、十体程度の『白百合騎士団一般兵』。
 東京タワー:儀式担当は『宵星の死神』マイラ。護衛戦力は『黒雨の死神』ドーリスと数十体の下級死神『アメフラシ』。

 突入の際はこの六ケ所の内からひとつを選び、攻撃を行ってもらうことになる。
 儀式を阻止するだけなら護衛をある程度無視して、ネレイデス幹部に一撃入れれば十分なのだが、撃破を目指す場合は護衛の撃破かネレイデス幹部から引き離す必要があるだろう。
 幹部の撃破を目指すかどうかは各自の判断に任せる。戦力分配等を考慮して決めてほしい。
「何かとんでもないことをやらかそうとしてるみたいだけど、このまま黙って見てるわけにはいかないからね。儀式の阻止、お願いね!」


参加者
天崎・ケイ(地球人の光輪拳士・e00355)
旋堂・竜華(華炎の竜姫・e12108)
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)
リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
蒼桐・景継(月下の放浪者・e36559)
根住・透子(炎熱の禍太刀の担い手・e44088)

■リプレイ

 ゴワァァァァァン……ゴワァァァァァン……ゴワァァァァァン……!
 銅鑼の音が響く築地の路地裏。空を騒がしく泳ぐマグロやカジキの群れを仰ぎ見つつ、アガウエーは疾駆していた。両手首に刻まれた、赤く点滅する炎めいた紋様を見下ろして舌打ちをする。
(魚共が動いている。これは……突破されたわね。しかも下僕達も戦闘中)
 面を上げ、足を速める。パンプスのヒールに火を点し、暗がりを滑るように移動。
(鬱陶しい。儀式さえ完遂できればあんな犬共、根絶やしにできるものを……!)
 チリチリと火の粉をまき散らし、憎々しげに顔を歪めるアガウエー。直後、彼女はふと足を止めた。前方の道をふさぐ、八つの人影と一輪バイク。加えて、どこからか現れた人影がアガウエーの背後をふさぐように立ち並ぶ。静まり返る築地の真ん中で、アガウエーは剣呑な視線を巡らせた。
「どちら様、なんて……聞くまでもなさそうね? お客様は私の下僕がお相手しているはずだけど」
 殺気立つアガウエーを影のある瞳で見据え、リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)が言い捨てる。
「外周とリビングデッドは、別のチームが対処している」
「おかげさまで、俺達は後顧の憂い無くアンタに遊んでもらえるって寸法でな。持つべきは頼りになるダチだよな?」
 右手でコインをもてあそびながら、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は軽く笑った。不快そうに鼻を鳴らすアガウエー。
「無粋ね。残念だけど、貴方達と遊んでいる時間は無いの」
「まぁそう言ってくれるなよ。こっちは全員、やる気なんだぜ?」
 その場の全員が武器を抜く。抜き身の切っ先をアガウエーに向けながら、蒼桐・景継(月下の放浪者・e36559)が音声を張る。
「名乗らせて頂こう。……遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも身よ! 我こそは月下抜刀流、蒼桐・景継!」
「どうも、シマツです」
 ぺこりとお辞儀したシマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)が面を上げた。中性的な面貌に張りつく満面の笑み!
「では、死んでもらいますね」
「0点。作法がまるでなっていわ」
 瞬間、アガウエーを火柱が包む! 轟とうなる紅焔が天を突き、ばらまかれた大量の火炎弾が滞空。無数の火の玉は虚空で炎の剣と化し、先端を半包囲するケルベロス全員に突きつけられた! 炎の中でアガウエーは鋭く叫ぶ!
「死んで出直してきなさいな!」
 全方位に飛ぶ火炎剣の流星群! 背中に後光を顕現させた天崎・ケイ(地球人の光輪拳士・e00355)は両手を合わせ足元を打つ。八人と一台の前に生えた金色の壁で炎剣を防御しながら、ケイは肩越しに合図!
「シマツさん、ロージーさん!」
「了解しました。ではロージーさん、増やしますね」
「はいっ!」
 シマツの掲げる禍々しい巨腕が万華鏡めいた光を放出し、光の翼を広げて飛翔したロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)を照らし出す。分身するロージーが歌い始めると同時に、泰孝のジャンクアームに支えられていたケイの壁が破られ炎が押し寄せた。津波じみた炎の波動を弾き飛ばすアップテンポのポップサウンド。赤い火の粉の中を飛び出した根住・透子(炎熱の禍太刀の担い手・e44088)は白金色の鞘を抜き、長大な野太刀の刃に蒼炎を灯す!
「行きますっ!」
 アガウエーに疾駆して斬りかかる透子! 両手に炎の湾刀を生み出したアガウエーは上段斬撃を片手で受け止め、一回転して逆の剣で跳ね上げる。その懐に居合い斬の構えで景継が踏み込んだ。
「!」
「月下抜刀流一ノ太刀……花鳥一閃!」
 鋭い抜き打ちが空を裂く。剣閃をバク宙で回避して着地するアガウエーの前後から刀を携え透子と景継が挟撃し、高速の斬撃ラッシュで勝負を挑む! だがアガウエーは踊るように回りながらこれらを炎の湾刀でいなし、回転斬撃で二人を弾いた。手裏剣じみて投擲される二本の炎刀! 景継はブリッジで回避し、透子は刀身で防御する。
「ヌゥッ……!」
「くっ! リノンさん、今です!」
 直後、アガウエーの足から腕型の影が螺旋を描くように這い上がり、彼女の喉笛に食いついた。顔を歪めるアガウエーを遠目に、足元から影を伸ばしたリノンは片膝立ちの姿勢で呟く。
「何よこれは……!?」
「行け」
 アガウエーの頭上を照らす紅蓮の炎! 燃える鉄塊剣を振り上げた旋堂・竜華(華炎の竜姫・e12108)はしっとりと微笑した。
「ごきげんよう……さぁ、一時の逢瀬楽しみましょう! 舞い踊れ、炎の華ッ!」
 渾身の力でもって振り下ろされる炎の大剣。歯噛みしたアガウエーは両手の湾刀を火球に変えて爆発させた。影が千切れ、片眉を上げるリノン。炎の渦に斬り込まれた竜華の刃を、アガウエーは右手一本で受け止める! 竜華は目を見開いた。
「……!」
「ぬるい炎ね。もっと熱ければ相手する気も多少は起きたでしょうに!」
 大剣を覆う炎がアガウエーの右手に収束し、腕から肩を流れて左腕に燃え移る。生み出された大振りな炎剣の刺突を、割り込んだケイのクロスガードが食い止めた。黒衣の両腕を焼かれながら、ケイはアガウエーをにらむ。
「屈しませんよ……この程度ではッ!」
「下がりなお二人さん!」
 回転しながら飛んだコインがアガウエーの眉間にヒット! 彼女が怯んだ隙に飛び退る竜華とケイに代わって跳躍した泰孝は跳ね上がったコインを手の甲に乗せて不敵に笑った。眉間に触れたアガウエーは憤激の形相!
「表だ」
「……無礼極まるわね。先に焼き殺してあげるッ!」
「そいつは御免被るぜ!」
 泰孝の投げた蒼光のトランプとアガウエーが投げた炎の剣が空中ですれ違う。アガウエーがトランプをキャッチする一方、炎の剣は泰孝の前で巨大なカード状のバリアに阻まれた。
「ガキみてえなお遊びで悪ぃがな、これがちっとばかし厄介でよ」
「小細工を……!」
 苛立つアガウエーは突如振り返り、飛来してきた蒼炎の弾丸をつかみ取った。それを手の中で剣に変え、透子が連続で発射する火炎弾を流れるように全て斬り裂いて跳躍!
「おっと!」
 泰孝がカード型バリアを蹴って跳び下がるが構わず、アガウエーは阻まれたままの長剣を手にして回転しながら流星めいて斜めに落下! 駆けこんで来る竜華と斬り結び、死角から滑り込んで来た景継の剣を後ろ手に回した炎剣でガード。その場でステップを踏み、景継を袈裟掛けに斬って竜華の腹部にバックキックを打ち込んだ彼女は、一輪バイクの銃撃を後方ジャンプでかわす。アガウエーの黒いドレスを太陽じみた光が包み、四方八方に放たれた火炎弾が炎剣と化した!
「燃えなさい!」
 再度放たれる炎剣の雨が八人と一台を飲み込んで連鎖爆発! ビッグバンじみた爆撃が続き、極太の火柱が天を突く! 激しい熱波に煽られながら着地したアガウエーし、炎を眺めるアガウエーに向かって爆炎の中からリノンが飛び出す。顔の右半分を火傷に覆われながらも漆黒の大鎌を手に回転、チャクラムめいて投擲! 大気を裂いて飛来する鎌を炎刀の斬り上げで逸らしたアガウエーの前でリノンは十指を地面に触れさせる。炎を背に濃くなった影がうごめいた。
「掴まえろ」
 アガウエーめがけて影が伸び、枝分かれしながら立体化する。大蛇の群れめいて襲いかかる腕の影を踊るような動きで斬り払う死神に、上空から降って来た八本の赤鎖が絡みついた。鎖の先、大剣に業火を燃やした竜華が微笑する。
「全力で行きます。貴女の炎舞と私の華炎……どちらが上か比べるとしましょう!」
 鎖に引かれて垂直落下! 大上段から振り下ろされた大剣がアガウエーの掲げた炎刀と激突し爆炎の大華を築地に開いた。紅蓮の火の華を挟んで向かい合う二人。熱気高ぶる鍔迫り合いの中、爪先をアスファルトに埋め込んだアガウエーが力尽くで押しきる!
「ふんっ!」
 火の華が爆ぜ散り、弾き飛ばされる竜華! 素早い剣閃で鎖を断ち切るアガウエーに、今度は吹雪が吹き寄せた。振りかぶった禍々しい巨腕に白い竜巻をまとわせたシマツは野球投手じみて巨腕を引き絞る。
「凍死させます」
 踏み込み、突き出された吹雪の腕が一直線に伸長してアガウエーに迫った。炎舞の死神は軽く跳躍して拳を回避し、炎の二刀流を解かないまま車輪めいて高速回転! 伸びきったシマツの腕を斬り裂きながら一気に距離を詰めていくが、シマツは巨腕をパージしてバックジャンプする。腕を斬り抜いたアガウエーはシマツに二刀を投擲! 手裏剣じみて回転する炎の剣が彼女の両脇腹をさばいて後方に抜けた。
「……っ」
「シマツさんっ!」
 大火傷を負ったロージーが周囲に白翼のついたスピーカー型ドローンを複数呼び出し、澄み切った声で歌い出す。虹色の音波が戦場を横断するのも構わず疾駆したアガウエーはシマツに跳躍! 新たな剣を生み出して襲い掛かる彼女の前に後光を背負って割り込んだケイが、半ば炭化した両腕でハサミの如き二刀斬撃を受け止めた。立てた二本腕に光を流し、拮抗!
「なんの……これしきッ……!」
 口の端を歪めたアガウエーは刃を引っ込めケイの側頭部を蹴った! 背後のシマツが大きく距離を取ったのを見、着地。そこに蒼炎燃ゆる大太刀を振りかぶった透子が走る。焼け焦げたコートが外れ、代わりに蒼い炎が彼女を包んだ。
「お願い、劫火!」
 蒼炎を膨らませた透子はアガウエーに斬りかかる! 舌打ちしたアガウエーは二刀を構えて全速力で放たれる斬撃の全てを迎え撃った。飛び散る赤と青の火の粉が周囲を照らしたその時、いななくエンジン音! 赤熱した体にムチ打った景継は透子の剣を跳ね上げたアガウエーの前に割り込み、透子を庇って両手を広げる!
「シッ!」
「グヌッ!」
 景継の胸がX字に裂けた。仰向けに倒れながら景継はモノアイを点滅させた。
「斬れッ……!」
「っ、たああああああッ!」
 大きく跳躍した透子が太刀を振り抜く。攻撃後の隙を見せたアガウエーを蒼い光が照らし出した。
「灰燼焔薙ッ!」
 黒いドレスを斜めに引き裂く一撃! 奥歯を噛み潰したアガウエーは傷口に張りつく蒼炎をつかんで引きはがし、透子のそれに似た太刀を形成。刺突を放った!
「はあッ!」
 透子の腹部を刃が貫通! 柄を握って炎刀もろとも彼女投げ飛ばしたアガウエーは頬を伝う冷や汗をぬぐい、焦燥と憤怒に燃やした目で広範囲に熱波を放出した。
「いい加減、貴女達には付き合いきれないわ。これで終わりにしてあげるッ!」
 八人の上下に炎が流れ、天地を炎の剣が埋め尽くす。
「死になさいッ! 灰も残らずッ!」
 アガウエーが両手を突き出すと同時に天の炎剣達が一斉に落ち、地の炎剣と混ざり合って大規模な火の海を暴発させた。轟とうなる炎がうねり、渦巻き、巨大な剣の形を墓標めいて突き上げる。煌々とそびえるそれを見上げるアガウエーの目に、縦一直線の銀閃が走った。炎の大海を左右に別った景継が、剣を振り下ろした姿勢で停止。
「な……」
 炎を割る金色の壁! 両手を左右に伸ばしたケイが倒れかけながらも踏ん張り、泰孝は溶けたアイスのようになったジャンクアームから生やした剣になけなしの光を灯す。スピーカーをありったけ召喚したロージーはガラガラに枯れた声を張る!
「お願い、しますッ……!」
「すまない」
 一言告げたリノンが焦げ切った腕で大鎌を投擲! それを斬り払ったアガウエーはつかみかかる影の手を順に斬り捨てていく!
「芸が無いわね!」
「そうでもありませんよ」
 空を仰ぐアガウエーの真上、焼けた背中をさらしたシマツがリノンの大鎌を手に振りかぶり、刃に風をまとわせた。
「斬り裂きますね」
 振り下ろされた鎌から発射された風の刃がアガウエーの半身を深く斬り裂く! 目を見開いたアガウエーの手が止まり、影の手が四肢や首に絡みついた。全身に炎をみなぎらせて突撃していく竜華と透子!
「竜華さん!」
「はい。身を焦がしなさい、私の焔。炎舞より、熱く!」
 紅蒼二色に燃え上がる長大な刃が、一緒になってアガウエーの身を撃ち抜いた。渾身の力で薙ぎ払う!
『はぁぁぁぁッ!』
「ぐっ、は……がぁッ!」
 二本の剣が死神に血反吐を吐かせ、遥か後方まで吹き飛ばした。胸を押さえながらもギリギリで着地したアガウエーの一瞬の隙をついて踏み入った小柄な人影が、重い拳を叩きこむ。たたらを踏むアガウエーに殺到するいくつもの影。拳打や銃撃、魔法陣、溶岩を浴びせかけられながらも炎をまき散らす死神を遠目に、身を起こした竜華は半目で呟いた。
「……美味しいところ、取られてしまったようですね」
「だな。ハーッ……熱ィ。フォールド」
 大きな溜め息を吐き、泰孝は大の字になって倒れ込む。その隣、うつ伏せで荒い息をついていたケイが、体からブスブスと黒煙を上げながら言った。
「すみません、皆さん。助かり、ました……はぁ、私一人の防陣では、どうにも……」
「ケイさん……!」
 全身焼けただれたロージーがケイに駆け寄り、新たに呼び出したドローンの音波を浴びせる。流れ出す優しい音色の曲を聞きながら、泰孝は斬り下ろしの姿勢で停止した景継に声をかけた。
「なあ、蒼桐の旦那。生きてんのか」
「ム、グ……」
 モノアイが点滅し、青い光を取り戻す。顔を上げた景継は周囲を見回した。
「……敵は」
「取られちまったよ。アンタが立ったまま気絶してる間にな。ツイてねえ」
「そうか……」
 応え、ぎこちなくあぐらをかく景継。シマツは変わらぬ笑顔を張りつけたまま、口を挟む。
「痛打は与えました。アガウエーが倒れるのは時間の問題です。後は任せましょう」
 太刀を抱え、ぺたんと座ったまま透子が表情を曇らせる。彼女に目を合わせず、リノンは言った。
「気に病むな。死ななければ良い。次がある」
「……はい」
 沈んだ表情で頷く透子。遠くでは胸を貫かれ、血を吐いたアガウエーの輪郭がほどけ、灰の如く崩壊していった。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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