東京六芒星決戦~至重

作者:志羽

●東京六芒星決戦
 クロム・レック・ファクトリアの撃破と、ディザスター・キングの撃破。
 これは戦果として上々であり、また次の戦いへ続くものなのだと夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は紡いだ。
 そしてアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)、阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)が警戒にあたっていた事により死神の大規模儀式が行われる事が判明したのだ。
「最近多発していた死神による事件が集約された大儀式……都内の六ケ所で同時に儀式が行われる、つまり『ヘキサグラムの儀式』なんだ」
 儀式が行われるのは『築地市場』『豊洲市場』『国際展示場』『お台場』『レインボーブリッジ』『東京タワー』の六ケ所。
 この六ケ所は丁度、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点になる場所。
「今回の事件では戦闘力強化型の下級死神。死神流星雨事件の竜牙兵に似せた死神、それから死神によって生み出された屍隷兵に加えて、第四王女レリ直属の軍団も加わってるみたいなんだ」
 それから、とイチは言う。
 竜十字島のドラゴン勢力の蠢動も確認され、デウスエクス全体を巻き込んだ大きな作戦であると想定されると続けた。
「もちろん、こんな儀式を放っておけるわけがなくて。皆には判明した儀式の一つに攻め入ってほしいんだ」
 六つの儀式は全て阻止しなければならない。つまり、それぞれの場所に十分な戦力を配置する必要がある。
 儀式上の外縁部には数百体の戦闘力強化型の下級死神、ブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノスが回遊しており、儀式場への侵入者を阻止しようとしている。
 レインボーブリッジの儀式場のみ、外縁部の防衛戦力が、第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵だ。
 儀式を行っているネレイデス幹部は、築地市場に『巨狼の死神』プサマテー。
 豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ。
 国際展示場に『名誉の死神』クレイオー。
 お台場に『宝冠の死神』ハリメーデー。
 レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア。
 東京タワーに『宵星の死神』マイラ。
 このネレイデス幹部は、儀式を行う事に集中しており、少しでもダメージを被ると、儀式を維持する事はできないようだ。
「つまり、外縁部の敵を突破、儀式中心部に到達し、ネレイデス幹部にダメージを与える事が出来れば、作戦は成功」
 ただ、とイチは言葉続ける。
 儀式が中断された場合、ネレイデス幹部は作戦の失敗を悟り、撤退を開始する。
 儀式中断の7分後、生き残っていた死神戦力は全て撤退してしまうので、幹部の撃破を目指す場合はこの間に撃破しなければならない。
「けど、ネレイデス幹部は強敵だし、儀式上内部ではあちらの戦闘力が強化される。単独チームの戦力では……為すのは難しい。それに周囲に護衛の戦力が残っていたり、外縁部の戦力が増援として殺到している、なんて状況なら幹部の撃破は更に困難だよね」
 状況によっては儀式を中断させた後は戦闘せず撤退を優先、とうのも考えの内に入れておいて欲しいとイチは言う。
 ただ、ネレイデス幹部が多数生き残った場合、今回のような大儀式を再び引き起こす危険性もあるので可能な限り、討ち取ってほしいと言葉は続く。
「けど、何をするかを決めるのは戦いに行く皆だからね」
 最終的には信じて任せるよと言って、イチは敵についての詳細を告げる。
 外縁部には数百体とう大戦力が展開しているが『侵入者の阻止』を目的としている為、儀式場周囲の全周を警戒しており、突破する際に戦うのは数体から10体程度となる。
 白百合騎士団一般兵は、3名程度の小隊での警戒を行っているので、突破する際に戦うのは3体或いは6体程度だ。
 また、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外。
 ただ、全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が儀式場内に雪崩れ込み増援となる場合があるので、その点は注意が必要となる。
「次に対するのは、儀式場内部の敵について」
 築地市場の戦場には、『炎舞の死神』アガウエーがおり、数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』が護衛としている。
 豊洲市場の戦場には、『暗礁の死神』ケートーがおり、数十体の屍隷兵『ウツシ』が同じく護衛として。
 国際展示場の戦場には、『無垢の死神』イアイラがおり、数十体の屍隷兵『寂しいティニー』が同じように。
 お台場の戦場には、星屑集めのティフォナがおり、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体。
 レインボーブリッジには、第四王女レリがおり、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と、十体程度の白百合騎士団一般兵。
 東京タワーには、『黒雨の死神』ドーリスがおり、アメフラシと呼ばれる下級死神を数十体を連れている。
「儀式を阻止するだけなら、護衛を全て相手取る必要は無いんだけど。幹部撃破を目指すなら護衛を撃破、或いは幹部から引き離す必要があるよ」
 幹部の撃破を目指すかどうかは儀式上に向かう戦力、戦場の状況を見つつ判断してほしいとのこと。
 そして作戦を行うのは昼。天候は雨ではなくこの時期の平均的な気温と、その日についてイチは補足した。
「一応、周辺の市民には避難してもらってるからね。今回の大規模儀式を成功させるわけにはいかない。だから、何を一番とするか定めて、できることをしてきてほしいんだ」
 戦いの状況により、どうするのか――そういった事も含めて、託すよとイチは締めくくった。


参加者
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
天矢・恵(武装花屋・e01330)
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)
狗上・士浪(天狼・e01564)
スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)
阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)

■リプレイ

●道を開き
 この先に進まねば敵の元にもたどり着けない。
 儀式の行われている場所へ向かう為、第一波たる三班が切り込んだ瞬間、外縁部に混乱が起きる。
 敵の中に入ってすぐ、スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)はドローン達を生み出し仲間達の盾へ。
 そしてスヴァリンには箱竜のイージスが己の属性を贈る。
 この先にいるのは強大な相手――それでも仲間を護りきるとスヴァリンは誓って、笑顔を絶やさない。
「お?」
 と、スヴァリンの身の上に、前衛の仲間達の身の上に蒼く燃える翼の加護が降り注ぐ。
「加護の翼、蒼き焔を纏って、ここに」
 加護を送る朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)には、箱竜のハコから耐性を。
 この戦いも、誰も倒れさせない。その為に自身も倒れないと結は固く誓っていた。
 それは己の、癒し手を選んだ自分の矜持だからだ。
 リティア・エルフィウム(白花・e00971)の声に応じて箱竜のエルレはくるりと身を翻す。
「こうも多いと……進むのも大変」
 リティアは炎弾を放ちながらも動く。それは味方に向かう攻撃を目にしたからだ。
 エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)へと向かうそれをリティアが受ける。
「ありがと。守りの固い敵は私が叩きます!」
 エステルは礼を紡ぎ、迫る敵へと月斧を掲げた。
「喰らえ!」
 味方に向ける言葉とは逆の苛烈さを以てエステルは力の限り振り下ろす。
 他方で狗上・士浪(天狼・e01564)は竜鎚より砲弾を放つ。
「6箇所同時たぁ……。まぁ、全国規模じゃねぇだけマシか」
 呟く士浪の視界の端に信頼する仲間の姿。
「おう、ヒコ。もっと派手にやらなくていいのか?」
「そっちこそ」
 疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)は士浪の軽口に応え、目の前の敵を銀縷纏う手で殴り飛ばした。
「今日は如意棒ねぇから足場にゃなれなくて悪いな」
 すると、士浪は問題ないと口端上げる。
「必要なときは背中借りる」
 そう言って次の敵へ向かう背は頼もしくある。
 多くの敵の中、自身の火力の低さを認識している阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)は仲間の攻撃当たりやすくするよう援護兼ねた攻撃をかける。
 これだけの下準備をして、これだけの大規模な儀式――一体、死神は何を目論んでいるのか。
「下から数えた方が早いくらいだけど、私だってケルベロスの端くれなんだから!」
 分からないことだらけだけど、止めなきゃいけないって事だけはわかる、と櫻は己の力を振るう。
「次の部隊が遅れている。10分か15分……必ず次は来る、持ち応えてくれ」
 敵軍を氷の中に閉ざしながら、さらに味方が続くかのように天矢・恵(武装花屋・e01330)は声をあげる。それは敵を惑わす為の言葉だ。
 外縁部へと第二波、そして第三波も続く。
 第三波には苦しい戦いを強いることになる。外縁部が崩れた場合の対策も立ててはいたが、そこで戦う仲間達が為してくれると信じて前に進むのみ。
 そして、進んだ先には新たな敵の姿があった。

●敵影の端
 ここからは敵の掌の上ともいえる場所。儀式場を守る縛炎隷兵との遭遇はすぐだった。
「揺蕩う光よ、天駆ける風となりて その身に力を宿しましょう」
 リティアが謳えば、白い光が周囲を照らし清浄の風があたりを包み込む。優しき風に撫でられ、前列の仲間達の意識は冴え研ぎ澄まされる。
「ヒコさんはエルレに撫でてもらってくださいね」
 エルレはヒコへと己の属性を分ければ、笑って。
「撫でられた分は働くぜ。錦、出番だ」
 ヒコの魔力を貰い、その手の杖は形を変え、とんとヒコ自身を蹴って敵へ向かう。
 闇色の鎖を躍らせ、結は仲間達を守りながら癒しを。その分の攻撃はハコが担っている。
「回復の手伝いは?」
「今のところ一人で大丈夫だよ!」
「オッケー!」
 結の返事にスヴァリンはイージスと共に動く。
 敵からの攻撃を防ぐように立って、仲間達を守る。イージスも回復を行いながらそれを支えていた。
 次から次へと、敵は現れてくる。
「攻撃の起点を作る。これくらいなら私にだって」
 走り込む櫻の足には流星の煌めきと重力の力。それを喰らった相手の動きの精度は落ちる。
 やり辛い相手だと思うのは、屍隷兵相手だからだ。
 介入が間に合っていれば、と士浪は思案する。その一方で、犠牲の増大を防ぐ為、今を戦い抜く必要があるとも理解している。
 だから、思う所は有れど躊躇せず相対できる。
 放ったエネルギー光弾の中に消えていく姿。それを目に僅かに眉寄って。
「……済まねえな」
 零れた言葉は戦いの喧騒に紛れた。
「次から次へと沸いてくる……」
 恵も迫りくる敵へ簒奪者の鎌向け、その首筋を捕らえ命刈り取った。
 エステルもまた別の敵へと魔法光線放ち攻撃を。
 だが、こう敵が多くては受ける痛手をゼロにすることはできない。
 それをわかっているからこそ結は回復に徹していた。それぞれの様子を見て、その時々にあった回復を。
 そして『炎舞の死神』アガウエーが邪魔をするべく動き始めた様子。
 しかし対するのは自分達ではない。
 相手と定めて動く第二波の班が入り込んだ。彼等の向こうで火焔が踊り激しい戦い始まり、包囲完了までおよそ2分――目に見えて明らかな、戦場の変化があった。
 そのことに気付いた櫻は声をあげる。
「分断成功よ! 行きましょう!」
 櫻の声にエステルは周囲を見て一番敵の薄い場所を指示した。
「! 天矢さん!」
「ああ」
 声かければ恵も同じ方向を見定めていた様子。
 その助けとなるように士浪も援護する。
「とびきり凍えるモンをくれてやる……縛れ!」
 とんと地に掌つければ、進む方向へと凄まじい冷気が迸り、一瞬のうちの凍結。
 残る敵へと二人続けて攻撃叩き込み、目の前に道を作ったのだ。
 もう一方の班も今だとばかりに動いている。
 作り上げた隙間から儀式を行っている『巨狼の死神』プサマテーの方へ。
 だが、ここは敵の渦中――行かせはしないと縛炎隷兵が迫ってきた。
 遠慮ない攻撃、その一端が迫るのを結は目にした。
 しかし届きはしない。
「雑魚共が! こんなもんで、オレの後ろに攻撃を通せると思うなよ!」
 響く声は大きく、強く。
 縛炎隷兵は引き受けたとその場を受け持った仲間達に後を託し一行は儀式場、巨狼の死神の元へと辿り着いた。

●巨狼の死神
 儀式中の死神。その傍らにいた狼が来訪者の気配に顔を上げた。
 ざっと滑るように足を止めた瞬間、士浪は長大な銃身を死神に向け光弾を射出した。他方から喚ばれた御業が攻撃を為す。
 その攻撃は死神を撃ち、その意識をこちらへ引き戻す。
 そこへ攻撃がさらに続くのだが――狼が、死神の前へと飛び出した。
 その姿を目にした後、攻撃が衝突し爆煙が立つ。
「あれで片付く相手じゃ、ないよね」
 スヴァリンが零すとイージスが一声鳴いて肯定する。
 そして煙が収まり、狼と死神の姿が現れる。
「ケルベロス……! 馬鹿な、ここまで来るとは……」
 死神は思わずというように声零す。が、構えさせる時間は作らせない。
「儀式ってのは僅かでも狂うと失敗なんだよな」
 その精密さは俺もよくと知ってるぜ、とヒコは笑い氷の騎士を召喚した。
 知っているからこそ遠慮なく破壊と妨害の限りを。騎士の突撃は身を凍らせていく。
 と、狼が遠吠えと共に影を放った。影は狼の形をとり前衛へと襲い掛かる。
 その牙は石の様にその身を硬直させるものだ。
 恵の前にリティアは立ち、牙受ける。噛まれた場所は重く、鈍い。
 それはエステルを庇ったスヴァリンも同じようだ。
 そして――死神も動く。
「何故だ。約束の時間は過ぎている。一度交わした約定を、お前が裏切るはずがない。何故来ない……ディザスター・キング!」
 死神が杖を掲げれば閃光放たれる。それは前衛を貫き走り、影狼の牙が齎した阻害を一層重くしていく。
「狼は、僕たちが! そっちは本体をお願い!」
「死神は任せて!」
 紅い髪の少女の声も結が答え口火を切る。
 それぞれ一体ずつ受け持つ――それは必然の流れだろう。
「私の痛みを思い知れ!」
 一番に動いたのはエステル。
 満月の形に似たエネルギー光球。それにはエステルの、痛みを根源とする憎悪と拒絶が詰まっている。それは光球の目を背けたくなるような暗い色にも表れていた。
 それを、エステルは強く睨み付け放る。死神の身の上で弾けたそれは、わずかながらに死神の癒しの力を奪っていく。
 続けて後方から士浪が振り下ろした竜鎚よりの竜砲撃が死神を撃つ。
 狙えば、当たるだろうかというところ。
 櫻は己の力信じて凍結光線を撃ち放ち死神の身を凍らせていく。
「十二創神と会いてぇのか。会わせてやるぜ――あの世でな」
 七手で討伐する、と死神の懐へ走り込んだ恵はその腹へと銃身の先を。放たれた凍結光線が一層固く凍てつかせた。
「加護の翼、蒼き焔を纏って、ここに――ヒコさん!」
 石化は強力な阻害だ。結はそれを解くべく自らのグラビティを蒼く燃える翼に変えていく。
 が、石化は強力で死神の力も厄介なもの。全て癒しきれないと踏んで助力を。
 ヒコは頷いて、前衛達の上へオーロラを招いた。
 敵の攻撃で受けた石化は重ねられた癒しで和らいで行く。
「石化って厄介だね。尚更、皆を守らなきゃ」
 スヴァリンは向けられた回復に礼を言って竜砲弾を叩き込む。
「攻撃は出来るだけ、庇ってみせます」
 リティアは自分が倒れても仲間は守ると、守るためにも倒れないと心に抱いて、狙い定めて放った時空凍結弾は死神を捕らえ凍てついた。
「なるほど。キングはここに来られないほどの状況に追い込まれたということか……」
 わずかの間に死神は状況を理解していた。
 再び杖を掲げ前衛に向けて閃光を放った。
 戦場に満ちる閃光は狼による石化をさらに加速させるためのもの。
「各ドローン同期完了、モード:リペア アクティブ。自陣の損傷、障害を速やかにクリアせよ……回復いっちゃうよー?」
 その攻撃を受けてすぐ、スヴァリンは紡ぐ。
 回復機能備えたドローンが頭上に上に展開し、淡い色を照射し傷を癒していく。
「紳士たる者、仲間の傷は直ぐに治さないとね!」
 これで動きやすくなるよねとスヴァリンは笑み浮かべる。
 敵からの攻撃は重い。
 しかしこうして仲間の助けがある限り立っていられる。
 意識は絶対に飛ばさない。そして手も止めないと恵は時空凍結弾を撃ち込む。
 続けて他方からエステルが熱奪う凍結光線を打ち込んだ。
 ナイフの刀身に映るものは、何なのか――死神を苛むものをリティアは切りつけ、意識の一端を捕らえる。
 続けて、エルレも攻撃をかけリティアの傍へ舞い戻る。
 死神が募る攻撃に歯噛みするが避ける暇なく士浪からも光線が。
 皆の力を合わせ、死神の身に幾重にも阻害を駆けて行く。
 そしてそれの影響を広げるのはヒコのすべきことだった。
「――……もう、逃がしてやらねえよ」
 模した折紙に鈴音ひとつ、ふたつ。祝詞に呪式、祷を籠めれば本物相違無い蜘蛛達が仮初の命を得て動き出す。
 其のすべては御神の為に、贄の為たる一糸が踊る。
 こうして死神に集中していられるのも狼を引き受けている者達がいるからだ。
 死神への攻撃は確実に募っている。しかし、簡単に倒せる相手ではないのもまた変わりなかった。

●結末
 死神が杖を振るえば狼をオリーブの葉が包んでいく。
 積極的な攻撃は二度、狼の回復もこれで二度目だ。
「あと少しの間……」
 死神はケルベロス達を倒そうと思っていない。自身が倒れなければ勝ちだと知っているのだ。
 狼が守り、戦い、死神は癒す。耐える戦いの布陣を崩すには、死神の力を落すのも一手の内。
 攻撃を受けながらも余裕が見て取れる様子に厳しい視線を向けながらエステルは再び、己の憎悪と拒絶を籠めて光球を生み出す。
「これで少しでも邪魔できれば……!」
 今、出来る事をするだけとイージスも攻撃に加わり、スヴァリンの放った凍結光線と並び突撃する。
「攻撃されない分負担もないけど……」
 このままじゃ逃げられる、とスヴァリンは思うが口にはしない。
「まだ余裕ありか……いや」
 戦いの流れが直に変わる、とヒコは感じながら錦を放つ。
 その切っ掛けは傍らの戦い。
「時を稼げ、我がしもべ……!」
 死神の小さな囁き。だがそれはかなう事なかったのだ。狼へと掛っていた仲間達が僅かの差でその力を削りきる。
 それは大きな状況の変化。5分のアラームが鳴った時だ。
 続けて、今まで狼と対していた者達からの攻撃が叩き込まれ、死神はそれを受けるしかない。
「っ!? まさか……倒すなど!」
 狼が倒れる姿を目にした死神は動揺を露にしていた。
 しかしすぐさま、自身をオリーブの葉で包み癒していく。
 だが自身を癒しても、今まで募った傷のすべてを癒し切れるわけもない。
 傷を癒されるより先に。こちらも傷を癒すより、攻撃一辺倒。
 そうすれば死神を仕留める目も出る可能性がある――そんな局面。
 重い攻撃を、とエステルは走り込む。
「食いちぎってあげる!」
 一瞬引きずった月斧が跳ね、跳躍した反動も共に、ただ振り下ろすだけ。
 それは死神の肩口あたりを削いで、深手となる。
 その傷は熱持つ痛み。士浪が放った凍結光線はその熱を奪い、癒すことなく凍らせ一層の痛手を負わせた。
「イージス、行っくよー!」
 スヴァリンも竜砲弾を放ち、イージスも続く。
「もう仕舞にしようぜ」
 懐に踏み込んで、主が為に堅牢なる銀花咲かせたその腕でヒコは力の限りの一撃を見舞う。
「ハコ! 私達も!」
 そこへ間髪入れずハコがブレスを向け、結は喰らい付くオーラの弾丸を。
「エルレ!」
 リティアは己のオラトリオとしての力を向け凍結弾を撃ち放つ後に、エルレも一声ないて突撃する。
「石化の力は貴女だけのものではないわ! ほら、私を視なさい!」
 それは強い執着心の具現化。櫻は重ね、死神の瞳を覗き込み捕らえた。
「Look at me! Look at me! Look at me!」
 視線に射抜かれ、死神の動きが固まる。
 そこへ、恵が向かう。
「神は死んだ。甦らせてもそれはもう神じゃねぇ、それでも呼ぶのか」
 問うように恵は紡ぐが、死神からの答えはない。
 だが呼ぼうとするなら、何度でも阻むだけ。
「これで終わりだ」
 死神の懐に一足、踏み込んて。
 その手にはいずこからか召喚した一振りの刀。
 いつ斬られたのか――神速の一刀が走り抜ける。
「攻撃など届い、て……」
 事切れるのは、一閃の痛みに気付く前に。小さな呟きは響かない。
 死神は引き攣れた吐息零し、身を折ってその場に崩れ落ちた。
 築地の儀式は阻止され、やがて敵は引いていく。
 戦いの終わりに安堵するも、まだどこか不気味な静けさを以て。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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