東京六芒星決戦~死神の六芒星

作者:寅杜柳

●死神動く
「先日の戦いはお疲れさま! クロム・レック・ファクトリアの破壊とディザスター・キングの撃破でダモクレスも大きな痛手を被ったことだろう」
 流石はケルベロス、と雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)が柔らかな表情。 けれどすぐに表情を引き締め直すと、ケルベロス達に語り始める。
「少し休んで鋭気を養って、と言いたかったんだが……アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)達の警戒によって、都内六ケ所で死神が大規模な儀式を行おうとしていることが判明した」
 それは、晴海ふ頭を中心とした六芒星の頂点になる場所で同時に行われる『ヘキサグラムの儀式』。最近の死神による事件が集約された大儀式であり、さらに、
「死神や屍隷兵といった死神の戦力は勿論、エインヘリアルの第四王女レリの直属の軍団も加わっているようだ。更には竜十字島のドラゴン勢力の動きも確認されている」
 デウスエクス全体を巻き込んだ大作戦、そう想定されていると知香は説明する。
「皆には、その儀式場の一つに攻め入って欲しいんだ」
 六ケ所全ての儀式を阻止せねばならず、各地に十分な戦力を配置する必要があるのだと知香は資料を広げながら作戦の説明を開始する。
「儀式場の外縁部には数百体のブルチャーレ・パラミータとメラン・テュンノス、レインボーブリッジのみ第四王女レリ配下の白百合騎士団一般兵が警護しているみたいだ。そして各地で儀式を行っている幹部は……築地市場に『巨狼の死神』プサマテー、豊洲市場に『月光の死神』カリアナッサ、国際展示場に『名誉の死神』クレイオー。そしてお台場に『宝冠の死神』ハリメーデー、レインボーブリッジに『約定の死神』アマテイア、東京タワーに『宵星の死神』マイラだ。そいつらは儀式に集中していて、少しでもダメージを受けると儀式を維持する事はできなくなる」
 つまり、
「外縁部を突破し、儀式中心部に到達して幹部にダメージを与えられれば、作戦は成功だ。儀式が中断された場合、幹部は撤退を開始、その七分後に生き残っていた死神戦力はすべて撤退する」
 幹部の撃破を目指すならその短時間に撃破しなければならないだろうと白熊は言う。
「ただネレイデス幹部は強敵、周囲の護衛や外縁部の戦力の増援がある場合でも厳しくなるだろうし、単独チームの戦力だけでは厳しいだろう。場合によっては儀式中断後、撤退を優先した方がいいかもしれない。……だけど、幹部が多数生き残った場合は今回のような大儀式を再び引き起こす危険性もある」
 知香が資料を捲り、説明は各地の戦力についてに移る。
「外縁部は数百体という大戦力だが、『侵入者の阻止』を目的として儀式場周囲の全周を警戒しているので、突破する際に戦うのは数体から10体程度。白百合騎士団一般兵の場合は3名程度の小隊で警戒しているので、3体或いは6体程度となるだろう。あと、外縁部から脱出しようとする場合は攻撃の対象外となるみたいだ」
 ただ、全てのチームが儀式場に突入し、増援が来ないと判断した場合、外縁部の戦力が儀式場内に増援として雪崩れ込んでくる場合があるので注意した方がいいだろう、と知香が補足する。
「儀式場内部には、ネレイデス幹部を守る護衛役が配されている。築地市場には『炎舞の死神』アガウエーと数十体の屍隷兵『縛炎隷兵』、豊洲市場には『暗礁の死神』ケートーと数十体の屍隷兵『ウツシ』、国際展示場には『無垢の死神』イアイラと数十体の屍隷兵『寂しいティニー』、お台場には星屑集めのティフォナと、死神流星雨を引き起こしていたパイシーズ・コープス十数体がそれぞれ集められ、護衛となっている。レインボーブリッジには第四王女レリがいて、絶影のラリグラス、沸血のギアツィンスといった護衛と十体程度の白百合騎士団一般兵が護っている。最後に、東京タワーには『黒雨の死神』ドーリスとアメフラシと呼ばれる下級死神が数十体護衛として配置されているみたいだ」
 よくもまあこれだけの戦力集めたねえ、とうんざりしたように知香は言う。
「……儀式を阻止するだけならば、護衛を全て相手取る必要は無いが、ネレイデス幹部の撃破を目指す場合は、護衛を撃破するか或いは、ネレイデス幹部から引き離す必要があるだろう。幹部の撃破を目指すかどうかは、儀式場に向かう戦力と、戦場の状況を見つつ、判断して行動してほしい」
 そこまで説明すると知香は資料を閉じ、ケルベロス達の目を見る。
「これまで死神が引き起こしていた数多の事件が、この大儀式に集約されているといって良いだろう。強敵揃いで困難な戦いになるだろうけど……皆ならやれると信じている」
 頼んだぞ、と締め括り、知香はケルベロス達を送り出した。


参加者
キサナ・ドゥ(カースシンガー・e01283)
尾守・夜野(虚構に生きる・e02885)
ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)
中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)
鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)
石狩・和人(静かに燃える急尾の猛狐・e64650)
パシャ・ドラゴネット(ドラゴニアンの心霊治療士・e66054)
ディ・ロック(オウガの光輪拳士・e66977)

■リプレイ

●赤い電波の麓にて
 東京タワー。
 近年は新たに建設された墨田区の方のタワーが話題になる事が多いが、長年シンボルとしてあった風格は健在だ。
「これがla Tour de Tokyo……La Tour Eiffelの妹デスね!」
 故郷フランスの有名な塔を思い出させる東京タワーを見上げ、感激した様子のドワーフはジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)だ。彼女が読んだガイドブックには『東京タワーはエッフェル塔をマネして作った』とあったようだが、眼前の塔はエッフェル塔よりも大きい。
(「東京タワーの方がおねーちゃんより大きゅうなったよネ」)
 そんな事を思いながらも視線を落とせば場にそぐわぬ巨大魚達。
「……恐くない怖くない」
 巨大魚の群を前に、両手で頬をぺちぺちしながら自分で言い聞かせている少年はパシャ・ドラゴネット(ドラゴニアンの心霊治療士・e66054)。 どこもかしこも巨大な鮪と鰹が泳いでいるその光景ではあるが、
「グラビティで底引き網作れたら大漁♪ なんすけどねえ~。放っておくと人を襲いそうだし、数を減らせる時に減らしましょうっす!」
 怯みも気負いも無く普段通りのノリ良いのは中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329) 。
「ここまで大掛かりな戦場も久々だが……まずは目の前の地域をきっちり解放して、都民の皆さんも安心させようぜ!」
 色々考えるのは後回し、白を基調とした聖職服のキサナ・ドゥ(カースシンガー・e01283)が気合を入れる。
「死人に助けて貰うのはいいとしても心とか記憶とか全部消してお人形みたいにする死神さんは許せないのです!」
 憤る尾守・夜野(虚構に生きる・e02885)の言葉に呼応するようにファミリアのシンシアが鳴く。本来の艶やかなピトフーイの色彩は信号弾に間違われぬよう墨色を重ねられているためか、鳴き声はやや不機嫌げだ。
(「儀式を成功したら悲劇がまた起こる。絶対に止めるの」)
 少年の瞳には、悲劇を繰り返させない為の覚悟が宿っている。
「思いっきり大暴れだね!」
 一方で、テンション高く魔斧を握りしめる鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)、彼女の視線の先でくるくるとリボルバーを回すホンドギツネの青年は石狩・和人(静かに燃える急尾の猛狐・e64650)。
「リボルバーを使うのが意外だって? これでもガンスリンガーだからね」
 口調は軽く、けれどその動作は高まる緊張を解すように。
(「大掛かりな儀式をしようとしてるみたいだが……絶対に阻止しなくては!」)
 それが任されたケルベロスとしての仕事、誰一人欠けさせず帰るのだと和人は決意する。
 無言で戦闘へと備えている黒髪黒瞳のオウガはディ・ロック(オウガの光輪拳士・e66977)。
 外縁を確認したが特に数の少ない地点はない。上階へと登ることを考えるなら階段に近い正面玄関が妥当だろう。
 やがて、空を泳ぐ死神達の視線が僅かに逸れる。今こそが好機。
「正面、真っ向から切り開きます!」
 戦闘前の弱気な様子とは変わってドラゴニアンの少年が気合十分に叫ぶ。割り込みヴォイスで確実に他班の仲間へも届かせたそれと同時、ケルベロス達は東京タワーへと駆け出した。

●魚群をこじ開け
「儀式阻止に向かう皆サンが目標達成でけるよに、気張ったるで~!」
「血路を拓く!」
 まずは道を切り開く。ケルベロス達のルートを塞ぐように割り込んできた鮪の構造的弱点へとジジが一撃を見舞い、鞘から抜き放たれた和人の刃が焔を纏い、巨大魚達の急所を灼き斬り裂く。
 さらにパシャの解き放ったオウガ粒子が周囲に展開して感覚を活性化、
「ここで倒せるだけ倒すっすよ!」
 それを受けた憐が突風の如く一息に距離を詰めて勢いを乗せた蹴りを見舞うと同時、夜野が鋼の鬼と化したオウガメタルの拳で殴りつけ、守りを砕く。
 他の班の一斉攻撃もあり、タワー入り口の敵陣が薄くなる。けれど死神達もされるがままではない。
 傷の少ない魚達はそれぞれ突撃を開始、下級とはいえ強化されている事とその巨体から繰り出される破壊力は相当のもの。
 腹部から内臓を捻り出し、さらには卵をばら撒くようにしてケルベロス達の足を止めようとするものの、呼吸を合わせたジジとパシャが食い止める。
 けれどもディの縛霊手から紙兵が散布され、最初の突撃による負傷が癒され、呪縛の多くが解除される。
 一つ深呼吸したキサナが十字架のアリアデバイスから甘い声を戦場に響かせ、さらに赤髪のオラトリオの少女がそれに続く。重ねられた外典の禁歌は魚達の動きを縛り付ける。
 一点突破による力押し、ではある。反撃も相応に厳しいが、内部へ侵入する仲間達を消耗させぬよう動きを縛り、殴り飛ばし、徐々にタワー入り口への道をこじ開けていく。
 そんな中、憐への突撃を受け止めたパシャがよろめく。ここが狙い目と判断したが、鮪と鰹が一体ずつ彼に向けて内臓を触手のようにねじり出し、卵をばら撒き攻撃を重ねる。
 しかし、それは演技。パシャの瞳にはタワー内部へと侵入せんとする仲間達の姿が映っていた。
「そらっ、とっておきだよ!」
 そんな彼に夜野へと霊薬を投擲。パシャの表情が痛みに一瞬顰められるが、その分の効力はあった事を認識し即座にパイルバンカーに凍気を纏わせ反撃にぶち当てる。
「これがケルベロスの真の力っす!」
 それを援護するよう憐の両目に青白い光が宿り、
「くらえケルベロスビィィィーム!」
 極太の光線が彼の両目から発射され、最も近くにいた死神を貫き墜落させる。
 それに構わず追い縋ろうとする巨大魚達に向け、狐の青年がリボルバーからばら撒くように弾丸を放ちその狙いを阻止する。
「こんなところで死ぬつもりはないよ」
 幸運を。和人のその言葉が届くを背に、32名のケルベロス達はタワーへの侵入を果たした。

 ここからは持久戦、内部で仕事を果たしてくれると信じ、それまで魚達が援軍に向かわないようにする事が要となる。
 適宜敵を見つけ倒し、倒されないようにした上で状況に柔軟に対応する、
「――やってやれないことはないさ」
 勝負師でもあるドワーフの歌姫はくひひと笑い、定められた未来からの解放を歌い上げる。複数を巻き込むそれは、数の多い前衛の魚達の火力を減じさせる。
 それに合わせディが手早く地面に鎖で陣を描き、前衛の守りを固める。
 固めた護りを真っ向から砕くような鰹の突撃をジジが食い止め、そのお返しにとナイフが閃く。奪える生命力は守りの堅い相手への傷に比例した為少量であったが、それでも持久戦には大きな助けとなる。
 さらに憐の降魔の拳が追撃を狙うも、死神の鰹はその巨体を空へと躍らせ拳は空を切る。しかし愛奈の放った時空凍結弾がその鰹を逃さず命中、それに続いてスピニングドワーフでジジが切り込むと、和人の抜き撃ちの速射がダメ押し気味に撃ち抜いた。
 また一体撃破する。けれども他の地点を護っていた巨大魚が合流、夜野を捉えんと内臓の触手を伸ばす。点滴台の姿に変化したシンシアを割り込ませるが防ぎきれず、けれどもその尾と同じように暖かそうなローブは締め付ける内臓から夜野を守り、傷を和らげる。
 さらに先程まで交戦していた鮪も速度を上げ愛奈へと突撃。護り手たるパシャが受け止めるが勢いの乗ったそれによる負傷は大きい。それを見て取った愛奈が斧の刃と同化した持ち手から光の盾を飛ばし、守りを固め、「まだ……まだ!」
 故郷の無残な姿、それを見た時の悲しみや苦しみ。あんな言葉にできない想いを誰も味わわせたくない。その強い意志を胸に抱いた少年は、刃と心を一体化させ傷を癒やす。
 さらにキサナが失われた愛しい想いを歌い上げ、魚達に接近戦を仕掛けるケルベロス達に加護を与える。
 一歩引いた所で歌う彼女はあくまで冷静。母の仇である『死神』に対してヒートアップしない為の、自制のためのその立ち位置。
(「そのくらいのことができなきゃ、あの時オレを助けてくれたケルベロスたちにも、そばに居てくれるダーリンにも、合わせる顔がねぇからな」)
 さらにディの阿頼耶識から膨大な光が後衛のケルベロス達に向かって溢れ、光の翼と加護砕きの力を加える。また、彼が散布した紙兵の群れが齎した呪縛への耐性、そして癒し手として回復に専念している彼の行動もあり、数多くの鮪と鰹の群れにも致命的な負傷に繋がるような呪縛の重なりはない。(「このまま戦い続けるのは厳しそう、かな」)
 霊薬をドラゴニアンの少年へと投擲しつつ、金の瞳を細めて夜野は思考する。
 癒し手は二人、必死に回復を行うケルベロス達だが、それ以上に敵の手数と攻撃が激しい。かつ攻撃は前衛に集中しておりダメージが徐々に蓄積されている。
 また、列攻撃を警戒して一列当たりの人数は抑えているが、逆に言えばそれは列回復の対象が減ってしまうことでもある。
 数体撃破しているが、減った分だけ新たな魚達が合流しキリがない。守りを固め敵の行動を縛り、消耗自体を控えめにできていなければもっと危険な状態だっただろう。
 このまま何もしなければ戦線の崩壊も時間の問題だった。

●入れ代わり立ち代わり
 けれど、この戦場にいるのは八人だけではない。
 少し離れた場所では他の八人が巨大魚達と交戦しており、戦況も恐らくはまだ余裕があるように見える。
「あいしゃるりたーん!」
 ならば、と憐が捨て台詞を吐きタワーとは逆方向へと駆け出す。その声を聞いたディも縛霊手から巨大な光弾を放ち、そして仲間達と彼を追いかけ建物の影へと向かう。つまりは一旦退却。
 そして、魚達は追ってこない。一つの班が戦闘を継続しており、またもう一方も完全に撤退したわけでないのだからその侵入を警戒せねばならないのだから。それならば倒れる前に一旦回復の為に退くのも戦術の一つ。
 追手がない事を確認したケルベロス達は戦況を確認しつつ治療に当たる。少しでも早く、傷を直す為に。
 一分一秒でも長く戦うのであれば、ここで治療に集中するのがいい。そう己に言い聞かせ、パシャは逸る心を抑えて自身の治療に集中。護り手の人数が少ない分、負傷はかなり厳しい物となっていた。
「Je touche du bois!」
 そんなパシャに、ジジが武器の木の部分を指で小さくノックしておまじないをかける。上がり調子が続くよう祈るそれによる効果か、彼の瞳に再び闘志が戻る。
「幸運のおまじない、これ大事☆」
 気負いすぎないようにか、ジジが軽く付け加える。
 狐の青年も気合を入れ自己回復に集中している。ここで退かない為に、今やれる事を。
 愛奈もオーロラのような光を降り注がせ仲間の治療に当たっている。
 消耗がもっとひどければ護り手に回る備えもしていた愛奈だが、休憩を挟み回復できるのなら妨害手のままで戦えるだろうと判断。

 そして数分後、治療できる範囲の傷を回復し終えたケルベロス達は再び戦線へと舞い戻る。
「東京タワーよ、俺は帰ってきたっすよ!」
 憐のノリのいい声と彼の放つ旋風の如き蹴りが戦場への帰還の一撃目。
「魅せるぜ、生き様を!!」
「感じな! 肉も機も霊も透き通す、矛盾の声を! ゼノコンシャス・ブレイクダウン!」
 緑瞳の狐の咆哮がキサナの『凶声』が魚群に向けて放射され、巨大魚たちの動きを鈍らせ相反する要素を内包した歌声は破壊と凍結の嵐を巻き起こす。
 さらにパシャが連携して杭に凍気を纏わせ追撃。溜まっていた鬱憤を晴らすかのような強烈な一撃は鮪の胴体深くにねじ込まれ内部から凍結させる。
(「絶対に企みを阻止して、ざまぁみろって笑ってやります!」)
「ボクは諦めが悪くてねぇ。可能性が0じゃないなら例え那由多の果ての可能性だろうと!」
 ファミリアである小鳥――本来のに魔力を纏わせ放った夜野が強気に宣言する。
「君たちに止められるかな?」
 そして戦闘は再開される。

 一時休憩を挟みつつも戦いは続いていた。
 無尽蔵にも思える敵の数だが、休憩を挟むことで比較的安定して戦えている。
 愛奈とキサナの禁歌、そして和人の武器封じ等、敵の手数を減らし弱め、戦線を維持する備えもその一助となっている。
 戦いの中で愛奈の心に祖母から聞いたお話が思い起こされる。
「おばあちゃんが言っていた。『人はいつか必ず死ぬけれど、想いを繋げてくれる人がいれば、生きた証は永遠に続く』って。……そう、お前達がサルベージなんかしなくたって!」
 彼女の瞳に宿りし力が解放される。過去の調停者、冒険で知り合った仲間達をイメージした彼女の口から自然に歌が紡がれ、形を成し、
「我が想う故に、彼らあり。命燃やして生き抜いた瞬間を再び今!」
 歌の終わり、その言葉と同時に彼女の周囲に幻影が現れ死を弄ぶ死神達に突撃する。
 トラウマに苛まされながらも魚達は反撃を続ける。かなり時間は経っており、癒し切れないダメージの重なりも無視しきれなくなっている。
 あと少しもたせる為にディが鎖で本日幾度目かの陣を描いて前衛の守りを固め、さらに深呼吸したキサナがスカイクリーパーを歌い、希望に向かう為の音楽はケルベロス達の傷を癒す。
(「彼らであれば父を呼べるかも」)
 夜野の頭の片隅にそんな考えが浮かぶ。死神であるなら――けれど、聖骸布をぎゅっと握って心の奥底に押し込み蓋をし、ウェアライダーの少年は癒しの風を引き起こす。夜野も癒しの風を起こしもう少し抗う為の力を前衛に呼び起こす。
 一匹の鰹が突撃しようとするが、
「誰も…死なせるものか!」
 その前に和人の目にも止まらぬ速度で放たれた弾丸が鮪の頭に命中、その勢いを減じさせる。が放つ。
 さらに憐のケルベロスビームの二本の光線、パシャの圧縮したエクトプラズムの霊弾が続き、鰹の表面に三つの穴を穿つ。
「Je suis chanceuse!」
 景気よい声と共に、可愛らしい見た目とは逆の禍々しい生命力を奪う鎌でジジが切り裂く。
「俺は……もう振り返らない! この刃は……護る為にあるんだ!!」
 和人の炎を纏った抜刀術の斬撃が深々と斬り裂き、そして。

●危機は去って
 上方から音が響く。ジジと夜野が見上げれば飛び降りる人影がいくつもあり、それは作戦の成功を意味していた。
「やった……俺たちの勝ちだ!!」
 飛び降りてきたケルベロス達の姿を確認し、和人が安堵の声を漏らす。パシャの表情も一瞬柔らかくなった。
 やがて死神の姿は東京タワー周辺から消え失せる。戦の為の歌を終え、キサナがクールダウンするように深呼吸。
「よし、とりあえずは儀式阻止できたね。あたしたちの勝利だ!」
「寿司食べたくなったっすね」
 愛奈の元気な宣言、憐はあくまで平常通り。
「十二創神とは一体……」
 ディの呟きに応える者はいない。
 けれど確実なのは、この地で行われようとしていた儀式は阻止され悲劇は防がれたという事実だろう。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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