11月はまだ秋だ!

作者:あかつき


 とあるショッピングモール一階の服売り場は、十一月に入り冬用のダウンを売り出し始めていた。今日は毎月定期的に行われるセールの日。人々が25%オフのダウンを手に、レジへと向かっていく。その時、正面入り口から爆音が。
「11月はまだ秋……冬物ダウンをセールで買うなど許さぬ! 買うなら秋物の上着を買え!!」
 壊した自動ドアから巻き上がる粉塵の中から現れたビルシャナは、そう叫ぶ。
「そこのお前!! まだ気が早いだろう!! こっちのトレンチコートだ!!」
 ビルシャナはそう言って、手元にあった秋物トレンチコートを持ち、つかつかとダウンを手にする一般人へと近づいていくのだった。


「個人的な主義主張により、ビルシャナ化してしまった人間が、個人的に許せない対象を襲撃する事件が起こるので、解決してほしい。今回のビルシャナの主張としては『11月はまだ秋なので冬物ダウンをセールで買うなど許せない、秋物を買え』という事……らしい。ビルシャナは、今日からセールを行うショッピングモールを襲撃するので、そこに向かい、ビルシャナを倒してくれ」
 雪村・葵は、集まったケルベロス達に、そう言った。
「なお、現在ビルシャナの配下は十人。彼の主張に賛同している一般人が配下となっている。ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下を無力化する事ができるかもしれない。ビルシャナの配下となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加する。また、ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能だが、配下が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるだろう」
 ビルシャナの連れている一般人達は、秋物の季節なのに冬物を買おうというのが許せない、秋はそもそも短いのに冬物を急いで買うなど秋を愚弄しているようなものだ、秋物を安くするならわかるが冬物を安くするなど気が早すぎる、という理由でビルシャナに賛同しているらしい。
「まぁ秋は確かに短いし、秋物上着の出番も短い……しかし、迫り来る冬の寒さの対策をする時期は個人の自由だ。みんな、被害がこれ以上広がらないように、早めに撃破してきて欲しい」
 葵はそう言って、ケルベロス達に頭を下げた。


参加者
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
鹿目・きらり(医師見習い・e45161)
氷狩・シアン(躊躇い無き剣・e64816)

■リプレイ


「11月はまだ秋……冬物ダウンをセールで買うなど許さぬ! 買うなら秋物の上着を買え!!」
 ドゴォォン、と派手な爆音と共に、入り口の扉を壊して現れたビルシャナ。その後ろを続くのは、男子大学生男性四人、中年女性三人と、若いOL三人の、計十名の信者達。
「そうよ、まずは秋物よ! 秋は短いの、それなのに急いで冬物を買うなんて……秋を愚弄しているわ」
 真ん中の中年女性がそう主張すれば、左右の中年女性もうんうんと同意を示す。
「……11月は秋、確かに暦の上では秋なのですよね」
 その様子を冬物の並べられている店内から見つめつつ、鹿目・きらり(医師見習い・e45161)は一歩ずつビルシャナ達へと近付いていく。
「ある意味正論な分、言い返す事が難しそうですね……しかし、そのままにしておく訳にはいきません」
 確固たる意思を口にすれば、横をふわふわと飛んでいるサーヴァントのサターンも同意するようににゃあと鳴く。
「皆さんは避難を」
 突然の事に身動きが出来なくなっていた買い物客達に、氷狩・シアン(躊躇い無き剣・e64816)はそう声を掛ける。隣人力により好印象を与えているシアンの言葉は、説得力を持って買い物客達に届く。
「そ、そうですか……わかりました」
 それを遠目に眺めつつ、どうしたらいいかと迷っている別の買い物客達には、ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が同じように声を掛けた。
「逃げてください。ここは私たちが対処いたしますので」
 ミントの言葉に、彼らは互いに顔を見合わせた後頷いて、その場を立ち去っていく。買い物客が一人、また一人と居なくなっていくフロアで、きらりはすぅ、と小さく息を吸う。そして。
「11月はまだ秋、ですか。でも、秋でも冬服を買っても良いと思います」
 ビルシャナ達の前に立ち、彼らにそう言うきらり。
「何よあなた」
 むす、とした中年女性に、きらりは続ける。
「最近は、天気や気温も安定しませんし、何より東北や北海道の方々は、十一月でも厳しい寒さが待っています。日本全国、何処も十一月は秋という訳ではないと思いますよ」
「そ……そうは言っても、私は東北や北海道に住んだことは無いし……、秋は秋よ」
 穏やかに語りかけるきらりに、中年女性の一人はむすっとしたまま反論する。その斜め前では、ビルシャナが酷く満足そうに頷いていた。それを見て、天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が口を開く。
「十一月に冬物を買うって、別に気が早い訳でも無いと思うけどねー。備えあれば憂いなし、早めの用意も大事だと思うよ」
 うーん、と小さく唸りながらそう言えば、中年女性はきっと目尻をつり上げる。
「その心構えが不健全だと言っているのよ。秋は秋。その季節を楽しむ心構え……それが必要であると言っているの」
 ふふんと勝ち誇ったように鼻で笑う中年女性に、桜子は問う。
「それなら、衣服とかコート以外も、もっと秋らしさを出すのかなぁ? 11月は冬じゃないって言うんなら、暖房とか炬燵とかも禁止だね」
 中年女性三人は、さっと顔色を変え、互いに顔を見合わせる。
「そ……それは……」
 言いよどむ彼女達に、桜子は尚も問いかける。
「どんなに寒くても、12月になるまで暖房や炬燵無しの生活で我慢できるかな?」
「………………中年にもなると、寒さが堪えるのよ!!」
 彼女達三人は誰ともなくそう叫ぶと、くるりと踵を返して、走り去った。
「あっ、貴様ら!!」
 その後ろ姿に手を伸ばすビルシャナだが、時既に遅く。彼女達はあっという間にビルシャナが壊した扉から外へと飛び出して、何処かへ消えてしまった。
「くっ……なんという……!! 軟弱者め!!」
 悔しげに地団駄を踏むビルシャナを庇うように、四人の男子大学生達が一歩足を前に踏み出した。
「だけど、秋物より冬物……ってのは、全く理解も同情も出来ねぇな!!」
 不機嫌そうに鼻を鳴らす男子大学生は、ブランド物の秋物に身を包んでおり、心なしか寒そうだ。その証拠のように、ぶえっくしと大きく一つくしゃみをし、彼らはふんと胸を張った。
「11月は冬じゃない、ですか。それならば年中の様々なイベントを考えてみて下さい」
 そんな彼らに向かって、口を開いたのはミント。若い男性、ブランド物。今をときめく大学生達に、ミントは語りかける。
「ハロウィンとか、クリスマスとか、元旦、バレンタインにホワイトデー……それぞれ、当日のみ飾り付け、当日のみグッズ販売やチョコレート販売とかしているわけでは無いですよね」
「当たり前だろ。そういうイベントは、前々からの準備も含めて楽しむもんだ。なぁ?」
 一人の男子大学生が問いかければ、他三人も口々に同意を示す。
「当日だけじゃ、テンション上がらねぇじゃん。んで、それとこれにどういう関係があるって言うんだよ」
 首を傾げる男子大学生達に、ミントは言う。
「それと同じではないですか? 冬物も、前もって準備をしていくことで冬を楽しもうとしている……とは考えられませんか?」
 ミントの問いかけに、男子大学生達はハッとして、互いに顔を見合わせる。
「そ……そう……かも……??」
 そして、数秒後。
「……そう、そうだな!! うん、そうだ!!」
 彼らはしきりに頷いて、くるりと踵を返す。
「ありがとう、俺たちに冬服と冬の正しい楽しみ方を教えてくれて!!」
 所謂パリピかと思いきや、案外礼儀正しい青年達だ。ミントはその背中を見送り、ひらりと手を振った。
「でもっ……、秋物を安くするならわかるけど、冬服を安くするのはやっぱりわからないわ! そこはやっぱり納得できない!!」
 残った三人のOLは、怒りを露にするビルシャナを庇うように立ち塞がる。
「しかし、洋服やコートは、早めに用意しておいて悪い事は無いでしょう。十一月下旬から、急に寒くなって来ても、十二月にしか冬物が売られてなかったら寒さを凌ぐ術がないでしょう。その冬物が安かったら、それはそれで嬉しいのでは?」
 そう説得するシアンに、三人は眉間にシワを寄せ、不機嫌そうに首を横に振る。
「それとこれは別問題よ!! 確かに安いのは嬉しいわ……薄給だし。だけど、安い秋物は欲しいじゃない!!」
 どうも彼女達の意思は固いようだ。その背中を見て、ビルシャナはにやりと目を細める。
「そうだ、お前達! こやつらはお前達の意思、我々の教義を踏みにじる者……許してはおけぬ!!」
「なんてこと……。許せない……許せないわ!!」
 ビルシャナがびしりとケルベロス達を指差すと、OL三人組はケルベロス達へと襲いかかった。


「仕方がありませんね」
 たぁ! とデウスエクスとは比べ物にならない程軽い拳を突き出してくるOLに溜め息を吐き、ミントは優しさオーラを纏った拳で、軽くOLに攻撃を加え、昏倒させる。
「さぁ、行きますよ。サターン、サポートは任せますね」
 きらりの言葉に、サターンはにゃあと頷く。そんなきらりに、残った二人のうち一人のOLが飛びかかる。それをきらりは難なく交わし、その横をすり抜ける際にアニミズムアンクを軽く振るう。その一撃に、OLはぱたりとその場に倒れ伏した。
「11月に冬物を買うって、別に気が早い訳でも無いと思うけどねー。備えあれば憂いなし、早めの用意も大事だと思うよ」
 そう呟く桜子に、一人残ったOLが拳を振るう。
「うるさいっ、あんた達みたいなのは……私達には不要だ!!」
 うーん、と肩を竦め、桜子はAngel Stepを履いた足を振り上げる。ふわりと回し蹴りの要領で軽く蹴りを入れると、OLはいとも簡単に倒れ、意識を失ったのだった。
「ちっ……役立たずどもめ!!」
 ビルシャナは舌打ちと共に、腕を大きく振るう。そして生み出された孔雀の形の炎は、ビルシャナを攻撃する隙をうかがっていたシアンへと向かっていく。
「くっ……!!」
 咄嗟に日本刀を身体の前へと持ってきて、鞘で受ける姿勢を取るシアン。しかし、シアンとビルシャナの間に立ち塞がるように飛び込んできたサターンにより、孔雀の炎はシアンの元へたどり着く事は無く。
「助かりました」
 にゃあ、とその身を焼かれながらも、尚もふわふわと飛ぶサターンへと感謝を述べ、シアンは日本刀を抜き放ち、その刃を床に突き立てる。
「我が剣技、刮目するが良い。土蛇!」
 シアンが刃を通して流し込んだオーラにより発生した地滑りは、ビルシャナの足を絡め捕る。
「くそっ……ふざけるな!!」
 なんとか足を引き抜きながら悪態を突くビルシャナを視界の隅に捉えつつ、きらりはアニムスアンクを掲げ、前衛へとボディヒーリングを施す。
「私の教義こそ……真理だ!!」
 慟哭するビルシャナへ、ミントは距離を詰めながらもるげんすてるん☆ を大きく振り被る。
「この一撃で、全てを貫きます!」
 そして、ビルシャナへと超重の一撃を叩き込む。
「ぐ……ごはっ……」
 その蹴りをもろに食らい、ぐらりと姿勢を崩すビルシャナ。そこへ、桜花術書を左手に携えた桜子が、すっと右手を指し伸ばす。
「桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
 そして桜子は桜の花弁状のエナジーを無数に創造し、ビルシャナを桜の花弁で覆う。そして、桜の花弁を紅蓮の炎へと変化させた。
「ぐ、ぐがあっ!!」
 炎に焼かれ、ビルシャナは呻き声をあげるが、燃え尽くされるには至らず。
「はぁっ!!」
 それでもぐらりとゆらめくビルシャナの身体に、シアンは雷の霊力を帯びた日本刀で鋭い突きを放った。
「貴様らぁ……、許さん……許さんぞォオオオオ!!!」
 がくりと膝を突いたビルシャナは、最後の力を振り絞り、呪詛のような経文を唱え始める。その経文は、素早く退避するシアンではなく、追撃を狙っていたミントを襲う。
「っ!!」
 攻撃の体勢に入っていたミントは、防御をする間も無く、咄嗟にくっと奥歯を噛み締めるのが精一杯。
「ここは任せて!」
 ミントを庇い、経文を受け止めたのは桜子。
「回復しますね」
 間髪入れず、きらりがキュアウインドで、そしてサターンが清浄の翼でその傷を癒していく。
「トドメです」
 ミントはその様子を視界の隅で確認しつつ、床を蹴り、駆ける。
「大空に咲く華の如き連携を、その身に受けてみなさい!」
 召喚された無月の残霊はその槍を縦横無尽に振り回し、その間隙を縫いミントはRULE of ROSEを連射する。そして、最後に息を合わせ、槍の突撃と、強烈な一発の弾丸をその身に受け、ビルシャナは崩れ落ちるように床に倒れたのだった。


「室内でしたから……結構、破損してしまいましたね」
 破損した床を幻想で覆いながら、ミントは小さく息を吐く。
「綺麗に直していけば、きっと大丈夫ですよ」
 にっこり笑い、きらりも壁の破損箇所を幻想で覆っていく。この分なら、すぐにでも通常通り営業を再開することが出来るだろう。しかし。
「冬服を買って帰ろうと思っていたのだけれど……今日はもう無理かしら……」
 破損箇所がヒールで修復されたフロアを眺めつつ、シアンは呟く。なんとなくがっくりとするシアンに、桜子は笑顔で首を横に振る。
「大丈夫だよー、きっと買って帰れるよー。もしダメだったら、途中で良いお店探して帰ろう!」
 そう言う桜子に、シアンはゆっくり目を細め、頷いた。
 こうしてビルシャナによるショッピングモール襲撃事件は、ケルベロス達の活躍により、無事幕を閉じたのだった。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月17日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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