キノコが見せる過去の夢

作者:三ノ木咲紀

 秋。
 紅葉が始まりかけた山に、樹(いつき)は分け入った。
 地元の山でのきのこ狩り。毎年この時期に山に入っては、天然のきのこを取ってきのこ三昧を楽しむのだ。
 自生している舞茸に手を伸ばした時、樹はふいに顔を上げた。
 気のせいだろうか。少し離れた山肌に、人間と同じくらいの大きさの椎茸に似た茸が生えている。
 危険を察知して逃げようとした樹の周囲に、胞子が撒かれる。
 胞子を吸い込んだ樹は、目をとろんとさせると茸に歩み寄った。
「ごめんよ……。お弁当、ちゃんと持っていけば良かった……」
 過去の後悔の幻影を見ているのか。催眠状態になった樹は、茸に抱きつくように倒れ込む。
 身動きできない樹の背中に寄生した茸は、体を震わせると胞子を周囲にばら撒いた。


「誰にでも、触れられたくない過去ってあるのに……」
 そう言ったきり口を噤んだマロン・ビネガー(六花流転・e17169) の言葉を継いで、セリカ・リュミエールは集まったケルベロス達を見渡した。
「茸の攻性植物が、山林に現れたようです。皆さんは現場へ急行して、これの撃破をお願いします」
 現れるのは、茸の攻性植物が一体。
 倒れる樹の背中から生えるように寄生している。
 攻性植物を倒すと、犠牲となった樹も同時に死んでしまう。
 だが攻撃と同時にヒールを掛けることによって回復不能ダメージを累積させて攻性植物のみを倒すことができる。
 この攻性植物は、犠牲者に「過去最も心を動かされた出来事」の幻影を見せ、身動きできなくさせた上で寄生して養分とグラビティ・チェインを奪い増殖するようだ。
「過去最も心を動かされた出来事」は悪いことだけではなく、最も嬉しかったことも含まれる。
 攻撃を受けると、ケルベロス達も過去の幻影を見てしまう。これに抗うには、見せられている幻影に対して確固とした意思を示すことが重要となる。
 どういうことかと首を傾げるケルベロスに、セリカは頷いた。
「例えばですが、「過去、友達と喧嘩別れしてしまった」幻影に対して今の自分が「きちんと謝る」といった具体的な行動を取ると、幻影から抜けやすくなります。大切なのは、見た幻影に対して自分はどうするのか、きちんと行動で示すことです。できなければ、強力な催眠を解くのは難しくなるでしょう」
 グラビティが凶悪な代わりに、攻撃力と体力は高くない。幻影にきちんと対処できれば、今のケルベロス達の敵ではないだろう。
 茸のポジションはジャマー。独自のグラビティを使う。
「例えどんな過去があったとしても、それが礎となって今の皆さんがいます。皆さんは過去なんかに負けない。私はそう、信じています」
 信頼の目で微笑んだセリカは、ケルベロス達に頭を下げた。


参加者
ノル・キサラギ(銀花・e01639)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
楪・熾月(想柩・e17223)
ゲリン・ユルドゥス(白翼橙星・e25246)
朧・遊鬼(火車・e36891)

■リプレイ

 椎茸に似た攻性植物は、眠る樹を苗床に静かに震えながら胞子を撒き散らしている。
 一種幻想的な光景に、マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)は傍らの相棒猫に語りかけた。
「なんとも不思議な攻性植物だねぇ、マロン。オレこんなのはじめて見たや」
 マサムネが感心したように呟いた時、茸の攻性植物がわなないた。
 人の気配を察知したのだろう。ふいに笠を大きく振った茸は、朧・遊鬼(火車・e36891)に向けて笠を叩きつけた。
 不意打ちを受け胞子を吸い込んだ遊鬼は、目の前に父の姿を見た。
 厳格な父は遊鬼の前に立ち、冷酷に繰り返す。
 お前は命令さえ聞けばいい。さあ殺せ殺せ殺せころせコロセ……。
 繰り返される声に、目から光を失った遊鬼はルーンアックスを握り締めた。
「父の敵は……殺す」
 冷徹に呟いた遊鬼は、霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)に向けて飛びかかった。
 大きく飛び上がり、裁一の脳天を裂こうと奇声を上げる。振り下ろされる刃が裁一を切り裂く寸前、声が響いた。
「ロティ!」
 楪・熾月(想柩・e17223)の声に鋭く動くシャーマンズゴーストのロティが、刃を受け止め吹き飛ばされる。ロティを見送った熾月は、中衛にキュアウインドを送った。
「しっかりして!」
 励ます熾月の声と共に、マサムネのウイングキャット・ネコキャットが清浄の翼で遊鬼を癒やした。
 放たれる清浄な風が濃密な胞子を吹き払い、幻影に沈む遊鬼の意識を少しだけ戻す。
 遊鬼のナノナノ・ルーナもまた、主を守るようにナノナノばりあを張り意識を少し取り戻させる。
 同時に、歌が響いた。
「キノコに食われて、死なせてたまるか!」
 決意と共に演じられるゲリン・ユルドゥス(白翼橙星・e25246)の壮大な叙事詩が、遊鬼に現在の己を思い出させる。
「……嫌なものを……やめろ……」
 癒やしに薄くなる胞子。それでも消えない父の幻影に、遊鬼は改めてルーンアックスを握り締めた。
「確かにあのときの俺は洗脳されていた……。俺の全てをアンタに奪われた。だが今の俺は自由だ。アンタの傀儡ではない! 故に幻には消えてもらおうか!」
 表情を変えない父に向け振り下ろされる斧に、遊鬼を包む胞子は完全に消えた。
「済まない。ありがとう」
「過去を見せるなら、せめて楽しい記憶だったらいいのになあ……なんてねー」
 笑うゲリンの脇を、闘いの気を纏った拳が駆け抜けた。
「虚を突き体を崩すは定石。この手がお前の羽根をもぐ」
 一気に距離を詰めたゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)の拳が、茸の軸を抉る。
 同時に駆け出した裁一の注射針が、茸へ迫る。
「この危険な茸には枯葉剤注入~」
 忍び寄る裁一の注射針から注入される嫉妬暗殺術が、茸を麻痺させる。
 動きを止めた茸の軸に、竜砲弾が駆け抜けた。
「樹さん! 絶対に助けますから、もう少し頑張ってください!」
 声と共に轟竜砲を放ったマロン・ビネガー(六花流転・e17169)の声にも、樹はまだ目を覚まさない。
 唇を噛むマロンに、祝福の矢が放たれた。
 Primroseに矢をつがえたノル・キサラギ(銀花・e01639)は、眠る樹に更に声を掛けた。
「必ず助けるから……もう少しだけ、頑張って。あなたの大切な人の為にも……生きて帰ろう!」
 二人の声かけに、樹の体が少しだけ動いた気がする。それに安堵したマサムネは、聖なる光を放った。
「君を救うための癒やしを」
 光に包まれた茸は、軸に穿たれた傷を癒やしていく。
 敵の存在を察知した茸は、笠を大きく震わせた。


 膨大な量の胞子が、空気の色を変えてしまうかのように撒かれる。
 笠を大きく振り、中衛に撒かれた大量の胞子を吸い込んだマサムネは、目の前が氷結するのを見た。
 幻影の中、死と静寂と氷の中に沈む故郷の街。マサムネを突き飛ばして氷に閉じ込められた双子の姉の指先が、今にも動き出しそうで。
 その後ろにいる両親も、まるで生きているよう。マサムネは叫ぶと、聖なる光を双子の姉へと放った。
「忌々しい氷のドラゴン、グラヴィオール! 許さない!」
 膝をついたマサムネが放つ癒やしが、茸の傷を塞いでいく。家族を癒やすマサムネの隣で、熾月もまた家族に手を伸ばしていた。
 眼の前で斃れていく家族達。助けられなかった大切な人たち。
 蘇る鮮明な光景に悲痛な叫びを上げた熾月は、家族を護ってくれるよう願いながら大自然の祈りを茸に放った。
 胞子の気配を感じ取ったゼノアは、胞子の渦から逃れる。
 鼻先に漂ってくる胞子が、記憶の影を蘇らせる。幼少期に恩人を殺された記憶。あのときの怒りと悲しみが心に蘇ってくるが、ゼノアはそれを振り払った。
「あの時は成す術もなかったが……。今の俺を、昔と同じと思うな」
 すっと目を細めたゼノアは、簒奪者の鎌を振り上げた。
 胸の痛みを振り切り、事も無げに茸を刻む。
 幻影に纏わりつかれる中衛に、再び花が舞った。
「皆! 気をしっかり持って!」
 願いと共に舞うゲリンの舞いが、茸の胞子を打ち消し消える。
 そこへ、オーロラのような光が包み込んだ。
「迷わされないでください!」
 マロンのオラトリオヴェールに包まれたノルは、目の前の霧が晴れていくような感覚に目を見開いた。
 夢を見ていた。暗い暗い過去の夢。
 重く背負い、身動きが取れない視界に、つい先日の光景が浮かび上がる。
 幸せに満ち溢れて生きる今。愛する人と沢山の友達に祝ってもらった、誕生日の光景。
 大切な時間が、ノルの心から過去を拭い去る。
「おれは今、とても幸せだから。……ありがとう」
 語りかけるノルは、めいっぱい笑顔で過去に手を振った。
 癒やしを受けたマサムネは、薄れる家族の幻影に語りかけた。
「今のオレには仲間がいるし、愛する家族、夫だっているんだ!」
 力を取り戻したマサムネは、決意の叫び声を上げる。顔を上げた時、そこに幻影の家族はなかった。
 倒れる家族に手を伸ばした熾月は、手を握り締めた。
 あの時。熾月は家族を救えなかった。だが今の熾月には力がある。
 消えかけた命を、眼の前の命を救う力が今は有るから。
「だから俺は――惑わない……!」
 毅然と顔を上げる熾月の姿に、家族が微笑んでくれた気がした。
 我を取り戻す仲間たちに安堵の息を吐いた裁一は、サバト棒を握り締めた。
 ピンポイントに人間だけを精神的にも殺す茸。悪趣味な茸を、これ以上のさばらせる訳にはいかない。
「カエンタケより酷いですね……!」
「同感だ!」
 怒りと共に叩き込む裁一の斉天截拳撃が、茸の軸を強かに打ちのめす。
 同時に放つ遊鬼のブラックスライムが、茸にまとわりついて離れない。
 受ける連撃に苛立った茸は、胞子の弾をゲリンへ叩きつけた。
 胞子の弾をまともに受けたゲリンは、目の前に立つ男に目を見開いた。
 刀と金槌を持った、銀髪マッチョな死神デウスエクス。戦闘を覚悟したゲリンに、ダーマットと名乗った死神は自分の夢を語った。
 魂とグラビティを素材とする武器鍛治職人であるダーマットは、大切な人に託せるような最強の武器を作るのが夢だという。
「そのために、お前さんと義兄弟になりたい」
 その申し出に、ゲリンは驚きながら頷いた。
「初対面なのに義兄弟ってすごいな! やろう! 『桃園の誓い』っぽいこと、ボク、やりたかったんだー」
 微笑んだゲリンは、ゲシュタルトグレイブを掲げた。そこへダーマットの大剣も重ねられる。
「ボクらの場合は『星命の誓い』だね!」
 誓いをシャウトしたゲリンは、明瞭になる視界に顔を上げた。
 生まれて初めてできた絆。今は道が違えてしまったけれど、誓いはまだゲリンの中にある。
「ボクは、どんな星でも救ってみせる。命という名前の、儚くも強く、尊い星を。……その為にもボク、また一つ、命(樹ちゃん)を救いに行く!」
 決意を新たにしたゲリンの目の前から、義兄弟は静かに消えていった。


 闘いは続いた。
 ケルベロス達はその後も続く催眠に悩まされながらも、的確にヒールを施し乗り越えていく。
 積み重ねられるダメージにも胞子を撒き続ける茸は、裁一に向けてボロボロになった笠を叩きつけた。
 受ける衝撃を心の衝撃のように感じ取った裁一は、幻覚の中で伴侶のいるマサムネの姿に親友を見た。
 長い間爆破仲間だった親友。共にどこまでも非リア道を極めるはずだった。
 だが、親友は裏切った。リア充になったのだ。
 幸せそうな親友の姿に血の涙を流した裁一は、注射器を手にマサムネに踊りかかった。
「我が親友までもを冒すリア充化の猛毒! 俺は流されませんよ! 貫くは爆破の嫉妬道!」
 ゆらりと姿を消した裁一は、次の瞬間にはマサムネに接敵。注射器から猛毒を流し込もうと針を煌めかせる。
 針がマサムネに届く寸前、遊鬼が動いた。
 マサムネを庇い注射針を受けた遊鬼は、痺れをこらえながらも叫んだ。
「道を貫くのもいいが、被害者を救うのが先だろう……!」
 遊鬼の一喝に顔を上げた裁一の耳に、X-0光癒転送/銀星橙歌が響いた。
 ノルの歌声に合わせて、チェロが響いた。
 普段ならフルスイングするチェロが、美しい音色を奏でる。二人のセッションに白鳥が飛び去り、裁一の心から催眠を消し去っていく。
 感動に打ち震えてなお、裁一の心からはリア充爆破への思いは消えない。呻き声を上げながら爆破への誘惑に抗う裁一に、ゲリンは樹へ「陽光の勇姿」を見せた。
 傷を癒やした樹に、ゲリンは仲間へ叫ぶ。
「畳み掛けよう!」
 その声に、熾月は動いた。
「ぴよ!」
 熾月の声に応えて現れたファミリアの雛が、茸に向けて鋭く攻撃を仕掛ける。同時に動いたゼノアの鬼咬掌が、揺らぐ茸に叩き込まれる。
 そこへ、星の煌めきが輝いた。
「樹さんは、返してもらう!」
 マサムネが放つスターゲーイザーが、茸を真っ二つに切り裂く。
 踵を地面にめり込ませたマサムネが振り返った時、茸は一塊の胞子となり風に乗って消えていった。


 樹を癒やし、付近をヒールしたケルベロス達は近くにある樹の山小屋へと招待された。
「皆さん、本当にありがとう! なんでも好きなキノコ料理をごちそうさせてもらうよ!」
 微笑む樹に、マサムネは両手を上げた。
「きのこー! マイタケごはんとかしたい! シイタケは大きくて分厚いやつをステーキにしたい!」
「キノコ天ぷら食べたい! 特に舞茸、松茸! 塩たっぷり!」
 ワクワクが止まらないゲリンに、マサムネは大きく頷いた。
「天ぷらもいいな、夢が広がるね! ぶなしめじはバターで炒めてもいいね」
「腕によりをかけますねー!」
 腕まくりをした樹は、リクエストに応えてまずは舞茸の天ぷらを二人に出した。
 サクッと小気味よい音を立てながら広がる舞茸の香りに、マサムネは目を細めた。
「お酒が欲しくなっちゃう!」
「椎茸の炭焼もどうだ?」
 炭を熾していた遊鬼は、熱くなった七輪から椎茸を引き上げ仲間に出した。
 歓声を上げる仲間たちに、遊鬼は七輪に椎茸を乗せる。
 いい匂いを漂わせながら、炭火はキノコの美味しさを引き出していく。
「旬の茸を炭火で食えるとはなぁ……ここで塩と醤油……うむ、上出来だな」
「松茸も一緒に焼いていいか?」
 焼き立てのきのこを皿に乗せた遊鬼は、松茸を持って現れた裁一に快く頷いた。
「もちろん」
「遊鬼は料理をするのか?」
 裁一の問に、遊鬼は軽く頭を振った。
「料理下手と言われる俺だが、これくらいなら出来るぞ」
「これだけ上手く焼ければ十分だ」
 少し得意げな遊鬼に頷いた裁一は、焼けた松茸を引き上げると立ち上がった。
 遊鬼も皿に焼きたて松茸を乗せると席へ戻った。ルーナにお裾分けすして松茸を頬張る。
 とれたて焼き立ての松茸の味わいに、遊鬼は目を細めた。
 焼ける松茸の香りに、ゼノアは目を輝かせた。
「松茸ある? まじか」
「松茸……! 俺も食べたい~。松茸の炊き込みご飯とか天ぷらとかあるかな?」
「ありますよー」
 熾月の問に何でもないことのように応えた樹は、松茸ご飯をよそい差し出した。
 新米炊きたて松茸ご飯にお箸を差し入れる。口の中に広がる松茸の香りに、ゼノアは興奮を隠せなかった。
「うわ松茸ご飯美味え……。程よくもちっとして腹にたまるし。おい熾月お前ももっと食っておけ」
「もうゼノアってば。俺たちいっぱい食べてるよ? でも貰った分は遠慮なく頂きまーす!」
 てんこ盛り盛られる松茸ご飯を頬張った熾月は、香る土瓶蒸しの品のある匂いに顔を上げた。
 出される土瓶蒸しを口に運んだゼノアは、香りと歯ごたえを存分に楽しむと一言零す。
「美味い。日本人で良かったわ……間違えた俺イタリア人だったな」
 苦笑いを零すゼノアを、熾月は楽しそうに覗き込んだ。
「日本人なのは俺の方かな。ふふ、ゼノアってイタリア人だったんだ? 新情報みっけ♪」
「うおおこれもうま……肉厚なきのこはたまらんな」
 鮭とエリンギのバターホイル焼きに舌鼓を打ったゼノアは、熾月の天ぷらを指さした。
「うわうま……、熾月そっちのも取ってくれ」
「ん、いいよーじゃゼノアのもちょーだい?」
 二人で料理をシェアしていた熾月は、ふとノルの皿を見た。
「それ、ホンシメジの炊き込みご飯? 美味しそう!」
「お目が高いね! じゃそっちの松茸ご飯と交換だ」
 仲良く茶碗交換をしたノルは、炭焼き松茸を持って現れた裁一に歓声を上げた。
「パパ上さすがいい香り!」
「マロンにノルも、焼きたてどうです?」
「ありがとう、お父さん」
 出される松茸を頬張ったマロンは、口いっぱいに広がる松茸の味と香りに目を輝かせた。
「この、いっそ炙って醤油やポン酢を垂らしただけのがいいですね」
「なめこの味噌汁やホンシメジの炊き込みご飯もあるよ」
 マロンにお椀とお茶碗を出したノルは、ふと首を傾げた。
「マロンはどんな幻影を見たんだ? あ、言いたくないなら別に……」
 お箸を置いたマロンは、ふと遠い目をすると戦闘中に見た幻影に思いを馳せた。
「前にいた場所の話です。真夜中に猫を見かけたですが、恍惚とした表情でブレイクダンスしていて……」
「そ、それはまた……」
 苦笑いするノルに、マロンは頬に手を当てた。
「不気味だったので逃げてしまいました! 止めてあげれば良かった……です?」
「その猫にはまた会えたのか?」
「二度と会えませんでした」
 裁一の問にしゅんとしたマロンは、気を取り直して箸を取った。
「エノキの根元を切ってバターソテーすると美味しいのです! お父さんもお姉さんもほら!」
「美味しそう! はい、パパ上」
「ありがとう」
 和気あいあいとした空気の中、キノコのフルコースは進んでいく。
 デザートのエノキアイスを食べたゼノアは、樹の肩を叩いた。
「お前は良いきのこ職人になれるぞ」
「ありがとうございます」
 謎の褒められ方をした樹は、嬉しそうに微笑んだ。

作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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