天の灯、地の星~知香の誕生日

作者:寅杜柳

●秋の末に
「星を見たい」
 自宅で机に突っ伏していた雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)の口からそんな言葉が漏れる。別に深刻な口調ではなく、休日どこかに買い物にいきたいだとかそんな軽い雰囲気の言葉。
「街の風景もいいけども、たまには山とかでのんびり過ごしていい風景を眺めたいって気分……せっかくだし、行ってみるかねえ」
 誕生日だし、こういう過ごし方をする日もあっていいんじゃないか、うんそうしよう! そんな風に決めると、知香は手元にあったガイドブックを捲り始める。

「それでここに行こうと思うんだ」
 テンション高い知香が開いたガイドブックの頁に載っていたのは、兵庫県の神戸市から北東。
 ケーブルに揺られて辿り着くのは山の上。
 夜の訪れに冷たくなった空気に、頭上を見上げれば人の灯りに妨げられない満天の星の海、視線を落とせば人々の営み盛んな神戸の街の夜景。
 そんな風景を楽しみながらのんびり一時を過ごすのも悪くはないんじゃないか、そう白熊の女は言う。
「ちょっとした散歩もできるし、のんびり自分を見つめ直したりする時間もあってもよし。騒ぎすぎたり人に迷惑かけるような事じゃなければ色々楽しめると思う。……ああ、暖かい飲み物とかもあるといいかもしれないねえ。本格的には寒くはないかもしれないけど」
 折角の機会だし、気楽に一緒に行ってみないかと知香は笑顔で誘いかけた。


■リプレイ

●山の上で
 霜月も終わりに差し掛かる六甲山。
 日が落ちるのも随分と早くなり、既に周辺は暗く、太陽の沈んだ方角の空がほんの少し赤みを残す程度。
 空には星が輝いており、視線を街の方へと落とせば街の灯りが夜闇の侵入に抵抗するように輝いていて、もう少しすれば素晴らしい夜景となるのだろう。

「知香さん、誕生日おめでとうございます!」
「知香様はお誕生日おめでとうございます」
「ああ、有難うね!」
 イッパイアッテナとエルスの祝いの言葉に、知香も嬉しそうに率直に返す。
 はきはきしているのに感性は純真そう。目の前のヘリオライダーの性質を、そんな風に彼は捉えた。
「星は好きなのかい?」
「はい。ゆっくりと楽しませて頂きます」
「そうかい、必要ないとは思うけど気を付けるんだよ」
 知香の問いにそう答えたイッパイアッテナは、愛箱のザラキに視線をやり、歩き始めた。
「いいね……もふもふで、すごく暖かそうですね……」
 一方で、エルスの視線は天然物の白いふかふかに向いていた。ふわもこの猫耳コートに手袋マフラーと防寒対策は万全だが、目の前の暖かそうなそれには少しばかり惹かれるものもあった。
「それでも寒いときは寒いからねえ」
 それに、暑さには弱いからとんとんだと白熊は冗談めかして言った。

 街灯のない暗い場所、星のよく見えるその場所に【重力宇宙論】の二人の少女が座っていた。
「ココア…。ありがとう…。少し…肌寒かったから…。うれしい…」
 一緒に飲もう、とマヒナの準備してきたココアに、惺月はほっと一息を付く。
「あの辺りに見えるのがペガスス座、秋の四辺形。プラネタリウムで観るよりずっと大きいでしょ?」
「なるほど……あれが秋の四辺形……」
 プラネタリウムで見たものよりもずっと大きい実物は空に。ココアで暖まりながら、二人は輝く星々を見上げる。
「その秋の四辺形から……こっち」
 四辺形の一辺をなぞるように、マヒナは更にその先へと指を動かし『秋のひとつ星』、一等星のフォーマルハウトを褐色の細い指が指し示す。
「別の辺を伸ばすとくじら座のデネブカイトスが見つかるんだよ。デネブは尻尾って意味で、デネブカイトスでクジラの尻尾だね」
「くじら座のデネブカイトスは……夏の大三角のデネブと……いっしょなの……かな?」
 煌月の疑問にマヒナはううん、と首を振って四辺形の対角の一つを結び、さらにその先へと指を向ける。
「デネブははくちょう座であの辺り、その尻尾だよ。それから……ペガスス座にくっつくようにアンドロメダ座があって……腰の辺りにもやっと雲みたいなアンドロメダ銀河が見える、かな?」
「……あれがアンドロメダで……その腰辺り……あっ」
 見えた、と惺月が指を指す。
「天の川銀河のお隣の銀河で、250万光年も離れてる、肉眼で見えるもっとも遠い天体なんだよ」
 マヒナの説明に、惺月の目が少し大きく開かれる。
「天の川銀河と隣だったり……肉眼で見えるもっとも遠い天体って……初めて知ったから」
 びっくり、そう惺月は言った。
 それからも新たな驚きとゆったりとした空気と共に、二人の星見の時は過ぎていった。

●共に過ごす時間
「昼間はまだ暖かいんだけど流石に夜は結構寒いよね~」
 温かいコーヒーを手に、南西の神戸の街を眺めているのはクロノとレーベン。
「六甲山から夜の街を見下ろすのは初めてかもな」
 煙を燻らせるレーベンは言う。そもそも視るではなく、眺めるなんて行為自体が新鮮なのだ。
「まぁでも? こんな所来ることめったにないっしょ~たまにはいいじゃんたまには~」
 じゃれつく猫のようなクロノの顔には快活な笑み。
「まさか私がこんな事に時間を使うなんて、昔じゃ考え……いや」
 言いかけたレーベンが打ち消す。
(「変な事を考えたらまた説教が飛び出るだろうしな」)
 それに加え、
(「たまにはこういうのもいいんじゃないか」)
 そんな風に考える自分もいるから。
「私達いっつも海側だもんねー。いかりのマークとかしか見るもの無いけど」
 いつもは自身が経営する海の近くの雑貨屋から眺める景色。だからこそ山側から見るその景色は新鮮で、つい感嘆の声が零れる。
「おっ~? あの辺りに煌く1等星、あれ間違いなくうちの雑貨屋よ。間違いないわ~」
「バカか、流石に遠すぎるだろ。光と光が引っ付いてて見分けがつかんよ」
 きゃっきゃとはしゃぐクロノだが、レーベンはすげなく否定。
「うん、今日の思い出でお店の商品また一つ思い浮かんだわ。帰って早速試作よ!」
 切り替えも早く、うーんと伸びをしたクロノは相棒の手を引き歩き出す。
「やれやれ、こいつに付き合ってると暇しないな」
 煙草を消しつつ、満更でもなさそうなレーベンも歩き始めた。

「わー、満天の星空!」
 ええ場所やね、と穏やかに言って空を見上げる雪斗につられてヴィも見上げる。空色の瞳が映すのは果て無く澄んだ夜の色。
「流石に山の上は寒いねぇ……」
 ぶるりと震えた雪斗の背中にヴィの毛布がかけられる。
「……もうちょっとくっついてええかな?」
 雪斗が少し照れたように尋ねると、ぎゅっと強く、けれど十分気遣う程度の加減でぴったりひっつく。
 よく冷える夜の山でもくっついているとあったかいな、とヴィは思う。そのあったかさは幸福のあったかさ。
「ええっと、あれがおおいぬ座のシリウス。あのあたりはすばる……かな?」
 少し自信なさげにヴィが指差すと、こくこくと雪斗が頷く。
「聞いてた通り、ぼんやりと幻想的で綺麗やなぁ」
 ここに来る前にヴィが教えてくれていた星。
「そう、すばるは若い星の集まりだから。あのぼんやりした中から星が生まれる。シリウスはとても明るい星だね。まず見失うことはないくらい」
「すっごい明るい! どこにいても見つけられそうな……」
 不意に雪斗の言葉が途切れる。
「……ん?」
 ヴィが隣を見る。そこにはこちらを見る、緑の瞳。
 隣のいちばん星と思わず目が合ってしまった事に、お互いに笑みが零れる。
(「遠い昔から変わらないこの星々のように」)
 この人の傍にいられたらどんなにいいだろう、とレプリカントの青年は愛しさを覚え、花の指輪にかけた誓いを想う。
(「ヴィくんはシリウスみたいやなぁ」)
 雪斗には一番明るく光る星みたいなひと。そんな彼と笑い合えるなら、幸せは胸一杯。
 この幸せがずっと続きますように。いちばん星同士、そう願った。

 すっかり見慣れたアベルの顔を傍らに、いつかの様にマシュマロ添えのホットココアを手に怜はかじかむ指先を程よく緩めている。
 カップと共にアベルから差し出されたそれの、再会の日とは違う星型は彼の遊び心。その形に笑みを零し、星空の美しさを見上げる。
「寒い季節は空気が澄んでいて星空が綺麗に見えますね」
 今日の空もとても、素敵です。そう口にし、ココアに口をつける怜の脳裏に浮かぶは再会の日。
 まさか幼馴染みに再会するなど思ってもみませんでした、と口にする怜に、アベルも出会いの時を思い出す。偶然、星見に行ってその先客が幼馴染だったなど。
「……ホント、気づかなかったわ」
 そりゃこんなに美人にもなってりゃ気づかんか、とからかうよう軽く笑う。
「アベルさんもとても男前になられてますよ?」
 当たり前のように返す怜の表情には戯れに返す、悪戯っぽい笑顔。
「全く、褒め上手は相変わらずだな」
 敵わん。そう目を細めるアベルは愉しげにココアにマシュマロを沈め、そっと一口。空を見上げ紫眼に闇に鏤められた星の煌きを映せば、星の導きに感謝が浮かぶ。
「あの日の星も機嫌のいい顔してたが、今日も負けねぇくらい綺麗だな」
 やっぱ寒い日の星は好い、空を見上げるアベルが呟く。
(「きっとこの再会も星の導きですね」)
 この縁を繋いでくれた星空に感謝しつつ、怜も暖かいカップを傾ける。
「……また近くで、星を」
 吐息と未来への希望を一つ、言葉としてアベルが紡ぐ。
 それはどこか約束にも似ていて。託す先は棄てた過去への縁、そしてこの時間を繋いだ空の星。
「またいずれもっと近くで星空を見られたら、良いですね」
 怜もそっと、いつかの未来へと希望を託した。

●空と、隣と
 座り待つか、臥して待つか。空に輝く金色の形は半月より膨れた間の形。
「こっちこっち、ミカお兄さん」
 エトワールが広げた敷物の上で手招き。招きに応じた黒兎耳の青年に、ココアもあるよっときりっとした表情。
 差し出されたココアに温まった黒兎の青年の息は寒さに白く染まる。ありがとう、細やかな金の髪をそうっと撫でると、その感覚にへにゃりと少女の表情は緩む。
 お返しに。御影が星と月を象ったクッキーを差し出すと、
「ボクもクッキーのお礼に撫でても、いいよね?」
 伸ばされた手が御影の髪と耳を撫で上げる。期待していた感触ではあるけれども、ついつい青年の表情も緩んでしまう。
 あの、ね。控えめにエトワールが云う。
「また……お隣さんしてくれる?」
 わがままいっこ、言ったかもと彼女は思う。片袖抜いたコートで包める『お隣さん』の距離。
「膝でも、いいけど」
「そっちがいいな」
 大切な一番星の招きに目を輝かせ、少女はお隣の距離からちょこんと膝へと移り、上機嫌。
(「だって秘密のボクの特等席は隣よりずっとあったかいの」)
 ふたりだけの距離で、空を見上げる。
 星空は誰にも一緒で、お揃いはしあわせ。そう思う御影だから、エトワールと一緒に星を見上げられるこの時間はこの上なく嬉しく、そのゆるゆるな頬が愛おしく思える。
「きれいだね」
 エトワールが見上げた顔もゆるゆるで、星空の下彼から零れる言葉は優しいおと。
 星空は繋ぐもの。背中の彼は夜空で、ボクは星、二つを結ぶ『いっしょ』で『おそろい』のしあわせの証なのだ。
 エト嬢。黒兎の青年は真剣に、伝えたい想いを言葉と紡ぐ。
「これからも、夜空が星の隣に居ていいだろうか」
 先日の朝の一番星に願ったこと、いつも彼女に言っている事と同じ、けれど意味は違うそれ。
「……星も夜空の隣に居たい、です」
 後ろから差し出された手をそっと握り返し、エトワールが続けた言葉は『ずっとだよ』。
 彩りの想い出達に、また一つ。

「凄く、贅沢……」
「ええ。まるで夜空の中に浮いているようですね」
 空の光と地の灯り、空に揺蕩う気分で煌介がメイセンに微笑かけ、薄らと微笑み返す。
「この空気……やっぱり、懐かしい」
 静かな空気に、煌介はどこか切ない感覚を覚える。それはきっと失った過去に微かに繋がるようなもの。
(「けれど多分、幸福ではなかった」)
 そう心は囁きかける。でも、だからこそ。
「有難う、メイセン」
 幸福な今の姿をこの地に残したい。故に隣の魔法の徒の全てに感謝と愛を語り掛ける。
「貴方が今を楽しめることの助けとなっているならば、私も嬉しいですよ」
 ならば、貴女は? その問いにメイセンは少し不思議そうな表情を浮かべる。
 メイセンは自身を継ぎ接ぎの中途半端な魔女と時折語る。それはどこか他人と一線を引いているようで、
「……それが、俺は寂しいんだって、気づいた」
「ですが、事実です。そしてこの魔術スタイルが――これが、私」
 飴色リボンの黒い魔女帽子を揺らし、少し思案してからメイセンは続ける。
「だから、術者であり恋人である貴方に誤解されたくないのですよ」
 きちんと見つめてくれている煌介だからこそ、返すのは誠意を込めた言葉。少しの迷いも卑下もないと言えば嘘になるけれども、それは口にはしない。
 その応えに煌介は頷くが、心に心配は淀みの様に残る。だからこそ、金の瞳を銀の瞳でしっかり見据え、
「星も街も……一つ一つ、自由に光るだけ。でもそんな事が……こんな美しい景色を成す。……俺にとって」
 君と君の魔法は、もっと美しく眩しい。その心を伝える為の言葉を紡ぐ。
「……貴方の言葉は眩いですね」
 ぽすん、とメイセンが身を預ける。そして煌介は希う事をそっと口にし、彼女がそれに頷く。
(「それで貴方が安心できるならば」)
 煌介は彼女をしっかりと抱きしめる。互いの温もりが届くように、壊したくないものを抱くように。

「暖冬とは言うが」
 標高の分、少々冷えるなと清士朗がぽつりと呟き、エルスの肩をそっと抱いてベンチへと腰を下ろす。竜の青年が手編みの黒マフラーを彼女にもくるくると巻くと、彼女は毛布と魔法瓶を取り出した。
 毛布に二人で包まり更に温かなミルクティーとなれば冷える夜の時間でも至福の時。柔らかく微笑む青年の表情は穏やかなもの。
「ではお菓子の方もどうぞお姫様。ショコラを挟んだラングドシャにフィナンシェだ」
 ほら、あーんと甘みを彼女に差し出すと、毛布から顔だけ出したエルスがお菓子をはむっと頬張る。
「美味しいの」
 程なく広がる甘味に彼女の表情は綻び、愛しい顔を見上げる。
「デウスエクスの故郷の星、ここからは見えるの?」
 静かな時間、星空を二人で見上げながら、エルスが呟く。こんなにも多くの星があるのに、なぜ地球だけは特別なのか、グラビティ・チェインは本当に何なのか。そんな浮かんでくる疑問。
「この星は宇宙で唯一グラビティチェインを生み出すという。ひょっとしたらデウスエクスの生まれ故郷もこの地球だったりしてな?」
 そんな風に会話し過ごす、穏やかな時。
 カップも何度か空になった頃、エルスが毛布から抜け出して伸びをし、くるりと振り返る。地面にも届きそうな銀の髪、それを飾る水晶の白椿が月に照らされる。
「もう少し、星の近くに、散歩してはどうかしら?」
 分からない事は放っておいて、今はこの瞬間を。地面を蹴り一対の小さな白翼を広げ、清士朗の背より少し高くに飛んだ天使の少女が手を差し伸べる。
「さて今夜は保護者同伴だ」
 ――お前の好きな夜空の散歩も付き合おうか。
 今の空の色にも似たコートの袖から伸びた手が、少女の白い手を取った。

●星に願う
 星空を見上げ、ゆっくりと、けれど迷いなく進むイッパイアッテナ。そして主に遅れずてくてくと歩を進める愛箱のザラキ。
 コートに御洒落なハンカチをスカーフのように巻いて寒さ対策をしていた彼は、散歩していることもあり寒さはそれほど感じていない。また、灯りの殆どない山の道でもドワーフの目は道を見逃したりはしない。
 秋ももう終わり。枯葉を踏みしめ、空の星々と冬の空気を味わいながら彼らは、さながら未踏の地を往くかのように夜の散歩をマイペースに楽しんでいた。

「流石に山頂は冷えるな」
 防寒対策は万全、けれど口から漏れる白い息に銀河は思わず呟く。帽子にマフラー、彼に劣らず完全装備なネイトも同意。
 雨依の準備していたココアが白く湯気を立て、【かがり火】の三人の喉を温かく通り潤す。その温かさを感じながらネイトはじゃーん、とマシュマロを取り出す。更に炙るためのガスバーナー。
「ちょっと焦げ目をつけて……ココアに!」
 大好きな飲み方なんだとオラトリオの少年。よかったらどうぞ、と彼の言葉に二人も試してみる。
「よかったらどうぞ」
 偶然付近で星空を眺めていた知香に、ココアを注いだカップを雨依が差し出す。有難うと白熊は掌を温めるよう包み込むように受け取り、じんわり掌を温める。
「あ、ハッピーバースデー雨河さん。素敵な招待に感謝でっす」
 その声の先には手を振るクロノ、それからやれやれという表情のレーベン。
「結局、楽しむだけ楽しんだら帰るだってさ」
 口では呆れた風でもあるが、表情はまんざらでもなさそう。そんな二人の様子に、知香は帰りは気を付けてと手を振り笑顔で見送った。

 冬の鋭く透き通った空気は空の明かりを彼らの元へと降り注がせ、その美しさに兎の少女はほう、と息を吐いた。
「本当に吸い込まれそうです……晴れてよかったですね」
「冬の星空は、空気が澄んでいて綺麗って聞いたけど……」
 ずっと見てると飲み込まれそう、そうネイトが思う位に星の輝きは鮮やかだ。
「山頂までくると人光は届かないから小さな星まで見えてくるんだ」
 見える星々はまるで空の宝石。そのまま降ってきそうな、今見えているこれが星空なんだ、と銀河は言う。
「銀は詳しいの?」
 星座、全然知らないんだ。少し照れくさそうに、けど黒瞳に期待を浮かべるネイトの問いに銀河は力強く頷く。
「さて、冬の星座と言えばオリオンだ。まず三ツ星を探そう」
「あ、あれがオリオン座でしょうか。あんなにはっきり見えるんですね」
 銀河の星の説明を聞き、雨依が星空を指差す。
「ああ、その辺りだ。そこからこっちの方に牡牛座、それにふたご座。それから冬の大三角は……」
 ココアに時折口をつけ、暖かさを感じながら銀河の話は続き、雨依とネイトは熱心に聞いて空を眺めている。そんな仲間たちの星を見る姿を見ていると、銀河も嬉しくなる。
「俺はいつも悩みがあると夜空を見上げる。すると小さくなって薄れていくんだ」
 だから星空は尊いんだよ、そう言って彼は微笑んだ。
「今日はまた一つ、勉強になったよ」
 銀河の星座の話に、ネイトは星空の楽しみ方の一つを味わえたようだ。
 雨依も、星空と楽しい話にこのんびりした時間を仲間と過ごすことが嬉しくて。
(「青空や曇り空も好きだけど」)
 またみんなで見に行きたい。星空の素晴らしさに、雨依はそんな風に思った。

 ――この先も皆に星達の加護があります様に。
 銀河の呟きが、冬の大気へと溶けていった。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月16日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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