古本市を襲う竜牙兵!

作者:流堂志良

●血に濡れた駅前広場
 駅前広場は古本市で賑わっていた。
 並んだテントの下では古本が並べられ、人々は気になる本があれば足を止めて店主とやり取りをする。
 広場の隅には軽食やコーヒーや紅茶などのドリンクを販売する露店。その周囲には購入した本がすぐ読めるちょっとした休憩スペースがある。
 至って平和な光景であった。
 しかし、そこに飛来した牙がその光景を壊す。
 広場に突き立った牙が鎧をまとった竜牙兵へと姿を変えた。
「グラビティ・チェインをヨコセ!」
「ナケ! サケベ! そのコエがドラゴンサマのカテとなるのだ!」
 竜牙兵たちは口々に言うと、手にした武器で周囲の人々を無差別に切りつける。
 悲鳴が上がる。泣き叫ぶ声が聞こえる。
 そして竜牙兵たちの笑い声が響き渡った。
「ギャハハハ!」
 竜牙兵が武器を振るうたびに、血の匂いが周囲に広がっていくのだった。


「読書の秋ですが、皆さんは本はお好きでしょうか? というのもですね、竜牙兵が古本市を襲撃するという予知があったのです」
 集まったケルベロスたちに上代・ミナキ(オラトリオのヘリオライダー・en0282)は依頼内容を述べた。
「急いでヘリオンで現場に向かって、凶行を阻止してください」
 この予知は堂道・花火(光彩陸離・e40184)の情報提供によって得られたものである。
 ミナキは手にした資料を確認しながら説明する。
「ただ、竜牙兵が出現する前に周囲に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所にし出現してしまいます」
 そうなると被害が大きくなってしまうのが注意する点だ。
「現れる竜牙兵は4体います。ゾディアックソードを装備しているのが2体、こちらはディフェンダーのようです。そして、簒奪者の鎌を使うのが2体。こちらはクラッシャーのようですね」
 それぞれ武器のグラビティを使用してくるという。
「簒奪者の鎌を使用する2体は、体力が半分ほどになるとドレインスラッシュをよく使うみたいです」
 そしてミナキは資料を一枚めくり、現場の説明へと移る。
「現場は古本市が開催される駅前広場です。広場の中央に竜牙兵が出現します。皆さんが到着した後の避難誘導などは警察に任せられるので、竜牙兵の撃破に集中してください」
 また、戦闘が開始した後、竜牙兵たちが撤退する事はないとミナキは付け足した。
「竜牙兵による虐殺なんて許せません。古本市に来た人々の為にも、どうか討伐をお願いします」
 ミナキは最後に深々と頭を下げたのだった。


参加者
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)
凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)
モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)
清水・湖満(氷雨・e25983)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)

■リプレイ

●古本市に竜牙兵現る!
 古本市が行われる駅前広場は行き交う人々で賑わっていた。
 そこへ飛来する竜の牙。
 駅前広場の中央に突き立つ牙は4体の竜牙兵に姿を変えた。
 2体は鎌を持ち、2体は剣を持つ。
 竜牙兵たちが各々に武器を振り上げ、手近な一般人を切りつけようとした時、まさにその時。
「結構、本は読む方なんだけどよ。古本ってのは良いよな。下手すりゃ俺等よりも存在しているんだからよ」
 モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)が想いの籠った一言と共に放った攻撃が、竜牙兵の攻撃を阻む。
「面白い一期一会が詰まっているのが古本市だ。そんなイベントに水を掛けようなんて馬鹿はどいつだ?」
 モンジュの声は竜牙兵たちへの怒りに震えている。
「デウスエクスだよ、すぐに避難を…!」
 シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)はそう叫び、竜牙兵に攻撃を仕掛ける。
「ナニッ……!?」
「ケルベロス、だト!?」
「ソレがどうした!」
 ざわめく竜牙兵。しかしケルベロスがどうしたと言わんばかりに、立ちすくむ一般人に竜牙兵は剣を向けた。
「ウオオオ!」
 咆哮を上げて他の竜牙兵たちも動き出す。
 声を張り上げ人々に避難を呼びかけていたローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)は素早く割り込み、竜牙兵の注意を引きつける。青い瞳に軽蔑の色を乗せて、彼女は竜牙兵を睨む。
「本は読めない骸骨さんが古本市に何の用かしら?」
 そうして、硬直した一般人を振り返り、安心させるように避難を促す。
「アタシたち、ケルベロスがいるよ。だから安心して避難してね」
「芸術の秋て、素晴らしいことなのに……あんたらには理解出来へんのかな。――残念やわ」
 清水・湖満(氷雨・e25983)はゆったりとした口調で冷たく竜牙兵たちを睨む。
「こんな楽しいイベントをめちゃくちゃにしようとするなんて許せないッス!」
 堂道・花火(光彩陸離・e40184)は憤りを隠せずに一般人に向かう竜牙兵の前に割り込んだ。
「させないッスよ!」
 すぐに待機していた警察たちが動き、速やかに人々を避難させていく。
 避難が終わると広場は竜牙兵とケルベロスたちのみになる。
「後ぁ任せな。……んじゃま……ヤローども、殺っちまえ!」
 燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)の張り上げた声に応えるように、凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)が前に進み出る。
「今日は一般客としてここに来たかったかなぁ……」
 次の瞬間に彼の表情はがらりと変わる。ニィッと口の端を上げて竜牙兵を見る。
「さーて、それじゃあ始めようか……♪」
 まるでスイッチが切り替わるかのようにその目は怪しく光った。

●竜牙兵を討伐せよ!
「ぁ? 文句あんのかよ」
 亞狼が『Burning BlackSun 波』を放つ。
 背に黒い日輪が浮かぶ。どこか不気味、薄気味悪い。そこにあることで落ち着かない。
 そんな強烈な存在感の日輪から放たれた熱波は竜牙兵たちを包み、警戒心を抱かせた。
 注意を引きつけるには十分な攻撃だ。
「支援なら、わたしに任せて」
 はんなりとした声で湖満は仲間を鼓舞するように紙兵散布を行う。霊力を帯びた紙兵が仲間を守るように取り巻いていく。
「よーし、いくヨ!」
 積極的に躍り出たペスカトーレ・カレッティエッラ(一竿風月・e62528)は『絶対零度手榴弾』を竜牙兵に向かって投げつけた。
 炸裂した冷気が竜牙兵にダメージを与える。
 ローザマリアは大胆に、積極的に攻撃を仕掛ける。
「剣よ、突き立て!」
 死天剣戟陣。天空より解き放たれ、降り注いだ刀剣は竜牙兵たちへと突き立っていく。
「グァァァ!」
 竜牙兵が大きく見せた隙を逃さず、花火とモンジュが攻撃を放つ。
「各個撃破ッス!」
「確実にぶち込むぞ!」
 花火の達人の一撃、モンジュの旋刃脚と妨害を含んだ攻撃が相次いで突き立つ。
「すぐにズタズタにしてあげるからね☆」
 斬霊刀『神気狼』を構えて、悠李は笑いながら心眼覚醒。心と刃を一体と成すよう集中する。
「悪夢を……切り刻め……!」
 シェミアの『ただ一振りの刃(ブレイド・オブ・ワン)』。振り上げた簒奪者の鎌『蒼き炎獄の裁首』の刃に研ぎ澄ませた魔力を乗せ、振り下ろされる。その一撃を受けた竜牙兵は恐ろしいものを見たように悲鳴を上げて苦しみ出す。
 しかし負けじと竜牙兵も攻撃を返す。鎌が、剣がケルベロスに振るわれる。
「それがどうした」
 多少攻撃を受けたところで亞狼は怯みもしない。
 釘の生えたエクスカリバールで竜牙兵を滅多打ちにする。
 一度、二度、三度。竜牙兵の頭をガンガンと叩く。
「うギャああああ!」
 傷を広げられた竜牙兵は悲鳴を上げてのけぞった。
「……あは、まだまだこれからだってばッ!」
 悠李も軽業のような動きを見せて、竜牙兵へと迫る。
「さぁ――切り裂き魔のお通りだ……♪」
 切り裂く。切り裂く。軽やかに舞うように。
 その技の名は『切裂魔の遊戯(キリサキ・ジャック)』である。
 何度も竜牙兵とケルベロスは激突する。
 湖満はこの戦いを支える、まさに支援役だった。
 竜牙兵に相対する仲間の集中力を高めると同時に、集中的に攻撃を受ける前衛の体力を保つ。
 そして意外に注意深く仲間たちの様子を見ていた。
 異変があればすぐに声を掛け、回復させる。
 ペスカトーレは積極的に炎と氷を竜牙兵にばら撒き、体力を奪っていく。
 竜牙兵もやられてばかりではない。ゾディアックソードを使い、仲間を回復に導く。
 だが、その程度ではケルベロスの猛攻を受け止めきれない。
「大時化・スコールなんのその!!」
 消耗した竜牙兵を狙い、ペスカトーレが巨大な錨を投げつける。
「ギャアアアア!」
 潮の流れにも負けない、嵐にも負けないような錨は竜牙兵を地面へと叩きつけた。それっきりその竜牙兵は骨も崩れて動かない。残る竜牙兵は――3体。
「骨のない相手だなあ。骨だけど!」
 トドメの一撃を決めたペスカトーレは余裕の表情。
「次に行くッスよ!」
 花火はそう言い、次のターゲットに狙いを定める。
「地獄の炎は、力任せに燃やすだけが取り柄じゃない! 火力全開、手加減なしッス!」
 両腕の地獄の炎が燃え盛る。巨大化した炎を振りかぶり、投げつける。炎を纏った旋風が竜牙兵に叩きつけられ、切り裂いていく。
 その技は『気炎万丈・旋風斬』。名前が表す通り旋風で切り裂くことを主眼に置いた超絶技巧の技だ。
「蒼炎の一撃……その身に刻め……!」
 シェミアは蒼く燃える地獄の炎を、竜牙兵に叩きつける。
「食らえ! 二刀斬霊波!」
 モンジュが両手に構えた斬霊刀。『御魂刀「霊呪之唯言」』、『御心刀「仇桜」』。その二振りから衝撃波を放つ。
 その後を追うように、ローザマリアの雷刃突が突き立っていく。
「どうかしら?」
 こうなると竜牙兵がどれだけ回復を行おうと無駄である。
 畳み掛けるように悠李が高く、高く跳躍する。
「あっはははっ! そこだッ! どう? まだまだいくよ♪」
 空からの絶空斬。竜牙兵が頭から切られ、激高したように竜牙兵の敵意が悠李へと向く。
 しかし逃さぬように、亞狼がまた背に黒き太陽を浮かべる。
「おぅコラ、てめーの相手はこっちだ」
 不気味な熱波に敵意の向きを変えて、竜牙兵たちは亞狼へと向かっていく。
「大丈夫?」
 湖満は独特のゆったりとした喋りで、彼の様子を窺う。
「おぅ、問題ねぇ」
 喋りながらも、亞狼は動きを止めない。これが効率的だと言わんばかりに。
「隙ありッス!」
「あは、最後まで楽しませてよね……ッ!」
 花火の達人の一撃に続き、悠李の『切裂魔の遊戯(キリサキ・ジャック)』が竜牙兵を切り裂いて、竜牙兵はゾディアックソードを取り落とし、そのまま骨も崩れ去った。
 残るは――2体。
「後は……鎌使いだけだね……」
 シェミアは愛用の簒奪者の鎌『蒼き炎獄の裁首』を握りしめ、並々ならぬ敵意を竜牙兵に向けた。
「鎌使いとして、わたしの方が上だということを見せてあげる……!」
 同じ武器を使う者として、竜牙兵が許せないとでも言うかのように、オラトリオの少女は武器を振り上げた。
「時ごと凍てつけ……!」
 その隣を武器をローザマリアが駆けて行く。
「いくわよ!」
 二人の時空凍結弾が容赦なく、竜牙兵を凍らせる。
「焼き尽くすヨ!」
 ペスカトーレのナパームミサイルが焼き尽くさんと竜牙兵に迫る。
 まさに集中砲火であった。
「グあっ……オノレ、ケルベロス……!」
 簒奪者の鎌で竜牙兵はケルベロスから体力を奪うが、圧倒的に足りない。
「もう少しやね」
 体力を奪ったところで、湖満が即座に仲間の傷を回復するのだ。
「おぅそっち頼まぁ」
 亞狼は竜牙兵の進行をわざと邪魔するように立ちふさがり、逸れた敵を仲間に託す。
 頼もしい支えを背景に、ボロボロになった竜牙兵にシェミアが深く踏み込んだ。
「その悪意……ここで、刈る……!」
 渾身のギロチンフィニッシュ。鎌使いとしての格の違いを見せつけるように、その一撃は竜牙兵の命を奪い去ったのだった。
 残る竜牙兵――1体。
 最後の竜牙兵は破れかぶれに鎌を振るうが、もはやケルベロスの脅威にはならない。
 すぐにふらふらと隙を見せ、そこにローザマリアが畳み掛けるように武器を振りかぶる。
 その技の名は――高速劒『紊雪月花・風華散舞』。
 両手に持った斬霊刀、『応報之劒【Fragarach】』、『因果之劒【Answerer】』で斬る。斬る。
 斬撃の速度は目では追いつかない。一閃ごとに花が舞うようにさえ見える。
「今度はドラゴンに本を読む目を貰って生まれて来ることね――Do widzenia」
 最後の一閃で悲鳴も上げずに竜牙兵は弾け飛び、骨もバラバラに落ちていった。

●取り戻した古本市
「それでは、片づけを始めようかしら」
 ローザマリアの言葉に、花火が賛成の手を上げる。
「お手伝いするッス! 古本市が再開できるならちょっと見て回りたいッス」
「ボクもお手伝いするヨ! いい本があるといいネ」
 続いてペスカトーレも名乗りを上げて、手分けして現場のお片付け。
 すぐに現場も片付き、再開された古本市に活気が戻ってくる。
 古本を買い、行き交う人々の表情は皆明るい。
 それを見ているとと古本市が気になってくる。
「ちょっとだけ、見てみよかな……あの辺とか」
 湖満は気になる本があるようで、売り場の方をちらちらと伺っている。
「古本かぁ……小説も読むけど、時間かかるんだよね……」
 シェミアはぐるりと周囲を見渡しながら歩き、勧められた可愛らしい表紙の本に戸惑う。
「一期一会の出会いだな……」
 モンジュは取り戻した風景を前にしみじみと呟いた。

作者:流堂志良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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