紅色とかづら橋

作者:志羽

●紅色とかずら橋
 山の木々が色付く。紅に黄色と鮮やかな色彩を見せる秋。
 となれば、行楽シーズンでもある。
 とある県の山奥にある、シラクチカズラで編まれた吊り橋。
 水面からは14メートルの高さがあり、足場となる木の間隔が広く、下を流れる渓谷は丸見え。
 常にゆらゆらと揺れているようなその橋は人によっては渡りきるのに勇気がいる。
 そして日が暮れはじめるとライトアップされ、紅葉の色と渓谷、そして吊り橋はとても幻想的で見惚れるものがあるという。
 それから、周囲には屋台などもあり、渓谷でとれたあまごや鮎、それからでこまわしという、芋、コンニャクや岩豆腐の田楽のような郷土料理も買って食べる事ができる。
 そんな、秋の行楽へむかう道がデウスエクスの襲撃により破壊されたのはついこの前の事だった。

●ケルベロスさんにお願い
「修復ついでに紅葉を楽しみに行く気は――あるよね」
 集っていたケルベロス達へ修復の話をしようとした夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は、話す前に出た結論に笑う。
「お願いしたいのは道路なんだ。でもそれをずっと奥地へ向かうと、そこに渓谷があって紅葉も見ごろ」
「渓谷! 紅葉!」
 尻尾跳ねさせながら、見に行きたーいとザザ・コドラ(鴇色・en0050)は手を上げる。
 するとイチはそれだけじゃないんだよねとそこにある橋について話始めた。
「そこにはね、シラクチカズラっていうツルでできた吊り橋があるんだ。今はワイヤーとかで補強してるんだけど、昔からある吊り橋」
「吊り橋……」
 ちなみに、水面からは結構高さがあり。足場となる木の間隔が広い為、すかすか。良く、下が見えるとイチは言う。
「それから、良く揺れるって」
「や、やだそれ怖そう……」
「うん、だから無理そうだなって思ったら渡らないことをオススメするよ。あと橋は一方通行っていう約束があるからそれも守ってね」
 そして、もし渡れなくても夕方からはライトアップされるのでその光景を楽しむのも良いよ、とイチは続けた。
 ただライトアップの始まってからは橋を渡れないので、吊り橋と渓谷の様子が見える場所から楽しめるという。
「あと他のお楽しみは……屋台とか? 炭火で焼いた鮎とかの川魚。あとでこまわしっていう郷土料理もあるよ。田楽みたいな感じかなー?」
「でこまわし……あっ、これねこれね」
 と、端末でささーっと調べたザザはなんだか可愛いと言う。串、というより棒に岩豆腐やコンニャク、じゃがいも等を刺して味噌をつけて焼く。そのシルエットが人形のようでその名が付いているという。
 ということで。
 ヒールの後、紅葉の渓谷、吊り橋へとご案内。


■リプレイ

●紅色がひらひらと
 渓谷に来て川魚を喰わない理由はない。
 ということで口にすれば脂のノリと塩加減の絶妙さにヒコは満足そうに。
「シンプルな味付けでしつこくないのも酒が欲しくなる旨さ」
 もう一口と市松も味わっていると、魚と一緒に買ったでこまわしを見詰めているヒコに市松は気付いて。
「お、お前さんそれも買ったのかい?」
「……思った以上に人型だな」
 そう言って思い立つ儘に串振り揺らして操って。
「コンニチハ、イチマツクン! ゴハンハオイシイ?」
 と、やってみるものの。
「……あー、やめやめ。こっぱずかしい」
「って、食べるの早いってーの……!」
 軽率だったと誤魔化すように口にすれば味噌味の至福。
「もうちと人形劇を楽しませてくれても良いだろい。オレは鮎を食うけどな!」
「あっ、てめ、市松。一番旨そうな脂身とるんじゃねえ!」
 遠慮なく市松はヒコの鮎へ手を伸ばす。
 それはいつもの事。
「秋は美味ぇもんが沢山あっからしゃーねぇな!」
 共に出かける秋は美味しい秋。
 それではと向かうのは秋の度胸試し。
 揺れる吊り橋の度胸試しにかけられるのは今夜の酒代。

 橋を渡る……のだ! とミリムは言って恐る恐る一歩を。
「吊り橋って、見るとなんとなく渡りたくなるよな……俺だけ?」
 恐いもの見たさかねぇと、強気のミリムの隣で空牙はいつものように笑む。
「こここ、怖くないぞ! ヘリオンで普段更に高い所いくんだし!」
「ヘリオンより確かに低いが……安心感がまるでねぇな、これ」
 一歩進めば揺れる。そんな吊り橋の様子に脆そうだとも空牙は思うのだ。
「空牙ゆ、揺れる! 揺らされてます! 落ちる! 落ちます!」
「揺れるが落ちないって。一般人だって渡るんだから大丈夫大じょ……って、大丈夫か?」
 と、耐えきれずにしゃがみこむ。すると下が見えて動けないという悪循環に捕まってしまったミリム。
 空牙はミリムに手を伸ばし支えようとすれば――抱きつかれて。
「一生離さないでください……!」
「おう、元より離す気はねぇさ」
 一生隣にいるよと柔らかな声で告げる。
 渡り終えバツの悪そうに離れようとしたミリムだったが、繋がる手はそのままに。

 ちょっと足が震えちゃいそうと言いながら由美は一歩。
 そして周囲を見渡せば、秋の色。
「うわー、凄い遠くまで見えるねー」
 そこでふと、下を見てしまった由美。
「ヤトル、下だけは見ちゃ駄目だよ?」
 ちょっと青ざめつつ強がりながらの笑み。
 てっきり平気だと思っていた由美のその表情に、絡めていた腕をしっかりヤトルは支えて。
「なら俺は、由美さんを見てるよ」
 もし足場が抜けてもこれで大丈夫と、ヤトルは力強く。
 二人でゆっくり、橋を渡りつつ気分は秋の先へ。
「もうすぐ冬だねー。寒いけど冬の山も凄いよ? 雪が降ると一面が銀世界でさー。一緒に見たいね」
「この紅い景色もぜんぶ真っ白になるのか? それはすごいな」
 雪に埋もれる街の景色は何度も見てきたけど、冬の山に登ったことは無いかもしれないとヤトルは紡ぐ。
 由美はヤトルに微笑み向け、二人でいられる事の喜びを感じていた。

 一歩踏み出せば、ゆらゆらと。
「こうやって立ってみると、思ったより揺れるものだねぇ」
「わっわっ、結構揺れるー!」
 きゃっきゃと楽しそうな声を上げるのは言葉だ。
 落ちない、とは言え結構なスリルなのと言葉は言う。
 クーゼも足場が不安定な高所は中々に不安を煽ると紡いで手を差し出した。
「大丈夫かい? 言葉」
「うふふ、大丈夫……と言いたいところだけどここは甘えておこうかしら?」
 そう言って、クーゼが差し出した手を取る言葉。
「屋台もいっぱいね! でこまわしも興味あるし、どこかしら」
「でこまわしは向こうの屋台みたいだね。俺も初めてだから楽しみだ」
 と、きょろきょろする言葉の手には美味しそうなものが増えていく。
「ううむ、相変わらず俺たち色気より食い気なんだが大丈夫だろうか」
「両手に食べ物なんて、美味しいものがこの世にありすぎるから仕方ないの」
 鮎も美味しいともぎゅもぎゅ食べて。
「不安なんて美味しいもので吹っ飛んでいくものなの!」
「そうだな。せっかくうまいもの食べているのだし、気にするだけ損だな」
「そうそう、不安が吹き飛んだらこのでこまわしにさっそく挑戦なの」
 今を全力で楽しもうか! とクーゼも言って二人の手にはでこまわしが。
 一口目のタイミングは、同じ。

「わぁ……かなり高い所ですわね。ちょっと怖いですわ」
「確かに高いな。足踏み外したりするなよ?」
 そう言って克己が差出した手をカトレアはとりそろりと一歩。
「でも、どんなに高くて怖い場所でも、克己と一緒なら渡れそうな気がしますわ」
「そいつは嬉しいね。なら、俺はお姫様を守る騎士かな?」
 こう言うのって、吊り橋効果って言うのでしょうか? とカトレアは楽しげだ。
 吊り橋効果ね、と克己も笑みつつ思うのは、そんなのなくてもドキドキさせられてるけどな、と言葉にしない気持ち。
 それを口に出すのは恥ずかしいく、手を握る力をちょっとだけ、強めた。
 そして、吊り橋を渡りきって一呼吸。
「一緒に来て下さって有難うございますわね」
「下の方に店があるみたいだし、ちょっと覗いてみよう」
 ちょっとスリリングな体験もまだ二人の時間は続く。

 一緒に如何と誘いつつ、風のように先を行く。
 揺れる橋、その足許はオルテンシアにとって見慣れた景色。
「へリオンを操縦しているときと、どちらが怖い?」
 その問い掛けは風に攫われず、いま! と、珍しく焦ったような声色と日頃見せる事ない姿。
「……やっぱり、進むしかない?」
「一方通行ってそういうことでしょう?」
 引き返せないわよとちょっと意地悪を言ってみるとイチはそろそろ進み始めた。
 染まりゆく紅葉は確かな世界の歩みにもみえて。
 編まれた蔓のように束ねることで力となるもの。
 頼りない声に笑ってオルテンシアは、それをしっかり掴んで渡り往きましょうと紡いだ。

 ずっと興味はあったけれど一人で渡るのはと思っていた慶。
 でも今日は、頼ってもいい相手が隣にいる。
「……手、貸してくんね?」
 言いながら、慶は真介の袖をくいくい引っ張る。
「……ん、いいよ。危ないもんな」
 足場とかじゃなくても、いつでも、と。
「俺の手でよければいつでも貸すよ」
 その、真介からの答えに慶は表情綻ばせ、ぎゅっと手を握り返す。
 渡り始めれば思いのほか揺れている。
 大丈夫かな、と真介は慶の様子を時々窺う。
「……慶、大丈夫? 顔が、ちょっと強張ってるような」
 戦う時は足場が悪くても気にしないのだが、今は少し怖いような。
 けれど、真介が頼もしくて。
「ありがと。……こうできんなら、この足も悪いことばかりじゃなかったな」
 思い切って腕を絡めて慶は笑む。
 真介はそれに少し驚きつつも、微笑む慶の姿に嬉しくなって自身の口元も綻んでいた。
「……ん、そうな、紅葉もご飯も楽しみ」
 渡り終えたら紅葉と上手い飯も待ってると、楽しみを紡ぎながら。
 先へ先へ、一緒に歩いて。
 橋を渡った、その後も、帰り道も一緒に。

 翼あるわたくしには怖くなど、とアイヴォリーは悠然と一歩踏み出した。
 けれど。
「えっ何これすごい揺れる、揺れ」
「大丈夫? 怖くない?」
「いえ全然大丈夫です!」
 その様にでは参ろうかと先を往く夜。
 鮮やかな色にご覧よ、風雅だねと紡ぐ返事は。
「よ、よるさん……たすけて……」
 仔鹿のようなアイヴォリーのギブアップは、早く。
「確り掴まっておいで」
 涙声の救援に目を瞬きながら差し伸ばされる手。
 それに縋れば、周囲目を向ける余裕もできる。
 遙か昔から繰り返し続く彩に。
「この橋を架けた誰かも、錦のようだと喩えたかしら」
 行けども戻れぬ此の橋は、と夜は言う。
「止まらぬ時の流れを、故にたった一度しかまみえぬ『瞬間』との逢瀬――人生を、謳ったものかもしれないね」
 ならばこの瞬間を、この様を目に焼き付けて、微笑んで。
 一方通行で良かったと、アイヴォリーは零す。
 ただ一度きりの今の貴方がこんなにも美しく、見えるからと心に仕舞って。
 共に歩む一足は、どんな感情も彩り豊かなもの。

「こんな橋、見るの、はじめてよ!」
 本当にツルが編まれてるね、という春乃は楽しげだ。
「どう? 春乃、こわい?」
 と、吊り橋効果を期待してアラドファルは問うのだが。
「わたしは全然こわくないよ~」
「空を飛べる君には、余裕かな」
 落ちたとしても、二人で飛べばいいと微笑んで手を差出せば春乃はそれを握り返した。
 そして中ほどで、足元流れる清流にアラドファルは目を向ける。
「あぁ、こんな綺麗な川で育った魚はさぞ美味しいだろうな」
「アルさん、花より団子みたいね?」
 と、春乃が笑った瞬間に――ぐらりと。
 風か、はたまた橋渡る誰かの重みか。
 大きく揺れ、握る手に力が入る。
「わっ、あぶなかったねえ」
 ちょっとびっくりした! とアラドファルを見あげ。
「怖くて、どきどきした?」
「今のは少し、怖かった」
 どきどきするのはその恐怖か――それとも、距離が近くなったからか。
「何があっても守るから、だいじょうぶよ」
「……俺だって君のこと、何があっても守るから」
 今のなんて全然平気。
 繋いだ手の力を感じながら二人でまた一歩進む。

 繋がれた大きな手が今日は一際有り難い。
 歩幅落としゆっくり進む。時折立ち止まって感嘆の吐息を漏らす陣内。
 目の前の色彩を言い表す言葉が見つからず、心に募るのは――ああ、描きたいな、と。
 一筆一筆に抱く感情乗せて、描き表わせるかと、思うのだ。
 そしてあかりは――ああ、きっと描きたいんだろうな、と陣内を見詰めていた。
 いつもより言葉少なく、けれど。
「紅い色はずっと身近にあるはずなのに毎年秋になると、こんなに綺麗な色だったのかとはっとするんだ」
「……紅葉が綺麗に見えるのはね。赤くならない葉の緑色や、水辺の碧い色と互いに引き立て合うからなんだよ」
 橋を渡りきって紡ぐ言葉はゆったりとしていて。
「補色はそのままだと喧嘩してしまうこともあるけど、うまくバランスを取れば最高のパートナーになる、ってわけ」
「紅が紅としてこんなに色鮮やかでいられるのは」
 他の色と共に在って、互いを引き立てているからなんだねと、陣内の髪梳く手の心地に瞳細めながら、その翠の瞳の中に自身の色をあかりは見つけていた。

●夜の灯りの中で
 ライトアップされた橋を見上げれば、その先の夜空も目に入る。
「なんとも雰囲気があるというものだよね。如月ちゃん、寒くない?」
 冷えないように、もうちょっとこっちにおいでと萌花は手招き。
「ん……ちょっとだけ寒いかな、お言葉に甘えるのよぅ」
 夢の世界から切り取られたような景色を見つつ、思わず緩む如月の表情。
 くっついていれば少しはあったかくなるでしょ? と笑んだ後に萌花は。
「それにしても、もう抱っこしてなくてへーき?」
 と、昼間の事をからかってみたり。
 するとお昼の事は言わないでとかぁぁと如月の頬は染まる。
「さ、流石にもう平気だし、腰も抜けてないし!? ……でも」
 抱っこされた時の感触を思い出し如月はぎゅとくっつき直し。
「怖かったけど……もなちゃんがいたから」
「でも、如月ちゃん、改めて、よく頑張って渡れたよね。渡りきった途端動けなくなってたけど」
「頑張ったらきっと……支えてくれるって、頼っちゃった」
 だからもう少しこのまま、甘えさせてねと言う如月の、その真っ赤になった頬を指でつついて。
「ん、甘えられるのは」
 大歓迎かな、と萌花は笑み向けた。

 ライトアップされた光景に涼香は瞳輝かせ。
「うわ、ちょうどつり橋が良く見えるね、良い位置!」
 なんだか非現実的な綺麗さだね、といった所でくしゃんと、涼香は可愛らしいくしゃみを。
 冷えて来たが二人共大丈夫? と壬蔭はストールを涼香の肩へ。
「これで多少は寒さを凌げるかな?」
「わわ、ありがとう」
 いつもより身を預けてみれば、もう寒さは何処かへ。
 折角だし温かいうちにと買ってきた鮎を口に。
「お酒があるともう少し温まったかな……」
「お酒も体が温まるだろうけど、今も十分あたたかいよ」
 お酒みたいに酔える人が、いるからかもと涼香は言う傍でねーさんは壬蔭の鮎に気を向ける。
「んっ、ねーさんの分もちゃんとあるよ」
「ねーさんも魚食べ終わったらおいで? 抱っこしてあげる」
 そんな様子に縁で、またひとつ、この人と季節を巡れたんだねと涼香は紡ぐ。
「とても、いい思い出が1つ増えたね」
 一緒に居るだけで特別な一日だねと、壬蔭は笑んだ。

 昼間はしゃいで夢の国の住人のミュゲを抱いて、つかさは幻想的だと零す。
「割と物悲しくもあるんだけど。それでも、やっぱり綺麗なものは綺麗だよな」
 その言葉にレイヴンは同意するように頷いた。
 写真に撮っても良いけどこれは記憶に焼き付けて残しておきたい類かな、とつかさが零すと、写真を撮ろうか悩んでいたレイヴンはスマートフォンをしまって、じっと同じ景色を見つめる。
 その様子につかさは瞬いて。
「うん? どうした?」
「つかさと同じ景色を、俺も目に焼き付けようと思って」
 写真だけが思い出じゃないって、なんとなくわかった気がするからとレイヴンは小さく笑って。
「想い出はさ、確かに物があればそれを媒介に思い出す事も出来るけど。形がないのも、悪くない」
 ミュゲが起きたらどれだけ綺麗だったか伝えたいしなと言うレイヴンの尻尾は嬉しそうに、ゆらゆらと揺れていた。

 少し寒くなってきたけれど、これくらいだと過ごしやすいわとメロゥは傍らへ視線を。
「梅太さん、梅太さん?」
 名を呼んで、メロゥは自分の手を指差し、緩く首を傾げて見せる。
 それはあぴーる。
 おててつなぎたいなぁ、というあぴーるだ。
 その様子にくすりと笑み零した梅太はその手をぎゅっと。
「メロは寒くない……?」
「……ぽかぽかです」
「……こうしていれば、あったかい、ね」
 夜空の下、その指から心も温もり伝えあって。
 一緒に眺めるのは、夢のような、幻想的な景色。
「このままずぅっと、ここにいたくなってしまうわ」
「うん、ずっとみていたいけど……まだ見たことない景色をきみと見たいから」
「見たことのない景色……うん、そうね」
 明日も明後日も、違う景色が広がっていて。
 あたたかな時間を共に、心に刻んでいく。

「お星様が綺麗ですね、万里くん」
 たくさんたくさんお話がしたいのだけれど、と一華は笑みを向ける。
 最近――いや、彼女の宿敵を倒したあの日から少し様子が変な時がある。
 万里は恋人のその様子に気付かないふりで、笑う。
「万里くん見て、あれは……何座かしら?」
「なんだろうな、星には詳しくないからなあ」
 暖かくしたけれど、寒いから――一華は万里の腕を抱いてぴったりくっつく。
「どうした? 寒いか?」
 まるではぐれまいとするかのように、しがみつく一華に万里も寄り添った。
 こうすれば寒くないし、夜も怖くない。ぜんぜんへいき、と一華は一度瞳伏せた。
「それでね、えっとえっと、あの」
 と、言葉詰まる一華に万里は笑って。
「一華は、よく泣くものなあ」
「わたし、万里くんに泣かされてばかり……あ、違いますよ! 良い意味! とっても!」
 たしかにちょっとだけいじめっ子かもだけど、と小さく呟いた一華は万里を振り仰いで。
「泣き方も、笑い方も怒り方も。沢山教えてくれてありがとう、万里くん」
 ちゃんと言いたかったんですと、一華は紡ぐ。
「……こちらこそ」
 少しの間をおいて、万里は答えた。
 泣いたり、怒ったり、笑ったり。
 万里が失くしたものを、教えてもらっているのだ。
 今共にいて眺める光景が夢のように綺麗だから、どさくさに紛れていじめっ子と呟いたのも今夜は聞き流してやろうと、万里は思う。
 そんな、良い夜。

 より一層紅く染まる紅葉の下へ、梓は散華を誘う。
 数歩先を行く散華へと、なぁ、と梓は声かける。
 くるりと散華が振り向けば、真剣な瞳に囚われる。
「――何だ?」
 悪いものでも食べたのか、とからかうように笑うと。
「俺と結婚してくれねぇか?」
 真剣な声色で、ぽつりと梓は紡いだ。
「――はぁ!? 結婚……!?」
 突然の言葉。それに散華は思わず驚きの声。
「愛なんて気持ちは判んねぇから、決して愛してるなんて言えねぇ。だが何だかんだとそれなりに一緒に過ごしてきて、これから先も一緒にいてぇと思ってる」
 梓は紡ぐ。
 紡いで、そして改めて視線を合わせ。
「いきなりで驚いたとは思う。そもそも俺自身、こんなこと口から出ると思ってなかったしなぁ」
 この、美しくもどこか寂しい景色の所為か。
 それとも今日はこのまま終わりにしたくないと思ったのか。
 梓自身も、不思議な心地。
「お、驚くなんてもんじゃないぞ……!?」
 散華は口をぱくぱくさせ、言葉もでてこずうまく返せないままでいると。
「とりあえず、返事はいつでも良いから、考えといてくれ」
「へ、へんじ……へんじ……!?」
 そう返した散華の顔は、紅葉と同じように――それ以上に鮮やかな紅に染まっていた。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月17日
難度:易しい
参加:31人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。