絹の誕生日~温泉宿に一泊だ!

作者:沙羅衝

「絹! 温泉は好きか!?」
 リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)が、昨日のハロウィンの後片付けをしていた宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)に唐突に聞いていた。
「え? そりゃ好きやけど、……なんでまた?」
 絹の言葉に、にやりと笑うリコス。そしてその場を去って行ったのだった。

 バン!
 机を叩く音がする。リコスが鼻息を荒くし、会議室に集められたケルベロス達を見て、口を開く。
「皆、温泉に行くぞ!」
 そしてまた唐突な言葉。だが、その言葉の真意を理解した一人のケルベロスが、絹の誕生日に行こうっていう事かと聞いた。
「うむ。知っている者は知っているだろうが、今日は絹の誕生日なんだ。そこで、皆で温泉宿に一泊してはどうだろう? と、思いついたんだ」
 得意げなリコス。勿論自分も温泉は好きだ。もっとも、リコスは湯というより、そこで出てくる料理のほうが目当てではあるのだが。
「場所は前回の依頼で行った、京都府の丹後半島にある温泉宿だ。男湯、女湯は日替わりなのだが、それぞれに楽しめる露天風呂がある。そして、何より料理だが、蟹だ。蟹だぞ!」
 バン!
 再び机を叩くリコス。そして拳を握り、目を瞑る。
 リコスさんリコスさん。よだれが垂れてますよ。
「……フルコースなのだが、今の時期はどうやら鍋が始まるらしい」
 滴り落ちるよだれを吹こうともせずにその目を見開くリコス。
「まあ、そんなわけでだ、行くぞ。そうだ、宴会も出来るから、皆で騒ぐのもいいな。催し物なんかしてくれる者がいれば、盛り上がるだろう! そういう事で、宜しく頼む。絹を楽しませるには、まず自分達が楽しむことだ。楽しもうじゃないか!」
 そんなリコスの提案で、一行は一路丹後半島へと飛んだのだった。


■リプレイ

●湯と素敵なたくらみ
「俺は陶器人形だから、食器洗い洗剤がボディーソープなんだ。お、背中流してくれるのか。嬉しいな! キュキュッとなるぞ」
 そう言って洗い場の小さな椅子に座ると、ハル・エーヴィヒカイトが彼の頭に載せられたウイングキャットの『ミコト』を降ろし、丁寧に季由を洗う。
「つやつやだな。生身では勿論、レプリカントでもそうはいないだろう」
 ここは男湯の内風呂に隣接された洗い場だ。ミコトはと言うと、泡でもこもこである。
「ミコト羊みたいだね」
 季由はそう言って笑う。
 ハルが勢い良くざばっと湯をかけると、毛が濡れて別の猫の様に思えた。彼は思わず苦笑して、
「誰だ君は。いやわかっているが誰だ君は」
 と言うのだった。
 その時、聞きなれた声が内湯にこだました。
「翠さん、私の翼洗って下さるの?」
(「!?」)
 季由はその声を聞き、少し顔が赤くなる。そう、女風呂には、いつもの仲間達が居るのだ。
「スタイルよくなる秘訣……」
(「す、すたいる……」)
「刈安……、いつもよりむ……」
(「!!」)
「どうした季由?」
 すると季由は照れた顔を隠し、一目散に露天風呂に飛び込んでいくのだった。
「いい温泉じゃないか、なぁハル!」
 とは、彼の言い残した言葉だ。

 一式・要が露天風呂への扉を開けると、目の前に滝の湯が見えた。少し冷たくなった空気と、早く体を温めたいという思いが交錯し、少し小走り気味に湯へと足をつける。
(「少し熱めかしら……」)
 それもそのはず、奥の岩肌から流れ落ちてくる湯は源泉かけ流しだと言う。そう思いながらも、一気に体を湯に沈める。
「……ふう」
 要は一息つきながら、そのまま空を見る。夜の帳が下りようとしている。そんな情景を楽しみながら風呂桶から徳利と杯を取り出していると、隣の女湯から良く知った声が聞こえてきたのである。

「なんだと! メリーはバンリの髪を洗うというのか!?」
 喜界ヶ島・鬱金はメリーナ・バクラヴァが莓荊・バンリの頭を洗って差し上げましょうか? という言葉を聞いて、なにやら思いついたのか、楽しそうな笑みを浮かべる。バンリはというと、鼻をぐぐっと引き締めていた。
(「あかんいかん湯に浸かる前からのぼせてしまうーでありますよ……」)
「では私はレインのお背中だ!!」
 メリーナに髪をわしゃわしゃと洗われながら鬱金の言葉を聞いたバンリの鼻は、暴発寸前だ。
「ん? 何? 鬱金殿もやりたいの? しょーがないなー!」
 黒須・レインはそう言って、持って来たあひるさんとおもちゃの海賊船を鏡の下の棚に置き、にこにことしながらちょこんと椅子に座る。
 そんな状況の隣で、リコス・レマルゴスがヴィヴィアン・ローゼットに手を引かれて、露天風呂へと誘われていた。
「絹ちゃん、リコスちゃん、一緒に入ろう!」
「……さっさと上がって蟹と行きたいところだが、時間はあるようだしな、ゆっくり入るとするか」
 その後ろから、宮元・絹とアメリー・ノイアルベールが続いた。
 絹が内湯を通り過ぎようとすると、お互いの体を洗いあっていた『賢島組』一行が絹に誕生日おめでとうと声をかけた。その度に、絹は有難うと返していた。
 まあ、バンリだけは既に両手で鼻を押さえているのだが……。

 今日の女湯の露天風呂は、岩肌から湯が伝って流れ落ちてくる言わば少しの滝のようになっていた。男湯とは少し趣が違うのか、その湯の範囲は広めとなっている。
「わたし温泉って初めてです。体の芯から温まって、普通のお風呂とは違った趣がありますね」
 アメリーはそう言うと、浴槽の縁に腰をかけようとする。しかし、少し体勢を崩し、片手を付いてしまう。
「アメリーちゃんのぼせちゃった!? 大丈夫!? くらくらしたら無理しないで上がろ、ね?」
「大丈夫です、蟹フルコースを食べるまでは死ねません。蟹鍋は、今わたしが食べたい日本料理ナンバーワンなのです」
 ヴィヴィアンがアメリーに声をかけるが、アメリーはただならぬ決意でもう一度、大丈夫と答えた。
「蟹は美味いな。そして、私も蟹鍋は始めてなんだ。楽しみだな」
「はい。すごく楽しみです……!」
 リコスが前回の感想を伝えるとアメリーは、きらきらとした目を返すのだった。

 すると、内湯の扉がガラリと開き、大勢の女子が感嘆の声を上げていた。
「So beautiful! これが露天風呂ってやつなのね……お湯だけじゃなく景観にもこだわってるなんて、日本人は流石……!」
 五十鈴・翠がそう言うと、刈安・透希も同意して頷く。
「ん、この温泉もだが蟹料理も楽しみだな」
 どうやら体は全員で洗いっこをしたらしかったが、普段異種族の、特に翼や尻尾などを洗うという事など無い物で、そう言った新鮮さも感じる事が出来たのだった。
「こうやって、のんびりゆったりとできるのって贅沢だよねー♪」
 シル・ウィンディアは、そう言って湯に浸かる。最初は熱く感じたが、徐々に体がなれてくると、ほわっとした気分になる。
「すごい迫力だ……ね……」
 シルはそう言おうとしたが、やはり皆のスタイルの良さに釘付けになってしまう。
「……う、ん」
 リィナ・アイリスはその気持ちと同じだったのか、同じように頷いた。
「あら? シルさんは、しなやかで湯の妖精の様にお綺麗ですし、リィナさんは可愛らしくて和みます。とっても可愛いと思うのです!」
 シルとリィナの表情に気がついたのか、ロゼ・アウランジェはそう言って湯に浸かる。
「さすが、みんな肌が綺麗だな……ん? 雫、どうした? 何か付いているか?」
「いつもより、胸が大きい……?」
 透希が真島・雫の視線に気が付いて聞くと、そんな答えが帰ってきた。
「ああ、いつもはさらしで潰しているからな……」
 そんな他愛も無い話をしていると、女子が集まれば、自然と意中の相手の話へと発展するものだ。

「ふぅ~気持ち良い~♪」
 瑞澤・うずまきは湯を見ながら、ほわあっと眺めていた。
「絹お誕生日おめでとう! 本当に助かってるわ。
 絹が居てくれたお陰で潜り抜けた死線も数多いわ……本当にありがとうね」
 うずまきの隣でスノー・ヴァーミリオンに話しかけている。
「ええんよ。それがうちの仕事やしな」
 絹はそう言いながら、少し湯煙を見つめ、楽しそうに笑う。すると黒住・舞彩がリコスに近づき、そっと何かを伝える。するとリコスは、
「何、ケ……もごもご!?」
 と、何かを言おうとして、舞彩に口を塞がれる。
「ん? どないしたん?」
「な、何でもないのよ! ああ、そうそう! 宮元の仮装可愛かったわ。お菓子は貰えた? それと前ね。リコス腹が減った蟹蟹ってすぐ上がろうとしてたのよ」
「あれはヘリオライダー3人でやってみよか! って意気投合したんよ。んで、ここはリコスちゃんに聞いたわ。まあ、蟹が美味かったぞ、絹。なんて事しか聞けへんかったんやけどな」
 早口で取り繕う舞彩のおかげか、どうやら素敵なたくらみには、絹は感づかれなかったようだ。
「そういえばうちの子も凄い食べるのよ……確かリコス様も気づいたら沢山食べてるわよね……?」
 そして琴宮・淡雪が、すかさずフォローする。リコスは何故か得意そうだ。
(「ナイスフォロー!」)
 舞彩はすかさずウィンクを淡雪に飛ばし、淡雪は絹に見えない所でVサイン。
 そんな話をしていると、リーズレット・ヴィッセンシャフトが、唐突に絹に聞く。
「そういえば、絹さんは好きな人とかいたりするのか?」
 どうやら隣から恋バナが聞こえてきて、そんな雰囲気にもなっている女湯だ。
「せやなあ……。どう思う?」
 なんて絹が悪戯に笑うものだから、すっかりそんな話にもなってしまう。
(「しまった……のんびりしてる場合じゃない……!」)
 そしてうずまきは、その雰囲気を見て、自分が何をしなければいけないのかを思い出した。お湯を堪能している場合ではない。はたと気が付くと、リーズレットはサムズアップしているのであった。

「ふぅ、染みわたる……」
 仲間の女子が盛り上がっていた頃、ハルと季由は露天風呂に浸かっていた。
 すると、
『そちらの湯加減如何ですか?』
 と、ロゼの声が聞こえてきた。
『うん、広いしいい湯だぞ。朝を楽しみにするといい』
 ハルはそう返すと、ぶくぶくという音が聞こえてきた。隣で照れて沈んでしまっている季由だ。
 恋の話も途切れ途切れに聞こえてくるものだから、否が応でも異性として意識してしまうのだ。
「言動のわりにうぶな奴だな」
 危うく主人の頭の上に乗っていたミコトも、沈んでしまう所だった。

 そんな温泉での一時は、その後レインのあひるが飛んだり、石鹸を借りようとしてどさくさにまぎれて男湯を覗こうとした鬱金が、飛んできた水鉄砲を食らったり、オウムが風呂桶で迎撃されたりという情景になったが、とても楽しい時間を過ごすことができたのだった。

●宴と蟹!
「グレイはやっぱりお姉ちゃん子よねぇ解ってるわぁ……」
 スノーはグレイシア・ヴァーミリオンが用意したという浴衣を見て頷いた。浴衣には『美女』とかかれていたからだ。ただ、汗ばんだ背中にはうっすらと『美女』の前に『残念』と浮かんでいる事には気が付かない。
 そうとは知らずに、宴会場の扉を開いた。料理の用意が出来ているはずだ。二人は大きなケーキを運び込んだ。
 しかし、宴会場に彼女が入った途端、空気のひりつきに気がつく。絹を中心に淡雪、リーズレットが異様な雰囲気を放っていた。淡雪の浴衣には『ブーケの嬢王』、リーズレットの浴衣には『アラサー』とあった。そして肝心の絹の浴衣には『三十路+1』と……。
 どうやら絹、リコスを含めて、オリジナルな文字がプリントされた浴衣を揃えたようだ。それを用意した当の本人は、特大のケーキを一番目立つ場所に置き、自分の席へと座った。
「わあ……」
 そのケーキにはここに居る全員分のマジパン人形と、お菓子の家が飾られてあり。とても楽しそうに笑っていた。
 思わず感嘆の声を上げる絹。おかげで、会場の雰囲気は一気に和んでいった。
『誕生日おめでとう!』
 全員の声が合わさる。
「あ、ありがとう!」
 絹の声は、全員の心を満足させる響きを持っていた。

 ついに、蟹料理が並び始めた。シンプルな茹で蟹から蟹刺し、焼き蟹、そして蟹鍋だ。最後には蟹雑炊となるそうだ。
 絹はと言うと、手伝いたくてウズウズしているようだが、轟天・曼陀が率先して料理の手伝いをして、絹の動きを遮った。どうやら厨房に入っていたらしい。
「越前と京都は結構近くて、これもおそらく越前がにでしょう。焼き蟹もいいですよ、知ってますか? 越前がにとはブランド名でオスの紅ズワイ蟹の呼称なんです……」
 と、料理を並べながらの豆知識を語るのを忘れなかった。
「す、すみません……か、蟹とか、温泉とか、聞こえたもんやから……」
 しかし、ふと絹の前に来て、持ち前のコミュ障を発揮してしまう。
「ええんよ。有難う」
 絹が笑顔で言うと、曼陀はぱあっと釣られて笑顔になってしまったのだった。

「温泉宿で、蟹フルコースで鍋とか。なんかいいよねー」
 桜庭・萌花は、足をぽきりと折っては中身を出す。その単純とも思える作業の繰り返し。すると、隣で蟹の足と格闘している近衛・如月を向いて、くすりと笑う。
「……っ、あ、あれ、割れない?……~~~っ」
 そう思っては、周囲ですすっと身を取り出す人を見ては、真似をしてみる。
「ぁっ……」
 ペキっと言って、身が残る足をみて、難しい……と、呟く。すると、如月は視線に気がついた。
「……ああ、もなちゃんもあっさり剥いてるしっ!?」
「だいじょーぶ? やってあげよっか?」
 そう悪戯に笑う萌花に、
「手だし無用、なのよぅっ……ちゃんと自分で出来るんだからっ……!」
 と、意地を張ってまた蟹と格闘する。だが、そうは言っても中々に難しい。
「ほら、よく見ててね」
 萌花はすっと手際よく大きな足を持って、その関節部分に親指を這わす。
「まず、折るのはここ。両手で持ってここに親指当てて折るの。そしたら抜き出せるから」
 そしてすっと取り出す。完璧に引き抜かれた身は、見事に綺麗な赤い身がぷりっと出現する。
「はい、あーん」
 そして萌花は如月に、その身を差し出す。如月はと言うと、暫くうるうるとした目をして、ぱくりと身を口の中に入れた。
 美味しいという顔と同時に、自らの姿を想像し、その身と同じように赤くなるのだった。

 そして、蟹料理といえば、謎の沈黙の時間。皆がせっせとその殻の中にある身を必死に集めるのだ。
 その様子は千差万別で、丁寧にこんもりと盛り上がるまで集めるもの、少しずつ口に運んでは身を掻き出す者、そして、ちまちまと掻き出すことに業を煮やした者は、手をべとべとにしながら、歯で食いちぎり、そのまま齧った。
 だが、そこに、
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
 という声が響き渡った。ジゴク・ムラマサが零式神速蟹剥きで、よく食べる者に一気に剥いた蟹を差し出すと、その手があったか! と、手や顔をべとべとにしたリコスを筆頭に、己の身体能力を発揮して蟹を剥き始めた。飛び散る殻、そして蟹汁。
 そこに曼陀が機嫌よく篠笛を鳴らし、何かあったのか、『ブーケの嬢王』と『まな板』と『ダンジョン王』と『ちっぱい』が一羽の鶏を追いかけていてとても楽しく騒がしい。
「派手ねえ……」
 その様子を見ながら要は、はいはいお子ちゃま達、と言いながらレイン、バンリに丁寧に剥いた蟹を分け与え、
「カ~ニカニカニカニぃ~です~♪」
 と言いながら蟹歩きをするメリーナの口にあーんする。そして、鬱金は一人貪り食う。時折要に酒を注ぐ以外は、ひたすら食っていた。

●温泉卓球
「一戦交えぬか、紫姫?」
「卓球勝負、芳いですわね」
 岩櫃・風太郎と神苑・紫姫が食後の運動よろしく、卓球場に入ってきていた。
 二人は卓球台を交え、己のラケットを見つめ、そして対峙する。
「いちおう私、吸血姫を名乗る身の上。貴方の前で虚勢を張る理由はありませんが……」
 紫姫はそう言って、手からコンコンと台に球を跳ねさせる。
「勝負事とあれば話は別ですのっ」
 そう言って、構えを取る。
「良い気合でござるな。よし、敗者は、帰るまで勝者の言う事を何でも聞くという罰ゲーム付きでござる」
 風太郎はニヤリと笑いながら、顔の中心にラケットを垂直に立て、構える。
「いざ、尋常に」
 紫姫が言う。
「勝負でござる!」
 風太郎が応える。そして、高速のサーブが放たれた。
 だが……勝負は一瞬だった。そこには、大差で敗北する猿忍の姿。
「ぐぬぬ、だが負けは負けでござる……」
 そうして紫姫の前に跪く。
「何なりとお申し付けを」
 すると紫姫は、少し迷った後、遠慮がちに言う。
「……その、お姫様抱っことか、どう、でしょうか?」
「フフ、お安い御用!」
 こうして二人は、自分達の部屋へと帰っていったのだった。

 カンコッ、カンコッ……! ……パキ。
「やはり我々では、球のほうが持たんようだな……」
 リコスは、ムラマサの打った球が空中で真っ二つになる様子を見て言った。
「ぬう……。やはりケルベロス同士では、なかなか難しいものだな……。とは言え、流石に……」
 と言って、絹を見る。絹は片付けを手伝っていた曼陀に有難うと言っていた所だった。曼陀はこれから一人で夜の湯に向かうとのことだった。
「ん? 卓球か? エエで」
 絹はリコスからラケットと球を受け取り、ムラマサにラケットで球をコツっと打って渡す。
「ほな、先攻はムラマサさんのほうからにしよか……」
 この時、ムラマサは気がつくべきだった。絹の何気ないラケット捌きに。
「手加減は出来ぬぞ……」
 そう言って掌に球をのせ、宙に投げる。そして飛びあがると回転しながら球を打ち放った。零式真空回転サーブである。
「うん。ええ筋してるんちゃうかな……」
 すると絹の瞳は球の回転数を正確に捕らえ、高速で演算。すっと絹のラケットが動いた。
 パァン!
「アイエエエエエッ!?」
「これは、最小限の動きで打ち放たれる、超高速のカウンタースマッシュだ……」
 リコスが解説する中、ムラマサはあっという間に1ー11を食らってしまったのだった。
「き、絹ちゃん凄い……」
「ヴィヴィアンちゃん、アメリーちゃん。一緒にやろか?」
 二人で卓球を体験したくて入ってきた二人に、絹は気が付き声をかける。
「で、でもそんなに上手には……」
「ええねんええねん。いろいろ教えたげるから。ほな、リコスちゃんとダブルスしよか!」
「温泉卓球、一度してみたかったの」
 こうしてまた夜は更けていくのだった。

●朝とお土産
 楽しかった宿も、気がつけば朝になっているのだった。
 朝風呂に行った者も、満足してほこほこになっていた。
「これ、お土産に……」
 と、アメリーは宿を出た時、リンゴ餡のおまんじゅうを絹に渡した。すると、続けてヴィヴィアンも手作りの葡萄ロールケーキを差し出す。すると、曼陀も紅ズワイ蟹のマスコット、エチゼンくんのストラップをプレゼントする。
「ほんまに有難う。今日の事は、一生忘れへん! また皆で旅行、しよな!」

 潤んだ瞳の絹に、ケルベロス達は笑顔になる。
 この地があるから、信頼している人がいるからケルベロス達はまた、戦いに赴くことが出来るのだ。
 今日と言う一日は、大切な思い出となったのだった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月14日
難度:易しい
参加:27人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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