けるかん~フィオナの誕生日

作者:天枷由良

「缶蹴り、やってみたいんだよね」
 ハロウィン気分もすっかり過ぎ去った頃。
 フィオナ・シェリオール(はんせいのともがら・en0203)は、そう言った。
「この間ね。散歩してたら『缶蹴りかと思いましたよー』って台詞を耳にしてさぁ。それで思ったんだよ。ボク、缶蹴りってしたことないなあって。多分」
 ――何故、多分?
「いやぁ、昔のこと覚えてなくって。まあそんなことはいいんだよ。やらない? 缶蹴り」

 缶蹴りのルールはとても簡単だ。
 鬼と逃げる人に分かれた後、まずは円の中心に置いた缶を蹴り飛ばす。
 これを鬼が円に戻すまでの間、逃げる人は逃げる。或いは隠れる。
 一方で缶を円に戻した鬼は、逃げた人たちを探しに向かう。見つけたら名前を叫ぶ。
 見つかった人たちは円で待機。だが、鬼の捜索を掻い潜った猛者が缶を再び蹴り飛ばしたら、解放される。ヤッター自由だー。
 そして鬼が全員を捕まえるか、皆が飽きるかお腹が空くかカラスが鳴いたら、帰る。

「――とまあ、それは普通の缶蹴りのルールでね。ほら、ボクらはケルベロスでしょ? だからまず、缶は飲料缶じゃなくてドラム缶にしよう。それから鬼の人数は無制限。武器とグラビティの使用もありにしよう。何をどう使うかは自由だけど――え? 鬼が名前を呼ぼうとした瞬間に叩きのめすのもありかって? いいんじゃない? 大怪我しないくらいで楽しく派手にやろうよ。ね?」
 そのために会場も押さえてあるんだ。
 フィオナはアスレチックフィールドの案内図を取り出して見せ、言葉を継ぐ。
「山あり谷あり池あり森あり、丸太の橋とか滑車付きロープとかアスレチックネットとかもあるし、逃げるのにも隠れるのにも結構良さそうじゃない? 実は廃業が決まってて、後片付けさえしてくれたら自由にしていいよってオーナーさんも言ってたし」
 ――なんて都合のいい。
「いいじゃない、たまにはそんな都合のいい日があっても。……ま、そういうわけで。もしよかったら、一緒に遊んでくれると嬉しいな」


■リプレイ

●兄妹VS黒彪
「行こう、兄様」
「ああ」
 瑪璃瑠に応え、イサギは天高く舞い上がる。
 微笑み湛えながらも眼差しは鋭く。頂で黒翼翻して狙うは鬼の首。
「要は玉さんを倒せばいいのだろう?」
 なるほどKO勝ち狙い。缶蹴りの概念は早くも空に散ったようだが、致し方なし。
「どうやら、あの時の決着を付けるときが来たようだね」
 刀を握り、獲物を見据える。
 これぞ宿縁邂逅。長きに渡る因縁に今、終止符が打たれる――か!?

「イサギ!」
 とりあえず叫んでみれば案の定。
 迫る白銀の軌跡。あらゆる敵を捉える刃に、身のこなしで応じるのは無謀が過ぎる。
 そこでバトルオーラ。そしてダイスロール。……やったぜ、相殺だ!
「さすがに読まれたか!」
「いや斬るなよ! 缶蹴れよ! バカ!!」
 身命を賭した応酬からの子供じみた罵倒。
 口角泡を飛ばす陣内に、イサギは尚、刺すような視線を向けて。
「あの夏の日のアイスの恨み、晴らさずにおくものか!」
「いいだろアイス一個くらい! お前もいつまでもしつこいな!」
 ぎゃーすかぎゃーすか。言い争い、迫り合い。
 それを眺める少女は小兎に変身して、忍び寄り。
(「たまにいが兄様に夢中な隙に!」)
 狙うはドラム缶。よかった缶蹴りの概念壊れてなかった。
 しかし、小兎の前には障害が一つ。
 ずばり――猫。
 侮るなかれ。猫は猫でも只の猫にあらず。陣内と数多の戦場を渡った猛猫だ。
 あらぬ方向に置いた囮の付け羽にも誘われる気配がない。
 やはり彼奴を倒さずして、ドラム缶は蹴れそうにない。
「どうせ見つかっちゃうなら、勝負!」
 変身解除。瑪璃瑠は少女の姿に戻り、山育ちの健脚で駆ける。
「しまった!」
 すぐに陣内も気づいて弓を向ける――が。
「あの子に傷ひと筋でも付けたらどうなるか、分かっているだろう?」
「……くっ!」
 番えるより先に自身を射抜く眼。やむなく狙いを逸し、甘々な牽制に留める。
 これで勝負の行方は猫と少女に委ねられた。
「猫さん、覚悟!」
 刃を携え、瑪璃瑠は真っ向から挑む。対する猫も尻尾の花環を飛ばす。
 ――僅かな差で環が刃を制した。
 刹那。
「やっちゃえ、リルー!」
 勝利を確信する叫びと共に、瑪璃瑠の分身が猫を越えた。
 獅子の鋭爪にも似た一撃がドラム缶を裂く。
「……いや、だから! 斬るなよ蹴れよバカ! 兄妹揃ってバカ!!」
 勝敗決した戦場に、遠吠えは虚しく響いた。

●一人VS五人+二匹
 青空に回る鈍色から目を切って、ゼレフは全力で駆ける。
 ああギャラリーが居なくてよかった。
 ママーあのおじさんはやーい、とか言われなくて本当によかった。
 おじさんだってねぇ別に走りたくて走ってるんじゃないんだよ。
 走らないと暫く走れない身体にされそうだから走ってるんだよ。
(「どうしてこうなった――!」)
 心中で叫び、茂みに飛び込む。
 手近な枝を掴んで寄せれば、ゼレフは森の一部と化す。
 ああ肺にマイナスイオンが染み渡る。
 けれど一向に落ち着かない心。溢れて止まない危機感と既視感。
 この先生きのこれるのか。

「ふふ、偶にはこうして体を動かすのも良いものです」
「景臣さんはどんな作戦でいきます?」
「んー……そうですねぇ」
 シィラと視線を交えて思案。
 逃げ役とは幾度も死線を越えた間柄、策を弄するにしても悩むが――。
「ゴー! ゴー!」
「我らが隊長を撃……捕まえるぞ!」
「頑張ろうね」
 メイアと小竜コハブ、眠堂、流華に小竜セラフ。
 やる気十分の面々が先んじて標的の捜索に向かう。
「一先ず様子見、でしょうか」
 呟く景臣に、シィラも逸る気持ちを抑えて鬼仲間の背を見送った。

「いい? 見つけたら体当たりで足止めするのよ」
 メイアの指示でコハブが樹上へ飛んでいく。
 押し迫る冬の気配に幾分寂しい姿となっても、目線より遥か上の枝々は擬装に一役買ってくれるだろう。
(「気付かれないように潜んで一気に行くのよ!」)
 小竜から仲間に目を移してウインク。
(「ああ!」)
 眠堂が護符を閃かせて応える。
(「ワタシたちも、負けてられないね、セラフ」)
 流華も瞬きを返しつつ、小竜を伴ったまま攻性植物を地に這わせる。
「……えっと、怪我は、しない、よね?」
 言いつつ、それはいつでも喰らいつける構え。
 そしてメイアはバールを握りしめ、準備万端。
 殺る気十分。

 かくしてゼレフは地獄の一丁目に踏み込んだ。
 まずは横から大口開いて迫る攻性植物を回避――したと思ったら、すぐさまもう一つ。
 落葉の上を泳いで逃れる。誰だいきなり凶悪な罠を張ったのは。
 などと考える間もなく訪れる新たな刺客の気配。
 早くも運否天賦で横転回。肌を掠めたのは光り輝く猫の群れ。
「避けられた!?」
 叫ぶ眠堂にすかさず剣を振るう。旋風が足元で爆ぜ、迂闊な鬼の声と視界を奪う。
(「……メイアにコハブ、がんばれ!」)
 仲間の奮闘を期待する眠堂。
 応じるかのように颯爽と飛来する小竜。
 もふり。優しい感触がおじさんの闘志を折りかけたのも束の間。
「ゼレフちゃんみーっけ!」
 凶器の代名詞たるバールが弁慶の泣き所目掛けて飛んでくる。
 しかし間一髪。予測とキャスターポジションが身を助けた。
 ……名前? 呼ばれてないよ。うん。
 という訳で戦闘続行。
 名残惜しくもコハブを引き剥がして、ゼレフはぜえぜえと息を切らしながら走る走る。
 見るからに辛そうだ――と、見守っている場合ではなかった。
 メイアも走る走る。その後から眠堂と流華も走る走る。
 これがモテ期か。誰か止めてくれ。
 おじさん本気でそろそろ死にそうだ。

 ――なので止めに来ました。
 そう言わんばかりに立ちはだかる景臣。
 満面の笑みに眼鏡は見当たらず、片手には一振りの刃。
 もちろんウレタン製とかではなく真剣。
 数多の敵を屠った得物で、今日は友の行く手を阻むべし。
「悪く思わないでくださいね」
 返事はない。息切れと腰痛でそれどころじゃないらしい。可哀想。
 早く楽にしてやらねば。
 景臣は一気に間合いを詰め、本気で斬りかかった。

「……楽しそう」
 悲鳴と爆発、そして刃の打ち合う音。
 その全てはドラム缶の守護者シィラの耳にも届いていた。
 加わりたい。しかし守りも疎かに出来ない。
 理性と欲求が鬩ぎ合い、シィラはドラム缶の周りを行きつ戻りつ。
 そうして不毛な時間を幾ら過ごしただろうか。
 ふと見やった先からくる疲労困憊の男。
 その後ろで彼を追い立てる鬼の群れ。
「モテモテで妬けますね、ゼレフさん!」
 言いながら銃を抜く。
 此方に近づく彼が何か言っているが掠れて聞き取れない。
 まあ理解する必要もないだろう。此方は鬼だ。
 撃鉄が落ちる。
 同時にゼレフも、最後の力を振り絞って剣を振るう――!

「……すごかった……」
 ぽつりと流華が呟く。
 目の前には突っ伏したゼレフ。孤軍奮闘の限界来たり。
 一方、ドラム缶を庇うシィラに大した傷はない。
 足元には眠堂の操る鎖。陣を描いたそれが守りに貢献したのだろう。
 やはり戦いは数だ。
 一行は、缶蹴りから改めて教訓を得た。

●八VS四(ガチ勢筆頭)
 とある雑居ビルの二階に集う人々。
 全滅する前に三回缶を蹴られたら、逃げ側の勝ち。

「では、行くぞ」
 言うが早いか豪脚炸裂。
 ルイーゼに蹴り飛ばされたドラム缶が空の彼方に消えていく。
 瞬間、脱兎のごとく逃げ出したのが七人。はやい。
 鬼に向かって塗料をぶち撒けたのが一人。ずるい。
 ばしゃり。
 真っ青に染まったジェミとフローラの顔を見て、かなでが微笑みながらマントを翻す。
「……いきなり、直接攻撃」
「やられましたね……」
 もったりとした液体を拭いながら呟く二人。つらい。
 それを横目にドラム缶拾いに行く者が一人。えらい。
 さらに自分に盾アップなどかけたのが一人。ずるい。
「……なんだ、その」
 視線が塗料と同じくらいに重い。
 ナザクはウォーレンがドラム缶を転がしてくるなり、そそくさと追跡に出た。

 それまでの僅かな間にも、逃走者達は様々な動きを見せていた。
 クリムは怪力無双で如何にも怪しい隠れ場を幾つか作りつつ移動。
 眸、ルイーゼ、かなで、広喜も銘々散って可能な限り気配を消す。バイオガスは“戦場の周囲を覆う”ものであるから煙幕代わりにはならないが、かなでのファインプレーが十分に逃げる時間を作ってくれた。加えて全員着用の外套も撹乱に一役買っただろう。
 エトヴァの陣取る櫓からは、出足を鈍らせた鬼の様子が伺える。
『フローラ殿を残シテ、捜索に向かうようデス』
「了解。……よし、ここらで分散しよう」
「そうですね。じゃあ、俺は向こうに」
 通信機越しの報告を受けた千梨の提案に、頷いて進路を変える恭志郎。
 行く手はより深い茂みだが、隠された森の小路を使えば舗装路と変わらない。
 さらには高性能な外套と消音靴も着用済で抜かりなし。
「やるな、筐」
 ガチ過ぎる。後は任せた。
 千梨は木陰に蹲り、今更ながらに思う。
 インドア派エルフにバーリトゥード缶蹴りはキツい。
「俺は優雅に観戦と行こう。そうだな、あとは珈琲でもあればよかったのだが」
「どうぞ所長」
「ああ、助か、る……?」
 誰だ!
 クリムだ!
 一・安・心!
「脅かさないでくれ。そして差し入れのタイミングがおかしい」
「そこは所長の行動力を見習って」
 そう言うならまあ、有り難く貰っておこう。
 音を鳴らさないよう慎重に。開いた缶からは芳醇な香りが――。
「いや待て」
 これは珈琲ではない。
 いや手元のは間違いなく缶珈琲だが、それと違う甘い匂いが何処からか漂ってくる。
 そして……ああ悲しいかな。
 千梨は香りで釣られてしまう程度には甘党だった。

 よもやの遭遇。
 だが、それは紛れもなく雑居ビル二階事務所の主。
 ウォーレンはココアを持ったまま叫ぼうと構え、千梨はやむなく攻撃態勢をとる。
 僅かに先んじたのは――千梨。御業がウォーレンを鷲掴みに。
 そこへすかさずクリムの援護。情け容赦ない槍の雨が肉も大地も抉り取る。
「所長、今のうちに!」
「助かった」
 さすが有能な団員、もとい所員。
 あとは野となれ山となれ。遮二無二目指すはドラム缶。
 蹴ればいい、蹴ればいいのだ――!

 ……と、そんなに上手くいくはずもなく。
 降り注ぐミサイル。飛ばされる外套。
 彼方にぽつんと佇むフローライトの姿を見たのも束の間、二人は天を仰いでいた。
「えー、千梨とクリム発見。連行する」
 ナザクの無慈悲な報告が聞こえる。
 そういえば向こうも通信機持ちだった。ガチ勢怖い。
 ただまあ捕まったら捕まったで。動かなくて済む。
 千梨はちょっと早めに真理を悟った。

『二人が捕まったようデス』
『そウか……』
『助けに行きましょう』
『だな! 頑張るぜー!』
『仕方ない。俺も奥の手を出しますよ』
「うむ」
 通信を終え、ルイーゼは立ち上がる。
 座して待っても勝利を得られないのは勿論、此方は捕まれば捕まっただけ不利になる。
「今こそ全力で襲げ……いや、缶を蹴りに行くのである」

 かくして逃亡者達は一斉蜂起した――が!
「そんな事だろうと思った!」
 神憑り的な読み(拡大解釈)で反撃の気配を察知したナザクにより、鬼側もドラム缶前で迎撃の構え。
「やらせない……」
「それはこっちのセリフだぜっ!」
 フローライトと広喜の放つミサイルが空で爆ぜる。
 いよいよ大戦勃発。
「悪戯し放題だよ、にゃんこ達!」
 ジェミの元から出陣する光り輝く猫の群れ。
 対するエトヴァは大盾で突撃を凌ぎ、鎖を伸ばす。
 しかしウォーレン、これをキャッチ!
 ならばとルイーゼが子守歌を紡ぎ、盾鬼から思考力を奪う!
「大人しくしていてほしいのである」
 呟きつつ、ルイーゼはさらに進撃。
 立ちはだかるナザク、いやナノキュバスせんぱいにも仕掛ける――が、地球的に二十八年先輩は球根の根っこみたいなのが生えた怪しいオーク人形を身代わりに乗り切った。
「お前の死は無駄にはしない」
 無駄にキメ顔で人形を放り投げ、反撃。ルイーゼを捕虜とする。
 だが、そんなナザクにも試練の時。
 視界に映るは魔性の遊具――ガネーシャパズル!
「今だハートクエイクアロー!」
 ぶすり。僅かな隙に突き刺さる恭志郎発のきゅーとな矢。
 瞬間、ナザクの世界にのみ現れる謎のライキャリとミミック。
「……そうか!」
 俺たちの新星戦決勝はこれからだ!
 瞳に幻の希望を灯したまま、ナザクは何故かウォーレンと一緒にパズルを始めた。
 催眠状態が変に作用したのだろう。きっと。
「今のうちに蹴り飛ばすぜー!」
 勢いに乗って、広喜が缶を狙う。
「まずい……!」
 形勢逆転と見てフローライトが迎撃、強烈な回し蹴りで広喜を吹き飛ばして尚吶喊。逃げ側を一網打尽にせんと試みる。
 しかし、それをふわりとダブルジャンプで躱した眸が、いよいよドラム缶に迫る!
「がんばれにゃんこ達!」
 既の所でジェミがカバー。
 セーフ……かと思いきや。
「遅れてすまないポジションはクラッシャーでいく――!」
 何処からともなく現れたかなでが、力の限りに缶を蹴り飛ばした!

 これを後、二回! うん、無理だ!
 疲労困憊の十二名は、ドラム缶を囲んで座り込んだ。

●仲良しドラゴニアンズVS元凶
 千と吾連は二人、ぴたりと寄り添うほどの距離を保って進む。
 真一文字に結んだ口は一切動かず、しかし一挙一動に乱れなし。
 それは積み重ねた時にもよるのだろうが、異能のおかげでもある。
 頭一つほど小さい娘の肩に手を置いて、吾連が言葉を流し込む。
 千は振り向き、首を振って応える。
 そうした接触テレパスを用いてのやり取りを幾度か繰り返して暫く。
 二人は開けた土地の真ん中に、ぽつんと置かれたままのドラム缶を認め――。

「隠れているつもりだろうけどバレバレさ!」
 やけにテンションの高い主催者から強烈な回し蹴りによる歓迎を受けた。
「む、ぅ……! さすがに吾連までは隠せなかったのだ……!」
「仕方ないよ! それよりも!」
 三十六計逃げるに如かず。
 千と吾連は一時撤退。置き土産に作務衣姿の猫軍団と氷河期の精霊を解き放つ。
「な、なんだこれ……!」
 アイスエイジはよく知ったものだが、無音で近づくふっくら猫は未知との遭遇。
 それがまさか、全身を程よく揉み解してくれるマッサージ屋さんとは思うまい。
「くっ、こんなの和むしかないじゃないか!」
 追撃失敗。
 二人の名前も呼べないまま、フィオナは暫しひえひえのもみもみに陥った。
 その隙に態勢を整え、仲良し二人組は反攻の策を三十秒くらいで練る。
「……それじゃ千、行くよ!」
「うむ!」
 息を合わせて、しかし攻めかかるタイミングはずらして。
 まずは吾連が再攻撃。
「鬼さんこちら!」
 これ見よがしに手を叩いてフィオナの視線を釘付けに。
 まんまと釣られた鬼からはバールが飛ぶ――が、ダメージなど微々たるもの。
 お返しに竜の息吹を浴びせれば、少女は炎に捲かれて狼狽えるばかり。弱い。
「今だ!」
「覚悟するのだー!」
 満を持して千、登場。
 やけくそで投げられたバールを竜翼翻してひらりと躱し、一気にドラム缶の元へ。
「くらえ! ――旋刃脚!」
 どごぉん。
 勇ましくも可愛らしい蹴撃に、鉄缶は騒々しい音を返しながら天へと旅立つ。南無。
「蹴ったのだ! ……逃げるのだ、吾連!」
「ちょっと待ってね靴紐直すから」
「うむ」
 膝をつく煤けた鬼役を尻目に、二人は勝者の余裕を伺わせながら撤退していった。

●しにがみどらごんVS相棒
「それじゃ第二ラウンド、いこうか?」
「本気?」
「本気本気。あ、鬼はカッツェね。フィオナが鬼だと一生捕まえられないだろうから、ねー?」
「言ったな! それじゃあ勝負だ! ……あ、でもごめん10分待って」
「ん? なんで――あ、そっか」
 ケルベロスが全回復するまで、大体それくらいだ。

 かくして小休止を挟み、1on1スタート。
 フィオナがドラム缶を蹴る。カッツェがそれを拾う。
「さーて」
 西か東か北か南か。これという手がかりもないが。
「多分こっちでしょ」
 竜翼を持つ鬼から逃げるに、高台や平地は選ぶまい。
 遊具の山を越えるにも時間が掛かる。
 となれば、やはり森。
「……焼くか」
 後で治せばよい。暴虐的即決が竜の息吹と化して木々を薙ぎ払う。
 成果は――森林消失して鼠一匹。しかし、その鼠こそが黒猫の獲物。
「あっつ!」
「ほーら、やっぱりいた」
 ニヤリと笑って指差し、カッツェは獲物の名前を高らかに……叫ばない。
 代わりに愛用の大鎌を投げつける。
「うわっ! し、死ぬ!」
「死なない死なない! それにもしもの時はヒールしてあげるから!」
「もうちょっと穏やかに遊ばない!?」
「なに言ってんの! けるかんは遊びにあらず!」
 今度は死角へと回り込んで軽く小突く。
「ぐ、この露骨な力量差と加減具合……!」
「だって狩りは楽しまないと、ね?」
「うぅっ……! 見てろよー!」
 反撃に飛ぶバール、ハズレ。跳び蹴り、ハズレ。回し蹴り、ハズレ。
「くっそー!」
「修行が足りないなあ。……あー、それとも」
 足りないのは反省かなー?
 その一言で硬直した瞬間、フィオナのけるかんは幕を閉じた。

 しかし、それは新たな戦いの始まりに過ぎない。
「いつもの行こうか!」
「やっぱりかー!」
 項垂れた黒猫のイラストが可愛いマフラータオルを被せられたまま、フィオナは何処かへと連れ去られるのであった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月30日
難度:易しい
参加:24人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 18
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