愛の告白はラブレターに限る!

作者:質種剰


 ひと気の無い公園。
 異形の翼を膝に添え、嘴は固く引き結んで、ビルシャナがベンチに座っていた。
 隣には、大きな立て看板に1枚の便箋が貼りつけてある。
『愛の告白はラブレター以外認めず』
 と題されたその掲示には、以下の文章が書かれていた。
 ——愛の告白は心を込めて書いたラブレター以外有り得ず。
 本心より想いを寄せる相手と恋人になりたいと願うならば、恋文を書き上げる労力など惜しむ筈があろうか。
 恋い慕う相手の喜ぶ顔を浮かべながら便箋や封筒を選ぶところから始まり、
 相手のどこが好きか、また何をきっかけにいつから好きになったのかを振り返り綴る事も相手への恋心が真か否か自ら見極めるに良い機会となろう。
 恋人と短期間で別れてしまう理由の一つに、『努力や苦労を重ねて得た達成感』の低さがあると我は感ずる。
 労せずして得た物への執着心が苦労して手にした物より薄れるのは自明の理、恋愛も同じである。
 即ち、ラブレターで告白する事は、その後の恋愛寿命を長引かせるメリットとなるのだ。
 なればこそ、もっと世の若者は、否、若者に限らず老若男女は、もっと季節や花にこと寄せてラブレターを書くべし!!
「ラブレターかぁ、良いわよね〜もらってみたい♪」
 どうやらビルシャナは教義の内容からして文書で布教するつもりのようだ。
「ほんと、押し花とか挟んであったりするとますますロマンチックよね」
 そして、看板を興味津々に眺めている女性達が、彼の信者であるらしい。


「告白はラブレターに限る、なんて主義を説くビルシャナが見つかったでありますよ」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が、困惑した様子で説明を始めた。
「マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)殿が調査なさった結果、青森県郊外の空き地でビルシャナが演説していると判明したのであります」
 かのビルシャナ大菩薩が絶命する際に零れ出た光の影響で、日本各地にビルシャナが増えている。
 この度現れた『ラブレター推進ビルシャナ』も、大菩薩の光を知らぬ内に浴びて、後天的にビルシャナへと覚醒した元人間だ。
「皆さんには、このビルシャナや取り巻きの信者達と戦って、ビルシャナを討ち倒して欲しいのであります」
 ビルシャナは、気軽にくっついたり離れたりするカップルが多い現状を嘆き、ラブレターの必要性やありがたみを布教する事で、そう簡単に別れない絆の強いカップルで溢れた世の中を作ろうと目論んでいるらしい。
「ビルシャナの教義がどうであれ、彼らは一般人を配下へと変えてしまうので、大変恐ろしいであります。そのような事態にならないよう、どうか討伐をお願いします」
 ぺこりと頭を下げるかけら。
 事実、ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力があり、放っておくと一般人信者が配下になってしまう。
「ですが、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の方々が配下になることを防げるのであります!」
 ラブレター推進ビルシャナの配下となった者達は、彼が倒されるまでの間、彼の味方をしてこちらへ襲いかかってくる為、戦闘は避けられない。
 だが、ラブレター推進ビルシャナさえ倒せば元の一般人に戻るので、救出は可能である。
「万一、一般人の配下と戦うことになった場合は、ビルシャナを先に倒すのが先決であります。一般人がケルベロスの皆さんに倒されてしまうと、そのまま命を落としてしまうのであります……」
 かけらはそう付け加えた。
「ラブレター推進ビルシャナは、敏捷性が活きた謎の経文を唱えて、遠くの相手1人に催眠効果を狙ってきたり、八寒氷輪を遠投して複数人を氷漬けにしてくるでありますよ」
 ビルシャナのポジションはキャスター。万年筆を投げつけてくる配下も同様である。
「教義を聞いている一般の方々16人はビルシャナの影響を強く受けているので、理屈だけでは説得することは出来ませんでしょう。やはり何かインパクトのある演出をお考えになるのが宜しいかと」
 今回ならば、『ラブレターに頼らない告白の魅力、ラブレター以外の告白だからこそ味わえるメリット』を語って対抗するのが良いだろう。
「ラブレター信仰から解き放つには…『深夜テンションで書いた恥ずかしいラブレターによる失敗談』を切々と語る……なんてのもかなりの威力が見込めましょう」
 そう断じるかけら。
「とは言え、わたくし自身もラブレターにそれなりの憧れを持っておりまして……ラブレターを貰う以上に嬉しい告白のシチュエーションとなると、なかなかハードル高そうだと思ったり……」
 何より一般人信者らがラブレター推進ビルシャナの教義を完全に捨てられるように、強い意志で対抗案を推すのが肝心だ。
「既に完全なビルシャナと化した当人は救えませんが、これ以上一般人へ被害を拡大させないためにも、ラブレター推進ビルシャナの討伐、宜しくお願いします」
 頼りないながらも何とか説明を締め括って、かけらは皆を激励した。


参加者
チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)
鉄・冬真(雪狼・e23499)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
月白・鈴菜(月見草・e37082)
菊池・アイビス(くろいぬです・e37994)
伊吹・乃亜(箱庭のリグレット・e47969)
九・カルロ(錆銀・e61984)

■リプレイ


 公園。
 ラブレター推進ビルシャナと信者がたむろしている所へ、ケルベロス達は降り立った。
「俺は姉貴に自分の想いすら告げられなかったから、届けられるだけ大したものだとは思うけど……」
 伊吹・乃亜(箱庭のリグレット・e47969)が流れるような銀髪を無造作に掻いて、口を開く。
 故人の姉に想いを寄せ、今も妄執の果てに見出した彼女の幻と暮らす彼だが、ふとした時に零す本音からは、心の奥底では現実を把握している可能性を窺わせる。
「ラブレターは今どき重いでしょ。捨てる訳にもいかないから相手困らせるし」
 ともあれ、乃亜は生来のクールさを発揮して、信者らへ鋭い指摘を見舞う。
「重い……」
「捨てる前提!?」
 ビルシャナに洗脳されてあわよくば自分からでもラブレターを出そうと奮い立っていた女達が、面白いくらいショックを受けて青褪める。
「別にわざわざ紙に書かなくたって、メールとかで送ればいいんじゃないの?」
 乃亜はそんな彼女らへ追い討ちをかけようと、メールなる対案を突きつけた。
「だって……メールなら簡単に消されちゃうかもしれないし」
 信者達はもごもごと反論して、初めて気づく。
 自分らが貰ったラブレターを後生大事に残したいと思うのへ加えて、相手にも丹精込めて認めたラブレターを大切に保管して欲しい——そんな利己的な願いを抱えている事に。
「形態に拘る必要はないと思うけど。大事なのは気持ちなんだからさ」
 乃亜はにっと端正な顔立ちで笑いかけ、信者を励ましたが。
「……ラブレターが重いって意味がよく解った気がする」
 信者はもはや顔色を失って、絶望に打ち拉がれた。
「結果として振られたとすれば、その渡したラブレターはどうなるんだろうな……?」
 そこで、連続コンボのチャンスを逃すまいと蒼眞が問うた。
「返してくれたり、破り捨てるようなら良いけど、もしそうでなかったら……?」
 小檻へおっぱいダイブをかまして仲間から蹴落とされた彼だけに、説得における斬新な切り口との落差は凄まじい。
「もしラブレターの内容を周囲へ宣伝されたりすれば消えたくなるんじゃないか?」
「そんな地獄嫌ぁぁ!」
 蒼眞は言葉巧みに想像だけで、笑い者へされる恐怖に信者らを震え上がらせた。
「あーーん? 紙きれぐれーでえ、俺ちゃんのこのアッツイ愛が届くと思うわけえ?」
 続いて。落ち着き払った乃亜とは正反対のテンションで信者へ絡むのは九・カルロ(錆銀・e61984)。
「めとめが! 合って! 運命感じたらあ速攻アタックしねーと! ラブも鮮度があんのよお?」
 ねえーー乃亜ちゃん! と肩を組むカルロは、これでも紛う事なきシラフ。
 現に、彼独自の恋愛観は言葉こそ拙いながらも、充分説得力に足るものだ。
「結婚しよ!」
 とは言え、乃亜へ息を吐くようにプロポーズする辺りは、本人は大真面目らしいがその真情が伝わるかどうか疑問が残る。
「断る」
 乃亜とて、カルロの事は鬱陶しい友人という認識ながら内心満更でもなく思っているものの、プロポーズへは毎度即答するだけの耐性ができていた。
「……と、このようにすぐに返事が聞ける利点もある」
 それでいて、信者らへ口頭で伝えるメリットをフォローするのも忘れない。
「つか手紙だとよ、無視されっかもしれねーよ? 俺諦めねーけど返事ってすぐ欲しくねえ?」
 カルロはカルロで、ラブレターのデメリットの中でもかなり痛い所を的確に指摘。
「ちみちみ書いてえ、うじうじしてんの、俺やあだ。届きもしねー想い、ずーと待ち続けるなんてまっぴらごめーん」
 彼らしい軽い言い回しでラブレター派の未練たらしさを一刀両断してみせた。
「無視……読んだ上で返事貰えないのも嫌だけど無視……」
「怖くなってラブレター出せなくなってきた」
 信者達は動揺を隠そうともせずにオロオロ囁き合っている。
「阿呆鳥の抜かす事はホンマずれとるわい。便箋選び? 振り返り綴る? そんな自己満浸っとるうち掠め取られて終いやぞ」
 菊池・アイビス(くろいぬです・e37994)は、恋愛経験豊富な強みをみせて、ラブレター派は恋の機会をみすみす逃すだけだと言い切る。
「ワシゃあクソチャラけとったが、雲の上の存在の夢みてえな女に出会ってな。初めて話したその日に好いて、その場で目えみて告げたんよ」
 何せ、お調子者なアイビスが知り合って間もない内に告白を決意するというだけでも、いかに恋が人を変えるか判るというもの。
「アンタに惚れてもうたってな」
 臆面もなく告白した時のセリフをキメ顔で言ってのけるアイビスを前に、
(「へぇ。歌一辺倒のあの人をね……」)
 その恋人のマネージャーを務めている乃亜は、思わず目を見張った。
「恋は戦争云うでっしょ? ツラツラしたためとる暇なんないで。胸ん中の衝動を直にぶつけたれ」
 アイビスは乃亜から見直されたとも知らず、信者1人1人の顔を見て真剣にたきつけている。
「想うたら 目えみて告れ。さっきの女、今は俺の恋人だよ」
 信者らも、彼の直情径行さへ感化されたのか、
「うわー、そういうシンプルな告白も良いわね」
 素直に色めき立っている。
 すると、途端にアイビスは堂々たる態度を一変。
「ちなみに、めっちゃ悩んで選びぬいたファンシー便箋ラブレターは『きもい柄にヘッタクソな字』言うて破り捨てられましたからーー」
 信者らのラブレター派脱却の一助となるべく、中学時代のトラウマを叫んでは血涙を流した。


「俺は貰うなら手紙の方が好きだが、伝えるなら直接ストレートに、だな」
 岡崎・真幸(花想鳥・e30330)は、如何にも文系らしい私見を述べてから、ふと眉間に皺を寄せて微妙な表情になる。
「……俺のラブレターは長くてくどいらしいしな」
 恋人から態度で伝えろと怒られた事を思い出したのだ。なんとなくどんなクドさか目に浮かぶ。
「対面で直接伝える方がすぐに反応が分かるしこちらの真剣さも伝わりやすいから良いんじゃないかね」
 ともあれ、前よりは恋愛の機微に聡くなった真幸だから、臆する事なく信者達を諭す。
「俺は恋人に告白したがなかなか返事がもらえなかった。それでもその間に鬱陶しくない程度に声を掛けたり、悩みがあれば相談にのっていた」
 真幸の体験談には、妙に納得した様子でうんうん頷く信者達。
「うわ、なんか粘着質っぽい」
(「……鬱陶しくない程度と注釈したんだが」)
 失礼な想像をされて真幸はいささかムッとするも、
「そのおかげか対面で再度告白した時、受け入れてもらえた。表情や仕草の変化を見られて良かったと思っている」
 幸せな顛末を話せば、信者達は黄色い声を上げて祝福してくれた。
「戸惑いからの照れがマジ可愛かった……マジ可愛かった。あの時の嬉しさと愛おしさは忘れられない」
 しかも仏頂面が服を着て歩いている真幸が、声だけでもうっとりと夢見心地に恋人を惚気るものだから、そのギャップは好意的に受け取られる。
「喧嘩した時もそれを思い出せば、自分が至らないからかと反省して恋人の話を聞こうと思えるしな」
 やたらと殊勝に恋人関係が長続きする秘訣まで言い放てば、信者らの印象は更にアップ。
「……要するに、手紙だけが相手を思いやったり努力する手段ではないという事だ」
 真幸は涼しい顔の裏で余りの恥ずかしさに身の置き所のない思いをしつつ、いつも通り危なげなく説得を終えた。
「そっか、手紙だと読んだ時の反応が判らないのね」
 一方。
「どうも、先日結婚一周年を迎えた者です」
 鉄・冬真(雪狼・e23499)は、無表情を崩さぬ反面、わざとリア充オーラを振り撒いて現れた。
「妻の有理とは仲間として出会ってね。ひた向きさと優しさに惹かれて……気付いたら支えたい、守りたいと思うようになっていた」
 回想する冬真の隣には、未だ新婚ほやほやの新妻、有理が明るい表情で寄り添っていた。
「冬真の妻です」
 ぺこりと頭を下げるだけでも、2人の幸せそうな雰囲気が伝わって、信者を圧倒する。
「告白したのは、彼女が戦いに赴く頃。悠長に手紙を書いている時間は無かったし、何より、僕自身が我慢できなかった」
 日頃無表情な冬真だが、大切な馴れ初めを語る際は、自然と穏やかな顔になっていた。
「だから直接伝えたよ。愛している、離れている時も君を想っているって」
 ましてや、心から愛する有理を見つめる時などは、我知らず笑みが溢れる。
「直接伝えるのもいいものだよ。間近で愛しい人の笑顔を見られるのだから」
 冬真の含蓄ある言葉を裏づけるように、有理も温かな微笑を浮かべた。
「その時有理が返してくれた声も温もりも全部覚えている。今でも思い出すし、その度に愛しさは増していく」
 嘘偽りない惚気を聞いて、信者らも素直に2人へ羨望の眼差しを向けている。
「すぐに答えが貰えるの、羨ましい……」
「離れている時も、なんて、確かに直接言われてこそよね」
 冬真は手応えを感じて、愛妻へ優しい視線を向けた。
「有理は、どうだった? 当時の気持ちを教えて欲しいな」
 促されて有理が語り始める。
 人々を護る為に強くならないと——よく独りで思い詰めていた彼女へ、初めて温もりを教えてくれたのが冬真だった、と。
「傍にいてくれるとすごく安心して、いつしか、もっと一緒にいたいって想うようになって」
 その想いが愛情だと気付いたのは、彼が告白してくれた時——謳うような述懐は続く。
「私も冬真を愛していますって、直接応えたよ」
 手を繋いで夫へ微笑みかければ、つられて笑顔になった冬真が優しく手を握り返してくれた。
「直接だからこそ伝えられるものもあるよね……愛する人の笑顔に声に、温もり、傍で感じられるの、幸せだよ?」
「僕も、君を傍に感じられる事が幸せだよ」
 有理の手の甲へそっと口づける冬真。
「素敵、手紙でなくても告白は一生残る想い出なのね!」
 元より恋に恋するような信者達である。
 2人の絆にすっかり当てられて、直接告白されたい——と影響を受けた。
 他方。
「……ラブレター……もし貰えたとして……それは本当に貴方宛ての……本物のラブレターなのかしら……?」
 月白・鈴菜(月見草・e37082)は、相変わらず石英から蹴落とした蒼眞を冷めた目で一瞥してから、信者らの精神を抉りにかかった。
「え?」
「別人のなら宛名で判るでしょ?」
 それでもまだまだ余裕を失わず、笑って反論する信者達。
「宛名や差出人の名前が入っていたとしても……本当にその相手からのものだと証明できるの……?」
 だが、鈴菜とて簡単に鉾を収めるつもりはなく、抑揚のない声音で淡々と問い掛けた。
「もし宛名が入っていなければ……手違いで貴方の手元にあるだけかもしれないわよ……?」
「まさかぁ、そんな漫画みたいな話、実際には」
 次第に反撥が弱々しくなる信者。
 様々なフィクションで使い古されたシチュエーションとは、それだけ現実にも起こり得そうだからこそ何度も使われるのであって、見る者にもリアリティーを感じさせる。
「宛名があっていたり直接手渡されるとしても……からかわれているだけという可能性は……?」
 鈴菜の更なる追及に、
「あー……男子だとけっこうあるんだよ……女子のフリして可愛い便箋やらで手紙書いて下駄箱やら机やらに入れとく、で、女子からの告白だと舞い上がったところでネタばらししてからかう、っていうの! 世の中ニセラブレター、てのもあり得るんだぜ?」
 理弥も強く後押ししてくれた。
「もしも、好きな相手から『友達のAさんに渡しておいて』なんて言われてラブレターを渡されたら……どうするの……?」
 極めつけがこれだ。宛先間違いや差出人の悪戯に比べて、偶然や悪意が無い分、発生確率は一番高い。人によっては学生時代に経験した苦い思い出かもしれないほどに。
「やめてぇぇ!!」
 現に信者数人から悲痛な叫びを上げた。
「失恋と嫉妬の痛みを同時に味わう事になりそうね……」
 翳りを帯びた声で彼女らを憐れむ鈴菜。
「手紙で告白する場合……自分では洒落た文章にしたつもりでも……相手からすれば読み辛かったり……回りくどくて結局意図が通じなかったりするような事はないかしら?」
 かと思えばまたも正鵠を射た指摘で信者らを揺さぶる。
「……それなら意中の相手に直接『好き』と一言伝える方が……ずっと分かり易いでしょうに……」
 回を重ねる毎に実地で磨かれる鈴菜の演技力は相当なもので、信者らは皆、彼女の演説が蒼眞の台本によるとは気づかず、ただただエッジの効いた内容に衝撃を受けていた。


「はぁーーーしゃらくせぇ主張のビルシャナも出たもんだなオイ」
 チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)が、いつもの粗野な物言いで長い溜め息をついた。
「とっととツブしてトリ肉にしてやんよ」
 顔も口も悪ければ気性も荒い、いかにもチンピラといった風情のチーディが組んだ両手指をボキボキ鳴らせば、否が応にも迫力が出る。
「なーにがラブレターだ、便箋選びだ! 本気で惚れてるヤツの思いがよぉ、紙きれ如きに書ききれると思ってんのか!?」
 それだけで既に恐れ慄いている信者達へ向かって、チーターの牙を剥き出しにして大喝するチーディ。
「自分の思いを全部書ききれたとしても、みじけーならその程度の思いっつーことだろ!? 長けりゃ読むのクッソめんどくさくて迷惑だろ!?」
 そのワイルドな顔立ちに似合わず、チーディの捲し立てた主張は実に理路整然としていて、逃げ道すら塞いだ詰問が顔の恐さ抜きに信者をビビらせる。
 実際、決して性格の良くない自己中心的なチーディなればこそ、長いラブレターなぞ読んでいられないと思えたのだろう。
「ならコクり方なんぞ一つしかねぇだろ!!」
 それでいて、チーディのアイデンティティにも等しい粗暴な三下根性を丸出しにして、恫喝するのも忘れなかった。
「指輪を叩きつけて俺のモノになれ!! と叫ぶ!! これだ!!」
 余りに漢らしい正々堂々とした告白は、信者達の歓声を呼んだ。
「きゃー、カッコいい!」
 手紙では表現し得ないシンプルかつ直情型の内容が、女性のハートを掴んだようだ。
「ガチの行動で示しやがれ、男ならな!!」
 衆人環視の中で己がプロポーズ術を曝け出したチーディが言うのだから、説得力の無い訳がない。
「俺のモノになれ、か……」
「一生に一度で良いから言われた〜い」
 信者らは総じて、チーディの説得に大きく心を揺さぶられた。
(「う~ん……告白されたい、って信者さんが多いのかな?」)
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は、目をまん丸に見開いて首を捻っていた。
(「ワタシは自分から告白したけど……男とか女とか関係なく、好きになった方が告白するっていうんじゃダメなのかな……」)
 マヒナの告白は多少不可抗力な部分もあったのだが、相手がその場にいて彼女の想いをはっきり耳にした事実に間違いはない。
「えっと……ワタシにも、いるよ? 大好きな人が……その気持ちは、ワタシだけのもので。恋心は人それぞれ違うから、想いの伝え方も一つじゃないと思うの」
 なればこそ、実際に告白という偉業を成し遂げて今や恋人持ちなマヒナが、告白の多様性を語るのにも説得力が宿るのだ。
「例えば伝えたい想いを音楽に乗せたり、花言葉に託したり、時にはびっくりするようなサプライズ……もちろん直接言ったり、今の時代ならメールやメッセージでも」
 そして音楽や花への造詣が深いマヒナだから、立て板に水の如くすらすらと滑らかに言葉が出てきた。
「皆、どうしたら気持ちが伝わるかな? って悩みながら告白してる。ワタシも直接言ったよ。恋に正解がないように、告白の仕方だって正解なんてないんじゃないかな……」
 だが、納得した様子でうんうん頷く信者達の顔を見回して、気づいてしまった。
(「ピジョン……!?」)
 プラチナチケットと隣人力をフル活用したピジョンが、何食わぬ顔で信者ヅラをして、マヒナの説得へ耳を傾けている事に——。
 その足元ではマギーがポンポンを振って可愛らしく応援してくれている。
「というか……ワタシなら、ラブレターでワンクッション置くより直接言って欲しいな……その人の声で、その人だけの言葉、で……」
 マヒナは思わず真っ赤になりながらも、演説をやめる訳にもいかず、予定通りの決め台詞を紡いだ。
(「これ、信者の心を折るっていうより自分の心を折れ、だよね!?」)
 恋人の目の前でどんな告白をして欲しいか正直に訴えるのだ。消え入りそうな声になるのも当然だろう。
 どことなくプロデューサー気取りで腕組みし、うんうん頷いているピジョンが憎らしい。
 それでも、恥ずかしさをおして主張したマヒナを始め、実体験を披露した真幸やアイビスに冬真、盤石の構えで理攻めしたチーディや鈴菜、息ぴったりな遣り取りを見せたカルロに乃亜——全員の努力が見事実を結んで、
「もうラブレターに拘るのはやめる!」
 信者全員が無事に正気を取り戻した。
 早速草臥・衣(神棚・en0234)が彼女らを空き地の外へ逃がす。
「……」
 ラブレター推進ビルシャナは何やら書き物をしていた。
 抗議文でも辞世の句でも書き上がるまで待つ必要はない。
「派手に死にな!!」
 集中攻撃の後、最後はチーディが加速で起こした狩猟豹の残火によって、ビルシャナへトドメを刺した。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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