星景アクアリウム~光の誕生日

作者:東間

●星と海と
 ぷかぷか、ふわふわ漂う海月。
 風のように、翔るように泳ぐイルカやペンギン。
 鯨は歌声響かせながら現れて、ゆったり、静かに泳ぎ去る。
 そんな彼らの体は宇宙に瞬く星々で出来ていて、天井や床、壁、柱には穏やかな星海原。
 そこは、今だけの魔法にかかった場所。
 海の住人達と出逢える水族館。

●星景アクアリウム
 熱帯魚。ペンギン。ラッコ。海月。鮫。深海の蟹。蛸。亀。
 他にも沢山。
 様々な海の住人達と出逢える水族館の公式ホームページ曰く、『宇宙の魔法をかけました』。それを見た瞬間、花房・光(戦花・en0150)は「行かなくては!」と思ったらしい。
「プロジェクションマッピング、だったかしら。それを使って館内に星の鯨や海月を映すだなんて、絶対素敵に決まっているもの」
 他にも、ジンベイザメや海亀、白熊やアザラシもいるのよ。
 そう言って楽しげに微笑んだ光の尻尾は左右にふりふり。手には、事前にネット予約で購入したというチケットが握られていた。
「うん。用意周到だね」
 にこやかに笑ったラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)へ、光もくすりと笑い返す。
「『備えあれば憂い無し』よ。それと、魚達のご飯も宇宙風なんですって」
「……まさか、宇宙食ですか?」
 真顔でハッとした壱条・継吾(土蔵篭り・en0279)に、光は「残念、ハズレ」と笑み、両手を動かした。
「これくらいの小さい星形や、大きめの惑星形にしているのよ」
「成る程、それで『宇宙風』なんですね」
 そして、1日1回、その『宇宙風ご飯もぐもぐタイム』というのがあるらしい。
 一角丸ごと使った大水槽では、数人のダイバーが惑星風の餌を抱えて水中へ。
 星形のものは、甲殻類の水槽等、比較的コンパクトな水槽で見られるようだ。
 崩れて小さくなった惑星風の餌は、水中に散る様がマリンスノーのようだともいわれている。その為、カメラやスマートフォン片手に、その瞬間を待つ人も多いのだとか。
 そして、出口手前にあるショップ。
 そこは宇宙を映していないが、館内を泳ぐ星の鯨やイルカ等が描かれたマグカップやアクリルキーホルダー、文具、菓子と、宇宙の魔法にかかったグッズが売られているらしい。
「館内でお星様な生き物と写真を撮ったり、水槽の前でゆっくり過ごしたり……隅々まで楽しめると思うわ。それと、」
 楽しげに微笑えんだ光が、天色の目を輝かせる。
「低確率で星のメンダコが現れるそうよ」
 そのメンダコだけはほんのり赤く煌めいており、暫しその場に留まった後、ぷよんぷよんと移動するのだとか。
「ふふ、楽しみね」
 水の世界と、映し出される星の世界。
 どちらも、さあ──存分に。


■リプレイ

 穏やかに漂い、静かに瞬く2つの世界は遠いようでどこか近い。海と宙の彩が重なる度、ヴェルトゥは思わず魅入りそうになる。
 エレオスの翡翠色も、足先でふわり漂った星海月や、穏やかに命煌めかす星海原で星屑と共に輝いて――ふいに聞こえた歌声が2人の世界を星鯨色に染め上げた。
 そよ風のように星の魚達が過ぎてもまだ、魔法の如き光景を共に見られたという嬉しさは冷めず。ヴェルトゥが友の手をそっと握れば、無邪気な笑顔と共に握り返された。
「ヴェル、星の鯨……見られましたね」
「うん。……エレ。今日は2人一緒に余す所なく満喫していこう」
 今だけの魔法が心に残す永遠の思い出は、まだ見ぬ世界の分だけ待っている。

 宇宙の魔法が満ちるそこは、命も星も数えきれない程に煌めいていた。沢山の思い出残すべく目を輝かすラグナシセロだが、スマホはまだ使い慣れておらず。
「夢中になってると転ぶよ」
 何より記憶させなきゃ勿体ない、と手本見せるレクトは、ラグナシセロ曰くシャチと似てるらしい。
「レクトに似てる気がするから、好きなんだ」
「じゃあラグナは……愛くるしいからラッコとか?」
 はぐれぬよう手を繋いでラッコの所へ。煌めく魔法に見惚れ、殆ど撮れずとも、レクトと一緒なら楽しくて幸せだが。
「レクトはなにが一番楽しかった?」
「……秘密」
 何よりも綺麗なラグナの表情、とは言いにくい。

 ただ身を任すように揺れる海月に見惚れる志苑が、何を見たいか。既に解っていた蓮も、ゆらゆらと緩徐に動く星海月を眺めていたが。
(「俺が見ている事も気にしていない様子だな」)
 いつ気付くか見ていたが、海月に注がれたままの視線に痺れを切らし、そんなに好きかと問えば肩がハッと揺れた。
「はい、好きです」
 毎回何も言わず付き合ってくれるから、つい甘えてしまい、夢中になっていた。
「蓮さんも、お好きですか」
 自分の好みに付き合わせていないだろうか。申し訳なさを抱いた問いに、真っ直ぐな視線が注がれて。
「……ああ、好きだ」
 それが。どうしてだろう。
「あの、海月のお話ですよね」
「ん? ああ、……そうだが」

 ゆるり過ぎる星鯨に触れ、鱗を星の如く輝かす魚は掌に乗せ、輝き漂う海月はツンツンと。敏腕カメラマン如月とカリスマモデル萌花の成果はどれもSNS映え間違いなし。そんな2人は誕生日を祝うのも完璧で。
「エインヘリアルにナンパ……じゃなくて、目つけられた時に光ちゃんも来てくれたの、嬉しかったんだ」
「萌花ちゃんを助けてくれてありがとうっ」
「当然よ。素敵な人を都合よく扱おうとする人は、成敗しなくちゃ」
 視線交え微笑みあった後、光へ贈った煌めく星鯨デザインのペンと亀が表紙のメモ帳。共通点は。
「可愛いヒトデ付ね。ありがとう桜庭さん、近衛さん。大事に使うわ」
 最後はプレゼント抱き締め笑った光を挟んでの記念撮影。3人への思わぬプレゼントは小魚達のキス。

 気軽に1歩踏み入れた先は星彩煌めく別世界。
 本物の魚が泳ぐ反対側、宇宙の魔法にかかった壁を星鯨や海月が散歩すればリィンハルトは歓声を上げ、ダリアは目の前を通過した眩い魚や天井の煌めきに、驚きと感激が止まらない。
 温かそうな子を見れば寒さに負けない予感。適任候補はラッコやペンギンなのだけど。
「ペンギンさん達にも、宇宙風ごはんあるのかな? どんなごはんになってるんだろね」
「食べてるお魚とか貝とかでの惑星風は難しそうだよね」
 マッピングするの? 泳ぐ姿は宇宙遊泳みたいにかっこいい?
 真相求め歩き出した2人の後ろ。現れた星亀がヒレを振り、星海の向こうに消えていく。

 光に祝辞を贈り、1人大水槽に辿り着いたエヴァンジェリンの傍を星鯨がゆく。慈愛に満ちた目に見られた気がして――いつかのように手を伸ばし、この青の世界に溶けていきたいと願った。
 そこで彼らと共に泳ぎ。水に混ざり。星鯨と語り合い星と歌いたいと言ったら。
(「アナタは、一緒に来てくれるかな」)
 祈りにも似た願いを胸に硝子に額を付け、目を閉じる。
 彼方から響いたのは、鯨の歌だろうか。

「あー、海だか空だかわっかんねぇね。あ、今の撮れた?」
「華麗にブレたけど撮れたよ!」
 星メンダコを最初に見付けた奴が勝者! の筈が、勝負忘れ楽しむキソラとラシードの後ろ。抜き足差し足で広視野(?)生かすサイガが、特徴呟き歩いていた足を止めた柱の陰、ぴゅんっと消えた赤色がUターンをキメさせる。
「今いたんだってマジで、ソコに!」
「ヒトデか何かと見間違えたんじゃねーの?」
「えちょっとパシャってみ? 写り込むかも」
「『おわかりいただけただろうか』のアレだね?」
 居ない証のつもりでレンズを向け――画面の端、仄かに光る赤に顔を上げた時にはもう、輝きは星海の彼方。だが液晶には星の跡が残っていて。
「コレ消えないよな? 光ちゃんにも送ろ」
「それがいい」
「あっ、俺が見っけたって添えろよ」

「わぁ! みてみてお父様! 星の海に潜ったみたいです!」
 夢にまで見た星海と、星彩鯨やあざらし達。瞳煌めかせていたロゼは、父・ヴェルダンディーの言葉に驚き、そしてはにかんだ。歌い綴ったものを、アイドル歌手活動を知ってくれていた。
「……私とてそのくらい把握している」
 だがヴェルダンディーはただの道具としてきた娘が何を好むのか知らず。故に知らねばと問えば、星は大好きと弾む声。
「どんな暗闇でも1人ではないと、その光で励ましてくれる気がして」
 もっと父の事を知りたくて、星海の旅の中、また一緒にと紡ぐ。
 笑顔で星彩の命見つめる姿にヴェルダンディーの顔も綻んで。星々が結んだ絆は、ぽわぽわ漂う赤い星への道標。

「ヒノトも海の生物、好きか?」
「お! その言い方、さては眠堂も同じだな」
 水槽に笑顔を2つ映し、眠堂とヒノトは星海世界を渡っていく。土星の餌を追うエイの、実は顔じゃないチャーミングな裏側を愛でた後に訪れたそこは、宇宙の魔法を際立てる華麗な魚達――熱帯魚の住処。
「一生ここに居られる……」
 ずっと年上の男が見せた好みが微笑ましくて、ヒノトも同じ世界を覗き込む。
「ヒノト、俺も少しここに居てえなあ」
「一生は難しいけど暫く眺めていようぜ。俺もここにいるよ。眠堂が好きなものを一緒に堪能したいんだ」
 我儘には笑顔を返し――だが時は刻々と過ぎる訳で。
「……早くしねえと昼飯が終わっちまうよな!」
「……なあ。帰る前、最後にもう一度ここを見に来ないか? 当然その前に全部見て回るのは前提で!」
 己の好きな物を友に共有してもらえる幸せが心に満ちて、名残惜しそうだった眠堂の表情は、ヒノトの提案で星よりも明るくなる。
 未来に出会う命も、友と一緒なら、より楽しい。

 星のメンダコ探し競争でぼぼぼと炎散らしたのは束の間。可愛らしい子がクィルとメイアをときめかす度、脳内から星メンダコがぽいんっと追い出されかけては、むんずと戻される。
 だが頑張ったご褒美はあるもので。見つけた赤星を青い2人で挟んだ写真は、一番星のように生える記念になる事間違いなし。
 ただし勝敗は決めねばならぬ。だって競争だもの。
「仕方ないので今度限定パフェを奢ってあげます。僕はお兄さんですからね。別に負けたからじゃないですからね」
「……えっ、くーちゃんがお兄さんだった時なんて1ミリもないの」
「そんなことないですー! 僕の方が絶対お兄さんですー!」
「わたくしの方がお姉さんですー!」
 賑やかな声が星海に響く。その波紋に赤星が踊った気がした。

「グレッグ、見て、メンダコかわいい!」
 外見は宇宙人のようにふにふに。耳?はぴろぴろ。泳ぐ様も宇宙を飛ぶようなメンダコにノルの目はきらっきら。
 可愛いと言っていいのか若干悩んだグレッグだが、泳ぐ姿は確かに和めそうだ。何より、ノルが何を見て嬉しくなるかが1つ判った事が嬉しくて、ニコニコ笑顔に心が満たされる。
「赤く光る星のメンダコ見つけられるかな……あ、すごい! 宇宙の神秘だよ、見てグレッグ!」
「そんなに気に入ったならぬいぐるみを買って帰るか?」
 2人とって、星のメンダコは楽しいと幸せ運ぶ流れ星。

「……可愛いな」
 希望を訊いた時に全部と笑った瞳が、水底で睨み合う魚からサイファに移る。慌てて魚がと言い、水槽向こうにメンダコがと続ければ誤魔化しは成功。何回逢えるか楽しむ光にサイファは再度同じ事を呟き、改めて誕生日を祝った。
「またどこか誘ってもいいかな?」
「その時空いていれば、大丈夫よ」
 不思議そうに笑った光の目は、すぐにメンダコ探しの旅路へと。

 星彩をした同じ命と泳ぐ彼らを羨ましそうに見送った後、自分と同じ1人なのかもと探そうとしたメンダコが目の前に、ぽわん。まるで会いに来てくれたようで、ウォーレンはふわり微笑んだ。
「大丈夫。僕の恋人は秘密があって、たまに良くわからないけど。そういうとこもひっくるめて好きだから」
 礼を行って振り返り──固まる。遅れると言っていた光流の姿に何度も瞬きして、確認すると。
「うん、聞いてた。全部。その……遅くなってごめんな。あ愛してるで」
 肝心な所で噛んだ光流も、恋人と仲良くメンダコ顔負けの赤色に。
 先程のメンダコ見付けて並んだなら、深青色の天の川をゆく群れになる予感。

 野生では海藻を体に巻くラッコだが、宇宙の魔法にかかったここでは仲良く手を繋ぎぷかぷかり。
「僕等と似てるね」
「うん。私たちとおんなじだね」
 冬真と有理のように、互いを繋ぎ止める温もりを持つのはあのラッコ夫婦も同じらしい。
(「きっとラッコの夫婦も、互いが互いの導なのかも」)
「有理、こっち見て」
「どうしたの、冬……」
 小さく手を引かれ、掠め取るような口付けに呼びかけた名も唇も奪われる。
 ふと沸いた悪戯心に見えた甘えん坊な面。ラッコより自分を見てと言うようなそれに、有理の心はますます冬真で占められる。

 普段は水底のような水族館が星の海に変わり、命と共に瞬く中。深海蟹水槽の傍に漂っていた赤い星が、翡翠と光を迎え、ぽわわと舞う。
「メンダコさん、待っていてくれて、ありがとう」
「私からも。逢えて嬉しいわ」
 光の笑顔に氷翠も微笑み、誕生日を祝した。この後、一緒に行くショップで贈り物を探せたら。そうと知らない尾は、嬉しそうに揺れていた。

 14時。アナウンスと共に始まった宇宙風ご飯もぐもぐタイムは、魚達だけでなくオランジェットも待ちわびていた瞬間。
「見てください、美味しそうに食べてます!」
(「まったく、はしゃいじゃってまぁ」)
 だが、その瞬間を思い出に残すのも悪くない。何よりはしゃぐ様は愛らしい。縁はスマホを向け、思い出をしっかり残していく。
 餌やりが終わった後、「はい、あーん」な自分達のもぐもぐタイムが起きそうだが――恋仲の2人のひとときは、人目というものでは止められないだろう。

 イルカを眺めながら14時を待つピジョンとマヒナのお供は、元気に泳ぐイルカの姿と、今年行ったアマゾンや話題になった火星等の話。
「あ、そういえばこの前、旅団の友達と一緒に星空レストランでジョシカイしたの! 星にちなんだメニューでどれも可愛くてキレイで……」
「ぜひ行ってみたいな。メニューってどんな感じだろう、宇宙食はでるのかい?」
 楽しいお喋りはもぐもぐタイムで一休み。丸い餌がほろりとマリンスノーのように散る様は、マヒナを目一杯ときめかせ――幻想的な雰囲気が唇に悪戯な魔法をかける。
(「えっ」)
 ピジョンの「しーっ」に、ただ真っ赤になり俯く姿を、星のペンギンが不思議そうに見ていた。

「こんなに綺麗な風景があるんだね……!」
「うん、綺麗だなぁ……」
 弾けるように解けて降るそれは、広大な青い世界を幻想的に彩るマリンスノー。ジンベエザメぐるみを抱え感動するユアの隣、大きな海月ぐるみ抱えたステラの頭に、共に埋もれそうな自分達が浮かび――あ、そうだ。
「ユア、その『さん』ってヤツ、無しで呼んでくれよ」
「ふぇ……?」
 そう呼んで欲しいと願う声と、少し嬉しそうに訊き返す声。
 その間も時は降る星屑の如く穏やかで。昨日『作戦』を練っていた事もあり微睡始めたステラは、気付いたユアの額に小さなキスを。
「ちょっとだけ、おやすみ」
「おやすみなさい。ステラ」
 瞼閉じて暗くなった世界に、優しい声が幕を下ろす。

 青々と輝く大水槽に届いた惑星が解け、星が降る。懸命に星を啄む小魚は愛らしく、目を細めた千鶴の視界を星鯨が渡っていった。
「ね、覚えてるかな。行ったことないって言ったら、帷さんが水族館に連れてってくれたの」
「ん、勿論覚えている」
 千鶴と水族館へ行くのは好きだが、あの日を切欠に彼女も水族館を好きになってくれただろうか。
 今は妹や家族のような親しい友。それを嬉しく思う帷に対し、友達になりたての頃、千鶴はこんなに構ってとするつもりはなかった。片想いだって、そう。
 降る星に手を伸ばす。水中で星は形を変え、気持ちも移ろうけれど。
「……こっちを向いて」
 帷のスマホに残った千鶴と魚のツーショットと、今日という思い出は変わらない。

 祝辞を贈った光から、初水族館である今日がいい日になるよう願われた後、エトヴァは広大な青の前にいた。
(「お魚サン達、星空ヲ、泳いでいるみたいなのデス」)
 雄大な生命の営みは心を惹き、解けた餌は小さな星の欠片が生まれるよう。
 透き通った世界。心地よさそうに悠々と舞う命達。微笑みは消えず、飽く事もない。

 目の前を行くのは、煌めく魚を連れ宇宙を旅する星彩ジンベエザメ。
 次なる魔法は魚達の大好きな惑星ご飯。星から海中揺蕩う星屑マリンスノーになった餌は、降りながらあえかな光を弾いては輝いて。
「……眩しい星の海に溺れてしまいそうだね」
「……おいしそう」
 零した感想。溢れた笑み。子供っぽいと思われてないかとシズネの頬がフグの如くぷすーっと膨らむも、
「惑星の代わりに星鯨のお菓子を買って帰ろうか?」
「ぜったい約束だぞ!」
 密かに収めたラウルの提案でニコニコ笑顔に大変身。宇宙の魔法という心擽る煌めきの中、2人楽しく魔法の海へ。

「将来の夢みたいなの、ある?」
 ティアンが祝辞を贈り、問うと、はにかんだ光の夢は今より子供だった頃から『もっと強く』らしい。
「叶うかしら」
「叶うと、いい」
 もう叶わぬ己が夢の代わりではないが、どうしようもなく遠い硝子向こうの景色は、ほら。こんなにも綺麗だ。己もあんな風に、彼にも愛せなかった星の一部へ還れるだろうか。同じものを愛し、見て、感じていられたら良かったのに。
(「いつから違えてしまったのだろう」)
 それでも宇宙は、世界は――。

 普段決して見られぬ星海原。己も時を忘れた事に驚く奏多の隣、星海泳ぐイルカを緩やかに追うアリシスフェイルは今も魅入られてる。気は引けるが、瞳に星彩ばかり映すから。
「そんなに好きなんだ?」
 魅入っていた事に気付いた瞳が奏多を映し、申し訳なさを浮かべた後、きらきら笑顔が輝いた。
「うん、とても好き」
 幼少期、亡き父と見た本物の星空。煌めきと幸せに溢れる時。教わった星々の名はさっぱり覚えられぬ侭だけれど。
「お父さまとね、沢山一緒に星を眺めてたから」
 愛し気に星を見る姿へ奏多はそれ以上を訊かず、創られた星海に流星を求めた。星に纏わる全てが彼女にとっての幸いであるよう――そう、願いを懸けられるから。

 確かに手を繋ぎ、2人で星と海が息づく世界を漂っていたのに。
 アイヴォリーの世界は捕まえた星屑の魚と共にたちまち翳り、星屑と人混みが、流星気分をくれるだろう星イルカを見つけた夜から眩い温もりを隠す。
 求める姿は冷たい人波の彼方。
 そこに、大きな星彩が射す。
 翔ける影へ天使を探す手が伸びた時、星海月が煌めき弾けた。空舞い傍を横切ったクリオネの愛らしさは笑みを生み――星鯨の紡ぐ水流の下から飛び込んできたのは、
「見つけた。俺の天使」
「……見つけた! わたくしの貴方!」
 泣いた跡は袖で拭って、滲んだ世界に別れを告げて。もう逸れぬようにときつく締め直した指先に、海月の煌めきが過っていく。

 いつかのように追う星彩の魚達。本物の空を飛ぶように星空をのびのび泳ぐ姿は、いつかより近い。キースは少し昔を思い出しながら、見かけた光を静かに呼ぶ。
 魚達に配慮し声を抑えての会話は、見つけた星の命や、星鯨達が楽しそうに飛ぶ世界の事。
「こいつらと一緒に飛んでみたいか?」
「勿論! 一緒に飛びたい子最上位は、まだ見ぬ空飛ぶ鯱ね」
 目を輝かす光は確か。そう。
 おめでとうといつかのように祝えば、星空の中に笑顔が浮かんだ。

「……そうだ。バレンタインの果たし状、相手も喜んでくれたぞ」
「おめでとう、アアルトさん……!」
 髪。瞳の色。狐火という二つ名。フェネック。
 もぐもぐタイムを共に楽しんだ後、クーは似た所の多い光と共にグッズショップへと。
「誕生日おめでとう、光。こうやって、この先も一緒に出かけられると良いな」
「ええ。一足早いけれど……アアルトさんも、お誕生日おめでとう」
 星イルカが見守るコンパクトミラー。それと揃いの物が光からクーの手へ届けば、笑顔が2つ。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月10日
難度:易しい
参加:45人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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