●狂い咲く怒れし叫吼
東京都、新橋駅。
駅前から連なる繁華街には幾つもの居酒屋、クラブが建ち並ぶ。
そしてその飲食店の中には、世の中理不尽、己が身の不平不満をぼやく、サラリーマンの人達が……。
『クソッ……あの上司、ふざけんじゃねぇよぉ!!』
こじんまりとした小さな居酒屋。
薄暗いカウンター席で、一人くだを巻き、苛立ちを叫ぶ20歳過ぎの青年。
……どうやら今日、会社で上司に怒られ、強い不平不満と苛立ちを紛らわそうと、酒に呑まれている……という様である。
そして、そんな個室へ。
『ふふ……どうしたんだい?』
何処か情熱的な服装、そして褐色の肌も露わにした女性『アガウエー』が現れ、彼の横へと座る。
そして、アガウエーは、彼の話を促しつつ。
『そうだねぇ、それは怒って当然だよねぇ』
と、その怒りを肯定する様に促す。
そして……彼の怒りが頂点に達したところで。
『ふふ……頃合いかな?』
一言紡ぎ、そのまま……彼の怒りの感情をサルベージ。
……サルベージされた彼を、屍隷兵『縛炎隷兵』化すると共に。
「さあ、お前と同じ怒りを持つ者を襲い、殺して来なさい」
と指示を与え……それに従い、店内で暴れ始めるのであった。
「ケルベロスの皆さん、大変ッス! 東京の新橋駅前の繁華街で、死神のサルベージ事件が起きようとしているッス!!」
と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスらに早速。
「どうもこのサルベージ事件は、死神『炎舞の死神』アガウエーによって引き起こされている様ッス。彼女は生きた人間の魂をサルベージして殺害し、その死体を屍隷兵にして人々を襲わせる様なんッス」
「襲撃を受けている施設では多くの人が逃げ惑い、次々と産み出された3体の屍隷兵が別々に人々へ襲いかかろうとしている様なんッス!」
「施設から避難させた人々については、警察と消防の方々が引き受けてくれるッスからまだいいッスけど、施設内部では屍隷兵が大暴れしているので、ケルベロスの皆さんじゃないと手が負えないッス。これ以上被害が出ない様、屍隷兵の撃破を頼むッス!!」
「ちなみに、今回アガウエーによって発生した屍隷兵は、飲食店がフロア毎に入っている雑居ビルで起きてるッス」
「雑居ビルは5階建てのビルで、1階にはコンビニが入っているッスけどここには現れないッス」
「一体目の屍隷兵は、5階の個室系居酒屋で発生し、二体目の屍隷兵は4階のオープンフロア系の居酒屋で発生してるッス。そして三体目の屍隷兵は、2階の大きな水槽のある海鮮系の居酒屋になるッス」
「これら全てで狙われたのは、上司、先輩などに不平不満を持った若いサラリーマンの諸氏の様ッス。怒られた、とかの鬱憤、怒りをサルベージされ、屍隷兵化してしまった様ッス」
「各フロアを繋ぐのは、基本的にはエレベーターッスけど、両脇に避難用の非常階段と、スタッフ用の階段がある様ッス。ちょっと物が放置されてたりしてる様ッスけど、取りあえずそこを経由して逃げる事は可能ッス」
「避難しているのは、ちょっと酒によったサラリーマンの方々、そして店員さん等ッス。取りあえず屍隷兵を階段のある両脇に行かせなければ、避難自体はそんなに難しく無いと思うッス」
「ちなみに屍隷兵達は、炎を纏い、それを纏った殴打で攻撃してくる様ッス。炎のバッドステータスが常に付加された様な感じになるッスから、注意して欲しいッス!」
そこまで言うと、最後にダンテが。
「屍隷兵は、アガウエーから『縛炎隷兵』と呼ばれているッスから、自分と似た怒りを持つ物を探して殺そうとする性質がある様ッス。だから、似た怒りを露わにすれば、優先的に襲い掛かってくると思うッスから、宜しく頼むッスよ!」
と、拳を突き上げるのであった。
参加者 | |
---|---|
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995) |
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993) |
マサヨシ・ストフム(未だ燻る蒼き灰・e08872) |
柳生・梵兵衛(スパイシーサムライ・e36123) |
浜野・真砂(本の虫・e41105) |
エリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135) |
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107) |
アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950) |
●狂乱の畔
東京都の一角、新橋駅。
都心ど真ん中のサラリーマンの街……繁華街には多くの居酒屋、クラブ、カラオケ等々が並んで居る。
……そんな繁華街の一角にある雑居ビル。
そこは1階にはコンビニエンスストアが入り、他のフロアはフロア毎に様々な居酒屋が入店している店。
夜な夜な、サラリーマンの悲哀を聴き、酒で愚痴を洗い流す場な訳である。
……しかし、そんな愚痴を呟く若いサラリーマンの下へ、情熱的な服装と、褐色の肌を露わにした『炎舞の死神』アガウエーが姿を現わす事件。
「まったく……粋じゃない火遊びだねぇ。カレーも剣の道も、孤高の高みを目指すもの……不満があるとすりゃ、己の未熟のみだというのにねぇ」
「ああ。命を奪うだけでは飽き足らず、遺体と魂まで弄ぶとは、胸糞悪いにも程がある。しかも自分は兵隊作ったらトンズラかよ。死神ども……いつか絶対、生まれてきた事を後悔する目に逢わせてやる」
柳生・梵兵衛(スパイシーサムライ・e36123)にアルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)は拳をぐっと握りしめ、叫ぶ。
……アガウエーのした事、それは若いサラリーマンの不平不満を聴き、その怒りを肯定し、その怒りが頂点に達した所を利用し、怒りの感情をサルベージし、殺すという行為。
誰であれ、他人に不平不満を覚える事は当然ある筈。
勿論、普通の一般人だからこそ、ささいな不平不満、愚痴を酒場で愚痴ることもある。
それを利用するという事は……全ての一般人がターゲットにもなりかねない。
「……えっと、でも上司への不満があるのならば……転職すれば良いのでは、と思ってしまうのですが……」
と浜野・真砂(本の虫・e41105)が小首をかしげると、アルベルトとエリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135)が。
「……誰も彼もが、簡単に転職できる、って訳ではない。嫌な上司の顔色を伺い、話を聞いて仕事をする……それがサラリーマンって訳だ」
「そうね! 家族が居る様なサラリーマンさんは、家族を養わないといけないし。嫌な事があったとしても、簡単に止めるわけにはいかないのよね」
「そう言う事だ」
と、二人の言葉を聞いたルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)が。
「まぁ、これは中々難しい仕事になりそうだね。でも、やるしかない、と……取りあえず、細やかな班分けをしてみようか。大まかには上と下、両面から仕掛ける事になるけど」
と言うと、真砂が。
「そうですね。作戦は4階5階を抑えつつ、2階から順に制圧……で宜しいでしょうか?」
「ああ。屋上に逃げさせる方法もあるかもしれないが、どれだけ居るか見えてないからな。屍隷兵は4階と5階に出ているとの話だから、そこを抑えつつビルの外へ逃がすしかないだろう」
「そうですね。なので、4階、5階の抑えが重要になりますね。でも、力無き人々を護る為には、踏ん張らないといけませんね」
マサヨシ・ストフム(未だ燻る蒼き灰・e08872)とロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)の会話、そしてルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)も。
「ええ……エリザベス様、ロベリア様には大きな負担を掛けてしまいますね……宜しくお願いします」
と頭を下げるルーシィドに、笑顔で頷くロベリア。
そして梵兵衛、マサヨシが。
「まぁ、報われない気持ちはなんとか解決してやりてぇ所だ。兎に角此処は確実に対処しないとな!」
「ああ。と、上空に着いた様だぜ」
ヘリオンで、新橋上空に到達、そしてマサヨシは。
「さぁて悪いが、時間稼ぎに付き合ってもらおう、 行くぜ!」
と一斉に号令を掛けると共に、雑居ビルの入口、四階、五階へと、一斉に突入するのである。
●怒れる炎に灼かれ
『……ウ、ウウ……!!』
呻き声を上げて、個室の襖を蹴り破り、姿を現わす屍隷兵。
突然の屍隷兵の出現に、来客者達は混乱、悲鳴も上がる。
そんな個室系居酒屋五階、窓を蹴破り、飛び込んできたのはエリザベスとアルベルト。
『うわぁ、何だ何だぁ!?』
予想外の事態に、一般客に加え、店の店員さんも叫んでしまう。
……そんな店員さんにすぐエリザベスが。
「驚かせてごめんなさい。でも余り説明している暇はないの。取りあえず、店にいるお客さんを、非常用階段を使って逃がして!」
と隣人力と割り込みヴォイスで、落ち着かせるように声を掛け、更にその場から一般人を避難する様に伝える。
『わ、わかりました!?』
と、少々まだ混乱気味だけど、頷き混乱している来客者を非常用階段を使って逃がす店員。
……その人の流れをくぐり抜けていくと……緑色の炎に包まれた屍隷兵が、苦しみの声を上げて、襖を壊して廻る。
そんな屍隷兵の真っ正面に立ち塞がると共に。
「全く、最悪だあのヘリオライダー! 三人も犠牲者が出る前に予知出来なかったのかよ! しかもギリギリまで必要な人員も確保出来なかったとはこの無能! 前線で戦う俺等の身にもなってみろってんだよ!」
と苛立ち叫ぶアルベルト。
更に続いてエリザベスが。
「そうね。本当上司からぐちぐちと嫌がらせされて、最低ーな気分だった事が私のもあったわ! 毎日心が抉られていくのよね、どんなにこっちが頑張っても一方通行だし、性的な嫌がらせもされて、ほんとーに嫌な感じなのよ!」
二人が大声で愚痴ると、目の前の屍隷兵は、炎の中でニヤリ、と笑う。
そして、仲間だなぁ、と言わんばかりに接近し、その炎の拳で殴り掛かってくる。
しかしその攻撃、エリザベスが敢て受ける、そしてすぐに全身防御で自己の盾アップを付与。
更にアルベルトが、彼女を助けるように紙兵散布でBS耐性を付与する。
……次の刻、屍隷兵を前後で包囲し、彼が逃げられないように配置につく。
「さぁ、怒りなさい!」
とエリザベスが組み付きで、敵の怒りを誘うと、同時にアルベルトはマインドシールドで盾アップを付与。
主にアルベルトがエリザベスを補助、エリザベス自身は目前の屍隷兵に確実にダメージを与える様に動く。
……そんな五階の戦いとほぼ同時に、四階でも。
「皆様、どうか目を覚まして下さい、心を強く持って下さい。今、この建物は危険なデウスエクスに襲われています。私達ケルベロスが彼らからあなた方を護ります。どうか安心して、店員さんのご指示に従って建物から避難して下さい」
とルーシィドが凛とした風を使い、店内の店員と来客者達をそのフロアから逃げる様に指示。
そして目の前に立つ屍隷兵へは、三方包囲して、来客者達を追いかけないように妨害。
また、屍隷兵に聞こえるように。
「ったく、今思い出してもムカつくぜェ! 無茶な行軍、怠惰な勤務態度、横領に着服なんでもありのクソみてぇな上司がいたんだよな! いつか後ろから弾丸食らわせてやろうと思ってた位のレベルでなぁ!!」
「最悪な上司、と言うか上官ですね。まぁどこにでも悪い上司は居るものですよ」
「そうですね。マサヨシ様の上司、他にもあくどい事に手を染めていたのではないですか?」
マサヨシの言葉に同意し、ロベリアとルーシィドが同意。
その上司の怒りを聞いた屍隷兵、こちらもニヤリと笑みを浮かべて、仲間にしようと攻撃。
……ただ、4階の者達は、一般人が全て避難するまでは、積極的に攻撃する事は無く、耐える。
そして、2階には、ルージュ、梵兵衛、真砂の三人が駆け上る。
周りの一般人を避難させつつ、屍隷兵に向けての挑発。
……ただ、ルージュと真砂の嫌な上司、先輩の言葉は、余り屍隷兵に響かない様で……一般人の殺戮を企てようとする。
「仕方ないね……それじゃ、攻撃して注意を惹きつけようか」
とルージュの言葉に頷き、己が身と、巨大な水槽を利用し、大外周りで一般人に追いつかない様妨害。
そしてルージュの月光斬に、梵兵衛の螺旋氷縛波、そして。
「最初から最大火力で攻めます。来たれ、極夜よりの魔弾」
と真砂が『Freikugel』で射撃。
……そうして2階、4階、5階で同時に屍隷兵を攻撃するケルベロス。
足止め主体の4階を除き、2階と5階は倒す方向で攻撃する。
……二刻、三刻、四刻と経過し、五刻目、二階。
『ウグォオ……!!』
三人の猛攻により、屍隷兵は倒れる。
そして、残るは四階と五階……人並みを掻き分けながら、二階の仲間達は四階へと駆け上がる。
「お待たせ。取りあえず二階は倒し終わったよ」
とルージュの言葉に、ちょっと安堵の表情を浮かべるルーシィド。
「後は4階と5階ですわね。五階の方の避難はどんな状況でしょう」
とぽつり呟くが、確認に行く訳にもいかない。
兎に角目の前の屍隷兵を足止めし、このフロアに足止めし続ける事が、4階の責務。
牽制攻撃を続けながら、上から響く戦闘音の状況も確認。
……そして、更に数分が経過。
『ウゴォオオオ……!!』
断末魔の悲鳴の様な音と共に、大きな衝撃音。
そして程なくして、上層から降りてきたアルベルトとエリザベス。
「上も終わった。後はこいつだけだ!」
とアルベルトの言葉、それに頷くロベリア。
「分かりました。ルージュさん、一気に仕掛けましょう!」
と合図を送ると、ルージュも頷き屍隷兵へ接近。
流石に8対1となれば……屍隷兵は殆ど抵抗する事も出来ずに押しきられていく。
そして、ケルベロス達の突撃から十数分。
「どうした! その程度じゃあオレの怒りは超えられねぇぞ!!」
とマサヨシが怒号と共に放つデストロイブレイドの一撃。
そしてロベリアも破鎧衝で服破り効果を付与、そしてルージュが。
「さぁ、これで終わりだよ!」
とイガルカストライクを叩き込むと……最後の屍隷兵も、其の場に断末魔の叫びと共に崩れ墜ちた。
●怒り退きめく
そして……。
「……終わった、かな?」
息を吐き、その手の刀を納めるルージュ。
……目前の屍隷兵『縛炎隷兵』は程なく、その場から姿を消失させる。
三体の屍隷兵達が消失し、4階、オープンフロアの居酒屋に流れる歌謡曲が、一抹の寂しさを覚えさせる。
「取りあえず、一件落着って所かな? まぁ、色々と壊しちゃったから、その辺りは治さないとだけどね」
苦笑するエリザベスに、真砂は。
「そうですね……ヒールすると、少しファンシーになってしまいますけど……良いですか?」
小首を傾げるが、アルベルトが。
「それは仕方ない。逆に少しファンシーな居酒屋になって、若い女の子が増えたりするかもな」
と肩を竦める。
ともあれ、剣戟によって壊れた所を修復すると共に、避難時に怪我をしてしまった人も纏めて、ヒールグラビティでヒール。
少しファンシーな装飾で、前とは違う趣きを持った居酒屋。
……そして避難していた人達が、また吸い込まれる様に居酒屋へと戻っていき……酒を飲み、愚痴り、笑い、泣くサラリーマンの方々の悲喜交々に。
「……これもまた、日常だよな」
とマサヨシがぽつり零すと、梵兵衛も。
「ああ……これもまた、護るべき光景なんだろうな」
と、小さく微笑むのであった。
作者:幾夜緋琉 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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