恋惑い涙

作者:幾夜緋琉

●恋惑い涙
 川越市の一角にある、とある一軒家。
 10歳位の少年が一人、テレビゲームをプレイ中。
 この位の年齢なら、友達と一緒にサッカーなどで遊んでてもいい所ではあるが……少年は誰へ誘われるという事も無く、一人で遊び続けている。
 ……そんな少年の所に、不意に現れたのは『無垢の死神』イアイラ。
「ねえ……遊びましょう。遊ぼうよ」
 と優しい声で語りかける彼女……明らかに異形の姿をしているも、その顔はとても美しくて……彼は一目惚れしてしまう。
 そして彼女は、彼と共にゲームで遊び、泣いたり笑ったりしながら……少年に微笑み掛けてきたり。
 ……そんな彼女の所作に、更に恋へと落ちてしまう少年。
 そして……完全に虜に落ちた所で、イアイラは。
「あなたの恋心、私にくれたら、あなたを、私の好きな外見に変えてあげる」
 普通なら、頷く事は無いはずだが……少年は、こくりと頷いてしまう。
 そして、彼女は次の瞬間……その魂をサルベージし、屍隷兵へと変えてしまう。
「あなたは、今から、寂しいティニー。あなたと同じく、寂しい男の子を探して殺してしまいなさい」
 と命令を与えると共に、其の場から消える。
 そして……彼女が消えて直ぐ、部屋のドアが開く。
『ツヨシ。もう……え……?』
 母親の言葉……しかし全く以て少年の外見とは似つかわしくない彼の姿に。
『誰、誰よあなた!』
 と悲鳴を上げる母親に、少年は舌打ちすると共に、窓から飛び降りていくのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まって頂けましたね。では、説明させて頂きます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスに一礼し。
「皆さん、大変です。川越市の街中で、死神のサルベージ事件が起きようとしている様なのです」
「この事件を起こす死神の『無垢の死神』イアイラ。彼女は生きた人間の魂をサルベージし殺害し、死体を屍隷兵にして人々を襲わせようとしているのです」
「襲われるのは、友達の居ない10歳の男子学生……彼は洗脳に近い魔法的効果で自分へ恋心を抱かせた上、その恋心をサルベージする様なのです」
「更に、その死体で自分好みの姿をした屍隷兵を作り、更なる襲撃を行わせようとしています」
「戦場となる市街地の避難も行われてはいますが、完全に避難を完了させる事は難しい様です。一応、同じ位の年頃の男の子が居る家はピックアップ済みですので、屍隷兵の出現ポイントと合せて敵の動きを予測する事も可能かと思います」
「ともかく、これ以上の被害が出ない様、ケルベロスの皆さんには屍隷兵の撃破をお願いしたいのです」
「ちなみに、イアイラによって屍隷兵にされているのは、彼だけではありません。皆さんが到着した頃には、恐らく3体の屍隷兵が現れ、更なる被害を及ぼそうとしているものと思います」
「彼らの攻撃方法ですが……その人外となった巨大な拳と足。これから繰り出される殴りと蹴りの攻撃は、毒に似たバッドステータスが付与された、強烈な一撃を繰り出してくる様です」
「又、時刻は深夜、人家の点在する市街地です。小さな公園とか、アーケード街など、多少広い場所はさがせば結構ありそうです」
「尚、屍隷兵が狙うのは、先ほどリストアップした中で、被害者の男の子と趣味や性格が似ており、友達の居ないと思われる男の子の様です。似た境遇であれば、疑うことなくそちらへと向かってくる様なので、そういった特徴で惹きつけるのもありかもしれません」
 そして最後にセリカは。
「死神により、無理矢理恋心を抱かせられ、殺され、そして自分の外見すら奪われてしまうなんて可哀想だと思います。どうか、皆さんの力で……決着を付けてきてください。宜しくお願いします」
 と、静かに頭を下げた。


参加者
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
ライリシアナ・ライラ(怠惰症候群・e02862)
ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)
サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)
悟・空(麗美なる戦闘猿・e50449)
リン・イストー(わかめの狂戦士・e63980)

■リプレイ

●恋に瞑る
 埼玉県川越市。
 市街地のど真ん中で、突如発生した事件。
 異形の姿をした『無垢の死神』イアイラによって、恋心を抱く少年達がサルベージされてしまうという事件に……。
「恋心を利用するデウスエクスか……許せんな」
「そうなぁんね! いたいけな少年を誘惑していくなんて放っておくわけにはいかんね! 勿論、どの道デウスエクスは放ってはおかんけど!」
 小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)に拳と尻尾をばたんばたんとさせるリン・イストー(わかめの狂戦士・e63980)。
 被害に逢ったのは、年端も行かない、10歳位の少年達……その純粋な恋心を利用し、殺し、サルベージするという……少年達には、何の罪も無いというのに。
「本当、少年たちに偽りの恋心を抱かせ、サルベージしようとするとは、卑劣な事をするものですね……」
 目を瞑り、抑えきれない内から生じる怒りを、その言葉に露わにするサラ・エクレール(銀雷閃・e05901)。
 更にスミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)と、キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)も。
「そうだね。なんともやりきれない話だが……まぁ、ボクたちがやることにかわりはないだろう? 屍隷兵三体を倒す事に」
「ええ。それ以外に、被害拡大を防ぐ方法が無いのであれば、そうせざるを得ないでしょう」
 決意と共に頷き合う二人。
 と……その一方でライリシアナ・ライラ(怠惰症候群・e02862)は、何処か面倒臭そうに。
「……まったく、なんで子供を狙うかね。子供の方が欲やら何やらないから純粋ってとこなのかねぇ?」
 ふぅ、と肩を竦めると、ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)が。
「分かりません……ですが、今回の元凶である『無垢の死神』イアイラは子供達の純粋な恋心を利用している、という事に間違い有りません! それに私の大切な友人の宿敵、少しでも討伐の手がかりを持ち帰りたい所です! 勿論、ツヨシ少年も助けられれば助けたいですが!」
「そうかい。まぁ恋だ何だは……そういうお年頃だから仕方ないんだろうね。少し早い気もするけど、惚れちまえばそこまで、と」
 何処か気怠そうなライリシアナに対し、ラリーは気合い充分で拳にも力がこもる。
 そして、同じ位に気合いが入っている悟・空(麗美なる戦闘猿・e50449)も。
「っしゃ、姐さんにいい所報告しないとな! その為にも絶対に事件を解決してみせるぜ!!」
 そんな意気込みを聞きつつ、真奈は。
「そうだな。とりあえず、孤独な子たちが被害を受けないよう、なんとかせんとな。囮役はおばちゃんと悟の二人か?」
「あ、宜しく頼むなぁん。あ、でもバラバラになって戦うのは出来る限り避けんとなぁん! だから、誘導、集合する場所を取りあえず決めておくなぁん!」
 とこの辺りの地図を開く。
 そこには、先に聞いておいた周囲のターゲットになり得うる少年達の家が赤丸でプロットされており、更に公園、アーケード街など、戦えそうな場所には青丸が記し付けられている。
「……了解、んじゃ手近なこの辺りから誘導を始めよう」
 と真奈が一件の家を指し示し、真奈と悟二人は先へ歩く。
 ライリシアナは翼飛行で空を飛翔し、他の仲間達は少し離れての、誘導作戦を開始するのであった。

●友を探して
「……うーん……なんだか怖いなぁ……早く、帰らないと……」
 すっかり日も落ち、道を照らす街灯が不気味に点滅する中、小学生男子の格好で歩く真奈。
 ……流石のこの時間となると、ほかに小学生の子が歩いている様な時間ではない。
 つまり、真奈と悟の二人が、小学生の雰囲気でとぼとぼと歩き、屍隷兵の襲撃の時を待ち構える作戦である。
 そしてそれを見守るように、上空からはライリシアナが双眼鏡越しに監視を行う。
 加えてサラは、いつ屍隷兵が現れても良い様に、殺界形成をいつでも発動出来る様に警戒。
 ……そして、先ずは一番近くにあった、気弱そうな少年の居る家の横へ。
 暫し、家の前をうろついて、屍隷兵が現れないか待ち構えるが……ここで出ては来ない。
「うーん……」
 と不安気な表情で、次の家に向けて歩き始める真奈と悟。
 そして二件目を通りがかった、その瞬間。
『……ウガアアアア!!』
 と叫び声を上げて、窓から飛び降りてきた影。
 地上にすっ、と着地する……異形の手足をした屍隷兵、『寂しいティニー』。
「えっ……!?」
 と驚きの表情を浮かべた真奈と悟に対し、屍隷兵はクスリ、と微笑みを浮かべた後、一気に間合いを詰めてくる。
「え? な、なになに!?」
 と混乱している様に装いながら、少し間合いを取り直す真奈。
 そして悟も、仕掛けられたのを目の当たりにして。
「うわああああ、ば、ばけものだ!!」
 と声を上げて、怯えているように見せかける。
 ……と、そんな二人の襲撃、空から見ていたライリシアナがインカム経由でラリー達に伝達。
 それと同時にサラが殺界形成を発動させ、其の場から逃げる様に人払い。
 そして、スミコ、キャロライン、リンの三人が、先ずは真奈の所へ駆け寄り、護る様に立ち塞がる。
「な、何なんですかっ!?」
 でも、敢て演技を止めない真奈。
 そんな真奈にスミコがちょっときょとんとするが……直ぐに納得した様子で。
「大丈夫!? ここだと危ないから、こっちに!!」
 演技に合せて子供を避難させるが如く、その手を引いて、其の場から逃走。
 ……それを追いかけようとする屍隷兵……そして、更に上空からの警戒を継続していたライリシアナが。
「二人目……三人目、発見。どっちも近い」
「分かりました! ではライリシアナさんは三人目の方に、サラさんと! わたしは悟さんと一緒に二人目を誘導します!」
 ライリシアナの情報を受け、すぐさま仲間達に行動を指示。
 そして悟は逃亡を装い、二人目の方向へと逃げていく。
 ……勿論、逃げてきた悟に、二人目の屍隷兵は獣の如き爪で斬りかかる……が、ラリーの宝剣「God save the Queen」は、それを受けてカバーする。
「危なかったですね、こっちに急いで下さい!」
 と、ラリーも悟の手を引き、一人目の屍隷兵の誘導先と同じ所へ誘導していく。
 更に三人目はライリシアナが空からの奇襲を賭、怒らせたところにサラが追撃、そして誘導。
 分散していた三体の屍隷兵が、ケルベロスの手により、市街地の傍らにある公園へと集結させられる。
「集まったなぁんね。しかし引きこもりはおとなしく引きこもらせる優しさが必要なんやよ! こういう風にむりやりひっぱりだすとろくなことにならんのやよ!」
 とリンが屍隷兵に……と言うよりは、「『無垢の死神』イアイラ」に向けて叫ぶ。
 勿論屍隷兵達が、それになんか反応を返すという事はないが。
 そして、対峙する中の、一番気弱な子供っぽい真奈をターゲットに納めると。
『コロス……』
 冷たい言葉を紡ぎ、獣の如く巨大な拳と足で仕掛けてくる屍隷兵。
 しかし、攻撃を受け払うはスミコとリン……屍隷兵の瞳を真っ直ぐに見つめながら。
「私情を捨てろとは言わないよ……でもね、君の命を最優先に考えた方がいい」
「そうなぁん。ゲームはこのぐらいでおしまいにしとこ……よい子はもう寝る時間やなぁん!」
 と心に呼びかける。
 無論、屍隷兵の反応は無い。
 そして、スミコが取りあえず、真奈へ『サンクチュアリ』を掛けてBS耐性を付与する。
「あ、ありがとう」
 と真奈が軽く頭を下げ、そしてきっ、と屍隷兵を見据え。
「こ、これでどうだっ!」
 と接近しての撲殺釘打法を叩きつける。
 そして、彼女に連携する様にラリーの達人の一撃と、悟のオウガナックル。
 ……ただオウガナックルはギリギリの所で躱されてしまう。
「っ!?」
 屍隷兵が嘲笑った様な、そんな気もするが……すぐに姿勢を回復。
 そして、ライリシアナが。
「さぁさ人付き合いさえ面倒になったおばさんが相手さぁ。同類でも同胞でもなんでもないけれど、まぁま逃がしゃしないさ、仕事だからな」
 と、回避した敵に対し、旋刃脚の一蹴。
 更にサラのゲイボルグ投擲法と、リンのテイルスイングで、屍隷兵の体力を半分近くまで削り去る。
 ……最後に動くキャロラインは。
「その傷ついた翼を広げ 再び大空高く羽ばたいていけ……♪」
 と「折れない翼」を奏で、前衛陣へBS耐性を付与し、敵の毒効果を抑える。
 そして二刻目、屍隷兵三体の攻撃手段は変わる事無く、ケルベロスへの毒攻撃。
 ……一撃一撃の毒効果はかなり凶悪だが、BS耐性のお陰でほぼ後に残る事はない。
 勿論、BS耐性が無い所に当たれば危険性は高まる訳で……キャロラインが「折れない翼」を繰返し、仲間全員へBS耐性を付与、そして切れた時にはすぐにかけ直す様に動き回る。
 一方、ライリシアナは。
「全く、恋も憎いも酸いも甘いも何も知らなそうだな餓鬼?」
 と後衛から挑発し、更に「リペンダンス」、それに連動してサラのグレイブテンペストが身を貫く。
 そしてクラッシャーの真奈、ラリーが御霊殲滅砲と雷刃突を放ち、一匹を討ち倒す。
「次はお前だ!!」
 と悟が二匹目の屍隷兵にハウリングフィストで攻撃。
 しかし、その攻撃も屍隷兵は回避。
 ……そんな悟へくすり、と笑う屍隷兵。
(「オマエモボクタチトオナジダロ」)
 と言われたような気がする。それに悟は。
「煩ぇ、オレはテメェらとは違う! これは洗脳なんかじゃねぇ、オレ自身の気持ちだ!!」
 と叫ぶ。
 勿論、その挑発に乗ることも無く、ケルベロス達は確実な連携の下、屍隷兵を一匹、確実に仕留める為に動く。
 ……そして、公園へと追い込み六分が経過。
 屍隷兵は、残るは一体。
 その表情に疲弊の影を見せる中……サラが。
「我が閃光逃れる事叶わず!」
 と『旋二閃改二』の一閃を食らわせると……その一撃によろめく。
 そんな屍隷兵に。
「全部気の迷いさ。死んじまえば、その迷いさえ意味が無いがな」
 と言い放ったライリシアナは、倒れ込んできた屍隷兵の顔面をがしっ、と掴み……そのまま地面へと叩きつける、『力業『唯潰』』。
 地面へと叩き伏せられた屍隷兵が苦しみを叫び、それに真奈が。
「まだ、いけるよ」
 と、全力を込めた『無始曠劫の因果』を放つ。
 その一撃に……屍隷兵は、地面に突っ伏したまま、崩れ墜ちるのであった。

●安らぎの影
 そして……どうにか屍隷兵3体を倒し負えたケルベロス達。
「ふぅ、一件落着やな。どや? おばちゃんの演技、なかなかやったろ?」
 にっ、と笑みを浮かべて振り返る真奈。
 それにリンが。
「すごいなんね! 本当、終始友達の居ない子供を演じてて、凄いなぁんよ!」
 と笑い返しながら手を叩く。
 だが……暫しして、ふと思い出す様に。
「そういえば、引きこもっている人は、いつでも外に出られるように常に身体を鍛えているって聞いた事があるんよ……まさかあの少年、普段から鍛えてたからこれほどの実力が……?」
「んな訳ないやろ。まぁ屍隷兵化させられて、強引に力を引き出されたとか、そういった所やと思うで」
 リンに的確に突っ込む真奈……ともあれ、そんな二人の言葉に対し、空を見上げるスミコ。
 瞬く星空は美しく煌めくが……気持ち的にはすがすがしさとは程遠い。
「……本当、なんとも後味の悪い任務もあったもんだ!」
 胸の中に抱いた非情を星空に叫ぶと、サラも。
「ええ、全くです……屍隷兵になった少年達に罪はありません。死した彼らの冥福を祈ります」
 剣を納め、静かに黙祷を捧げるサラ。
 それに応じる様に、キャロラインとスミコも、同様に弔いの祈りを捧げていく。
 ……暫しの静寂が、屍隷兵となってしまった少年の安寧を願う。
 そして、三人が目を開けると共に。
「さて、と……んじゃオレはお先に失礼させて貰うぜ!」
 ……早々に、其の場から去って行く空。
 そんな後ろ姿に、小首を傾げつつもラリーが。
「ええっと……とにかく、壊してしまった所を治しましょう。こちらに住む方々が、日常を過ごせるようにしないといけません!」
 と提案。
「……面倒だな……」
 と、心底面倒臭そうにするライリシアナ。
 でもラリーが頭を下げてお願いし、公園の遊具などを手分けして修復。
 一通り修復し終わる頃には、うっすらと空が明るくなりつつあり……周りは日常を取り戻しつつある頃。
 何気ない日常……それを目にしながら、ケルベロス達もその場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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