アンデッド・リバイブ・アンド・エンブレイス・レイジ

作者:鹿崎シーカー

 場末のクラブに響く、鈍くひずんだベースの音色。多くの若者がめいめいに踊るダンスフロアと、ステージ上で揺れるDJ。音楽と喧噪を背に、頭にネクタイを巻いたワイシャツの男はカウンターにショットグラスを打ちつけた。呻くように息を吐き、バーテンダーにグラスを突き出す。
「もう一杯……高いヤツ」
「飲み過ぎですよ」
「いいんだよ……」
「……もう五杯以上飲んでるでしょう。お金、大丈夫なんですか?」
「いいんだよ……今まで稼いだ分ありゃ足りるだろ……」
 バーテンダーはグラスをふきながら、バーテンダーは困り顔を作る。うなだれたまま、一向に面を上げない男を眉間にしわを寄せて見ていたが、ふと視線を横にずらした。
「あ、ご利用ですか? お席は……」
「ここでいいわ。この人が飲んでいたのと同じものをくださる?」
 椅子が動く音、衣擦れの音。半ばカウンターに突っ伏したまま男が隣を見やると、黒いドレスを着た女性が腰かけていた。浅黒い肌と妖艶な美貌。長く伸びた髪からはツンと尖った耳が突き出す。微笑んでみせる女性に、男はつぶやく。
「……マブだ。マブだな、アンタ」
「どうも。……随分飲んでるみたいね。ヤケ酒?」
「そうだよ。ハァーッ……」
 溜め息を吐き、手で目元を覆う。しばらくして、彼は語り始めた。
「今日、彼女の誕生日だった」
「あら。こんなところに居ていいの?」
「知るかよ……もうわかれた。あのクソ課長……人が引けようとしてんのに仕事増やしてグダグダ文句言いやがって……ムカついたから社員証ハゲ頭にぶつけて仕事やめるつって、一発殴って帰ってやった。結局時間には遅れて……彼女、キレたよ。話もなんも聞きやしねえ……だからフッた。なんのために金稼いでたと……クソッ」
「……そう。大変だったのね」
 微笑みを崩さない女性の元に、バーテンダーがショットグラスを置いた。女性は礼を言い、グラスを男に差し出す。怪訝そうな視線を寄越す男に、小首を傾げる。
「飲まなきゃやってられないでしょう? どうぞ」
「ああ……」
 グラスを受け取った男は、薄緑の液体を一気に飲み干す。ショットグラスを再度バーカウンターに叩きつけたところで、彼は目を見開いた。
「ウッ……!?」
 胸を押さえ、男が椅子から転げ落ちる。驚いて振り返るバーテンダーやダンスホールの客達の前で男は苦しみ……緑色に発火!
「ぐおああああああああああッ!」
「な……お、お客様!?」
 カウンターを飛び越え、おろおろと辺りを見回すバーテンダー。女性はどよめくフロアを余所に一人席を立つ。
「その怒り、思う存分燃やすがいいわ。同じ怒りを持つ者達は、貴方の薪よ。殺しつくしなさい?」
 去り際に投げキスを残し、女は立ち去る。緑の炎に包まれた男はタールで出来たゾンビのような姿になって起き上がり、獣めいて咆哮。クラブが恐怖の悲鳴と走り出す人々の靴音で埋め尽くされた。


「し、死神……しかも今度は屍隷兵……!?」
 資料の束を見、跳鹿・穫は驚愕の表情でうめいた。
 某所のクラブで、死神によるサルベージ事件が起こるとの予知が入った。
 事件の首謀者は『炎舞の死神』アガウエー。怒りの感情を抱いた人間を生きたままサルベージして殺し、屍隷兵に作り替えて人々を襲わせようと画策している。
 現場となったクラブは逃げ惑う人々でごった返しており、アガウエーが生成した合計三体の屍隷兵がそれらを別々に追い立てているようだ。
 施設から出られた人々は警察と消防が保護しているが、施設内部の屍隷兵はケルベロスでなければ対処が出来ない。
 皆には現場へ急行して屍隷兵を討伐、しかる後に人々の保護をお願いしたい。
 さて、屍隷兵は合計三体、別々に行動していると前述したが、それは一か所で思い思いに暴れている、というわけではない。現場となったクラブは一階のダンスフロア、二階のソファ席、三階のVIPルームから成り立っており、各所に一体ずつ『縛炎隷兵』がいる。各階の様子は以下の通り。
 一階。広大なダンスフロア。人が多く、皆大なり小なり酒が回っている。
 二階。一階から階段で昇ることができ、一階を一望できるスペース。一階ほど大勢いるわけではないが、一階の人々よりも深く酔っている者が多い。
 三階。五つの個室からなるフロア。人は数人程度だが、かなり派手に酔っぱらっていて前後不覚寸前。中には寝ている者もいる。
 出口は一階にひとつだけ。外には警察や消防が居るため、そこまで逃がせれば後は問題ない。どのように逃がすか、誘導の間縛炎隷兵をどうするかなど考えておくと良いだろう。
 縛炎隷兵は様々な怒りをため込んだサラリーマンを素材にされており、そのためかちょっとやそっとの攻撃では怯まない。攻撃方法は単純な肉弾戦のみだが、接触し続けるとケルベロス側にも怒りが感染する恐れがある。こうなると周りが見えなくなったり、最悪味方に逆上したりする可能性があるので、戦う際は注意が必要だ。
「生きたままのサルベージ……なんか、最近出てきたノゥテウームみたいだけど……?」


参加者
篁・メノウ(紫天の華・e00903)
牧島・奏音(マキシマムカノン・e04057)
カーネリア・リンクス(紅天の華・e04082)
小柳・瑠奈(暴龍・e31095)
巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)
ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)
レイラ・ゴルィニシチェ(双宵謡・e37747)
ルナ・ゴルィニシチェ(双弓謡・e37748)

■リプレイ

 身を起こしたゾンビが身を包む緑の炎を燃やして咆哮する。ホールで踊っていた客達が悲鳴を上げて逃げ去ろうとし、転倒した者が次々に踏み付けられる。阿鼻叫喚に陥るクラブのを見回した縛炎隷兵は、傍らで腰を抜かしたバーテンダーに目をつけた。うなりながら長い腕をバーテンダーに振り下ろす!
「うあああああああ!」
 悲鳴を上げ両腕で顔を庇うバーテンダー。ややあって、恐る恐る開いた彼の目にまばゆい光が飛び込んだ。バーテンダーの前に浮かぶ、ねじくれ曲がった青い二本角生やしたカーバンクルめいた姿の子竜が閃光を放ってゾンビの腕を受け止めていた。クラブ入り口から飛び込み着地したルナ・ゴルィニシチェ(双弓謡・e37748)とレイラ・ゴルィニシチェ(双宵謡・e37747)は縛炎隷兵めがけて走る! レイラの抱えた小箱から生えた樹木が黒紫色の実を揺らし、同色の光をルナに浴びせた。
「はーい、準備カーンリョー。やっちゃえルナルナー!」
「オッケーリラ。チェニャ、こっちおーいで」
 伸ばしたルナの左腕に閃光を放つ子竜と似た姿の竜が着地し、黒紫色の光を流し込む。再度子竜めがけて腕を振り上げた縛炎隷兵を狙い、ルナは指を打ち鳴らす。
「ほいっと」
 ルナの腕先からモノクロのドラゴンヘッドが飛翔! 竜頭は子竜に殴りかかるゾンビの喉笛に噛みつきDJブースに突っ込んで爆発した。炎上する無人のブースを横目に、レイラは唖然としてへたり込むバーテンダーの肩を叩いた。
「ほら、何やってんの」
「……え?」
 面食らって聞き返すバーテンダーに、レイラは混雑する出入り口を指差した。
「急いで避難。外にケーサツいるから、酔ってる人から外に出しちゃって。あと、ゲンキあんなら二階から上の避難も手伝ってくれない? うちらの仲間がなんかしてると思うから」
「三階の人とかベロンベロンに酔ってるみたいだし、運んだげてよ。一か所にまとめてあるハズだしさ」
 直後、DJブースの爆煙を吹き飛ばした縛炎隷兵が怒声を上げる。
「あれはうちらがどうにかするから。ほら、早く」
「あ、ああ……」
 なんとか立ち上がり、客の群れへ走っていくバーテンダー。頬にかかった髪をかき上げながら、レイラがぼやいた。
「どうにかするって言っちゃったけど、二人だけでしょ? キビシーかな?」
「んー…………」
 ルナが首を傾け、元に戻す。そばに二匹の子竜を浮かべ、黒いパンプスのかかとを鳴らした。
「ま、ガンバって持ちこたえよっか。危なくなったらゾーエン期待する感じで」
「リョーカイ。そんじゃ、始めよっか」
 一方その頃、クラブの二階。キャットウォークめいて壁に沿って作られたフロアにあるテーブルのひとつで、女性に囲まれたチーマー風の男がヤケクソ気味に縛炎隷兵へワインボトルを投げつける。砕けた破片が落ち、酒が蒸発。ソファに背を押しつけて恐怖する男に縛炎隷兵が牙を剥いた、その時である!
「清き風、吹き荒れろ! 篁流回復術、『青嵐』ッ!」
 吹き抜けを縦に貫くスミレ色の竜巻上部から二階へ飛び出す牧島・奏音(マキシマムカノン・e04057)! 着地と同時に縛炎隷兵の両脚を撃ち抜いて膝を突かせ、零距離に踏み込んでゾンビの側頭部にアサルトライフルをぶん回す! ライフルを背負いガラステーブルを持ち上げた奏音は、壁際に飛んでいく縛炎隷兵にテーブルを振りかぶった。
「うりゃああああああッ!」
 投げ飛ばしたテーブルが縛炎隷兵に命中し、諸共壁に激突! 強烈な破砕音を余所に、奏音は周囲に固まる人々に大声で呼びかける。
「ケルベロスだよ! 助けに来たから安心して! 一階の入り口開いてるからそこから逃げて! 動ける人は動けない人を助けてあげるよーに! あとスタッフの人は!?」
 次の瞬間轟音が響き、振り向いた奏音の頭上にガラスケースが弧を描いて飛来する。奥の壁からは獣じみた四足疾走で距離を詰めてくる縛炎隷兵! とっさに銃を抜くも迷った奏音の真上、黒いライダースーツを身に着けた小柳・瑠奈(暴龍・e31095)がガラステーブルを蹴り抜いた。
「はっ!」
 弾かれたテーブルが床に衝突してバウンドして回転、縛炎隷兵にぶつかり鼻面を跳ね上げた。音も無く奏音の隣に着地した瑠奈は素早く銃をドロウして三連射! 稲妻の弾丸が仰向けの姿勢から起き上がりかけたゾンビの肩と胸板を射抜く。
「大丈夫かい、奏音君」
「大丈夫! ありがと小柳さん!」
 奏音に微笑みかけた瑠奈は天井めがけて空砲を鳴らす。注目を一身に集め、言い放つ。
「聞いた通りだ。今すぐ一階に降りてここを出ること。スタッフの避難指示には素直に従うんだ。さあ行った!」
 再度の空砲と同時に動き出す客達。靴音に反応して勢いよく跳ね起きた縛炎隷兵に二人は銃口を向けた。
「おおっと、あんたの相手はこっちだよ。ほんとはアガウエーをぶち抜いてやりたいけど!」
「それは、いつかの機会にとっておこうか。……恨みは無いが、討たせてもらおう」
 さらに他方! 一本道の通路の奥、ドアを破壊して縛炎隷兵が出現するのと同時、反対側のエレベーターの扉に剣閃が幾条も走り、爆散。扉の欠片を跳ね飛ばして駆け出した巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)、カーネリア・リンクス(紅天の華・e04082)、ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)の背後で篁・メノウ(紫天の華・e00903)は横向きに掲げた黒刀の刃に手を滑らせ、鋭い剣舞を舞い踊る。最後に身をひねり、刀持つ腕を喉に当てるように振りかぶった。
「行け、『青嵐』!」
 紫紺の一閃が突風を起こし三人の背を押す。真っ先に前に出た菫は交叉した両手に濡れ雑巾を持ち、跳躍回転投擲! 手裏剣めいて高速回転した雑巾は床を滑って咆哮して走ってくる縛炎隷兵の足を狩る。うつ伏せに転倒したゾンビに菫は巨大鋼鉄モップがけ突進! 持ち上がった顔面に直撃させると共にモップを跳ね上げる!
「はいッ!」
 身を反らして宙を舞う縛炎隷兵を前にモップを取り回し、手中で回転させながら連続攻撃! そしてバットのように構えたモップでフルスイング!
「そぉれッ!」
 モップの頭部で腹を打ち抜かれた縛炎隷兵は弾丸じみて吹き飛び出てきた部屋の壁に追突した。後を追ってVIPルームに突撃する菫に続きながら、メノウはカーネリアに叫ぶ。
「急げカーネリア!」
「おう! ネリシア、エレベーター側の部屋でいいよな!?」
「ん、急ごう……」
 オウガメタルをまとい、パンキッシュな和装に変じたカーネリアと網目模様の鎧と盾とガントレットを装備したネリシアが最奥手前の扉を蹴破る。VIPルームにエントリーしたメノウは菫と並び、クレーター状に凹んだ壁から這い出した縛炎隷兵に刀の切っ先を突きつけた。
「ごきげんよう産業廃棄物さん! 今日は一段と海を汚染しそうな汚さだね! 帰れ!」
「ここから先は行かせませんよ。あの人達には、後で高いお酒おごってもらうので」
 怒号を響かせ特攻をかける縛炎隷兵に菫は再び雑巾投擲! 足を狩られて再転倒した縛炎隷兵の頭上、天井に着地したメノウは刀を引き絞ってゾンビめがけて飛び出し刺突を放つ。
「『月光通し・早贄』ッ!」
 上からの突きを肩に受けた縛炎隷兵は構わず跳ね起き、メノウを振り払って菫に突撃! 菫は横向きにしたモップで両手の振り下ろしを防ぎ、前蹴りで部屋の奥まで吹き飛ばす。彼女の体が薄緑色の煙を上げ始めるのと同時、壁から頭を引っこ抜いたメノウは銃型デバイスを真上に発砲。シリンダーが天井に当たって砕け、薬液の雨が細く昇る煙をかき消す。床を転がりながらも体勢復帰しまた突っ込んで来る縛炎隷兵の脳天めがけ、菫はモップをハンマーめいて振り下ろす!
「ふんっ!」
 大振りの殴打を横っ飛びで回避! 縛炎隷兵は設えられた革張りの大ソファを蹴り弾丸めいて菫に突進、とっさに掲げられた右腕をつかみ食らいついた。菫は腕を振り回すが離れぬ!
「このッ……!」
 焦り、目に苛立ちを浮かべ始める菫の足元に滑り込んだメノウは鞘を突き上げ縛炎隷兵の喉笛を打つ! うめき口を離した縛炎隷兵をにらみつつ、床スレスレの位置で刀を逆手に持ち替えた。
「離れろ汚物! 篁流剣術、『上弦』ッ!」
 神速の斬り上げが縛炎隷兵の顔面をかっさばき、円弧を描いて跳ね飛ばす。頭から胸にかけて縦一直線に斬られたゾンビは、しかし後方回転して着地! 切断面から汚泥をしたたらせながら四足ダッシュでメノウに直進していく。すぐさま体勢を整える彼女を狙って開かれた大口が、真横から飛んできた拳に歪んだ。割り込んだカーネリアは赤紫色の猫目石を嵌めた銀手甲の拳を振り切る!
「カーネリア!」
「待たせたなメノウ! 『雪狼』ッ!」
 殴り飛ばされたゾンビが壁にかかった風景画を壁ごと破壊! 倒れ伏す縛炎隷兵へ跳躍したネリシアの両脚をそろえて急降下ストンプ! 命中の反動で再跳躍したネリシアは、トリケラガントレットに燃えるシャーベット状の刃を持つ剣を生み出した。
「ネリは……こんなことしたアガウエーを……許さないっ! もう、元には戻せないけど……せめて、安らかに……」
 掲げた剣に蒼い光が収束し、まばゆい光をまき散らす!
「ガイア……チャージキャリバ―――――ッ!」
 振り下ろされた剣閃が縛炎隷兵を飲み込み二階まで貫通! ひび割れた床が四人を巻き込んで崩落、タイル張りの地べたに打ちつけられたネリシアが顔を上げると……目前に腕を振りかぶる縛炎隷兵!
「……!?」
 ぎょっとするネリシアが後ろに引っ張られ、縛炎隷兵の爪がタイルを粉砕。ネリシアを横抱きにして飛び下がった瑠奈は片目を閉じて苦笑した。
「やれやれ。まさか君達が降ってくるとは。上の方は済んだのかな?」
 こくこくうなずくネリシアをそっと下ろし、瑠奈は腰に吊った拳銃を引き抜いて発砲! 縛炎隷兵の両膝を射抜いてひざまずかせて声を張る。
「そうか。こっちも負けてられないな、奏音君!」
 ジャンプした奏音が大きなソファを頭上に掲げる。背中をいっぱいに反らし、見上げてくるゾンビに突き落とした!
「どぉぉりゃあああああああッ!」
 ソファに押しつぶされる縛炎隷兵! 奏音は背にライフルと交叉させる形で背負ったチェーンソーを抜いた起動、ソファに上段からの斬撃を打つ!
「篁流剣術、『満月』!」
 斬られV字に飛ぶソファとともに、緑の炎に包まれた左腕が飛ぶ。片腕を取られた縛炎隷兵は跳ね起きながら奏音の頬を右拳を入れ、そのまま殴り飛ばした。
「へぶっ!」
 錐揉みしながら吹き飛んだ奏音は射線上のテーブルに突っ込んで破壊。ガラス片をまき散らし、酒に濡れぼそる彼女に飛びかかる縛炎隷兵の背後! 吹き抜けとフロアを区切る手すりの上を駆けた瑠奈が跳躍して縛炎隷兵のうなじにかかと落としを叩き込む!
「女の子の顔を、殴るものではないよ」
 蹴り足を振り抜いてゾンビを床に突き落とし、数回銃撃した反動で後退。着地した瑠奈のブーツを這いのぼる赤い光の竜巻が、燃え移った緑の炎を打ち払う。その場で回し蹴りを繰り出した彼女の足から赤光の筋が飛び、縛炎隷兵の頭上を通過して跳ね起きた奏音に命中! 緑炎を払拭されて起き上がった奏音はアサルトライフルをぶっ放した。
 ばらまかれた弾丸が縛炎隷兵を取り囲むように乱反射する。縛炎隷兵を閉じ込めるような形で虚空に浮く無数の障壁が跳弾を受けて激しく瞬く。跳弾に体のあちこちを削られ動けなくなる縛炎隷兵の眉間を狙い、奏音は引き金を引いた。
「篁流射撃術……『星廻』!」
 発射された一発が狙い通りに縛炎隷兵を射抜くと同時、飛び回っていた弾丸達が全方位から屍を貫いた。蜂の巣にされた縛炎隷兵が仰向けに倒れ、緑炎を鎮火したその時! 吹き抜けに巨大な火柱が吹き上がった。一階、無人になったダンスフロア。火柱の根元に展開された魔法陣を挟み、レイラとルナが息の合ったステップを踏む。胸元を手で扇ぎながら、ルナは気だるげにつぶやいた。
「あーキッツ。ていうか熱っ。リラー、そっち大丈夫ー?」
「イチオー。でも正直しんどいね」
 レイラが後ろ髪を両手で束ね、解き放つ。ほんのり紅潮した首筋に玉の汗が流れると同時に火柱が爆ぜ緑の炎がまき散らされる。爆炎を放出しながら吠えた縛炎隷兵に二匹の子竜が黒紫色と純白のブレスを吐きかけた。両腕を振り回してブレスを跳ねのける縛炎隷兵に、二階から飛び降りて来たネリシアとカーネリアが突進!
「行くぜコラン、グラファイト! 気張れよなッ!」
「せーのっ……!」
 ワン・インチ距離まで二人の鉄拳が縛炎隷兵の胴体を撃ち抜き、ステージまで吹き飛ばした。乱入して来た二人に、レイラとルナは手をひらひらと振る。
「あ、戻って来た。おつー」
「ちょーどよかった。うちらだけじゃーしんどかったんだよね。おいでヴィズ」
 腕にとまったヴィズがルナの腕に光を流す。光の弓と矢を生み出したルナは四肢をついて踏みとどまった縛炎隷兵を狙撃! 走り出したゾンビは胴や脇腹を光の矢に貫かれながらも咆哮して足を速める。黒い装丁の本を開き、迎撃に飛ぶチェニャに片手をかざしたレイラ!
「それっ」
 指が鳴らされ、子竜の頭上に天使の輪めいた鎖円環が出現。闇色の輝きを浴びたチェニャは、ゾンビの攻撃をタックルで迎え撃った! 菫が投げた濡れ雑巾に足を払われ、バランスを崩した縛炎隷兵の手を押し切ったチェシャは顔面に体当たりを仕掛けて強制ノックバック! 素早く接近したメノウは刀を横向け竜巻めいて回転!
「食らえ、『月出』ッ!」
 跳躍回転斬撃が縛炎隷兵を宙に持ち上げ、サマーソルトキックでさらに打ち上げる! 天を舞いながら手足をばたつかせる縛炎隷兵を見上げ、メノウは奏音に振り向いた。
「奏音!」
「了解! 篁流射撃術、『卯の花腐し』!」
 撃ち出された一発の弾丸が弾け、シャボン玉のような光となって縛炎隷兵を包み込む。宙にピン止めされ、スローモーションな動きになったゾンビに瑠奈の飛び蹴りが炸裂! 蹴り飛ばされ、一階最奥のステージ中央に落下した縛炎隷兵を、舞台袖に躍り出たルナとレイラが挟み込む。一糸乱れぬ華麗なステップ!
「祭壇座の一幕、終章へ」
「幕間終わり。エンドロールに拍手して」
 タップダンスじみてヒールを打ち鳴らすと共に縛炎隷兵の足元に魔法陣が浮き上がり、火柱を上げた。緑の炎を吹き消され、断末魔を上げるゾンビの影が紅蓮の炎に溶け消える。最後のリズムを鳴らして一回転した二人に合わせて火柱は爆ぜ、わずかな灰を残して消滅した。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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