秋晴れの日に電気飴

作者:雨音瑛

●再稼働
 昼頃の神社、参道から逸れて竹林を行ったところに「それ」は落ちていた。
 ぼろぼろになった綿菓子製造機が。
 スイッチ部分は陥没し、電源に繋がれるべきコードは途中で切断されている。ザラメを流し込む場所も無様に歪み、錆色に染まっている。
 かつて付近の神社で使われていたものか、それとも心ない者が捨てていったのかは判別できない。ただ一つ確かなのか、握りこぶしほどのコギトエルゴスムが蜘蛛のような足を生やし、綿菓子製造機の中へと入っていった、ということ。
 とたん、横倒しになっていた綿菓子製造機が起き上がった。
 次いで火花が飛び、スイッチのついた箱状の部分が縦に伸びる。次いで側部と下部に穴が空き、腕と足のようなものが出現した。
 にザラメを流し込む場所はその輝きを取り戻し、縦も横も二倍以上の大きさとなった。
「ワ・タ・ガ・シーッ! フ・ワ・フ・ワーッ!」
 そうして、ダモクレスとなった綿菓子製造機は歩き出す。
 綿菓子製造機が多く立ち並ぶ――すなわち、綿菓子イベントが開催されている神社の方、へと。

●ヘリポートにて
 神社付近の竹林に捨てられていた綿菓子製造機が、ダモクレスとなってしまう。そんな事件を察知できたのは、天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)による調査の賜だ。
「綿菓子は『電気飴』とも言うでにゃんすが、ダモクレスとなった綿菓子製造機がつくるものならば確かに電気飴と呼んでも良さそうな気配……と、そんなことを話している場合じゃないでにゃんすね。綿菓子製造機ダモクレスによる被害はまだ出てないでにゃんすが、このまま放置すれば……ケルベロスのみなさんなら、想像つくでにゃんすね?」
 多くの人々が虐殺され、グラビティ・チェインを奪われる。それを防ぐためにいるのが、ケルベロスだ。
「今から現場に向かえば、ダモクレス起動直後に到着できるでにゃんす。そういうわけで、この天淵・猫丸、みなさまに協力を仰ぎたく!」
 続けて猫丸が口にしたのは、ヘリオライダーから聞いたという敵の戦闘能力。
「綿菓子製造機ダモクレスは、綿菓子製造機を元にしたロボットのような姿をしてるでにゃんす」
 併せて、戦闘方法も綿菓子製造機に由来するものになっている。
 ふわふわの綿菓子で一度に複数人を足止めする攻撃、熱を加える部分の熱を相手の眼前で解き放つ攻撃、そして自己を強化しながら修復するヒールグラビティ。
「戦闘する場所は、神社から少し離れた竹林でにゃんすね。わちきたちケルベロスは武装の取り回しに長けているでにゃんすから『竹林だから』という理由で不利になることはないでにゃんす、安心していただきたく」
 加えて、ダモクレスがケルベロスを無視して人々を襲うことはないというから、戦闘に専念できそうだ。
「かくしてダモクレスを撃破した後は! 綿菓子イベントがわちきたちを待っているでにゃんす!」
 拳を握りしめるは続ける。
「すなわち、綿菓子のイベント! 自分で楽しく綿菓子をつくるもよし、職人さんに彩り鮮やか形も艶やかな綿菓子をつくってもらうもよし。好きな方法で楽しむのが良し、でにゃんす!」
 そう叫び、猫丸は拳を掲げたのであった。


参加者
真柴・隼(アッパーチューン・e01296)
ジョゼ・エモニエ(月暈・e03878)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
虎丸・勇(ノラビト・e09789)
ルリ・エトマーシュ(フランボワーズ・e38012)
ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)
天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)

■リプレイ

●青の道
 陽光に透ける緑色と、地面に落ちる緑色の影。青々とした竹の香りは、どこか心安らぐものだ。
 緑の髪を元気に揺らし、リティア・エルフィウム(白花・e00971)が先頭を歩く。
「竹林浴もいいですが、今日のメインは……わったがしフェスティボーーーウ! イベントを楽しむためにも! 危ない機械は取り除かないとですね! あっそこの親子連れの方、これからデウスエクスと一線交えるので避難してくださいね!」
「私たちにお任せください。お祭りも、決して中止にはさせませんので」
 ルリ・エトマーシュ(フランボワーズ・e38012)も、穏やかな表情で一般人に優しく声をかける。見た目こそ愛くるしい少女であるが、物言いには確かな落ち着きが感じられる。それもそのはず、ルリは齢六十を超えるドワーフなのだ。
「では、すぐにここを離れます。皆さんはお気を付けて」
「けるべろすさん、がんばってー!」
 ぶんぶんと手を振る子どもに、ルリも小さく手を振り返した。
「……気付かずに竹林を訪れる人もいそうね」
 それなら、と、ジョゼ・エモニエ(月暈・e03878)は呼吸を整えて殺界を形成した。
「これで良いわね」
「お疲れ、ジョゼちゃん。足元気をつけてね。折れた竹が落ちてるから。……あっ、でもそこは黙っていて転びそうになったところを俺が抱き留めれば好感度アップ?」
「一言多いのよ、アンタは」
 真柴・隼(アッパーチューン・e01296)の言葉にため息をつき、ジョゼは顔を逸らして少しだけ微笑んだ。好感度なんてこれ以上上がりようがないのに、と呟いて。
「それにしても、綿菓子機のダモクレスですか。綿菓子といえばお祭りを連想しますよねぇ。楽し気なものですのに、人を襲うものになってしまうなんて」
 被害が出る前に止めたいと意気込むルリに、虎丸・勇(ノラビト・e09789)がうなずいた。
「そういえば、今年は綿菓子を食べてなかった気がするなぁ」
 黒の瞳で空を見上げれば、夏の光景が幻視される。
「さぁて、綿菓子イベントの邪魔はさせないぜ――って猫丸くん、どこに行くんだい?」
「勿論、予知で聞いただもくれすのいる場所でにゃんす!」
「そっちは私たちが来た方だよ」
「むむ! これは失礼したでにゃんす、つい散歩気分で歩いてしまい、失敬失敬」
 照れ笑いをする天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)に、勇は苦笑した。趣味は散歩で特技は迷子の合わせ技を持つ猫丸である。
「もう少しやね。それにしても、なかなかダモクレス化も尻尾が掴めへんなぁ」
 愛用のがま口ポシェットからバターボールを取り出し、ひょいと口のなかに投げ込む佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)。
「そんだけ不法投棄も多いちゅうことやねんけども……何はともあれべたべたなんのも嫌やしな、パパっと行くで!」
「思うところは色々あるが……ひとまず、目の前の敵に集中するとしよう」
 機械音を耳にし、ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)は喰霊刀≪ Lycurgus ≫を構えた。

●綿菓子チャレンジ
 二足歩行する綿菓子製造機ダモクレスは状態異常の付与を得意とするが、それ以上にケルベロスたちの解除の手際は的確であった。
 そして、ケルベロス側にも状態異常の付与を得意とする者が二人。
「ふっふ、お生憎様でにゃんすな……今日のわちきは、貴殿と同じく状態異常付与を得意とする位置取りゆえ」
 不敵な笑みを浮かべ、猫丸は筆状のペイントブキを掲げた。
「わちきの手に掛かれば、どんなに堅牢な守りでもこれこの通り!」
 竹を蹴り、ダモクレスの胴体へ一筆。パネルがばらけ、中の駆動部が露わになる。
「ルリさん、好機でにゃんす!」
「はい、お任せください」
 ルリは軽やかに跳ねるように竹林を駆け、炎を纏ったエアシューズを駆動部へと叩き込んだ。駆動部に炎が灯り、ダモクレス全体が赤くなる。
 連携する二人に、ウイングキャット「みるく」が羽ばたきで起こす風が送られる。
 そしてダモクレスは二足歩行の速度を落とさず、ケルベロスたちに迫る。
「ワ・タ・ガ・シーッ!」
 練り上げられた綿菓子が前衛の足元に絡みつくが、ライドキャリバー「エリィ」はエンジンをふかし、ダモクレスの足をスピンで轢く。歩行を止めたダモクレスに、勇が迫った。
 逆手に構えるは、愛用の惨殺ナイフ【業】。刃をワイルド化した右手で覆ったまま、鋭い目つきでダモクレスを見遣り、地面を蹴った。跳躍した身体は機体を超える。背の側に着地したのだとダモクレスが認識した時には、機体に氷が張り付いていた。
 白金色の髪を払い、ジョゼはダモクレスの位置を認識する。
「おいで、孤高の怪物。骨まで砕いて、呑み込んで」
 鹵獲魔術の詠唱で、白鯨の霊獣を喚ぶ。頭部の角を虚空に向け、白鯨は巨大な胸鰭で海嘯を起こす。渦巻く潮はダモクレスを呑み込み、徐々に収束してゆく。
 螺旋の渦が収束しきる前に、ジョゼが隼の名を呼ぶ――よりも早く、隼はダモクレスの正面から槍を繰り出していた。水の牢獄が消えるタイミングなら、十全に把握している。
「君の生涯最後の綿飴作り、とことん付き合うから全力でかかっておいで」
「フ・ワ・フ・ワーッ!」
「そんな嬉しそうな反応されたらオッサン攻撃しづらいやんか……せやけど、相手してくれることに喜んでるみたいやし、ここはオッサンも全力で攻撃したるで!」
 言いつつ、照彦も稲妻を帯びた槍を繰り出した。ダモクレスの表面を雷光が走り、抜けてゆく。
 足元に綿菓子を絡みつかせたまま、二人はダモクレスから離れた。
「……ところでグラで拵えた綿飴って美味しいのかね」
「せやな、甘いんかな……ちょっと食べて……」
 隼の問いに、興味深そうに足元の綿菓子へと触れる照彦。
「やめとこか。流石にね、オッサンも拾い食いはせぇへんて。腹痛なる方がしんどい……とか言うてる場合ちゃうわ」
「食べたらだめですよ! ヒールとキュアしますからね!」
 警告するリティアの振るう剣が地面を削って魔法陣を描くと、浮かび上がる光で前衛の傷と綿菓子が消えてゆく。
 そんなやり取りをどこか微笑ましげに眺めつつ、ダンドロは全身の力を溜め始めた。灰の瞳でダモクレスの一点を凝視した次の瞬間、ダモクレスの片腕が落ちた。
 バスタードソード≪ Diadochoi ≫による高速の斬撃は、ダモクレスには視認できなかったらしい。バランスを失ったダモクレスにボクスドラゴン「エルレ」が体当たりをすると、さらに傾ぐ。
 テレビウム「テレ坊」と「地デジ」によるフラッシュと、ウイングキャット「レーヴ」の飛ばしたリングも容赦なく。
 ケルベロスたちは、確実にダモクレスの体力を削いでゆく。

●甘く優しく
 エルレのブレスに、みるくの一撃が重なる。ダモクレスが纏う氷は分厚く、腕や足を動かすのにも一苦労のようだ。
 みるくの清らかな風に、リティアが呼んだ白き風が重なる。
「打ち砕く、風纏い」
 白と碧と淡い藍は、柔らかに味方を包み込む。
「カ・ネ・ツ・ー!」
 ザラメに熱を加える部分の温度が上がってゆく。地デジが熱を受け止めた後、ダモクレスの背後に別の熱が迫る。炎を纏ったエリィだ。地デジはころりと横に転げ、エリィの射線上から退いた。
 エリィによって竹に押しつけられたダモクレスに、勇が業を向けた。
「砕け散れ」
 鋼を想起させる一撃は、硝子のような脆さをも併せ持っていた。そして砕けた残滓が、収束するかのようにダモクレスを襲う。
「……そろそろ、終わりにしようか」
 音速の拳を叩き込んだ隼が、ジョゼの詠唱を聞いてダモクレスの背後へと回り込んだ。
 放たれるのは、石化の魔法。ことさら鈍るダモクレスの動きを見て、ジョゼは目を伏せた。
「機械蜘蛛が見付けるより早く、壊れたアンタを治癒出来れば良かったのだけど……沢山の人達を笑顔にする甘い夢に包まれて今度こそゆっくりお休み」
 レーヴが機械の身体を引っ掻くのに続き、テレ坊と地デジが手にした凶器でダモクレスを殴りつける。
 たくさんのサーヴァントたちを前に、可愛いものが好きな照彦の頬が緩んだ。
「ちゅうかわちゃわちゃしとんなぁ、頼もしい限りやで! オッサンも張り切って行くで〜!」
 掌の上にオーラの弾丸を作り上げ、全力投球。弾いた先は、ダンドロの眼前であった。
 迫るダモクレスに、ダンドロはわずかに思案する。この手の事件に、思うところがあるのだ。
「きちんと始末してくれなかったという物々の恨みの声を、ダモクレスどもが聞き入れているのだろうか。……所詮老人の妄想ではあろうが、人でも物でもその最期が納得のいくものでなければ抱くのは無念の思いなのかもしれぬ」
 ふっと笑みを漏らし、ダンドロは≪ Diadochoi ≫を構え直した。
「だからと言うて汝の存在を許容はできぬ。デウスエクスになったのならば、それに相応しい最期を与えてくれん――砕!」
 ザラメを流し入れる部分が、本体から分断された。しかし、まだダモクレスの動きは止まらない。
 猫丸はパイルバンカーへと凍気を纏わせる。
「たとえその身がどの様な終わりを迎えていたのだとしても、元は人々に甘く優しくふわっふわな希望の形を届けるために作られ、その役目を全うしたという事実だけは変わらぬはず。その様な存在が絶望を振りまくなど、決してあってはならぬこと!」
 狙うのは胴体、露出して炎や氷が纏わり付いたその部分だ。
「さあ、罪無きその身を解放して頂きまする!」
 杭が呻り、ダモクレスを貫く。ダモクレスの腕が垂れ、脚ががくりと折れる。
「ワ、タ、ガ、シ……フワ……フワ……」
 切れ切れな言葉に、猫丸はゆっくりとうなずいた。
「お疲れ様、でにゃんす」
 綿菓子製造機のダモクレスのボディに、猫丸がそっと手を触れる。触れた先から、ダモクレスはきらきらとした断片になって消えていった。

●つくって、もらって
 来た道を戻って神社へと向かえば、祭りの賑わいがケルベロスたちを迎える。
 猫丸が向かう先は、自分で綿菓子を作れるコーナーだ。
「笑顔を届ける希望の形、この手で紡ぎ出してみせましょうとも!」
 意気込み、色のついたザラメを流し込んで割り箸をぐるぐる回す。
 興味を向ける人々に猫丸は笑顔を向け、こうご期待、と返して綿菓子を巻き付け続ける。
 そうして手を止めて持ち上げた割り箸の上には、燦然と輝くぶわんぶわんの綿菓子。果たしてそれは花なのか、動物なのか。
「これがわちきの思う希望の形でにゃんす! ふっふ、わちきのせんす大爆発でにゃんすな!」
 普段書く字からは想像もできないほどの不思議なセンスでできたそれに、勇が拍手を向けた。
「希望の形か、猫丸くんらしいね。自分で綿菓子づくり、面白そうだね。私も作ってみたいなぁ」
「楽しいでにゃんすよ、是非に!」
 そう言われてしまっては、断る理由もない。猫型綿菓子に挑戦する勇だ。やがて完成した綿菓子をじっと眺め、空にかざす。
「……うーむ、食べるのがもったいない。シンプルに見えて奥深いぜ、綿菓子」
 ぴこんと猫耳の生える綿菓子を前に、勇は苦笑した。
「……迷ってしまいますねぇ。お花の綿菓子が欲しいのですけれど、自分で作ると難しそうです」
 悩むルリの顔を、リティアが覗き込む。
「折角ですし、作りません? 私、るりるり用にお花の綿菓子を作りますよ!」
「ううん……それでは、お互いに挑戦してみましょう! 私はリティアさんにあげるものを作りますね♪」
「わはーい! るりるりからの綿菓子も楽しみですよ~♪」
 割り箸を手に、リティアは色を選ぶ。ルリといえば木苺、白い花のイメージだ。しかし折角の機会、ピンクで作ることにした。それも豪華に、もりもりに。
 ルリが選んだのは、空の色のような明るい水色。エルレのような形を目標に、じっくりと頑張る。
「……少々歪ですけれど、うまく出来ましたよ♪」
「おおっ! るりるり上手~! エルレっぽい! ありがとうございますー♪」
 ピンクと空色を交換し、小さな一口。視線を交わせば、楽しい甘さが、口の中を満たしてくれた。
「お花とかあるん? すごいなぁ。ほしたらオッサンお花のやつくーださい」
 一報の照彦は、職人へとリクエスト。手早く作られた花の形の綿菓子に、照彦のテンションも上がってしまう。
「テレ坊は自分でやりたいん? 大丈夫かいな……」
 心配しつつも、テレ坊を抱きかかえて綿菓子づくりを愉しませてやる照彦だ。そうして出来た綿菓子を照彦と言い張るテレ坊を、照彦は破顔して撫でくりまわした。
 隼とジョゼ、地デジとレーヴも職人に注文を。自分の形を依頼する地デジに、隼は苦笑した。
「それ共食いっぽくなるんじゃ……お前がいいならいいけど……」
 その言葉に、猫の形がいいと零しかけたジョゼが表情を曇らせた。
「やっぱり普通の虹色のヤツにするわ。先生はもう決めてるのよね! これ、この形!」
 スマホで旗魚鮪の画像を見せ、主従共々期待を篭めた眼差しを職人に送る。ブレないレーヴと固まる職人を交互に見た隼は、生温かい眼差しを向けるのだった。
 ジョゼが受け取った虹色の電気飴は、焦し砂糖と仄かな果実の味。ふわふわがしゅわっと溶けてなくなる感覚を夢中で愉しむ少女を横目に、隼は職人にそっと耳打ちをした。
 程なくして完成したのは、小さな棒付き綿飴を花に見立て7本束ねたコットンキャンディブーケ。
「どうぞ、ジョゼ姫様」
 差し出した花を前に少女が瞬くから、隼はけらりと笑う。
「こんなの、勿体なくて食べられないじゃない」
「ここで全部食べろなんて言わないよ。冷凍させれば日保ちもするし――例えば、熱い紅茶のカップの上に綿飴を設置すれば、蒸気で溶けた砂糖の雫が雨水の様にぽたぽた落ちてくるんだとか」
 こんな秋晴れの日に試したならば、きっと電気飴ならぬ天気雨。流石の女子力に、魔法のようなアイディアに、ジョゼはすぐさま顔を輝かせた。
「な、何それ楽しいに決まってる……!」
 綿雲の雨が降り注いだ紅茶は、きっとふわふわの幸せが溶けあった優しい味がすることだろう。
 綿菓子だけの珍しい祭りを見渡しながら、折角の機会だとダンドロも職人に依頼を。形は、天高く馬肥ゆる秋から着想を得て――馬、だ。自分で作ろうにも武器の取り回しほど器用にできる自信がなかったりする。
「『電気飴』などと言えばハイソな感じもするのう。食べたら痺れそうな感じも多少せんでもないが……まぁ、甘い物を口にすれば感動して心が痺れてもおかしくないか」
 駆ける馬の形をした綿菓子を受け取り、尻尾から一口。淡雪のようにすっと溶けてなくなる甘さに、ダンドロは目を細めた。
 されど、季節はいまだ秋。
 この季節が齎す恵みをできるだけ長く、口の中に残る甘味のようにじっくり味わいたいものだと、高い青空を見遣った。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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