ミッション破壊作戦~巡る小剣いまいづこ

作者:ほむらもやし

●23ヶ月目
「秋から冬に季節の変わる11月、今月も使えるグラディウスを用意できたからミッション破壊作戦を進めよう」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は穏やかな表情で言って、あなた方の顔を見つめた。
「さて、これが君らに預ける戦略兵器グラディウスだ。この通り小さな剣の形をしているけれど『強襲型魔空回廊』を攻撃で威力を発揮する。通常戦闘での使用は出来ないけれど魔空回廊を守るバリアに刃を接触させるだけで能力を発揮する仕様だ」
 攻撃目標のミッション地域にはヘリオンで向かう。
 ミッション地域自体には通常の手段でも向かえるが、ミッション破壊作戦で向かうのは、強敵が防護している、魔空回廊のある中枢部。通常のミッション攻略では、決してたどり着けない敵地だ。
「ミッション地域という危険性も考慮して、ヘリオンからの降下は高高度から行う。これは高高度から降下してくる諸君がグラディウスを使用して魔空回廊への攻撃している間は敵が手出しを出来ないという理由もある」
 防衛部隊は8人のケルベロスなどあっという間に殲滅できる大戦力。通常の経路で攻撃を仕掛ければ、大消耗戦なると予想される。
 故に回廊攻撃を終えたら防衛部隊が反撃してくる前にミッション地域中枢部から撤退しなければならない。
 グラディウスの行使によってダメージを受けるのバリアや回廊だけではない。
 攻撃と共に発生する雷光と爆炎はグラディウスを所持していない者に襲いかかる。
 それらの被害を直接的に受けるのは魔空回廊周囲を守る防衛部隊。
 また雷光や爆炎と共に発生した爆煙(スモーク)には一定の間、防衛部隊の視界を遮り、スモークが消え去るまでの間、組織的な行動を阻む。
 スモークの効果は撤退に有利に働き、少人数でのミッション破壊作戦を実施できる理由となっている。
 但し、スモークに乗じた撤退が有利だとしても、大声で叫んで攻撃するという、派手な攻撃を仕掛けているのだ。当然1回も防衛部隊に出会わずに逃げおおせるほど甘くない。
「強敵とはいえ遭遇するのは1体。パーティの戦力に釣り合わない行き先を選んだり悠長な戦い方をしない限りスモークが効いている間に撃破して、撤退することは可能なはずだ」
 状況が味方をしているのだから、勢いに乗じて思い切った戦い方もできるかも知れない。
「向かった場所やその日の状況で違いはあるけれど、スモークが有効な時間はそれほど多くは無いと認識して欲しい」
 なお撤退が目的の戦いに於いて、時間が厳しいから『戦いをやめて逃げます』と言うことは認められない。
 もし最悪の状況を覆す手立てが無ければ、多数の死亡者を出しながら数人しか帰還できない結果もあり得る。
 但し時間制限がシビアであるが、ミッション破壊作戦が開始されてから、23ヶ月目の時点でミッション作戦中のケルベロスの死亡事例は無い。
 ミッション地域は日本の中にあっても人の手が及ばない敵の占領地。
 ミッション地域へ攻撃を掛け続けてくれている有志旅団の力を持ってしても、防備の固い中枢近くまでは、手が届かない。そこに反抗の刃を叩き付ける唯一の手立てがミッション破壊作戦。
「今から向かうのは攻性植物のミッション地域のいずれか。皆で話し合って行き先が決まったら知らせて欲しい」
 意気込みは大事だが、パーティとしての戦力を判断するのも重要である。
 遭遇する敵については個体差やポジションの違いもあるから過去の戦法を模倣しても同じ結果になるとは限らない。また繰り返した攻撃の回数で難易度が下がると言うことも無い。
 だから自分の気持ちに正直に。徒に大きな戦果を期待するよりも刃に気持ちを込めよう。
 ミッション破壊作戦は攻撃ダメージの蓄積により魔空回廊の破壊を目指す作戦だ。
 リスクがある以上、大きな戦果は要求されないし、結果も目立たない。
「グラディウスはバリアにぶつける時に気持ちを高めて叫ぶと威力が上がるそうだ。これは『魂の叫び』と称されている。自分が抱く熱い思いが奪われた土地を取り戻す力に変わるなんて凄いことだね」
 但し、叫びはグラビティを高める為の手段。
 気持ちを高められるか否かは個性の問題だから、先例にとらわれずに自分らしく叫ぶのが良いだろう。
「デウスエクスの理不尽に立ち向かえるのは、皆ように若くて勇敢で純真なケルベロスだけなんだ」
 あなたたちも暴力によって故郷を追われた人たちの表情を見たことはあるだろう。
 悲惨なニュースを見て、大変だなあ、可哀想だなあ。
 と、力を持つ者が、こたつに入ってみかんを食べていて良いのだろうか?
 いつ侵略されてもおかしくない日常は、平和に見えたとしても非常だ。
 非常時にあなたが平和な時間を享受できているのは、足下の朽板が抜けるまでの儚い幸運かも知れない。


参加者
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)
アーデルハイト・リンデンベルク(最果ての氷景・e67469)

■リプレイ

●攻撃
「……そういえば、サービスエリアには面白い自販機があったりするよね」
 リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)は銀糸の如き髪に指先を通すと、嘗ては五月橋SA(サービスエリア)にもあったであろう平和なイメージに思いを至らせた。
 西に向かうヘリオンの後方から朝の光がやって来て絨毯を広げるように前方の地表に色合いを与える。
 目的地上空への到達を告げるアラーム、続けてランプの色が変わり、ドアのロックが外れる音がする。
「では、行きます!」
 真っ先に身を乗り出した、土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)は、そう言い置いて、ヘリオンの床を蹴った。強烈な寒気が顔に当たり、身を切られるような冷たさに思わず声が出そうになる。
 幸い、自然現象で寒く感じるだけのようだ。
 遙か下方に見える五月橋SAの輪郭、その中に見えるのは、グラディウスを手にしているからこそ、目にすることの出来る、強襲型魔空回廊だ。
 絶対に外さない。
 高空からは、まだ豆粒ほどの大きさにしか見えない目標を狙い定め、岳は降下角度をより鋭角に調整する。
(「SAは色々な方々が行き交う憩いの場所、本来あるべき場所の人々の笑顔が消し去られたことが私には哀しいです。だからそれを奪った敵を許せません!」)
 だから今、それを取り戻す。
 落下の速度は重力の加速を加えて凄まじく、小さくしか見えなかった魔空回廊のバリアは急速に近づき、全貌を露わにする。
「ただ貪り増え続ける歪な存在よ。今こそ倒し、回廊を破壊します!」
 叫びと共に満身の力を込めて、今や目の前に広がる壁のごときバリアに向かって岳はグラディウスを突き出す。砲弾の如き落下の軌跡を描く岳。
「宇宙に輝く蒼き宝石……地球に代わって、大! 大! 大! お仕置きですよー!」
 直後、まだ薄暗さを残していた早朝の空に閃光が広がる。
 魔空回廊を目指して降下を続けていた、アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)の両眸に閃光が入る。刹那視界が闇のような白に塗り尽くされる。
(「眩しいですっ!」)
 火球の熱は猛烈な上昇気流を生み出して、地上のありとあらゆるものを巻き上げようとしているかのようだ。輝きを放ちながら膨れる火球の中に無数の黒い影が巻き込まれている。
「攻性植物さん……。相変わらずあちこちを侵食しようとしているんですね……。此処を蹂躙し尽くしたら……また次へと侵食の手を伸ばして苗床にしていくつもりなのですか?」
 直後、熱を帯びた爆炎を穿って降下を続ける、アリスの視界に鮮やかに渦巻く炎を映すバリアの面が現れて、
「でも……私たちケルベロスがいる限り……そんなことはさせません……! 私たちが護ります……絶対に……!」
 壮絶な衝撃にグラディウスを握る手の感覚が消えかける中、その接触点から溢れた雷光があふれる。それは広葉樹が枝葉を伸ばすが如くに伸びて、空中に巻き上げられた影を次々と貫いて焼き払って行く。
(「目が眩む……」)
 閃光が目に入って少し涙目のリティもまた、魔空回廊を目指して降下中。
「……別に悲しいわけじゃ無いの。タマネギ切ったら涙目だけど、今日はお前を切り刻んで涙目にしてやる。輪切りにして衣付けて、オニオンリングにすんぞ」
 タマネギは食品だ。フライにスープ、あるいは串カツの名脇役として、秘伝のタレに浸して食べられる為ものだ。そんなタマネギが人や車を襲い土地を占拠するなど言語道断。
「コンチクショウ、お前に喰わせてやるモノはない。そんなに食いたきゃ、砲弾を光線のスパイス付きでたっぷり喰らわせてやる!」
 相当無茶な理屈でリティは気持ちを昂ぶらせて、眼前に立ちはだかるバリアに向かってグラディウスをたたきつける。
「憩いの場を奪われた人々の怒り……今日こそ、ここで倍返しだ。もう、お前等のいいようにはさせない!!」
 閃光が風景を塗り尽くし、衝撃波が地表にあるありとあらゆる物を揺さぶる。
 熱き叫びとグラディウスの破壊の力が重なり、生み出された奔流の中で、アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)はニ対の翼を巧みに操りながら降下を続ける。
「可愛い顔をしている子株たちが居るみたいだけど、あなたの本性はわかっているの」
 穏やかだが、隙のない冷徹さを孕んだ声で言い放ち、グラディウスを振り上げる。
「人々の道の安全を脅かすのなら、あなたたちをここで完全に駆除するわ! 根っこも茎も全て刈り取ってみせるんだから」
 バリアに叩き付けたグラディウスから凄まじい火花が散り、続けて熱が溢れ出る。莫大な熱量に指先に激痛が走った瞬間、抗うようにアミルは気合いを込める。
「これ以上五月橋を荒廃させたりしない。覚悟しなさい、あたしたち番犬はあなたたちなんかに絶対に負けないのよ!」
 攻撃の余波によって生み出された爆煙(スモーク)が明らかな異変を見せ始めたバリアの表面を波打つように流れて、津波のように地表を飲み込んでゆく。
(「Je ne comprend pas——私には分からない」)
 シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)は思い悩んでいた。もう数えるのを止めたくなるほどの攻性植物を打ち倒して来た。
 攻性植物が討たれ続ける現状を変えたい。だから戦い続けた。しかし攻性植物を救いたいという望みは叶えられぬまま時だけが過ぎた。握りしめたグラディウスの柄に体温が伝わって手に吸い付くような感触がする。
「Jete(力強く跳んでみせます)! わたしがこれからも戦う為に壊させて貰いますの!」
 崩壊の兆しを見せるバリア、その表面にグラディウスを突き出したシエナは衝突した。
 朝の空に赤黒い茸雲が超巨大な墓標の如くに立ち昇る。
 雲の中では稲妻が暴れ回り、地上から巻き上げたあらゆる物体を貫き、或いは焼き、塵に変えてゆく。
「いかなる土地もデウスエクスに明け渡すつもりは無い!」
 住処や職場を追い出された人々に思いを巡らせながら、オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)は腰紐につながったグラディウスを抜き放ち、確りと握りしめる。
 上空から見てもバリアにはもはや崩れかけという状態でスモークの中に沈んでいる。そのスモークが不規則な明滅を始めている。今こうしている間にもミッション地域に攻撃を掛けている同胞もいるだろう。そう考えるとオニキスの幼い胸にも熱い感情がわき上がってくる。
「長い間、被害にあった方々の無念を晴らすため、近隣の方々の平穏を取り戻すため、汝を倒して此処を取り返す!」
 この日六度目の大爆発の火球が膨れ上がろうとした瞬間、浮遊するバリアがそれを支えきれずに降下を始める、降下する勢いと巻き上がる上昇気流に掻き回された火球は無数の雷光を散らしながら崩れてゆく。
 同じ頃地上では、葱の焼ける様なツンとした臭いと錆びた鉄を口に含むが如き熱流が渦巻く中、仲間の合流を待つケルベロスたちが戦況を祈るような思いで見つめている。
「まるで世界の終わりのような光景ね」
「完全に壊れるまでは、安心できませんわ」
 魔空回廊の方を見上げるアミルの言葉に、アリスが年齢不相応な冷静さで応じると、壊せなくてもいつか誰かが壊してくれると、岳が屈託のない笑顔を見せる。
 この魔空回廊が瀕死状態にあることを、誰もが予感し始めていた。
 グラディウスの行使無しにはあり得ない巨大な破壊の力を目の前にして、アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)は気持ちを引き締める。
「人々の交通を邪魔し、そして車さえも襲撃してしまうとは、絶対に見過ごせませんね」
 目の前にある魔空回廊がどういう状態にあるかまで、今のアクアには考える余裕はない。ただ円らな赤い両眸の奥に熱き気持ちを滾らせ、グラディウスを突き出すのみ。
 次の瞬間、崩れかけのバリアは最期の抵抗の如き防御で抵抗する。凄まじい衝撃が電撃の様に手先から足先に向かって突き抜けて意識が飛びそうになる。
「このまま放っておけば、被害が拡大するばかり……それだけは絶対に阻止してみせます」
 一日延びれば、その分被害を受けた人たちの苦しみが伸びる。その苦しみを一秒でも早く終わらせる為に、アクアは再び腕に力を込めた。
 沢山の人が攻性植物『グラトニーマーガレット』の出現によって苦しめられている。
 アーデルハイト・リンデンベルク(最果ての氷景・e67469)は、今回の攻撃においても、一行宛に届けられた、地元の人々からの激励のメッセージを思い出しながら、両手で構えた落下方向へと突き出す。
「こうしている間にもデウスエクスの脅威に晒されている地域は数知れず、そして被害を食い止めるために同胞も戦っている……」
 ここを含め多くのミッション地域が拡大しないのはデウスエクスの気まぐれであるはずがない。ミッション破壊作戦のように記録が残されていなくとも、地域を守るために、声も上げずに戦い続ける、有志のケルベロスや旅団があるのではないか。顔を合わせることは無くとも、思いを同じくする同胞や同士が存在する、そのように思い至るのは自然なこと。
「……なればこそ、私たちがこの地で勝利をおさめることは、間違いなく、今後の助けとなるはずよ」
 ミッション破壊作戦の開始から間もなく2年。
 この五月橋SAに挑んだ数え切れないほどのケルベロスに情念に寄り添うようにアーデルハイトはグラディウスの切っ先を突き出し、その身を一本の矢の如くにして瀕死の魔空回廊、それを防護するバリアに突入する。
「必ず勝って、帰ってみせる!」
 閃光、続けて衝撃波が風景を揺さぶり、魔空回廊と浮遊するバリアは無数の光の粒と変わる。
 直後、光の粒は爆ぜ散り成層圏に達する茸雲を崩してゆく。
 それは積み重ねられた、無数の思いが元の場所に帰ってゆくが如き光景だった。

●撤退
 さあ帰って破壊成功の報告をしよう。
 焼き尽くされた地表付近には変わらずにスモークで覆われていた。一方、空の巨大な茸雲は消え去って、攻撃の前と変わらない澄んだ青が広がっている。
「急ぎましょう」
 そして撤退を開始した一行の目の前にグラトニーマーガレットが一体、その巨躯をゴロゴロ転がせながら出現。問答無用で襲いかかってくる。
「危ないです!」
 ギャッフーン。
 素早い身のこなしで前に躍り出た岳、シエナ、アーデルハイトが、全力で受け止めようとするが、支えきれずにまとめて押しつぶされる。そしてグラトニーマーガレットはちまちまと削られ続けた積年の恨みを晴らすが如くに繰り返して転がって、何度も押しつぶす。
「だ、大丈夫ですか? 水よ、光よ、煌く万華鏡の様に皆に届け——」
 意外に大きそうなダメージに驚き、アクアが癒術を発動する。創造された無数のシャボン玉がスモークの中にあっても淡い七色の光を乱反射する。それは巨躯に押しつぶされた者たちに一服の癒やしをもたらす。
「それにしても……本当に大っきな玉ねぎさんです……スープやお料理にしたら何人分……って、いけないいけない☆ 時間がありません!」
 破壊成功から来る気の緩みからか軽口が零しながらも、アリスは宝虹花フノシル、幼き女神姫の名に例えたドラゴニックハンマーを砲撃形態と変え隙の無い動きから巨砲弾を放つ。
 直後燃え上がるグラトニーマーガレット。
「食べ過ぎの悪い子ちゃんには、お薬が必要ですね♪」
 その隙を逃さずに、岳はウイルスカプセルを投射する。弓なりのカーブを描いて飛翔したカプセルは命中と同時に爆ぜて内容液を散らす。
 焼けた鉄の匂いと暴れ回る敵。
 リティはこの場所にはもうコインを入れて商品が出てくる自動販売機は無いと思い知らされる。
 車中で疲れた身体にはやたら美味しい気がするカップ麺や果汁に似せた味の清涼飲料水、それに安っぽいハンバーガーも……。二度とこの場所では買えない。
「おしるこ、飲みたかった。許さない。ドローン各機、座標指定完了……レーザー発射と同時にグラビティフィールド展開。リソースはドローン軌道、レーザー反射角演算に回せ」
 戦いの後の楽しみは無い。遣り場の無い怒りを無人機の群れに託しリティはレーザー射撃を嵐の如くに開始する。対処の限界を超えた数のレーザーに穿たれて巨躯は揺らぎ、白煙と刺激臭を漂わせる。
「どんなに美しい花の名を持っていても、この世界を脅かすのなら、あなたたちを野放しにはできないわ」
 手加減は無し。だから躊躇わないし、迷わない。アミルは氷の様に澄みきった刃で一閃から、マイナス273.15℃、熱振動の下限とされる絶対零度の世界を現出させる。
 霜に覆われる巨躯、繰り返し刻まれるダメージもあるが、それだけで倒れるほどヤワではない。
 果たして、戦いはスナイパーの活躍にも関わらず長期戦の様相を見せる。
「残り時間も少なくなって来たようだな。だが、大喰らいよ! 見逃してはやらん。汝のこれまでの食費、今日、ここで支払ってもらうぞ!」
 言い放つと同時、オニキスは地を蹴り込んで飛び上がり、斜に構えたチェーンソー剣を力任せに振り下ろす。
 唸りを上げる発動機の如き振動に合わせて、重ねられたバッドステータスが一挙に花開き、誰もが戦いの終わりが近づいたと直感する。
「私の占いは百発百中です、結果を信じて下さい」
 アクアは傷ついたシエナを癒やし、運勢を告げるも、彼女が抱く苦悩の助けにはならなかった。
「甘く見られっぱなしでは女が廃るというものよ」
 アーデルハイトの瞳に浮かぶ決意。早く倒して、撤退を成功させなければならない。通常の依頼にはあまり無いプレッシャーを感じながら放った影の弾丸が大きく逸れて唇の端を噛みしめる。
「あと少しなの、お願いしますわ」
「Oui je comprends——分かりましたの」
 役割は果たす。
 決意と共に放ったシエナの攻性植物、蔓触手形態と化した、それが強かにグラトニーマーガレットの巨躯を締め上げ、続いてボクスドラゴン『ラジンシーガン』の吐き出したブレスが命を削り取る。
「これで終わらせていただきます……!」
 最期、アリスに時空凍結弾を打ち込まれたグラトニーマーガレットは薄れたスモークの先に透ける青空に触手を震わせながら伸ばした。
 だが触手は何にも触れることはできない。グラトニーマーガレットは喉奥から黄色い液体をごぷりと吐き出すと巨躯を傾け自分で吐き出した液体の中に崩れ落ちて、命を散らした。
「Souffrance(心が苦しいのです)……わたしがケルベロスになったのは間違いでしたの?」
「間違いだとしても気にしないでいいから。そんなことよりも走るよ!!」
 恐らく新手だろう。大量の重い物が転がりながら近づいてくる気配がする。
 命あっての物種だとリティはシエナの背中を叩く。
 そして2人は仲間の後を追って駆け出した。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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