勇気は死徒の贄と為り

作者:朱乃天

 とある高校における一風景は、この日もいつもと変わりのない日常だった。
 お昼休みを終えた校舎では、午後の授業が行われている最中だ。
 今日も普段と同じ繰り返し、在り来たりな生活は退屈だとさえ思えてしまう程。
 ――しかしそうした平和な日々の営みに、突然大きな災禍が降りかかる。
 どこからともなく校舎に現れたのは、獣の耳を生やした一人の女性――否、彼女の下半身は、蛸のような海洋生物と、無数の獣の顔を混ぜ合わせた不気味な姿で形成されていた。
 明らかに人とは言えない異形の存在、『暗礁の死神』ケートーによって校舎が襲われ、生徒達は忽ち混乱に陥ってしまう。
 我先に急いで逃げ出す者や、呆然と立ち竦み、恐怖に怯えてただ喚くだけの者。
 避難も思うようには儘ならず、一人の女子生徒が押されるように転倒し、そこへケートーの魔の手が伸びかかった時――。
「やめろっ! その子に触れるな!」
 男子生徒の一人が女子生徒を守ろうと、我が身も厭わず勇気を出して立ち塞がるのだが。
「その勇気、気に入った。われら姉妹の計画の為、お前の勇気をサルベージさせてもらう」
 ニタリと口角を吊り上げながら、ケートーは男子生徒の首を掴み、圧を加えて絞め殺す。
 そして手を放し、男子生徒の骸がゴトリと床に転がり落ちる。すると死体が見る見るうちに変貌し、屍隷兵と化して新たな生を得る。
 その様子を眺めていた死神は、満足そうに愉悦しながら屍隷兵に対して命令を下す。
「さあ……今度はおまえと同じ勇気あるものを殺して、私達に捧げなさい」

 ヘリポートに召集したケルベロス達を前にして、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が緊迫した様子で事件の説明をする。
「緊急事態だよ。とある地方の高校で、死神がサルベージ事件を起こそうとしているようなんだ」
 この事件の首謀者でもある『暗礁の死神』ケートーは、生きた人間の魂をサルベージして殺害し、死体を屍隷兵にして更に人々を襲わせるつもりらしい。
 襲撃を受けた高校では多くの生徒や職員達が逃げ惑っており、全部で3体の屍隷兵が別々に、学校内の人々に襲い掛かろうとしている状況だ。
「学校から無事に避難できた人達は、警察などが救護活動を引き受けてくれるけど。中では屍隷兵が暴れているから、ケルベロスでないと手に負えない感じだね」
 今から急いで現場に向かえば、被害を食い止められる可能性は残されている。その為に、まだ取り残されている生徒達を救出してほしいとシュリは言う。
 今回戦うのは、計3体の屍隷兵。首謀者のケートーは既に現場から消えているので、この戦いでは屍隷兵のみを撃破すれば良い。
 3体はそれぞれ個々に行動し、学校内でも異なる場所にいるので、こちらもチームを分散させて戦うことになる。そして3体の屍隷兵の所在地は、渡り廊下を跨いだ2つの校舎と、体育館の計3ヶ所で、各地に1体ずついるとのことだ。
 体育館では、体育の授業が行われていたところだが、比較的出口が近く逃げやすかった構造でもあって、避難は最も順調だったらしい。ただし、逃げ遅れた数名ほどがステージの裏側などにまだ身を潜めているそうだ。
 次に、渡り廊下で繋がっている2つの校舎。その内の1つのA棟は、生徒達の教室がある本校舎となっている。もう1つのB棟は、主に職員室や保健室、図書館や音楽室や美術室といった各施設が配置されている。
 校舎の方は何れも3階建てで、階段以外に、外壁を伝って窓から移動するといったこともできるだろう。
 また、中に取り残されている人達は、上の階に上がって隠れてやり過ごそうとしているといったことも、シュリの口から語られる。
「屍隷兵は、ケートーから『ウツシ』と呼ばれていて、勇気のある者を探して殺そうとする性質があるみたいだね」
 つまり、建物内で屍隷兵をいち早く見つけ出し、勇気を見せつければ優先的に襲ってくるので、その点を利用すれば被害を抑えられることができるだろう。
 異なる位置に点在している敵をどう撃破していくか、この戦いでは作戦の組み立て方がより重要となってくる。
 それでも彼等ならきっと大丈夫だと、シュリのケルベロスに対する信頼感は揺るぎない。
 どうか気を付けて、と戦地に向かう彼等に声を掛け、その背中を見送るのであった。


参加者
アリッサ・イデア(夢亡き月茨・e00220)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
ユーディット・アルニム(装甲砲士・e29597)
ココ・チロル(箒星・e41772)
ユノー・ソスピタ(守護者・e44852)

■リプレイ


 己の危険も厭わず他人を守る、その勇ましき魂が、死神の手に掛かって奪われてしまう。
 しかも死んだ命はサルベージされ、屍隷兵へと生まれ変わって新たに人間達を襲わせる。
 そんな死神達の野望を阻止すべく、現場に駆け付けたのは勇敢なる八人のケルベロス達。
 対する敵の屍兵は計三体。その何れもが異なる場所に分かれている為、こちらもチームを三分割して作戦開始――取り残された一般人の救出と、全ての屍隷兵の撃破を目指して、三つのチームが始動する。
「勇気を逆手に取るとはな。弱いものいじめが好きなデウスエクスが考えそうなことだ」
 死神共の所業を嘲るように呟く、ユーディット・アルニム(装甲砲士・e29597)。
 ならばその勇気を以て、正面から打ち破るのみ。ケルベロスとしての力を存分に見せつけようと、パンと拳を叩いて気合を入れて、A棟校舎の階段を急ぎ足で駆け上がる。
「敵は三体の屍隷兵……即ち、犠牲者は最低三人出ているということか。これ以上の犠牲は何としても防がなければ」
 同じくA棟担当の、ユノー・ソスピタ(守護者・e44852)の思いは屍隷兵にされてしまった生徒達に向けられていた。
 犠牲となった三人は、もうこの手で救うことすら叶わない。だからこそ、せめて残った命だけでも、と。ユノーは武器を持つ手に力を篭めながら、いち早く敵を見つけ出そうと目を光らせる。
 そして彼等は三階へと到着し、周囲を見回すものの、それらしき影は見当たらない。
 となると二階にいたのだろうかと、再び階段で下に降りようとした時だった――。
「キャアアアアーーッッ!」
 絹を裂くかのような少女の悲鳴が、ケルベロス達の耳に届く。
 聞こえてきたのは更に上の方からだ。どうやらお目当ては屋上まで上がっていたようだ。
「そっちにいやがったか。待ってろよ、今すぐ助けに行くぜ!」
 少女の叫びを聞きつけ、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)が脇目も振らずに屋上へ向かう。
 ユノーとユーディットも続いて昇り、彼等は遂に屍隷兵との遭遇を果たす。
「我々が来たからにはもう安心だ。さて……そこの屍隷兵とやら、ケルベロスの勇気というものを――試してみるか?」
 まずは少女の無事を確認し、ユーディットが声を掛けると、少女は身を強張らせながらも応えるように頷いた。そして屍隷兵には挑発めいた言葉を投げて、敵の注意を引き付ける。
「グルルルルゥゥッッ!!」
 番犬達の狙い通りに、『ウツシ』と呼ばれる屍隷兵は勇気を示したユーディットに襲い掛かろうとする。しかしユノーが間に割り込んで、身を挺して相手の牙を受け止める。
「私を倒さない限り、お前はもう誰も殺すことはできないぞ」
 光に包まれながら煌びやかな騎士鎧を装着し、戦闘態勢に移るユノー。
 そこへ今度はランドルフが飛び掛かり、流星煌めく蹴りを放って足止めをする。
「怨んでくれて構わねえ、それでも俺達は……お前を倒す! 倒してでも止めなきゃならねえんだッ!!」
 ランドルフが強い気迫を漲らせて立ち向かう。後はB棟側に向かった仲間と合流すべく、敵を下の階へと誘き出すだけだ。

「屍隷兵がいるとすれば、おそらく上の方ですが……」
 一方、こちらはB棟担当班の二名。
 翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)は校舎を見上げて目を凝らし、耳を澄まして些細な変化を感じ取ろうと気を張り巡らせる。
 するとどこからともなく、何かを破壊したかのような音と同時に、悲鳴が聞こえ。風音がすかさず確認すると、二階の窓から身を乗り出して、飛び降りようとする人影を発見する。
「チッ……こうしちゃいられねぇ!」
 それを見かねたキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が咄嗟の判断で、二階の教室目掛けて跳躍したと思えば、空中を足場代わりにもう一段高く跳ね上がり、体当たりで窓ガラスを破って教室内に飛び込んだ。
 その先では屍隷兵が扉を壊し、教室内に隠れていた生徒を襲撃しようとする直前だった。
「これ以上、何ひとつ奪わせねぇ。好き勝手したきゃ先ずはオレを殺してみろよ」
 キソラが念波をぶつけると、屍兵の肩が爆ぜて血と肉片が飛散する。
「もう大丈夫です。後は私達に任せて下さい」
 直後に風音も到着し、衣装を華美なドレスに変身させて呼び掛ける。その玲瓏たる彼女の声と姿が、恐怖に怯える生徒を安堵させ、心の中に希望の二文字を抱かせる。
「シャアアアッッ!!」
 ウツシの標的は、既にケルベロス達に切り替えられていた。舌舐めずりしながら吐き出す毒の粘液を、箱竜のシャティレが庇って防いで、どうにかこの場を凌ぎ切る。
 ここまで作戦通り順調に、生徒達の身の安全を確保した。次に彼等はA棟班との合流地点でもある一階の渡り廊下に、敵を引き付けながら移動し始める。
 そして残るは後1班、その三人のケルベロス達が向かった先は――校舎側から少し離れた体育館だった。


 ガラリと扉を開けると、体育館の広い空間内には人の姿は見当たらない。
 逃げ遅れた者はステージの裏側などに身を潜めていると、彼等は事前に聞いていた。
 屍隷兵が狙うなら、おそらくそこしかないと視線を向ければ、ステージ上に蠢く異形の影を一体捕捉する。
 生徒に屍隷兵の魔の手が伸びようとする、ケルベロス達はそれより先に舞台に駆け寄り、声を張り上げながら屍隷兵を呼び止める。
「貴方の相手は、私達、です!」
 ココ・チロル(箒星・e41772)が軽やかな身のこなしで行く手を塞ぎ、ステージ裏には決して行かせはしないと屍隷兵の前に立つ。
「ここは、わたしたちケルベロスが預かるわ。だから、その子達に手は出させなくてよ」
 裏に隠れているであろう生徒に対し、アリッサ・イデア(夢亡き月茨・e00220)が今すぐこの場を離れるように促した。
「……カタギの方々にゃァ、その手も口も出させやせんぜ!」
 普段は寡黙な茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)だが、敵に武勇を示すべく、語気を強めて舞台に飛び乗り、威勢よく啖呵を切って身構える。
「グオオオォォッッ!!」
 ケルベロス達の思わぬ妨害に、屍隷兵は怒り狂ったように吼え猛る。戦いの幕開けを告げる咆哮に、痺れるような痛みを感じながらも、番犬達は臆することなく対峙する。
「哀しい哭き声ね。もう少し早くこの事態を知って居たならば……」
 心無い屍兵にされてしまった少年達も、救えることができたのかもしれないのに、と。
 アリッサは胸に痞える苦しみを、吐き出すように溜め息吐いて。相手を見据え、救える命だけでも守り抜こうと気を引き締め直し、願いを込めて癒しの力を行使する。
 薔薇蔦絡むゴシックブーツでステージ上を華麗に舞うと、色鮮やかな花弁のオーラが屍兵の負の力を打ち消していく。
「校舎班が来るまでは、何としてでも、持ち堪えるのです!」
 ココが心霊治療の術を用いて、霊体から疑似肉体を瞬時に生成。それを仲間に纏わせて、加護の力を付与させる。
「気概のある者が見込まれるにしても、死神のマトにされたとあっちゃァ無念でしょう」
 我が身を犠牲にした結果、化け物に造り変えられ他人を襲うなど、本末転倒だと三毛乃が嘆く。
 屍兵の雄叫びは、まるで殺された者の心の叫びのようであり。ならばその悔しさを、自分が代わりに晴らしてみせよう、と。三毛乃が右手で巨大な斧を取り回して跳躍し、敵の脳天目掛けて超重力の打撃を炸裂させる。
 死神達が起こす惨劇を、ケルベロスが勇を示して食い止める。
 三つのチームが抱く想いは唯一つ。悲劇の連鎖を断ち切って、この手で全てを終わらせることだけだ――。

 一足先に一階の渡り廊下に着いたB班は、臨戦態勢に入りながらA班側の合流を待つ。
 ――殺された心がサルベージされ、屍兵と化して蘇る。
 キソラも嘗て身体の一部を奪われて、似た境遇のウツシに己の姿を重ね見る。
 勇気が故の犠牲とその代償が、死神の操り人形にされてしまうという皮肉。
 死に逝く間際の悲痛と憎悪を、継ぎ接ぎしたかのような敵の醜い姿にも、キソラは視線を逸らすことなく直視して。自身の心の中でのみ、殲滅を誓う声を吐き捨てる。
「……その勇気はオレが、貰い受ける」
 全身から滾る闘気は七つの彩を纏い、放った氣弾が屍兵の脾腹を貪るように喰い千切る。
「――花の女神の喜びの歌。春を謳う命の想いと共に響け」
 風音が身を翻せば花弁が舞い、唇が紡ぐ清冽なる旋律は、自然の世界の精霊達を召喚し。命を謳いし流れる風が、治癒の魔力の効果を引き上げる。
 敵の戦闘力自体は高くないのだが、ケルベロス達も戦力を分散させている以上、勝負は拮抗している状況だ。それでも今は仲間を信じ、耐えて乗り切るしかないと――その時、二人の願いが通じたか、凛と気高い少女の声が響いて届く。
「待たせたな。ここからは私達も参戦させてもらう」
 ユノーが疾走しながら無骨な剣を振り翳し、屍兵の口が開いたような腕から生えた、粘液塗れの舌を断つ。
 遅れて到着してきたA班も、合流を果たすや否や、屍隷兵を迎え撃つべく、即座に配置に就いて陣を敷く。
「にしても死神ってのは、相変わらず胸糞悪ぃ攻め方しやがるモンだぜ……」
 死神達の非道なやり方に、ランドルフは怒りを覚えて獣の身体を震わせる。すると彼の得物の短刀が、哭いているかのように共振し、血の涙を流すが如く紅を纏う。
 『覚悟』を宿した刀に『絆』を重ね、稲妻状の刃を振り抜けば。傷を広げるように屍兵の体躯を掻き抉り、その身に消えない苦痛を植え付ける。
「――Rauchgranate!」
 ユーディットの身体を覆う防護スーツから、煙が噴き出て彼女の周囲を包み込む。
 広がる高密度の煙幕は、敵の視界や感知力をも遮断させ。悪しき力を妨げる、護りの霧が展開されていく。
 敵への対応策も万全で、ケルベロス達は得意の連携力で手数を重ねて攻め立てる。
「こうすることしかできず、ごめんなさい……。でも、その手で人を殺めさせるわけには、いきません」
 二体のウツシの内の一体が、深手を負って追い詰められていく。息絶えようとする瀕死の屍兵に、風音は謝罪の言葉を口にする。一度命を落とした彼等にとって、死を与えることだけが救いだと。頭で理解はすれど、いざ手を下すとなると、心に重く圧し掛かる。
 しかし更なる命を護ると誓った、溢れる想いを風音は理力に変えて脚に載せ、星のオーラを纏った蹴りを舞うかのように叩き込む。
「悪いがこいつで、お終いだ」
 ――じゃあね、と囁くように、キソラが秘めたる力を解き放つ。
 真白き髪に炎が灯って燃え盛り、ウツシに向けて掌翳すと、激しい炎の渦が瞬く間に屍兵の身体を呑み込んでいく。
 放つ浄化の炎は、穢れに塗れたウツシの屍肉を灼き尽くし。勇なる魂を、キソラが降魔の力で喰らって取り込むと――命潰えた屍兵は崩れ落ち、骸は灰燼と化して消滅していった。


 ケルベロス達はまず一体を倒し終え、他の一体も、火力を集中させて畳み掛けていく。
「貴様には、コイツを嫌という程くれてやる」
 ユーディットが刀を抜いて斬りかかる。振るう刃の軌跡は弧を描き、なぞるように真っ赤な飛沫が虚空を染める。
「――雄々しき軍神よ、全ての敵を打ち砕く力を!」
 気炎を上げるユノーの意思に呼応するように、剣に神威が宿って光を纏う。
 祈りを捧げるように振り被り、あらゆる罪を断ち切らんとする斬撃は――屍兵の身体を深く裂き、ウツシはグラリと態勢崩して膝を突く。
 力を殺がれて蹲う屍兵にランドルフが歩み寄り、白銀色の銃を敵の頭に突き付ける。
「コイツはとっておきのPresentだ! 遠慮はいらねえ! 喰らって、眠れ……!」
 気と重力を練り合わせた弾丸を銃に篭め、零距離から躊躇うことなくトリガーを引き――派手な爆発音と共に黒い煙が巻き上がり、死せる屍兵の亡骸は、跡形残らず消し飛んだ。
「……死神共が。テメエらが奪った『命』! テメエらが踏み躙った『勇気』! このツケは安くねえぞ!」
 勝利しても尚、心の奥から込み上げるのは、ただ死神への怒りのみ。ランドルフは新たな決意を胸に抱き、空に向かって大きく吠えた。
 ともあれ校舎側の二体は撃破した。残すは一体、体育館で繰り広げている戦闘も、間もなく佳境を迎えようとする――。

「Hen le ariet,cus Ren le ariet――奏で、詠い、響き、廻れ」
 魔力を声に乗せ、アリッサが詠唱せしは、癒しを齎す淡紫の薔薇の舞い。
 女王の愛した奏花は幻夢の如く咲き零れ、儚く散れども、花弁に宿りし力はいつまでも、消えることなくなく御身に残る。
 アリッサの癒し手としての力が傷付く仲間をここまで支え、機を窺いながらケルベロス達が攻撃に出る。
「私がみんなを、守ってみせます。絶対に」
 空から陽へと、色彩移ろうオーラを帯びたココの手が、獣の腕に変貌し。威力を増した拳の一撃に、ウツシの身体が一瞬傾いでよろめいた。
「加勢が来る前に、仕留めちまっても構いやせんかね」
 ココが作った隙を見逃さず。三毛乃が眼光鋭く狙いを定め、懐に左手忍ばせ銃を抜き。正確無比な不可視の射撃で、屍兵の異形の腕を撃ち抜いた。
「グギギ……ガアアアァァッッ!!」
 『生』を渇望し、喰らおうとさえする屍兵の牙が、ケルベロス達に迫り来る。だがココの従者のバレが盾となり、鋭利な牙を鋼の機体で耐え凌ぐ。
「今度は、こっちがお返しです」
 魔法の箒のようなライドキャリバーに、ココがふわりと跨り、穂先で屍隷兵の足を狙って薙ぎ払う。
「リトヴァ、わたし達も続くわよ」
 回復役のアリッサがビハインドに指示を出し、自身も攻め手に回って攻勢を掛ける。
 最初にアリッサが、心の内に眠りし深藍色の炎を練り上げ、星の煌めき宿した冷たき焔の弾を撃ち放つ。次いでリトヴァが、夜色の衣を靡かせながら敵の背後に回り込み、魔力の波動を浴びせて追い討ちを掛ける。
 積極果敢に仕掛けて、火力を重ねるケルベロス達。ウツシに刻み込まれた多くの傷が生命力を殺ぎ、手負いの屍兵は後が無い程追い込まれた状態だ。
 三毛乃は最後の仕上げとばかりに持てる全ての力を解放し、閉じた右眼を見開けば、眼窩の奥から地獄の炎が噴き上がる。
「――恥じなせえ。命のある内に火車と出くわすなァ、そりゃ相当に重い罪人だ」
 猫に纏わる伝承を、具現化させる三毛乃の秘奥。炎が流れるように身体を廻り、死者の骸を奪って地獄へ運ぶ【火車】と成り。楔を打ち込むように、屍兵の足を踏み潰す。
 荒ぶる炎の獣と化した三毛乃の怒涛の喧嘩殺法に、抗う力はウツシにもはや残っておらず――力尽き、倒れた骸は、業火に餐まれて塵と消ゆ。

 全ての屍隷兵を討ち倒し、それぞれの最期を見届け終えたケルベロス達。
 彼の者達の勇なる魂が、どうか安らかであれと瞑目し、その死を悼んで弔った――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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