カッコイイ? カッコワルイ! ダメ! ゼッタイ!

作者:麻香水娜

●万引きなんて昼飯前
 昼休みはパンやジュースを求める生徒で賑わう購買部。
 仁藤・裕也は人混みに紛れてヤキソバパンを手に取り、会計をせずにその場を離れた。

「ってできたら格好良いよなぁ……」
 裕也が屋上でヤキソバパンを口にしながら空を見上げる。当然これはお金を払って購入したものだ。
 購買部には『主』と呼ばれる怖いおばちゃんがいる。忙しい筈なのに万引きは絶対見逃さない超人。
「見つけたわよ、不良!」
 そこに、真面目そうな眼鏡をかけた女生徒がビシッと指を突きつけた。
「あなた、あの『主』が目を光らせる購買から万引きするつもりね!」
「そ、そうさ! 万引きなんてちょろいぜ。『主』? 見つかったらぶん殴って逃げてやるよ!」
 実際万引きをした事のない裕也だが、立ち上がって息巻く。
「なら、私が手伝ってあげるわ」
 女生徒──イグザクトリィがにやりと口元を歪めると、巨大な鍵で裕也を突き刺した。

●不良はゲーム?
「エテルニタさんの危惧したドリームイーターの事件が見えました」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
 各地で発生している高校生が持つ強い夢を奪って強力なドリームイーターを生み出そうとする実験のようなものだ。
 今回は、仁藤・裕也という学生で、万引きへの憧れがドリームイーターに狙われる。
「万引きは犯罪だぞ」
 ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)が眉を顰めた。
「ゲームのクエスト感覚なのかもしれません」
 さながら『主』の守る『商品』という宝を奪い取り、『不良』という称号を得るクエストか。
 生まれたドリームイーターは強力な力を持っているが、『万引きする不良への憧れ』を弱めるような説得ができれば、弱体化させる事ができる。
 時刻は12時半頃。
 屋上は特に遮蔽物もなく見晴らしもいい。
「このドリームイーターは状態異常付与を得意とし、一撃もかなり痛いようです。回復手段も持ち合わせているので、いきなり戦闘に入るのは得策とは言えません」
「……弱体化させてからでないと苦戦するかもしれない、か」
 蒼梧の説明に、ぽつりとノチユが独りごちる。
「はい。ドラマに出てくるような熱血先生よろしく力強い説得をするもいいですし、万引きで捕まる格好悪い大人を語ったりもいいかもしれません」
 頷いた蒼梧は、どのような説得をして弱体化させるかは皆さんにお任せします、と説明を締めくくった。

「万引きは犯罪です。それをする不良が格好良いわけがありません。しっかり更生させてあげて下さい」


参加者
安曇・柊(天騎士・e00166)
上月・紫緒(シングマイラブ・e01167)
リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)
空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
ウィリアム・ライムリージス(王立海軍の赤き参謀・e45305)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)

■リプレイ

●格好悪いよ!
 屋上への扉の前に続々とケルベロス達が集まってきた。
 いくら教師に話を通したとはいえ、8人で固まって移動するのは目立ちすぎる。それぞれ個別に校内を歩いてきたのだ。
 制服を着て生徒に成りすました者、プラチナチケットを使って新しい非常勤教師や保護者を装った者、螺旋隠れで目立たぬように移動してきた者、8人全員が揃う。
「全員揃いましたね」
 仲間達を確認したウィリアム・ライムリージス(王立海軍の赤き参謀・e45305)が視線を鋭くして殺気を放った。
「一応私も……」
 効果範囲を広げる意味でも、階段途中にいたジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)も殺界形成を発動。

 ──ドサリ。

 扉の向こうで何かが倒れる音がする。裕也が鍵で刺されて倒れた音。つまり、ドリームイーターが現れたのだ。

 バーン!!

 派手に扉が開かれ、ドリームイーターがそちらに目を向ける。
「万引きのどこがカッコイイのか教えてくれませんか?」
 一番最初に扉から姿を見せたウィリアムが穏やかに話しかけた。
『なんだおまえ……』
「いいから、ちょっとここで本格的に実演してくれませんか? ソコに主が居ると仮定して……」
 訝しげに眉を顰めたドリームイーターに、尚も笑顔で続ける。
「んじゃ俺を主だと思えよ」
 扉から出てきたエンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)が屋上のフェンスの方に歩いてドリームイーターに背を向けた。
「な、なら僕は、他にいる生徒として、その周辺を歩きます、ね」
「では私も生徒役します」
 安曇・柊(天騎士・e00166)がエンデの方へ歩き出すと、上月・紫緒(シングマイラブ・e01167)もその横に並んで一緒にエンデの後ろを行ったり来たりする。
『……』
 ドリームイーターは考え込んだが、自分が颯爽と万引きする姿を見せつけようと、柊と紫緒の動きを目で確認し、エンデの後ろ姿をじっと見つめた。
「はいストップ! もうダサい!」
 指示棒を取り出したウィリアムがビシッとその先端をドリームイーターに突きつける。
「背は曲がって猫背だし、キョロキョロと周囲を見回す姿は痴漢のそれと大差ありませんね。完全に小物です。ダサい! カッコ良さの欠片も無い!」
 右手で持った指示棒を、開いた左掌にパンッと打ち付ける姿は教師のようだ。
「しかもヤキソバパン一個……」
 扉の前で実演を見ていたジュスティシアがぼそりと漏らす。
「たかが店員一人を出し抜いてヤキソバパンを万引きする事の一体どこが格好いいの?」
 あまりにもみみっちい、ショボくてお姉さん泣けてきちゃう、と深い溜息を吐いて目を伏せた。
「しかも窃盗罪で10年以下の懲役か50万以下の罰金。更に前科者のレッテル一生分とか、しょぼい上に救いがねぇな」
 その隣で壁に背を預けていた空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)が軽い調子で口を開く。
『な、なんだよ……』
 ウィリアムからの流れるように次々と言葉を浴びせられ、ドリームイーターが唸った。

●悪い事が格好いいわけがないだろ
「まずもう、『万引き出来る悪い俺、格好いい』とか悦に入ってそうなのがダサい。捕まったらどうなるか考えてみろよ」
 主のフリをしてずっと背を向けていたエンデが振り返って口を開く。
 考えてみろ、の言葉にドリームイーターの動きが止まった。捕まる事を考えていなかったのだろう。
「……もし捕まったら、まず生徒指導室に連れて行かれます。ご両親も呼ばれます。友達にも伝わるかもしれません、ね」
 周りからの目は憧れや一目置くものではなく、冷えた白い目だと思いますよ、と生徒役になっていた柊が振り向き様に口を開いた。
「親に心配かけて迷惑かけるだけです。そんなの、ダメ! です」
 柊の隣で足を止めていた紫緒もビシッと指をつきつける。
「呼ばれた親がどう思うか考えたか? 周囲からどう思われるかは?」
 ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)が気だるげに、仲間達の言葉を更に考えさせるべく口を開いた。
『……親……友達……』
 ドリームイーターは難しい顔で考え込む。
「情けない息子を庇うかもしれない。周囲からもきっと噂される、そういう状況に追いやりたいか?」
 自分の親をそんな目に合わせたいのか、と眉を顰めた。
「君が憧れてるのってさ、不良が世間一般と違うことをしてる所だろ?」
 悩むドリームイーターに、やれやれ、と息を吐くノチユの言葉は続く。
「なら、犯罪に手を染める以外でいくらでもやりようはある。危ない橋を渡った結果捕まって、『あいつはダサい』なんて、馬鹿みたいだ」
「そう、です……万引きしたんだって、最低、とか言われながら、残りの学校生活を過ごすことになるかもしれません、よ」
 うんざりしたようなノチユの言葉に、柊が悲しそうに目を伏せた。
「それにな、今時のネットは恐ぇぞ? 動画も写真も実名も、一瞬で世界中に広がるかんな。そうなりゃお前、晒し者かつ笑い者だぜ?」
 自分の周りだけではなく、自分の全く知らないところにまで広がってしまうのだと、空牙が笑いながら楽しそうに──浅慮なドリームイーターを嘲笑うかのようにたたみかける。
『ダサい……? 笑い者……?』
 そんな筈ない、皆ができない事をやったら格好良いに決まっているじゃないか、とぶつぶつと繰り返すドリームイーターからポロポロとモザイクが零れだした。
「でさ、今のキミは不良どころか世間一般の『悪』であるデウスエクスにまで堕ちてるわけだけど、キミが思うカッコいい不良ってのはそういうものなのかな?」
 リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)は、トドメとばかりに溜息混じりに吐き出す。
『ちが……そんな……俺は、皆と違う……できない事を……』
 ボロボロとモザイクを体から零し続けながら頭を抱えた。
「皆ができないっていうなら、厳重なセキュリティに守られた美術品とか金塊を狙ってみたら?」
 もしくは、悪い金持ちから盗んで皆に配る義賊だったら大勢の人から支持されますよ、とジュスティシアが声をかける。
「おいおい……そそのかしてどうする……」
 ウィリアムが小声で突っ込んだ。他の仲間達も『大丈夫か?』とでもいうように様子を見守る。
『そ、そんな事……でき、できるわけ……』
「できないですか? だったら真面目に生きましょう。ショボい万引き犯より遥かに格好いいですよ」
 そんな大それた事をする度胸はないだろうと見抜いていたジュスティシアは、柔らかく、諭すように微笑んだ。

●今だ!
『あ、あ、あ……あああああ……』
 ドリームイーターはガクリと膝をつく。
「こんなものでしょう」
 ウィリアムが仲間達に目配せした。即座に武器を構えるケルベロス達。
「……目を離したら、消えてしまうかも」
 頷いた柊は、すっと美しく瞬く星を浮かび上がらせる。
『……ッ』
 ドリームイーターが痛みを感じる程の光に目を瞑った瞬間、タイミングを合わせた紫緒がルーンアックスを頭上から振り下ろし、エンデが呪詛を載せた斬撃を放った。
『クソ! 黙ってみてな!』
 不意打ちに連携攻撃を受けてしまったドリームイーターは、攻撃された事によって意識を切り替え、柊にモザイクを飛ばして包み込む。
 ボクスドラゴンの天花は攻撃を受けた主人を見つめたが、事前に言われていた事を守るべくブレスを吐き出した。
 さっと眼鏡をかけて、今までの気だるげな雰囲気を消したリナリアは、やる気に満ちた瞳で爆破スイッチを押す。カラフルな爆発と爆風で前衛の士気を高め、柊の傷を回復させた。主人に感化されたミミックの椅子も鎖状のエクトプラズムを出しながら偽物の財宝をばら撒く。
「自分を変えたいと思うゆえの憧れだろうけど、もうちょっとマシなモノにすりゃいいのに」
 小さく呟いたノチユは光輝くオウガ粒子を放出。前衛の超感覚を覚醒させ、柊の傷を塞いで動きを軽くさせた。
「そんじゃ、その存在狩らせてもらうぜ? 悪いが悪く思うなよ勘違い野郎!」
 首にかけていたヘッドホンを頭へと付け直した空牙が轟竜砲を放つ。
「思春期にあるアウトローへの憧れもあるのでしょうが、それにしても……」
「どこに憧れる浪漫があるのか、私にはサッパリわかりませんがね」
 ノチユの呟きが耳に入ったジュスティシアが溜息を吐きながら前衛にヒールドローンで警護させ、ウィリアムは軽く肩を竦めながら薔薇の攻性植物に黄金の果実を宿させ、薔薇の花びらと共に聖なる光で前衛を進化させた。
『万引きだってカッケーんだよ!』
 自棄になっているようなドリームイーターから再び柊にモザイクが飛ばされ、手足の力を奪う。
「な、なんで、それが格好良いこと、なんでしょうか……」
「それ、黒歴史量産中だかんな」
 ダメージに眉を顰めながら炎を纏った足で蹴りつけると、エンデが嘆息しながら憑霊弧月で汚染。天花は封印箱に入って突撃した。
「万引きなんてただの犯罪ですよ!」
「サイテーにカッコ悪いよ」
 紫緒は喰霊刀を振るい、リナリアは斧を頭上から振り下ろし、椅子が思い切り喰らいついた。
 ノチユが桃色の霧で柊を包み込み、その傷と体の不調を取り除く。すると、中衛の3人の周りに、ウィリアムからオウガ粒子と共に薔薇の花びらが舞い、ジュスティシアからはドローンがつけられた。
「ほら、死角ができてんぜ?」
 空牙の声はすれどドリームイーターがその姿を見失うと、後頭部を殴り飛ばされる。
『!!』
 突然の事に前のめりに倒れそうになったドリームイーターは、足に力を入れてなんとか踏みとどまった。
『俺は格好良いんだよ!』
 ふらふらになりながら叫んだドリームイーターの周りをモザイクが包んで傷を癒す。
「…………」
 自棄になっているようなドリームイーターを悲し気に見つめた柊は、キッと表情を引き締め、スターゲイザーで重力の錘をつけた。
「今の私はいつかの『私』。愛と死を紡ぐ『狂気の翼』」
 柊の表情の変化を見逃さなかった紫緒は、黒い翼を鋭い刃に変え、狂気的な笑みを浮かべながらドリームイーターを斬り刻む。
 天花がブレスを吐き出し、主人のつけた錘に更なる重さを乗せた。
「──さようなら、美しい世界にお別れを」
 エンデが瞬時にドリームイーターとの距離を詰めると、両腕のガントレットに仕込んでいた鋭い仕込み爪で左右からその首をかき切る。
『ガ、ハ……ッ』
 息を詰まらせたドリームイーターは全身がモザイクになって四散した──。

●平和な昼下がり
 ドリームイーターがモザイクになって消えてしまうと、ケルベロス達は肩の力を抜く。
「何で制服借りなかったんだ?」
 違和感なさそうなのに、とエンデが柊に声をかけた。
「え、だ、だって……指輪、外したくなった、から……」
 問われた柊は、頬を赤らめながら、右手で左手を大事そうに握る。
「紫緒も指輪外したくないです♪」
 柊の妻である紫緒は、ここぞとばかりに柊の手に自分の指輪を嵌めている左手を重ねた。
「あー、はいはい」
 眼鏡をはずして、すっかり戦闘前のやる気のない状態に戻ったリナリアが遠くを見つめる。
「ごちそうさん」
 ヘッドホンを外して首にかける空牙がへらっと笑った。
「……大丈夫かな」
 ぽつりと呟いたノチユが、倒れている裕也を確認するべく、ゆっくりと近付く。
 膝をついて裕也を抱き起こし、その顔をじっと見つめて顔色や呼吸を確認した。
「大丈夫そうでしょうか」
 ウィリアムがノチユの背後から覗き込む。
「………ん」
 その時、裕也がぼんやりと目を覚ました。
「かっこよさを求めるなら、別の方法にしなよ」
 ノチユが、ぼそりと呟く。
「?」
 状況が全く把握できていない裕也は、不思議そうな顔で何度も目を瞬いた。
「皆のお手本になるくらい真面目な人の方が憧れちゃいます」
 ジュスティシアがくすり、と小さく笑みを浮かべる。
「???」
 見ず知らずの彼らは一体何を言っているのだろうと、クエスチョンマークを乱舞させた。

 ──彼がこれからどのような生き方をするか、それはまた別の話。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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