気弱な獅子のどう猛な襲撃

作者:青葉桂都

●獅子は豹変する
 秋も深まり、夕暮れになれば寒さを感じるようになってきた。
 とはいえ、レプリカントであるためか、肌をなるべく露出しないようにしている神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)にとっては、過ごしやすい季節になったといえるかもしれない。
 その日、赤く染まった街を、彼女はたまたま1人で歩いていた。
「今日は……ずいぶんと静かですね」
 ふと呟きを漏らし、それから佐祐理は、この道を歩いているのがいつの間にか自分1人だけになっていることに気づいた。
 人通りが途絶えるにはまだ早い時間。
 偶然そうなっただけなのかもしれないが……しかし、嫌な予感を、佐祐理は感じた。
 そして、予感はすぐに現実のものとなった。
 おずおずといった様子で、建物の陰から青いたてがみと黒い体を持つ獅子が現れたのだ。
「あなたは……!」
 そのデウスエクスに、見覚えがある気がした。佐祐理がケルベロスになったきっかけである、あの爆発事故の時に……。
 相手は佐祐理の様子など気に留めることもなく話しかけてきた。
「ねえ……君の心を食べれば僕のモザイクが晴れるような気がするんだ。ちょっとだけ……食べさせてよ」
 どこか弱々しい口調で、ドリームイーターが言う。遠慮がちに……しかし、決して獲物から目を離さずに。
「ば……馬鹿なことを言わないでください!」
 身構えながら佐祐理はデウスエクスの言葉を拒絶する。
「なんでさ……別にいいだろ……。心を食べたってただ君が死んじゃうだけなんだからさあ!」
 一瞬前までの気弱そうな雰囲気が消え去る。
 猛獣のごとく牙をむき出したドリームイーター――アルギエバは、咆哮を上げて佐祐理へと襲いかかった。

●救援要請
 集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はデウスエクスによるケルベロス襲撃を予知したと伝えた。
「襲われるのは神無月・佐祐理さんです。1人で歩いていたところを、アルギエバという名のドリームイーターに狙われてしまうようです」
 急いで連絡を取ろうとしたが、残念ながら佐祐理とは連絡が取れなかったという。
「一刻の猶予もない状態です。神無月さんが無事なうちに、救援に向かってください」
 よろしくお願いしますと、へリオライダーは頭を下げた。
 敵は真っ黒な体ので獅子に似た姿をしているらしい。
 心が欠損しており、心臓あたりにモザイクがあるのではないかと思われるが、前方からは見えない。
「気弱そうな振る舞いをしますが、ドリームエナジーを奪うときにはどう猛なになる、二重人格のような性質を持っているようです」
 もっとも、すぐにも戦闘に入りそうな状態であろう今回は、どう猛な姿しか見ることはないだろうが。
「戦闘になるとアルギエバは爪や牙で心を引き裂き、トラウマを呼び起こす攻撃を行います」
 また、心を揺り動かす咆哮で、範囲にプレッシャーを与えてくることもある。
 威嚇の姿勢を取ることで自らの態勢を立て直し、不利な状態を回復することもできるようだ。
「現場には、神無月さん以外誰もいない状態なので、人払いなどの心配はありません。路上ですので障害物などもないでしょう」
 芹架はそう付け加えた。
「なぜケルベロスのドリームエナジーを狙ってきたのかは不明ですが、いかなる理由があろうと見捨てるわけにはいきません」
 どうか佐祐理を助けて欲しいと、芹架は最後に告げた。


参加者
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)
九鬼・一歌(戦人形・e07469)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)
雑賀・真也(英雄を演じる無銘の偽者・e36613)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)

■リプレイ

●宿敵との対峙
 モザイクのたてがみを持ったライオンの視線を、彼女は強い意志でにらみ返す。
「もう『あの時』のように、ただやられるだけじゃありませんよ!」
 簒奪者の鎌を敵に突きつけて、神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)は告げた。
「あの時? なに、わけわかんないこと言ってるのさ。それより、さっさと食べられちゃいなよ!」
 ドリームイーターは佐祐理のことなど気にもとめてはいなかったらしい。
 現実的に、デウスエクスと1対1で勝つのは精鋭でも不可能だ。どれだけ持つだろうかと彼女は思った。
(「……いざ、こうして出会ってみたら、やっぱり怖いです……」)
 体が自然と震えるのを止められない。
 右目の奥に痛みを感じた。
(「サリー……」)
 心の中で、佐祐理は呼びかける。
 アルギエバが飛びかかってこようとする。
 そこへ、軽やかに1人の女性が飛び込んできた。
「間に合いました……! 佐祐理さん、ご無事ですか?」
 雷の壁を作って牽制しているのは、レプリカントの旅団『レプリフォース』の仲間である槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)だ。
 彼女だけではなく、他にも仲間たちが佐祐理の周囲に布陣する。
 その多くは佐祐理にとって見知った人物だった。
「神無月さん、救援に来ました」
 やはり『レプリフォース』のメンバーであるピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)が、いつものように冷静な口調で告げる。
「槙島さん、ピコさん……助かりました」
 佐祐理が言った。
 そして、とある名医……を目指す男が開いた『奇跡の村』に集った面々もいる。
「大丈夫か、佐祐理? 助太刀に来たぞ」
 夫婦双剣を油断なく構えた雑賀・真也(英雄を演じる無銘の偽者・e36613)が言う。
「仲間のピンチと聞いて颯爽と駆け付けたイチカです。宿敵との戦い、お役に立ちましょう」
 クールな九鬼・一歌(戦人形・e07469)は刀を手に敵へと狙いを定めている。
「昔の偉い人は言いました。隣人を愛せよと……。神無月さんを死なせる訳にはいきませんね……」
 そして、人払いの殺気を放つ死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が前進すると、周囲に『死』の匂いがたちこめる。
「雜賀さんに、九鬼さんと死道さんも……ありがとうございます」
 仲間たちを見回して、佐祐理が礼の言葉を述べる。
「ああもう、ボクはそいつを食べたいだけなのに……なんで邪魔するんだよぉぉぉっ!」
 不機嫌そうにアルギエバが叫ぶ。
「やれやれ……気弱そうにしても、立派な猛獣だな。いや、猛獣型のデウスエクスと言った方が正しいか。佐祐理もとんでもないものに狙われているようだな」
 真也が息を吐く。
「どんな猛獣が狙ってたって、仲間の危機は見過ごせないぜ」
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)が力強く宣言した。
「……同胞が危機となれば、手助けぐらいはさせて貰う。俺の手が届くならば、な」
 宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)は誰にともなく告げると、佐祐理とアルギエバの間に割って入った。
「……助太刀、させて貰う」
 素早い足運びで接敵し、双牙は強靭なる手刀を振り上げた。

●ライオンの心無い攻撃
 ケルベロスたちがしかけるよりも早く、アルギエバの咆哮が轟く。
 物理的な衝撃すら伴うその声は、前衛として接近しようとしていた者たちを打つ。
 刃蓙理がとっさに佐祐理をかばったが、他の者は前進を阻まれ、攻撃の手を鈍らされる。
「なんで邪魔するんだよ……僕はただ、その子の心を食べちゃいたいだけなのに……」
「人のを奪ったってモザイクが晴れるもんかよ」
 ウタは思わず、そう言い返していた。
「自分自身が感じた、自分の心が生んだ想いじゃなけりゃ自分のものになんかなるもんか」
「うるさいなあ……」
 すねた言葉を吐いて横を向く……そうしながらも、アルギエバは確実に隙をうかがっている。
「ふん、まあ夢喰い相手に言ってもしょうがないか。てめぇを倒すことで解放してやるぜ、その終わりがないモザイクを消す彷徨からな」
 ゾディアックソードを構えて、ウタは追撃に備えて地に星の乙女を描き出す。
 力強く描き出したその御手、麦穂を手にしているという真珠星が輝いて、仲間たちを守護する結界を形作る。
 癒しの光で敵の呪縛を打ち破る力を得た仲間たちが、攻撃を繰り出した。
 ドリームイーターの動きは素早く、そのすべてが命中したわけではない。
「ダミー投影開始。パターンは命中支援でランダムに。今のうちに、態勢を整えて下さい」
 ピコが戦場にナノマシンを散布して、仲間たちのホログラムを投影して支援する。
 支援を受けた双牙の飛び蹴りが、重力を帯びてアルギエバの足を止める。
 動きから敵をキャスターだと判断した刃蓙理も、ハンマーから竜砲弾を放って足止めに加わっている。
 アルギエバが佐祐理に牙を突き立てようとして、紫織に阻まれる。
「神無月さんに固執する理由は何ですか?」
 ピコはアルギエバに声をかけた。
 声をかけつつも、ナノマシンを散布して支援する手は止めない。
「うるさいな。別に誰でもいいんだよ。喰らって僕のモザイクが晴れるなら……」
 ぼそぼそと呟くアルギエバに、一歌が混沌の波を放って確実に体力を削る。
「心はそう容易く譲渡できる物ではないと思いますが?」
「なら、確かめてやるよ。お前を喰らってさあ!」
 アルギエバの牙が、前衛を飛び越えてピコに突き刺さった。
 体が牙に引き裂かれると同時に心もまた傷つけられて、ここにはいない人の記憶を無理やりむき出しにさせられる。
 ピコを救い、そして行方の知れなくなった人の記憶。
 その記憶が目の前に現れて、そして彼女を攻撃してくる。
 記憶から引き戻してくれたのは、ウタの歌だった。
 蒼き地球と、そこで息づき歓ぶ生命が体と心の引き裂かれた傷をふさいでくれる。
「……助かりました、木霊さん」
「礼を言われるほどのことじゃねぇさ。同じ旅団の仲間じゃねぇか」
 言葉をかわしながら、歌声にあわせてピコはもう動いていた。
「貴重な体験ありがとうございます。恐らくこれは『八つ当たり』と言われる行動です」
 無表情のまま告げると、ピコはアルギエバの構造的弱点を演算し、そこに炎のような紋様が刻まれた刃を力一杯突き立てた。
「意図が読めませんね。大規模作戦に乗じて仕掛けてきた……のとは、違うのでしょうか」
 紫織が思案しながらも、美しい虹を描いて飛び蹴りを叩き込んで注意をひいた。
「なんにせよ、猛獣にはしっかりとした躾が必要だな」
 真也は異空間から弓を召喚し、右腕に構えた。
「血に飢える電光石火の猟剣よ。その力をもって、敵を亡き者にせよ。喰らいつけ、血に飢える電光石火の猟剣(フルンティング)!」
 左腕に手にしたのは雷鳴をまとう細身の黒い剣。
 矢のごとくつがえた剣を弦が勢いよく押しだして、音速をはるかに超える速度で刃がアルギエバに突き刺さる。
 雷鳴が流れ込み、獅子の体をしびれさせた。
 紫織が刃蓙理やウタの支援を受けながら攻撃を引き付けている間に、真也やピコは敵の動きを縛っていく。
 佐祐理の服の袖が弾けた。真也と連携して、彼女は攻撃を仕掛ける。
「今の私は、二人で一人です! アナタのような心を失った輩に負けるわけにはっ!」
 普段は露出の少ない服装で隠している、機械化した佐祐理の腕が高速で回転する。
 親しい者ならば、佐祐理が自分のうちに『サリー』という人格が宿っていると語るのを聞いたことがあるかもしれない。
 そのきっかけとなる事故を起こしたのがアルギエバだということも。
 回転する腕がアルギエバの体を引き裂いた。
 知り合いではない者たちも、強い因縁があることくらい察することができただろう。
 双牙は佐祐理が離脱した直後、同じ方向から敵へと接近した。
 足止めは十分と判断し、彼は軍靴で地を蹴った。
「紛い物の獅子……この俺の牙が一つ、受けてみるがいい」
 敵に向けて突き出した手刀が空気を切り裂き、狼の咆哮に似た力強い音を響かせる。
 両手を揃えて回転しながら、双牙は敵へと突っ込んでいく。
「旋風の如く疾く鋭く、重ねる刃、巨岩を削り、穿ち貫く――スクリュー・パルバライザー……!」
 今しがた佐祐理がえぐった傷跡を、双牙の手刀がさらに深く切り開く。
 1つの因縁に決着がつくことを願いながら、双牙はさらに攻撃を続ける。
 ピコもその傷口をさらに深くジグザグに切り開く。
 一歌の喰霊刀がクールな美しい軌跡を描き、破れた表皮からアルギエバを深々と切り裂いた。
 まだ、ドリームイーターは倒れなかった。

●欠けたままのライオン
 虹色の飛び蹴りで怒らせ続けたおかげで、アルギエバの攻撃は紫織に向かうことが多くなっていた。
 ケルベロスたちの攻撃を受けながら、ドリームイーターは恐ろしい咆哮を前衛に放つ。
 紫織は傷ついた体を動かし、その咆哮すらも引き受けに動いた。
「耐久性能にあまり自信は無いのですが……守り切って見せます!」
 背後に佐祐理を背負い、魔力を稲妻に変換する杖、 Baculum fulgurから放つ雷で相殺しようとする。
 声と雷がぶつかりあい、そして雷が砕ける。
 後ろから歌声が聞こえてきた。
「あんたの意気込み、俺も支えさせてもらうぜ。あんたにも聴こえるだろ? 地球の歌が。メロディが」
 ウタの声が支えてくれているのだ。
 だが、攻撃を引き受け続けている紫織なや体力はまだ十分ではない。
「悪性異常除去波動構築……完了。『手当て』を開始します」
 自らの傷口に手を当てて、癒しの波動を放射する。
 そうしながらも、紫織はさらに敵の動きを警戒し続けていた。
 刃蓙理も惨劇の記憶から魔力を抽出して回復してくれる。
 双牙や佐祐理、真也やピコ、一歌の攻撃がアルギエバへと突き刺さる。
 アルギエバが一歩退いた。
 身構えて体勢を立て直そうとする敵を、ケルベロスたちが追う。
「今更遁ずらはないだろ。ぶっ飛べっ!」
 ウタが敵を吹き飛ばし、他の者たちもそれぞれに技を繰り出す。
 一歌はその隙に、佐祐理へルーンを刻んだ。
「イチカは佐祐理さんが決着をつけるお手伝いをしに来ました。このルーンはそのための力です」
 一族に伝わる、剣のルーンと癒しのルーンを組み合わせた独自のルーン。
 それは刻んだ仲間の力を高めるはずだ。
「ありがとうございます。必ずあいつを倒して見せます」
 答える声は、普段より少し低めに聞こえた。
 彼女に決着をつけさせたいと願うのも、戦いに際しては余計な感情なのだろうか。
(「それはきっと良くないことなのでしょうが、悪いことだとも思えないイチカです」)
 一歌は心の中で呟いた。
 紫織へとアルギエバが飛びかかろうとする。
 刃蓙理は静かに動き、その攻撃から彼女をかばった。
 体に爪が食い込むが、大地の力で強化しているおかげでまだまだ余力は十分にある。
「二度と……振り向かない……!」
 膝を曲げたのは痛みのせいではない。
 大地に掌を押し付けて、再度その恩恵を授かるためだ。
「助かりました、死道さん」
「……あと少しで終わりですから……こんなところで倒れてもらうわけにはいきませんね……」
 自らを回復しながら、刃蓙理は紫織と言葉をかわす。
「皆、気をつけろ。手負いの猛獣は平常よりも凶暴だ。最後まで気を引き締めていけ」
 真也が呼びかけながら、雷をまとわせた夫婦双剣で敵を貫く。
 貫いた傷跡へ仲間たちの攻撃が貫いていく。
 咆哮がケルベロスたちを打つが、倒れるものは誰もいなかった。
「……人の心を喰らいたいそうだが、貴様が喰らわれる覚悟はあるのだろうな?」
 双牙の拳が敵の生命を吸収する。
 おそらく、あと一撃か二撃で倒せる。
 佐祐理は双牙が自分へ視線を向けたことに気づいた。
 紫織や刃蓙理もこちらを見ている。
 意図はすぐに分かった。
「やっちまえ、佐祐理!」
「さぁ、因縁に決着をつけてやれ」
 後方から、背を押すようにウタや真也の声も聞こえてくる。
「根本的な解決にはなりませんが、必要な事と判断します」
 淡々とした声だったが、ピコもとどめを刺すよううながしてくる。
 一歌が刻んでくれたルーンが、佐祐理に力を与えてくれていた。
「もう私は、あの時の私『たち』じゃありませんよ!」
 右目を見開き、佐祐理は傷だらけのアルギエバを見据える。
 機械の目には距離計測用のレーザーが搭載されている。
 出力を上げれば、それは攻撃用の兵器ともなる。
 計測できなくなるため当てにくいが、ホログラムの分身がそれを補ってくれる。
「『あの時』に事件に巻き込まれた方々の無念、ぶつけさせていただきます」
 頭の中で、『サリー』も同じ言葉を発している声が、佐祐理にだけは確かに聞こえた。
 閉じた左目の裏に『あの時』の光景が一瞬写った。
「Das Adlerauge!!」
 夕闇にレーザーが一閃する。
「僕は……モザイクをはらしたいだけなのに……!」
 そして、まばゆい光はアルギエバを貫き、焼きつくした。

●終焉
 一瞬前までアルギエバがいた場所を、佐祐理は呆然と見つめていた。
「終わりました……」
 放心状態のまま、彼女は呟く。
「ご無事でなによりです、佐祐理さん」
「そうね……間に合ってよかったわ……」
 戦いの間守り続けてくれた紫織や刃蓙理が、佐祐理の無事を喜んでくれた。
「皆さん、ありがとうございます。きっと、私とサリーだけじゃ、倒せませんでしたから」
「宿縁とは不思議なものですよね。仲間の危機に駆け付け、お役に立てたことをイチカは嬉しく思います」
 頭を下げた佐祐理に一歌が言った。
「無念を晴らせて良かったな。あの時に犠牲になった人々、そして君の中にいる魂、サリー……で良かったかな? きっと報われることだろう」
「そうですね。死者が報われるというのは理解しにくい考え方ですが、そうであればいいと私も思います」
 真也がかけた言葉に、少し回りくどい言い方でピコも同意した。
「回りの建物を直していったほうがいいと思うんだが、鎮魂歌を歌ってもいいか?」
「あいつを『送る音楽』なんて……ありません」
 ウタの問いに、思わず佐祐理はそう答えていた。
「そうか……わかった。なら、直すのは後にしよう」
「……すみません」
「いや、気持ちはわかるぜ。気にすんな」
 目を伏せた佐祐理に、ウタは笑いかけた。
(「けど、この地球には沢山の想いや夢が声や音楽が満ち溢れている。いい子守歌になるだろうぜ」)
 心の中で呟き、ウタは沈む寸前の光を見上げる。
「これで一つ、決着がついたのだろうか。何かが、誰かが、良い方向に変わることが出来るのならば、俺はそれでいい」
 また言葉を交わし合い始めた佐祐理と友人たちをながめ、双牙が呟く。
 敵を倒しただけで、心の傷がすぐ癒えるわけではないのかもしれない。それでも、今は同胞が無事であったことを喜ぼうと、双牙は思った。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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