クロム・レック決戦~水底の火

作者:長谷部兼光

●探索作戦・まとめ
 まずは得られた情報を整理しよう、と、一拍置いて、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はヘリポートに集合したケルベロス達を見回した。
 巨大資源採掘基地『クロム・レック・ファクトリア』。伊豆諸島海底部の熱水鉱床で動くそれがダモクレス勢力へと供給する資源量は膨大で、『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半は、ここで採掘されていたと見て相違ない。
 何よりの証拠と言えるのが、ディザスター・キングと彼の軍団が強固に『クロム・レック・ファクトリア』を護衛している事実だ。
「故に、クロム・レック・ファクトリアの撃破に成功すれば、ダモクレス達へ非常に大きな打撃を与えることが出来るだろう」
 更に、伊豆諸島海底部にはもう一基の拠点ダモクレス『バックヤード』の存在も確認された。
 バックヤードの詳細は不明だが、巨大な『環状の門』のような形状から『魔空回廊を利用して、採掘した資源の輸送を担当している』と考えられる。
 バックヤードは巨きな腕型のダモクレスに護られており、指揮官として『五大巧』という、恐らく五体の強大なダモクレスが存在しているようだ。
「仮にこれを放置したとしてもクロム・レックの撃破には何の問題も無いが……」
 此処で接触しなければ、恐らく次の機会は無い。余裕があるなら、こちらに対するアクションも何かしら考えた方が良いだろう、と王子は言った。

●二つの拠点 
 ケルベロスに拠点の場所を知られたダモクレス勢力は『クロム・レック・ファクトリア』の移動準備を開始した。
 遅くても一週間以内に、移動準備の整った『クロム・レック・ファクトリア』は、伊豆諸島海底から姿を消してしまうと言う。
「ケルベロス二名の暴走……すでにこちらは高い代価を払っている。ファクトリアをみすみす逃してしまう理由は欠片も無い。移動が完了する前に終わらせる……短期決戦を仕掛けるぞ」
 クロム・レック・ファクトリアを破壊する為には、内部に潜入してディザスター軍団の防衛網を突破、ファクトリア中枢に侵入して、ディザスター・キングの守る中枢部の破壊を行う必要がある。
 無論敵も『ケルベロスの襲撃を退ければ、撤退までの時間が稼げる』として、決死の防衛を敢行する為、激戦は避けられない。
 ファクトリアの外周部には29箇所の資源搬入口があり、そこから内部に潜入する事が出来る。
 しかし、全ての搬入口が中枢に続いているわけでは無い為、特定の突入口からのみの突入は控えた方が良い。
「ディザスター・キングは、敢えて中枢に繋がる搬入口と、それ以外の搬入口の警備を等しくすることで、ケルベロスの戦力を分散させる作戦をとっている。警備の様子などから当り外れの判別は不可能。こればかりは運だな。中枢への道を引き当てるのは数十分の幾つか……そんな確率だ」
 中枢に繋がる搬入口以外も、ディザスター軍団のダモクレスによって堅く守られており、敵を撃破して実際に探索してみるまでは、その搬入口が中枢に続いているかどうかを確認する事も出来ない。
 複数チームが一つの搬入口から進行した場合、道中は楽に進めるが、その搬入口が中枢に続いていなかった時はディザスター・キングとの戦いに参加できる戦力が低下してしまう危険がある。
 もう一拠点・バックヤードに関しては先の通り、『二本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されている為、内部に取りつく為には巨大腕型ダモクレスと戦うニ班と、バックヤード内部の探索を行う一班、最低でも三班で進攻しなければ、内部の情報を得る事も不可能だ。
 また、バックヤードには探索活動中に暴走した二名のケルベロスが捕縛されている可能性が高く、探索に成功すれば、二人の救出にもきっと手が届く。
 新たな情報と仲間の救出。バックヤードを探索する価値は大いにある。が、今回の目的はあくまでもクロム・レックの撃破だ。バックヤードに戦力を投入した場合、必然その分だけファクトリアの撃破難度は上昇する。探索するのなら戦力配分には気を払うべきだろう。
「何処の勢力も、大きく動き出しているな……だが、怒涛のようなその勢いに呑み込まれるなよ。必ず生きて帰ってこい」


参加者
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)

■リプレイ

●13番搬入口
 搬入口に辿り着いたケルベロスを出迎えたのは、警備兵達の熱烈な歓迎……無数の銃口だった。
 一斉に放たれる弾丸。ケルベロス達はあえて弾雨にその身を曝し、走る。怯み退く理由は無い。この攻防は、前哨戦ですら無いのだから。
 時間を掛けてはいられない。迫り来る敵を一機叩き、二機撃ち、三機潰し、そして、
「魚型のダモクレスが地を泳ぎ、海中では人型が守備に就く……逆じゃないかい? 海底基地があるというのに……扱いが悪いなぁ」」
 ドレッドノートで邂逅した古代魚(しにがみ)型の兄を思い出し、千歳緑・豊(喜懼・e09097)は苦笑した。
 今回着用する橙色のウェットスーツは言わば彼の形見だが、此処で一緒に戦えば、地上で戦うしかなかった彼の無念も少しは晴れるだろうか。
(「けど、ちょっとばかり気恥ずかしくてね。上からシャツを羽織るのは、許しておくれよ」)
 リボルバー銃・雷電の打ち出した炎弾が、最後に残った警備兵の悉くを喰らいつくす。
「……さて、海の底まで来た甲斐はあるかな?」
 敵のいなくなった搬入口。豊は軽妙な口ぶりで皆にクリーニングを施し、海水と機械油を払い落した。
「ああ。ダモクレスの攻勢に制限をかける重要な作戦だ。是非、成功させねばな」
 言いながら、決して気は抜かず。鋼・柳司(雷華戴天・e19340)は周囲の警戒を怠らない。
 あらゆる方位を睨むが、現状では奇襲、増援の気配は感じない。ならば歩を進めるべきだろう。
 周囲の安全を確認した柳司は、先行役の一人であるレスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)へ『前進』を意味するハンドサインを送った。
 此処より先は、只管静かに。

 妖しいと思えば全てが妖しく見えてくる。
(「ダモクレスが何を考えてるかわからないけれど、野放しにはしておけない」)
 危険度の高い任務だ。最後まで気は抜けない。
 探索開始より暫く。光翼をゆらし僅か浮遊しながら先行するレスターは、ペイルライダーのトリガーに指を置き、都度発見した何かの部屋らしき空間や、待ち伏せが容易そうな曲がり角を覗き込む。
(「他班も今、きっと死地に臨んでる。俺も狙撃手のプライドをかけて挑むよ」)
 逃げ隠れ潜む仕事はレスターの得手とする所。得意分野でダモクレスたちに先手を取られるわけにはいかない。
 床や壁面と接触しないように努めるレスターとは正反対に、もう一人の先行役・樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)はファミリアロッドの先端で、あちらこちらを軽く叩きながら移動する。
 杖に叩かれた床や壁が返すのは一定の反響音。高性能暗視ゴーグルも使用してみるが、特別変わった仕掛けは見当らない。
(「けど、このまま何もない、なんて事は絶対ないだろうしな……」)
 班の進行速度は杖を突いて歩く老人のそれだが、此処は詳細不明の敵の基地。出せ得る限りの最高速だ。
(「お化け屋敷じゃあるまいし、出てくるのならもったいぶらずにさっさと出てきて欲しいの……!」)
 相棒のミミック・スームカに左方の見張りを任せ、フィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)は右方の壁面に視線を向ける。そして、不意に見つけたのは赤色の大きな突起。フィアールカは皆にサインを送り確認した後、豊の射撃と共に突起へ衝撃波を打ち込んだ。突起は見事に壊れたが、何のリアクションも返さない。ブラフだ。
(「ある程度奥深くまで誘い込むつもりなのかなー?」)
 朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)は床、壁、天井を調べる金色の瞳を一旦瞑った。
 搬入口は既に遠く、此処から全速力で引き返すとしても相応の時間がかかるだろう。
 かと言って通路に続く路か否か判別するまで探索をやめる訳には行かない。
 念の為スプレーを持参したが、使うタイミングは無さそうだ。
 結局敵の思惑に乗るしかない悪辣さ。口の開いた蟻地獄に自ら滑り落ちて行ってる感覚だ。
(「まるで、あみだくじの上でも歩かされているよう」)
 メルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)は皆の背を庇うように自身の翼を大きく広げ、後方を警戒する。
 響くのはクロムレックの駆動音。後方に広がるのは大きな虚空。それでも武器は手放せない。平穏『だからこそ』恐ろしい。この平穏は、本来あるべきものでは無いのだ。
(「蓬莱、後ろは任せたんだよ。皆を守って!」)
 円谷・円(デッドリバイバル・e07301)は自身の相棒、ウイングキャットの蓬莱に後方の見張りを任せる。その耳の良さに期待していますよと、蓬莱は同じく後方を護るメルカダンテに優しく撫でられ、まんざらでもなく小さい一鳴きを返した。
 蓬莱に背を預けた円が、再び前方に眼を戻したその瞬間、先行組は『止まれ』のサインをチームメンバーに飛ばす。
 互いのリアクションを見て、正彦とレスターは確信する。
 杖が返した反響音。空気の流れ、クロムレックの駆動音に紛れた幽かな異音。それらが意味するところはつまり。
 ケルベロス達は一所に固まり、死角を塞ぐ。
 おかしいのは上か。下か。右か。左か。

●急襲
 あらゆる方位の床・壁面が口を開け、多数のダモクレスを吐き出した。恐らくは指揮官機体であろう、強襲兵士を想起させる武装を纏う個体の指揮の下、出現した機械たちがケルベロスを包囲し、蹂躙しようとする。
 しかし刹那、大きな爆発音ともに発生した菫色に煌めく煙幕が、彼らの視界を遮った。
「奇襲か。厄介ではあるが……」
 フィアールカが巻き起こした爆風、そのベールの奥深くで迸るのは雷華。
 魔導回路を運用し放つ魔導発勁に真髄を置く異形の拳法・雷華戴天流。
 勁を込めた柳司の機械腕、その指先は白刃の如く菫を割って、一息に数体のダモクレスを撫で切った。
「想定の範囲内でも有る」
 柳司の心は動揺一つ無く、至って平静だ。拳が通じるのなら、然したる問題は無い。
「何のことは無い。キミ達は万全の警戒網に突っ込んできたんだ。数を頼みに一気にカタを付けるつもりだったんだろうけど、もう少し……臆病になるべきだったね」
 指揮官機の単眼が明滅すると、機械達は銃を構え、四方からケルベロス達を蜂の巣にしようと動き出す。
 だが、弾幕の一角を掻い潜ったレスターは二丁のバスターライフルのトリガーを同時に引く。ライフルが放射した魔力は渦となって機械達を飲み込み、
「済まないね。けど、これでも急ぎの身でね。私達は、もっと先へ行かなければならないんだ」
 豊はそこへ容赦なくミサイルの雨を叩き込む。
 臆病なほど慎重に立ち回ったケルベロス達。その臆病さが、こちらとあちらの不利と有利を一気に入れ替えたのだ。
「円、そういえば君とこうやって話すことなかったな?」
 突進してきた指揮官機のナックルガードを無理矢理受け止めて、正彦はガジェットを鞭の形に組み替える。
 通路の仕掛けに驚きはしたが、それでも軽口を言うだけの余裕はあった。
「そうだっけ?まぁそんな事どーでもいーじゃん! ほら、敵くるよー!」
 正彦の言葉に、円は屈託なく応答する。この状況下でごくごく日常のやり取りをするのが何処か可笑しくて……自然に、お互い笑みがこぼれた。
「そうだな――続きはこいつらを倒してからだ!」
 毅然と機械達へ相対した正彦は彼らを鞭で打ち据え、円は桃色の霧で正彦を包み、その刀傷を癒やした。
 ――ケルベロスの攻勢が、スクラップの山を築く。

 蓬莱のヒールを受けた環は漆黒の巨槌を振るい、思い切り量産機をすり潰す。
 槌と壁に挟まれ歪んだこの個体の沈黙で漸く量産機は全滅し、後に残るのは指揮官機一体。
「誰であれ逃すつもりありませんよ。自分が仕掛けた蟻地獄に殺到してくれるなら丁度いいです。纏めて鉄屑にしますから!」
 壁面にめり込んだ逆鬼祓から手を離した環はそのまま指揮官まで距離を詰め、彼の拳を受けながらも降魔宿す蹴撃で交差し、その命を削り取る。
「この路は当たりなの? 外れなの? どっちなの?」
 スームカがガブりと噛みついて捕縛した指揮官機の単眼を、フィアールカは問いただすようにその紫眼で覗き込む。指揮官機は想定通りに沈黙を貫き、問答無用を悟ったフィアールカは不可視の衝撃波を彼の急所に打ち込んだ。
 限界が近いのだろう。不自然な律動を繰り返す指揮官機はそれでも直剣を振り被り、しかし、
「頭が高い」
 故に跪け、と、メルカダンテの持つ日本刀・軛から放たれた凍結弾が、彼の時間を永遠に止めた。
 ……これで奇襲を仕掛けた全ての機体を退けたことになる。
 思いのほか消耗も少なく、このまま探索を再開しようと互いの意思を確認した。
 その瞬間。
 光が。
 通路を埋め尽くす。

●紺碧の城塞
 これは巨大な熱線だ。咄嗟に前へ出たフィアールカと環は正彦とメルカダンテを庇う。光が引いた後、辺りを見回せば、あれほどあった機械達の骸は消失し、通路の前方を新しいダモクレスが塞いでいた。
 この機体は今までの敵の比ではない。そう直感したフィアールカが、オウガメタルから明けのオーロラの如き粒子を後衛へ放出し、環は再び黒槌――逆鬼祓をダモクレスに叩きつける。
 ……硬い。大量に積載された重火器類。戦車、あるいは城塞(ルーク)の如きその威容、その装甲は立ち回りによって増幅され、何よりボディを彩る紺碧のカラーリングが、彼が特別な機体であることを雄弁に物語っていた。
「敵性反応ヲ確認。直チニ排除ヲ開始スル」
「これはどうも。素敵な自己紹介をありがとう」
 声音を聞いただけで即座に理解できる。これは話の通じる相手では無い。
 豊は五つ目長尾、地獄の炎で出来た『走狗』を呼び出し、紺碧へけしかける。
 紺碧は走狗に邪魔されながらも、いや、邪魔されたからだろうか。まるで通路など目にも入らないと言わんばかりに、無限生成されるミサイルでケルベロスごと周辺一帯を爆撃する。お構いなしだ。ヒールで事後癒せるのならば『それもあり』なのだろう。
 ミサイルにはミサイルと、正彦は幽かに震える腕を気合で抑えつけ、ファミリアロッドを差し向ける。
「心拍数上昇、瞳孔の拡大ヲ検知。敵対象ハ『恐怖』シテイルト推定」
 図星だった。だが正彦は、それがなんだと狂を発して嗤う。
 そうだとも。今回は、臆病者が最後に笑う闘いだ。
「さて、僕の戦争に付き合ってもらおうか?」
 有無は言わせない。正彦が魔法の矢を大量射出すると同時、
「俺も付き合う。『先行役』のよしみってヤツだ」
 レスターがペイルライダーに地獄を纏わせ、紺碧に撃ち込む。
 複数の攻撃を受け止めた紺碧はじりじりと後退し、ケルベロス達はゆっくりと前進する。
「案内していただけませんか、此処の王の許まで」
「否」
 メルカダンテの言葉に、紺碧は即座拒否をする。先程の指揮官機もそうだった。『王』に対する忠誠心は、敵ながら見事と褒めるべきなのだろう。
 だが、無辜の民を傷つけ無ければ生きてはいけないデウスエクスのその性質。捨て置けぬ。
「そう。なら――誰もいなくなる」
 幕間もまた嗤い声をあげると、柳司は一際大きく踏み込み跳躍し、重力を収束させた足刀で紺碧の城塞をさらに通路の奥へ奥へと押し込んだ。が、不意にぴたりと行き止まる。
 紺碧の背後を見れば、そこには、壁。
「終点……か?」
 柳司が呟く。基本的には一本道だった。隠し通路の類を見逃してるとも思えず、つまりは……。
「うーん……どうやら外れを引いちゃったみたいだね……」
 円はここに眠る惨劇の記憶から魔力を抽出し、前衛を癒すと、バツが悪そうに苦笑した。
 事実が判ったとしても、撤退に転じる訳にいかない。紺碧から背を向ければその時点で消し炭だ。どうあれ倒して帰るしかない。
「自分の退路(みち)は自分で切り開け! ……そういうことだよね」

●陥落
 とにかく、硬い。戦況が動いている気がしない。老人の速度でも、一歩一歩確実に前進していたと実感できる道中の探索が懐かしく思えた。
 ……だが、敵の体力とて無尽蔵では無い筈だ。
「強ち外れでは無かった。君と戦っているとそう思えるよ。皮肉じゃなくね」
 豊の早撃ちがついに城塞の装甲に銃弾分の穴を空け、それを好機とケルベロス達は総攻撃を仕掛ける。
「一気に装甲を剥がすわ! 行くわよスームカ!」
 フィアールカが闘気を腕部にみなぎらせ、放った螺旋の一撃はさらに紺碧の装甲を抉り、続いてスームカが具現化した武装を露出した躯体へぶつけた。
「私の『狂気』ごと全部!くれてやりますっ!」
 スームカのエクトプラズムと共に、環は獣化させた両手足に先程喰らったばかりの魂を纏わせ筋力を強化し、本能のまま乱れ舞う。
「さぁ……大詰めだ」
 紺碧の装甲を殴り続けた柳司の機械腕が軋む。だが後一撃。
 乱舞の終焉。その間隙を縫い、柳司の手刀は弧月に閃き城壁を貫通する。
 綻ぶ城壁。正彦が繰る十一のゾディアックソードは流星の如き速度で紺碧を射抜き、その巨躯を通路壁面に貼り付ける。残る牡牛の一太刀と、
「逃がすつもりはない」
 メルカダンテの灼華炎脚が重なって、星辰は陽と見紛う程に輝いた。
 星明りの下で、円の作り出した桃色の霧が朧に霞む。その霧は、あらゆる不調を取り除き、癒すもの。
 霧が晴れ、レスターの顔の右半分に浮かび上がるのは紋章の入れ墨。特殊な呪文が刻まれた魔弾を放ち結界を巡らせ――準備は整った。
 しかし紺碧の銃口が、レスターを睨む。このままいけば良くて相打ちか、けれど勝機は逃せない。
 だから……レスターは仲間を信じる事にした。
「狙撃目ヒョウ・敵胸部・心臓・中央」
 魔弾は縦横無尽に宙を駆け抜け紺碧に迫り、紺碧の光線は一直線にレスターを目指す。
 瞬刻。
「――ここがデッドエンドだ!」
 果たして魔弾は紺碧の頭部を貫き。
 紺碧の光線は――蓬莱が、レスターの代わりに受け止めた。

 クロムレックが揺れる。
 中枢に到達したチームがキングの撃破に成功したのだろう。
 ケルベロス達は入口へと走る。
「戻りましょう、地上へ」
 探索時とは反対に、メルカダンテが皆を先導し、
「スームカ―! こっちなのー!」
 フィアールカはスームカを抱き寄せ、
「とりあえず、帰ったら焚火だな」
「あー良いね。途中でお魚とか捕まえて帰る?」
「そうなると超美味しいたくあんとか欲しくなりますねー!」
 正彦の冗談に円が乗りかかり、さらに環が食いついた。
「海の藻屑と散るには未練がありすぎる! まだ読んでない本もあるしね」
「未練か……そうだな」
 レスターの言に頷く柳司。その脳裏に過るのは、一人娘の後ろ姿。
「弱ったね。水に濡れるのは極力避けたいところなんだけれど……」
 走りながら、豊がクロムレックの最期を見た。
 全てが海に呑み込まれ、消失する過程の真っただ中。自分達はそこに居る。
 ――来た時よりも随分と、ドラマチックな家路になりそうだ。

作者:長谷部兼光 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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