クロム・レック決戦~進むべき道、待ち受ける者

作者:洗井落雲

●英雄たちの帰還と決戦の道標
「集まってくれて感謝する。では、今回の作戦について説明しよう」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達へ向けて、そう言った。
 クロム・レック・ファクトリアの探索に向かっていたケルベロス達が帰還した。
 2名のケルベロスが暴走しての撤退という結果ではあったが、しかし得られた情報は、非常に有用な物であった。
「伊豆諸島海底部の海底熱水鉱床で、多くの資源がダモクレス勢力によって奪われていた事が判明したのだが、この採掘を行っていたのが、『クロム・レック・ファクトリア』という資源基地だ。そしてその護衛として、『ディザスター・キング』率いる『ディザスター軍団』の姿があったようなのだ」
 あのディザスター・キングが直接防衛指揮をとっている事からも、クロム・レック・ファクトリアが、ダモクレス全軍にとってもかなり重要な拠点である事は間違いないだろう。
「クロム・レック・ファクトリアが採掘した資源量は、概算だが、『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半はここで採掘された、と考えて間違いない程の物だ。だが、規模が大きい分、ここを攻略できれば、ダモクレス達へかなりのダメージを与えることができるはずだ」
 また、クロム・レック・ファクトリアとは別に、伊豆諸島海底部に、もう一基の拠点ダモクレス『バックヤード』の姿も確認されたという。
「このバックヤードについての詳細は不明だ。巨大な『環状の門』のような形をしていることから、どうやら『魔空回廊を利用して、採掘した資源の輸送を担当している』……と考えられるが……」
 現在、バックヤードについて判明している情報は、このバックヤードには『巨大な腕型のダモクレス』の存在が確認されているという事、そして指揮官として『五大巧』という、恐らく五体の強力なダモクレスが存在している、という事の二点である。
 さて、ケルベロスによって拠点の場所を暴かれたダモクレス勢力は、クロム・レック・ファクトリアの移動準備を開始したようだ。
 遅くても一週間以内に、移動準備の整ったクロム・レック・ファクトリアは、伊豆諸島海底から姿を消してしまうだろう。
「このままクロム・レック・ファクトリアが移動してしまうのを見過ごしてしまっては、皆が手に入れてくれた情報が無駄になってしまう。よって、クロム・レック・ファクトリアが移動する前に、クロム・レック・ファクトリアを攻撃する作戦を行う事になった」
 クロム・レック・ファクトリアを破壊する為には、内部に潜入し、ディザスター軍団の防衛網を突破。ファクトリア中枢に侵入し、ディザスター・キングの守る中枢部を破壊しなければならない。
「敵も、クロム・レック・ファクトリア撤退までの時間を稼ぐため、必死の覚悟で我々を迎撃してくるだろう。かなりの激戦が予想される。危険な作戦だが……皆の力を貸してほしい」
 そう言って、アーサーは頭を下げた。
 肝心の作戦についてだが、クロム・レック・ファクトリアの外周部には何か所かの資源搬入口が存在する。まずこの搬入口より侵入、中枢へと向かう事になる。
 しかし、全ての搬入口が中枢に続いているわけでは無い上、どの搬入口が中枢に続いているのかは不明だ。敵は全ての搬入口の警備戦力を均等にすることで、どの搬入口が重要なポイントであるのか、外からは分からない様にしているという。
 戦力を分散し、一つの搬入口に一つのチームが侵入し、少数でも確実に中枢へと到達させるか。または戦力を集中し、複数のチームで一つの搬入口から侵入し、中枢で待ち受けるディザスター・キングと戦う人数を増やすか……どちらにも、メリットがありデメリットがある。どのように侵入するかは、ケルベロス達の判断に任されているのだ。
「クロム・レック・ファクトリア内部には、ディザスター軍団のダモクレス防衛部隊が展開している。連中は、まず待ち伏せなどの奇襲攻撃で皆を消耗させ、最奥に集結させた有力な戦力で皆を待ち構え、攻撃するつもりのようだ」
 その為、隠し部屋などに潜んでいる敵の奇襲を察知して素早く撃破し、道中の損耗を避ける必要があるだろう。道中での被害が少なければ、それだけ最奥に待ち受けるダモクレスとの戦いが有利に運ぶ。
 そして、最奥に待ち受ける防衛部隊を撃破後、もしその通路が中枢に繋がっていたならば、そのままディザスター・キングとの決戦に突入する事になる。ディザスター・キングとは、中枢に到達した全てのチームで協力し、戦う事になる。
「それから……今回はクロム・レック・ファクトリア以外に、バックヤードへの攻撃を行う事もできる」
 しかし、バックヤードへの攻撃を行ったチームがいた場合、その分クロム・レック・ファクトリアを攻撃するチームが減ってしまう事になる。
「バックヤードは『2本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されている。だから、バックヤード内部に侵入するためには、巨大腕型ダモクレスと戦う2チームと、バックヤード内部の探索を行う1チーム、最低3チームが必要になるんだ」
 また、バックヤードには『探索活動中に暴走した2名のケルベロスが捕縛されている』可能性がある。バックヤードの探索に成功すれば、この2名のケルベロスを発見、救助することができるかもしれない。
「可能であればバックヤードを探索し、消息不明の仲間の行方を探りたい所だが……クロム・レック・ファクトリアを取りのがしてしまう可能性もある。戦力の配分は、皆の判断に任せるよ。皆の無事と、作戦の成功を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)
アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)
ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)

■リプレイ

●潜入、深海のファクトリア
 深い、深い海の底を、ケルベロス達は行く。
 クロム・レック・ファクトリアへの攻撃を決定したケルベロス達は、同施設が存在する海域、その深海へ向けて、ゆっくりと、潜水していった。
 美しく、或いは暗く。深度によってさまざまな姿を見せる海の姿は、ケルベロス達の目にどう映っただろうか。これより戦いに臨む緊張、それを和らげるような楽しさを、もしかしたら与えてくれたかもしれない。
 さて、海底に到着し、しばし進めば、ケルベロス達の目には、巨大な建築物が写り込んだ。
(「クロム・レック・ファクトリア……このような基地が作られていたとはのぅ。わらわ達は資材の調達を阻止したつもりじゃったが、それ以上に、ダモクレスは動いておったんじゃな……」)
 その威容を見ながら、ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)は内心で呟いた。しかし、圧倒されてばかりはいられない。
 ミミを気遣うような視線を、テレビウム『菜の花姫』が投げかけた。そんな菜の花姫に、ミミは優しく頷いて、大丈夫、と伝える。
 ミミは決意を新たに、ゆっくりと泳ぎ始めた。仲間達もそれに合わせて、進んで行く。
(「15番目……ここですね」)
 ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)が呟く。
 ケルベロス達が確認した、15番目の搬入口。ここが中枢へと繋がっているのか否かは、進んでみなければわからない。
 ウィッカが、仲間達へ視線を投げかけた。仲間達は、それへ頷きを返す。
(「クジ運勝負上等ですよー」)
 レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)は笑顔で、ぐっ、と親指を立てた。
 仲間達の意を受けたウィッカは、搬入口の扉を開いた。その先には水没した小部屋があり、そこに入ると、システムが作動し、排水を行った。
 排水が終ると、部屋に明かりがつく。続いて、内部へと進む扉のロックが解除された。その扉を開くと、奥へと進む通路へが確認できる。
「ふぅ……まずは潜入成功か」
 身体についた水分を払いつつ、月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)が言った。宝のナノナノ『白いの』も、体をぷるぷると震わせ、水滴を飛ばしている。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか、って奴だな」
 楽しげに、ニヤリと笑みを浮かべながら、峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)が言った。宝へと拳を突き出し、
「頼りにしてるぜ」
「ああ」
 宝もまた、拳を突き合わせる。
「おっと……お前もだ。頼むぞ」
 宝は『白いの』を撫でた。「ナノ!」と、『白いの』は声をあげ、頷いた。
 ファクトリアの通路を、ケルベロス達は進んだ。最大限の注意と警戒を払い、先へと進んで行く。
「……隠し扉、だな」
 空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)が、壁を撫でながら、呟いた。一見すれば何の変哲もない壁であるのだが、モカが良く触れれば、僅かな段差が感じ取れ、床には擦れたような跡が見える。恐らく開閉の跡だろう。
 モカがゆっくりと、僅かに扉を開く。中には、3体のダモクレスの姿が見えた。武装し、辺りを警戒している様子である。こちらの出方を窺っているのだろうか。
「やるか?」
 嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)が、静かに尋ねた。
「もとより向こうは、こちらを奇襲するつもり……だったら、先手を打つのにデメリットはないな」
 モカの言葉に、タツマはゆっくりと頷いた。
「という事だ。考えてみれば、俺達はお客様だってのに、家に入る時にチャイムを鳴らし忘れた。これは不作法だ」
 タツマはそう言って、笑った。牙をむき出しにした肉食獣の如き笑み。
「今更だが――盛大にならしてやるか。チャイムをな」
「いいぜ。やるか」
 アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)が頷く。アルトの頭に乗っていたウイングキャット『アイゼン』が、びっくりしたような顔をすると、慌てて飛び降り、アルトの足元に隠れた。
 ケルベロス達が構える。タツマは扉の前に立つと、力強く、その扉をけ破った。
 同時に、部屋の中にケルベロス達がなだれ込む。内部に居たのは、コンバットナイフと小型の打突機能付きシールドを装備した近接兵装のダモクレスが2体と、アサルトライフルと肩部キャノンを装備した、遠距離兵装のダモクレスだ。ダモクレス達は奇襲するつもりが立場が入れ替わった事に慌て、浮足立っている。
「すまんが、悠長にお主らの相手をしている時間はないのでな! 一気に決めさせてもらうぞい!」
 ミミが叫び、問答無用の竜砲弾をぶっ放す。爆炎と衝撃が、近接ダモクレスを強かに吹き飛ばした。噴煙を切り裂くように、菜の花姫のテレビフラッシュが放たれ、ダモクレスを撃ち貫く。
 慌てて立ち上がった近接ダモクレスに、宝と雅也の攻撃が殺到した。宝の放つ鎖がダモクレスをがんじがらめにし、
「雅也!」
「おうっ!」
 応じた雅也の斬撃が、動きを止められたダモクレスを真っ二つに叩き切った。
 相棒を沈められ、狼狽する近距離ダモクレスへ、突き刺さったのは、ウィッカの流星の如き鮮やかな蹴りの一撃だ。
「冷静さを欠けば、敗北に直結します」
 静かに、冷たく言い放つウィッカ。足を止められた近接ダモクレスの腹部が、オウガメタルの腕でぶち抜かれる。
「まぁ、学んだ所でもう遅い」
 言いながら、タツマがその腕を、ダモクレスの腹部から引き抜くと、ダモクレスはそのまま地に倒れ伏し、活動を停止した。
「あなたで最後だ」
 モカが言い、放った無数のミサイルの群れが、残る遠距離ダモクレスへと殺到した。次々と着弾、爆発するミサイル。遠距離ダモクレスがたまらず、顔を守る様に手をかざすのへ、
「食らって吹っ飛べ!」
 アルトの放つ竜砲弾、そしてアイゼンのリングが突き刺さり、言葉通りに吹っ飛ばされる。
「レピちゃーん、スラーッシュ!」
 追撃の、レピーダの斬撃が決まった。遠距離ダモクレスは活動を停止。激しく火花を散らしながら、地に横たわる。
「レピちゃんたちの、大勝利!」
 ぴっ、とポーズを決めるレピーダ。
「初戦は快勝……でも、まだまだ前座、か」
 アルトの言葉に、ウィッカが頷く。
「まだまだ油断は禁物です。気を引き締めていきましょう」
 その言葉に、ケルベロス達は頷いた。
 ケルベロス達の進軍は続く。
 トラップ、奇襲……ケルベロス達の消耗を狙った敵の攻撃は苛烈ではあったが、ケルベロス達はそれを耐え、時に逆に利用し奇襲をし返すことで、突破していった。
 待ち受けるディザスター軍団たちは、決して弱兵と言える存在ではなかったが、それでもケルベロス達は果敢にこれらを撃破、進行していく。
 そしてその果てに、ケルベロス達は一体のダモクレスと遭遇する事になった。

●災厄の騎士
 ケルベロス達の前に立ちはだかったのは、一体のダモクレスである。白銀のボディに巨大なる刃。ここに来るまでに対峙してきた敵とは、異なる装備と外見を持つ一体。
「見た目からして違うな……これがこのルートのリーダータイプか」
 モカが呟く。モカの察した通り、この個体が、このルートを守る最後の敵なのだろう。そのシリーズ名は『ディザスター・ナイト・FA』。ディザスター軍団配下の量産型ダモクレス、その中でもエースクラスとしてチューンナップされた、強力な個体である。
「ケルベロス。ここがお前達の行き止まりだ」
 目にあたるゴーグル部分から青い光を漏らし、ナイトが機械的な声をあげる。
「悪いな」
 タツマが言った。
「行き止まり……そういう奴には、片っ端から風穴を開けて通ってきた」
 言って、構える。合わせるように、仲間達も一斉に武器を構えた。
「よかろう。我が体、風穴を開けられるのなら開けてみよ」
 ナイトは右手のブレードを振りかざした。
「人の命は地球の命! 地球の命はファンの命! 誰しもが持つ可能性の光、貴方方に奪わせはしません!」
 レピーダが声をあげる。それを合図にしたように、ナイトが目にもとまらぬ速さで接敵。ブレードを振ると、無数の衝撃波が発生し、ケルベロス達に降り注いだ。
「やるのう! じゃがっ!」
 跳躍して逃れたミミが、竜砲弾を連発する。左手をかざし、ナイトが受け止めつつ移動。
「菜の花姫は援護をよろしくじゃ!」
 ミミの言葉に、菜の花姫は頷き、応援動画を再生し始める。
「避けたり隠れたりは性に合わねぇ! これまでのうっ憤、晴らさせてもらう!」
 雅也が跳躍。刃を振りかざし、ナイトへと一気に斬りかかった。ナイトが右手のブレードでそれを防ぐ。同時に、
「相手は『俺達』だ」
 懐に潜り込んでいた宝が、炎を纏う蹴りを見舞う。炎が斬撃のようにナイトの体を切り裂く。ナイトはたまらずブレードを振るい、二人を振り払った。距離を置いて着地する二人へ、
「ナノナノ!」
 『白いの』が声をかけ、雅也へとバリアを展開する。
「さんきゅ!」
 雅也の礼に、『白いの』が声をあげた。
「……出し惜しみをして勝てる相手ではなさそうです」
 ウィッカは呟き、魔剣を取り出した。魔術文字の刻まれたそれを携え、一足飛びに距離を詰める。
「黒の禁呪を宿せし刃。呪いを刻まれし者の運命はただ滅びのみ。『魔剣葬呪・黒の滅印【改】(ブラックペイン)』……!」
 言葉とともに突き出される刃が、ナイトの装甲を抉った。途端、傷口より五芒星の魔法陣が浮かび上がり、魔剣に込められた呪いが発動する。対象を穿ち、抉り、蝕む、死の呪い。
「……!」
 ナイトが息をのみ、飛びずさった。傷口のナイフを抜き去ると、忌々し気にウィッカへと視線を送る。
「よそ見するんじゃねぇぞ!」
 強襲するタツマの拳が、ナイトの左腕のシールドに突き刺さった。激しい金属音が鳴り響き、ナイトのシールドにひびを入れる。
「耐えられるか、この颱風(タイフーン)に!」
 モカは両の手に刃を出現させた。同時に、強風が吹くほどの速度で激しく踏み込み、跳躍し、駆け、まさに颱風のごとく嵐のような斬撃を見舞う。
「行くぜアイゼン、全力で皆を守るぞ!」
 その隙に、アルトとアイゼンは、オウガ粒子、そして清浄の風を吹き、仲間たちの傷を癒していく。
「イアイ・バスターっ!」
 レピーダの斬撃がナイトの装甲を抉る。後方へ退避するナイトは、くるり、とブレードをかざした。途端、ブレードに高出力のエネルギーが注がれ、激しい光とスパークが迸る。
「目標の脅威度、高に修正。全出力を武装へ。最大兵装を以て排除を行う」
「それって――」
 レピーダの言葉に、
「お前たち風に言うならば――奥義を食らえ」
 言って、刃を振るった。解き放たれた光とスパークが、激しい熱と電撃となって、ケルベロス達の体を強かに打ちのめした。視界が明滅するほどの衝撃。激痛が身体を駆け巡る。
「く……うっ……まーちゃん……っ!」
 痛みに耐えつつ、ミミが叫んだ。呼び出された猫のぬいぐるみは、グラビティを受けて徐々に巨大化、ナイトへと向かい、その身体を圧し潰す。
「耐えてくれ、皆……俺が、俺が治す!」
 叫び、アルトはエクトプラズムを放った。それはケルベロス達の肉体、その傷口を覆い、ふさぐことで治療とする。
「雅也!」
「うおおおおおっ!」
 宝が叫び、雅也が吠える。雅也の刃より生み出された炎は、ナイトへと襲い掛かり、逃げようとしたナイトを、宝の縛鎖が絡めとった。
「おのれ――」
 忌々し気に言うナイトの体を、雅也の炎が包みこむ。高熱に包まれるナイトの体に、次に突き刺さったのは、ウィッカの氷の光線である。
「これには、耐えられないでしょう」
 静かに――ウィッカが呟く。炎と氷。二つの攻撃を受けたナイトの体は、至る所に亀裂が発生していた。ダメージが限界をこえ、崩壊しようとしている。
「よう、約束したな。風穴をぶち開けるって。ありゃ嘘だ」
 タツマはそう言って、ナイトへと拳を叩き込んだ。拳に握り込まれていたのは、圧縮・結晶化したグラビティであり、それは衝撃により、内に蓄えたエネルギーを一気に爆発させる。
 それは、文字通りにぶち込まれたナイトの体の内側で、エネルギーを爆発させた。
「粉々にぶち壊す――そうする事にした」
 タツマの言葉通り――ナイトの体は粉々に爆発四散し、その活動を完全に停止した。

●道の先
「ちっ……ここは行き止まりか……」
 残念そうに、アルトが言った。頭に乗せたアイゼンが、一鳴き、鳴いた。
 ナイトを下したケルベロス達は、そのまま探索を続行したが、その行き先は、一つの大きな部屋だった。資材置き場かなにかなのだろうか。広さは充分だが、他に道が繋がる様なものはない。
「んー、この壁も粉々に――とはいきませんよねぇ」
 レピーダが肩を落として言うのへ、
「悪ぃな」
 と、タツマは肩をすくめた。
「とは言え、決して無益な戦いであったというわけではありません」
 ウィッカの言葉に、頷いたのはミミだ。
「そうじゃのう。結構な数のダモクレスを撃破できたし、その点でも敵にダメージを与えられたと言っても過言ではないじゃろう。それに、他の仲間達が先に進んでおるかもしれんからの」
 と。
 ファクトリア内部を、大きな振動が襲った。続いて、断続的な振動が続き、何やら遠くの方では爆発音のような音も聞こえる。
「これは……」
 宝が声をあげるのへ、
「やった、って事か?」
 雅也が続ける。
「いずれにせよ、長居は無用だな。脱出する事にしよう」
 モカの言葉に、ケルベロス達は頷いた。
 ケルベロス達は、来た道を戻り出す。道中、何度も激しい振動が基地を襲い、爆発音も激しさと規模を増していく。いよいよもって、ファクトリアの最期の時は近いかと思われた。
 最初に訪れた小部屋に到着したケルベロス達は、扉を閉めると、基地出入口側の壁を破壊した海水がなだれ込み、あっという間に部屋が水で満たされると、ケルベロス達は開けた壁の穴からそのまま、外へと飛び出した。
 外には、複数のケルベロス達の姿が見て取れた。すでに脱出している者。今まさに基地から飛び出してきた者――その中には、バックヤードの探索に向かっていた仲間たちの姿もあったかもしれない。
 やがて、光がファクトリア全体を覆うと、ゆっくりと、ゆっくりと、基地は崩れ落ち始めた。ブクブクと泡を吹き出し、光を吹き出し、ファクトリアが崩壊していく。
 やがて光と共に、吹き出る泡も消えて行く。
 最後には、まるで何もなかったかのように――ファクトリアは消えて行った。
 そして深海は――その静寂を、取り戻したのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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