クロム・レック決戦～断環

■リプレイ

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　海底深く、深く深く潜み続けた、『クロム・レック・ファクトリア』。
　ケルベロスらを嘲笑いその腹中へと誘うかのように、仄かな光が妖しく明滅する。
　地上侵攻の要でもあるこの資源採掘基地を破壊すべく、ケルベロスたちは数多ある搬入口に各々とりつき、侵入を試みていた。
　最終目標は目指すは、中枢に構えるディザスター・キングだ。
　ジョーイ・ガーシュイン（初対面以上知人未満の間柄・e00706）らの2班が選んだのは『17』の搬入口。
　その先に待ち構えるものは、何か。

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「流石にこれだけ大規模な基地だと、資材搬入口も相当広いねー。キャハ！」
　本人的には小声で、トリューム・ウンニル（碧き天災の運び手・e61351）は 音無・凪（片端のキツツキ・e16182）に話しかける。
　凪は、指を口に当てて見返すのみだったから、トリュームもそれきりは黙った。
　2班16人のうち、ジョーイ、トリューム、凪は他のメンバーよりも先行している。斥候と、奇襲時の囮になるためだ。
　後方からはラトゥーニ・ベルフロー（至福の夢・e00214）らの班が続き、後ろからの挟撃に備えていた。
　拠点を暴かれた事で移動準備を進めているはずだが、今のところ、何の姿も認められず、ケルベロスたちは返って警戒を強めていた。
「この辺りとかどうじゃ？」
　カヘル・イルヴァータル（老ガンランナー・e34339） が、何もない天井に向けて銃を撃とうとする。
　その腕を、ティーシャ・マグノリア（殲滅の末妹・e05827） が慌てて抑えた。
「何かが隠れておれば、跳弾で出てくると思っての……」
「発動する罠があったらどうする！？　うかつなことをするな」
　ティーシャに強く言われ、しょんぼり銃をしまうカヘルであった。

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　どれだけ歩いたか、幾つ目かの曲がり角に差し掛かる。凪がそっと先を窺うが、やはりなんの姿もない。
　先行の三人は他を一時待機させ、そろりと曲る。
　一歩、二歩、慎重に進む頭上で、何も切れ目のなかったはずの天井が音もなくスライドして開いた。
　と、そこから5体ものモルガナイト・アサルトが、次々飛び降り、3人へ襲い掛かる。
「後ろ、来るわよ」
　後方班のソフィア・フィアリス（傲慢なる紅き翼・e16957）がメンバー達へと呼びかける。
　時を同じくして後方の壁がスライドし、緑の機体、クリソベリル・パンツァーが４体、現れたのだ。
　ケルベロス２班を挟み撃ちにしようとしてきたダモクレスの一隊であったが、隠密行動をとりつつ慎重に進んでいたメンバー達に死角などない。「馬鹿がっ！」
　ジョーイは振り向きざまに冥刀を抜き放ち、モルガナイト・アサルトへ一撃を見舞った。
　まともに食らったモルガナイト・アサルトは床に叩きつけられる。
「モルガナイトはこちらが受け持つよ。そっちはクリソベリルをお願い」
「了解、そちらは頼んだよ……」
　 リーナら後方班がクリソベリル・パンツァーへと向かうのを見送り。後方から追いついたヴィルフレッド・マルシェルベ（路地裏のガンスリンガー・e04020）らは先行の三人と共にモルガナイト・アサルトを取りかこんだ。
　分断され、挟撃を受けたのは、ダモクレスの方だったのだ。

　モルガナイト・アサルト達は、素早い動きで、壁や天井を移動しては一斉にミサイルを発射した。
　攪乱する動きのモルガナイト達の前を、トリュームのボクスドラゴン『ギョルソー』と、カヘルのボクスドラゴンが飛び回って邪魔をする。
「よしよし、偉いぞ」
　褒めてやりながら、カヘルはオウガ粒子を振りまいた。
「ふん……！」
　アジサイ・フォルドレイズ（絶望請負人・e02470）はモルガナイトの動きに合わせて跳躍し、重力を乗せた蹴りで、叩き落とす。
　ヴィルフレッドはバスターライフルを両腕に持ち、その重さを感じさせない身軽さで駆けては、モルガナイト達に魔力の奔流を叩きつけた。
　3体のモルガナイトを巻き込んで痺れさせ、ジョーイに斬られていた1体は完全に沈黙する。
　凪はさらに前へと出ると、右手を突き出した。黒の地獄炎が噴き出し、熾す揺らぎはモルガナイトらの視界を奪い、錯視を起こさせる。
　感覚を鈍らせたモルガナイトのミサイルは、ケルベロスたちに決定打を与えられない。
　渡羽・数汰（勇者候補生・e15313）の気咬弾が炸裂し、さらに1体を屠った。
　カヘルの跳弾射撃が飛び回るモルガナイトに直撃し、モルガナイトは1体を残すのみとなる。
　その個体に、トリュームは一番確実に当たる攻撃、即ち『光って唸る機械腕』で高圧電流を叩き込んだ。
「きゃーっち！」
　極度の負荷をかけられて握りつぶされたモルガナイトは、たまらず爆散する。
　キャハハハ！　トリュームの哄笑が通路に木霊した。

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　慎重に通路を通り抜けたケルベロス達はやがて、広い空間にたどり着いた。
　何に使っているのか知れない巨大な機械がいくつも稼働しているそこで、2体のダモクレスがケルベロスたちを待ち受けていた。
　巨剣を装備した白鋼のダモクレスはディザスター・ナイトFAだ。
　そしてバズーカらしきものを携え、全身にミサイルポッドを展開した鈍色のダモクレス、ディザスター・ビショップ。
「ディザスター・キングは？」
　数汰見回しても、それらしい姿はない。どうやらここが終着点のようだ。
「チッ、ハズレかよ、面倒くせえ」
　舌打ちするジョーイ。当の外れたケルベロスたちだが、目の前にいるのは殲滅すべき敵であることに変わりはない。
「せいぜい、テメエらの首を土産にしてやらぁ！」
　闘気を滾らせてジョーイはナイト・FAへと飛びかかった。
「こちらは我々が受け持つ。もう一体をお願いします！」
「了解にゃ！」
　数汰の言葉にうなずいて、後方班はビショップへと矛先を向けた。

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　自ら展開したドローンを従え、飛び込むジョーイの豪快にして正確無比の一撃を、ディザスター・ナイト・FAはその巨剣で迎え撃った。
　鋼と鋼が食い合い、火花散らして食い合うこと、二、三合。
　アジサイと数汰が同時に跳躍し、光輝を引いて白銀の機体へと重力の蹴りを叩きつけた。
　たたらを踏んだディザスター・ナイト・ＦＡは、強引に肩の砲台からエネルギー光線を発射した。
　後方へと放たれたそれは、ヴィルフレッドの放った冷凍光線とぶつかり、互いに空中で爆散する。
「くらえ！」
　ティーシャが砲撃形態に変化した『カアス・シャアガ』を大きく振り上げ、竜砲弾を撃ちだした。
　轟と飛ぶ砲弾は白銀の装甲を砕き、衝撃が動きを止めさせる。
　カヘルの放出したオウガ粒子が、降り注ぎ、感覚を研ぎ澄ましていく。
　キャハハハ！　破壊への期待が膨らむトリュームが、ポチっとなする。後衛で派手な爆発が起こり、仲間の士気を高めた。
（「――お前は、私に生を実感させてくれるか？」）
　モルガナイト・アサルトは凪に何も感じさせてはくれなかった。こいつは、あれよりはずっと手ごわそうだ。
　吹き上げる業炎は、凪を黒く揺らめかせた。

　ディザスター・ナイト・FAが剣に捉えたのは、トリュームだった。
　その他に比べて熟練していないと見てか、重たい斬撃がドローンごとトリュームを斬り裂いた。
「痛みはあるが、我慢じゃ！」
　カヘルが癒しの力を込めた弾丸を撃ち込む。
「い、イテテ……」
　ボクスドラゴンも癒しに回り、立ち上がるが、ダメージは思いのほか深いようで、笑みが引きつっている。
「チッ」
　ジョーイの白刃がゆらりと弧を描き、ディザスター・ナイト・FAをその刃に捕える。
　アジサイの轟竜砲で一撃食らわせる。
「……狂え、時の歯車！」
　数汰は限界まで圧縮したグラビティを注ぎ込み、ディザスター・ナイトの時間を狂わせ、破壊する。
　ヴィルフレッドは氷氷結の螺旋を放ち、ティーシャは、ゼログラビトンによって巨剣の威力を弱めていく。
　痛みを堪え、トリュームは反撃のブレイジングバーストを撃つも、ディザスター・ナイト・FAは剣で炎を両断してしまった。
　凪はマインドリングを取り出し、トリュームの前に障壁を作る。

「最悪程度で終わると思うな！」
　アジサイが何かを踏み抜く動作をすると、ばくりと音がして傷付いた装甲が大きく裂けた。
　しかし、次の瞬間、ディザスター・ナイト・FAの砲台が火を噴いた。一斉掃射が後衛に直撃する。
「うう……」
「くっ……」
　ヴィルフレッドにティーシャが、そして癒しの要であるカヘルはもっとも深手を負って動けずにいた。
　ボクスドラゴンが飛び回り、属性をインストールする。
　数汰は、体を叱咤し、降魔真拳で殴りかかって生命力を吸い取った。
「あァ？　クッソ面倒臭ェなァ……それくらい気合いで治せや！　ケルベロスだろうが！」
　ジョーイの檄喝は、彼らを奮い立たせた。
「ありがとうジョーイさん！　何故だかわからないけど元気が出たよ！」
　サムズアップを交わすヴィルフレッドとジョーイ。
「まだっ！」
　凪が叫ぶ。ディザスター・ナイト・FAは攻撃の手を緩めていなかった。庇う暇もなく、カヘルを必殺のエネルギー光線が襲う。
　その威力はすさまじく、耐性の上から老ガンスリンガーを飲み込んだ。
「うぬ……きつい、のう……」
　倒れたカヘルの元へ、ボクスドラゴンが駆けつける。属性の癒しを施しても目覚めぬ主に、悲し気に鼻面を摺り寄せた。
　癒し手であり、与しやすい相手と見ての攻撃だったのだろう。

　ディザスター・ナイト・FAは強かった。
　だが、こちらも歴戦の強者である。ジョーイは、ひるむことなく冥刀を振るい、じわじわと弱らせていく。
　仲間が倒れて折れそうになる心を、アジサイは奮い立たせた。
　努めて平静な態度で、バスターライフルを手にしたアジサイは、エネルギー光線を照射する。
　身にまとうグラビティを中和されたディザスター・ナイト･FAの剣戟が曇りを見せた。
「あの無念……晴らせないまでも、繰り返すものか！」
「そうそう、ちゃんと踊らせてよね！」
　ヴィルフレッドが文字通りの援護射撃を何発も撃ち込み広げた穴へ、数汰はジグザグの刃を抉り込ｍだ。
（「キングであっても無くても、私の『敵」である限り、滅するのみ」）
　ティーシャは身に着けていた、ジャイロフラフープと呼ぶ巨大な戦輪をアームドフォートに換装する。
「切り裂け！！デウスエクリプス！！」
　射出した戦輪が高速回転しながら飛び、ディザスタ―・ナイト・FAに激突し、背後の機械に激突させた。

「……やった？」
　だが、ディザスター・ナイト・FAはすぐさま立ちあ上がり、猛然と凪に向けて突進した。
　味方を庇おうと前に出ていた凪は格好の的になる。
（「……終わるのか」）
　目前に迫り、振り下ろされようとする切っ先を、凪はどこか虚ろな思いで見つめた。
　けれど、その足元が眩く輝く。鎖が伸びて守護星座の魔法陣を描いたのだ。新たなドローンが飛来し、凪の周囲に展開した。
　剣威が急に落ちて凪の身体を掠めるにとどまった。傷は負うが、致命傷には至らない。
　追い撃とうとする銀機を、不意に現れた半透明の巨腕が鷲掴み、その装甲を光の線輪が斬り裂いた。
　後方班がディザスター・ビショップを倒し、駆けつけたのだった。
「……ありがとう」
　まだ消えられないと言う事だろう。
　凪は、仲間に礼を言うと、自分に癒しを重ねて、良しとした。

　後方班が援護に入った事で、形勢は逆転した。
　強敵と言えども後方班と連携を取れば怖くはないと、一気呵成に畳みかける。
　ジョーイの一撃が致命傷を与え、ヴィルフレッドの援護射撃が蜂の巣にしていく。
「そうれっ！！」
　アジサイは一層の力を込めて『何か』を踏み抜いた。
　ディザスター・ナイト・FAの装甲が、斬り裂かれたところから大きく割れ、砕けて落ちる。
　ティーシャはエアシューズの車輪を激しく大地にこすり付けて発火させると、その勢いを利用して飛んだ。
　鋭い蹴りを叩き込めば、炎はディザスター・ナイトへ燃え移った。
「俺は、もう逃げたりはしないんだ！　狂え、時の歯車！！」
　叫ぶ数汰は、ありったけのグラビティを注ぎ込む。
　時流変転によって時間を狂わされた炎は際限なく燃え広がり、白銀の機体を轟炎に包み込んだ。

　ケルベロスたち見守る前で、立ち尽くしたままディザスター・ナイト･FAは燃え尽きたのだった。

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　戦闘不能になった2人を抱えて、皆は元来た通路を搬入口まで戻った。
「どうする？」
　探索を続けるか？　とヴィルフレッドは問いかけるが、誰もが答えを躊躇っていた。
　出来る事ならば続けたいがこちらの損耗も激しい。次、キングに会えたとして、果たして勝てるだろうか？
　しかし、直ぐ、考える必要は無くなった。
　連環全体を揺るがすような爆音が響き渡ったかと思うと、クロム・レック・ファクトリアが中心から崩壊し始めたからだ。
「誰かが成功したんだな……」
　ティーシャの言葉を裏付けるように、次々とケルベロスたちが脱出して来る。
　爆発の衝撃で飛ばされるケルベロスもいるようだが、すぐさま泳ぎを再開している所を見ると、大丈夫のようだ。
　バックヤードからも、複数のケルベロスが泳いでくるのが見えた。
「クッソ面倒くせぇ……俺達も脱出するぞっ！」
　慌てて、ジョーイ達も海中に身を投じた。
　泳ぎに泳いで、基地から大分離れたかと言うところで、ファクトリア全体を凄まじいばかりの光が覆った。
　目を閉じても瞼を焼かれる錯覚に陥るほどの光量、そして熱と衝撃。
　クロム・レック・ファクトリアがゆっくりと崩れ落ちていく。

　やがて光は泡と共に弱くなり海に溶けて消えた。
　ようやくケルベロスたちが目を開けられるようになった時、巨大なる連環があったはずのそこには、ただただ深淵の闇が広がるばかりだった。

作者：黄秦	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年11月7日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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