死牙降り注ぐ麦酒祭典

作者:坂本ピエロギ

 平日の夕刻、とある街中の大公園。
 茜色の夕焼けに染まったテントの前は、オクトーバーフェストに参加しようと訪れた客で賑っていた。ドイツを発祥とするビールの祭典であるこの催しは、酒と肉料理を心行くまで楽しめる、酒呑みにとっても肉食いにとっても夢のようなイベントだ。
 祭りの準備が整った会場は、じきにグラスの音で満たされることだろう。
 しかし――。
 そんな幸せに満ちた会場の遥か上空にいる少女の存在を、人々は知らなかった。
 白い翼の死神、星屑集めのティフォナの存在を。
「この辺りならば良いでしょう」
 ティフォナは杖で描いた魔法陣から半魚人のような竜牙兵達をサルベージすると、彼らに冷たい声で命令を下した。
「さぁ、グラビティ・チェインを略奪してきなさい。私達の真の目的を果たす為に……」
 竜牙兵はティフォナの言葉に頷き、竜牙流星雨を再現するように地上へ降下していった。

「死神にサルベージされた竜牙兵達が、祭り会場を襲撃するらしい。それも、それもよりによって麦酒の祭典オクトーバーフェストをだ……!」
「うむ。このままではせっかくの祭典が惨劇の場と化し、多数の犠牲が出てしまう……」
 静かな怒気を孕んだ斬崎・冬重(天眼通・e43391)の言葉に、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)が重々しい声で頷いた。
「事件の概要は斬崎が言った通りだ。お前達には、襲撃が予知されたオクトーバーフェストの会場を守り抜き、不届きな竜牙兵を残らず撃破して欲しい」
 襲撃が行われるのはフェスト開催直前の夕刻。ケルベロスの現地到着とほぼ同時だ。避難の誘導は手配済みの警察と、ホゥ・グラップバーンが現地で行うので、お前達は敵との戦闘に集中してくれと王子は言った。
「説明は以上だ。さて、依頼を終えた後の話なのだが――」
 そう言って、王子はそっと話を続ける。
「会場に目立った被害がなければオクトーバーフェストが再開される。お前達も祭典を思う存分楽しんでくると良かろう。ノンアルコール飲料も用意してあるから、酒を飲めない者も安心して参加できる。くれぐれも羽目を外し過ぎないようにな」
 王子の言葉に、冬重は輝く目を隠すように頷いた。
「オクトーバーフェストはドイツの麦酒と料理が楽しめるお祭りだ。料理は豚肉を使った品が多い。各種ソーセージは勿論、すね肉を丸ごと煮込んだ料理とかもある。あとは付合わせのポテトや、キャベツの酢漬けもな。ああ……どれもビールと合うだろうなあ……」
 冬重はもうそれ以上言葉を続けられないと言わんばかりに生唾を飲み込むと、
「……まあ、そういうわけだ。秋の祭典に得体の知れないデウスエクスはお呼びじゃない。皆で邪魔な奴らを追い払って、宴を満喫するとしよう!」
 そう言って、王子と一緒に出発の準備を始めるのだった。


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
ペテス・アイティオ(誰も知らないブルーエンジェル・e01194)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
シャルフィン・レヴェルス(花太郎・e27856)
紺崎・英賀(自称普通の地球人・e29007)
真田・結城(銀色の幻想・e36342)
斬崎・冬重(天眼通・e43391)
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)

■リプレイ

●一
「……ごめん。怒られるかもしれないけれど、最初に言わせて」
 建ち並ぶ灰色のビル群、その向こうの地平線に夕陽が足をつける頃。
 オクトーバーフェスト会場に到着した紺崎・英賀(自称普通の地球人・e29007)は仲間達を振り返り、恐る恐る口を開いた。
「正直ちょっと浮かれてる。きっちり仕事して、皆とフェスト……それが楽しみで」
「いいともいいとも、誰が怒るものか」
 英賀の背中を、斬崎・冬重(天眼通・e43391)がポンポンと叩く。酒は好きだが呑める方ではないと自覚する冬重も、この祭りを心から楽しみにしているようだ。
「呑める奴も呑めない奴も、皆が楽しい麦酒祭典。戦いに勝って、宴を楽しもう」
「そうそう。やっぱり乾杯はドイツビールだよね! 乾杯の歌、今から楽しみ!」
 冬重の言にアイドル歌手のマサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)は頷き、明るい笑顔を浮かべる。ともすればノリが良すぎると見られがちなマサムネだが、そこは彼もケルベロス。会場の随所に油断なく目を配り、いつ襲撃が来ても対応できる状態だ。
 と、そこへ。
「来たようですね。あれを……」
 真田・結城(銀色の幻想・e36342)が指さした先、夕空に浮かぶ大きな白雲から黒い影が次々と降って来るのが見えた。
 パイシーズ・コープス――歪な肉体を骨に張り付けた、歪な竜牙兵達が。
「ひとつ、ふたつ……いつつ。随分とまた大人数でいらっしゃいましたねぇ」
 交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)は市民の避難誘導を警察に任せ、一直線に駆け出した。ひと呼吸の間に現場へと辿り着くと同時、竜牙兵が星辰の剣を高々と掲げ、グラビティ・チェインの収奪を高らかに宣言する。
「ククク……サア、オ前達ノグラビティ・チェインヲヨコセ!」
「待ちなさい! あなた達の相手はケルベロスが務めます!」
 日本刀『無銘・陰』の切先を向けて言い放つ結城に、竜牙兵の視線が一斉に向けられる。
「ケルベロス? 待チ伏セカ、面白イ!」
「丁度ヨイ、貴様ラヲ血祭リニ上ゲテクレル!」
 哄笑しながら嘯く竜牙兵の目に、もはや逃げる市民の姿は映っていない。剣を手に陣形を組んでいく敵と向かい合いながら、メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)とペテス・アイティオ(誰も知らないブルーエンジェル・e01194)は、怒りも露わに口を開いた。
「どこだって君達みたいなのはお断りだよ。みんなも、美味しいお料理も絶対に守る!」
「そうですよ! オクトーバーフェストに狙いをつけておくとーばー、何たる卑劣!」
「うむ、全くだ。よし始めようか」
 ペテスのダジャレをサラリと流し、シャルフィン・レヴェルス(花太郎・e27856)が惨殺ナイフを抜き放ち、その切っ先を竜牙兵へと向けた。
「さあ行くぞ竜牙兵。面倒だからさっさとやられろ」
「抜カシヨルワ、猟犬! ココデ死ヌガイイ!!」
 気怠げな声と共に、怜悧な視線を飛ばすシャルフィン。
 竜牙兵はそれに嘲笑をもって応え、ケルベロスとの戦闘を開始するのだった。

●ニ
 5本の剣に宿る星座の煌きが、茜色の空を白く染めた。
 あらゆるものを極寒地獄へと変える光が、ケルベロスの前衛と中衛を包み込む。
「カカカカ……氷漬ケニシテヤル!!」
「うっひゃ~、冷たっ! ネコキャット、君の翼で温めてくれ!」
 マサムネは自身の体が凍りつくのも顧みず結城を庇い、サーヴァントのウイングキャットに明るい口調で指示を飛ばした。清浄の翼を介して送られる浄化の風で傷を塞ぎ、マサムネはすぐさまペテスに祝福の矢を射て、保護を剥ぐ破剣の力を付与する。
「下準備は万全に、ってね!」
「感謝なのです、ディケンズさん――では、お返しといくのですよ!」
「竜牙兵にお酒は勿体ないね。これでも食らうといいよ!」
 懐から取り出したスマホの画面にささっと指を躍らせるペテス。精神を集中させ、何やら能力を発動させ始めたメリルディ。そんな二人の姿を竜牙兵はせせら笑う。
「ククク……何ノ真似ダ、命乞イカ? 愚カナ――」
 愚かな事を、と言いかけた言葉がふいに途切れた。
 竜牙兵達の周囲が突如、巨大な影に覆われたからだ。
「来たれ、降りそそげ、滅びの雨よ!」
「くー、りーー! 大盤振る舞いっ!」
 瞬時に空へと向けられる、竜牙兵全員の視線。
 そして次の瞬間、頭上から降り注ぐ『モノ』の正体に彼らは絶句した。
「ナッ――!?」
 降ってきたのは、空を埋め尽くす大量の毬栗。
 それを追うように、雲を破り、編隊を組んで突っ込んでくる無人飛行機の群れだ。
「回避ダ! 回避シロ!!」
「ギャアアアアア!! 棘ガ、棘ガ刺サル!!」
 メリルディが竜牙兵の頭上にばらまいたのは『毬栗雪崩』。麻痺毒を帯びた栗の棘に怯む中衛の竜牙兵、その妨害に優れる1体の頭上に飛行機群が次々と突っ込んでゆく。
 赤黒い大輪の花が咲き乱れ、鼓膜を揺さぶる轟音が公園中を包み込んだ。その威力たるや凄まじく、妨害役の竜牙兵は早くも瀕死に追い込まれた。
「オ……オノレ……!!」
 竜牙兵は傷ついた手で剣を握ると、切先を地面に突き立てる。どうやら、守護星座を描いて回復を試みる気のようだ。
(「む……ここで態勢を立て直されると厄介ですね」)
 それを見た麗威の心に、微かな焦燥が生じる。竜牙兵が仕掛けた序盤の一斉攻撃によってケルベロス側もそれなりのダメージを被っているからだ。
 麗威は今、祝福の矢を射る冬重と、属性インストールを発動する冬重のボクスドラゴンの『マグナス』と共に、紙兵散布で反撃の下地を整えている最中だ。攻撃にまで手を回す余裕はありそうにない。
 英賀もそれを察して、執拗に妨害を図ろうとする前衛の竜牙兵達を『行為吐露治療法』の呪いで牽制しに動いた。
「レヴェルス君……トドメをお願いします……!」
「助力します! さあ今のうちに!」
 結城の月光斬に切り裂かれ捕縛に捉われる竜牙兵。それを見て、地べたに座り込んでいたシャルフィンが、二人の言葉に応じてのっそりと立ち上がる。
「よし引き受けた……この一撃を受けてみろ」
「ウ……ウオオオォォォォーッ!!」
 剣戟の飛び交う戦場で大欠伸をすると、シャルフィンはやる気と気合を残らず人差し指の先へと込めて、『よっこらショット』の光弾へと変えて発射。直撃を受けた竜牙兵は、肉片もろとも粉々に砕け散った。
「チッ! 怯ムナ、攻撃シロ!」
 残る4体の竜牙兵は、ゾディアックソードを構えて前衛に突っ込んできた。重力を宿した斬撃が次々と振り下ろされ、麗威の紙兵が付与したBS耐性が瞬く間に剥ぎ取られていく。
「やれやれ、敵さんも必死だね?」
 マサムネはサキュバスミストで自分の体を覆いながら、苦笑を浮かべた。仲間を庇うことでダメージは確実に蓄積されているが、多少の被弾は想定内だ。
 同じ盾役の英賀は味方の回復役の負担を減らそうと血襖斬りで敵の生命を吸収し始めた。メリルディが白翼の光で罪禍を貫き、シャルフィンも召喚した刀剣の嵐で敵を切り刻むが、竜牙兵の戦意はなおも旺盛だ。
 遅れじと刀を振るう結城。雷の霊力を帯びた無銘・陰の一突きが前衛に突き刺さり、その守りを剥いでいく。
「アイティオさん、今です!」
「オッケーなのです! 任せるのです!」
 ぺてぺてぺて、というコミカルな音で竜牙兵の間合いへと飛び込み、結城が剥いだ装甲の隙間へ流星蹴りを叩きこむペテス。ガードを突き破られた竜牙兵は断末魔さえ上げられず、その場に斃れた。
「そう簡単にやられるかっつの……まだまだッ」
「皆、油断するな!」
 堕天使のそれへと口調を変え、紙兵を散布し続ける麗威。冬重は輝くメスを振るいながら麗威の傷を塞ぎつつ、仲間を励ます言葉を送り続ける。
 冬重達のヒールによる回復が、次第に竜牙兵の与えるダメージへ追いつき始め――そして戦況はゆっくりと、ケルベロスの優勢へと傾き始めた。

●三
「ヌウウ……敵ノ最前列ヲ攻撃シロ!」
 守りに入れば後がないと悟ったのか、残る3体の竜牙兵は、死に物狂いになって凍てつくオーラをケルベロスの前衛へと飛ばしてきた。
「うぉっ……と! ははっ、こりゃ向こうも必死だね」
 ペテスを庇い、サキュバスミストで負傷を癒しながら、マサムネは苦笑を浮かべる。
 庇って、癒して、また庇う。徹底的な防御に徹する彼を突き崩せずに焦る竜牙兵の心が、マサムネには手に取るように分かった。
(「オレがいる限り、誰もやらせないよ」)
 そんなマサムネと仲間を、冬重は癒しの雨で回復していった。音楽活動のプロデューサーでもある冬重のフォローに、マサムネはサムズアップで感謝を返す。
「さて。そろそろ本気を出すか」
 シャルフィンが掲げた惨殺ナイフ、その鏡のように磨かれた刃が敵を捉えるのを合図に、ケルベロスの攻撃が一斉に降り注ぐ。
「くー、りーー! 大大大、大盤振る舞いっ!」
「ペテスビーム発射! なのです!」
 敵を押し潰すように降り注ぐメリルディの一撃。容赦のない麻痺毬栗の追撃を必死に防ぐ竜牙兵めがけて、ペテスの石化魔法光線が貫く。
「ガァッ――」
「終いです!」
 悲鳴を上げ、地に膝をつく竜牙兵へ月光斬を振り下ろし、結城が3体目の敵を両断する。
「傷も氷も、全部ぶっ飛ばしてやるよ!」
「ありがとう。楽しい祭りが、僕らを待ってる……!」
 麗威の拳圧で負傷を殴り飛ばされた英賀が跳躍した。狙うは前衛の竜牙兵だ。
 全力で振り下ろしたオウガメタルの拳が直撃。竜牙兵は鎧が弾け飛ぶのも構わず、中衛の1体と共に重力を宿した剣を構え、マサムネめがけて斬りかかった。
「死ネエエェェェェ!!」
「ざーんねん、そう簡単には落ちないよ」
「最後のラッシュだ! 行くぞ、マサムネ!」
 二連撃を受けきったマサムネの背中で、冬重は『zero/cipher』の伴奏を開始した。冬重の旋律に乗ったマサムネの紡ぐ『やがて復讐と言う名の雨』が竜牙兵の足を縫い留める。
「この歌が聴こえるか?」
「神よ汝の子を哀れみ給え――!」
「グ……グググ……グオオオオオオ……!!」
 満身創痍の体を叱咤し、なおも抵抗を試みる竜牙兵めがけ、メリルディの振るう濡羽色の惨殺ナイフの一閃と、ペテスの流星蹴りが同時に叩き込まれた。
 グシャッという音の後、頭を失った竜牙兵がコギトエルゴスムの結晶となって砕け散る。
「さあ、決着だ!」
 冬重の旋律によって命中を強化されたケルベロスの攻撃が、怒濤の勢いで最後の竜牙兵に降り注いだ。竜牙兵は必死に身を躱そうとするが、到底捌ききれる量ではない。
 英賀の血襖斬りに切り裂かれ、溶岩となり吹き出すシャルフィンの気力に吹き飛ばされ、竜牙兵は瞬く間にその生命力を削り取られていく。
「行きます……狼牙斬・爪牙!」
 結城が刀に込めて振るった霊力は狼へと姿を変え、竜牙兵の体を木っ端微塵に打ち砕く。致命傷を受け、よろめく敵の顎を捉えたのは、怒りの雷を拳に纏った麗威のアッパーだ。
「嗚呼、もう……止められない」
「ギ……ギャアアアアアアア!!」
 その一撃がとどめとなり、竜牙兵は原型を留めぬまでに粉砕され絶命した。

●四
 程なくして、会場の修復完了と共にオクトーバーフェストは再開された。
 夕闇の会場を照らす灯りは、まるで昼のような明るさだ。大テントの隙間からは、乾杯の声に混じって人々の談笑が途切れる事なく流れてくる。
「芋よし。ソーセージよし。ビールよし!」
 ブースから持ち寄った料理とドリンクでテーブルを埋め尽くすと、冬重はドイツビールを注いだジョッキを掲げた。
「皆、お疲れ様。それでは乾杯といこう!」
「乾杯!」
「Prosit!」
 グラスとコップを打ち鳴らす音が高らかに鳴り響いた。テントで流れ始めた楽団の演奏に乾杯の歌を歌い、華やかな宴が幕を開ける。
「ほら、皆若いんだからどんどん食べるんだぞ!」
 そう言って冬重は、大きな皿をつまみの肉とジャガイモで埋めていった。
 粒胡椒をちりばめた、ハム型の分厚いソーセージ。それをカリーヴルストのポテトと共に口へと運び、冬重はほっこりと頬を綻ばせる。
(「美味いなあ。沢山は呑めぬが、つまみは好きだ」)
 ドイツビールと水を交互に飲み、お替わりをジンジャーエールに切り替える冬重。隣席で水のようにジョッキを空にするマサムネの強さが、こんな時は羨ましい。
「いや~最高だ! 美味しい料理を皆で食べるのは、ホントたまらないね!」
 マサムネが舌鼓を打つのはジャーマンローフと炭火焼のウインナーだった。それを横からネコキャットがちらちらと視線を送るのに気づき、サッとマサムネは皿を離す。
「ダメだぞ、これは君にはしょっぱすぎる」
「このパンはどうです? 塩分もないし、お勧めですよ」
 結城がそう言って差し出したのは、プレッツェルだ。彼はキャラメリゼしたアーモンドをそれに添えて楽しんでいるようだった。
「甘い物好きにとっては、何とも嬉しい一品ですね」
 いっぽうシャルフィンはリンゴジュース片手に、ポテトでヒゲを作って遊びながら、
「ほらマサムネ、あーん」
「いただきまーす! ……ん、うまい!!」
 取り分けたソーセージを甲斐甲斐しくマサムネの口へと運んでいる。
「英賀も飲んでいるか?」
「はい。なんだか……すごいパリピっぽい……!」
 ジョッキ同士が奏でる澄んだ音。テーブルから立ち上る、肉料理の湯気。そして何より、人々の陽気な笑い声。グラスを傾ける英賀はその雰囲気に酔いを覚えるようだった。
 ペテスとメリルディは女子の会話に花を咲かせながら、烏龍茶を注いだカップとグラスを手に、料理を楽しんでいる。
「ファーレンさん、これはいかがです? 肉の味わいが良いのです」
「美味しそうだね。じゃあわたしは、これを」
 ペテスが勧めたのはクロイタグリラーと呼ばれるソーセージ。粗挽きのハーブ入りの豚肉をグリルした職人お手製の逸品だ。発色剤のない肉本来の色に、パリッとついたきつね色の焦げ目が食欲をそそる。
 いっぽうメリルディのお勧めはクラッシュアーモンドをまぶして焼き上げた菓子パンだ。加えてソーセージの盛り合わせに、おまけとばかりチェダーチーズソースをたっぷりかけたポテトフライもどっさりと添えてくれる。
「いい匂い……! 闇ウーロンとも合いそうなのです!」
「ふふっ、見ただけでお腹が鳴りそうだね」
 料理を分け合い、乾杯の歌を口ずさむ二人の所へ、ふと英賀が顔をみせた。
「あの……よければこちらの料理とも、シェアできればと……!」
「もちろん歓迎なのです! どうぞどうぞ!」
「やったっ……!」
 ぱあっと顔を輝かせ、皿の料理をあれこれ選ぶ英賀。そんな彼を遠目に眺めつつ、麗威はグラスにビールを注いでいく。
(「大切なひと時を、守れてよかった」)
 酒と料理を供に仲間と歌い、笑い、楽しむ猟犬達。
 彼らの宴は、まだ始まったばかりだ。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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