クロム・レック決戦~ファクトリア強襲戦

作者:baron

「クロム・レック・ファクトリアの探索に向かっていたケルベロスが、帰還しました」
 セリカ・リュミエールが急ぎ作成されたメモを読み上げる。
 重要地だったらしく戦闘は厳しい結果とのことだが、その分、得られた情報は非常に価値が高い。
「まず伊豆諸島海底部の海底熱水鉱床で、多くの資源が奪われていた事が判明しました」
 この採掘を行ったのが『クロム・レック・ファクトリア』との事で、その護衛として、ディザスター・キング率いるディザスター軍団の姿があったようだ。
 ディザスター・キングが直接防衛指揮をとっている事からも、『クロム・レック・ファクトリア』が、ダモクレス全軍にとって重要な役割を果たしている事は間違いない。

「更に、伊豆諸島海底部にはもう一基の拠点ダモクレス『バックヤード』の姿も確認されています。バックヤードの詳細は不明ですが、巨大な『環状の門』のような形状から『魔空回廊を利用して、採掘した資源の輸送を担当している』と考えられます」
 バックヤード側の戦力は、巨大な腕型のダモクレスが確認されており、指揮官として『五大巧』という、おそらく5体の強大なダモクレスが存在が推測されている。
「クロム・レック・ファクトリアが採掘した資源量は膨大であり、概算では『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半は、ここで採掘されたと考えて間違いない規模です」
 それだけ重要な場所であると理解し、ケルベロス達はゴクリと息を呑み込んだ。
 つまり、今回行われるクロム・レック・ファクトリアの撃破に成功すれば、ダモクレスへの打撃は非常に大きいということだ。

「当然ながら、ケルベロスによって拠点の場所を暴かれたダモクレス勢力は『クロム・レック・ファクトリア』の移動準備を開始したようです。遅くても一週間以内に、移動準備の整ったクロム・レック・ファクトリアは、伊豆諸島海底から姿を消してしまうでしょう」
 この拠点に籠る戦力と労働力がソックリが移動してしまえば、大きな犠牲を払って手に入れた情報が無駄になってしまう。
 そうしない為にも、『クロム・レック・ファクトリア』が移動する前に、短期決戦で撃破する必要があるだろう。
「よって内部に潜入してディザスター軍団の防衛網を突破、ファクトリア中枢に侵入して、ディザスター・キングの守る中枢部の破壊を行わなければなりません。ダモクレス側も『ケルベロスの襲撃を撃退すれば、撤退までの時間が稼げる』として、決死の防衛を行ってくるため、激戦が予測されています」
 危険な作戦となりますが、皆さんの力をお貸しください。とセリカは軽く頭を下げた。

「改めて潜入方法ですが、クロム・レック・ファクトリアの外周部には複数の箇所の資源搬入口があり、そこから内部に潜入する事自体は可能です。しかし、全ての搬入口が中枢に続いているわけでは無い為、特定の突入口からのみの突入は避けなければならないでしょう」
 穴はそれぞれ重要な区画であったり、単純に防衛戦力の待機所、修理工場など色々な施設に繋がっている可能性がある。
 本来であればそこの制圧も重要かもしれないが、撤退するなら無用な場所に当たってしまう可能性は拭えない。
「ディザスター・キングは、敢えて、中枢に繋がる搬入口と、それ以外の搬入口の警備を等しくすることで、ケルベロス戦力を分散させようという作戦をとっているようで、警備の様子などから予測するのは不可能となっています」
 中枢に繋がる搬入口以外も、ディザスター軍団によって堅く守られている。
 敵を撃破して実際に探索してみるまでは、その搬入口が、中枢に続いているかどうかを確認する事もできないのだ。

「よって複数チームが一つの搬入口から進行した場合、侵攻時の安全性が向上しますが、その搬入口が中枢に続いていなかった場合、ディザスター・キングとの戦いに参加できる戦力が低下してしまう危険があります」
 これを戦力分散の愚と呼ぶか、それとも中枢を守る為に骨を切らせて肉を断つと呼ぶか。
 どちらと見るかは人それぞれだが、果断な判断を行ったようだ。相手は相当な戦力を持つディザスター・キング、採算は十分に計算した結果だろう。
「クロム・レック・ファクトリア内部は、ディザスター軍団のダモクレスの防衛部隊が展開しています。彼らは、隠し部屋を利用した待ち伏せなど、奇襲攻撃を行う事で、少ない戦力でケルベロスを消耗させる作戦を仕掛けた上で、最奥となる場所に、有力な戦力を集めてケルベロスの撃破を狙ってくるでしょう」
 対抗する為には敵の奇襲を察知して素早く撃破し、道中の損耗を避けつつ、有力ダモクレスとの決戦に勝利する事が重要。この決戦に勝利後、通路が中枢に繋がっていた場合は、辿りついたメンバーの総力を結集して、ディザスター・キングとの決戦を行う事になるだろう。

「なお、今回の作戦では『バックヤード』への攻撃も可能です。しかし、バックヤードに戦力を投入した場合、クロム・レック・ファクトリアの撃破が難しくなってしうので、考慮が必要でしょう」
 バックヤードは『2本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されている為、バックヤード内部に取りつく為には、巨大腕型ダモクレスと戦う2チームと、バックヤード内部の探索を行う1チームで、最低3チームがバックヤードへの攻撃を行わなければ、内部の情報を得る事も不可能と思われた。
 また、バックヤードには『探索活動中に暴走した2名のケルベロスが捕縛されている』可能性が高く、探索に成功すれば、捕らえられていたケルベロスの救出も可能かもしれまない。
「今回の作戦に成功すればダモクレスの侵略に大きな打撃を与える事ができます。大変かもしれませんが、危険な探索任務を成功させたケルベロスの為にも、この作戦は成功させたいですね」
 そして……これだけの大量の資源を採掘して拠点が明るみになってしまうほど、無理して稼働レベルを上げていた。
 それはダモクレスの大規模作戦が近いのかもしれない。セリカが再び頭を下げた時、真剣な表情であると誰もが想像できた。


参加者
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)
メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)
コンスタンツァ・キルシェ(スタンピード・e07326)
時雨・バルバトス(居場所を求める戦鬼・e33394)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)
蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)

■リプレイ


「おおっ、りゃあ!」
 道を塞ぐダモクレスとの戦いも大詰めを迎えた。
 時雨・バルバトス(居場所を求める戦鬼・e33394)が自分の体よりも大きい斧を、鋭く叩きつけて生じた旋風で凍気に包む。
 そして床を踏みし締め、ステップを掛けようとした時、耳元で音がした。
『ファイヤ』
「っと。最後の最後でこいつあヤバそうだが、まあ何とかなるだろうさ」
 肩にあるウェポン・ベイから無数のミサイルが撃ち出された。
 弧を描いて飛ぶ軌道の中を駆け抜ければ、バルバドスの目が赤く軌跡を描いて行く。
「そのまま支えていてね。直ぐに回復するわ」
 戦場を観察して居た那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)が、割って入った仲間に声を掛けた。
 そして着弾と同時に爆炎が視界を塞ぐのだが、構わずガンベルトに差しこんだ薬剤を掴む。
「先に言っておくね……蟻がとう」
 爆炎の中から蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)が無事に姿を現すと、炎に混じって居た成分を符蟲たちが代わりに吸って崩れ去っていく。
 その隣では箱竜のセンチピードが、跳ねるように起きあがった。
「ぬうう……んん、はあぁぁっ!」
 同じ様に爆炎から姿を現した龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)は、ダモクレスの体に掌を押し当てる。
 そして掴んで投げ捨てるかのように、拳を強引に振り抜いてグラビティを吸収した。
「みんなの情熱に一陣の風を! アンスリウムの団扇風!」
 摩琴が薬剤を叩きつけると、緑色の風が爆炎を吹き払っていく。
 それは幻影であるが心の枷を外し、肉体の力を引き挙げる効果の薬が封入されている。
「そこっすよ!」
 コンスタンツァ・キルシェ(スタンピード・e07326)の撃ち込んだ弾丸は、敵の内部で冷却剤を更に破損させる。
 エネルギーの循環が完全に途切れ、ピキピキと装甲の一部が凍りつき始めた。
「動きが鈍い……? 勘違いじゃ無いよね? ……お願い、力を貸して」
 そこへメリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)が祈る様に杖をかざした。
 彼女が日ごろから待機させたままの攻性植物が、いつものように勝手に動くのでは無く、偶には願いを聞こうかと蔦を伸ばして行く。

 それまでは絡まっても引き千切り、再稼働を掛けていたダモクレスの様子がおかしい。
「後ちょっと……? ならこの機に倒してしまうわよ……」
「おっけー。今日も張り切って呪っていくわよ!」
 シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)が魔力を振るうと、敵は足元から石化を始めた。
 そこへ遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)水晶玉をかざし、陽炎を刃に還る呪いで切り刻む。
「ぎっちょんぎっちょん。みんな出動」
 ヒアリの影かと思っっていたら、それらは蟻の軍団だった。
 女王である彼女の指示で、特殊なフェロモンでも付けて居たのかダモクレスを覆う様に捕食して行く。
『ギギギ、迎げ』
 それでも動こうとセンサーである顔を出し、肩のキャノンが雷光に包まれる。
 蟻を吐き出すようにプラズマが放出され……。
「いい加減しつこいんだよ! 今楽にしてやる!」
 そしてバルバトスが斧を渾身の力で叩きつけ、蟲の中から顔を出そうとした頭を粉砕した。
 こうして通路を塞いでいたダモクレスは、激戦の果てに動きを止めたのである。


「ねえ……。今まで迂回路とか隠し部屋を使ってたけど、後退しなくなったわよね……」
 荒い息を吐くシェミアは、汗を拭うよりも先にマッパー達に声を掛ける。
「あーうん。この奥が怪しいんじゃないかな。えと地図が間違って無ければ、多分」
 メリノは方眼紙を取り出すと、自信なさげに頷いた。
 その様子にダブルチェックの相手である友人が頷いていわく。
「ばーっちり。距離的に怪しいと思うわよ」
「言われてみれば……確かに長いこと歩いてたな」
 篠葉がもう一枚の地図で示すと、バルバトスは今気が付いたとでも言わんばかりの表情だった。
 先ほどまでの高揚感が去り、ダウナーと言う訳でもないが淡々と応える。
「クロム・レックファクトリーの中枢か、これ以上ない戦場だな。親玉に当たるかどうかは分からねぇが、突き進もうぜ」
 強敵とまた戦える。
 そう思うと消えかけていた火が再び灯るかのように、バルバトスの目に力が戻ってきた。
「元よりそのつもりだ。消耗こそして居るが、ここで引き返す選択肢はあるまい」
「問題無い。人間も集団生物。蟻も集団生物」
 隆也の言葉をヒアリが補足しながら傷を蟲たちに移して行く。

 この作戦は共同作業。一班でも辿りつく意義は大きいのだ。
「ディザスター・キングは強敵だ。それだけに次の戦争までに倒しておく事は、ダモクレスの力を削ぐ大きな意味を持つからな」
 隆也は治療を受けながら火傷の残る手を、もう片方の拳でパンと打ちつける。
 直り切らない傷はあるが、耐えられないと言うほどでもあるまい。
 情報を得る為に最後まで残った者の覚悟を思えば、この程度のリスクは問題にも成らない。
「ここは成功させなくちゃね! キツイのは承知の上! だから推し通るわよ!」
「今回はみんながいて心強いっす。できれば誰一人欠けることなく地上に戻りたいっすけどね」
 摩琴が全員の治療を終えると、コンスタンツァが同意する。
 今回の作戦は敵の秘密基地を叩き潰すという、意義もロマンも大きな物だ。
「なら私が前に出るわ……。盾役が増えれば多少の消耗は補えるもの……」
 シェミアは皆の決意を聞きながら、ポツリと呟いた。
 いや、むしろ気合いを入れ直したと言うべきか。
 ここはダモクレスの採掘所……ここを落とせば皆の言う様に、戦いは楽に、もしかしたら転機なるかもしれない。
「て、敵の本拠地に突撃す、するの? え、えっと、は、話し合いで解決とか? ……駄目?」
「駄目に決まってるでしょ」
 メリノが縮みあがると、篠葉がその腕を抱えてスキップしそうな感じで再び歩き出した。
 さっきまで罠があるかもしれない場所に、現実逃避で絵を描いていたのだ。放置する訳にもいくまい。
「ダモクレスの野望を一網打尽にできるかここが正念場っす。努力・友情・勝利の大正義パワーでがんばるっす!」
 コンスタンツァは恐れを吹き飛ばすかの様に、ニカっと笑ってそれに続く。
 空元気も元気のうちだと、仲間達の後ろを守りながら突き進んだ。


「ペース早くするけど大丈夫かな? 今までの傾向を考えるともう何も無いと思うけど」
 摩琴は地図を思い出しながら、傾向を把握した。
 迂回路は段々と減るのは、緊急時と輸送を考えればこそ。
 この道は確かだと、少しずつペースを早めて行く。
「問題無い。虫路、早く行けと言う提案も、蟻得るライン」
 ヒアリは真顔で冗談を口にしつつ、センチピードに後ろを任せ壁伝いに横歩きで疾走。
 即座に追いついて前方からの攻撃に備えた。
「じゃ、一気に駆け抜けるね」
 摩琴は更にペースを上げるが、角を曲がると即座に状況把握。
 大丈夫だと判断してハンドサインを送った。

 やがて大きな広間に出ると、緑色の大樹が如き機械を垣間見る。
 そして手前では一足早く辿りついたケルベロス達が戦闘をしており……。
 中央の機械の大樹の麓には、黄金の王がチェスの様に兵士を抱えている。
「見付けた……!」
 シェミアは姿隠しの力を解除しつつ、こちらに向かってくる三体のダモクレスの進路へ割って入った。
 剣戟を青く燃える大鎌で弾き、石突きを床に打ちつけて態勢を立て直す。
「さて、時間を掛ける訳にはいかんが……」
『排除』
 相手の攻撃を受け止めた仲間を迂回して、隆也が飛び出すと敵の盾役も飛び出してくる。
 二体の内一体をすりぬけて、流れるように敵の背を押した。
 黄金の闘気が迸り、もう片方を押し出し先ほどの一体にぶつけたのだ。
「大丈夫? ボクは治療に専念しよっか?」
「まあ、一応な。だが、こんくらいの方が燃えて来るってもんだ」
 摩琴が傷の具合を確認すると、バルバトスは血を吐き出して不敵に笑った。
 お互いに盾役が仲間を守ろうとはするが、100%と言う訳にはいかない。
 一番の強敵に、盾で殴りつけられてしまったのだ。傷よりもクラクラする頭の方が戦いを愉しめずに困る。
「それじゃあ後回しだね。やばかったらいつでも言ってよ」
 そう言って摩琴は瓶に手を伸ばし、先ほどと同じ薬品を叩き割った。
 使い過ぎても筋肉痛になるくらいだ、アーアー聞こえなーい。
「まずは下拵えすっよ!」
「え、うん。はい、これだよね」
 コンスタンツァは黄金の果実を掲げるメリノに笑って励ます事にした。
 明るくジョークーを交えながら愛用の銃を引き抜き乱射する。
 光が傷付いた仲間達を覆い始める中、剣で弾丸を叩き落とす曲芸に口笛を吹く余裕すら見せた。
「ぶーん」
 ヒアリがコートから手を出すと、もぞもぞと羽蟻が飛び立っていく。
 そいつらは光に群がるかの様に、周囲へ防壁として構築されて行った。
 それは蟲にして虫に非ず。
「同業者に負けて居られないわよね」
 篠葉は符蟲道による呪符代わりの虫を眺めて、楽しそうに笑った。
 そして水晶に手をかざすと、再び怨霊に命じて陽炎を刃に替えて襲わせる。
「凍りなさい……。使命も殺意も何もかも忘れて眠りなさい……」
 シェミアは空間全体を冷却する事で、ダモクレスの内部機構を侵食し始める。
 逝きこそ振らないが深々と周囲が冷えて行くのを肌で感じるが、右腕の炎がそれを感じさせない。
「死と隣り合わせの青春って感じだよな。退屈させんじゃねーぞ!」
 バルバトスは動きを止めたダモクレスに掴みかかり、炎を浴びせてグラビティを奪いに掛る。
 血に濡れた唇はそのままに、切れていた口の中が塞がれて行くのを感じた。
 だがそれも僅かの事で、考える時間を惜しんで戦い続けたのだ。


「せっかく全部の護衛が出払ったのに……」
 数分が経過し最後の仲間が到着、敵も全ての護衛が出払った。
 しかしシェミアはその頃、蒼い鎌を振るって敵の盾役と切り結んでいた。
 首狩る一撃をあえて肩で止められ、中々倒しきれない。
「しかも態勢を整えて、小まめに修復しちまうっすしねえ」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、ふぉ。フォーメーション戦闘で時間稼ぎされてる」
 コンスタンツァが冷気を撃ち込んで居る間を守って居たヒアリは、冗談を平然と口にしながらブイサイン。
 蟻さんの手を形造ると、懐に入れた射撃形態のハンマーで砲撃を放つ。
「冥府より出づ亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え。私の呪いは機械とかノープロブレムよ」
 篠葉は大地に隠潜する怨霊を引き摺り出し、木気である電を介して電気信号に置き換える。
 それはウイルスの様にダモクレスに偽物の命令を与えるのだ。
「さっさと倒れちまえよ! 俺は少しでも強い奴と戦いてえんだ!」
 バルバトスが掲げた斧の輝きが敵を切り裂き、ようやく一体目を倒せるかと思った時。
 やはり敵が態勢を整えたので、思わず悪態を吐く。
『システム。ウェイクアップ。スタンバイ』
「そうは……させん!」
 高速機動モードに突入するその場でもっとも強い一体に、隆也が交差する様に乱打戦挑む。そいつは縦横無尽に動き回ることで盾役の仲間ごと周囲を制圧するが、隆也も同じ様に動いたのだ。
 こちらも被害を受けたが、態勢を立て直したばかりの兵士型を打ち砕くことに成功した。
「今度こそ一体目? ちょっと待っててね」
「て、手伝うね」
 摩琴が海底に眠る力を呼び込むのに合わせて、メリノも黄金の光に切り替えた。
 攻撃したり回復したり忙しいいよーと涙目に成る。
「取りあえず二体目っすね」
「今の状況なら、直ぐに終わるわ……邪魔……」
 コンスタンツァが弾倉に重力を込めて打ち出すと、シェミアは拡げた翼にグラビティを集め、黒き羽を無数に撃ち出した。
 二体目に取りかかったばかりだが……。
 皆で範囲攻撃を繰り返した後だ、そう時間は掛らないだろう。
「まあ、そうしたい所だな。雑魚ばかりじゃ食い飽きる」
 問題なのは最後に残る予定の一体が、強力なことであろうか。
 バルバトスはそう言いつつ兵士型に斧を叩きつけて、割れた装甲板を振り払いつつ騎士型の敵を睨みつけるのだった。


「じかん、が無い、かんじ。蟻は死して殻を残さない」
 ヒアリは敵の剣をその身に受けたまま、刃の上から蟻たちを渡して行く。
 回復するか微妙なのと、時間が無いからだ。
 あれから数分が過ぎ、既に自分達の戦闘開始から十分経過している。
「っと。愉しみ過ぎて遅刻するところだったぜ」
 バルバトスは炎を浴びせてグラビティを回収しながら、全体を見渡した。
 残る一体を追い詰めて居たが、その間にキングと戦っていた班がピンチに成って居る。
 対して自分達はと言うと、ボロボロだがまだ戦える。
「俺らに構うな! 生き残った奴がキングを潰しに行きゃあ良い!」
 最後の反撃で倒されるかもしれないが、残る数人が攻撃に参加出来るだろう。
 振りあげられた剣が誰に向くのか判らない、だがそれでもバルバトスは笑っていた。
「言ったぞ。元より覚悟の上。そのつもりだとな!」
「ここで倒さないとまずいね。んじゃ、ボクも攻撃に参加するよ」
 隆也の闘気が黄金に輝き、魂を喰らわんと殴り掛った。
 銀の拳銃を抜いて摩琴は攻撃に加わり、騎士型の意表を突くべく倒れた兵士型の装甲に反射させる。
「やっ、やったの!?」
「やったか禁止、空気呼んで。バグと一緒に呪うわよ」
 メリノが放った霊弾が騎士型の動力を停止させた。
 自信なさそ気に首を傾げる友人の口元を抑え、篠葉は呪いの弾を生成し始めた。
「え、え? 空気?? 呪いでバグなの??」
「その場のノリを読んでって事でしょ……。向こうも危険なのは本当だし、いくわよ……」
「人間はノリの生き物っすからねえ。それにしても滅私奉公とは……ダモクレスは何考えてるんすかね? 理解できねっす」
 メリノの言葉をスルーしながら、シェミアやコンスタンツァは息を整えながら走り始める。
 いや、時間が足りまい。近くのメンバーと合流するのが手いっぱいだ。

 仕方なく筒先を揃えて、仲間達を攻め潰そうとするキングに横槍ならぬ援護砲撃を加えることにした。
「動ける者は全力で放て!」
 隆也の怒号が炎の息吹となって周囲を揺らす中、一斉に攻撃が放たれた。
「ボクらでこの戦いを終わらせるんだ」
「ゴー・トゥー・ヘヴン!」
 拳銃を構えたまま、負傷者にではなくキングへ摩琴は睨む。
 コンスタンツァの込めたグラビティは、嵐と成って牡牛の如く爆走を開始。
「黒羽の弾丸……避け切れるものなら……!」
 シェミアの翼が開かれると、黒き羽が力を帯びて行く。
 他の仲間や合流した班も同じ様に攻撃を放ち、濁流と成ってキングの横合いを突いた。
 その攻撃は仲間達が立て直す時間を、見事に稼いだのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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