クロム・レック決戦~円環潜域

作者:銀條彦

 もう一つのファクトリア……『クロム・レック・ファクトリア』探索に向かっていたケルベロス達の帰還がまずセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の口から語られる。
 同時に、その撤退に際して敵の追撃を振り切る為に実に2名ものケルベロスが暴走を余儀なくされ今に到るまでその消息は不明であるという事も。
「それでも……帰還を果たしたケルベロスの皆さんが持ち帰った敵情報は極めて得難い内容のものばかりであり、積極的に活用すべき価値あるものでした」

 まずは伊豆諸島海底部の海底熱水鉱床で、ここまで人しれず多くの資源がダモクレス勢力によって収奪されていた事が判明した。
 『クロム・レック・ファクトリア』がこの採掘を実行しており護衛としてディザスター・キング率いるディザスター軍団の姿が確認されている。
 かの指揮官級ダモクレスが直接防衛指揮をとっている事からも、『クロム・レック・ファクトリア』がダモクレス全軍にとって重要な役割を果たしている点、間違いないだろう。
「また伊豆諸島海底部では更にもう1基、『バックヤード』という拠点ダモクレスの存在も確認されました。『バックヤード』の詳細は不明ですが、巨大な『環状の門』のような形状から『魔空回廊を利用して採掘した資源の輸送を担当している』と推測されています」
 『バックヤード』擁する戦力としては、唯一ケルベロスと直接交戦した腕型の巨大ダモクレス『『攻勢機巧』日輪』が確認されている。
 この『日輪』は『五大巧』を名乗る――おそらくはこちらも指揮官級揃いの、5体の強大なダモクレスの1体であり『バックヤード』の守りは彼らが固めているのだろう。
「『クロム・レック・ファクトリア』によって採掘された資源量は既に膨大な量に及んでおります。概算では『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半はここでのもの、と考えて間違いない規模です」
 つまり『クロム・レック・ファクトリア』さえ失われれば、それは必ずやダモクレス勢力の対地球戦略に対する大きな打撃へと繋がるのだ。

 ダモクレス勢力にとってそれ程の重要拠点。その存在と位置とをケルベロスに暴かれた『クロム・レック・ファクトリア』は既に移動準備に開始しているという。
 伊豆諸島海底部から準備を整えた『クロム・レック・ファクトリア』が完全に姿を消してしまうまでは遅くとも1週間以内――そうなれば多大な犠牲を払った末に獲得した探査情報もすべてが無駄になってしまうだろう。
「……そうさせない為にも迅速に……短期決戦を敢行し移動前に『クロム・レック・ファクトリア』を撃破する必要があるのです」

 『クロム・レック・ファクトリア』を破壊する為には、内部に潜入してディザスター軍団の防衛網を突破し『ファクトリア』中枢へと侵入した後、『ディザスター・キング』自らが守る中枢部の破壊を行わなければならない。
「ダモクレス側も『ケルベロスの襲撃を撃退すれば撤退までの時間が稼げる』として持てるその戦力も手段も惜しまない、決死の防衛を行ってくる事でしょう。きわめて危険な作戦となること必至ですが……皆さんの力をお貸しください」
 真摯に頭を下げたセリカは、次いで、具体的な潜入方法についての話に移る。

 『クロム・レック・ファクトリア』にはその機能上、各所到る処に資源搬入口が設けられているという。
 そして『ディザスター・キング』は、敢えて、中枢に繋がるごく数箇所かぎりの搬入口とそれ以外のすべての搬入口の警備を等しくする事でケルベロス戦力を分散させる策を採っている様で、警備の様子などから予め中枢位置を予測するのは不可能な状態にあるらしい。
 つまり……中枢に繋がる搬入口以外もそれぞれディザスター軍団のダモクレスによって堅く守られており、敵を撃破して実際にその先へと進んで探索してみるまでは、その搬入口が中枢に続いているかどうかを確認する事も出来ないという訳だ。
 複数チームが1箇所の資源搬入口から侵攻した場合、道中の安全性は向上するだろうが、一方で中枢部における『ディザスター・キング』戦時にケルベロス側の戦力が低下する危険と背中合わせになってしまう。
「『クロム・レック・ファクトリア』内部にはディザスター軍団の防衛部隊が展開しています。彼らは、隠し部屋を利用した待ち伏せなど奇襲を仕掛ける事で少ない戦力でケルベロスを消耗させた上で、有力な戦力を集めた最奥にまで敢えてケルベロスを引き入れる各個撃破を狙ってくるでしょう」
 ダモクレスの策へ対抗する為には、敵の奇襲を察知して素早く撃破する事で道中の損耗を避けつつ、有力ダモクレスとの最奥決戦へと臨む事が重要となるだろう。
 この決戦に勝利を収めた後、もしも選んだ通路が中枢部へと繋がっていた場合はさらに『ディザスター・キング』との決戦が続く事となる。
 この戦いには中枢へと到達できた全てのチームが協力して挑むべきだろう。

「それと――もしもケルベロスの皆さんが望むのであれば今回の作戦においては『バックヤード』をも戦略目標に含める事が可能です。無論そちらに戦力を割いた分だけ『クロム・レック・ファクトリア』の撃破はより困難なものとなってくる為、いっそうの考慮が必要となってくるでしょうけれど……」
 『バックヤード』内部には探索活動中に暴走した2名のケルベロスが捕縛されている可能性が高く、探索に成功すれば、捕らえられていたケルベロスの救出も可能となってくるかもしれない。
 ただし『バックヤード』は強力な『2本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されている為、護衛と戦う2チームと内部探索を行う1チームの、最低3チームが『バックヤード』への攻撃を行わなければ内部情報の入手すらも全く出来ないのまま空振りに終わる可能性が高い。

「これほどに大量の資源を採掘していたという事はダモクレスの大規模作戦が近いのかもしれません。何よりこれ以上の侵略を阻止する為にもまずは『クロム・レック・ファクトリア』の撃破を是が非でも成功させねばなりません」
 きっぱりとそう断言したシャドウエルフのヘリオライダーの表情からは、それでも何処か揺らぎのようなものがケルベロス達の眼には感じ取れた。
 いずれにせよ決断と実行はケルベロスの手へと委ねられ、ヘリオンはただ飛翔するのみ。
 ――光届かぬ、深き海の戦域へと番犬達を運ぶ為に。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
ニケ・セン(六花ノ空・e02547)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
除・神月(猛拳・e16846)
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)
ラカ・ファルハート(有閑・e28641)

■リプレイ


 伊豆諸島沖。
 風切るヘリオンの翔ける空を落ち、海へ沈み、一気に海底域にまで到達したケルベロスの前にその全容を現す資源採掘基地型ダモクレス『クロム・レック・ファクトリア』。
 先の報告書に記載されていたディザスター軍団は、少なくとも現時点では、基地周辺の海にはまったく見当たらない。
 指揮官級ダモクレス、ディザスター・キングによって持てる全戦力が基地内防衛にと投入されているのだろう。

 今ダモクレスがそれほどまでに切迫し、ケルベロスがこうして決戦へと踏み切れたのは、困難な探索任務の末に得られた各種情報あればこそ。
 そしてそれらは己が身を挺した2名のケルベロスの存在抜きには語れない。
 彼らは暴走状態での抗戦を続けた後その消息が途絶えたままであり、更にもう1つ存在が確認された特殊拠点『バックヤード』で五大巧の虜囚となっている可能性が大であるとヘリオライダーが導き出した演算結果がローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)の脳裡で反芻される。
 対『バックヤード』には最終的に計5チームが向かう事となったが……。
「ミイラ取りミイラにならねーよーニ、むしろもうちっとばかりアッチに振り分けるぐらいでモ、よかった気ィするんだけどナ?」
 ローデッドにとって近しき存在がその不明者2名の内1人であるとは既に一行内でも周知されており、除・神月(猛拳・e16846)が漏らした見立てはそれも踏まえてのもの。
「だが、それでファクトリアを疎かにしちまったら本末転倒だろ。 ……折角掴んだ情報、無駄には出来ねェからな」
 返された正論は決して虚勢などではなく、それも又、ローデッドにとっては心からの本音の一つ。神月の方もそれ以上の問答は重ねずまァそーだナと笑いあっさり引いてこの話を終わらせた。
 切り拓かれた血路――それを次へと繋げてこそ合わせる顔もあろうというもの。
 ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)にとっては2つめとなるファクトリア戦。其の心に過ぎるは先の『人狼』との戦いとそして己が宿業と。
(「ダモクレスに弄ばれた命の恨み……二刀の刃に乗せて敵を断つ」)

 一行が5番搬入口を潜り抜ければ其処は厳重な警備どころか物音ひとつすらせず不気味に静まりかえっている。基地内はどうやら普通に空気が存在する空間が広がっているらしい。
「せっかくのデビュー戦でいきなりずぶぬれってちょっと申し訳ないわね」
 稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)が話しかけた相手は新たに懐かれたというオウガメタルだ。
 むしろ晴香本人のずぶぬれ具合、透けっぷりが眼のやり場にちょっと困るレベルになっているのだが、当人は自慢のコスチュームと『相棒』と己が肉体をいかに劇的に取り合わせて女子プロレスラーとして『魅せる』かで只でさえ豊満な胸がいっぱいである。
「さすがに、タオルにまではちょっと気が回らなかったからね。 ……フィンとタンクは、ここに置いていくべきかな?」
 水中活動の備えはあれど水没通路でのマッピング作業は流石に困難であっただろうとニケ・セン(六花ノ空・e02547)はひとまず安堵した後そう提案する。異論は無い。
 この先、水没区画に行き当たる確率も全くのゼロでは無いだろうがそれよりも中枢を目指す道中ずっと隠密性や立ち回りを阻害される弊害の方が大きくなってしまうだろう。
 ただ、中枢へと到達できなかった場合でも彼等一行は他班の撤退援護に廻るつもりなのでその際には再び必要となるかもしれない。

(「……恐い、怖いですが……ここを破壊出来れば、ダモクレスに大きなダメージを与えられます……!」)
 かろうじて水圧にも耐えた腕時計の無事を確認しつつ己を奮わせる結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)だったが小さな誤算があった。
 基地内の移動時は動物変身でと決めていた彼だったが、その状態では彼が引き受ける探索補助は全く行えないのである。
 腕時計は地図作成にも用いると言っていたニケへ変身前に預ければ良いだろうが、防具特徴の発動も会話もハンドサインさえも動物時には不可能であるし五感機能が特化される効果も無い。
 レオナルドはしばし思案するもあまり悠長に悩んでもいられぬと、結局は当初の予定通り変身へと踏み切るのだった。

 隠密気流の使い手であるラカ・ファルハート(有閑・e28641)と八崎・伶(放浪酒人・e06365)が自然と斥候のような立ち位置で周辺警戒を行う運びとなる。彼ら2名のサーヴァントであるボクスドラゴン2体もそれぞれ気流の恩恵に預かりつつ彼らのフォローについていた。
 ――曲がり角の手前、隠密組から仲間へと送られたのは後ろ手のハンドサイン。
 角の向こう側で奇襲を仕掛ける為待ち構える計4体の敵ダモクレスを察知したのだ。
 突貫機モルガナイト・アサルトと火力支援機クリソベリル・パンツァーが各2機。
 ローデッドがすかさず割り込むや前衛のモルガナイトを蹴撃で叩き伏せた隙に、伶が警護用無人機を展開する。
 彼らと共にディフェンダー役を担うニケのミミックがガコンゴロンと飛び跳ねながらばら撒いた愚者の黄金は大判小判で、桐箱ミミックはひととき千両箱と化す。
「残念、お見通しだよ」
 慌てず騒がず、筆記具を仕舞いこんだニケの掌から竜の炎が解き放たれる。
 こうして、最初のダモクレス部隊との交戦は、事前に奇襲を察知し潰したケルベロス一行にがさほど苦戦する事もなく勝利を収める事となる。


「先輩、……バックヤードもきっと大丈夫だよ」
「ばーか、はしゃぎ過ぎてすっ転ぶなよ?」
 あえて名前は出さず囚われたと語られた戦場名だけを挙げて励まそうとしたラカの気遣いに、少しだけ緩んだ眼光のままローデッドは一笑で応じるのみ。
(「護りたいもの全て、護る……」)
 そのさまに、揺れた花色が宿すは固き決意。

 その後の道中においても敵ダモクレス小隊の出現と襲撃はたびたび重ねられた。
 斥候や防備は完全に仲間へと委ね、マッピングに専念するニケの筆が書き込むのは襲撃地点や隠し部屋。
 カメラやセンサーの類いは現在に到るまで全く発見されていない。
 現在の探索精度では発見できていないのかそもそも設置されていないのかはケルベロスの側からはまったく判別がつかないままである。
「待ち伏せ奇襲だけ用心しテ、怪しいトコには先制攻撃。基本ひとかたまりになっての正面突破みてーなモンだよナ」
 いかにもおおらかで大雑把な神月の言こそ、案外とシンプルに今回の戦いの要諦を衝いているのかもしれない。

 冷たく無機質な金属壁の光景ばかりが延々と続くなか、突如左右の壁が可動してまたもやダモクレス部隊が出現した。
 奇襲自体は今回も事前察知に成功したケルベロスの前に叶わなかったが、指揮機カーボナード・コマンダーに率いられたモルガナイト、クリソベリル計5機での挟撃はこれまでの中で最も苛烈であった。
「まどろっこしーけド、こーいうチマチマした応酬の喧嘩って奴モ、たまにゃ嫌いじゃねーゼ!」
 まず敵ポジションを確定する必要のあるケルベロス達の戦闘方針下では、最低でも1手分、奇襲を潰したアドバンテージを放棄して様子見する必要があった。
 故にメディックである神月や『お嬢』ことどらさんの働き、あるいはディフェンダー勢の立ち回りこそが生命線なのである。

 近接戦特化型のモルガナイトと組み合う展開に晴香のボルテージは最高潮だった。素早くバックを取ってしまえばもう其処からは必殺のフィニッシュホールドへと一直線。
 鮮やかな朱を纏う腰から背筋が扇情的な弧を描き、いまや一心同体たる白銀の躍動が、更に色鮮やかにそれを彩って魅せる。
「私『達』の投げからは、決して逃げられない!」
 薄桃色の人型装甲が高々と誇るかのように持ち上げられ、ブリッジを効かせた体勢から、豪快に壁へと反り投げられた。
「デビュー戦は上々ね『ZANSU』! ……ま、キミをリングの上に連れてくわけにはいかないけどね!」

 ――ケルベロスは快進撃を続けながらも着実にその損耗を重ねつつあった。
 それを補う為にと戦闘と戦闘の合間ではポジション交代が行われた。事前の取り決め目安に従い伶と焔が入れ替わる。
 その後ほどなくケルベロスは袋小路へと行き当たる。詳しく探索すればあるいは隠し通路の類いが見つかるかもしれないがそれを阻むべく配備された敵は3体。
「今度はディザスター・ポーンか」
 何のひねりも無く真正面に並べただけのその布陣は当然の帰結としてケルベロスによって瞬く間に蹂躙された。
 だが――あっけなくも残すは1体となったポーンめがけ『疾吼』を振り下ろさんと踏み込んだローデッドが感じ取った微かな違和感。
「……先輩?」
「下だ、気をつけろ」
 己の直感を信じたローデッドが、ラカに応える形で全員に警告を発したその直後。
 突如、――辺り一帯の床が消失した。

「って、えええっっ!?」
「味方もろとも落とし穴、って手段選ばないにも程ってモノがあるでしょっ!」
 ケルベロス達の戦場は袋小路の通路から一転、階下フロアに広がる大広間へと強制移動を余儀なくされるのだった。


 ケルベロスにとっては落下それ自体はダメージとはならない。
 だが完全に虚を衝かれての落下の最中にグラビティ攻撃を狙い撃たれたとしたら……。

『敵性侵入者捕捉。ケルベロス8、サーヴァント3、確認。更なる後続の敵戦力の存在は、確認されず。 ――殲滅を開始する』
 頭部モノアイがチカチカと冷たく明滅を繰り返し、背部格納コンテナから敵前列めがけて射出されたドローン群による猛攻がまず始められた。
 落ちた先待ち構える巨影の主は多脚駆動型ダモクレス――ディザスター・ルーク。

 咄嗟のダブルジャンプで回避行動から即応で二刀を抜いたソロは、新たな強敵の出現にも戦場の激変にも全く動揺の影すら見せず、まるで舞うようにして二刀を振るいディザスター・ポーンの首を切り飛ばした。
 伶に代わってディフェンダー位置へと入っていた焔は旋回飛行でドローン群へと切り込み、その攻撃の半ばを一手に引き受けた。まるで伶がディフェンダーであったならば必ずやその様に行動した筈だとばかりそこに躊躇は存在しなかった。
 一方で、どらさんは小さな翼を懸命に羽ばたかせながらラカの襟を鷲掴んで彼女なりに『弟』を助けようとしていた。
 で、まあ、ごくごく普通に自力での着地を華麗に決めたラカだったが、有難うの一撫では忘れないのだった。

「ポーンを捨て駒にルークを展開させる、か。まるでチェスの盤面みたいだね」
「なるほどギャンビットという訳か。いっそ次はキャスリングで中枢からこの場へキングを呼び込んでくれれば有難いな」
 そんな洒落っけを期待できる相手ではなかろうがと言葉を交わしながら、ニケとソロはそれぞれその意識と戦法とを対強敵のものへ切り替える。

「かくれんぼの時間はお終いだゼー? こんなデッケー巣をいつ作ったんだか知らねーガ、丸ごとブッ潰して追い出してやんヨ!」
 不敵な笑みとともに神月から発せられるはすっかりと滲みついた敵喰らう殺気ではなく、戦友達を包み時にその背を押す聖なる光。
 ディフェンダー戦力は充分と判断して引続き治癒役を担う彼女は、この戦い、徹頭徹尾において戦線を支え続ける事となる。

「ぶっ潰すのは得意分野だ、任せな」
 いまやローデッドの双眸は完全に見開かれていた。
 臆する事なく機械仕掛けの多脚を掻い潜り、駆け、吼え、力任せに果された有言実行。遂には脚の一本をへし折ってみせた。
 ディザスター・ルークが反撃にとローデッドの背に向けた大型光子砲を封じたのは猟犬の鎖。
 ラカの手になる捕縛の術はしゃららと鈴の音鳴らすかの如くに軽やかに流麗で……だが戦いがどれ程激化しようと其の刀剣士の腰に提げられた二刀は幾重にも固く鎖で戒められたまま。

 ルークの両腕から発射されたレーザー砲が焔の小さな竜体を焼き尽くし、残る脚部から展開させた攻防一体の光子シールドが傷深いミミックを圧し潰す。
 連戦による消耗を強いられた上での強敵との戦い。だが、ケルベロス達は時に倒れ伏せてもその痛みを凌駕し、誰もが闘い続けている。
「必ず、みんな生きて勝利を掴みます!」
 こまめな回復を呼び掛け、盾役との間合い何よりも意識した上で繰り出すはドレイン攻撃の炎弾。
 いかにも攻撃手らしい積極攻勢だった序盤とはうってかわって、レオナルドの戦闘スタイルはヒール不能ダメージの蓄積に比例してより臆病とも言える変化を遂げて彼の真骨頂を縦横に発揮するのだった。
(「どいつもこいつも倒れねェように、倒されず、最後まで気合入れて護り抜くぜ」)
 のらりくらり、まるで戦いそのものを楽しむかのような風情を漂わせながらも戦いにおける伶という男の本質は、絵物語の騎士を想わせる、他者守護にこそある。
 それは壁役を交代し後衛列へと退がった後にも、依然、変わることなく。
「――満ちろ、秋月」
 差し込む光に導かれ、淡蒼が踊り、胡蝶は舞う。
「全ての命の源たる青き星よ。一瞬で良い……私に力を貸してくれ!」
 蒼く深くソロの内なるグラビティ・チェインがその色を増し、竜王と虎王、その二振りを依り代として眩き巨大な光刃が創造されてゆく。
「――『真星剣(テラ・ブレイド)』!」
 振り下ろされたのはダモクレスの堅き装甲もろとも因果断つ輪廻の剣。
 真っ二つに断ち切られた後爆散したディザスター・ルークがその最期、モノアイへと映した漣のごとき『蒼』を理解する事は永遠に無かっただろう。


 散乱するダモクレスの残骸はそのままに、一行はしばし大広間を探索したが更に他所へと繋がる通路や隠し扉の類いは発見できずしまいだった。
「ハズレ、だな」
 速やかに決断し帰途へとつくケルベロス達。
 走り書きかつ立体情報を欠いた地図ではスーパーGPSの力をもってしてもファクトリア内での正確な現在位置を把握する事は難しかった。
 だが幸い、往路においてさほど複雑な分岐は無かった道をそのまま引き返す分においては手書き地図のみでも充分に事足りた。

 奔る光と鳴動――基地そのものを揺るがす振動のなか始まった崩壊が基地型巨大ダモクレスと災厄の王たるものの最期を何よりも雄弁に伝えてくれた。
「GEARSの連中の動向について、キングにはついぞ問えず仕舞い、か」
 宿敵への手がかりと為り得たか否かはもはや永遠の謎のまま。
 潰えた可能性の芽を振り切るようにして、淡蒼の髪が翻る。

「さって、向こうは向こうで上手くやってくれたァ信じてるが」
 再び閉じられた左の疵眼。仲間と共に5番搬入口にまで戻ればローデッドの前に再び横たわる、光届かぬ深海。
 だが、その向こうにはきっと――。
(「まだテメェの仇とケリつけてねェんだろ……くたばんじゃねェぜ、レスター」)

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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