クロム・レック・ファクトリア探索チーム、帰還――。
ケルベロス2名の暴走を伴う撤退という非常に厳しい結果ではあったものの、彼らが持ち帰った情報は非常に価値の高いものだった。
今回、探索チームの得た情報は、大きく2つ。
ひとつは、クロム・レック・ファクトリアの資源採掘ポイントが、伊豆諸島海底部の熱水鉱床にあると特定したこと。
もうひとつは、同エリアに存在する拠点ダモクレス『バックヤード』の発見である……。
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はヘリポートに集うケルベロスにそう告げたうえで、最初にファクトリア攻略に関する説明を始めた。
「ファクトリアでは、ディザスター・キングの陣頭指揮のもと、ディザスター軍団が基地を護衛していたとの目撃情報があります。この事からも、ファクトリアがダモクレス全軍にとって重要な役割を果たしている事は、ほぼ確実と思われます」
セリカによると、ダモクレスが伊豆諸島で採掘した資源量を概算した結果、彼らが侵略に必要な資源の大半が、ここ伊豆で採掘されたらしい事が判明したという。
つまりファクトリアが落ちれば、ダモクレスの兵站は大打撃を受ける。それはそのまま、ダモクレス勢力への打撃となって致命的な損害を彼らに与える事になるだろう。
これはダモクレス攻略における非常に大きな好機だが、ケルベロス側に与えられた時間は多くない。なぜなら敵は、自分達の拠点が特定された事を既に把握しているからだ。
1週間。それが自分達に与えられた猶予だとセリカは言う。
その期間を過ぎてしまえば、ファクトリアは伊豆諸島の海底から姿を消してしまうため、ここで確実にファクトリアを破壊せねばならない。
探索チームの払った犠牲を、無駄にしないためにも。
「それでは、ファクトリア破壊の手順について説明します」
ファクトリア破壊のためには、「基地内部への潜入」「防衛線の突破」「中枢の破壊」の3つのハードルを全てクリアしなければならないとセリカは言う。
「まず基地内部への潜入について。ファクトリア外周には複数の資源搬入口があり、ここの幾つかが中枢へ繋がっている事が判明しています。したがって皆さんには、この搬入口から潜入を行って貰います」
搬入口の警備は防衛を担うディザスター・キングの采配によって、あえて等規模の兵力が配備されており、外部の様子から正解のルートを判別することは不可能だ。潜入を敢行し、防衛線を突破し、最奥部に待つ戦力を撃破して探索を完了するまで、ルートの当たり外れは分からないという。
「搬入口への突入は、複数のチームで一つの場所に潜入する事も可能です。この戦法を採用した場合は、防衛線の突破、ならびに探索での損耗率は下がりますが、正解のルートを選べなかった場合は、中枢を守るディザスター・キングとの戦いに参加できる戦力が、それだけ低下するというリスクがあります」
ファクトリアはダモクレスにとって文字通りの生命線だ。基地が撤退する時間を稼ぐべく死に物狂いで攻撃を仕掛けてくるだろう。多数の敵との激戦になると予想されるため、覚悟して臨んで欲しいとセリカは付け加える。
「次に防衛線の突破について。敵は今回、防衛線に配した寡兵でこちらの戦力を消耗させ、最奥部に有力な戦力を集めてケルベロスの撃破を狙う作戦を取ったようです。そのため、ファクトリア内部にはディザスター軍団の防衛部隊が各所に少数で展開しています」
これに対抗するには機先を制して奇襲を潰し、損耗を避けつつ探索を実施せねばらない。最奥部の敵を撃破して、さらに通路が中枢に繋がっていた場合は、中枢に到達した他のチームと共にディザスター・キングとの決戦に臨む事になる。
中枢の破壊はディザスター・キングとの戦いに勝利する必要がある。これがファクトリア攻略における最後にして最大のハードルになるだろうとセリカは言った。
「ファクトリア攻略に関する説明は以上です。次にバックヤードについても説明します」
探索チームによってファクトリアと共に発見された拠点ダモクレス『バックヤード』。
こちらは『環状の門』のような形状をした巨大拠点で、魔空回廊を利用して資源の輸送を担っているらしい……という事以外、詳細は一切不明だという。巨大な腕型のダモクレスを戦力として保有し、指揮官として『五大巧』というダモクレス達も存在するようだ。
今回の作戦では、ファクトリアの代わりに、こちらを攻撃する事も可能になっている。
「バックヤード内には先の探索時に暴走したケルベロス達が捕縛されている可能性が高く、上手くいけば彼らを救出できるかもしれません。ただしバックヤードに戦力を投入すれば、ファクトリア側に割ける戦力は減ります。その分、そちらの成功率は下がるでしょう」
バックヤードは『2本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されており、内部へ侵入するには、最低2チームで彼らを食い止める必要がある。敵との戦闘に2チーム、バックヤードの探索に1チーム、最低3チームの戦力を揃えなければならない。
探索によって得られる成果がどのようなものかは全く未知数だ。思いもよらない大発見を得られる可能性もあるし、何も得られない可能性もある。それを承知の上で挑んでみるのも選択肢のひとつかもしれないと、セリカは話を結んだ。
「これだけ大量の資源を採掘していたという事は、近々ダモクレス勢力に大きな動きがあるかもしれません。ダモクレス勢力に勝利するため、確実な作戦の遂行をお願いします」
セリカはそう言って、ヘリオンの発進準備に取り掛かるのだった。
参加者 | |
---|---|
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634) |
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451) |
レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
日月・降夜(アキレス俊足・e18747) |
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671) |
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130) |
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731) |
●一
伊豆諸島海上。
編隊を組んで飛翔するヘリオンのハッチが開放され、ケルベロスの一団が次々に海上へと降下、そのまま海底目指して潜水を開始した。
総勢230名を超える猟犬の一人、館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)もまた、冬の迫る冷たい海水をかき分けながら、ダモクレスの拠点を目指し一直線に潜っていく。
(「クロム・レック・ファクトリア。ディザスター・キングの待つ海底基地へ……」)
ケルベロスを取り巻く海の青はやがて灰色に変わり、程なく光届かぬ暗黒へと変わった。レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)が視界の先を凝視すれば、そこには巨大な円盤状の基地――クロム・レックのシルエットがぼんやり見える。
そして、その近くにある拠点ダモクレス『バックヤード』の姿も。
(「……ッ」)
それを見たレッドレークの顔が、苦い記憶に歪む。先の作戦で得た情報を持ち帰るため、暴走し行方知れずとなった仲間達は、恐らく今もあそこに囚われているのだ。
内部探索のためバックヤードへと向かったチームにレッドレークは、
(「頼んだぞ……!」)
そう短く祈りを捧げて、クロム・レックへと視線を戻した。先ほどまで小さかった基地は接近するにつれて大きくなり、もはやその全容は彼らの視界にはとうてい収まらない。
(「すごく大きい基地だね。ここが……?」)
すぐ隣から、仲間の一人がレッドレークにサインを送ってきた。クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)だった。
(「……ああ」)
レッドレークは、小さく頷いた。
(「そうだ。此処がクロム・レックだ」)
熱水鉱床に根を張った円筒形基地の外周には、等間隔で並ぶ資材搬入口が見えた。
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は、先行するチームが、所定の搬入口へ次々と潜入していく姿を眺めながら、
(「こんな大きな拠点があるですね……ここを倒せば、大きな痛手を与えられそうです」)
必ずこの戦いに勝利してみせると、固く心に誓う。
やがて、突入ポイントである22番の搬入口が見えてくると、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は真理と共に、先陣を切って基地へと潜入を開始した。
(「皆、よろしくなっ。斥候は任せてくれ!」)
(「頼んだぞ。こちらも準備OKだ、行こう」)
アリアドネの糸を結わえた親指でサムズアップを返すレッドレーク。それに続いて仲間達も次々と頷きを返す。
(「ディザスター・キング。クロム・レック。まとめて俺達ケルベロスがブッ壊す!」)
広喜達へとのしかかるプレッシャーは、深海の圧力よりもなお強い。
――この戦いの勝利を、ダモクレスの命取りとするために。
――因縁の敵を、ここで討ち果たすために。
交錯する想いを胸に、8人の猟犬はクロム・レックへと潜入を開始した。
●二
搬入口を奥へと進むと、そこには殺風景な通路が一本、まっすぐに延びていた。
ケルベロスの襲撃に備えてか、周囲には撤去された貨物の痕跡が残るのみ。突き当たりは扉で封鎖され、その奥からは微かに白い光が漏れている。
(「異常があったらすぐ知らせてくれ」)
後列と連絡を担う日月・降夜(アキレス俊足・e18747)の接触テレパスに、真理は黙って頷いた。襲撃を警戒して進む一行の後方で、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は背後に注意を払いつつ周辺情報をマッピングと共に記録していく。
道中の所々に仕掛けられたトラップは、落とし穴、釣り天井、封鎖隔壁……ケルベロスにとっては他愛ないものばかりだ。それらを斥候を務める二人と後続のエトヴァらは苦も無く発見し、一行は損害らしき損害も出さず奥へと進んでいく。
(「このまま中枢まで一直線と行けれバ、いいのですガ――」)
そう考えたのもつかの間、目の前を行くメリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)が、接触テレパスでエトヴァにサインを送ってきた。
(「気をつけて下さい、敵です。前方の隠し通路から!」)
(「どうやら、本格的なお出迎えのようですネ」)
エトヴァの視界の前方で、広喜が発射したミサイルの爆炎の中から現れた敵影は、4つ。いずれも二足歩行の人型ダモクレスだ。
『侵入者を発見。これより排除する』
(「うわあ……ヒーローショーの悪役に合いそうな恰好です!」)
旅役者らしいメリーナの感想をよそに、リーダーと思しき前列の機体は白銀の剣を構え、ケルベロスに切先を向ける。
『アサルトは盾となれ。パンツァーとコマンダーは中衛から敵を妨害せよ』
「ディザスター軍団の敵か……! 面白ぇ、ブッ壊し合いの始まりだぜ!」
「プライド・ワン! 戦闘開始なのですよ!」
真理のライドキャリバーが一際大きなトルクと共に、炎を纏って敵前衛へと突っ込んだ。我が身が炎上するのも構わずに、リーダーのダモクレス――ディザスター・ナイトは、照準を合わせた降夜めがけ剣による刺突を放つ。
挺身的な突撃で、飛んでくる剣閃から降夜を庇う広喜。すかさず広喜の背後から飛び出たレッドレークが、赤熊手を振りかぶってナイトへと突進する。
「むんっ!」
振り抜かれた赤熊手がコマンダーの肩――物理演算によって導き出された弱点をツルハシの先端で寸分違わず突き破った。装甲を剥ぎ取られても悲鳴ひとつ上げず、剣を構えなおすナイト。そこへ更なる追撃を叩き込むのは、真理の『破剣衝』だ。
「私だって、ただ盾になるだけじゃないのですよ……!」
アサルトの刺突からエトヴァを庇い、真理が繰り出す一撃がナイトの肩部を再び捉えた。鈍い手応えの後、剣を握る敵の腕部シャフトがひしゃげ、だらりと垂れ下がる。
「そこで寝てな」
追い詰められるナイトを破壊しようと広喜の放った轟竜砲を、敵前衛のアサルトが庇う。だが、それもケルベロスの猛攻の前では単なる悪あがきだ。降夜はチーターらしい敏捷さを活かし壁を使った三角飛びでナイトの間合いに一気に潜り込むと、
「凍り付け」
『凍』の拳を叩き込み、熱を奪う一撃でナイトの頭部を完全に破壊した。リーダーを失い統率を欠いた敵を、ケルベロスは更なる追撃で容赦なく叩き潰していく。
「どけ! 僕達の邪魔をするな!」
「これにて終幕、です♪」
マルチプルミサイルの応射で飛んできた砲撃から仲間を庇いながら、中衛のコマンダーに吠える詩月。その横でメリーナは静かな微笑を湛えながら、虚の力を纏った『赤錆』の斬撃でコマンダーを切り伏せる。
「長丁場の戦いデス。最後に備えテ、力は温存して行きまショウ」
中衛のパンツァーをフロストレーザーで凍結させながら、エトヴァは目立った傷を負った仲間がいない事を確認する。陣形を組んで奇襲を警戒した事が奏功してか、防衛線の突破でケルベロスが負った損害は軽微なものに留まっているようだ。
「お師匠、とどめ!」
ケルベロスチェインの描く魔法陣で守護しながら、クローネが相棒のオルトロスに攻撃を指示。神器の瞳が大破したパンツァーの目を捉え、その機能を完全に停止させた。
「さあ、一秒でも早く突破するよ!」
詩月のバスターライフルによる支援を背に、猟犬達は残るアサルトを集中砲火で破壊し、中枢部を目指して更に奥へと進んでいった。
●三
突き当たりの扉を開けると、そこにはドームのように開けた空間が広がっていた。
ケルベロスの真正面、巨大な鉄扉の前に立ちはだかる敵はただ1機。白銀のカラーリングを施したその機体は静かに手中の剣を構えると、即座にケルベロスへと襲い掛かった。
『敵勢力の侵入を確認。ディザスター・ナイト・FA、排除を開始する』
「問答無用か。話が早くて助かる!」
床へ這わせたレッドレークの真朱葛が、蛇の如き俊敏な動きでナイトFAに食らいつく。白銀の騎士はそれに動じることなく水銀の弾丸を全周囲へとばら撒いた。視界を埋め尽くす毒の弾幕が、恐ろしいまでの威力を伴いケルベロスの前衛を捉える。
(「この力……! 単騎の待ち伏せといい、ディザスター軍団の精鋭ですか……!」)
メリーナを庇いながら、真理は水銀弾の猛攻に歯を食いしばって耐える。道中で遭遇したナイトの攻撃とは質・量共に桁違いだ。
だが、止まっている暇はない。猛毒を与える水銀弾の嵐に真理は被弾覚悟で突っ込むと、高速演算で叩き出した一撃をナイトFAめがけ叩き込む。
「狙うは大将首だけ! 手下はお呼びじゃないですよ!」
「ってわけだ。直せねえくらい、壊してやるよ!」
展開したバリアで破損した装甲を回復せんとするナイトFA。そこを捉えたのは、広喜の『抉リ詠』だ。回復機能を低下させる炎に包まれ、傷口を焼かれる鋼の騎士。そこへ降夜の螺旋手裏剣が螺旋を描いて突き刺さる。
『戦闘活動に支障なし。攻撃を続行する』
「Sehen Sie sich an.」
「これはお返しです」
エトヴァが刻み込む『Doppelgaenger』の幻影。惨殺ナイフ『#22』を手に、ジグザグの傷を刻み込むメリーナの斬撃乱舞。詩月の遠距離戦闘術が張り巡らせるバスターライフルの弾幕。それらをナイトFAは白銀の剣で防御し、ダメージを最小限に抑えている。
対するケルベロスは、水銀弾と付与された毒の効果によって、隊列を支える前衛の体力が容赦なく削り取られていく。
「皆、待ってて! ぼくがいま治すから!」
前衛へと紙兵をばら撒いて、仲間達を励まし続けるクローネ。だがその言葉とは裏腹に、縛霊手を掲げるクローネの手に滲んだ冷や汗は、一向に収まる気配がない。
(「お願い……これで……!」)
小型の祭壇から吹雪のように紙兵が舞い散り、毒を受けた仲間達を包み込むのも束の間、クローネの焦燥を嘲笑うように、ナイトFAが肩のキャノンで紙兵ごと前衛を焼き払う。
「さすがディザスター・キングの精鋭……一筋縄とは行かないですね」
『これより敵の討滅に――ッ!?』
頬の血を拭い、内蔵型電磁兵器発生装置で回復サポートに回る真理。白銀の剣先を向け、攻撃体制へと移ったナイトFAの体が突如爆発したのは、その時だった。
「さあ、こっから反撃開始だぜ」
イヤーデバイスに手を添えた広喜が不敵に笑う。『抉リ詠』による殴打の際、貼り付けた不可視の爆弾を起爆したのだ。ナイトFAは迅速に判断を下し、前衛の真理を剣で貫かんと一気に加速する。
だが、ケルベロスの判断はそれ以上に迅速だった。
「やらせん!」
レッドレークの赤熊手が音を立てて振り抜かれ、迫ってくるナイトのカメラアイに直撃。亀裂の生じたレンズでバランスを崩した背中めがけ、降夜が凍てつく拳を振るう。
「終わりだ。覚悟してもらおう」
「メリーナ殿、大事ありませんカ」
「……大丈夫、痛くなんてないです」
周囲の熱を奪われ体中に霜をおろすナイトFA。フロストレーザーで敵を更なる凍結地獄へと落とし込みながら、身を案じるエトヴァの言葉に、
「ね。……痛くない。痛くない、痛くない――」
赤錆の斬撃で敵の生命を吸収しながら、メリーナは固い笑みを送り返す。
対するナイトFAは詩月の流星蹴りと切り結びながらも、なおも前衛を攻撃せんと水銀弾の発射体勢へと入った。しかしダメージの蓄積による影響か、その動きは次第に精彩を欠き始めているのが見て取れる。
そして――クローネが口を開きかけた時、それは起こった。
「皆、油断しないで――きゃっ!」
壁越しに響く轟音が、8人の戦場であるドームに轟いたのだ。
●四
『キ……キング……!』
水銀色の剣で真理の破剣衝をガードしたナイトFAの動きが一瞬、止まった。それの意味するところを悟った広喜は、腕部換装パーツ六式を砲撃形態に変えて鬨の声をあげる。
「よおおおおおしっ! ぐずぐずしてられねえ。急ぐぜ!」
「ああ。チェックメイトは近そうだ」
広喜の竜砲弾が、降夜の螺旋手裏剣が、敵の装甲を容赦なく抉る。ナイトFAは剣による斬撃を諦め、前衛に水銀弾の弾幕をばら撒くが、それでもケルベロスの勢いは止まらない。
回復能力を奪われ、完全な防戦に追いやられたナイトFAをエトヴァの幻影が捉え込み、メリーナの振り下ろす赤錆が白銀のボディパーツをひしゃげさせていく。
「命育み、協う、温かな腕。母なる大地の象徴たる慈愛の女神よ。優しい星のメロディを、ぼくと共に奏でておくれ」
クローネの歌が呪文へと変わり、母なる大地の女神の祝福がレッドレークを包み込んだ。共に未来を奏で合う者の傷を癒し、クローネはそっと笑いかける。
「さあレッド、とどめを」
「――ああ、ありがとう」
クロム・レックの床へと触れて、彼は小さく呟いた。
(「母なる大地、か……」)
レッドレークの手を伝う真朱葛が埋葬形態となってナイトFAに迫る。ナイトFAは詩月のバスターライフル弾幕に囚われながらも、なお必死に防御を試みるが、
「――捉えたよ」
詩月の放った速射モードの最後の一発が直撃。身動きを封じられたナイトFAを真朱葛が絡め取り、傷だらけになった白銀の騎士をたちまち鉄屑へと変えた。
敵を粉砕し、開かれていく鉄扉へと駆け付けるケルベロス達。
だが――扉が開かれた先は、行き止まり。ここは中枢へと繋がる道ではなかったのだ。
「……よし。そうと分かれば長居は無用だ」
降夜の言葉に頷いて、撤退の準備を始めるケルベロス。レッドレークはその輪から静かに外れると、むき出しの手をドームの壁に添える。
「クロム・レック。あなたがもし、そうなら……」
レッドレークという存在が誕生した時、メモリにぽつんと在った名前。
ダモクレスだった頃の自分を生産した工場。あなたがもし、そうならば。
「俺様をこの世界に生み出してくれた事、ありがとう」
「……彼をこの世界に産んでくれたことに、ぼくも感謝を」
レッドレークの微笑みを見たクローネも、寄り添うように小さな祈りを捧げた。己の譲れぬものに、最後まで忠実であったクロム・レックに。
(「出来る事なら、もっと違う形で出会いたかった」)
「この世界は、とても美しいぞ! だから守らなければ!」
別れの言葉を送るレッドレークに、クローネはいつもの調子で話しかける。
「ねえレッド、帰ったらおやつ食べよう。皆で!」
「ああ、そうだな」
そうして二人は、仲間達と共に駆け出していった。
アリアドネの糸を手繰り、決して振り返ることなく、再び外の世界へと。
●五
脱出から程なくしてクロム・レックは崩壊し、海の藻屑と消えていった。
(「俺達の勝利、ですネ」)
(「はい。お疲れ様、でした♪」)
仲間の生還に安堵を覚えるエトヴァへ、メリーナがニッコリと微笑みを返す。
(「それでは皆さん、戻るのですよ。私達を待つ人々の元へ」)
真理の言葉に頷いて、任務を完遂したケルベロス達は地上へと帰還していく。
クロム・レック・ファクトリア破壊、その勝利の吉報を携えて――。
作者:坂本ピエロギ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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