●『クロム・レック・ファクトリア』の実態
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)の招集に応じたケルベロスに告げられたのは、クロム・レック・ファクトリアの探索に向かっていたケルベロスの帰還だった。
――二名のケルベロスが暴走し、敵の追撃を食い止めての撤退。
厳しい結果に、複雑に口を閉じ結ぶケルベロス達。
しかし、イマジネイターの瞳に希望の輝きは消えていない。
「大きな犠牲を払って得られた情報は、非常に価値の高いものでした」
判明した事実は二つ。
「第一に、伊豆諸島海底部の海底熱水鉱床で、多くの資源がダモクレス勢力によって奪われていたことが判明しました」
採掘を行ったのは、『クロム・レック・ファクトリア』。その護衛についているのが、ディザスター・キング率いるディザスター軍団である。
キング本人が直接防衛指揮をとっているらしく、『クロム・レック・ファクトリア』がダモクレス全軍にとって重要な役割を果たしていることを窺わせる。
「第二に、伊豆諸島海底部にはもう一基の拠点ダモクレス『バックヤード』の姿も確認されています」
詳細は不明だが、巨大な『環状の門』のような形状から『魔空回廊を利用して、採掘した資源の輸送を担当している』と考えられる。
バックヤード側の戦力には巨大な腕型ダモクレスが確認されており、指揮官として『五大巧』という、おそらく5体の強大なダモクレスが存在しているようだ。
「クロム・レック・ファクトリアが採掘した資源量は膨大です。概算では『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半は、ここで採掘されたと考えて間違いない規模です」
つまり、クロム・レック・ファクトリアの撃破に成功すれば、ダモクレス勢力に対して甚大な被害を与えられるということだ。
●ファクトリア短期決戦
ケルベロスに拠点の場所を暴かれるという事態を受け、ダモクレス勢力は『クロム・レック・ファクトリア』の移動準備を開始したようだ。
遅くても一週間以内に、準備を整え、伊豆諸島海底から姿を消してしまうだろう。
「『クロム・レック・ファクトリア』が移動してしまえば、大きな犠牲を払って手に入れた情報が無駄になってしまいます。ファクトリアが移動する前に、短期決戦で撃破する必要があるでしょう」
『クロム・レック・ファクトリア』を破壊するためには、内部に潜入し、ディザスター軍団の防衛網を突破、ファクトリア中枢に侵入して、ディザスター・キングの守る中枢部の破壊を行わなければならない。
ダモクレス側も『ケルベロスの襲撃を撃退すれば、撤退までの時間が稼げる』として、決死の防衛態勢を敷いてくるため、激戦が予想される。
「とても危険な作戦となりますが、ファクトリアを逃さぬよう、皆さんの力を貸してください」
潜入はファクトリア外周部にある29カ所の資源搬入口からになる。
全ての搬入口が中枢に続いているわけではない。ディザスター・キングはケルベロスの戦力を分散させるため、あえて中枢につながる搬入口とそれ以外の搬入口の警備を等しくしており、外部からはルートを予測できない。どこが中枢に繋がっているかは、実際に探索してみるまで特定できないだろう。
「複数チームが一つの搬入口から侵攻することによって、侵攻時の安全性は向上する一方、そのルートが中枢に続いていなかった場合、ディザスター・キングとの戦いに参加する戦力が低下してしまう危険があります」
●ファクトリア内の戦力とバックヤード
クロム・レック・ファクトリア内部は、ディザスター軍団のダモクレスの防衛部隊が展開している。
「彼らは、隠し部屋を用いた待ち伏せなどの奇襲攻撃を行って、少ない戦力で皆さんを消耗させる作戦を仕掛けてきます。そのうえで、最奥に当たる場所で有力な戦力を集めて皆さんの撃破を狙ってくるでしょう」
対抗するためには、敵の奇襲を察知して素早く撃破し、道中の消耗を避けつつ、有力ダモクレスとの決戦に勝利することが重要となる。
「この決戦に勝利後、そのルートが中枢に繋がっていた場合は、ディザスター・キングとの決戦が続くことになります」
ディザスター・キングとの決戦では、中枢に到達した全てのチームが協力して戦うことになるだろう。
「また、今回の作戦では『バックヤード』への攻撃も可能です」
だがもちろん、本来ファクトリアに向かうはずの戦力を割くことになるため、ファクトリア撃破が難しくなってしまうことを考慮しなければならない。
バックヤードは『2本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されている。
バックヤード内部に取り付くためには、巨大腕型ダモクレスと戦う2チームと、バックヤード内部の探索を行う1チームで、最低でも計3チームが必要になる。
「バックヤードには何らかの情報があるかもしれません。さらに、『探索活動中に暴走した2名のケルベロスが捕縛されている』可能性もあります」
探索に成功すれば、捕らえられているケルベロスの救出も、可能かもしれない。
これほど大量の資源を採掘していたということは、ダモクレスの大規模作戦が近い可能性も否定できない。
であればこそ、今回の作戦に成功すれば、ダモクレスの侵略に大きな打撃を与えることができるだろう。
「危険な任務をくぐり抜けて帰ってきてくれた仲間のためにも、この作戦、成功させましょう。……ディザスター・キングとの因縁も、ここで決着をつけることができるかもしれません」
そして、可能ならばバックヤードの探索も行いたいところだが……。
厳しい選択と決戦が、今、ケルベロス達の手に託された。
参加者 | |
---|---|
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308) |
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189) |
アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569) |
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106) |
甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289) |
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410) |
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978) |
木恒・赤成(ソラエスグリミスタ・e60902) |
●隠密探索
伊豆諸島海底。
次第にその全容を明らかにしていく巨大な建造物を、ケルベロス達は神妙に見つめた。
ダモクレスの資源採掘基地『クロム・レック・ファクトリア』。
(「大一番ですねぇ。バックヤード、中枢、どちらにダメージを与えても大影響ですよ。やっぱり防御よりも攻撃の方が心が沸きますね」)
壮観な光景に、七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)は感慨深げに胸中に零す。
(「うう~~好奇心がウズウズしますっ。けど不用意な行動はダメダメですよっ!」)
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)も敵の基地を目前にして、キラキラと目を輝かせている。
逸る気持ちを抑えて、ケルベロス達は目的地へと急いだ。
やがてたどり着いた23番搬入口にて、一行は他班の八人と合流した。互いの面々を確認しあうと、総勢十六人と二匹が同時に基地への侵入を敢行する。
(「これも一種の大規模ダンジョンアタック、冒険好きにはたまらない!」)
搬入口をくぐり抜けながら、甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)は胸を躍らせずにはいられない。しかしダンジョンで重要なのは冷静な思考、とすぐに気持ちを切り替える。
こちらのチームを左翼、合流したチームを右翼とし、二班は一塊となって慎重に基地内通路を進み始めた。各班から二人ずつ先行し、同様に二人ずつしんがりを務め後方に警戒する。隠密に特化した四人と四人で、本隊を挟んで移動する形だ。
(「道を塞ぐようなものがあったらすぐに呼んで」)
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)はハンドサインで意思疎通を図りながら、斥候役のツカサと七海を送り出し、自身は本隊の最前を進んだ。
(「情報収集情報収集、っと」)
後方に下がったシルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)は翼で適度な高さに浮遊することで足音を殺しながら、持参したカメラで基地内の様子を撮影していく。
(「何かあったら伝達よろしくデス。後方サポートは任せてくだサイ!」)
(「わかった、異変があったら鈴で伝える」)
強化バニー服のアップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)の目に賑やかなジェスチャーと、しんがりについた木恒・赤成(ソラエスグリミスタ・e60902)の端的なハンドサインが行きかう。
(「大所帯でわくわくです~。でも、油断はしないのですっ!」)
ピリカはそろーりと、しかし素早く仲間たちについていきながら、敵の気配がないか、仲間に不安そうな者はいないかに気を配っている。
基地内に解読可能な情報源となりそうな事物は見受けられない。事前に得られた情報も限られているだけに、マッピングをするのも一苦労だと、右翼から小さくぼやく声も聞こえる。
「敵地だけど、地図があればスーパーGPSで位置を把握できたのに」
「さすがにその手の情報……漏らすほど……うかつじゃないね……情報の妖精さんじゃ……ダモクレスの情報は抜けないし……」
同じく小声で返しながら、フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)はあかりのマッピング作業を手伝った。
息を殺し、各々に警戒を張り巡らせる本隊。
その前を先導する四人が、いち早く前方の通路に敵影を発見した。
敵影は以前戦場で一将を務めたメタルガールソルジャー・タイプGの同型機と思われた。哨戒任務用の量産型だろう。
『敵発見、単独警備中の模様、手筈通りに』
ハンドサインによる情報と緊張が一気にケルベロス達に共有された次の瞬間、
ケルベロスの布陣する通路を、青く輝くダモクレスの眼光が捉えた。
●発見、即、殲滅
基地内に侵入した、総勢十名を超えるケルベロス達。
それを認識するや、敵は迷いなく巨大機関銃を本隊へと差し向けた。
気配を消し、敵の間近まで先行していた斥候隊の姿は、その瞬間、完全に敵の盲点となった。
「――とった!」
小柄な動物形態から一瞬で人型に戻り、七海が真っ先に飛び出した。哭き烏の刀身が鋭く閃き、具現化した幻で敵を激しく打ち据える。
「目標補足……動くな!」
続けざま、右翼斥候隊からの攻撃が連続した。突然の不意打ちに、敵は背後に退きながら、照準を斥候隊へと素早く切り替えた。ガトリングが唸りを上げて大量の弾丸をばら撒いていく。
しかし、敵がまともに動けたのはそこまで。
すぐさま仲間に行き渡る治癒と強化。敵に降り注ぐミサイル、光線、黒い液体、氷結……浴びせられるグラビティは二班分、敵はたかだか一体。ケルベロスの集中攻撃は圧殺と呼ぶに相応しい光景を生み出した。
光の粒子と化した風流の突撃が突き刺さったのを最後に、敵は機能停止、その場にうち伏した。
(「よし、先を急ごう」)
通路を塞ぐように横たわる敵の残骸を、クリムが怪力無双を駆使して退け、一行は再び探索を開始した。
その後も幾度か敵と遭遇するも、慎重を喫した探索の甲斐あってか、敵はいずれも少数ばかり。罠に嵌ることも致命的な奇襲を受けることもなく、一行は数の有利を活かして難なく突破していった。
基地内部にかなり深く踏み込んだ実感を得た頃、斥候隊が、少し開けたスペースに到達した。
「下……」
湿らせた指を前にして低い姿勢をとっていたツカサは、空気の流れの変化を察知し、片手を上げて仲間たちを鋭く制止した。それと同時に、ルークがハッと天井を仰ぎ見、空間中央から飛びのいた。
「――じゃない、上だ!」
ツカサの警告に反応して一同一斉に迎撃態勢に入るのとほぼ同時、中央の天井が突如開口し、数体のダモクレスが吐き出された。
一行の前に重々しく着地したのは、黒いコマンダータイプの重装備型一体、桃色の軽戦士型一体、緑色の銃撃兵型二体の、計四体のロボット。
「待ち伏せ……!」
しかし敵の奇襲は不発、一行は万全の態勢で迎撃することとなった。
先手を取ったのは敵部隊。桃色の機体が軽やかにケルベロスの渦中に飛び込み、暴風の如き回し蹴りで前衛を薙ぎ払った。続けざま、二体の緑色の機体がエネルギー砲を方々に掃射し、黒い機体が脚部砲門を全開にして強烈なミサイルの雨を降らせてくる。
「燃えろ冒険心! 冒険はまだ終わらない!」
すかさず声を上げ、仲間を奮い立たせるツカサ。
「黒が攻撃、桃が妨害、緑が狙撃か。こちらを削りにきたな」
赤成はヴァイスマハトの捕食に任せて、前衛の黒い機体を縛りつける。
まずは攻撃手を、次に狙撃手を、最後に中衛を。あらかじめ決めた方針に従って、二班の集中攻撃が容赦なく敵に雪崩れ込む。
初手の弾幕でケルベロスの総戦力に察しをつけたか、敵は早々にクラッシャーの個別撃破へと戦略を切り替えてくる。しかしケルベロス達もフォローに怠りない。
「味方を……やらせはしない……」
フローライトは己が身をビーム砲の射線に投じ、右肩に硬化した紫葉牡丹型攻性植物と、右腕のシェイド・シールド、二重の盾で強烈なエネルギーを受け止めた。
二班はよどみなく連携し攻撃を集中させていく。果敢なる前衛コマンダーも瞬く間に膝をつくことになった。
「プリム、行くよっ!」
息ぴったりに敵前へと高々と躍り出るピリカとボクスドラゴン。強烈な叩き割りと小竜のタックルの連携が黒い機体を叩き伏せた。
「よーし、次っ! おんみょうだんをくらえ~っ!」
休む間もなく標的を後衛に切り替えた仲間たちに続き、ピリカは強烈な赤青の点滅を狙撃手たちに投げかけていく。
二体の狙撃手に範囲攻撃が続々と降りかかり、状態異常を重ねながら集中攻撃が畳みかけられる。リノンのエネルギー光弾が一体目を、結乃の凍結光線が二体目を、次々に打ち破っていった。
残るは桃色一体。ケルベロスの攻撃密度はいや増し、瀑布の如く敵を呑み込んでいく。
なんとか反撃に移ろうと、敵が素早く身を翻した瞬間、
「……終わりだよ」
平静なクリムの呟きと共にほとばしった雷撃が、機械の躯体を激しくも鋭く打ち据え、最後の一体もまた、あっけなく機能を停止し床に沈んだ。
安堵し、互いの無事を確かめあう一同。
「……あ」
怪力無双で敵の残骸を退けたところで、アップルが小さな声を上げた。忙しないジェスチャーで仲間たちを激しく手招き、奥へ続く通路の先を指さして見せる。
示された先には、いかにも最奥であるらしきどん詰まりに、メタリックに輝く騎士型ロボットの姿があった。
●銀の精鋭
――事ここに至っては、もはや逃げ隠れする意味はない。
ケルベロス達は陣営を整え直すや、通路をまっすぐ駆け抜け、敵のいる大部屋へと真正面から乗り込んだ。
精鋭といった風格の銀騎士は、目前に滑り込んできた大所帯に向けて、肩に担ぐ砲身からビーム砲を無造作に一閃させた。しかし八人と二匹からなる前衛の厚みがその力を分散させ、最小限の被害で切り抜けた者たちが爆風の中を次々飛び出し敵へと襲い掛かっていく。
「さぁ! ここからがわたし達のステージだよっ!」
シルヴィアは隠密の鬱憤を晴らすかのように熱唱し始めた。奮起を促す歌が、仲間たちの背を押していく。
「おさわりは禁止デスヨ♪」
銀騎士の足元をすれ違うように器用にすり抜け、アップルは塗料をばら撒いていく。
「失われた領域の管理猫、にゃにゃにゃにゃみ。私がいる場所はことごとく私の領域(じたく)と知りなさい」
閃く刃に惨劇を写し取る七海。
「さぁ、自宅警備しましょうか」
自宅と書いて地球と読む。地球を脅かす敵は、滅すのみ。
グラビティが息つく暇なく敵へと降り注ぐ。銀騎士はケルベロスの動きと立ち位置、戦術を見据え……逡巡にも似た演算ののち、ケルベロス陣営に深く踏み込んでブレードを振り下ろした。
鋭い切っ先に捉えられたのは――中衛。
「――っ」
直撃を受け、地面に叩きつけられる赤成。
ブレードを振り下ろした銀騎士の頭上には、高々と跳躍する人影があった。
「硬いね……ディフェンダーかな。防衛部隊らしい」
跳び上がったクリムは、敵の姿を高速演算にかけながら呟くと、銀騎士の構造弱点を痛烈な一撃で破壊した。
「守護者に祝福を……! 罪人に罰を……!」
歌って踊れて戦えるケルベロスアイドル、シルヴィアの本領発揮、戦乙女の祝福。聖なる即興歌が治癒をもたらす。
「葉っさん……護りの光を……」
フローライトがプラズマブレイドから治癒の力を撃ち込んだ。淡い護りの光が盾となって、赤成を手厚く守護する。
銀騎士は次から次へと猛攻を浴びながら一旦身を引くと、再度砲門からビーム砲を発射した。狙われたのは、やはり中衛。減衰されないビームの威力が赤成とイズナを薙ぎ払う。
頭上を通り過ぎたビームの軌道に、ツカサは悔しげに顔をしかめた。
「中衛が集中的に狙われてる……! 前衛だと範囲攻撃の効果が薄くなるから、中衛から一点突破するつもりだ!」
「大丈夫、こっちの回復だって条件は同じ! 私の歌を聴けーっ! ってね♪」
シルヴィアは至って前向きに、歌で中衛の守護を高めていく。
助かる、と短い礼を返し、赤成は痺れの祓われた体で敵の懐へと飛び込んだ。
「オレの攻撃がそんなに気に食わなかったのか? そら、お返しだ」
妖刀『リョクリ』から繰り出される呪われた斬撃が、銀騎士の魂を啜っていく。
七海とアップルは一瞬視線を交わしあうと、啖呵を切るように詠じ始める。
「白き兎が描きしは、乙女の純情恋の炎!」
「不吉の黒猫が招きしは、母なる抱擁、不滅の黒!」
さあ、燃え果てろ!
「「生火死華」」
檻と化した髑髏に囚われた銀騎士を、炎の花びらが竜巻となって焼き尽くした。
銀騎士は徹底して中衛、特に赤成に狙いを絞った。だがケルベロス達も右翼左翼双方から盾役が守備に入り、ユージンのエネルギー光球、リューディガーのドローン、あかりのぐねぐね踊りも班を超えて癒しを施し、二つの班は適宜中衛をフォローしていった。
敵への返礼は圧倒的手数。斬撃、打撃、銃撃、幻影、魔術……畳みかけられる多種多様なグラビティ。押し込まれた銀騎士は盾で攻撃を凌ぎながら、流体金属で装甲の傷を塞いでいく。
「自己修復……浄化の力も……あるみたい……」
感情を窺わせない眼差しで、フローライトは治癒の種類を的確に読み取った。
「なんの! 回復された以上の攻撃で押し潰そう!」
ツカサは大きく跳躍すると、手裏剣を大量に分裂させて銀騎士の頭上から一気にばら撒いた。
「敵さん弱ってる~っ! みなさん、あと少しですよっ!」
持ち前のポジティブさと謎の自信を乗せて、ピリカアックスが猛威を振るう。
フローライトは薬液入りのアンプルを足元に叩きつけた。霧状薬液から女性らしきシルエットが立ち昇る。
「……それが……あなたの『核』……捉えたよ……」
二重詠唱『核分裂』。二人の魔術の交差が銀騎士の核を引き裂く。
「「貴方に愛の永劫を――ラブ&ピース!」」
今度は歌うように詠唱を重ねる七海たち。紅のハートと黒の髑髏、左右から合流する二つのエネルギーが、敵を愛と平和の力で挟み込む。
「派手に……いっけぇぇーっ!!!」
聖なる即興歌を破壊者への罰に変え、シルヴィアは絶叫せんばかりに歌を叩きつけた。
「ずいぶんと痛めつけてくれたな。――蝕め」
きわどいところまで追い込まれながらも、赤成の戦意には一切の陰りもない。呪詛を籠めた特殊弾丸を連射し、着弾した傷口から怨霊たちの呪いで侵食していく。
クリムの足は片時も止まらない。壁、天井、時には魔術で足場を創り出し、軌道を読ませぬ動きで敵へ肉薄する。
「穿て。穿て。穿て。咲いた花が散るように。満ちた月が欠けるように。――私の槍からは逃げられない」
魔力によって限界まで強化された肉体から繰り出される神速の突きは、あたかもホーミングミサイルの如し。
「そこだぁっ!」
二班合わせての怒涛の攻撃の結びに閃いたのは、美しい軌跡を描くルークの斬撃。
「リペイントして上げマース」
その傷口へと、アップルはビビッドな塗料を豪快に飛ばし、塗りつぶす。
真っ赤な真一文字を刻みつけられた銀騎士の全身は力を失い、重々しく地面に崩れ落ちた。
●クロム・レック崩壊
最奥のどん詰まりは、本物の袋小路だった。中枢に繋がるような通路や隠し扉、ダクトの類もない。
つまり、『はずれ』である。
「ッチ、ブービー賞もなしか」
赤成が口惜しそうにぼやいた。
となればここで時間を消費するのは無意味だ。内部から他の班に合流できるとは思えない。
「行こうよ。戻って、他の搬入口の班の退路確保とか撤退を援護しないと」
イズナの言葉に頷き、一同は急ぎ来た道を引き返した。
――クロム・レックの崩壊が始まったのは、彼らが撤退を開始して暫く経ってからとなる。
作者:そらばる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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