クロム・レック決戦~轟然

作者:沙羅衝

 集まったケルベロスは、複雑な表情をしていた。彼らの目の前にはヘリオライダーの宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)。理由はこうだ。伊豆諸島海底部に存在しているダモクレスの施設の調査に向かっていたケルベロス達が戻り、その結果を聞いたからだった。
 まず成果としては、海底熱水鉱床で、多くの資源がダモクレス勢力によって奪われていた事が判明したこと。これは価値の高い情報であった。ただ、その情報の為に、暴走者が二名発生してしまったという事だった。その表情を見ながら、絹は説明を続ける。
「ええか。この資源の採掘をやっていたのが『クロム・レック・ファクトリア』。で、その護衛として『ディザスター・キング』率いるディザスター軍団の姿があったみたいや」
『ディザスター・キング』。そのダモクレスの名を聞き、ケルベロスは唸った。先の戦争で幾度と無くケルベロス達と対峙した強力なダモクレスだ。その者が直接防衛指揮をとっているのだ。
「ちゅうことはや、ここ『クロム・レック・ファクトリア』はダモクレス全軍にとって重要な役割を果たしている事になる」
 という絹の言葉に、異議を唱えるものは居ないだろう。
「んで、もうちょっとわかったことやけど、伊豆諸島海底部にはもう一基の拠点ダモクレス『バックヤード』の姿もあるみたいや。詳細は不明やけどな、どうやら巨大な『環状の門』のような形状から『魔空回廊を利用して、採掘した資源の輸送を担当している』んちゃうかって、考えられてる。そこには巨大な腕型のダモクレスが確認されててな、指揮官として『五大巧』っちゅう、おそらく5体の強大なダモクレスが存在しているようやな。
 クロム・レック・ファクトリアが採掘した資源量は膨大や。概算やと『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半は、ここで採掘されたと考えて間違いない。ちゅうことはや、ここを叩く事に成功したら、ダモクレスへの打撃は非常に大きいものになるで。もう、わかっとると思うけど、今回の依頼は……」
「ここの、撃破……」
 ケルベロスの一人がそう呟くと絹はせや、と頷いた。
「ただや……。ここの拠点を暴いたという事は、当然向こうはわかっとる。せやからダモクレス勢力は、『クロム・レック・ファクトリア』の移動準備を開始したみたいや。遅くとも一週間以内に移動準備を整えて、伊豆諸島海底から姿を消してしまう。そうなるとや、折角手に入れた大事な情報も、無駄になる。移動する前に叩くで。んで、破壊する。
 その破壊の為には、内部に潜入してディザスター軍団の防衛網を突破した上で、ファクトリア中枢に侵入、そんでディザスター・キングの守る中枢部を破壊せなあかん。想像するだけでも、骨の折れる仕事である事は間違いないな。
 ダモクレス側も『ケルベロスの襲撃を撃退すれば、撤退までの時間が稼げる』わけや。決死の防衛を行ってくるやろ。危険な任務になるけど、ここが正念場っちゅうのも、分かってくれたと思う。無理を承知で、頼むで」
 絹の表情は、いつになく真剣なものだった。その表情を見てケルベロス達は、覚悟を決めながら、任せろ、と力強く頷いた。
「有難う。
 まず、潜入方法。クロム・レック・ファクトリアの外周部には29箇所の資源搬入口がある。そこから内部に潜入するで。でも、何処が中枢に続いているかはわからん。せやから、他のチームとは出来るだけ別の入り口から潜入せなあかん。他のチームともし一緒になった場合は、その分戦いは楽になるやろけど、中枢に繋がっていなかった場合は、中枢での戦力がその分減ってまうからな。そのへんが難しいところやな。
 相手は敢えて、中枢に繋がる搬入口と、それ以外の搬入口の警備を等しくしてこっちの戦力を分散させようっちゅう作戦を取ってくるみたいやから、警備の様子などから予測するのは不可能や。
 中枢に繋がる搬入口以外も、ディザスター軍団のダモクレスによって堅く守られてるから、敵を撃破して実際に探索してみるまでは、その搬入口が、中枢に続いているかどうかを確認する事も出来ん」
 絹の説明にケルベロス達は、どうすべきかお互いに考え始める。ここで大事な事は何なのか。それがポイントとなりそうだ。
「相手の情報やけど、勿論ディザスター軍団のダモクレスの防衛部隊が展開してくるで。
 向こうの城であるわけやから、相手に分がある。こっちが知らん隠し部屋とかで待ち伏せしたり、奇襲なんかもあるやろ。少ない戦力でこっちを削って、奥のほうで有力な戦力を集めてくる。
 これに対抗するには、その奇襲を察知することで道中の消耗をなるべく減らす。んで、有力ダモクレスとの決戦に備える。地味やけど、これが大事や。中枢に繋がっていた場合は、『ディザスター・キング』との決戦が続くわけやからな。そこで、他に中枢に到達できたチームと協力して戦う事になる」
 それぞれのチームを信じて、中枢に向かうこと。一つのチーム全てが大事であり、気を抜くことが出来ない事は、容易に想像ができた。
「あと、や。『バックヤード』で、『探索活動中に暴走した2名のケルベロスが捕縛されている』可能性がある。ここの探索に成功した場合は、そのケルベロスの救出も可能かもしれん。
 バックヤードは『2本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されているから、バックヤード内部に取りつく為には、巨大腕型ダモクレスと戦う2チームと、バックヤード内部の探索を行う1チームで、最低3チームがバックヤードへの攻撃を行わんとあかん。それが無いと、内部の情報を得る事も不可能になってまうし、クロム・レック・ファクトリアへの手数が減る訳やから、当然この撃破成功の確率も下がる。その辺は、良う考えてな」
 絹は一連の説明を終えると、手に持ったタブレット端末を机に置く。そこにはディザスター・キングの画像が映し出されている。その画像を見ながらケルベロス達を見る。すると、彼等は大丈夫だ、と答えてくれた。
「ディザスター・キングは、強力なダモクレスや。撃破するには単体では難しい。しかも地の利は向こう。激戦になるやろ。でも、皆やったら出来るって信じてる! せやから、頑張ってな!」
 絹はそう願い、頭を下げる。するとケルベロスは笑顔でこう言うのだった。
「ご馳走の準備、宜しく」
 と。


参加者
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)
シィ・ブラントネール(フロントラインフロイライン・e03575)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
シータ・サファイアル(パンツァーイェーガー・e06405)
ソル・ログナー(陽光煌星・e14612)
リョウ・カリン(蓮華・e29534)

■リプレイ

●1番搬入口
 ざば……。
 海へと繋がる搬入口から、シィ・ブラントネール(フロントラインフロイライン・e03575)が顔を出した。彼女はキョロキョロと警戒しながら周囲を見回し、シャーマンズゴーストの『レトラ』に頷きかけた。
 レトラは再度海に潜り、待っているケルベロス達の前にすぃっと現れ、黒いシルクハットを右手で取りながら、左手を胸に乗せる。そのままお辞儀と共に、左の掌を搬入口へと差し出した。
(「大丈夫って事だな……」)
 ソル・ログナー(陽光煌星・e14612)はレトラの意図を読み取り、ニカっと分かりやすく口角を上げて、親指を上に向ける事で意志を示した。
 クロム・レック・ファクトリアへと向かったケルベロス達は、それぞれに潜入を開始していた。
 ソル達8人が選んだのは『1番』。どうやら絹が誕生日を迎える事を知っていたらしく、それにあわせてそうしたようだ。その理由は絹には言っていない。それは正解だろう。知ったら、帰ってからのご馳走が大変なことになるだろう。
(「宮元の歳の31歳の『1』から取っただなんて、言えないわよね……」)
 黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)はそう思いながら、搬入口に入っていった。

「どうだ?」
 霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)が先行していたシィに、そっと声をかけた。
「まだ大丈夫みたいね! でも、油断は禁物ね!」
 シィの声に頷くカイト。頭の上に上げていたバイザーを、眼の位置にセットする。すると彼は不思議な気流を纏い始めた。何処まで敵に通じるか分からないが、やれるだけの事はやろうと思ったからだ。ボクスドラゴンの『たいやき』も、主の姿を見てそろりとした歩き方を始めた。
「面白スポットは、なさそう……かな?」
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)は周囲の面白スポットを探ったのだが、『面白く』は無いのか、特に見つけることは出来なかった。
「うーん。熱源は……っと」
 リョウ・カリン(蓮華・e29534)は、熱源を探知するサーモグラフィ付きのゴーグルを下げてみた。
「熱源……だらけ、か」
 ここはダモクレスの基地である。機械の多くが赤く反応する。それが敵かどうかが問題だったが今のところ判別は付かない様だった。
「進むしかありません、ね」
 ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)がそう言うと、一行は注意深く進み始めた。
「注意を怠らない事が、ここを攻略する鍵よ」
 シータ・サファイアル(パンツァーイェーガー・e06405)は、歩きながら言う。彼女はここではない、もう一つのファクトリア『マキナ・ギア・ファクトリア』へと潜入した経験を持つ。その時の経験を出来るだけ伝える事にした。
「とは言え、こことは違うだろうから、その事も踏まえて慎重に行動するよ。そして、何よりも大事なのは、生きて帰る事」
 全員が頷いた時、前方からガシャンガシャンとした機械音が聞こえてきた。
「来たみたいね!」
 先頭に立っていたシィがその事に気が付くと、オウガメタル『Miroir』を呼び出した。

●奇襲
 ケルベロス達に向かってきたのは、大きな砲身を構えたダモクレス『カーボナード・コマンダー』が2体だった。
 ドド!!
 ケルベロスと分かるや否や、即座に二つのビームが飛んできた。
「礼儀も何もあったものじゃないわね! レトラ、お願い!」
「チビ! 頼んだぜ!!」
 すると、二匹のサーヴァントが、ケルベロス達の前に立ち塞がり、そのビームを受ける。ケルベロス達は、道中の前衛、特に体を張って守る盾を、リョウとこの二匹のサーヴァントに託したのだ。
「さあ、気合い入れて行くとしようか!」
 リョウ声が、ケルベロス達の攻撃と合図となった。
 サーヴァントを従えたリョウへと攻撃を行っている間に、ケルベロス達が一気に攻撃を加える。消耗戦にもなりかねない状況だ。短期決戦が勝負の分かれ目と見た。
 陽葉が『金烏の弓』に矢を番えず弦のみを引く。
『響け、大地の音色』
 ぶん! という空気を震わす音により、左のカーボナード・コマンダーの足元が少し崩れる。
「そこだ!」
 ソルがガジェット『mortality arms』の狙いを定め、そのダモクレスに弾丸を撃ち込むと、左肩が吹き飛び即座に氷が発生する。
 そして右の敵にはリョウのエアシューズ『赤翼』が、炎と共に唸りを上げながら蹴りこまれると、片足を砕いた。
 続けてシィが時間を凍結させる弾丸を右の敵の腹へと着弾させた。
「敵だらけのダンジョンには、1万『階』も潜っている私。まずは、倒せる敵から倒す……」
 勝機と見た舞彩が、ブラックスライム『屍竜絶血』を開放する。
「それが定石……。なんてね」
 竜の血と共に形成されたという黒い液体が、右のカーボナード・コマンダーを飲み込むと、一瞬にして捕食が完了したのだった。
 もう片方のカーボナード・コマンダーも、倒す事に時間はそれほどかからなかった。シータが砲撃形態に変えたドラゴニックハンマーから竜砲弾を打ち放つと、ミチェーリがバトルガントレットに冷気のオーラを圧縮、実体化させた氷の杭をセットし、突っ込む。
『この一突きで穿ち抜く! 露式強攻鎧兵術、“氷柱”!』
 カーボナード・コマンダーの左胸に、氷のパイルが打ち込まれ、貫通した。そしてその撃ち込まれた氷が砕け散ると同時に、もう1体のカーボナード・コマンダーも砕け散っていったのだった。

「さて、行こうか……」
 ソルがそう言うと、地響きの様な音が轟いた。
「戦闘……音!?」
「少し、激しいですね……」
 舞彩が呟くと、ミチェーリはトナカイの角を少し立てるように、音の来る方向を冷静に確認する。近いが、遠い。ミチェーリはそんな感覚を覚えた。
「これは……きっと、お隣さんね!」
「そうだな、確か2番だったか……」
 シィが言う『お隣さん』とは、2番の搬入口から進んだ者達。ソルはどのチームが何処に進んで行ったかを事前に把握していた為、すぐに彼らの顔が頭に浮かんだ。確か彼等は2チーム合同との事だった。少し賭けではあるだろうが、その分成功した時のバックは大きい。当然人数が多い分、既に自分達よりも先に行っているのだろう。
「じゃあ、こっちも急ぎたい……と、ちょっとまって……」
 再びゴーグルをかけるリョウ。見る先は、少し先に存在する曲がり角だった。
「おおー、これは……居るね」
 狙いがビンゴだったことが分かったのか、リョウは無邪気に笑う。
「突き当たりの右に、大量の熱源があるね」
 すると、頷いたカイトが、再び気配を消した。
 その間にダメージを負っていた二匹のサーヴァントを治療する。
 準備は万端だ。ミチェーリが殿を務め、シィと陽葉、それにシータが更に周りを警戒する。
 そしてソルがゆっくりとその熱源の場所へと足を向けた。
 ダン!
 音を消していたブーツを今度は思い切り踏み鳴らすソル。と同時に、カイトが一気に踊り出てパイルバンカーを振るう。
 ドウゥ!!
 人体自然発火装置からの火の手が戦闘の合図となった。

●突撃
 待ち構えていたダモクレス達を全て倒したケルベロス達。相手の奇襲に奇襲をもって対抗した成果は大きかったが、それでも無傷とは行かなかった。特に二匹のサーヴァントの体力は危ない状態まで来ていた。奇襲に気がつかなかった時は、もっと被害が大きかったはずだ。

「よし……。さあ、次だ……」
 シータがそう言って先の通路を見据えたとき、明らかなる異変に気がついた。
「敵だ! 皆、戦闘継続!!」
 シータの声に、全員が意識をもう一段階上げ、定位置につく。
 ゴーと言う音。そして光。
 何かキラリと光ったと思うと、いきなりその者は眼前に迫っていた。
 ガッ!!
 鈍い音を上げ、たいやきが吹き飛ばされ、壁に2度3度と打ち付けられた。そして、たいやきはそのまま動かなくなった。
「チビ!!」
「もう一回、来るよ!!」
 陽葉は通り過ぎた敵が、再びこちらに向かってくることが分かり、警戒の声をあげながら『金烏の弓』を引き絞った。
 ど……ばぁん! という金属で何かを弾いた時のような音が、通路に響き渡る。陽葉の噴き上げた土砂のグラビティは命中し、その手ごたえはあった。だが、光は少しの揺らぎの後、速度を緩めない。
「レトラ、交替よ!!」
 シィがその光の前に立ち、『Miroir』をその手に集めて集中を開始した。
 ゴッ!!
 鈍い音と共に、その金髪のオラトリオの女性が翼を広げながらその突撃してきた光を受け止める。
「はあああ!!!!」
 そのまま両拳に宿したオウガメタルと、ダモクレスの右腕に装着された真直ぐに光る剣状の武器が火花を上げる。
 ドウッ!!!
 だが、途中でそのダモクレス、『ディザスター・ナイト・FA』の力が勝る。その勢いに飛ばされるシィだが、何とか通路の壁に足をつけて着地した。
「大当たりってやつかな? 行くぞ!」
 敵の強さはすぐに判断できた。強い。それだけは確実だ。
 ソルはドラゴニックハンマー『蒸気式魔力鉄槌・業魔粉砕』に全霊をこめて、ぶんと振り回す。
 だが、その攻撃は敵の左手にある硬質化されている部分で受け止められる。
 すかさずリョウが、体に青白い虎のような模様を浮かび上がらせて、低空で蹴り上げる。そしてまた少し後方に飛び退り、距離を取る。続けてミチェーリが、電光石火の蹴りを少し浮いた敵の眉間に飛びあがりながら打ち込んだ。
 そして立て続けに、シータの竜砲弾がディザスター・ナイト・FAを追撃する。
 だが、竜砲弾の砲撃をもってしても、まだ倒れる様子はなかった。ギロリと睨むように、双眸の光がケルベロス達を射抜いた。
 まだ傷は浅い。だが、着実にその移動力を止める事が肝心だと踏んだケルベロス達は、再び集中を開始する。
「頼むぜ、舞彩」
 カイトは倒れたたいやきの事を少し心配しながら、代わりに全員の盾になろうと動いた後、そして、周囲の水分を氷を凍らせていく。
『……北に座す極星の光よ。導きの為に不変たれ』
 北極星のような輝きが、舞彩に降り注ぎ、彼女の集中力を高めさせた。体は熱く燃え滾るようだが、カイトの冷気が冷静さを保たせる。
「止まれ!!」
 そして、舞彩が目を見開いた時、ケルベロスチェイン『ドラゴニックチェーン』が、ディザスター・ナイト・FAを捕縛したのだった。

●1番搬入口
 ケルベロス達は、防御の体制を取りながらも、狙い済ませた攻撃を加えていった。強敵と相対するには、防御も肝心だが、攻撃の手を緩める事はかえってジリ貧になる事があると分かっていたからだ。回復に専念する者を敢えて無くし、カイトが盾で軽減するまでに留めたのはこの為だった。
 その分、当然此方へのダメージの回復は追いつかないが、先に動けなくする事に特化した。そのおかげか、敵の刃にカイトとリョウが大きく傷つき、レトラが動けなくはなったが、動きを封じ込める所までたどり着いたのだった。
 ゴゴゴゴ……。
 その時、何やら大きな地響きが伝わって来た。最初のものより大きい。どうやら他のケルベロス達も頑張っている様だった。
「他の皆が待ってるかもしれないからな。手っ取り早くいくぜ!!」
 ソルが全身に星の力を宿し、一気に距離を詰める。
『創星は空を往き、闇を裂く。catch this, shooting stardust!!』
 ソルが地を這うようなアッパーを振り上げ、飛びあがると、その拳がディザスター・ナイト・FAの顎を捉える。
「まだだ!!」
 そしてそのまま空中でクルリと体勢を変えて、もう一撃を叩き込む。続けて陽葉のオウガメタル『雪と星の導き』が、その頑丈な装甲を砕き、カイトが炎を打ち付けた。
『シャボン玉遊び、したことあるかしら? 触るとすぐに壊れちゃうの。こんな風に、ね?』
 シィが無数のシャボン玉を呼び出し、そして舞彩が左手の剣に地獄の炎を纏わせ、そして右手の剣には闘気の雷を纏わせる。
 シィのシャボン玉は、弾けると同時に敵の中枢回路を揺さぶり、エラーを起こさせる。そこへ、舞彩が突っ込む。
『竜殺しの大剣。地獄の炎を、闘気の雷を纏い二刀で放つ!』
 両腕から繰り出される超速の剣が、ディザスター・ナイト・FAを何度も何度も切り付ける。そして最後に十字に斬ると、後ろに飛び退る。
「消し飛べ!!」
 ドゥン!!
 その傷口から大きな爆発が捲き起こる。だが、これでもディザスター・ナイト・FAは倒れない。しかし、ケルベロス達も攻撃の手は緩めない。
「強い……上等!!」
 リョウはもう少しで倒れそうではあったのだが、最後の力を振り絞り、左脚に影を纏って飛びあがった。
『陰を守護せし影の虎、その蹴撃は万物の護りをも蹴り砕く!』
 バキィ!!
 リョウの蹴りは、ディザスター・ナイト・FAの左腕を装甲もろとも吹き飛ばす。
『この一突きで穿ち抜く!』
 そこへ、ミチェーリが氷のパイルを渾身の力で右胸に打ち込んだ。
『この十秒の間、可能な限り敵に撃ち込む…行くぞ!』
 シータがリミッターを外し始める。一時的にだが、超高速機動戦闘モードに移行する為だ。
『リミッターリリース、オーバードライブシステム…ブースト!!』
 彼女の超高速移動が、弾丸を弾幕の如く撃ち込む事を成功させる。その速度が、まるで質量を持った青白い残像の様に残ったと思った時、その弾丸は煌いた。
 ドドドドドドドドドドドド!!!!!
 その弾丸が全弾命中した時、ディザスター・ナイト・FAは崩れ去ったのだった。

「ハズレってやつか……」
 強敵を倒した後、ケルベロス達が進んだ先に現れたのは、壁だった。
 ソルが殴りつけ、破壊しようとするがびくともしなかった。
 地響きが轟然と響き渡る音を感じながら、ケルベロス達は仲間を信じつつ、来た道を戻っていった。

 再び1番搬入口を訪れると、大きな爆発音が響き渡った。
 間違いない。崩壊する音だ。
 やったのか? ケルベロス達はそう思いながら、搬入口へと飛び込んだ。
 急ぎ、1番搬入口を飛び出しして行くケルベロス達。そして眼下に広がる光景は、クロム・レック・ファクトリアが中心から崩壊し始める様子であった。
(「成功……したんだな」)
 カイトがそう思っていると、間一髪次々と飛び出し、脱出してくるケルベロス達が見えた。
 崩壊と同時に爆発した場所では、衝撃で飛ばされるケルベロスもいるようだが、すぐさま泳ぎを再開している所を見ると、大丈夫のようだ。
 バックヤードからも、複数のケルベロスが泳いでくるのが見えた。
 彼らは暴走者の救出に入っていったはずだ。出来れば、朗報を聞きたいところだ。

 最後にバリッという光がファクトリア全体を覆った。
 全てが同時にゆっくりと崩れ落ちる。そして光はやがて泡と共に弱くなり、海に溶けるように消えていったのだった。
 それが、クロム・レック・ファクトリアの最期だった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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