クロム・レック決戦~海底に響く番犬の咆哮

作者:澤見夜行

●ファクトリア破壊作戦
 新たな作戦が立案されたことにより、番犬達が召集された。
 集まった番犬達を前に、クーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が説明を開始する。
「『クロム・レック・ファクトリア』の探索に向かっていたケルベロスが帰還したのです。
 二名のケルベロスが暴走して敵の追撃を食い止めて――と厳しい撤退戦となったのですが、得られた情報は非常に価値の高いものだったのです」
 モニタに表示された場所は伊豆諸島の海底部だ。
「まず、伊豆諸島海底部の海底熱水鉱床で、多くの資源がダモクレス勢力によって奪われていた事が判明したのです。
 この採掘を行ったのが『クロム・レック・ファクトリア』で、その護衛として、ディザスター・キング率いるディザスター軍団の姿があったようなのです。
 ディザスター・キングが直接防衛指揮を執っている事からも、『クロム・レック・ファクトリア』が、ダモクレス全軍にとって重要な役割を果たしている事は間違いないのです」
 そうしてモニタはもう一つの映像を映し出す。
「更に、伊豆諸島海底部にはもう一基の拠点ダモクレス『バックヤード』の姿も確認されているのです。
 『バックヤード』の詳細は不明ですが、巨大な『環状の門』のような形状から『魔空回廊を利用して、採掘した資源の輸送を担当している』と考えられるのです。
 『バックヤード』側の戦力は巨大な腕型のダモクレスが確認されており、指揮官として『五大巧』という、恐らく五体の強大なダモクレスが存在しているようなのです」
 『クロム・レック・ファクトリア』と『バックヤード』それを守るディザスター軍団と五大巧。ダモクレスの強大な戦力が集中していることになる。
「『クロム・レック・ファクトリア』が採掘した資源量は膨大であり、概算では『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半は、ここで採掘されたと考えて間違いない規模なのです。
 つまり、クロム・レック・ファクトリアの撃破に成功すれば、ダモクレスへの打撃は非常に大きなものとなるはずなのです!」

 作戦の主旨を説明し終えたクーリャが、続けて突入方法を伝えてくる。
「ケルベロスによって拠点の場所を暴かれたダモクレス勢力は『クロム・レック・ファクトリア』の移動準備を開始したようなのです。
 遅くても一週間以内に移動準備の整った『クロム・レック・ファクトリア』は、伊豆諸島海底から姿を消してしまいそうなのです」
 ファクトリアが移動してしまえば、大きな犠牲を払って手に入れた情報が無駄になってしまうだろう。
 その為ファクトリアが移動する前に撃破する必要がある。短期決戦だ。
 ファクトリアを破壊する為には、内部に潜入し、ディザスター軍団の防衛網を突破、中枢へと侵攻し、ディザスター・キングの守る中枢部を破壊する必要がある。
 当然ダモクレス側も『ケルベロスの蹴撃を撃退すれば、撤退までの時間が稼げる』として、決死の防衛戦を行ってくるだろう。
「危険な作戦となるのです。どうか、皆さんのお力を貸して下さいっ!」
 ぺこりと頭を下げたクーリャが実際の突入について説明を行う。
「ファクトリアの外周部には複数箇所の資源搬入口があり、そこから内部に潜入することが可能なのです。
 しかし、全ての搬入口が中枢に続いているわけでは無い為、特定の突入口からのみの突入は避けなければならないのです」
 ディザスター・キングは敢えて、中枢に繋がる搬入口と、それ以外の搬入口の警備を等しくすることで、ケルベロス戦力を分散させようという作戦だ。警備の様子から予測するのは不可能だろう。
 堅牢な敵を撃破し、実際に探索する必要がある。
 仮に複数チームが一つの搬入口から侵攻した場合、侵攻時の安全性が向上しますが、その搬入口が中枢に続いていなかった場合、ディザスター・キングと戦う戦力は低下してしまうだろう。

「ファクトリア内部は、ディザスター軍団の防衛部隊が展開しているのです。
 彼らは、隠し部屋を利用した待ち伏せなど、奇襲攻撃を得意とし、少ない戦力でケルベロスを消耗刺せる作戦を仕掛け、最奥となる場所に、有力な戦力を集めこちらの撃破を狙ってくるのです」
 対抗するためには、奇襲を察知し、素早く撃破。道中の損耗を避けつつ、有力敵との決戦に勝利することが重要だろう。
 この決戦に勝利後、通路が中枢に繋がっていた場合、ディザスター・キングとの決戦が続くことになる。
 中枢に到達した全てのチームの力を合わせる戦いになるはずだ。
「今回の作戦では『バックヤード』への攻撃も可能なのです。
 しかし、バックヤードに戦力を投入した場合、ファクトリアの撃破が難しくなってしまうので考慮が必要なのです」
 バックヤードは『二本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されている為、内部に取りつくためには巨大腕型ダモクレスと戦う二チームと、バックヤード内部の探索を行う一チームで、最低三チームがバックヤードへの攻撃を行わなければ内部の情報を得ることも不可能だ。
「また、バックヤードには『探索活動中に暴走した二名のケルベロスが捕縛されている』可能性が高く、探索に成功すれば、捕らえられていたケルベロスの救出も可能かもしれないのです」

 説明を終えたクーリャが資料を置き向き直る。
「大規模な資源採掘を行っていたということは、ダモクレスの大規模作戦が近いかもしれないのです。
 けれど、今回の作戦に成功すれば大きな打撃を与えられるはずなのです。
 ……危険な探索任務を成功させた皆さんの為にも、この作戦は成功させたいのです。
 そして、ディザスター・キングとの因縁も、ここで決着をつけれるかもしれないのですね。
 バックヤード探索など、状況は複数想定されますが、どうか、皆さんのお力を貸して下さい!」
 今一度ぺこりと頭を下げたクーリャは、そうして番犬達を送り出すのだった。


参加者
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
円谷・三角(アステリデルタ・e47952)
リリベル・ホワイトレイン(怠惰と微睡・e66820)

■リプレイ

●敵基地を進む
 伊豆諸島海底部。
 ダモクレスの巨大海底基地『クロム・レック・ファクトリア』に番犬達が侵入する。
 選んだ入口は<19>番。
 この入口が中枢へと繋がっているかは神とディザスター軍団のみぞ知るところだが、番犬達は”当たり”を引くことを信じて進む。
「海底に基地を構えるだなんて趣味悪いですね……」
 先頭を走るディフェンダーの一人、京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)は濡れた全身を犬のように振るい水を飛ばした。濡れるのが嫌いな夕雨にとって、海底基地というだけで行くのも憚れるものだが、来たからには某かの戦果を期待したいところだ。
 スーパーGPSで自分達の位置を表示しながら、マッピングを担当する。敵基地の探索には必要不可欠な役割であり、作り上げられた地図によって基地内で迷うリスクはなくなったと言って良かった。
「静かデスね……でも嫌な気配は感じるデス」
 隠密気流を身に纏い、静かに進むシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)。感じる気配は進む道の先にある。敵基地である以上、いつなにが起こってもおかしくはなかった。
 番犬達のほとんどが隠密気流を身に纏っていた。敵基地を進む上で、この隠密気流はこの上なく役に立ち、想定したとおり接敵の回数を減らすことに成功していた。
 とはいえ、今回の戦場は番犬達の襲撃が予想されたものであり、要所ではディザスター軍団が待ち受けており、戦いを回避することは難しかった。
「それなりに数が多いね。
 この道が当たりだと良いけれど……」
 周辺を警戒するロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)が、敵を見つけ言葉を零す。
 個人的な借り――去年の大規模な戦いにおける友人の暴走――を返したいと考えていた。この戦いで決着をつけれればよいが……。
「……罠はなさそうだね。
 ……こっちの道を進んでみようか」
 ロベリアと同じようにダモクレスには借りがある上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)は罠や隠し部屋の気配を探りながら進んでいた。
 壁や床などを注視し、色や材質の変化を探る。
「むみょ? ここの壁を殴ってよいのか?」
 緊張感を吹き飛ばす態度で腕をまくり上げる服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)は、いつもの如く脳筋である。
 とはいえ、さすがに敵基地だ。やって良いかの確認を仲間に取ってるあたり、緊張もあるのかもしれない。
「グリ、気をつけて進んでね」
 サーヴァントのウイングキャットとともに警戒しながら進む曽我・小町(大空魔少女・e35148)。
 こういった大規模な作戦に参加するのは久しぶりだという。
 作戦への理解、仲間達の足手纏いとならないか――心配はいくつもあった。
 けれどやると決めたからには、出来るだけのことをやる心算だ。
「敵地潜入とか映画みたいだね。
 ……センサー類の罠はなさそうだ。進もう」
 真剣な表情でカメラを構え、シャッターを切りながら罠への警戒を持つ円谷・三角(アステリデルタ・e47952)。中枢へといたる道中は、耐久ではなく短期戦闘で一気に駆け抜けることを目指していた。
「うーんラスダンじゃないけど、やっぱり大ボスいそうな雰囲気ある。
 エンカウント率低すぎだし、これは強制戦闘が続きそう」
 ゲーム用語で状況を説明するのはリリベル・ホワイトレイン(怠惰と微睡・e66820)だ。
 零と同じように床や天井の材質などを気にしながら、警戒して進んでいた。
 弱メンタルながら、表面上は強がってテンション高めでいるのはイキりゲーマーといったところだろうか。これからの強敵との戦闘が楽しみですね。
 番犬達の警戒度は高く、わずかな変化も見逃さず、『クロム・レック・ファクトリア』内部を攻略していた。
 奇襲への対策もかなりのもので、中腹まで進んでいる中、大きな損害は受けずに進めたと言える。
 しかし、遭遇する敵の数が少なすぎる。
 リリベルの言うように、敵が要所で待ち構えている可能性は高かった。
 先頭を進む夕雨が、警戒しながら通路の角を曲がる。
 同時、閃光が走った。
「――ッ!」
 警戒している事が功を奏した。瞬時に取り出した番傘(からくれなゐ)で閃光を弾く。
「現れたな、ケルベロス」
 奇襲となる一撃が効果がでないと見ると、機械音声で言葉を投げかける。
「出ましたね、ダモクレス」
 番犬達を待ち受けるように、ダモクレス――ディザスター軍団が通路を塞いでいた。
 ディザスター軍団を指揮するは、黒鎧の重装機兵カーボナード・コマンダー。
 中枢へと至る可能性のある道は此処しかない。
 番犬達は覚悟を決め、武器を構えるのだった。

●ディザスター軍団
 ダモクレスの軍勢が、機械仕掛けの攻撃を流星の如く放ち、通路に爆煙を上げていく。
 幾重にも広がる攻撃の波に番犬達はその体力を少しずつ削り取られる。
 さすがは噂に名高いディザスター軍団。その士気の高さ、連携力の高さは並のダモクレスの比ではなかった。
 特にディザスター軍団を指揮するカーボナード・コマンダーは注視すべき存在だろう。様々な機械的攻撃が番犬達を苦しめる。
 しかし、番犬達も比較的高レベルでまとまったチームだ。
 このディザスター軍団と、カーボナード・コマンダーを相手に、優位を保ったまま戦闘を進めていた。
「その攻撃は通しませんよ」
「仲間は俺達が守る――!」
 夕雨と三角が飛び交うダモクレスのグラビティを前に、弾き、受け流し、その身を盾に防ぎ切る。
 ロベリアのサーヴァントのイリスと、小町のグリ、そして夕雨と三角の二名+二匹による防御陣形で、繰り返されるダモクレスの攻撃を防ぎ切っていた。
 そして後方に位置するスナイパーのシィカ、ロベリア、小町の三名が的確に攻撃を叩き込んでいく。
「レッツ、ドラゴンライブ!
 やっと賑やかにキメられるのデス! ロックにいっくデスよー! イェーイ!!」
「ディザスター軍団……借りは返すよ」
「そこ、貰いましたわ!」
 多種多様な行動阻害を与え、ダモクレス達に自由を与えない。またそのポジションから必中な攻撃であり、一発一発を丁寧に重ねていく。
「わははははははは!
 さあ行くぞ! 邪魔するものはことごとく叩きのめせい!!」
 戦いとなれば、緊張とは無縁の無明丸が握った拳を容赦なくダモクレスに叩き込んでいく。
 中衛として、行動阻害を多く与えるポジションに位置し、そのグラビティ構成は氷結に特化している。
「ちょっとAoE(エリアオブエフェクト)攻撃大杉。
 回復きっついけど、なんとか支えるよ。
 雑魚敵は潔く経験値になれー」
 ダモクレスの範囲攻撃の数々に、多くの番犬達が体力を削られていく。
 それを一人支えるのがリリベルだ。
 前列の命中率を稼ぎ、破壊力をあげ、時に相手の防御を打ち破る。
 なんだかんだと言いつつもゲームで鍛えた状況判断と反応速度は番犬としての活動に活きている。
 そして、リリベルの支援を受けて、多くのダモクレスを撃破しているのが零だ。
「……火力を引き受けた以上、役目は全うさせてもらうよ。
 ……燃えろ、我が地獄――」
 地獄の焔が猛り、叩きつけられるグラビティの暴力が機械兵をなぎ倒し、爆散させていく。
 このチームの最大火力である零は命中を意識したグラビティ構成だ。そのお蔭もあって、数多くのグラビティを命中させることに成功していた。
 番犬達の連携は、ディザスター軍団、そしてカーボナード・コマンダーの連携指揮力を上回る。
 一機、また一機とダモクレスの死体が転がっていく。
「く、状況不利か。
 しかし、我らディザスター軍団。最後まで戦うのだ――」
 機械音声に焦燥の色が含まれるも、士気は衰えず、逆に高まる。
 高度な指揮系統にまとめられたディザスター軍団は間違いなく強敵だ。
 だが、その強敵を番犬達は大きな損害なく撃破する。
 最後まで残っていたカーボナード・コマンダーが、胸部を破壊され、ついに膝をついた。
 動かなくなった機械兵達を見やりながら、番犬達は頷き合う。
 まだ奥へと道は続いている。進まなければならない。
 出来うるだけの回復を行い、急ぎ番犬達は先へと向かった。
 ――いくつもの罠を掻い潜り、現れるディザスター軍団を倒して進んだ。
 その先、もう中枢が見えてくるだろうといった、その先で――その機械兵は現れた。
「そこまでだ、ケルベロス」
 良く通る――まるで人間のような――機械音声が響く。
 白銀と紫のラインで構成された、洗練されたその機械兵が、右腕に装備したソード、そして左腕のシールドを構える。
「何者です!」
 名前など問うても無駄なのは承知だが、夕雨は異質な――美しい――そのダモクレスに問わざるを得なかった。
 返答は予想を裏切って、好意的に返される。
「名前などない。
 ――だが、敢えて言うならばキングの近衛」
 キング――ディザスターキングのことで間違いはない。
「ディザスター・ナイト近衛型……」
「ここで討ち取らせてもらうぞ、ケルベロス――!」
 近衛型がブースターに火を入れる。
 有力敵との戦いが始まった。

●エースとの戦い
 紫電が走る。
 閃光を伴う紫の光線。目で追うことを拒否するその速度は脅威を生み出すほかはない。
 近衛型の攻撃はシンプルだ。尋常ならざるスピードで突撃し、右腕のソードを振るう。それ以外ない。
 しかし、シンプル故に、その動きは完成されている。付けいる隙のない暴風のような斬撃が番犬達を苦しめる。
「耐え凌ぐか……さすがケルベロスといったところか――!」
 そしてなによりも近衛型の性格――ダモクレスにあればの話だが――が、実直にして慢心のカケラも見せない。
 この場所へ辿り着いた番犬達を、一番の脅威と受け取って、油断も隙もなく全力で迫ってくるのだ。
「強い……並のダモクレスとは比べものにならないね――」
「エースだ! エースに間違いないよー!」
 三角と、リリベルが口々に声を上げる。
 三角はすでにポジションを小町と変更しており、後衛からその姿をカメラ――グラビティ――で捕らえようとする。
「わはははは!
 上等! それでこそ戦いがいがあるという物よ!」
 無明丸が拳を鳴らし相対する。
 互いにグラビティの応酬を繰り返し、拳と剣で幾重にも切り結ぶ。
 辛うじて捕らえることのできるスピードに、然しもの無明丸も舌を巻く。そんな無明丸を翻弄し、頭上を舞う近衛型が剣を振り下ろす。
「やらせないわ!」
 無明丸を守るように割り込む小町がその一撃を止める。すでに幾度となく繰り返した場面だが、小町はその都度、味方を奮起させる曲を奏で、守護を高めていく。
 番犬達の蓄積ダメージはかなりのものだが、その中でもディフェンダー陣の蓄積ダメージは、看過できない状態であり、チームの防波堤であるディフェンダーの決壊は、時間の問題といえた。
 この戦いは、ディフェンダーが倒れるのが先か、近衛型が倒れるのが先か。そういう戦いである。
「みんな、大丈夫だよ! 私達が押してる――!」
 劣勢にも取れる拮抗状態にありながら、明るく仲間達の背を押すのはロベリアだ。他人に負の感情を見せるのを嫌う彼女は、内心の想いを閉じ込めて、気丈に振る舞う。
 足止めが十分に機能したとみれば、番犬達は次いで阻害含む攻撃で近衛型を追い詰めていく。
 だが、近衛型もシンプルな攻撃方法を成立させる、自己修復、強化機能を併せ持っている。
 次々と傷を修復し、変わらぬ速度で攻撃を繰り返していた。
「ちょ、チートか!?
 バランス狂ってるんじゃないのかー!」
 近衛型の猛攻を支えるのはリリベル一人だ。本来ならば手の空いた瞬間を狙って相手の装甲を砕くこともできるリリベルだが、この相手には攻撃をしている暇がない。
 結果番犬達の攻撃が効果的に発揮されることはなく、一撃で大きなダメージを稼ぐことは難しかった。
 とはいえ、これについてはリリベルを攻めるべきではないだろう。リリベルはメディックとしての務めを十全に発揮していたのは間違いない。
 そんなリリベルの頑張りに、戦闘経験の一番少ない三角も応える。
「その強化、全て洗い流すよ!」
 音速の拳とともに放たれるレンズの洗浄液が、近衛型の強化効果を洗い流していく。
「もらったデスよ!」
 連携するように、シィカが竜砲弾の雨を叩き込む。もっとも命中率の高いこの一打を、近衛型は回避することが出来ない。
「まったく恐れ入りました。
 ディザスターキングの前にこんな強敵がいたとは。しかし――」
 左目の地獄の炎を一掬い。炎弾として放つ夕雨。ついで番傘型の槍を構え、走る。
 放つは氷結の光線、そして回避に動いたところを必殺の突きを見舞う。近衛型の盾を破砕する一撃に、然しもの近衛型も驚愕の色を見せた。
 だが、近衛型は止まらない。速度を維持したまま夕雨の背後に回り込むと美しき斬撃を見舞う。為す術無く受けたダメージにこれ以上の戦闘は無理だと、身体が悲鳴をあげた。
 止めにかかる近衛型の一撃を、小町が庇う。当然、小町もまた膝を付き戦闘継続が難しいと言えた。
 ディフェンダー陣の壊滅。予感していた自体を前にして、しかし零は誰よりも早く動いていた。
「……燃え上がるは我が心体、我が地獄―――さぁ、いざ至れや地獄道、黒き焔は此処に一つ」
 肉体を地獄へと転化し、地獄の化身へと変貌させる。黒き地獄を纏いし、獄炎の焔はどのようなものであっても逃がしはしない。
 放たれる鋭い一撃が、振り向きざまの近衛型の首を飛ばし、その機能を停止させた。
 床に落ちた近衛型の頭が、無機質に言った。
「――見事だ。ケルベロス。だがキングには……」
 最後まで言葉を続けることなく、近衛型は動くのをやめた。
「二人の回復を待ったら急ごう」
 番犬達は、ディフェンダー二人の回復を待ってから、先へと進んだ。

 ――そして。
「……はずれだったようですね」
 夕雨が残念そうに呟く。自分が提案した番号ということもあったがやはり残念だ。
「……仕方ないデスね。こればかりは運デス。
 さあ、戻りましょう」
 シィカに促されて、来た道を引き返す番犬達。
 <19>搬入口へと戻ってきた頃、突如大きな爆発音が響いた。
「……これは。やったのかな?
 ……とりあえず離れよう」
 海へと避難する番犬達。
 眼下に広がる光景は、クロム・レック・ファクトリアが中心から崩壊していく様だった。
 次々とファクトリアから飛び出してくる番犬達が見えた。中枢を破壊した面々だろう。視線を巡らせれば、バックヤードからも出てくる番犬達の姿があった。
 そして、最後に、バリッという光がファクトリア全体を覆った。
 同時に全てがゆっくりと崩れ落ちる。
 光はやがて水泡と共に弱くなり、海に溶けるように消失した。
 こうして、クロム・レック・ファクトリア攻略作戦は終了するのだった。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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