悪意に泳ぐ

作者:洗井落雲

●悪の選定
「ちくしょう、何でこうなるのよ……」
 女は痛みに顔をしかめて、毒づいた。
 倒れ伏した女の足は、巨大な瓦礫に挟まれている。振動が響くたびに、女が苦しげな声をあげた。恐らくは、折れているのだろう。
 とある水泳大会が行われていた体育館は、突然の悲劇に見舞われた。突如として激しい轟音が響き、建物が揺れるや、壁や天井が崩壊し始めた。
 参加選手やその関係者、そして観客たちは慌てて逃げ始めたのだが、この女は他の避難者を押しやり、突き飛ばし、我先にと、真っ先に逃げ出した類である。
 係員による避難誘導も無視し、混乱するままでたらめに逃げ続けた結果――避難経路から外れたこの場所で、倒れた瓦礫による被害を受けた。
 ある意味、天罰のような物であったのかもしれない。
「いやいや! 素晴らしいネ!」
 ふと、声が聞こえた。
 嘲るような、馬鹿にしたような声である。
 女が声の方に顔を向けると、そこにはタールの翼をはやし、濁った目をした、奇怪なる人物が立っていた。
「我先に、他者を押しのけて自分だけ助かろうとするその根性……イイネ! 素晴らしいヨ! 僕が選定するにふさわしい!」
 ケタケタと笑う怪人――デウスエクス、シャイターン。
「な――何よアンタ、一体……」
 女が声をあげるのを遮る様に、シャイターンは手にした弓を射る。放たれた矢は女の眉間に突き刺さり、女はそのまま、動かなくなった。
 一秒。二秒。シャイターンは女の様子を窺っていたが、女が死んだことに気付くと、残念そうに肩をすくめた。
「あーらら、コイツは外れかぁ。ま、いいヤ。次、次」
 ケタケタと笑い声をあげて、シャイターンは姿を消した。

●選定を阻止せよ
「シャイターンの活動が予知された。これに対処してもらいたい」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は集まったケルベロス達に向けて、そう言った。
 シャイターンは、ヴァルキュリアに代わり、死の導き手を担当する事になったデウスエクスである。シャイターンの目的は、エインヘリアルを生み出すため、人間を選定する事。
 シャイターンは人間を選定するために自ら事故を起こし、その事故で死にかけた人間を殺すことで、エインヘリアルに導こうとしているようだ。
 今回のケースで言えば、建物自体を攻撃し、崩壊させることで、中にいる人間を事故に遭わせようというつもりらしい。
「それで、今回襲撃されるのが、水泳大会を行っている大型体育館……という事なのね?」
 アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)が尋ねるのへ、アーサーは頷いた。
「うむ。それと、場所自体は予知されているのだが、事前に観客や、関係者達を避難させることはできない。事前に中にいる人々を避難させてしまうと、シャイターンが襲撃を取りやめ、別の建物を襲撃してしまうかもしれないのだ」
「だから、あたしたちはあらかじめ建物のに潜伏しておいて、シャイターンが行動を起こすのに合わせて行動を開始。避難誘導を行ったり、攻撃された建物をヒールして、建物の崩壊を止める……のね?」
「ああ、その通りだ」
 アミルの言葉に、アーサーは頷き、
「周囲の安全を確保したら、シャイターンを撃破してほしい。シャイターンは選定対象の人間を殺害するために現れる。選定対象の人間は、シャイターンによる襲撃が発生したと同時に、我先にと逃げ出してしまうようだ。向かう先は、同じ大型体育館内にある、会場とは別のプールだ。シャイターンも、ここに現れるだろう。安全確保の後、そこに向かってほしい」
 アーサーの話によれば、今回撃退するシャイターンは1体。
 ケルベロス達も使う、『妖精弓』とほぼ同等の武器を一つ、持っている。扱うグラビティも、妖精弓と同じものとみていいだろう。
 また、ケルベロス達で言う所の、『ジャマー』と同等の能力を持っているようだ。
 戦場となるであろう場所は、選定対象の人間が逃げ出した先にある、会場とは別のもう一つのプールだ。電気なども付いており、戦うのにも充分な広さだ。不自由なく、戦うことができるだろう。
 なお、実際にシャイターンが行動を開始し、選定対象の人間が一人逃げ出した後であれば、避難誘導や建物のヒールなどを行っても、シャイターンが目標を変えることはないと予知されている。
「選定対象となる人間は、他者を押しのけて自分だけが助かろうとする行動をとったため、シャイターンに気に入られて狙われてしまうようだが……」
「危機的状況だもの、パニックになるのも仕方がない……人は、弱いものなのよ」
 アーサーの言葉に、アミルが穏やかに、返した。アーサーは、その言葉に頷くと、
「そういう事だ。巻き込まれてしまった人々はもちろん、選定対象となってしまった彼女も、可能ならば助けてやってほしい。それでは、君達の無事と、作戦の成功を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出したのであった。


参加者
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
エリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135)
クラウス・シュナイダー(邪智暴虐の赫眼・e64618)

■リプレイ

●悪意の襲撃
 とある、水泳大会の会場である。
 大型の競技施設にて行われたその大会は、参加関係者、そして観客でにぎわっていた。プールのコース上を泳ぐ選手たちへ、まるで会場を揺るがさんばかりの声援が降り注ぐ。
 と、途端、会場が揺れたような感覚を、人々は覚えた。錯覚か――そう考えた彼らではあったが、やがて再びの振動を身体に受けて、ようやく、実際に建物が揺れているのだと気づいた。
 揺れている、とは言え、地震ではない、断続的な、不規則な揺れ。まるで、何者かがこの建物を激しく殴りつけていて、その振動で揺れているような。そしてその振動が最高潮に達した時に、建物の壁や天井にひびが入り始めた。
 崩れるぞ、と誰かが叫び、それは現実となった。崩落した天井から、小さな破片が落下してくるのを契機に、人々は混乱の真っただ中へと放り込まれたのだ。
 悲鳴と怒号が響き渡る中を、一人の女性が、我先にと、人々を押しのけて逃げ出す姿があった。それを待っていたかのように、天井が大きく崩れ落ちた。巨大な破片が、競技者が避難したプールへと落下し、巨大な水しぶきをあげる。もはや、建物の崩壊は目前――誰もが怯え、混乱する中、人々の中から、何かが飛び出した。
 翼をはばたかせ、天井へと向けて飛翔する二つの影。瞬く間に空中に躍り出るや、その翼から漏れ出すようなオーロラが軌跡を描き、会場を優しく包み込む。
 ピタリ、と崩壊は止み、些かロマンチックな変化とともに、崩落した壁やヒビが、みるみるうちに修復されていく。オラトリオヴェール……癒しの光をもたらした者は、ケルベロス、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)、そして草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)だ。最も危険性が高いと思われる、崩落する天井。それを真っ先に修復する為に、二人は飛び出したのだ。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参!」
「俺たちはケルベロスだ! 落ち着いて逃げろ! ここは崩れねえから安心しろ、動けない奴には手を貸してやれッ!」
 シヴィル、そしてあぽろの言葉に、人々から驚きと、そして安堵の声が上がる。
「状況開始。まずは現場の安全確保を優先する」
 ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)は頷き、
「我々はケルベロスだ。慌てず順番にこちらへ避難してくれ」
 声をあげた。
「私達、ケルベロスが来たからにはもう大丈夫っ! 落ち着きながら、ぱっぱと行動して避難しようね」
 エリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135)も声をあげ、避難を促す。エリザベスの纏う凛とした風は、慌てる人々を落ち着かせる、そんな雰囲気を纏っていた。
 ケルベロス達は、事前に調べておいた避難ルートに従って、人々を誘導する。警備員たちとの連携もあり、人々の避難はスムーズに進行していく。
「必ず、皆さんは助けるわ。スタッフや警備員の皆さんの言うことを聞いて、落ち着いて避難して頂戴」
 アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)は避難誘導を行いつつも、邪魔となる瓦礫の類をどかしていく。アミルのウイングキャット『チャロ』も、主を手助けするように走り回る。
「皆さんはそこの出口から避難して下さい」
 一方、舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)は、出口を確保し、そこから人々へと声をかける。
「皆さん、走らないで。建物は崩れませんから……それから、お子様や体の弱い人を見掛けたら手を貸して下さい」
 瑠奈の言葉通り、人々は助け合いながらも、会場から避難していく。そんな姿を見届けながら、
「ふむ、避難誘導込みの仕事か……しかし、これで大体避難は終わったか?」
 呟く。言う通り、会場内は既に空っぽと言ってもいい。
「そうね。ここからがお仕事の本番よ」
 アミルが言った。その視線の方向には、今回は使われなかった、もう一つのプール施設が存在するのだ。

 一方、そのもう一つのプールでは、一人の女性が、濁った眼をした奇怪なる人物と対峙していた。
「なんだいなんだい、死にかけててくれないと困るじゃないカ!」
 憤慨するように言う濁った眼の男――シャイターンに、女性はおびえた様子で後ずさる。
「まぁ、良いかネ! 人を押しのけて逃げようとする、その根性は僕好みだヨ! 僕が選定するに相応しイ!」
 そう言って、シャイターンは手にした弓に矢をつがえ、女性に向けて引き絞る――その時。
 爆音とともに何かがこちらへと接近する気配を、シャイターンは察した。シャイターンは慌てて、気配の方向へと矢を放つ。
 その先には、ライドキャリバー『魂現拳』と共に駆ける、ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)の姿があった。放たれた矢は、複雑な軌道を描きながら進み、ヒエルへと迫る。
「――フッ」
 息を吐きながら、『青銀の氣』を纏ったヒエルは、飛来する矢を拳にていなした。そしてそのままシャイターンへと迫ると、音速の拳でシャイターンを殴りつけた。そして続く魂現拳が炎を纏った突撃による追撃をお見舞いし、シャイターンが吹き飛ばされる。
 タールの翼をはばたかせて勢いを殺し、緩やかに着地しようとするシャイターン。
「ひえっ、いきなりなんだイ、乱暴ナ――」
 その下へ、今度はビームが降り注ぎ、爆風がその身体をさらにあおる。
「決まっておるであろうが」
 白煙くゆるバスターライフルの砲身を構え、クラウス・シュナイダー(邪智暴虐の赫眼・e64618)が声をあげる。
「その余興は我が遊び壊すものだ。余人に、ましてやシャイターンになぞ、玩具をくれてやる道理があるはずもない」
 クラウスは一瞬、楽し気に女性へと視線を移しつつ、再びシャイターンへと視線を戻した。
「くーっ、ケルベロスか! 邪魔しに来たってわけだネ!?」
 悔し気に、しかしどこか芝居がかった口調で、シャイターンが言う。
「当たり前だ。お前の邪悪なたくらみ、見過ごされるとでも思ったか」
 女性を庇いつつ、ヒエルが言った。クラウスは油断なく、銃身をシャイターンへとポイントし続ける。
 一瞬の対峙。
「待たせたなクラウス、ヒエル」
 そこへ、ハルの声が響いた。足音と共に、仲間達が駆け付け、
「あとは敵を倒すだけだ」
「まいったネ、こりゃ! 正義の味方さんってわけかイ!?」
 大げさに頭に手をやるシャイターン。しかし、シャイターンはにやにやと笑い、
「しかしネ、正義の味方の皆さん。そこにいるのは、それはそれは酷い奴でネ! 皆が困っている中、我先にと逃げ出した酷い奴なんですヨ!?」
 その言葉に、女性が顔を青くする。俯き、震える姿に、シャイターンは小馬鹿にしたような視線を向けて、続けた。
「そんな悪い奴を、皆様はお助けになるんですかイ? ここは一つ、皆さんに代わって、悪い奴は僕の手で引導を、ってわけにはいきませんかネ? ハハハ!」
 悪意を乗せた笑い声が、辺りに響く。その笑いを制止するように、声をあげたのは、アミルであった。
「――そうね。確かに、彼女の行いは、良いものではなかったと思うわ」
「でしょォ? だったら――」
「でも。人は過ちを犯したとしても、学んで、正しい生き方を選び直せるのよ」
 アミルの言葉に、
「魔が差す、ってのは誰にだってある事だ。たった一度の行動で、全てを測った気でいるんじゃねえぞ! 人間はそこまで浅くはねぇ!」
 あぽろが言って、シャイターンを睨みつける。
「団体で協力すれば、怖い目に合わずに脱出出来た……という事は、彼女も痛感している所だろう」
 瑠奈が言う。
「人の尊厳を弄ぶなよ、下衆め。貴様の悪行、太陽の騎士、シヴィル・カジャス――」
「そして、エリザベス・ナイツ。私たちが止て見せるわ」
 シヴィル、そしてエリザベスが合わせ、武器を突きつけた。
「今のうちに、避難を」
 ハルが、女性へと向けて、言った。女性は泣きそうな表情でケルベロス達へと視線をやっていたが、やがて申し訳なさそうに頭を下げると、踵を返す。
「――よかったら、今度は貴方が、誰かを助けてあげてね」
 アミルの言葉は、彼女に届いただろうか。それは分からぬまま。
「さて、覚悟はいいな?」
 ヒエルの言葉に、シャイターンが笑った。
「覚悟ォ? 君達をやっつける心の準備かナ!?」
「――ハハ。貴様のその頭のおめでたさは、ある意味評価に値するぞ」
 クラウスが、その赤い瞳を細めた。
「褒美をやろう。遠慮するな。存分に喰らって逝け」
 そう言って、クラウスが銃を構える。
 それが、戦いの始まりを告げる合図となった。

●悪意の結末
 シャイターンの放つ一撃を、魂現拳がその拳のような装甲で受けて、はじき返した。
「殺してその死者を利用しようとする性根、捨て置くことは出来ん」
 ハルが駆け、シャイターンへと接近する。『魔滅刀”陰緋月”』の斬撃が、シャイターンの傷口を抉る様に斬りつけた。
「ひぇぇっ、何て惨いことヲ!」
 苦痛に顔をゆがめつつ、しかしまだ体力は残っているのだろうシャイターンへ、
「ふざけやがって! そのニヤケ面、叩き切ってやるッ!」
 『摩利支天大聖』の刃を光らせ、あぽろが肉薄する。月光の如き緩やかな弧を描く斬撃がシャイターンへ迫るが、シャイターンは慌ててそれを、弓で受け止めた。
「ハハハ、怖イ怖イ!」
「てめぇ……っ!」
 刃がふり抜かれるのに合わせて、シャイターンが後方へと飛ぶ。
「エリザベス、合わせるッ!」
 そこへ迫るのは、エリザベスとシヴィルの二人だ。
「うんっ! ……逃がさないっ!」
 エリザベスがかざす、二振りの刃。『月光』・『サンズブランド』が月のように・太陽のように輝き、十文字に斬りつけられるシャイターン。そこへ、シヴィルの『黒天』の刃が合わせ、三振りの刃によって斬りつけられたシャイターンが、
「んぎゃんっ!」
 悲鳴をあげながら吹っ飛ばされる。地に叩きつけられ、しかしなんとか身を起こし、立ち上がるシャイターン。
「あまりにも下衆な手段だ。反吐が出る。なぜエインヘリアルどもが人間の選定とやらを貴様らシャイターンではなく、ヴァルキュリアに任せていたかが良くわかるな」
 シヴィルの言葉に、
「ヒヒヒ、でもホラ、僕ら効率重視なもんデ!」
 油断なく構えつつ、シャイターンが答える。
「人の命を効率で計るかッ!」
 怒りの声をあげ、ヒエルが魂現拳と共に突撃する。『青銀の氣』を纏う鋭い爪の一撃に切り裂かれたシャイターンに、魂現拳はタイヤですりつぶす様にシャイターンの体を巻き込む。シャイターンは苦痛に顔をゆがめながら、慌てて距離をとった。
「仕事は効率重視……という点については同意するよ」
 瑠奈が言いながら、螺旋の力を用いて仲間達の分身を発生させる。
「とは言え、私も医者の端くれでね。先ほどの発言は、確かに癇に障るな」
「人は弱くて、間違える事もあって……完璧で完全な人なんていない。人は迷いながら、間違えながら、そうやって生きていくのよ」
 アミルは言いながら、武器を構える。そこから時空凍結の弾丸を生み出し、
「その時間を奪うあなたを、見過ごす訳にはいかない」
 解き放った。同時に、チャロは尻尾のリングを飛ばし、シャイターンを狙った。
 二つの攻撃がシャイターンへと突き刺さる。空中へと逃れようとするシャイターンへ、
「ほら、どうした? 褒美だ、受け取ると良いぞ?」
 クラウスが放つ虚無の球体が、シャイターンのタールの翼を飲み込んだ。触れたものを消滅させる、と言うほどの攻撃を受けたシャイターンが、無様に地へと落下する。
「くぅ~ッ! コイツでも食らエ!」
 悔しげに喚きつつ放ったシャイターンの矢が、アミルへと迫るが、チャロはその身を挺してその矢を受けた。
「チャロ……!」
 アミルが思わず声をあげる。チャロは一鳴き、無事を告げると、主の足元へとすり寄った。
「きぃぃぃっ! 今日はとことん邪魔ばっかりかネ!」
 狙いが外された事に、シャイターンが地団太を踏む。その隙をついたハルが、シャイターンへと肉薄。
「我が内なる刃は集う。無明を断ち切る刹那の閃き、絶望を切り裂く終わりの剣……貴様が消え去るまで何度でも斬り捨てよう」
 呟きと共に、周囲に現れたのは無数の刃である。シャイターンは慌てたようにそれらに視線を移す。途端、刃は一斉に、シャイターンへと向けて放たれた。次々と迫りくる刃がシャイターンを切り刻み、都度、シャイターンが悲鳴をあげる。
「久遠の刹那(ブレードライズ・エーヴィヒカイト)ッ!!」
 叫び、ハルの放った最後の刃を以て、『終の剣・久遠の刹那(ブレードライズ・エーヴィヒカイト)』は終わりを告げる。
「喰らって消し飛べ! 『超太陽砲』!!」
 あぽろの叫び。同時に、ハルは弾かれたように跳躍。次の瞬間、あぽろはシャイターンへと肉薄し、その右手を突き出した。途端、放たれた陽光がシャイターン飲み込む。陽光――ただし、穏やかなそれではなく、太陽その物が持つ膨大な熱を直接乗せたような光である。
 あぽろの放つ『超克示す太陽神の火砲(ソーラービーム)』の直撃を受けたシャイターンは、体中からぶすぶすと黒煙をあげながらも、転がる様にして撤退。
「ヒーッ! ヒーッ!」
「畳みかける……天の――」
「サン・――」
 エリザベスは天高く。
 シヴィルは地を駆けるように。
 それぞれ勢いを乗せて放たれる、必殺の一撃――。
「太刀ッ!」
 魔力を込めて放たれる天からの斬撃。
「ブラストッ!」
 風を味方につけた、突風の如き斬撃。
 二人の刃に切り裂かれたシャイターンは、体中から血を流しつつ、激しく吹き飛ばされた。
「ちくしょウ、何でこうなル……!」
 這う這うの体で逃げ出そうとするシャイターンの前に、アミルが立ちはだかった。手にしたのは、氷の様に澄みきった、一振りの刃。
「ヒ、ヒヒ……見逃しテ……」
 卑屈な笑顔で放たれた命乞いの言葉に、しかし送られたのは、刃の一閃である。
 『凍姫ノ愛(フローズンラヴァーズ)』の一撃は、相手に絶対零度の世界を見せるという。果たしてシャイターンはそれを見たのか。それは不明ではあるが、シャイターンは凍り付いたような笑顔のまま、地に倒れ伏した。そしてすぐにその身体は溶けるように消滅し、後には何も残らなかったのである。
「……お疲れ様、チャロ」
 アミルはそう言って、優しくチャロを抱き上げた。にゃあ、とチャロは一鳴き、目を細めた。

 ケルベロス達の活躍により、シャイターンの目論見は阻止された。
 人は弱く、時に間違う。
 しかし過ちを認め、改めることが出来る――それもまた、人の営みの一つ。
 今日、救われた人々が、正しく道を歩めることを祈りながら――。
 ケルベロス達は、凱旋するのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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