荒れ果てた緩衝地帯の市街地、そこを八つの影が駆けていく。その動きは、あまりにも独特だ。身をかがめ、物陰に潜み、また素早く死角を消すように動いていく。周囲への警戒は怠っていない……のだろう。その竹の顔からは表情は伺い知れないが、確かに目を光らせ警戒を強めていた。
特に、その動きの特徴は見る者が見ればわかるだろう。一体残らず、いつでも射撃や投擲に移れるような動きをしているのだ。上下前後、どこにでもその攻撃を届かせる――その自負があるからこその陣形と、ハンドサインを交えた一糸乱れぬ移動。
足音を殺し、竹の攻性植物達は駆けていく。一路、緩衝地帯を越えた市街地へと――。
「大阪城周辺の緩衝地帯で、竹型の攻性植物達が支配地へと向かっています」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、厳しい表情で解説を始めた。
「現在、大阪城への潜入作戦が成功し貴重な情報を持ち帰れたものの、向こうの警戒レベルも上がっています。竹型の攻性植物達の警戒も、それが原因でしょう」
彼らは、大阪城へ接近するケルベロスを警戒すると共に、大阪市街地への攻撃を企てている。そうして、支配エリアを拡大させる事を目的としているようだ。
「敵は八体で、連携を取って行動しています。問題は、警戒しているために索敵しながら移動している事でしょう」
彼等はケルベロスの侵入が無い事が確認された場合、大阪市街地への攻撃を開始する。そのためには、緩衝地帯で迎撃する必要があるのだが……。
「敵は隠密行動をしながら、こちらを見つけようとしています。もし、先に向こうに発見されれば奇襲を受けてこちらが重大な被害を負う事になるでしょう」
だが、逆を言えばこちらが奇襲できれば大きなアドバンテージとなる。そのため、こちらも隠密行動しながら索敵。先に向こうを発見するのだ。
「ただ、向こうはすべてが遠距離の攻撃を持つようです。見つかったら最後、蜂の巣か串刺しでしょう。十分に注意してください」
地形を敵とするか味方とするか、それはこちらの作戦次第だ。それを忘れず、挑んでほしい。
「何にせよ、市街地で暴れさせる訳には行きません。どうか、よろしくお願いします」
参加者 | |
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彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456) |
上里・もも(遍く照らせ・e08616) |
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975) |
カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121) |
神居・雪(はぐれ狼・e22011) |
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717) |
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359) |
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107) |
●
「ほら抵抗すんなスサノオ! 隠密する必要があるからお前は全身に竹と笹を付けるんだ! あいて!?」
上里・もも(遍く照らせ・e08616)がオルトロスのスサノオに、無理矢理竹や笹で飾り付けて隠密性能を高めようと試みていた。しかし、スサノオはそれに抵抗、ももに噛みつきながら目を細める。
「え、私? しないけど? いたっ!」
しないんかい、とツッコミを入れるように、スサノオはももに再び噛み付いた。しかし、友人であるカッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)も加わっては、スサノオも抵抗しきれなかった。
「スサノオ可愛いー。ばっちり似合ってるよ!」
カッツェは満面の笑顔で、グっと親指を立てる。そんなやり取りを横で眺めながら、スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)も作業を終えていた。
「よし、いい子だ。そのまま、そのまま」
ドローンが宙へ上がり、その映像がスミコのキャプチャーインアイズへと送信される。ドローンはそのまま、大阪の荒れ果てた緩衝地帯へと飛んでいった。
「このまま、空中から敵を探すよ」
「おう、頼むぜ」
神居・雪(はぐれ狼・e22011)はライドキャリバーのイペタムと共にそのまま壁越しに進み、兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)と合流する。
(「向こう、クリアリング、お願い、だよ……」)
十三のハンドサインに、スミコも了解を示した。ドローンで死角を補いながら、地上班は慎重に進んでいく。
「熱源は……ありませんね」
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)はサーマルスキャナーで熱分布を観察するものの、反応はない。植物と動物では熱源が違う、あるいは竹の攻性植物達がサーマルスキャナーで拾えるだけの熱反応がない可能性はある。
「いつも、戦いは目前で、心構えを整えればすぐにあったものですから……敵を待ち構えて、いつくるかも分からず迎え撃つというのは、心を削るものですね……」
長時間の索敵と迎撃を行う戦闘は、ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)にとっては初めての事だ。いつ、どこで相手が現れるのか? あるいは、相手に見つかってはいないか? 常にそんな先の見えない緊張は、予想以上に精神に疲労をさせるものだ。
(「独特な動き、それを捜しましょう」)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)は丁寧に地上を確認しながら、飛んでいく。相手は全員が、射撃攻撃主体の動きだ。そのため、竹型の攻性植物達は通常とは違う陣形を取って行動しなくてはならない。
それは仲間を射線を塞がないように、という動きだ。銃撃戦主体なら当然ではないか、と考えるべきだが、近代的な銃器を用いた場合と攻性植物達では大きな点が一つある――それは、上空も対応し無くてはならないという事だ。ケルベロスというヘリコプターという小さくて小回りの利く無音の存在をいち早く察知し、仲間に報せるためには密集した状態である方が良いのだ。
(「でも、攻性植物達は飛行しませんからね」)
最初の視点で、警戒しなくてはならない部分がケルベロスと違うのだ。これは、間違いなくケルベロスに有利な点であり――その動きに目をつけた悠乃の判断も正解だった。
「あれは……」
だから、いち早く攻性植物達を発見できたのだから。
●
八つの影が駆けていく。その動きは、あまりにも独特だ。身をかがめ、物陰に潜み、また素早く死角を消すように動いていく。
「――――」
バンブージェネラルが、ふと動きを止める。そのハンドサインに全員が気づいた――それは宙に浮かぶ不可思議な物体、ドローンだった。
バンブージェネラルの拳銃が、ドローンに狙いをつける。しかし、ドローンは建物の陰へとすぐさま移動してしまった。
「――――」
どうするべきか、バンブージェネラルは逡巡したように見える。数名が斥候として確認に向かうか、全員で向かうかの選択肢――バンブージェネラルが選んだのは、後者だった。
「よし、このままこっちまで引っ張ってくるよ、みんな身を隠して!」
スミコの言葉に、ケルベロス達は配置についていく。釣れたのはバンブーランスソルジャー二体とバンブーガンソルジャー一体だ。ドローンが曲がった曲がり角へ、先行して三体が進んで来て――。
「今ですわ」
ルーシィドが刀を二本振るった瞬間、一体のバンブーランスソルジャーが空間ごと切り裂かれた。三体の攻性植物達が後退しようとした、それを雪は許さない。
「イペタム!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! とイペタムのガトリング掃射が、三体の攻性植物達に叩き込まれていった。動きが止まる三体に、キャロラインとスミコが同時に動いた。
「行きますわ!」
「これでもくらえ!」
キャロラインが超高速で突進し、スミコが上空で停滞させたエネルギー球から無数のエネルギーの矢を降らせる! キャロラインのキャバリアランページの衝撃にのけぞり、スミコのヘブンズゲートに貫かれ、攻性植物達は足が止まった。
残りの攻性植物達は、すかさず射撃攻撃で援護する。しかし、狙いが甘い――だから、ケルベロスはその隙を見逃さない。
「十三!」
「う、ん」
滑り込んだ雪の放つ炎をまとった蹴りがバンブーガンソルジャーの足を薙ぎ払い、十三は【月喰み:十三夜】の柄に手を伸ばし兎のように跳躍した。
「【月喰み】解放……呪怨の刃にて……その首……刎ねて、つかまつる」
新月:逸兎・凌断(シンゲツ・イット・リョウダン)――十三が放つ数多の怨霊を自らの内にある殺意と共に解き放つ不可視の刃が、バンブーガンソルジャーの首を文字通り切り飛ばした。
バンブーランスソルジャーが、即座に反応する。零距離、振りかぶった竹槍を投擲しようとした刹那、上空から舞い降りた悠乃のスターゲイザーが文字通りバンブーランスソルジャーを踏み潰した。
最後に残っていたバンブーランスソルジャーが、一気に後退する。そんな敵へ、悠乃は呟いた。
「――逃げられませんよ?」
もしも、バンブーランスソルジャーに冷静かつ的確な知性があれば気づけたかもしれない。悠乃が「逃さない」ではなく、「逃げられない」と言った、その真意に。
「残念だねー。ここから先は通行止めだよ!」
バンブーランスソルジャーに、既に逃亡経路はなかったのだ――カッツェの捨て奸(ステガマリ)が、その道を塞いでいたのだから。
カッツェのSchwarze Katzeの鎌が、ももの獣化した拳とスサノオのパイロキネシスの炎が、同時にバンブーランスソルジャーを砕いて燃やした。
「――――」
だが、残る五体の攻性植物達はバンブージェネラルを中心に既に陣形を整え終えている。バンブージェネラルの判断は正しい、三体を犠牲にしても残る五体を無傷で残したのだ。命を単純な数、単純な計算で導き出せるからこその正解だ。
だから、とももは周囲を見回して思った。緩衝地帯になった市街地にも、人は住んでいたのだ。無情な、不条理とも言える数で判断するのならば、人口の極々一部の人々だろう――しかし、一人一人として人生と見れば、決して不幸な結果ですまないはずだ。
「勢力を広げるだって? 冗談じゃないぜ。家に帰れない人をこれ以上増やしてたまるか」
負けられない、ケルベロスはこれ以上の悲劇を拡大させないために攻性植物達へと挑みかかっていった。
●
「泥と雨に まみれて傷つく者よ。
まだ君は 戦う意思はあるか。
立ち上がる 勇気は君の心の中にある。
君があきらめないなら ボクは君のために 歌うよ。
傷ついたその翼広げ 再び大空高く。
君が勇気を捨てないなら ボクは君のために 歌うよ。
傷ついたその翼広げ 再び大空高く、
はばたいていけ――――――」
キャロラインの戦場で傷ついたものを奮い立たせる歌声が、響いていく。「折れない翼」、その歌に込められた想いを背負い、悠乃が舞うように飛んだ。
放つ緩やかな弧を描く斬撃、悠乃の月光斬を受けてバンブーガンソルジャーが体勢を崩す。
「お願いします」
悠乃の言葉に応え、スミコがグラビティエネルギーで刀身を覆う漆黒の魔槍に雷を宿して前に出た。
迫るスミコに、バンブーガンソルジャーは銃撃で応戦する。スミコは自身に当たる銃弾だけを選び、弾き、逸らし、打ち落としていった。
「行くよ!」
そして、スミコの稲妻突きがバンブーガンソルジャーの胸部を貫く! スミコはそれで止まらず、そのまま駆け抜けた。
直後、バンブーボムソルジャーが放った爆竹爆弾が破裂する。盛大な音と、爆発。その中を駆け抜けて、十三は【月喰み:十三夜】を抜刀した。
「遅い、よ」
爆風に乗った十三の呪怨斬月が、バンブーボムソルジャーの太い腹を捉える。バンブーボムソルジャーが思わず一歩後退すると、雪がイペタムと共に突撃した。
「――ッ!?」
イペタムのデットヒートドライブにバンブーボムソルジャーが吹き飛ばされ、雪の踵落とした地面に叩き落とす! ゴォ! とヒビだらけのアスファルトを破壊しながら、雪のスターゲイザーの重圧にバンブーボムソルジャーが叩きつけられた。
「ったく、しなやかで頑丈だぜ、竹ってのは!」
雪は着地し、吐き捨てる。まだ、バンブーボムソルジャーは起き上がろうとする。そこに迫ったのは、ルーシィドだ。スカートをひるがえしての、抜刀――居合い斬りが、バンブーボムソルジャーを両断した。
「次ですわ!」
止まらず、ルーシィドは駆けていく。そこでは、バンブージェネラルとカッツェが竹刀とSchwarze Katzeで打ち合っていた。
「なんか君達近距離戦絶対許さない明王の配下みたいだよね?」
実際、かなり厄介だ。遠距離オンリーではなく、近距離を零距離射撃で補ってくるのだ。近距離メインの暗殺者感覚で、カッツェは問答無用で間合いを詰めるのだが。
「まだ、向こうも元気だよ!」
ももの生きる事の罪を肯定するメッセージを込めた歌声が、戦場に響き渡る。スサノオも、カッツェをフォローするように地獄の瘴気を叩き込んでいった。
戦況は、終始ケルベロス側が優位に進めていく。最初に奇襲で戦力を削るという事は、大きなアデバンテージなのだ。問題は、攻性植物側も一方的に蹂躙されるだけではないという事だ。
攻めるケルベロス、耐える攻性植物。その抵抗も、時間の経過によって押し切られていく。
「取り巻く羽根は鋭き刃。あなたの癒しを阻みます」
悠乃の翼から、鋭利な羽が放たれる。それをバンブーガンソルジャーも迎撃しようとするが、弾幕が薄い。悠乃の舞羽(マイウ)に貫かれ、バンブーガンソルジャーが後退した。
「その首、もらう、よ」
そこへ一気に踏み込み、十三が【月喰み:繊月】御霊狩りを振るった。バンブーガンソルジャーは、己の銃を犠牲にその鎌から逃れるが、イペタムのキャリバースピンによって、その動きを止められた。
直後、カムイの力を宿したブーツによる、全力の前蹴り――雪の破鎧衝がバンブーガンソルジャーを粉微塵に破壊した。
「ナイス、十三!」
「ん」
サムズアップする雪に、十三もうなずく。ここまでを見越した、二人と一体のコンビネーションだった。
「残るはお前だけだ!」
スミコがデモニックグレイブを薙ぎ払い、紙一重でバンブージェネラルを受け止める。そのまま吹き飛ばされたバンブージェネラルを、ルーシィドが呪いの言葉を紡いだ。
「あなたは15のたんじょうび。糸つむぎの針に刺されて死ぬでしょう。さぁ数えてください。誕生日まで、あと……」
ルーシィドの糸紡ぎの針の予言(デススパイク)、袖口からこぼれた紡ぎ車の錘が、真っ直ぐにバンブージェネラルを刺した。そして、滑り込むようにカッツェの死神の鎌が振るわれた。
「よろしくねっ」
カッツェの言葉にももとスサノオ、キャロラインが動いた。
「これで――!!」
「――終わりですわ」
ももがPale Goldに 刻印された模様をカチリと押し、キャロラインが胸部のコアから光線を放つ! そこにスサノオがパイロキネシスを放った直後、バンブージェネラルが爆発と炎に飲まれ燃え尽きていった……。
●
「よし、完全勝利だぜ!」
「……ん」
雪の言葉に、十三はうなずく。雪も少なくない攻撃は受けているが、この程度へでもない。それよりも、倒せたという高揚感が勝っていた。
「早く取り戻さないとね」
ももは大阪城がある方角を見て、そうこぼす。カッツェも、友人の視線を追――おうと思ったが、ももの足元で着せられていた竹を必死に脱ごうとしているスサノオの姿に心奪われてしまった。
こうして、緩衝地帯を舞台とした一つの戦いに幕が下りる。この戦いが、後にどんな意味を持つ事になるのか――それは、これからのケルベロス達の選択次第だった……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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