降り注ぐ死の牙

作者:零風堂

 静岡県の都市部上空――。無数の雲さえ届かぬ高所に、悪しき野望を抱えた人影がひとつ。
 翼を微かに羽ばたかせ、その存在は杖を手に魔法陣を描き出す。
「さあ、おいでなさい。パイシーズ・コープス」
 呼びかけに応えるように魔法陣から現れる、5つの竜牙兵。しかしその身には禍々しい気配のような、通常の竜牙兵とは違った雰囲気が漂っていた。
「竜牙流星雨を再現し、グラビティ・チェインを略奪してきなさい。私達の真の目的を果たす為に……」
 命じられるままに、パイシーズ・コープスと呼ばれた竜牙兵たちは地上に落下してゆく。そして多くの人々が行き交う、街の中へと着地した。

「静岡県のとある商店街に、死神にサルベージされたらしい竜牙兵、パイシーズ・コープスが現れ、人々を虐殺することが予知されたっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はそう言って、集まったケルベロスたちに予知の内容を説明し始める。
「急いでヘリオンで現場に向かって、敵の凶行を阻止して欲しいんすけど……、パイシーズ・コープスが出現する前に周囲に避難勧告をすると、敵は予知とは異なる場所に出現してしまうみたいっす。そうなると事件を阻止する事ができなくなって、かえって被害が大きくなってしまうっすよ」
 だから避難を開始できるのは、ケルベロスが戦場に到着してからになる。
「皆さんが戦場に到着した後であれば、避難誘導は警察にも協力を求められると思うんで、できるだけ素早く戦力を竜牙兵に回すよう、気をつけて欲しいっす」
 それからダンテは、パイシーズ・コープスについても説明を加えていく。
「パイシーズ・コープスは3種類の竜牙兵で、数は全部で5体っす。順番に説明していきますね。
 パイシーズ・コープスαは今回はクラッシャーが2体で、バトルオーラを装備しているみたいっす。
 パイシーズ・コープスβはジャマーが2体で、簒奪者の鎌を装備しているようっす。
 パイシーズ・コープスγはキャスターが1体で、マインドリングのグラビティを使用してくるみたいっす」
 敵の動きに対して、こちらも効果的に立ち回れるよう頑張って欲しいとダンテは言う。
「この事件は、どうも死神が裏で糸を引いている様子ではあるっすけど……。パイシーズ・コープスによる虐殺を、放っておくわけにはいかないっす。どうか皆さんで力を合わせて、悲劇を食い止めて欲しいっすよ」
 ダンテはそう言って、ケルベロスたちを激励するのだった。


参加者
天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)
アマルティア・ゾーリンゲン(フラットライン・e00119)
ペトラ・クライシュテルス(血染めのバーベナ・e00334)
アイン・オルキス(矜持と共に・e00841)
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)
野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493)
アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)
猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)

■リプレイ

●突然の空襲
 それは何の前触れもなく、平和な商店街に襲いかかってきた。
 遥か上空より落下してきた竜の牙は、瞬く間に骸骨の戦士へと姿を変える。
 ――竜牙兵。
 人々がその脅威を認識するよりも早く、邪悪な牙はその凶悪な腕を振り上げ、惨劇の幕を開けようとしていた。
「……させません!」
 ライドキャリバー『火珠』を駆る猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)が突っ込んできて、飛び降りざまに蹴りを叩き込む。
「ここは私たちに任せて、皆さんは逃げて下さい!」
 大声で叫ぶ愛楽礼の言葉を聞いて、危険を察知した人々が大慌てで逃げ始めた。拳を振り上げたパイシーズ・コープスの拳打の前に割って入り、愛楽礼は奥歯を噛み締めて耐える。
「随分と楽しそうだな、私も混ぜてくれ」
 大振りの鎌を携えたパイシーズ・コープスの前にはアマルティア・ゾーリンゲン(フラットライン・e00119)がライドキャリバーと共に降下してきていた。商店街の街灯に着地したライドキャリバーの荷台をクッションにし、アマルティアは軽々と飛び上がる。そのまま敵の顔面に浴びせかけるような形で、虹色の輝きを纏う蹴りを叩き込んだ。
「……ふむ」
 攻撃から着地し、すぐに構えたアマルティアだったが……、その肩口から左腕にかけて、浅くではあるが斬りつけられている。攻撃に怯まずに相手が斧を振り下ろしてきたのだろう。吸収した力を愉しむかのように、鎌を振るってパイシーズ・コープスは薄く笑っていた。
「こっちを見ろ」
 もう一方のパイシーズ・コープスβには、アイン・オルキス(矜持と共に・e00841)が向かっていた。ファナティックレインボウの蹴りを繰り出すと同時に敵の眼前に立ち塞がり、視界に一般市民が入らないように立ち回っている。これで少しでも、人々が逃げる時間を稼ぐつもりなのだ。
「……カカカカ!」
 目論みに乗ったのか否か、敵は骨と歯を鳴らしながら笑い、大鎌を振り回して斬りつけてくる。アインは冷静に刃を構え、直撃を喰らわないよう大振りな攻撃を受け止めていく。
「久々のお仕事で少々気後れするが、張り切っていこう」
 野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493)がライドキャリバーの『スウィート』と共に、光の刃を生み出していたパイシーズ・コープスの前に駆け込んでくる。
「……!」
 間一髪で『抱擁するもの』の名を持つルーンアックスの刃を突き入れ、敵のマインドソードが警官の背に刺さるのを防いだ。そのまま敵の前に立ち塞がり、警察に協力を願いながら避難を呼びかけている。
「……カカ、カカカカ!」
 パイシーズ・コープスαが拳を握り、気の弾丸を射出してくる。その一撃は逃げ遅れた少女に向かって突き進み、その命を喰らわんとしていた。
「――アストライアの名の下に」
 そこに降り立つはアレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)だ。片腕に白銀の輝きを纏わせて、気の一撃をその身で受け止める。
「――無垢な命を散らせはしない」
 今のうちに逃げるようにと少女を助け起こし、アレックスはパイシーズ・コープスたちに向き直る。
「油断せずに戦えば十分成功させられる。俺達にはその力があるんだから……!」
 アレックスは星の力を宿した剣を構え、自分自身の気を引き締めるように言い放つのだった。

●三様の敵
「――この身は、『冬』である」
 イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)が、自身に宿る力を励起する一節を音に乗せる。それが示すは自然の災禍。魂を捕らえ、凍らせ、眠りに落とす力。
「果て無きは夜の闇。凍て付くは寄る辺無き魂。さあ、――ねむりましょう」
 光さえ閉ざす冬の嵐が吹き荒れたかと思うと、パイシーズ・コープスβの大鎌を持つ腕を、身体を氷が包んで凍てつかせていく。パキパキと乾いた音を立てながらも、鎌をイルヴァに投げつけて反撃してこようとはしていた。
「竜牙兵の群れですか。……少々厄介ですが、民を守るのはケルベロスの使命です」
 その間に天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)がオラトリオヴェールの光を放ち、身を挺して人々を庇った仲間たちの傷を癒していく。
「私たちがいる限り、ここを通しはしません!」
 スピンしながら猛烈な勢いで突っ込んでいく『火珠』に跳び乗り、愛楽礼は殲剣の理を奏で始める。決して絶望せぬその魂の旋律は、パイシーズ・コープスに怒りの感情を抱かせた。
 愛楽礼の動きを止めようととしたか、敵の撃ち出した気の弾丸が、額に当たって血が滲みだす。
 それでも、怯みはしない。
 愛楽礼は歌を止めず、その魂を奏で続けた。
「……やるな。だが、狩られるのはお前たちのほうだ」
 一方ではアマルティアが、パイシーズ・コープスβと鍔迫り合いを繰り広げていた。
 相手の獲物は簒奪者の鎌。小回りは効かないが、一瞬でも油断すれば押し切られてしまうだろう。
 虚無の力を刃に込めて繰り出される一撃を紙一重で躱し、踏み込む。
 七剣星の輝きを叩き込んで、敵の刃が返されるより先に下がって間合いを取り直す。
「……卑怯と言ってくれるなよ?」
 アレックスが入れ替わりに、ダッシュで前に駆け込んでいた。星の重力を浴びせかけるように放ち、超高速の斬撃を繰り出していく。
 その速さと鋭さに、パイシーズ・コープスβは次々に斬られ、押されていくが――。
「!?」
 アレックスの脇腹に衝撃が走り、横に倒される。見れば駆け込んで来たパイシーズ・コープスαが、思い切り拳を打ち込んできたようだ。
「聞こえるだろう、あの声が」
 不律がアンコールを思わせる言葉を囁き、アレックスの身体に活力を与えていく。そのフォローのお陰もあり、隙を突かれる前にアレックスは立ち上がり、構え直すことができた。
「魔の手であろうと火の粉であろうと、尽くを掃ってくれよう」
 その間にアインが、自身の名を冠した喰霊刀を手にパイシーズ・コープスβへと向かっていた。貫く心を刃に変えて、呪詛にも似た凶太刀を敵の中心へと突き入れる。
 ――今。
 そう思った刹那、アインは上を見ていた。その視線の先には、ペトラ・クライシュテルス(血染めのバーベナ・e00334)の姿がある!
「竜牙兵ってドラゴンの配下じゃなかったかしらぁ、おかしいわねぇ」
 言いながらもその腕には、ルーンを抱いた斧が振り上げられていた。
 どぉん!
 叩き付けられたのは、終わりを示す一撃。ペトラのルーンアックスは敵の頭蓋を叩き割り、その活動を停止させたのだった。
「……まだまだ、これからよねぇ」
 だがそこへ、光り輝く戦輪が無数に襲いかかってくる。パイシーズ・コープスγの攻撃だろう。ペトラはセクシーコーデの胸元が僅かに破れてしまうが、構わずに戦闘を続けるのだった。

●砕いて砕いて砕いて
「命のめぐりを乱す者を、わたしの『冬』は許しません」
 イルヴァは残ったパイシーズ・コープスβに狙いを定め、刃を構える。
「さあ、覚悟は宜しいですね」
 空の霊力を刃に込めて、脇腹から差し入れるように斬撃を刻みつけていく。
「このような相手に我々が後れを取ることなどありえません」
 その間にカノンは全身の気を練り上げて治癒の力に変え、不律の傷を癒していく。活力を取り戻した不律は背のコードを脚部スピーカーに繋いで展開させ、歌を準備する。
 奏でる旋律はブラッドスター。生きることを肯定するこのメッセージが、傷付いた前衛陣の癒しとなって届けられていった。
「相手にどんな目的があろうと、私達は私達の志で、みんなを守ります!」
 愛楽礼が商店の壁を蹴り、虹色の輝きを帯びた蹴りで敵の肩を思い切り穿つ。しかし相手はダメージに耐え、思い切り鎌を振り下ろしてきた!
「私を無視するとは、いい度胸だな?」
 そこに超高速で割り込んで来たのは――、アマルティアだった。敵の渾身の一撃を受けながらも辛うじて堪え、踏み込みの勢いを利用して蹴りを叩き込む。
 ライドキャリバーがガトリングを掃射して牽制する中で、愛楽礼がアマルティアを支えて敵との間合いを取った。
「今――」
 アインが踏み込む。稲妻が猛るように全身のオーラを昂ぶらせ、音速を超える超高速の拳を叩き込んだ。
 がしゃん、と胸の中央に風穴が空き、そこから敵は微塵に崩れ落ちていった。

「こんな敵にはもったいない。こんなに可憐で頼もしい猟犬たちを相手にできるなんてさ」
 残す敵は、αとγのみ。アレックスは即座に対応し、天秤座の力を宿した剣から、オーラの衝撃波を解き放っていく。攻撃はパイシーズ・コープスαの身体を打ち叩いていくが、相手も負けじと1体が拳で、もう1体が闘気の弾丸でアレックスを攻めてくる。
「ま、平和を脅かす敵ってことには変わらないわよねぇ」
 ペトラが急いでフォローに駆けつけ、その勢いのまま如意棒を伸ばし、アレックスに迫っていた奴を引っぺがした。
「いけない!」
 不律が咄嗟に動いていた。如意棒で攻撃したペトラに向かい、パイシーズ・コープスγが光の刃を振り下ろそうとしていたのに気づいたのだ。
 敵の斬撃が肩部から胸部にかけてめり込んで、バチバチと火花が散った。
「……!」
 ライドキャリバーの『スウィート』がちょうど、スピンしながらαたちにぶちかましを仕掛け終えた所だったので、不律はそのシートにしがみつき、煙幕代わりにブレイブマインを炸裂させつつ、敵との距離を取っていった。
「させません――!」
 イルヴァが刃を突き立てて、傷口をジグザグに広げていく。その一撃で僅かに軌跡がそれて、気咬弾はカノンの頬を掠めて過ぎていく。
「皆さんと共に……、参ります!」
 カノンは怯まずに狙いを定め、時空凍結弾を解き放っていた。その攻撃が敵の顔面に命中し、時間さえ凍結させて動きを氷で封じていく。
 やがてその氷が全身に広がり、パキンと音を立てて砕け散った。
「私たちの正義を、ここに示します!」
 愛楽礼が気合いと共に踏み込んで、獣の力を込めた拳を叩き込む。べきっと相手の肋骨が折れるが、まだ動いている。
 ウイングキャットの『ディケー』が翼から放つ清らかな波動で傷を癒し、アレックスも援護に駆けつける。敵の繰り出す拳を剣の柄で受け弾き、構えを大きく崩さぬまま、刃を振り上げる。
「……もったいないことすら、わからないか」
 星の刃が宿すは天秤の力。その輝きを重力に変えて、押し潰すように叩き付ける。ずしんと無数の骨が砕かれながら、相手はその場に崩れ落ちていくのだった。

 これで残るはパイシーズ・コープスγ1体のみだが、最早勝負は見えていた。
「落ち着け。カルシウムでも取ったらどうだ」
 アマルティアは素早い動きで相手を翻弄しつつ、地獄の力も借りて加速していく。
「断ち――斬るッ!」
 高速で斬り付け、着地と同時に横に薙がれる。敵には見切れず、何が起きたかも分かっていない様子だった。
 それでも光の盾を形成し、立て直そうと足掻いている。
「耐えられるかしらぁ」
 ペトラが妖艶に笑い、ルーンアックスを振りかぶる。ほとんど同時にアインも刃に呪詛を纏わせ、喰霊刀を突き出していた。
 一撃が脳天から頭蓋を砕き、刺突が胸元から食い破るように骨を壊していく。
 ふたりの強烈な攻撃を前に、竜牙兵は跡形も無く消え去っていった。

 こうしてケルベロスたちの迅速な対応によって、商店街には再び平穏が取り戻されたのであった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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