クロム・レック決戦~撃滅のファクトリア

作者:木乃

●海底決戦
「『クロム・レック・ファクトリア』の調査隊が帰還したわ……2名のケルベロスが暴走して追撃を食い止める厳しい結果となったけど、得られた情報は非常に価値あるものよ」
 事の重大さを強調するように、オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)の表情は険しく、しとやかな口振りもなりを潜めている。
「まず伊豆諸島海底部の海底熱水鉱床で、多くの資源がダモクレスによって奪取されていたことが判明。この採掘作業を行っていたのが『クロム・レック・ファクトリア』よ。その護衛部隊をディザスター・キングが直接指揮をとり、ディザスター軍団が防衛していたことも確認されたわ」
 その事実からも、『クロム・レック・ファクトリア』の任務はダモクレス全軍にとって、最重要とみて間違いない。
「さらに、伊豆諸島海底部にはもう一機、拠点ダモクレス『バックヤード』の存在も確認されたの。バックヤードの詳細は不明、だけど『環状の門』らしき形状から『魔空回廊を経由し、採掘した資源の輸送担当ではないか?』と推測しているわ」
 バックヤード側の戦力は『巨大な腕型のダモクレス』が確認されている。
「指揮官として『五大巧』という、おそらく5体の超強力なダモクレスが関わっているわ」
 さて、件の採掘によって回収された資源は膨大な量である、とオリヴィアは被害規模について触れる。
「概算では『ここ数年のダモクレス侵略に必要な資源』の過半は、ここで採掘されたと考えて間違いないレベルなの。つまり」
 ――クロム・レック・ファクトリアの撃破に成功すれば、ダモクレスが受ける被害は甚大なものとなるだろう。

 しかし、ダモクレス達もケルベロスの強攻調査により行動せざるを得なくなった。
「拠点を暴かれたことで、ダモクレスは『クロム・レック・ファクトリア』の移動準備を開始したようね。遅くても一週間以内には、移動準備が整った『クロム・レック・ファクトリア』は伊豆諸島海底から姿を消してしまうわ」
 『クロム・レック・ファクトリア』を見失えば、犠牲を払って獲得した情報が無駄になってしまう。
 それを防ぐためにも、時間をかけることは出来ない。
「『クロム・レック・ファクトリア』が失踪する前に、速やかな破壊を……危険な任務になるからよく聞いてちょうだい」
 改めて、オリヴィアは拠点ダモクレス破壊作戦の流れを伝える。
「クロム・レック・ファクトリアを破壊するためには、内部に侵入し、『ディザスター軍団の防衛網』を突破する必要があるわ。さらに『ディザスター・キングの守護する、中枢部の破壊』まで行わなければならない……つまり『強行突破した先で、さらに強力な敵が待ち構えている』のよ」
 防衛するダモクレス側にとって、スピード勝負を求められるケルベロスの襲撃さえ凌ぎきれば、修復など後でどうとでも出来る。
「相手も決死の防衛をおこなってくることが想定されるわ。非常に危険な作戦だけど、ここが正念場よ。 クロム・レック・ファクトリアの外周部にある、複数ヶ所の資源搬入口から潜入できるけれど、『全てが中枢部に続いてる訳ではない』わ。特定の突入口から『まとまっての突入は避けるべき』ね、中枢部分を破壊できなければ任務失敗と同義と考えて」
 本作戦の狙いは『クロム・レック・ファクトリアの中枢部破壊』
 オリヴィアは念押しして、次の話題へ。
「クロム・レック・ファクトリア内部は、ディザスター軍団が防衛部隊として展開。彼らは隠し部屋を利用した伏兵戦術、奇襲を行うことで『少数によるケルベロスの消耗作戦』を仕掛け、最奥部で精鋭ダモクレスによる『ケルベロスの撃退、時間稼ぎを狙うこと』が予想されるわ。対抗手段として、敵の奇襲を察知して素早く撃破・道中の消耗はなるべく避けつつ、『精鋭ダモクレス』との対決に勝利すること」
 万が一、有力ダモクレスの勝利後、通路が中枢部につながっていた場合、『ディザスター・キングとの連戦』になるだろう。
「ディザスター・キングとの決戦は、中枢に到達できた全てのチームで共闘することになるわ。迅速かつ柔軟に対応してちょうだいね」

 もうひとつ気になるのは『バックヤード』の存在。
「『バックヤード』への攻撃も可能だけど、その場合は『クロム・レック・ファクトリアへの攻撃部隊が減る』ことを意味するわ。作戦全体への考慮が必要になるわね」
 しかもバックヤードには『2本の巨大腕型ダモクレス』が護衛についている。
 バックヤード内部へ侵入するには、巨大腕型ダモクレスを抑える2チーム、バックヤード内部を調査する1チームで『最低でも3チーム』が必要。
「それと、バックヤード内部には、『調査中に暴走した2名のケルベロスが捕縛されている』可能性が高いわね。探索に成功すれば、捕まったケルベロスの救出も出来るかもしれないわ」
 とはいえ、『比重を置くべき部分』を見誤ってはいけない。
「酷なことを言うけれど、今回の作戦目的は『クロム・レック・ファクトリアの中枢部破壊』よ。ディザスター・キングやディザスター軍団とは、何度も刃を交えているけどいまだ健在――この現状も加味して、作戦をしっかり立てて。過去の交戦データも対策に役立つはずよ」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)
七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)

■リプレイ

●進軍せよ
 侵入した八人は幾度の戦闘をこなし、警戒態勢を崩さず通路を進む。
 罠や監視、警備を警戒する慎重なスタンスから移動速度はやや遅い。
 ――そして今も数回目の交戦中。
 七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)のドローンが通路の視界を遮る間に、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)が大鎌でモルガナイト・アサルトを両断する。
「わらわ達を止められると思うてか!」
「リカバリもさせねぇぞ」
 専守防衛に努める流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)の背後から、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)の拳が迫る。
 剛拳は伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)の狙撃するディザスター・ポーンの頭部を粉砕。
 アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)の支援により、掠り傷の治療と強化が行われるが、最後に残る紫の蛍光を放つ騎兵が遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)を狙う。
「はいはい狙うならおっちゃん狙ってなーっ」
 刺突を受け止めつつ清和は反撃のエネルギー弾を浴びせる。相手は盾で受けながら踏み止まった。
「後は近衛型のディザスター・ナイトだけです!」
「あれがここの有力ダモクレスみたいね」
 さくらが清和に快癒の雷を飛ばす間に、相箱のザラキがナイトの剣戟を飛びつく形で塞き止める。
「一気阿世に、いきます!」
 ウイングキャットのヴェクサシオンが羽ばたき、後衛を支援する。
 鞠緒も『時空遊泳』と名付けたペンダントから、煌めくシャチのごとき不定生物を放つ。
「落ちろー、ばんばーん」
 振り落とそうとする隙に勇名の狙撃が急所を直撃し、崩れるように近衛騎士は倒壊した。

「ふぅ、清和さん、まだいけますか?」
「ぼちぼち。ルドルフ君も無理せんようにね」
 道中、戦力温存のために防衛役を買って出たイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)達だが、短期決戦を求められる状況で心霊手術を行う時間はない。
「……スーパーGPS、やっぱり機能しない。地図が未完成だから?」
 七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)は通路を書き足すが、光点が現れぬ様子に落ち着きなく左手の指輪を撫でる。
「アリアドネ、の糸、は、だいじょぶ」
 勇名から伸びる赤い糸は健在――『これが帰路の頼み』と全員が悟る。
「斥候もあまり役に立たず、すみません」
「いえ、今は警戒しすぎるくらいが丁度良いです」
 肩を窄めるイッパイアッテナに鞠緒は問題ないと励ます。
 隠密気流は『非戦闘時に発動』する。『厳戒態勢の敵陣』では作用し難いだろう。
「とにかく今は先に」
 ――――ズズウゥゥゥ……ッ!
 さくらの言葉を遮ったのは不自然な爆発音――アメリーの表情は微かに強ばる。
「この先が最奥部、ですね」

●決死の攻城戦
 アメリー達を待ち受けていたのは300メートル四方の巨大な空間。
 中央にそびえる樹木じみた柱は天地に根を張り巡らせ、発する緑光が空間全体を照らす。
 既に三方で戦闘が行われ、黄金の機体は緑光を背に、玉座に座すように佇んでいた。
『我が布陣に隙はない、死に果てよ』
 ディザスター・キングは、二体の重騎士を連れているものの、守備は手薄。
「キングは混戦でこちらに気づいていないようですが」
「今こそ正義の鉄槌を下す刻、地獄により蘇りし我が正義の眼にはお見通しよ!」
 陰から伺うイッパイアッテナに、好機とアデレードは先陣を切る――奇襲をしかけた直後。
『――――新たな敵性体を感知』
『全て想定通りだ。征け』
 王の勅命を受け、巨大な発射装置を背負う二機が躍り出る。
 急加速で肉薄する重騎士はディザスター・ルーク。
 その名の通り、堅牢な城壁の如き重装機は『王への接見は許さぬ』と立ち塞がる。

「……そう簡単にはいきませんか」
「気をつけて、見た目以上に速いよ!」
 眉を顰めた鞠緒はマリアデバイスを手に澄んだ歌声を響かせ、さくらも生成した小型無人機をイッパイアッテナらの元へ急行させる。
 ルーク二機はホバーしながら両腕の大口径ビームキャノンを乱射、速攻をかけて短期決着を狙うようだ。
「守備は私達に任せて、鬼人さんは攻撃をお願いします!」
 ザラキとイッパイアッテナが道を開こうと光線を遮り、清和も蒸気を纏いながらもう一機のルークを陽動する。
(「頼もしいな……なおさら、無様なところは見せられない!」)
 鬼人の手に獄炎と6面ダイスが現れる。
 ひらけた射線を走り抜け、ダイスロールがカウントされる――3・2・1、
「よーく味わいな!」
 赤熱するメタルダイスが『6』で揃うと同時に叩きつける。
 ルークは後退しつつ勢いを殺したと思われたが、
『全推進器、出力最大に設定――』
 両腕両脚の頑丈な装甲を接続させていく……あれは滑走路の確保だった。
 超弩級ミサイルと化したルークは、ブースターから火を噴き急加速する。
「なっ!?」
 ドローンを粉砕し超高速移動する圧倒的質量に、戸惑う鬼人をザラキが押し退けた。
 ルークごと壁に激突したザラキだが――陥没した壁面に姿はない。
『残存戦力に告ぐ。王への攻撃行為は許さない、掃滅する』
 短期集中攻撃。それは有力個体との連戦において、ほぼ捨て身の策だった。
「ドローンごと轢き潰すなんて……顕れ出でよ!」
 自らのサーヴァントが離脱する光景にイッパイアッテナは息を呑む。
 連戦で蓄積した疲労もあり、自身さえどこまで保つか解らない。
 戦線維持が最優先だと思考したイッパイアッテナは龍穴と地場を繋げる。
 広がる気脈は後方を狙うミサイル群へ飛び込む清和と、アデレード達を包みこむ。

「我らケルベロスは多頭の番犬、正義の牙に捕らえられたが最期じゃ!」
 血を求める刃でアデレードが分厚い装甲にいくつも傷を作るが、比例してビームによる反撃で熱傷が増えていく。
 もう一機のルークも支援するアメリーと鞠緒を狙うが、阻止しようと清和が追走する。
「んうー、ピリピリ、する」
「すぐに回復します。頭上も注意です」
 ミサイルによる痺れを訴えた勇名に、アメリーが霊的エネルギーを放つ。
 麻痺が治まった勇名は砲門の照準を定める――!
『ルークII、援護を要請』『ルークIの要請を受諾』
 放たれた砲弾にもう一機のルークが急旋回する。
 脚部シールドで砲弾を防ぎ、攻撃されていたルークは反撃のビームショットで鞠緒の歌を遮る。
「もう一機はディフェンダーか、まさに『王の盾』だったっちゅーことね!?」
 奔走する清和は肝を冷やした。
 連戦による疲労もあって、手隙のルークが護衛しつつ攻撃する分、消耗するこちらが不利。
(「僕は動ける。動けるうちは――――護り通す!」)
 清和は裂帛の叫びで自らを奮い立たせ、カメラアイの視界へ向けて急発進する。
 防衛に専念する清和だが、ビームとミサイルを受けるたび、激痛が増すのを嫌でも実感してしまう。
 イッパイアッテナに至っては焼き切れていない部位のほうが少ない。

「ぅ、たは、止めませんっ」
 肩で息をする鞠緒は清和に手を伸ばし、イデアの記された本を顕現させる。
 機械じみた外観に反し、温もりをもつ表紙は自然と開く。
「――これは、あなたの歌」
 昇華せよ、歓喜の天上に。湧き起これ、生命の力よ――!
 共鳴する鞠緒の歌声は限界まで心身を癒やしていくが、負傷する鞠緒から中破したルークは狙いを外していなかった。
 ミサイルの雨の中、連結する挙動に反応したのは、
(「あれは、ザラキが消えたときと同じ!」)
 イッパイアッテナだ。ここまで膝をつかなかったのは、防具相性がよかったのだろう。
「……なにがあっても、盾となります」
 すり抜けるルークの軌道を自ら割り込むことで強引に逸らす――同時に肋骨と五臓六腑を粉砕され、血反吐を散らしながら落着する。
「そんな、ルドルフくん!?」
 さくらも前線を支えるだけで手一杯、倒れ伏すイッパイアッテナまで手が回らない。
「ヴェクさん!」
 鞠緒の指示で癒やしの風が戦場に吹きぬけるものの、手隙のルークが放ったビームでヴェクサシオンも戦線から消失する。
「今度は、あてる。ばきゅーん」
 ルークの突貫を制限しようと推進器を狙う勇名。その射線を利用し、アデレードが間合いを詰める。
 アメリーの放ったオウガ粒子で意識が拡張され、アデレードがバーニアから装甲へ深い裂け目を残す。
「堅固な要塞なれど、悪は栄えぬのじゃ!」
 バランスを崩した刹那、鬼人の越後守国儔に紅蓮が走る。
「こいつで仕舞いだぜ」
 血振りするように放たれた火球が裂けた装甲から華奢な上体まで及ぶ。
『ルー、I、続、Fu――』
 騒音をたてて転倒したルークは沈黙。

 もう一機のルークは庇ったものと、鞠緒の複数攻撃による損傷のみ。
 攻撃を防ごうと一人抑えていた清和は質量による圧殺攻撃を辛うじて耐えていた。
「……うわ、自慢のボディがボロボロやわ……」
「あのルーク、まだ動けますか!」
 笑う膝に活を入れる清和を救援すべく鞠緒がファミリアを放つ。
 ルークは壁面を滑る勢いで避けると、連結を解除して熱線の束を見舞う。
(「……だめ!避けきれない!!」)
 ビームの連続射撃を避けきれず、鞠緒の意識は遠のいていく。
「ディフェンダーよね、これで後押しするわ!」
「わたしも微力ですが……!」
 さくらの電気治療がアデレードの肉体を活性化させ、アメリーの爆風がさらに士気を高める。
「どごーん、させない。うごくなー」
 勇名の主砲と低空ミサイルによる火力支援を受け、最後の城壁に立ち向かう。
 華奢な上体部を守るようにシールドを展開し、真正面に向けた両肩部ミサイルポッドの発射管扉を開く。
 尾を引く爆撃の嵐を突っ切ろうと、捉えた弾頭を鬼人は間一髪で切り落とすが、
「く、ッ、正義は折れぬ……わらわは、屈さぬっ」
 数度の被弾によって白い髪に赤が混じるアデレードは、全身全霊の一撃を仕掛けようと前のめりに突出する。
「後は、頼んます……!」
 直進するアデレードめがけ放たれたビーム弾を、疲労困憊の清和が体で防ぐと大破した装甲ごと跳ね転がっていく。
 懐に入り込んだアデレードはカメラアイを直視した。
「我が深淵なる、瞳を見よ」
 其、魂を映し出す冥府の鏡――――汝に罪あり!
 右眼の獄炎が閃光を放ち、薄い装甲内部を蒼炎で染めたアデレード。
 ルークのホバー停止による落下と共に離れ、ふらついた一瞬。
『…………Seン、め、』
 王命を受ける城塞も矜恃をみせた。
「っ!」
 勇名がトリガーを引くより早く、内部崩壊しかけたルークが最期の一射を放つ。

 相討ちに近い状態のアデレードに連戦する余力はなかった。
「す、まぬ……じゃが、城は潰えた……」
 全力でぶつかり、互いを潰し合う――――とても長い5分だった。
 残るは四人。本来なら撤退しようと決めた人数……だが、
「キングを抑えてるチームが危ない、早く助けないと!!」
「往きましょう」
 誰もが万全ではない、抑えきれるかも解らない――それでも『負けられない戦い』がある!
「やるか。一世一代の大勝負」
「これで、終わり」
 鬼人は首に提げたロザリオに触れ、四人の元へ勇名達は駆けだす。

●盤上の決戦
 疲労した体に鞭打つ鬼人は、黒髪の青年と少女の間をすり抜け、燃え盛るダイスを振りかぶった。
「――お前の運命を極めるダイス目だぜ、キング!」
 焔滅の炎を黄金の鎧にぶつけ、後方よりさくらのドローンが鬼人達の負傷を治療していく。
「わたし達も一緒に戦うよ!」
「支援はまかせてください」
 アメリーも疑似肉体をエクトプラズムで形作り、異常状態への耐性を付加し、
「王手、飛車取り。ずどーん」
 勇名もポッピングボンバーで足止めしようと支援砲撃を展開しつつ、ライフルを構える。
『ルークは倒れたか、だが疲弊しきった肉体で援軍が務まると?』
 2チーム、合わせ8名で悠然と構える黄金の王へ挑む。
 振り抜かれる金色(こんじき)の大型ブレード、浮遊するソードビットは合流したさくら達にも向けられた。
(「せめて鬼人さんだけでも……」)
 ――仲間の救援を優先したため編成を変える余裕はなかった。
 アメリーはオウガメタルの力を解放し、前衛の感覚を鋭敏にさせる――だが少女一人が立つ配置を王は見逃さない。
『我が剣技にて、さらなる絶望の贄となれ』
 中衛に立つアメリーに王は踏みこむ――。
「――……え、」
 次の瞬間。純白だったケープは両刃の巨剣で大きく裂け、広がる血の海で紅に染まっていく。
 連戦による疲労と精密な剣筋が合わさり、アメリーを深々と傷つけた。
 無機物ながら人体同様の挙動、かつ勇猛果敢な剣術は一切の容赦なく勇名にも飛来する。
「ん、ぐぅ、は、やい――」
 鋭角な軌道を描くソードビットは勇名を翻弄し、目で追う彼女を胴部砲台ごと一斉に刺し貫く。
 此処に来て連戦による疲れが出てきたが、後退する訳にはいかない!
(「絶対に、帰るんだから……」)
(「ここで死んでたまるか!」)
 四本の背面ソードが繰り出す太刀筋は、足止めしていたチームも斬り伏せ――再び半数が脱落したときだ。

「自慢の布陣も剥げたな、裸の王様よ……! 凍てつく寒さを、プレゼントだ!」
 銀狼の青年を筆頭に、先んじて戦場に立っていた者達が王へと殺到する。
 彼らもまた残された闘志を胸に、王の討伐へ馳せ参じたのだ!
『貴様ら……!』
 王はバイザーから眼光の如き鋭い赤光を発する。
 完全無欠だと思われた己の布陣が破られたことに怒るように。
 幾度となく退けた番犬達のみせる、不撓不屈の精神に驚愕したように。
「ハァ、もう、押し切るしかないよね……ここまで来たんだもの!」
 息を切らすさくらも、銀枝に眠る紅水晶の蕾へ、残り全てのグラビティ・チェインを注ぐ。
 火花を散らすまでに高めた雷撃は王の外装を的確に貫く。
「チェスは門外漢だが、ゲームセットといくか」
 影刃。闘気に混じり、額に汗掻く鬼人もこれで最後だと猛進する。
 さらに後方から黒羽が、竜巻が、魔弾が――あらゆる砲撃が災厄の王を仕留めようと降り注いだ。
『お、ぉおおお!』
 気づけばキングの壮麗な鎧はヒビ割れ、炎の海に孤立する姿も、陥落しつつある王城で一人取り残されているように思えた。
『マザー! レジーナ……! クビアラ! 私は……まだ!』
 立ち上る焔の中、キングはかつて肩を並べた同胞の名を叫ぶ。
 彼らの元へ往くにはまだ早いと――その懐に白いコートの青年が飛び込んだ。
 なにごとかを呟き、青年が手を伸ばした瞬間……王の甲冑にぽっかりと空洞が生じる。
 心の臓を失い、キングは前のめりに傾いた。
『みん、な……』
 ……遂に難攻不落の布陣は破られた。

 残された者達は光り輝く中枢へ視線を向け、一斉に攻撃を開始。
 海底に身を潜め続けていた工廠は、遂にその機能を停止させる。
 ――――クロム・レック・ファクトリア、撃滅完了。

作者:木乃 重傷:流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984) イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770) アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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