クロム・レック決戦~ダモクレスの野望をくじけ!

作者:そうすけ


「クロム・レック・ファクトリアの探索を行ったケルベロスたちが戻ってきたよ」
 明るい話題のはずなのに、ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)の顔と声は暗い。
 それもそのはず。作戦に従事していた2名のケルベロスが、仲間たちを逃がすために暴走し、身柄を敵に押さえられていた。無事に戻ってきたケルベロスがもたらした情報は、ダモクレスに大打撃を与えられる、非常に価値の高いものではある。だが、その喜びももってしても、仲間がデウスエクスに捕らわれているという屈辱と悲しみが和らぐことはない。
「……順を追って説明するよ。まず、調査潜入隊の活躍で、伊豆諸島海底部の海底熱水鉱床で、多くの資源がダモクレス勢力によって奪われていた事が判明したんだ」
 この採掘を行っているのが『クロム・レック・ファクトリア』で、その護衛として、ディザスター・キング率いるディザスター軍団の姿が確認されている。
 ディザスター・キングが直接防衛指揮をとっていた事からも、『クロム・レック・ファクトリア』が、ダモクレス全軍にとって重要な役割を果たしている事は間違いない。
「更に、伊豆諸島海底部にはもう一基の拠点、ダモクレス『バックヤード』の姿も確認されている。バックヤードの詳細は不明だけど、巨大な『環状の門』のような形状から『魔空回廊を利用して、採掘した資源の輸送を担当している』と考えられているんだ」
 バックヤード側の戦力は、巨大な腕型のダモクレスが確認されている。こちらには、指揮官として『五大巧』という、おそらく5体の強大なダモクレスが存在しているらしい。
「クロム・レック・ファクトリアが採掘した資源量は膨大で、概算では『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半は、ここで採掘されていたと考えて間違いないよ」
 つまり、クロム・レック・ファクトリアの撃破に成功すれば、ダモクレスへの打撃は非常に大きなものとなる。
 しかし――。
「うん、どうやら……ダモクレスたちが『クロム・レック・ファクトリア』の移動準備を開始したみたいなんだ。拠点の場所がボクたちにバレたから、あわててお引越しって感じ。遅くても一週間以内に、『クロム・レック・ファクトリア』は伊豆諸島海底から姿を消すよ」
 クロム・レック・ファクトリアが移動してしまえば、調査潜入隊が大きな犠牲を払って手に入れた情報が無駄になってしまう。そうならない為にも移動する前にこれを撃破する、というのが今回の作戦の主目的だ。
「クロム・レック・ファクトリアを破壊する為には、まずディザスター軍団の防衛網を突破してファクトリア中枢に侵入、そこでディザスター・キングの守る中枢部を破壊しなくてはいけない。ダモクレス側も撤退までの時間を稼ごうとして必死で攻撃してくるだろうね」
 危険だが、作戦に参加した全ケルベロスが力を合わせれば必ず撃破、破壊できるだろう。
 ゼノはそこでケルベロスたちから目を反らせて、下唇を噛んだ。
 いおうか、いうまいか。
 ヘリオライダーが悩む素振りをみせたのは僅か数秒のこと、あげられた顔にはきっぱりとした決意が見られた。
「実は、今回の作戦、『バックヤード』への攻撃も可能なんだ。バックヤードには『探索活動中に暴走したケルベロスが捕縛されている』可能性が高い。捕らえられている二人を助け出せるかもしれないんだ! でも、バックヤードに戦力を投入した場合は、クロム・レック・ファクトリアの撃破が難しくなってしまう……」
 捕らわれのケルベロスを助けてあげたい。でも、クロム・レック・ファクトリアを撤退させるわけにもいかない。
 どちらも成功させようとするならば、各チームの割り振りが重要となる。
「バックヤードは『2本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されている為、バックヤード内部に取りつく為には、巨大腕型ダモクレスと戦う2チームと、バックヤード内部の探索を行う1チームで、最低でも3チームが必要だよ」
 左右の巨大腕型ダモクレスをそれぞれ最低1チームが引きつけている間に、別のチームが内部に潜入するのだ。
 一方、クロム・レック・ファクトリアには数多くの『資源搬入口』があり、全てが中枢に続いているわけではない。つまりそれは、こちらへ回るチームが少なくなればなるほど、撃破の可能性も低くなっていくということである。
 作戦に参加するすべてのチームがよくよく話し合って、どのチームがどこを担当するか、決めなくてはならない。
「これだけ大量の資源を採掘していたという事は、ダモクレスの大規模作戦が近いのかもしれない。こで叩いておかないと大変なことになる。だけど、仲間の救出とバックヤードの探索も……。勝手なことばっかりいってごめん。だけどこれだけはお願い。どうか、全員無事に戻ってきて」


 迷路状になったクロム・レック・ファクトリア内部では、ケルベロス襲撃に備え、各所にある隠し部屋でディザスター軍団のダモクレスの防衛部隊が待機していた。
 少ない戦力で次々と隠し部屋からの奇襲攻撃をしかけてケルベロスを消耗させ、最奥の中枢部手前に配置された有力部隊が撃破する……という作戦だ。
 中枢部はディザスター・キングが守っている。万が一、突破されることがあっても、複数のケルベロス部隊が集結しない限り、最後の砦であるディザスター・キングが倒されることはないのだから。
 ケルベロス側が奇襲対策を取らず、ただやみくもに突っ込んで来れば、高確率でダモクレス側が勝利するという計算に基づき、彼らはちゃくちゃくと準備を進めていた。


参加者
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
ステイン・カツオ(砕拳・e04948)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)

■リプレイ


 神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)は潜水服を無造作に脱ぎ捨てた。軍装を整えると顎に手をやって撫でる。
「ふむ。嵐の前の静けさ、か」
 微かな頷きひとつで意を汲んだ相棒『ラグナル』が、青い竜翼を広げて哨戒に出た。
 すでに侵入が知れ渡っているのか、三番ベイは閑散としており、大きな倉庫のように見える。キレイに片づけられた床にはオイルのシミすら残っていない。
 晟は次々と上がってくる仲間たちを背で庇うようにして立ち、海底基地の奥へ続く通路を睨んだ。廊下に敵の影はない。いまのところは。
(「ここが中枢につながっているとも限らないわけだが。まぁなるようになるだろう」)
 そういえば、ここクロム・レック・ファクトリアに入るまで、ケルベロスたちは一切攻撃を受けなかった。すんなりと侵入できたのは、敵が撤収に注力しているためか。バックヤード探索に向かった班は、すんなり中に入らせてもらえないだろう。
「彼女がここにこられないのならば。私が、やることをやらなくちゃ、と」
 愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)の呟きに応えるように、小さなドラコンの相棒『ポンちゃん』がアギャ、と鳴いた。
 束ねていたシュシュを外し、髪を手ぐしで整え、ふんわりさせる。
 ミライの友人たちはいま、バックヤード攻略の最中だ。無事を祈り、笑顔で再会できることを願う。もちろん、自分たちも――。
「必ず、全員無事で帰るのです。そうでなきゃ、皆に合わせる顔がないから」
「そうですね。慎重かつ大胆に進みましょう」
 エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)は、笑顔で潜水服を脱いだ仲間たちを見回した。
「キングがいる中枢まで、たくさんの敵と戦うことが予想されていますから」
 濡れた体を一振り。ふあふあの毛並みを取り戻した『ラズリ』が、にゃんと鳴く。
 肩に頭をつけてあまえてくる相棒の体を、エレは優しく撫でてやった。
「ラズリ、みなさんを守ってくださいね」
 ゴロゴロと喉を鳴らす音が、微かな振動を伴った鈍い爆発音に消された。
 ケルベロスたちは一斉に、黄色で大きく『3』と描かれた壁面へ顔を向けた。
 先ほどの爆発音からやや遅れて、熱気と冷気がぶつかりあって立てるシュウシュウという音と塵を含む空気が、壁のエアダクトから吐き出される。
「くひひ……。いいね、いいね、この雰囲気。死闘の予感に胸が高鳴るよ」
 九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)は唇の片側だけを吊り上げて笑った。口にしたこととは裏腹に、穏やかな風を体にまとって内で沸き立つ闘気を隠す。
 脳筋揃いと言われているオウガにしては珍しく、幻はただの殴り合いを嫌う。無意味に敵を引きつけ、無駄にダメージを受けるのは趣味に合わない。
「レベルの低い戦いはしたくないからね」
「行こう……」
 四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)の耳に心地の良い声が、低く、仲間たちに進軍を促す。
 千里の瞳の色に変化はない。手にする妖刀”千鬼”も沈黙を保ったままだ。
「ここに敵はいない」
 早く妖刀にデウスエクスの魂を吸わせたかった。
 初めて心で妖刀の声を聞いたとき、”千鬼”は千の魂と引き換えに両親を返してやると言った。それ以来、数多くのデウスエクスを倒してきたが、両親はまだ黄泉比良坂から戻ってきていない。
 千里は仁王立ちする一等海尉の横を通りすぎ、通路の入口に立った。
「キング……死神相手に今度は何を掠め取ろうとしている……」
「ロクなことじゃねぇのは確かだな」
 ステイン・カツオ(砕拳・e04948)がやって来て、千里の前に立った。晟も「きちんと隊列を組んで行こう」とみんなに声をかけながら、ステインと並ぶ。
「それでは参りましょう」
 のんびりとしたエレの声で、ケルベロスたちは中枢部に向かって進軍を開始した。
 いやしくもダモクレスの資材保管基地である。通常の建物の廊下よりはずっと大きい。基地の廊下は壁も床も分厚く、剥き出しの鉄にそっけなく行く先を示す矢印と記号がペイントされているだけだった。
 ステインは足音を響かせないよう、無意識に歩いていた。メイドはカーペットが敷かれていない木や石の床でも、主人の耳に聞こえないよう足音を忍ばせて歩く。
 仲間たちを従えて進み、最初の曲がり角で立ち止まった。角から顔を出して前方を探ったあと、通路の壁に指を滑らせた。
「前方クリア。ちっ、捨てていく癖に……どこもかしこもツルピカさせやがって。掃除のやりがいがねぇところだな」
「何一つ、手掛かりを残していかないつもりですね」
 隊列の中ごろで、ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)が鹿撃ち帽をかぶりつつ言った。コートから夢色ロリポップを取りだし、ホームズのパイプ宜しく口にくわえる。
「ですが、私の目は誤魔化せません。例えば――失礼」
 ドロッセルはミライの手から目印をつけるためのチョークを取り上げると、ステインの頭の先へ投げた。
 チョークは前方の壁をすり抜けた。たちまち壁が消えて、先に進む通路が現れる。
「丁字路か」
 幻が唸る。まだほとんど進んでいないうちからこれだ。この先、どんな仕掛けが待ち受けているのやら。
「どっちに進む?」
「前に破壊したマキナ・ギア・ファクトリアの時以上の難題ね……」
 答えたのは円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)だ。相棒の『アロン』とともに、頭の上の耳をひくひくと動かす。
「まっすぐ行きましょう。隠していたということは、その先に進まれたくないということだから。……罠かもしれないけど」
 待ち伏せを受けて戦闘になったらなったで都合がいいこともある。このようなトラップが手を変え、品を変え用意されているのであれば、早めに倒したダモクレスから情報を得た方がいい。
「どのみち、戦闘は避けられないし」
 キアリの提案に、隠し通路を発見したドロッセルが同意する。
「そうですね。それにまっすぐ進んだほうが中枢に早く近づける」
 キアリはブラックスライムを棒状に伸ばし、手に持った。
「アロン、いつ襲われてもいいように準備して」


 天井が白煙を吹きながら落ち、通路いっぱいに黄色い光が走った。警報音が鳴り響く。
「奇襲なんてめんどくせぇ手を使いやがる……らしいっちゃ、らしい手だけどよ」
 ステインは煙を突き破ってきた筒状の剣を、下から腕をあげて叩き、かわした。
 現れたのはスパイクのついた盾を構えたモルガナイト・アサルト、二機。その後ろに黒い機体のカーボナード・コマンダーの姿が見える。
 エレはライフルを構えると、左のモルガナイトに狙いをつけた。照準を合わせ、優しくしぼるように引き金を引く。放たれた霊弾が単眼を撃ちぬいた。
「雷光団第一級戦鬼、九十九屋 幻だ。手合わせ願うよ!」
 幻は手のひらから黄金の角を伸ばすと、仰け反るようにして倒れる敵に肉薄した。覆いかぶさるようにして、装甲に覆われた胸を上から貫く。散る火花に目を眇めたとき、頭のすぐ上を砲火がかすめた。
 昴は『ラグナル』から耐性アップの援護を受けた。腰を沈めて抜刀し、緩やかな弧を描く斬撃で右のカーボナードが放った弾を切る。
 ケルベロスたちに降り注ぐ火の粉を『ラズリ』の羽ばたきが散らした。
 この間わずか一秒。戦闘においては永遠にも感じられる時間だ。
 崩れたディフェンスラインの隙をついてモルガナイトが突っ込んできた。
「はっ!」
 短く気を吐いた千里が鋭く足を振り上げる。
 モルガナイトは足を止めて、シールドを構えた。
 ステインは振り返りざま、その背に凍てつく螺旋の波動を叩き込む。
 不意を突かれて仰け反った胸に蹴りがまともに入り、ひび割れた。
 そこへもう一撃。キアリが放った星型のオーラが命中した。
 細かく砕けた装甲が、電気回路のショートにより発生した稲妻に弾かれて飛ぶ。
「いまです、アロン!」
 『アロン』が口に咥えた剣で、シールドのついた腕を切り落とした。
 腕の断面からオイルのような体液が迸しり、通路の壁や天井、床を汚した。二機のモルガナイトが爆発する。
 ケルベロスたちは膨らむ火の玉に飲み込まれた。飛び散る部品が、ケルベロスたちをさらに傷つける。
「ぐっ……」
 グラビティーによる攻撃以外では死なないケルベロスたちだが、純粋に肉体を深く傷つけられればダメージを受けてしまう。
「ポンちゃん、いくよ♪ 一緒に歌って」
「キュイ♪」
 小さなドラゴンの吐く星とオラトリオが撒く花びらと。炎の浮かんだハートがキラキラと光って広がり、ミライの歌声とともにケルベロスたちの焼けた肌をひんやりと癒す。
「みんな、頑張れ。まだ一機、残っているよ」
 ミライの言葉を裏付けるように、焼けて黒ずんだ通路の先で、カーボナードの目が光った。
「貴方の行動は読んでいました!」
 いち早く立ちあがったドロッセルが如意棒を長く伸ばし、敵が構えたアームドフォートを打ち込みの衝撃でそらす。そのまま如意棒を押し込んで、黒い装甲に埋め込まれた胸のコアを突いた。
「邪魔だ、そこを退け」
 棒立ちになったカーボナードを、唸りを上げる晟の蒼竜之鎖刃【灘】の刃が切り裂いた。
「みんな、大丈夫か?」
「ぜんぜん平気」
 次々と返ってくる言葉に、晟は「そうか」と言って軍服についた塵を払った。全員、特に手当の必要なし、と判断して先へ進む。
「まって! このダモクレスから情報を引きだします」
 キアリは倒れたカーボナードの横に腰を下ろすと、割れた頭部に手を当てた。
 その様子を、少し離れたところからエレが見守る。
 キアリは重々しく首を振った。
「中枢までのルートが記憶から削除されています。それどころか、脱出ルートすら……彼らは……仲間たちのもとに戻る気はなかった……」
 エレは目を伏せると顔から微笑みを消した。
 ドロッセルは新しく夢色ロリポップのセロハンを破り、カーボナードの割れたコアの中にそっと落とした。
「敵ながら見上げた心意気です」


 これで何度目だろう。上下左右、あらゆるパターンの隠し部屋から、ダモクレスはケルベロスたちに対して奇襲を仕掛けてきた。
 エレはクリソベリル・パンツァーが、角から半身を乗り出した瞬間を捉えて撃った。放たれた光弾はダモクレスの肩に当たり、装甲の内へ吸い込まれるようにして消えた。
 敵が目に見えて弱体化する。
「いまだ!」
 晟の号令を受け、千里がよろけながらケルベロスたちの前に出てきたクリソベリルに妖刀を振るった。
 斜めに滑り落ちた上半身が床に当たって弾み、転がる。振動で下半身が倒れた。
 ミライが鉄くずと化したダモクレスの体にヒールをあてて切り口を塞ぐ。
 それでもわずかに飛び出したケーブルから散る火花を、『ラグナル』と『ラズリ』が出なくなるまで体で弾いて引火を防いだ。
「くひひ……敵も必死だね」
 左腕に受けた傷を夜叉の衣の内に隠し、幻は床に落とした炎龍槍を拾い上げた。
「あら~、幻君? ダメだよ、ちゃんと手当てしないと。ポンちゃん、治してあげて」
 ミライに注意され、イタズラを見つかった子供のように首をすくめる。
「しかし、いいかげん雑魚の相手は飽きてきたね。キングはどこ――!」
 しまった、と思ったときは遅かった。
 奈落に向かって自由落下していくケルベロスたちを、小さな相棒たちが必死に追いかける。度重なる戦闘に気力、体力を殺がれ、注意力が散漫になっていたらしい。全員が足を乗せたところで踏み板が割れた。
 キアリは落下中に体をくるりと回して足を下にした。着地の瞬間に膝を柔らかく曲げ、衝撃を全身へ拡散させる。
 他の仲間たちも無難に着地を決めたようだ。
 真っ暗だった。
 ただ、そこがかなり広い空間であることは、落下時の残響が残る長さからから解る。
 闇の中で火花が開いた。と同時に天井の明かりが一斉につけられた。
 数メートル先に四機のダモクレスが立っていた。
「ちっ! 中ボスのお出ましか」
 四機のうちの一機、ディザスター・ビショップ発射された弾丸は舞い散る火の粉を螺旋の渦に巻き込みながら正確に、眩さに目を細めるキアリに向かって飛んでいく。
 着弾の寸前、キン、と鈍い金属音がした。
 間に滑り込んだステインが、闘気を纏わせた腕で銃弾をはじいたのだ。
「てめぇのしょっぺぇ鉄くずなんざ通すワケねえだろうが!! さっさとくたばれ!!」
 凝縮させた悪意を弾丸に変えて指先から放つ。
 悪意の弾丸は大剣を携えて走ってくるディザスター・ナイト・FAの白いボディーを掠め、ビショップに当たって外殻をほどくと、黒い竜巻を起こした。
 竜巻の中でガラガラと音をたてて、ビショップの体が激しく回転する。
「貴様の相手は俺がしよう」
 晟はナイト・FAが大上段から振り下した剣を、蒼竜之太刀【濛】で受け止めた。そのま横に倒して剣を払い、敵の体勢を崩す。腹にケリを入れてつき飛ばした。
『砕き刻むは我が雷刃。雷鳴と共にその肉叢を穿たん!』
 電光石火の突きが白いボディーに刺さり、蒼雷が迸る。
 ナイト・FAは狂ったように手足を動かしながら爆発した。
 ディザスター・ルークがミサイルポッドを開いた。無数のミサイルがケルベロスめがけて飛ぶ。
 千里が妖刀を、『アロン』が剣を振るい、ドロッセルが如意棒を回してミサイルを迎え撃つ。だが、落とせたのは半分。残りはケルベロスたちの体に当たって炎を吹きあげた。
 一気に距離を詰めてきたディザスター・ナイトが、仲間の回復に集中するミライに短剣を振るう。光る刃が花咲く髪の上に振り下されようとしたその時――。
 クロム・レック・ファクトリア全体を揺るがす、凄まじい衝撃が起こった。
 ずずっと部屋全体が沈み込む。天井の照明がバチ、バチッと音をたてて瞬いく。いきなりルークの後ろの壁が割れて、鉄砲水が吹きだした。
 アイズフォンに飛び込んで来たキング撃破の報を聞きながら、ドロッセルはどんどんとカサを増していく海水の中で怨霊を呼び集め、杵を持った巨大な黒い兎のような姿に変身する。
「この裏が中枢だったようですね。あと一歩、足りませんでしたか……」
 同じくアイズフォンで撃破を知ったエレが妖精弓を構えて矢を放ち、切りかかるナイトを牽制した。幻がナイトの腹に重い一撃を入れて海水に沈める。
 晟とステインが体を張ってルークを押さえつけ、渦巻くように流れ込む海水をものともせず千里が妖刀を振るって脚を切った。
「いよいよ終わりとなりました。『さあ、取立ての時間です。我流・月影 望調黒兎』!」
 半ば海水に沈むダモクレスたちの頭に、ドロッセルが凝縮された呪いを落とす。
 四つの柱を中心に凍った海水面を、爆発の衝撃波が走り割った。
「脱出だ!」

 ケルベロスたちは荒れ狂う海水の流れにもまれながら、落ちてくる鉄骨の間をくぐり抜け、吹きだす炎を避けつつ、爆発で生じた大量の気泡とともに基地を脱出した。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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