●華々しく咲く
茨城県、かすみがうら市。繁華街に程近い、とある廃ホテル。
その一階のホールに、一人のドラゴニアンが進み出る。年の頃は十八ほど。袖を破ったデニムベストを羽織った、精悍な竜派の青年。
「勝った方がボスだ。負けた方はグループごと相手の傘下に降る。文句はねえな」
もう片側からは、サキュバスの青年。年の頃は同じ。腰に広がる翼と尾に、白いパーカーのフードから覗く角が微かな色気と共に種族を主張する。
「恨みっこなし、って奴? 結構、こまめに確認するよね、キミ。承知してるから来たってのにさ」
竜の青年がグローブ越しに拳を打ち付けると共に、光がホールを照らす。その後ろには若者たちの一団。二十人ほどが、首領の意気を上げんと、雄雄しく吼える。
「俺が勝った後で、ずるっこボーヤの言い訳に付き合うのはゴメンなんでな」
対する魅魔の青年は、ぱちりと指を一鳴らし。照らし出された背後には、ほぼ同数の若い男女。口笛を鳴らして囃し立てる。
「どっちが勝っても、ボクとキミが一番と二番なのは変わらないじゃん? 負けたって大した損でもないし」
竜の青年はしこをふむように腰を落とし、魅魔の青年は髪をなびかせるようにフードを外す。
「どっちがボスか……白黒はっきりさせんのは、大事だろ」
「ホント、脳ミソ筋肉だよねえ、キミってさ」
双方、身構えたまま、にやりと笑って。
「……お前も本当は試してみたいんだろ? いいぜ、派手にやろう」
するり、するりとその背後に、茎が伸び、つぼみが膨らみ、花が開く。
「あは。ま、ちょっとね? 華のあるステージにしようよ」
竜の背後に山茶花。魅魔の背後に夾竹桃。
否、その形をした、デウスエクス・ユグドラシル。
蛇のように鎌首をもたげて向かい合い、その夜、ホテルに咲き誇る……
●絡み合う花々
「かすみがうら市の事件が予知されました」
セリカ・リュミエールが資料を広げる。
茨城県かすみがうら市。近年急激に発展した若者の街で、若者グループの抗争事件が多発しているという。
「そしてしばらく前から、攻性植物の果実を体内に受け入れ、異形化した若者が発生しています。ここまではご存知の通りですが」
今回、攻性植物化した若者が率いる二つのグループが、衝突を起こしたという。
「グループ同士の抗争が起こった結果、彼らは自分たちのリーダーである攻性植物を代表者として、負けた側が勝った側の傘下に下るというルールの決闘を始めたのです」
今は、たまたま起こった一件の抗争に過ぎない。だが。
「これはグループ統合の動きに他なりません。この状態を放置すれば、同じような決闘が繰り返され、かすみがうら市の攻性植物たちが、いずれ統一されてしまう事態も考えられます」
むしろ互いに喰い合うことを放置するのは、好都合なのでは? その問いに、セリカは首を振った。
「思い出してください。彼らは今や、デウスエクス同士……彼ら同士の決闘では、コギトエルゴスムになるだけ。グラビティ・チェインの豊富な地球では、非常に早い復活が可能です」
つまり、一人として欠けることがない。もし統合の動きを許してしまえば、最終的に出来上がるものは……
その想像に、一瞬、場の空気に冷たいものが走る。
「今回、皆さんにはこの現場に乗り込んでいただき、決闘に臨む攻性植物を撃破していただきます。組織の統合を防ぐことがまずは第一。決闘が潰せるならば、撃破は一体で構いません。早急に出動をお願いします」
●山茶花と夾竹桃
「標的は二体。ドラゴニアン中心のグループを率いる青年と、サキュバス中心のグループを率いる青年です。操る植物の形状にちなみ、サザンカとキョウと呼ばれています」
出された二枚の写真には、十八前後の青年が二人。見るからに乱暴者の竜人と、小賢しそうな細面のサキュバス。
「二人は、ある廃ホテルのホールに互いのグループを集め、決闘を開きます。皆さんはそこに乗り込んでいただくことになります」
敵戦力は。誰かが問う。
「個の力は二人とも、ケルベロスを上回ります。共に捕食形態、蔓触手形態を基本戦術に用い、サザンカは光花形態、キョウは埋葬形態というグラビティを切り札としているようです。詳細は、資料をご確認ください」
そしてもう一つ。頭をひねらねばならない問題ですが。と、セリカは付け加える。
「皆さんが乗り込んだことで、もし彼らが一時休戦し協力して皆さんと戦おうとした場合。二体を同時に相手取れば、勝利することは困難です。一体だけでも確実に撃破できるよう、立ち回りを工夫することが必要でしょう」
これは一つの例ですが、と、セリカが続ける。
「例えばある程度まで決闘を放置し、二体がダメージを負うまで待つ。また、片方に集中攻撃を仕掛けるなどして状況を動かす手もあります。何かしらの大言壮語や嘘なども効果があるかもしれません。彼らはそれぞれの性格に応じた行動を取るはずです」
最終的な戦い方については皆さんにお任せする以外にありませんが、と、セリカは言う。
「ついでと言ってはなんですが、一般人である観客については考慮の必要はありません。攻性植物と皆さんが戦い始めれば、勝手に逃げていきます。攻性植物にとっては仲間ですから、敵に狙われることもありません」
溜息を落として、セリカが資料を閉じた。
「日本の内部に、デウスエクスの組織が出来上がる危険を、見過ごすわけにはいきません。獅子身中の虫を作らぬために、この決闘は確実に潰してください」
よろしくお願いいたします。
セリカはそう言い切ると、頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
ユウ・イクシス(夜明けの楔・e00134) |
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621) |
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772) |
マリア・ヴァンガード(メイドオブホーネット・e04224) |
結城・渚(戦闘狂・e05818) |
公孫・藍(曇花公主・e09263) |
水無月・一華(華冽・e11665) |
バンリ・スノウフレークス(リメンバースノウ・e12221) |
●宴
月も隠れた夜の闇。
廃ホテルの窓から、目に痛い光。
轟く、歓声。中はすでに、乱痴気騒ぎ。
「かすみがうらに赴くのはこれで三度目ですが……」
マリア・ヴァンガード(メイドオブホーネット・e04224)は、これら一連の事件を追っている。事態の悪化は、彼女にとって憂うべき問題だ。
「また悪い坊やたちが攻性植物を悪用ですか。同じ蔓使いとしては気持ちの良いものではありませんね」
公孫・藍(曇花公主・e09263)もまた攻性植物の使い手として、事件に関わってきた。
「それにしても、まるで見つけてくれと言っているような集会をするものですね。あるいは見つかってもなんら問題ないという自信があるのか」
窓から様子を見ているのはクロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)。
事態を隠蔽しようという意志はない。騒ぎに乗じて潜入することも、不可能ではないだろう。ケルベロスらは頷き合うと、そっとホテルに忍び込む。
運び込まれた強烈なライトがホールを照らしている。そこに立つサキュバスとドラゴニアンが、互いに口上を述べ、闘いが始まった。
サザンカのグループにそっと混ざったのはクロハと、そしてギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)。
同じドラゴニアンとしてギヨチネは複雑な感情を抱いている。
(「何故、攻性植物など、受け入れてしまったのか……」)
強さを求めた結果だろうか。だが、今は感情を抑え目立たぬように決闘を見守る。
その後ろに、隠密気流を駆使して潜んだのは、結城・渚(戦闘狂・e05818)。
決闘を途中まで放置しサザンカを集中的に狙う、というのが計画。だが、渚の本音は少し異なる。
(「本当はこの場で二体共と戦えたら楽しかったでしょうけど……実力を考えるとそうはいかないからね」)
反対側には、キョウのグループに紛れた五人。
渚に同じく、隠密気流を使って目立たなくしているのは、バンリ・スノウフレークス(リメンバースノウ・e12221)。
強大な攻性植物がステージの上で花開き、毒々しく押し合っているのを眺めて、思う。
(「拳と拳で語り合う……なーんて。オトコらしくて素敵ね。でも、それは力を持たないもの同士の友情にのみ、適応されるのよ」)
人智を超えた力のぶつかり合いなど、本来、一般人にとっては脅威でしかない。
マリアがプラチナチケットの効果で、観客の一人に声を掛ける。
「ボスの力って素敵ですよね。どこで手に入れたか、ご存知でしょうか?」
「知らないよ。ボスが言うわけないし。ところで、そいつらボスのファン? 君が招待したの?」
他のメンバーを指して、観客が問う。マリアが頷くと、いぶかしみつつもその男は納得したようだった。だがこれ以上の詮索は、正体が露見する危険がありそうだ。
水無月・一華(華冽・e11665)もまた、その力に対して疑念を抱いている。
(「喧嘩するほど仲が良いのかしら。素手で殴り合えば良いものを……他力に頼ろうなど度胸の無い子たちですこと」)
尤も周囲の若者たちは、その力に酔いしれているらしいが。
ユウ・イクシス(夜明けの楔・e00134)が、目線も鋭く、壇上の闘いを分析する。
攻撃されることを問わずに突っ込むサザンカ。対するキョウは持久戦の構えだ。
(「先は見えている。とは言え……」)
決闘の、どこで介入するか。両者の体力が減るほどに良いが、長引けばキョウは降参する。
(「音を上げる直前まで、粘りたいものですけれど……」)
一華が小声で呟く。
流れが決定的になった後では、ケルベロスの乱入はキョウにとって、首魁に恩を売るチャンスとなる可能性がある。
やがて、サザンカが大きく地面に踏み込み、大技を放つ構えに入る。
頃合だ。
目配せしあったケルベロスたちが、武器をそっと手に取る。
熱気と狂気に満ちていた会場に、鋭い殺意が交差する……
●乱入、そして分断
キョウが顎の下を拭う。流れは、今のところキョウに不利。
「そろそろ勝負を決めるとするぜ……!」
腰を落としたサザンカが、右手に大きな花を咲かせる。
「それなら、ボクも……この一撃で決めよっか」
対するキョウも、足元から大地を侵食し始める。
本来なら、これが決闘の運命を左右する一撃。しかし、事態は激変する。
攻性植物を身に受けた者の勘か。二体は、互いの背後に武器を構える人影を捉えたのだ。
「あれはっ……!」
「不躾な形で失礼する……断ち切る」
二体が同時に飛び退った刹那。ホールの真ん中に、ユウが着地していた。飛び込みざまの剣閃が、サザンカの頬を掠める。サザンカはそのまま転がり、上空から隕石のように飛び込んできたマリアの踏み抜きを、身を捻らせてかわす。
(「かわしたか。だが……」)
(「それも、ここまでです」)
一発の銃声。跳弾した射線が、再び飛び退こうとしたその足を捉えている。
「この勝負、アタシたちが介入しちゃうわよ!」
銃弾の主は、バンリ。
「こっちを見なさいよ、私たちと遊びましょ!」
炎弾がホールに飛び込み、サザンカに直撃する。放ったのは、渚。爆音と共に、竜人の体が炎に包まれる。
「う、おぉお!」
ユウとマリアに体勢を崩された後では、隠密気流からの奇襲に対応できるはずも無い。
「サザンカ! こ、こいつら……!」
相手が火達磨と化すのを見て、キョウが素っ頓狂な声をあげる。
その前に立ちふさがるように飛び込んだのは、クロハ。ナイフを構え、動きを制する。
「動かないでいただきます。狙いは、あなたではない」
現れたのは、8人の人影。
ガラスが割れたように、静まり返った舞台の中。ぱちりぱちりと小さな拍手。
「さあさ皆さん、お遊びはおしまい。ここからはケルベロスの一幕。死にたくなければきちんと出口からお逃げなさいな」
声の主は、藍。顔に張り付いた笑顔には、隙の無い冷酷さが滲んでいる。
事態を飲み込んだ若者たちが、我先に出口に向かって駆け出していく。
サザンカへ攻撃した四人以外も、本来そのまま飛び込んでいく予定だった。僅かな殺気に敏に反応し、皆の足を止めさせたのは、クロハの行動。
キョウの足元には侵食が広がりつつある……彼は彼で奇襲に対応し、ケルベロスらに埋葬形態を放つつもりだったらしい。クロハが気付かなければ、飛び込んだ者たちの脇から、茨が襲い掛かっていたことだろう。
「どーいう意味だよ、ねーさんたち? ボクたちを、殺しに来たんだろ?」
美しい顔にしわを寄せて、キョウがいぶかしむ。
「ボスの綺麗なお顔に傷が付くなど悲しくて……飛び入り、お許し下さいませ」
会場の混乱の中、キョウに突然そのようなことを語りかけたのは、一華。
「はあ? 何の話? ボク、キミの顔なんて……」
炎を振り払った竜人が起き上がったのは、その時だった。
「キョウ、てめえ! ケルベロスと組んで俺を売ったな!」
「え? ち……違うよ! まだキミの方が……」
「この、ユグドラシルの面汚しがぁ!」
それは冷静に考えればありえぬこと。だがサザンカは一華の態度と、キョウだけが無事な様子を見て、完全に冷静さを見失ったらしい。
キョウが慌てて、一華に向き直る。
精一杯、性悪の狐を演じて見せた女の口の端が、袂の下でくすりと笑んだ。
「……っ!」
ギヨチネが前に進み、憤る竜人の前に立つ。
「下の者は皆怖気づき、ボスを見捨てて逃げてしまったようだな。可哀想に。割り入ってすまないが、ここからは私たちが相手をしよう」
その隣に藍、一華が並ぶ。振り返ったギヨチネが微かに目配せし、キョウへの最後の一押しを頼む。
もはやキョウは、矛をどこに振り下ろしていいかわからぬ様子だ。
「貴方の方が弱そうですから、見逃しますよ。弱いのに興味はないの」
そう語ったのは、渚。
「み、見逃す? ケルベロスが?」
続けざまに、クロハが畳み掛ける。
「個人としては双方相手にしても良いと思っています。何故なら私は命がそれほど惜しくないのですよ。ですのでどうぞご注意を。どちらかを殺すまで止まりませんよ、私は」
その気持ちに偽りは無い。キョウの戦意が一歩退く。あと、一押し。
「決闘の邪魔をするのは少し気が引けるけれど、此方にも此方の都合と言うものが有る……今の状況、お前にとっては敵が九人いるも同じ。其れでも……向かって来るか?」
ユウがそう語り、親指がその刀……結祈奏の刃を少しだけ押し上げてみせる。
「勝ち目はありませんよ?」
マリアにそう結ばれ、キョウは卑屈に笑んだ。
「へへ……サザンカ目当てってワケね? じゃ、ボクはズラかるよ……じゃあね!」
「ごめんなさいね。でもこれがアタシたちの使命なのよ」
バンリが投げかけた言葉にも振り返らず、キョウの姿は闇の向こうへ消えていった。
●花咲いて
山茶花を広げる竜人に、藍が語りかける。
「坊や、あなたに山茶花は似合わない。春を待ちながら閉じていく冬に咲き続ける健気さも、雨に濡れながら雫を染める妖艶さもあなたには無い」
鎌首をもたげた山茶花とは対照的に、しゅるしゅると優雅に広がっていく藍の攻性植物が、大きな果実を実らせる。
「本当の蔓使いを教えてあげます」
まばゆく輝いた黄金の果実が、ケルベロスらを包んでいく。
「なんだぁ、大仰なこと言ったかと思えば、傷も負ってないのに光りやがって!」
相手も攻性植物。技の性質が何であるかは知っているらしい。
「おぉこわいこわい。野蛮な竜だこと……火を噴く度胸の一つも無い、花の養分程度のくせに」
続けざまの一華の言葉に、竜人の怒りは頂点に達した。先程広げかけていた巨大花を右手に、ついに大技を放つ。
「火なら噴いてやるぜ! 光りかたを教えてやる!」
まばゆい光の奔流が、藍に向かう。その前に飛び込んだのは、ギヨチネ。さながら洪水に立ち向かう大樹のように、爆裂する閃光を受け止める。
「ギヨチネさん……!」
光が収まり、全身に赤く火傷を穿たれても、男は倒れない。
手を貸そうとする藍を制し、言う。
「ケルベロス八人どころか、私一人倒せずにボスを名乗るとは、笑わせる。かかって来い」
咆哮をあげる竜人。しかし、その体は、脇から飛び込んできたクロハの旋刃脚に止められた。
「……っ!」
「お待たせしました」
クロハがそう言ったときには、キョウを見送った仲間たちが次々に飛び込んでくる。
サザンカは慌てて身を立て直すと、踏み込んできたマリアと腕を絡ませて押し合いの形を取る。
「その力は、どこで手に入れたものなのです」
「てめえの知ったことかよ!」
すぐさま炎を纏った蹴りが、竜人を蹴り飛ばす。
「ギヨチネサンのヒールはお願いね! アタシは、イケてるお兄さんと一戦交えてくるわ!」
バンリはそう言うが早いが、跳躍する。
「ヒールはわたくしが。藍さんは、果実の追加をお願いしますわ」
戦いの裏で、一華が言う。頷いた藍は、再び果実を実らせる。
キョウからの邪魔は無かった。サザンカは決闘で手負い。その上、初撃の奇襲も許している。もはや、流れは決まっていたのかもしれない。
数分の間に、枝葉の端々から血の雫を落として、サザンカは肩で息をし始める。
血の匂いに酔ったのか。迫る蔓を切り落としながら、不気味に笑う女が一人。
「ほらほらほらほら、もっと自慢の力を見せて! 楽しみましょう!」
渚が、刀を構えて挑発する。
「くそがぁあ!」
サザンカが、咲かせた花から光を放つ。刀で防いでも、弾き飛ばされるほどの力。
だが。
「あぁ、楽しい……! 楽しすぎる!」
起き上がった渚には、先程のギヨチネほどの火傷はない。
「何故だ。なんで燃えねえ……」
追い詰められたサザンカの脳裏に、ちらりとよぎったのは、黄金に輝いた果実。
まさか。あれか。あの光の加護……
負ける。その予感に、サザンカが一歩退いた。
「もう、逃げるには遅いわよ? 強さを追い求める姿勢は、見せかけだけなのぅ?」
その足がバンリの足にぶつかって止まる。
銀光が閃く。振り返る間もない、シャドウリッパー。サザンカが受けた炎が、再び勢いを増して行く。
もはや逃れる機会も逸した。咆哮した竜人は道連れにせんと、バンリに蔓を伸ばす。
「あら、大胆……! やる気?」
その時、雄叫びと共に、その脇から突っ込んだ影が一つ。
「同じドラゴニアンとして、その暴挙は私が引き受ける……!」
男の名は、ギヨチネ。
縛霊撃と蔓が絡み合い、共に燃え上がる。
それは、絶好の機。仲間の作り出した最大の隙を、一人の剣士が引き受ける。
「……情は抱かない。今はただ、討ち取るだけの相手」
ユウが、跳ぶ。その周囲に現れる、無数の刀剣。
「其の悪夢を、此処で断ち切る……!」
「やめろおぉお!」
絶叫するサザンカへ、閃光が降り注いだ。剣が、雨のように地面に突き刺さっていく。
やがて出来た剣の原から、起き上がったのはギヨチネ一人。その体には、一本の剣も刺さっていない。
足元には、何本もの剣で地面に縫い付けられたサザンカの姿。
消えていく刀剣と共に、蔓がしおれ、花は枯れ、ミイラのように干からびていった……
●花朽ちて
闘い終えて後。一華が仲間のヒールをしている。
「あんなに、ご無理なさるからですよ……ほら、動かないで」
ギヨチネは礼を言いながらも、溜息を落とす。
「強くありたい気持ちはわかる……その分、道を踏み外したのが、残念だ。私は、彼の分まで強くあらねばな」
干からびた死者に想いを馳せているのは、彼だけではない。応えたのは、藍。
「幾ら悪い坊やとはいえ、私たちが命を奪ったことに変わりはありませんからね」
これからもこんな事件が多発するのだろうか? ケルベロスとして何を成すのが最善なのか。藍の胸中は、複雑だ。
ユウは、そっと死者へと言葉を手向ける。
「恨みたければ、好きにしろ……己が意志を貫いた、其の在り方には敬意を表する」
それは、彼なりの弔いだったのだろうか。
「いずれもう片方も必ず仕留めましょう。でなければ、ここを潰した意味がない」
クロハの目線の先は、逃げたもう一人……キョウの背を追うように、闇に向けられている。
「今回とは違った闘いが楽しめそうだしね」
戦闘の興奮が残っているのだろうか、渚が落とした溜息に混じる、微かな笑み。
マリアは、事件の本質へと思考を巡らしている。
「攻性植物の出処は、どこなのでしょう……」
「まあまあ。使命は、きっちり果たせたんだから、次に期待しましょ。次に、ね!」
ウィンクをして、バンリがそれを励ます。
攻性植物の組織化の芽は、ここで一つ枯れた。だがまだ、同じことが続くこともあるだろう。今はその一つ一つを、確実に潰していくしかない。
誰もいなくなった空虚なホールに、ケルベロスの闘いを称える観客はいない。それでも、こうして闘い続けることが、人々の笑顔を守る方法なら。
迎えのヘリオンが、ホテル前へと降りてきていた……
作者:白石小梅 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年11月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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