クロム・レック決戦~深き水底のその先に

作者:天枷由良

●情報解説
「クロム・レック・ファクトリア探索に向かったケルベロスが帰還したわ」
 ……ただし、二名の暴走者を除いて。
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は険しい表情で事実を語ると、暴走者たちの安否を気遣いながらも説明を進めていく。

 探索チームによって得られた情報は、非常に価値の高いものだ。
「まず一つ目は、伊豆諸島海底部の海底熱水鉱床に眠る資源の多くが採掘、奪取されていて、それを行ったのが件のクロム・レック・ファクトリアであること。そしてファクトリア護衛に、あのディザスター・キング率いる軍団の姿があったことね」
 ディザスター・キング自身が護衛の指揮を執っていることからも、クロム・レック・ファクトリアの重要性が伺える。
「それを示す情報として……概算では『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半が、クロム・レック・ファクトリアで採掘されたと考えて間違いないらしいわ」
 つまり、クロム・レック・ファクトリアを破壊することができれば、ダモクレス勢力は非常に大きな打撃を受けるだろう。

 さらに、二つ目。
「伊豆諸島海底部では、拠点ダモクレス『バックヤード』の姿も確認されているわ」
 バックヤードに関しては不明な点が多いが、巨大な『環状の門』のような形状から『魔空回廊を利用して採掘資源の輸送を担当している』と考えられる。
「バックヤードには巨大な腕型のダモクレスが確認されているほか、指揮官として『五大巧』という――恐らく五体の、強大なダモクレスが存在しているようね」

 そして、ケルベロスに拠点の位置を暴かれたダモクレス勢力は、クロム・レック・ファクトリアの移動準備を開始したようだ。
「遅くても一週間以内に、移動準備の整ったクロム・レック・ファクトリアは、伊豆諸島海底から姿を消してしまうでしょう。……決死の想いで探索任務を果たした仲間のためにも、今この機会に、クロム・レック・ファクトリアは破壊しなければならないわ」

●作戦説明
 以上の情報、そして状況を踏まえて、ケルベロスたちの中からクロム・レック・ファクトリア破壊作戦への参加者を募ることとなった。
「クロム・レック・ファクトリアを完膚なきまでに破壊する為には、内部に潜入してディザスター軍団の防衛網を突破後、ディザスター・キングの守るファクトリア中枢部を破壊しなければならないの。ダモクレス側も『ケルベロスを撃退すれば撤退までの時間が稼げる』として決死の防衛を行ってくるでしょうから、戦いは厳しいものになるはずだわ」
 ミィルは一度言葉を区切り、ケルベロスたちの顔を見回してから説明を続ける。
「クロム・レック・ファクトリアの外周部には、29箇所の資源搬入口があるわ。そこから内部へと潜入できるはずよ」
 しかし、全ての搬入口が中枢に続いているわけではない。
「こういった場合、防衛戦力の多寡から本命を割り出すものなのでしょうけれど……ディザスター軍団だもの、さすがにそんな甘くはなかったわ」
 ディザスター・キングは、中枢に繋がるものとそれ以外の警備を等しくすることで、中枢への搬入口を推定できないようにしながら、此方の戦力分散も図っているようなのだ。
 全て同様の守備態勢が敷かれているため、敵を撃破して進んでみなければ、中枢に続いているかどうかを確認する事も出来ない。
 そして、防衛戦力は当然ながら堅固だろう。複数のチームで一つの搬入口を進めば、破るのは楽になるかもしれないが……もし、その搬入口が中枢へと続くものでなかった場合は、ディザスター・キングとの戦いに参加できる戦力が低下してしまう。
 どれほど部隊を分散させるのか、或いはまとめるのか。
 悩ましいものだが、これは作戦に参加する者で決めてもらう他ない。

「クロム・レック・ファクトリア内部に展開している防衛部隊……ディザスター軍団のダモクレスたちは、隠し部屋を利用した待ち伏せなどの奇襲攻撃を行う事で、少ない戦力でもケルベロスを消耗させられる作戦を仕掛けつつ、最奥となる場所に有力な戦力を集めて、此方の撃破を狙ってくるはずよ」
 それに対抗し、突破するためには、まず敵の奇襲を察知して素早く撃破すること。
 そうして道中の消耗を抑えつつ、有力ダモクレスとの決戦に勝利することが重要だ。
「突破に成功した通路が中枢に繋がっていれば、その後には……ディザスター・キングとの戦いが待っているわ」
 ディザスター・キングとの決戦は、中枢に到達できた全チームでの総力戦となる。

 そして。
「クロム・レック・ファクトリアの破壊が最優先の目的ではあるけれど、もう一方の拠点『バックヤード』にも気がかりな点があるわよね」
 特に『探索任務の最中で暴走した二名のケルベロス』は、バックヤードに囚われている可能性が高い。となれば、バックヤードへの戦力投入も一考せねばなるまい。
「バックヤードは『二本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されているから、内部の探索を行うには『巨大腕型ダモクレスと戦う2チーム』と『バックヤード内部の探索を行う1チーム』の、最低3チームが必要になるわ」
 さらに戦力を増やせば、当然探索はしやすくなるだろう。
 しかし、あくまでも本命はクロム・レック・ファクトリアの破壊であることを忘れてはならない。膨大な資源の採掘は、それを使う目的あってのことに違いないのだ。
「先に言った通り、クロム・レック・ファクトリアを破壊することで、ダモクレス勢力の活動に大きな打撃を与えられるはずよ。作戦を成功させ、そして無事に帰還できるよう、各々が為すべきことに全力を尽くしましょう」


参加者
一式・要(狂咬突破・e01362)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
アイリス・フィリス(アイリスシールド・e02148)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
黒須・レイン(海賊少女・e15710)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)

■リプレイ


「気をつけろ――!」
 黒彪の獣人が危機を告げた直後、機械兵の長銃が破壊の咆哮を轟かす。
「あたしに任せて!」
 隊列の左翼を担う一式・要(狂咬突破・e01362)が被弾も顧みず突撃、敵の体勢を崩す。すかさず峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)が光剣で斬りかかると、両断された緑色の半身が床を転がった。
 次いで、燃ゆる炎の女が床板を踏み抜くと同時にモノアイが現れる。右腕に逆手持ちの鉄剣、左腕にはスパイクシールド。接近戦型だ。
「さすがダモクレス! 仕掛けがいっぱいだね!」
 まるで遊具を楽しむような陽気さで言って、東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)が盾の打ち下ろしを受け止める。そのまま押し返して強烈な一撃を叩き込めば、相棒のボクスドラゴン“マカロン”のブレスに合わせて炎の女の拳も炸裂。残骸が虚しく四散する。
「随分と長い廊下だね……さあ、来るよ。避けて」
 なお続く進軍を金瞳の青年が制す。そこに飛来する火砲の一撃。
「大砲で勝負か、いいだろう! ――やってしまえ、お姉ちゃん!」
 黒須・レイン(海賊少女・e15710)の振るう鎖を号令として、アイリス・フィリス(アイリスシールド・e02148)がペンギンのエネルギー体から変じた二連巨砲で氷塊を撃ち返す。
 さらに遠距離攻撃を雨あられと浴びた漆黒の機体は、巨砲の真価も発揮できず消滅した。
 進撃再開。足取りは力強く、そして速い。二班十六名の部隊は草原を疾駆する獣の如き勢いで雑兵を蹴散らし、行く手を遮る新たな扉を破った。
 ――瞬間、より濃密な殺気が肌を撫でる。
「ディザスター・ナイト! 近衛型だよ……!」
 糸目の青年の警告と牽制を封じるように、白紫の騎士が腕剣と盾による閃光を放った。
 防御、回避、吶喊。前衛陣が様々な対応を取る中、敵は呟く。
『ケルベロス。十六人とはな。侵攻が早いわけだ』
 だが、どれほど群れようとディザスター軍団の敵ではない。
 そんな余裕を伺わせる相手に、しかしケルベロスたちも怯まず。
「どうやら、ここが最奥だったみたいね! ……行くわよ!」
「敵は一体です! 後方援護は任せてください! 天に白き石枷の陣!」
 金髪と白髪のシャドウエルフ二人が、それぞれ闘気と扇を揺らしたのをきっかけに、部隊は敵の左右へと分かれた。
「――負ける気がしねえな!」
 銀髪の青年が回り込みながらライフルを乱射する。
 敵は盾で凌ぎ、反撃に出た――が。
「ハッ! 背中がガラ空きだぜ!」
 伏見・万(万獣の檻・e02075)は嘲笑しつつ竜砲弾を発射。
 続けて恵が礫を放ると、要と苺が接近戦を仕掛けた。
『小癪な!』
 反転、騎士の剣が此方を狙う。
「やらせません!」
 すかさずアイリスが割り込み、ハンマーで打ち返す。
『甘い!』
 その勢いすらも利用しての横薙ぎ。ともすれば美しくも見える閃きが少女の身体を裂く。
「甘いのはお前だ! 海賊船長のお姉ちゃんを舐めるなよ!」
 レインが闘気を飛ばす。それを受けたアイリスは僅かに残る痛みを堪えて、御業で敵を抑え込む。
「じっとしてて。ご褒美をあげるから」
 妖艶に囁き、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)は舞うような軽やかさで――しかし痛烈に敵の頭を蹴りつけた。
 そして騎士に焦燥を滲ませる暇すら与えず、ケルベロスたちは一気に畳み掛ける。
 戦いの趨勢は実に短い時間で決まった。
「これで終わりだッ!」
 敵機に肉薄した螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が、漆黒の闘気纏う右腕から龍を撃つ。
 その凄まじい衝撃は共に放たれた木菟の焔を巻き込み、騎士を両断しても止まず。
 ついには戦場そのものすらも震わせて――。
「……!」
 崩れた壁の一角。
 そこに、十六人はさらなる戦いへの道を見出した。


 僚友が態勢を整えるのを待って闇を抜ける。
「ここ、が……」
 誰に向けたでもない呟きを耳にしつつ、辺りを見回す。
 とてつもなく巨大な空間だ。その中心に聳え立つ樹木と見紛う何かが、大広間と呼ぶべき室内を神秘的な緑光で照らしている。
 外周には五つの穴。うち一つは自分たちが通り抜けてきた道であるから、残る四つも何れかの搬入口と通じているのだろう。
「あれ、基地の中枢システムかな?」
「ずいぶんおっきいねぇ……」
 恵と苺が見上げながら言って――そのまま、一点を見据える。
『ようこそ、ケルベロス』
 全員が息を呑んだ。
 そうさせるだけの迫力が、語りかけてきた“それ”にはあった。
 ――王。光輝なる王。機兵軍団を束ねし、災厄の王。
「久しぶりだね……キング」
 金瞳の青年が悔恨を露わに進み出る。
 その背を一瞥した万は、ディザスター・キングに目を戻しつつスキットルを一口煽った。
 喉の焼ける感覚が却って頭を冷やし、無謀を戒める。
 敵は王。即ち、統べる者。
 彼の元には常に従順なる剣が、忠実なる盾が付き従っている。軽率短慮に踏み出せば、黄金色の喉笛に喰らいつくまでもなく、生命を終えることになるだろう。
(「……それにしても面白い並びだね。ダモクレスもユーモアを覚えたのかな?」)
 プランが思い、微笑んだ後。僚友が敵の布陣を指してチェスと呼んだ。
 ずらりと列を成すポーン。そしてキングの両翼を固めるビショップ、ナイト、ルーク。
 計、十六機。
「予想を遥かに超えた防備の厚さです……!」
 また誰かが現実を口にする。
 幾ら破竹の勢いで来た十六人でも、このまま立ち向かって敵う相手ではない。
 しかし他の出入口から仲間が来る気配もない。そんな状況を噛み砕いて理解するためか、僚友が口々に継いだ言葉を身じろぎもせず聞き流して、キングは自軍の鉄壁さを誇る。
 長く彼の姿を追い求めてきた糸目の青年が、女王の座を占める代役の存在を指摘しても、その泰然自若とした態度は揺るがない。
 そして王は、剣すら持たぬままに手を払って宣する。
『遠き日と、同じ運命を辿るがいい。牙を研ぎ抜いた地獄の猟犬たちよ……!』


 女王の座から白銀の騎士が翔び立ち、ビショップ二体とポーン四体も動く。
「敵一機、上空へ跳躍!」
 響く声と靡く扇。再び散開する猟犬の群れ。
 そこに猛然と迫る敵群を見据え、プランは呟く。
「……王様は高みの見物みたいだね」
「ふん! 私達には下っ端で十分というわけか!」
「或いは別働隊を警戒しているか……そのどちらとも、でしょうか?」
「ケッ、ナメやがって! だったら纏めて喰らい尽くしてやらァ!」
 レインとアイリスの交わす言葉に、万が苛立ちを示した――瞬間。
 銀騎士の左肩に据えられた砲塔から光が迸る。まるで流星の如く降る輝きの凄まじさは、これからの激戦を予見しているようでもあった。
「だからってねえ……此処まで来たら引けないのよ! あたしたちも!」
 要が最前線で壁となり、銀騎士の砲撃に続いた幾つものミサイルをも弾き飛ばす。
「友達が世話になった分はキッチリ返させてもらうわ! かかってきなさい!」
 その裂帛の叫びで脳裏に過ったトリテレイアの花を胸奥へと押し込めて、アイリスも迫るポーンの一機に相対す。
 剣が叩きつけるように振り下ろされ、鮮血が散った。
「お姉ちゃん!」
「大丈夫! ――このくらい!」
 今この時にも“彼女”が感じているかもしれない痛みを思えば、どうということはない。
 ぐっと踏みとどまり、二連巨砲で反撃。合わせて波のように繰り出される仲間達の攻撃が四機の歩兵を押し返す。
 しかし、この戦場の中心たる銀騎士は僚機の奮戦を顧みる素振りもなく、身を翻して銀の光を散りばめる。
「こりゃちょっとまずいかな……マカロン!」
 苺も相棒を伴って盾と化す。その小さな身体に降った雫は毒となって染み渡り、染みた分だけの血を吐き出させた。
「クソッ! どうにかしてアイツを喰わねぇと――!」
 万が竜砲弾を撃ちながら吐き捨てる。
 敵機の向こうに見える僚友たちも同じことを考えているのだろうが――と、思った矢先に飛んできた砲弾が万を抉った。
 見た目ばかりは挟撃の様相を辛うじて保っているが、十六人と七機がぶつかる戦場は早くも乱戦状態。誰が繰り出したのかも分からない治癒術が傷を癒やしたかと思えば、何処からか撃ち放たれた火砲がまた生命を焼いていく。
 そんな混沌にあって確たる事実の一つは、歩兵の担う役が盾であること。
「チッ! いいぜ、まずテメェから喰ってやらァ!」
 苺と競り合うポーンに狙いを定めて、万は獣の影を解き放つ。
 刹那。
 轟いた鯨波に、セイヤが妖刀を構えたままで目を向ける。
「来たかっ……!」
 まず八人。僅かに遅れて、別のところから八人。
 しかし――。
 キングへと向かう彼らは、此方同様に差し向けられた兵で抑えられてしまった。
「王様はまだ余裕って感じかな?」
「そういうことなんだろうね! 全く、さすがの私も腹が立つよ!」
 プランに返す苺の前に、相棒が力なく転がってきた。
 与えた役割を考えればよく持ったほうだろう。
「ごめんねマカロン。でも、わたしはまだ!」
 倒れるわけにはいかない。
 そう意気込んで、傷口に生命力を循環させようとする苺を、再び銀色の毒が蝕む。
 ぐらり、視界が歪む。膝が折れ、頬が生温い感触に浸る。
 そして天地が逆さとなった世界で――苺は新たな鬨の声を聞きつけ、笑みを湛えたまま闇の底へと落ちていった。


「間に合ったのね!」
「全部で五班か……これなら!」
「いや、違うよ」
 ようやくポーン一機を砕いて声を荒らげる要とセイヤに、プランは彼方を示して微笑む。
「あれで“六つ目”だね。さすがに王様も驚いたんじゃないかな?」
 その言葉を裏付けるように、ディザスター・キングは御座を立って、最後に現れた八人を迎え撃つ。
 ついに刃が届いた。届くところまで引きずり下ろした。
 彼の王が八人ばかりで倒せる相手でないことは百も承知だが、それでも。
「ふ、ふははははっ! 見るがいい、お前たちの王が屈するぞ! 私たちの牙に! この旗の下に!」
 レインが海賊の印を翻して叫ぶ。
 その不思議な力強さに惹きつけられ、要とアイリスも気合の限りに哮る。
「まだまだ、これからよ!」
「皆さんは私が! 何に代えても守ります! だから――」
 一刻も早く、目の前の敵を。
 そう、誰もが同じ想いに結束したはずの一瞬。
 僅かに生じた乱れを、銀騎士は突いた。
「っ――!」
 後衛から前衛へ。苺の欠けた穴を埋めようと動いた恵が、銀閃に裂かれて倒れる。
 それは起きるはずのない出来事。故に誰ひとりとして遮れず、ただ見送るしかなかった。
『……チッ』
 得られた手応えでも、大将御自らの出陣を許した不甲斐なさは晴れなかったのだろう。
 そのまま銀騎士は一気に跳躍して、肩のキャノンから夥しいほどの破壊を振り撒く。
「怯むなッ!」
 万の荒々しい呼びかけが、不意の事象に解れかけた闘志を場に繋ぎ止めた。
「今は全力で! 目の前のヤツらに喰らいつけ!」
『雑魚め、無駄な足掻きを』
「それはテメェが決めることじゃねぇんだよッ!」
 天に向けられた砲口が火を噴き、炸裂した竜砲弾が銀の欠片を辺りに散らせる。
 反撃に撃ち放たれた一発は、辛くも要が凌ぎきった。
 彼方には倒れる僚友が見えたが、今はその身を案じる暇も惜しい。

『離脱する! ビショップ! この連中を始末しろ!』
「逃しはしないわ――っ!」
 追いすがる要の身体を、銀騎士が去り際に放った肩部砲塔の一撃が焼き払う。
 全身の痛みが、とうとう心で支えられる限界を超えた。
 纏っていた水の闘気を霧散させながら、麗しくも逞しい男は倒れ伏す。
「なに、よ……後もう少し、だっての、に――」
 もはや腕を伸ばす力すらも残されていない。
「頼む、わ、よ……」
「頼まれたよ。うん、頼まれたとも」
 最前で攻勢をかけながら、なおプランが立っていられるのは要ら盾役の奮闘あってこそ。
「だからとびきりの力で応えるよ。機械には、機械の力でね」
 カードを捲る。衝動が思考を支配する。
 破壊、破壊、破壊。一時、殺戮機械と化したプランの細腕が、ポーンの首を捩じ切る。
『おのれッ……!」
 残された一機が、敵討ちと言わんばかりに砲口を向けた。
 光が迸る。
「私が、私が居る限り、これ以上は――!」
「これ以上はやらせるものか! 打ち貫け! 魔龍の双牙ッ!!」
 幾度となく放った黒龍がビショップを砕く。
 それを見届けて、最後の一撃からプランを庇い切ったアイリスも倒れ込む。


「おい! 動ける奴は返事しろ!」
「がならなくていいよ伏見。……半分、かな。此方も、向こうもね」
 あくまで淡々と語るプランだが、その身体にも傷は多い。
 万も、セイヤも、レインも、僚友達も。誰一人として無事ではない。
 今すぐにでも意識を手放せたら、どれほど楽なことか。
 それでも彼らは、行かねばならない。
 広間の各所でも仲間たちが敵を破り、王を討ち果たすべく力を振り絞っている。
「レイ、ン……ちゃ……」
「大丈夫! お姉ちゃんの分まで、私が皆を守り通してやる!」
 答えた途端、アイリスが辛うじて繋いでいた糸は切れた。
 心配でないはずがない。だが、言ったからにはやり遂げねばならない。
 視界に映るは黄金と白銀。二つの戦場。
「行こう……キングへ」
 糸目の青年が示した選択に、全員が頷いた。

『貴様ら……!』
 王が唸る。
 僚友たちの突撃は、正しく捨て身。
 残された力の全てを叩き込もうという、決意の表れ。
「喰い損なってたまるか!」
「ディザスター・キング……! これが貴様を滅ぼす、魔龍の牙だ……ッ!」
 負けじと、万が獣の影を疾走らせる。セイヤは黒龍の闘気を撃ち放つ。
 それらを力づくで払い除ける王は、剣を振るって戦士達を血溜まりに沈めていく。
 だが。
「大海の底で終焉を迎えられること、せめて誇らしく思えよ! 災厄の王!」
 もはや癒やしの手など不要と悟ったレインが、キングの身体を燃え上がらせる。
 それを狼煙とするように、彼方から押し寄せた無数の砲撃が王を呑み込んだ。
『お、ぉおおお!』
 気迫とも嘆きとも取れる咆哮。轟く王の叫びに耳を澄ませて、プランが詰め寄る。
『マザー! レジーナ……! クビアラ! 私は……まだ!』
「大丈夫。すぐに――すぐに会わせてあげるよ」
 殺戮機械の力を身に宿して一撃。苦しむ敵をじっと見据えて離れる。
 そして最後の一手は、奇しくも王と最も因縁深き青年が指した。
「――」
 彼が何かを言い、力を解き放つ。
 災厄の王が胸に大穴を空けて、ゆっくりと膝をつく。
『みん、な……』
 今際の際に漏れ聞こえた言葉は、強大なデウスエクスにしてはあまりにも。
 あまりにもか細く、切ない響き。
 それを勝利の雄叫びと、中枢目掛けて放たれる攻撃が掻き消していった。

作者:天枷由良 重傷:峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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