クロム・レック決戦~虎穴の王

作者:麻人

 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は緊迫した様子で集まったケルベロス達を見渡した。
「クロム・レック・ファクトリアの探索が成功したことにより、この拠点の撃破を目標とする作戦が行われることになりました」
 事前探索は2名のケルベロスの暴走という犠牲があったものの、ダモクレス勢力が伊豆諸島海底部の海底熱水鉱床から資源を集めていたこと、この採掘の護衛を行っていたのがディザスター・キング率いる軍団であったことが判明した。
 さらには、『バックヤード』と呼ばれるもう一基の拠点ダモクレスの存在を確認。『五大巧』という5体の強大なダモクレスが指揮する巨大な腕型のダモクレスがその戦力と考えられる。
 目的は魔空回廊を利用した資源の輸送と予測されるが、現在のところ詳細は不明だ。
「概算ですが、クロム・レック・ファクトリアが採掘した資源量は数年分の侵略を可能とするほどの量に上ります。これを撃破できれば、ダモクレスにとっては看過できない程の打撃となるはず。危険な依頼ですが、お願いできますか?」

 既にダモクレス勢力は拠点移動の準備を開始しているため、作戦は早急に実行する必要がある。
「つまり、複数班の同時突入による短期決戦ですね。クロム・レック・ファクトリアの外周部に見つかった資源搬入口は29箇所。ただし、どれが中枢に繋がっているかはわかりません。また、ディザスター・キングの策略によって資源搬入口は等しく守られており、警備の様子などで重要なルートを見極めることは難しいと思われます」
 警備は厳重であり、たとえ中枢に繋がらない通路であってもディザスター軍団のダモクレスとの激しい戦闘が予想される。あちらとしては撤退の時間を稼ぐためにも、総力戦で防衛に徹するはずだ。

「クロム・レック・ファクトリア内部を守るディザスター軍団の防衛部隊は隠し部屋や罠など防衛側の優位を利用した戦いを行います。そうしてケルベロスを消耗させたところで、本部隊をぶつけてくる作戦のようですね」
 この戦いに勝利し、その通路が中枢に繋がっていた場合――同じく到達できた他の班と共にディザスター・キングを倒し、中枢部を破壊できればこちらの勝利だ。
「もし余裕があれば、暴走した2名のケルベロスが囚われていると思われる『バックヤード』への攻撃も可能です。ただ、その場合は護衛している『2本の巨大腕型ダモクレス』を抑えるのに2班は必要になります。それと、内部探索を行う1班を入れて最低でも3班の動員がなければ目標達成は難しいでしょう」

 全ての説明を終えた彼女は僅かに微笑んで、武運を祈るように胸の前で両手を組み合わせた。
「どの搬入口から侵入するかは皆さんの判断にお任せします。この作戦が成功すれば、ダモクレスの侵略計画に大きな打撃を与えられるはず。正念場、ですね」


参加者
二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)
御子神・宵一(御先稲荷・e02829)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)
牧野・友枝(抗いの拳・e56541)

■リプレイ

●バックヤード突入
(「近くで見ると本当に圧倒的な大きさですね……」)
 そして何より、それを守る二腕の猛々しい外観たるや百聞は一見に如かずと言わんばかりの存在感を放っている。小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)は深海に鎮座するバックヤード外観の観察を終えると、これから腕型ダモクレスの抑えに回る班の面々が隊列を組み、タイミングを計りながら向かっていくのを見送った。
(「それでは、行きましょう!」)
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は持参したタイマーを起動。橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)も同じく、時間の経過が分かるように時計を設定する。腕型のダモクレスを担当の二班が引き付けている間に、出入口らしきゲートを強引に割り開いて中へと飛び込んだ。
「わたくしは上から探します」
 輝きを抑えた翼で天井付近まで浮かび上がったドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)は暴走して捕らえられた仲間の気配を感じようと感覚を研ぎ澄ます。
「誰もいないようですね……」
 御子神・宵一(御先稲荷・e02829)が見渡す周囲に動く者の気配はなく、ひどく閑散としていた。
「此処は……魔空回廊の一種でしょうか?」
 グラディウスの必要がないとしたら恐ろしい、とミリムは素直な感想をこぼす。
「それにしても、人気が全くありませんね」
「もしかしなくても、こっちにいたダモクレスたちは撤退済みなんですかね?」
 前方を注視しながら二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)が首を傾げる。触れた壁は金属性の冷ややかな感触を葵の手のひらに伝えた。優雨は侵入の際に設置した発信機がきちんと反応していることを確かめ、手早く紙に現在位置を書き込む宵一と頷き合った。
 クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)は興味深げに基地内部を見渡して、その印象を呟いた。
「何やら色々な秘密を秘めていそうなダモクレスの拠点……手入れはよく行き届いているようですし、普段はさぞかしたくさんのダモクレスが稼働していたのでしょうね。それらがまったく見当たらないということは、二羽さんの仰る通り、こちらの侵入を予期して入口周辺は既に放棄されたと考えた方がよいかもしれません」
「すると、囚われている二人がいるとすればもっと奥でしょうね」
 スーパーGPSで現在位置を確認しつつ、宵一は入ってきたのとは逆の方角を示した。バックヤードの外からは激しい戦闘音が遠く、ここまで聞こえてくる。
「腕型の抑えに回っている皆さんを信じて、先を急ぎましょう。奥はあちらの方向です」
「了解」
 牧野・友枝(抗いの拳・e56541)は真っ直ぐに前を見つめ、拳を握りしめる。
「ケルベロスは仲間を見捨てない!…絶対見つけ出す!」
「もちろんです!」
 ミリムは暴走者への呼びかけを行おうとするも、それではこちらの存在を誇示することになると気づいて唇を引き結んだ。傍では隠密気流を纏った芍薬が足音に気を付けながら並走している。ドゥーグンもなるべく目立たないように翼の光を抑えていた。
「普通の壁面のようですね……」
 葵と一緒に隠し機能のようなものがないか確認して、怪しげなところは友枝に頼んで写真を撮っておいてもらう。
「それに、二人の反応も感じません。瀕死でないとすればそれも幸いですが」
「手がかりはなしか。となると残りは――」
 曲がり角に宵一が蛍光チョークで×をつけた時、離れて隠密行動をとっていた別班から連絡が入った。
「私達全員、監視されています! 警戒してください!」
 黒江・カルナ(夜想・e04859)による警告の声だ。その指差す先には、空間投影画像。それも、バックヤードを捜索する自分たちの姿がありありと中継されているではないか。
 中空を飛んでいたドゥーグンが、はっと息を呑んだ。
「誰か来ます。それも――複数」
 身構えるケルベロス達の前へと姿を現したのは巨大な歯車を持つ長髪の男。その背後に見知った者を見つけ、友枝が叫んだ。

●虎の尾を踏む
「レクシア……!?」
 その顔貌は炎に消え、随分と変わり果ててしまったがそれは確かに暴走したレクシアだった。その隣には同じく暴走化したレスターがいる。
「ようこそ、私たちの裏庭へ」
 長髪の男がにやりと笑んだ。
「招いた覚えは無いのだけれど、挨拶はさせてもらおう。私は、この裏庭の事実上の支配者の五大巧が一体、『終末機巧』エスカトロジー。そして、この2匹は、私のちょっとした実験体になってもらっているものだよ」
「な、なんですと……!?」
 葵が驚いてレスターとレクシアを見比べる。
「ここにいたら危険ですよ、一緒に出てきてもらいたいです」
「ええ、貴方たちが守ろうとした仲間は全員無事脱出しました。戻ってきてください」
 続けてクノーヴレットが進み出て、続きをドゥーグンが引き継いだ。
「皆様も貴方がたの帰りをお待ちしております、どうぞともに戻りましょう」
 だが、二人の返答がない。
「…………」
「…………」
 なぜか、助けにやってきたケルベロス達を見つめる瞳には憎悪の色さえ浮かび――ミリムは眉をひそめて友枝に囁いた。
「ねえ、マキのん……なんだか様子が変じゃないですか?」
「ああ。すぐ傍にデウスエクスがいるってのに、暴れるどころかまるで付き従ってるみたいだ。おい、お前いったい二人に何をしたんだ!?」
 だが、エスカトロジーが答えるよりも先にレスターとレクシアが物言わず襲いかかってきた。
「下がってください!」
 咄嗟に葵とクノーヴレットが前に出て、レクシアの冷ややかに燃える炎の衝撃をその身に受け止める。
「く……!」
 鉄塊剣の側面で受け止めた炎が、葵の目の前でまるで生き物のように蠢いた。とっさにプリベントロアーを発動――!
「来ますよ、気をつけて下さいっ!」
「レクシア!」
 友枝が叫び、跳躍した中空から落下の勢いを乗せた蹴りでレクシアの注意を惹き付ける。
「先にこの2人を倒さなければ、あの五大巧の相手をするのは難しそうですね」
 できればこちらもエスカトロジーの足止めに加わりたいところだったが、と宵一はほぞを噛んだ。先行したもう一班と連携しようにも、立ち塞がるレクシアの炎が壁のようなものを作って周囲を煉獄へと堕としていく――!
「エスカトロジーが本気ではないようなのが幸い、ですかね」
 見れば、彼はまるで楽しむように対峙する別班の攻撃をいなしている。ケルベロス達の方も彼の思惑を察して、暴走者を救うための時間を稼ぐ心づもりのようだ。
「やれやれ、流石に向こうも迎撃準備万端だったってことね。でも、こっちだって遠慮無く行かせて貰うわよ」
 芍薬が轟音と共に振り回したドラゴニックハンマーから猛々しい火龍の咆哮が迸る。
「お前らなんかに仲間は渡さない。絶対返して貰うからね!!」
 友枝はエスカトロジーに宣告して、バトルオーラを翼のように大きくはためかせた。

●蒼昏き炎
「浅小竹原 腰なづむ 虚空は行かず 足よ行くな」
 囁くような宵一の詠唱が芍薬の轟竜砲に続き、レクシアの具足と化した炎の動きを僅かに鈍らせる。それが止まぬ間に、葵が回転しながらロギホーンを振り下ろした。妙な手ごたえだ、と思う。まるで実態のない相手と戦っているような。
「さぁ、私のこの指で奏でて差し上げますから、素敵な声で歌ってくださいね」
 レクシアの体を伝うクノーヴレットの楽器をつま弾くような指の動きが眠気を誘い、麗しやかな感触を与える。
「――させません」
 昏き炎を宿したレクシアの腕から地獄へと引きずり込むような嘆きの渦から仲間達を守るように、優雨の指先から落とされたフラスコから散布される魔法薬の霧雨。
「地上へ届く神の火は、斯様に赤く燃えますのよ」
 ドゥーグンが樫の杖を振った途端、迸る雷がレクシアの進路を妨害。
「今度は私達が頑張る番です」
 その隙に飛び込んだミリムの剣戟が大輪の牡丹を描き、炎と拮抗する。
「いけます!」
 ミリムの叫びに芍薬は頷き、更に月光斬の冷徹な斬撃によってレクシアの自由を少しずつそぎ落としていく。
 ちら、とエスカトロジーの様子を伺うと、彼はケルベロスとの交戦を嗜むように余裕の表情で何かを語っている。
「……ったく、そういうセンス、私がダモクレスやってた時から変わらないわね。いったい何されてんだか知らないけど、いい加減目を覚ましたら? あんたと親しい人達だけじゃ無い、みんなあんたの事を心配して助けに来たのよ!」
 レクシアの盾と化した炎の揺らぎをハウリングフィストで強引に剥ぎ取りながら、芍薬は心からの叫びを叩きつけた。
「……しん……ぱい……?」
 ふらりと膝を揺らして、レクシアが呟いた。
 感情の欠落した、日陰に咲く色褪せた花の声色。芍薬のボクスドラゴン・九十九のモニターから軽快な音楽が流れ、合わせて優雨のボクスドラゴン・イチイが手分けして狙撃手の回復に回った。
「助かります。暴走者の救助が最優先である以上、ミイラ取りがミイラになるのは避けないと……」
「そのために敵陣のど真ん中まで来た馬鹿がこんなにいるんですものね」
 頷き、優雨は最も激しい攻撃を受け続ける友枝の傷を魔力による外科手術によって縫い合わせていった。
「これからだっての!」
 脱いだパーカーを腰に巻きつけ、友枝はバトルガントレットを装備した拳を握りしめる。
「レクシア! お前にはまだ色々と教えて貰いたいんだ! 皆待ってる! だから一緒に帰ろう!」
 渾身の極限重力掌底破を叩き込むと、レクシアの体が大きく後ろに傾いだ。
「あ……あ……――」
 僅かに、ほんの微かにレクシアの声に元の穏やかな――いつも花のような笑顔を浮かべていた彼女らしい響きが戻る。
「いまだ! 取り戻すぞ!」
「失礼致します」
 ドゥーグンはエクスカリバールでレクシアを包む蒼い炎翼を引き裂き、露にした場所へと無数の釘を撃ち込んだ。
「早く目を覚ませ!」
 ミリムの痛烈な叫びと共にその両手に宿る虚無の球体。ぽっかりと胸部を消失したレクシアは炎で癒そうとするも、読んでいたミリムと芍薬がすかさずゾディアックブレイドとハウリングフィストでその加護を打ち砕く。
「帰ってきてください!」
 思い切り、手加減などなく。
 葵の振り切ったデストロイブレイドが動揺するレクシアを追い詰めた。
「シュピール」
 背後に回り込んでいたクノーヴレットのミミック・シュピールが鋭い歯を箱の内側から覗かせて、レクシアの翼――蒼昏き炎を噛みちぎる。
「あああッ!」
 レクシアの両腕が何かを求めるように中空へと伸びた。断ち切るのは芍薬の紅蓮を宿す芍薬の火葬――かつて『ハンドレット』と呼ばれた由縁の拳が喉元から無尽蔵の熱エネルギーを送り込む。
「冥土の土産よ、ぶっ飛べ!」
「その思いに応えなさい」
 頬を涙のように濡らしてゆく雨に思いを託して優雨が囁き、一部の無駄も無く若宮――斬霊刀を振るい鞘へと戻す宵一の視界を張り裂けた炎の闇が激しく爆ぜていった。
 それが晴れた時、地面に座り込むようにうずくまったレクシアが呆然とした顔でそこにいた。

●脱出
「わた……しは……? いったい、なにを――……」
「大丈夫でしたか!」
「レクシア!」
 すぐに駆け寄って手を貸す葵と友枝にレクシアを任せて駆け付ける他のケルベロス達に向けて、エスカトロジーはやれやれと肩を竦めてみせた。
「その2匹の実験は失敗だね。まぁ、最初の実験で成功してもつまらない。その失敗作は持ち帰ってくれて構わないよ」
 彼が指を鳴らすと、空中に映像が流れ始める。
 さっき見たのと同じようなLIVE映像だが、それはバックヤード内部ではなく外で腕型ダモクレスと交戦中の仲間達の様子を映していた。
「ち……!」
 どちらの班も既に戦闘不能者が出ており、周囲の海を血で汚しながら必死で戦う姿に芍薬が舌を打った。
 士気は高くその奮闘ぶりは頼もしくあるが、長くは――もたない。どうだい、とエスカトロジーは取引するように言った。
「君達全員を新しい実験動物にするというのも、魅力的ではあるのだけれど、私も少し忙しい。ここは、穏便に還っていただけないかな」
 エスカトロジーの申し出にケルベロス達は顔を見合わせ、どうする、と囁き合った。
「あちらの班も無事にレスターさんを救出できたようです。目的は果たせました。すぐに脱出しましょう」
 クノーヴレットが告げると、共に戦っていた班の面々もまた同様の判断で撤退を決定したようだ。
「五大巧だか職人だか知りませんが!」
 去り際、ミリムは振り返りながら告げる。
「貴方達の企みをひとつふたつ、潰してやります! 待っていてください!」
 宣戦布告のように、ミリムとドゥーグンの放った虚無球体とレーザーがバックヤードの壁面を穿った。気休めにしかならない破壊行動ではあったが、一矢報いたいという気持ちを抑えることはできなかったからだ。
「あッ――」
 眩い輝きが目に染みる。こちらの脱出を確認して、腕型ダモクレスの抑えに回っていた班が撤退を伝えるために打ち上げた閃光弾の光だ。
(「あちらはボロボロじゃないですか……」)
 レクシアに肩を貸しながら外へと飛び出した友枝は胸にこみ上げる感情を今は堪え、彼らの後を追うように大海へと泳ぎ出た。

作者:麻人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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