クロム・レック決戦~迷宮戦線

作者:黒塚婁

●敢為邁往
「クロム・レック・ファクトリアの探索に向かっていたケルベロスが帰還した」
 ――という端的な報告の後、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は淡淡と状況の説明を始めた。
 帰還したとはいえ――探索者の内、二名のケルベロスが暴走し敵の追撃を食い止めての撤退という厳しい結果となった。しかし、得られた情報は非常に価値の高いものであった。
 まず、伊豆諸島海底部の海底熱水鉱床で、多くの資源がダモクレス勢力によって奪われていたということ。
 そしてその採掘を行っていたのが『クロム・レック・ファクトリア』で、その護衛としてディザスター・キング率いるディザスター軍団の姿が確認されたこと。
 ディザスター・キングが直接防衛指揮をとっている事からも、『クロム・レック・ファクトリア』がダモクレス全軍にとって重要な役割を果たしている事は間違いないだろう――更に、伊豆諸島海底部にはもう一基の拠点ダモクレス『バックヤード』の姿が確認された。
 それの詳細は不明だが、巨大な『環状の門』のような形状から『魔空回廊を利用して、採掘した資源の輸送を担当している』と考えられる。
 バックヤード側の戦力は、巨大な腕型のダモクレスが確認されており――指揮官として『五大巧』という、おそらく五体の強大なダモクレスが存在しているようだ。
「クロム・レック・ファクトリアが採掘した資源量は膨大であり、概算では『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半は、ここで採掘されたと考えて間違いない。つまり、クロム・レック・ファクトリア撃破に成功すれば、ダモクレスへの打撃は非常に大きなものとなる」
 辰砂はそう言って、ケルベロス達を見つめ、そのまま続ける。
 だが、当然――、拠点の場所を暴かれたダモクレス勢力は『クロム・レック・ファクトリア』の移動準備を始めた。
 恐らく遅くても一週間以内に、移動準備の整った『クロム・レック・ファクトリア』は、伊豆諸島海底から姿を消すだろう。
「潜入班が手に入れた情報を無駄にすることはできぬ。ゆえに『クロム・レック・ファクトリア』が移動する前に、破壊作戦を決行する」
 作戦の概要そのものは単純である。
 内部に潜入してディザスター軍団の防衛網を突破し、ファクトリア中枢に侵入して、ディザスター・キングの守る中枢部の破壊を行う――端的に言えば、それだけだ。
 しかしダモクレス側も『ケルベロスを撃退すれば、撤退までの時間が稼げる』として、決死の防衛を行ってくるだろう。
 ゆえに、恐らく――最良の結果を求めるならば――かなり厳しい戦いとなるだろう。

「さて、ではその『単純な作戦』の段取りだが――」
 少し長くなると辰砂は先に断って、一気に語り始める。
 クロム・レック・ファクトリアの外周部には29箇所の資源搬入口があり、そこから内部に潜入する事が可能である。
 しかし全ての搬入口が中枢に続いているわけではなく――そしてその構造を利用し、ディザスター・キングは『全ての搬入口に等しく戦力を割り振る』という策を立てた。
 こうすればケルベロスは警備の配置戦力から正解ルートを判別することはできず、戦力を分散させざるを得ない。
 また内部においてもディザスター軍団のダモクレスによって堅く守られており――それに関しても先と同じ。倒して探索するまで、それが中枢に繋がるものかは、確認できぬ。
 無論、侵攻時の安全性が向上という利点をとるべく、突入搬入口を絞るという手もある。だが、その道が中枢に続いていなかった場合、ディザスター・キングに向けた戦力が不足することになる。

 そしてダモクレスの防衛部隊は搬入口近くの通路では奇襲攻撃――例えば、隠し部屋などを利用した待ち伏せ――を行い、少ない戦力でこちらを消耗させた後、最奥ではケルベロスを確実に撃破するべく、有力な戦力を集めている。
 対抗するには奇襲の察知と素早い撃破、可能な限り消耗を避けた上で、有力ダモクレスとの決戦に勝利する必要がある。
「その後『その通路が中枢に繋がっていた場合』――ディザスター・キングとの決戦が待っている。辿り着けた皆でそれに挑むことになるが、さてどれほどが何処まで力を残しているか、こればかりは貴様ら次第……としか言えぬ」
 それともうひとつ。今回の作戦では『バックヤード』への攻撃も可能だ。
 しかしそちらに戦力を投入した場合、当然ながらクロム・レック・ファクトリアの撃破が厳しくなる。
 バックヤードは『二本の巨大腕型ダモクレス』に護衛されており、内部に取りつく為には、巨大腕型ダモクレスと戦う二チームと、バックヤード内部の探索を行う一チーム――最低三チームがバックヤードへの攻撃を行わなければ、内部の情報を得る事も不可能だろう。
 ただ、バックヤードには『探索活動中に暴走した二名のケルベロスが捕縛されている』可能性が高く、探索に成功すれば、捕らえられていたケルベロスの救出も可能やもしれぬ。
「いずれも貴様らの判断に任せる――さて、折角重要拠点を捉えたのだ。可能な限りの成果を狙いたいところだが――注意深く迅速に……派手に暴れてくるといい」
 派手に、というあたりで薄い笑みを浮かべ――辰砂は説明を終えるのだった。


参加者
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)
アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602)
一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)
錆・ルーヒェン(青錆・e44396)

■リプレイ

●至れ
 幾度目かの曲がり角、月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)が奥を覗き、一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)に目配せすると、今度は彼がやや離れたところで警戒している仲間達に合図を送る。誰もが一言も発さず、互いの動作に神経を尖らせ、素早く次の行動へと移る。
 注意深く静かな探索により――無論、中途数度の戦闘もあったが、無事、その終着地点へと辿り着いた。
 今までで一番広い部屋だった。その中央に立つは、一機のダモクレス。
 バスターライフルを担ぎ、多数のミサイルポッドを備えたそれは――ディザスター・ビショップ。それも恐らく、改良型だ。
「この場所を任されているなら……間違いなく強敵だよ。気をつけて」
 アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602)がそう警告する。
 その言葉を証明するかように、ケルベロス達が攻撃範囲に入るや否や、ビショップはミサイルを次々と発射した。
 対し、ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730)が白刃 不動を抜く。飛来するミサイルを直接斬りつけながら、そのままビショップまで斬り込む。
「今まで窮屈だったからね――」
 黒い翼を広げたイサギが、ミサイルの雨をかいくぐりながら、ゆくし丸を滑らせる。
 流麗な所作から精製された弾丸が、ミサイルを凍結し落下する。
 短い発声と同時、白がヌンチャク状に分かれた如意棒で弾いていく。
 その影から姿を現した黒髪和装の少女――百火が、ただの鉄屑となったミサイルの残骸をビショップへと送り返す。
 とはいえ、彼らは全くの無傷では無い。あちこちで起こった爆発、飛来する破片に傷付いている。キヌサヤが羽ばたき、風を送り、更に黄金の鎖を一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が手繰る――つるりとした床に浮かぶ魔法陣の上、エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)が大きく身体をしならせ、鎌を放つ。
(「集めてるのはグラビティだけだと思ってた、こんな奴らにいいように取られてたのか……」)
「……この、能無し!」
 自らへの怒りを籠め、叱咤する。
 その鎌が彼女の手元に戻るかどうかというタイミングで、グラビティの光線が、戦場を一閃する。
「此処まで積み重ねたものを無意味にしてやろう」
 キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)が相手の脚を奪うように照射した。その口元には明確な笑み。殺気を隠さず放ち、処刑人は言い放った。
「冥く鋭き影、猛禽の剛爪の如く――刺し貫く!」
 影の刃を両足に宿しアトリが跳躍する。
 全力で地を叩き、一気に敵の頭上に至れば、猛禽の如く滑空する。影の刃は其れを斬り裂きながら、軽やかに着地した彼女を追って、ビショップの影に溶け込む。
 そして、自身の影が、自身を苛む刃となる。
 更に彼女と交錯するように、流星の輝きがあった。
 錆びていようとも、その脚がもたらす重力の力は甚大――錆・ルーヒェン(青錆・e44396)がしなやかに着地する。
「隠れんぼ、結構楽しかったけど。これでお終いかと思うと少し残念だねェ」
 つと零した諧謔は、確信に至らぬ苛立ちを誤魔化すように響いた。

 彼らは実に攻撃的に展開した。精度に関する不安こそあったものの、そこは敵の機動を落とすことで補う。
 仕方ないから首は譲ろう――イサギから魂のエネルギーを預かったエステルが、低い姿勢から斜め上方に突き上げる掌底打ちを放つ。
 解き放たれた螺旋の力は番人に決定的な破壊をもたらし――そして、静寂が訪れる。
「さて、中枢に繋がる道を探しましょうか」
 皆が無事な事を確認し、嫋やかに微笑んだ瑛華が発すれば、意を得たりと皆それぞれに部屋に散らばった。
 ――それから、然程の間を置かず。
「……みーッけ!」
 ルーヒェンが声をあげた。その発見に、ケルベロス達に喜色が浮かんだのも、一瞬。すぐにぴりりと張り詰めた空気にとって変わる。
 ――この先に、ディザスター・キングがいるのだから。

●払い
 中枢に侵入したケルベロス達の目をまず引いたのは、巨大な樹木。金属的な空間に突如として現れた有機物に似たそれは――数多の中枢神経が枝を伸ばし絡まり合い、作り上げた中枢そのもの。天井まで腕をのばしたそれら自体が蛍火を纏っており、部屋全体が緑色に染まっていた。
 実に人工的でありながら、神秘的な気配を持つ空間である――が、その樹木の足元へと視線を辿れば、そんな気分もはたと醒める。
 既に戦闘は始まっていた。一、二……四番手か、小さく呟いたのはイサギ。何処か悔しそうな声音であった。
 そして『新たな参戦者を予期していた』ディザスター・キングは、すでにこちらへ麾下の者達を差し向けている――ポーン二体、ナイト一体、認めるなり、ガラクタどもめ、キルロイが吐き捨てた。
 互いに駆けながら、迎撃する。真っ先に一歩抜け出したギルフォードが、居抜く。
 卓越した伎はポーン片腕のブレードとぶつかり、火花を立てた。
「戦力は、纏めて先の一体と同じくらいかな」
「加勢がなければ、ですね」
 アトリの判断に、瑛華が同意する。あちらを見るに、戦力はまだ温存されている。先程と戦力が同じでも――状況は悪い方に近い。鎖で陣を敷きて、備える。
「邪魔だ!」
 吼えるはエステル。だが決して、冷静さを失っているわけではない。相手の動きを見極めて、鎌を手放す。回転する刃はナイトの盾に疵をつけ、返ってくる。
 グラビティ光線が互いの境界に一筋の線を引く。キルロイによる牽制にも怯まず、それらは更に加速し、突進してきた。
 ポーン二体が先行し、右腕のブレードを振るう。
「守りきって見せるのじゃ……!」
 叩きつけるような動作に合わせ、腰を落とした姿勢で待ち受けていた白が、光の戦輪を掌打で撃ち込む。彼と同時に百火も緑鎖を握り、瓦礫に念を籠め加勢する。
 片や、刀を軸にくるりと体勢を入れ替え、宙に逃れたイサギはそこから魂を分け与える。受け取ったアトリは軽やかに地を蹴り上げ、オウガメタルを纏って拳を振るった。
 いずれも、金属の装甲を浅く疵付けるばかりで、巧く凌がれる。
 そんな大きな障害物の向こう側、目を細めてルーヒェンが呟く。
「あれが玩具の国の王様かァ」
 ――キチンと壊さなきゃ、ねェ。
 誰にでもなくルーヒェンがハンマーを変形させ、ふと思う。自分達が勝利した暁には、この場所は暗い海の底に沈み続けるのだろうか。多くの機兵の亡骸を内に抱えたまま。
 脳裡に浮かび上がった情景を無理矢理沈め、彼は撃った。

 後方より、ポーンがケルベロス達を蹴散らすように、一気に奔る。
 その直撃をひらりと躱したキヌサヤだったが、すかさず次のポーンの剣が迫る。次こそ、逃げ場は無かった。
 胴を断たれて、消える――此処まで盾に回復にと戦場を駆け回ってくれたが、限界だった。
 いよいよ、この時が来たとアトリは気を引き締める。彼女の相棒の体力は、他の仲間に比べ、極端に劣るわけではない。
 イサギと白も疲弊の度合いは似通ったもの。戦闘中に立ち位置を入れ替えるつもりはなく――また、その隙は致命的となろう――次にギルフォードとエステルも、かなり消耗している。この三機はキングより与えられた足止めという役割を心得ており、狙うのが難しい相手ではなく、確実に削れる盾役を狙ってきた。
 見立てによれば、ポーンは攻撃型の後衛、ナイトが守備型の前衛。いずれの装甲も堅く、先程と異なり弱体化を狙うならば、攻撃を分散せねばならない――いずれもケルベロス側には不利に働いた。
「魔法はあまり、好まないのですが」
 瑛華が魔力で生成した鎖を伸ばす。
 重ね白はゆっくりと構えをとって、呼気を整える。黄金に輝く掌が、自らに走る傷をいくつか癒やす。
(「……まだじゃ、まだやれるのじゃ」)
 思うも、此処まで蓄積した疲労で、身体が悲鳴をあげている。
 キルロイの絶対零度手榴弾が炸裂する。対し、一度距離をとったナイトが、盾を正面に構えて突進してくる。
 空の霊気を纏う一刀を、ギルフォードが鋭くねじ込む。
 其れは盾を浅く滑る。しかし呪いの力は間違いなく深く刻みこんだ。後は最後まで立っていられるか――彼は小さく息を吐き、伝う汗を乱暴に拭うと、血が頬を汚した。
 失った体力を少しでも取り込むべく刃に虚の力を乗せ、エステルが鎌を振るう。
 力強く床を蹴り上げ、アトリが回し蹴りで暴風を叩きつける。
「運び屋の同期と尊敬する先輩が居るんだ――変な格好は見せられない……!」
 それに押し戻された機兵へ、ルーヒェンが戦場を斬り裂くような一撃を轟かせる。
 この応酬で僅かに発生した隙間を縫うように――ポーンが迫る。
「ここは、余の身に代えても守りきるのじゃ……!」
 気合いを発し、瑛華の左手薬指のリングから具現化された光の盾を前に、白は正面から挑む。
「………―――龍の眼に、射抜かれ果てろ。」
 威圧を乗せた、龍の眼光。
 睨め付けた相手を射殺す力をもって、ポーンを穿つ――しかし、横から迫り来る刃が、彼をねじ伏せた。
 ここまでじゃったか、迸る朱に目を細め、他人事のように白は呟くと、
「……百火、皆を頼むのじゃ」
 最後に残される百火を仲間に委ね――また、彼女には確り戦うように告げ、崩れ落ちる。
 意志を引き継ぐように、アトリが駆け――オウガメタルを纏って叩き壊す。
 後二機、ギルフォードは刃を翻し、ナイトへ挑みかかる。
 間合いは相手に分があるが、速さならば負けぬ。
 際どいところで姿勢を低く、更に加速する。風を斬る音が間近で薙いだ。
 背が燃えるように熱い――ごそりと力が抜けていく。躱しきれなかったと、ギルフォードは感覚で悟る。
 それでもぐっと踏みとどまる。黒いチェスターコートは中心から裂けており、その奥に深紅が滲んでいた。
 だが、唯では崩れぬ。その場で切り返し、背後を突く。
「・・・nonsenseだ・・・。」
 二本の得物と「残火」で形成した鋼糸、そして投げナイフ。四の凶刃が閃き、瞬く間にナイトの鋼の躯を分解する。
 しかし耐えきれず、彼は鉄屑の元へ膝をつく。
 そこへ、残されたポーンが守りを粉々に砕く強烈な閃光となって、戦場を浚う。
 咄嗟に瑛華は回復の手を向けたが、救えたのはイサギに庇われたエステルだけ――キルロイの罵声と共に叩き込まれたエクスカリバール、ぐらりと蹌踉めくポーンを軽々よじ登り、割れた頭部を掴んだルーヒェンが、それを怪力でべろりと剥がし。
 敵はようやく沈黙した。

●競べ
 開戦後八分、彼らは突破した。キングの方を見やれば、何班かが戦っている。
 いざ加勢にと踏み出そうとした時、瑛華が気付く。
「前方から一体、向かってきます」
 咄嗟に飛び退いた彼女が視界に捉えたのは、銀色の機兵――先程別班と交戦していたナイト・FAだ。進路がかち合うということは、キングの元へ加勢しようとしているのだろう――ならば交戦を避ける理由はない。
「エステルちゃん限界っぽいけど、どーしよ」
「入れ替わっている時間は無いね……!」
 ルーヒェンの視線にアトリが応える。距離は既に詰まっていた。
『邪魔だッ!』
 FAは吼えた。取り巻くケルベロス達を蹴散らすように、装甲構成する流体水銀の弾丸をばら撒く。
 いとも容易く身体を穿つ弾丸に、誰の者とも知れぬ珠のような血液が空に零れる。瑛華がすぐに魔力で生成した鎖を伸ばすも、足りない。
 ――こんなところで、こんな奴らに!
 エステルを突き動かしたのは、彼らに向けた強い憎悪と拒絶。
「何がキングだ、くだらないガラクタめ」
 倒れ込みながら、一歩前に踏み出し――無理に突き上げた掌底打ち。
「この戦いには負けない。おまえ達は横暴すぎる!」
 声を上げる。彼女が叩き込んだ螺旋の力が、FAの疵に沿って凍り付いていく。倒れ込んだエステルを背に庇うように立ったアトリが、愛銃を素早く構え、撃つ。
 すかさず畳みかけたのはキルロイ。
 其れの腕へと楔と撃ち込まれた弾丸へ、棘の生えたバールを直接叩きつけ――氷の罅を、更に深める。
 百火が緑鎖で搦め捕るように金縛りを仕掛けると、反対の腕にルーヒェンがしがみつき、僅か走る亀裂に爪を立て、力任せに引き裂く。
 だが、足りぬ。
『退け、死に損ないども!』
 併し――明らかにFAは焦れていた。一刻も早く王の元へと参じようと逸る心が、判断を鈍らせていた。
 力任せに蹴散らそうと水銀の剣を垂直に振り下ろす――滑り込んだのは、イサギ。
「こういう戦いも……案外愉しいね」
 白い貌に、幾筋かの朱を刷いて。彼は凄絶な笑みを浮かべた。残してきた待ち人に胸の裡で一言謝って、彼は己を奮い立たせるように叫んだ。
 ――斬り刻めれば、尚本望なのだけどね。
 斬るためではなく、守るために合わせた剣は怪力に払われ、そのまま袈裟懸けに斬られた。夥しい血の中へ倒れ込むように、彼が崩れ落ちるより速く――アトリが影刃を宿して翔る。
 FAがそれを回避する術は、なかった。
 自らの足元から伸びた爪に貫かれた機兵の脚へ、触れる黒い指先。
「行かないで――何処にも」
 ルーヒェンが触れたところから、再び影がじわりと形を変え――枷に変じる。同時、流体水銀の躯がぐしゃりと潰れる。氷の破片が緑光を帯びて舞う。
『おお、王よ……』
「黙れ、死に損ない」
 脚を潰されても尚、未練がましくキングの方へと顔を動かしたそれの眉間を、キルロイは無情に撃ち抜いた。

●伐つ
 ディザスター・キングの取り巻きは消え失せ、代わりにケルベロス達が取り囲んでいる――然し未だ、苦戦を強いられているようだ。
「時間が惜しい――行けるか、瑛華嬢」
「ええ、全力で参りましょう」
 舌打ちひとつ、キルロイの問いに、微笑んだ瑛華が仲間を見やる。アトリは真顔でキングを見据えルーヒェンは愉しそうに目を輝かせた。
「さあさあ出来るだけ壊しちゃおう。望まれないモノを、これ以上生み出させないようにねェ!」
 砲撃形態に変形したハンマーを構え、ルーヒェンが高らかに唄う。百火も、白の分まで戦うのだと意志を示すように鎖を手繰る。
 真っ先に走ったのは、早撃ちの弾丸。
 古錆びた銀のリボルバー構えたアトリの姿に、瑛華は残念そうにひとりごち。
「わたしも狙撃の準備、してくればよかったですね」
 長い銀糸をしならせ、オーラを蹴り込む。距離はかなりあるが、関係ない――。
 黄金の王へと真っ直ぐに伸びる星型のオーラと、後を追いかける竜砲弾、また少し離れた場所で放たれるケルベロス達の一斉砲撃。
 バスターライフルを構えたキルロイは、その先の『視えた』死点へ向けて、放つ。
「あばよ」

 ケルベロス達の力を集約した怒濤の攻撃に、災厄の王は呑み込まれていく――最後に、その声が響く。
「さよなら、キング。今度は……ボクたちの、勝ちだ」

 そして破壊の音が次々に起こる――ケルベロスの勝利を示す祝砲が如く。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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