クロム・レック決戦~鬼が出るか蛇が出るか

作者:柊透胡

「クロム・レック・ファクトリアの探索に向かっていたケルベロスの皆さんが、帰還しました」
 定刻を見計らい、静かに口を開く都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。その表情は、幾分か険しい。
「端的に申し上げれば、ケルベロス2名が暴走。それで漸く敵の追撃を食い止めての撤退という厳しい結果となりましたが……得られた情報は非常に価値の高いものと考えます」
 まず判明したのは――伊豆諸島周辺の海底熱水鉱床の多くの資源が、ダモクレス勢力に奪われていた事。
「海底鉱床の採掘を行っていたのが『クロム・レック・ファクトリア』で、ディザスター・キング率いるディザスター軍団が護衛していたようです」
 ディザスター・キングが直接防衛指揮を執っている点からも、『クロム・レック・ファクトリア』が、ダモクレス全軍にとって重要な役割を果たしているだろう。
「更に、伊豆諸島海底部にはもう1基、拠点ダモクレス『バックヤード』の姿も確認されています」
 バックヤードの詳細は不明ながら、巨大な『環状の門』のような形状から『魔空回廊を利用して、採掘した資源の輸送を担当している』と推測される。
「バックヤード側の戦力は、巨大な腕型のダモクレスが確認されています。指揮官の『五大巧』は……その呼称からして、恐らく5体もの強大なダモクレスでしょう」
 クロム・レック・ファクトリアが採掘した資源量は膨大だ。概算では『ここ数年のダモクレスの侵略に必要な資源』の過半は、ここで得られたと考えて間違いない。
「つまり、クロム・レック・ファクトリアの撃破に成功すれば、ダモクレスへの打撃は非常に大きなものとなる筈です」
 青い竜翼を揺らし、ヘリオライダーは粛々と説明を続ける。
「拠点の場所を暴かれたダモクレス勢力は、『クロム・レック・ファクトリア』の移動準備を開始した模様です」
 移動準備が整うまで、遅くとも1週間。このままでは、『クロム・レック・ファクトリア』は伊豆諸島海底から姿をくらましてしまう。
「『クロム・レック・ファクトリア』の移動を許せば、大きな犠牲を払って手に入れた情報が無駄となってしまいます。探索の尽力を徒労としない為にも、移動の前に短期決戦で撃破しなければなりません」
 クロム・レック・ファクトリア撃破には、まず内部に潜入してディザスター軍団の防衛網を突破、ファクトリア中枢に侵入しディザスター・キングが守る中枢部破壊を要する。
「ダモクレス側にしても『ケルベロスを撃退すれば、撤退までの時間が稼げ』ます。決死の防衛戦は予想に難くありません。危険な作戦となりますが……どうか、皆さんの力をお貸し下さい」
 クロム・レック・ファクトリアの外周部には29箇所の資源搬入口があり、そこから内部に潜入が可能だ。
「とは言え、全ての搬入口が中枢に続いている訳ではありません。利用する突入口が偏るのは避けなければならないでしょう」
 ディザスター・キングは各搬入口を等しく警備する事で、ケルベロスの戦力を分散させようとしている。警備の様子から予測するのは不可能だ。
「つまり、中枢に繋がる搬入口以外も、ディザスター軍団によって堅守されています。敵を撃破して探索してみるまでは、その搬入口が中枢に続いているか否かは確認出来ない訳です」
 尚、複数チームが1つの搬入口から侵入した場合、侵攻時の安全性は向上するが、その搬入口が中枢に続いていなければ、ディザスター・キングとの戦いに参加出来る戦力が減少してしまう危険がある。
「クロム・レック・ファクトリア内部に於いても、ディザスター軍団の防衛部隊が展開しています」
 防衛部隊は、隠し部屋を利用する等、小戦力による奇襲でケルベロスを消耗させた上で、最奥部に有力な戦力を集結させている。
「この防錆戦の後に、ディザスター・キングとの決戦が続きます。中枢に至るには、敵の奇襲を察知した上で速やかに撃破。道中の損耗を抑えながら、有力ダモクレスに勝利しなければなりません」
 ディザスター・キングとの決戦は、中枢に到達した全チームが協力して戦う事になる。
「ちなみに、本作戦で『バックヤード』への攻撃も可能です。確かに気になる拠点ではありますが……バックヤードに戦力を投入した分、クロム・レック・ファクトリアの撃破の難易度も上昇します。戦力バランスに考慮が必要でしょう」
 考えるべき事も為すべき事も多い作戦であるが、ディザスター・キングとの浅からぬ因縁に決着を付けるチャンスでもある。
「これだけの大量の資源を採掘していたという事は、ダモクレスの大規模作戦も近いのかもしれませんね……その出鼻を挫く為にも。ヘリオンより、皆さんの健闘を祈っています」


参加者
ユージン・イークル(煌めく流星・e00277)
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)
葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)

■リプレイ

●第23搬入口へ
 伊豆諸島周辺海域――海底熱水鉱床を狙うダモクレスの資源採掘基地「クロム・レック・ファクトリア」を目指すケルベロス達。
(「この力は、誰かを守る為にある」)
 先頭を泳ぐのは、ルーク・アルカード(白麗・e04248)。螺旋に紛れる斥候は、目的地に着く前から警戒に余念がない。
(「昨年冬の大量虐殺を皮切りに、ドレッドノート攻略戦、螺旋忍軍大戦強襲……数多の残虐行為を働いておきながら、卑劣にも逃げ果せてきた貴様への怒り、無念、屈辱、決して忘れた事はない」)
 同じく隠密気流を纏い、ルークと肩を並べるリューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)。
(「犠牲となった人々の魂に報いる為、今度こそ貴様に裁きの鉄槌を!! その命を以って贖え、ディザスター・キング!」)
 ファクトリアの中枢にいるだろう、ダモクレス指揮官を倒さんとする士気は高い。
(「僕に、手伝える事は……」)
 健気を黒いコートと硬い表情筋の下に隠し、新条・あかり(点灯夫・e04291)の小柄は只管に先を急ぐ。
(「いよいよ決戦! 探索してくれた人達の為にも、私達も体張っていかないとね」)
 秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)は、寧ろテンション高い。拳をグッと握り締める。
(「皆、本当に輝いてるやっ☆」)
 意気強く深海を潜行する仲間が頼もしく、ユージン・イークル(煌めく流星・e00277)も負けじと水を掻く。塩水がお気に召さないか、ウイングキャットのヤードさんは些か不機嫌そうだけど。
 ――程なく、クロム・レック・ファクトリアの巨影が見えてくる。彼らが目指すのは第23搬入口。もう1チームと合流しての侵入だ。
(「こんな海底に基地作って、貴重な資源奪うなんて酷いよね」)
 水中に揺らめく白い髪。イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)が憤慨の面持ちならば、リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)は対照的にぼんやりとした表情だが、いっそ昏い眼差しで巨影を見やる。
(「てっきり必要な物は本星から送られてきていると思っていましたが、現地調達していたんですね」)
 濡れるがままの緑なす髪のリボンを気にしながら、葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)は静かに闘志を燃やす。
(「兎に角、ここを破壊してダモクレスに大打撃を与えましょう」)
(「待ってろキング! 張り倒してやるんだからっ」)
 ビシィッと人差し指を突きつけ、結乃も内心で宣戦布告だ。
 果たして、第23搬入口は何処に通じているのか。鬼が出るか蛇が出るか、或いは王を引き当てるか。頷き合った16名+2体は、静かに侵入を開始する。

●サーチ・アンド――
 こちらを右翼とすれば、同行するチームは左翼。斥候担当の4名――右翼からルークとリューディガー、左翼から七海とツカサは、消音を施した靴で隠密に動く。
「……」
 すり足で進みながら、空気の流れに集中するルーク。リューディガーは隠しカメラを気にするが、寧ろ破壊より、こちらの情報を与えないようにする策の方が重要だろう。
 本隊を挟む殿で後方を警戒するのは――左翼はシルヴィアと赤成。右翼はリノンと、静かに羽ばたくヤードさんの下、柴犬サイズのネズミがちょこまかと。ユージンの動物変身だ。
(「1本路、と」)
 動物変身しながら防具特徴は使えない。分岐があれば光輪足の出番だろうが、今は低い視線の探索に専念するユージン。高所は相棒の他にも目があるし。
「敵地だけど、地図があればスーパーGPSで位置を把握できたのに」
 スーパーGPSは完成した地図あってこそ。マッピングしながらでは効果は顕れない。
「さすがにその手の情報……漏らすほど……うかつじゃないね……情報の妖精さんじゃ……ダモクレスの情報は抜けないし……」
 あかりのぼやきに、フローライトも小声で返す。情報の妖精さんを活用するにも解読可能な情報媒体が必要だが、ダモクレスなら自身のメモリに直截ダウンロードも出来そうだ。
 赤毛の少女と紫髪のレプリカントを横目に、風流は隠し部屋を探る策を練る。敵の出鼻も挫ければ重畳。
(「キープアウトテープでダモクレスを引っ掛ける、とか」)
 だが、すぐに頭を振る風流。デウスエクスに小手先の罠は通じない。
(「後は……壁や床の強度の確認に、列攻撃を使うとか?」)
 これも駄目だと溜息1つ。グラビティで万が一、外と隔てる壁を壊してしまえば……流入する海水と超重の水圧で探索どころではなくなってしまう。
 せめて壁を叩いた音の違いから探ろうとして、風流は背後からリノンに制止された。静かに、とヴァルキュリアの青年は唇に指を当てる。斥候が消音に努める分、ちょっとした物音も響きそうだ。
『何か、いるって』
 ハンドサインで報せた結乃は、油断なくバスターライフル「KAL-XAMR50 “BattleHammer”」を構える。肩を並べるイズナも口を閉じたまま、緋の瞳で前方を凝視した。
『敵発見、単独警備中の模様、手筈通りに』
 斥候が逸早く発見したのは、単身の敵影――かつて戦場で将を務めたメタルガールソルジャー・タイプGの同型機と見られる。哨戒用の量産型だろう。
 迅速な報せに緊迫した次の瞬間。身構える本隊を哨戒機の青き眼が映すや、躊躇なく巨大機関銃を向ける。
「――とった!」
 小柄な動物形態から一瞬で人型に戻り、左翼の七海が飛び出す。気配を消して接近していた斥候達は、完全に敵の盲点となっていたのだ。
「目標捕捉……動くな!」
 獲物を狙う狼の如き鋭敏さで、警告と同時にアームドフォートで威嚇発砲するリューディガー。
 ルークのバトルオーラが燃え上がり、輝く弾丸が弧を描いて敵に喰らい付いた。
 ――――!!
 哨戒機の照準は素早く斥候へ。ガトリングガンが大量の弾丸をばら撒いていく。
「皆、もっと輝いていこうっ☆」
 すぐさま花が舞い、守護魔法陣が鎖で描かれる。無数の霊が憑いた鎌刃が唸るや早撃ちが奔り、【氷結の槍騎兵】が召喚された。
 加えて、左翼からも集中砲火を浴びせられれば、忽ち哨戒機は損なわれていく。
 ――――!!
 風流は意図的に光の翼を暴走させる。全身を光の粒子に変えた突撃に貫かれ、哨戒機はどうと倒れて機能停止。
『よし、先を急ごう』
 通路を塞ぐ残骸をクリムが怪力無双を以て退かせ、一行は更に深部へ足を踏み入れた。

●シューティング・ダモクレス
 敵との遭遇は1度でなく。だが、大事に至らなかったのは、慎重を重ねた成果だろう。戦闘自体は数の優位で押し切り、ケルベロス達は着実に深部へ向かう。
 少し拓けたスペースに出たのは、あかりが相当の距離を地図に描き起こした頃合い。
「下……」
 指を湿らせるツカサと同様に、空気の流れを敏感に察知したルークは、ハッと天井を仰ぐやバク転で飛び退く。
「――じゃない、上だ!」
 ツカサの警告に迎撃態勢と同時、突然口を開けた天井より、4体ものダモクレスが降下する。
 ズシィィィンッ!
 黒いコマンダータイプの重装備、桃色の軽戦士型、緑の銃撃兵型は2体――順に、カーボナード・コマンダー、モルガナイト・アサルト、クリソベリル・パンツァーと呼称されると知るのは、後になってからだ。
「待ち伏せ……!」
 先手を取られる。ケルベロスの只中に飛び込んだ桃色の機体は、暴風を巻き起こし前衛を薙ぎ払う。間髪入れず、2体の緑の機体はエネルギー砲を別々に掃射、黒い機体も脚部砲門全開でミサイルの雨を降らせる。
「黒が攻撃、桃が妨害、緑が狙撃か。こちらを削りにきたな」
 ポジションは撃破の優先順位でもあるが、敵の出方を窺わねばならない。右から、など即応出来る基準があれば、或いは先制攻撃も叶ったかもしれない。
「……む」
 鎖を鳴らし、あかりは本日何度目かのサークリットチェインを敷く。その表情は、不本意そうだ。
 2チーム合同、その数16+2。前衛は10を数える。故に前衛の強化率は、サーヴァントを伴わずとも相当に低い。顕著なのは回復量で、対前衛はほぼ半減してしまう。一方、後衛は6。やはり列減衰を被る。
 初手の弾幕でケルベロスの総戦力を察したか、敵は早々にクラッシャーを標的に、単体攻撃で攻める。敵も眼力を備える。各個撃破を図るのはケルベロスと同様か。
「今回は友人達も別動で頑張ってるからね。ボクだって出来る所を見せたいのさっ☆」
 小さな勇気の盾を翳し、敵の射線を遮るユージン。
「ほら、ヤードさんも!」
 ウイングキャットも盾役なら、小柄で黒の突進を阻む。
 まず攻撃手、次に狙撃手、最後に中衛。方針に従って戦う中、満月に似たエネルギー光球を錬成するリューディガー。仲間の火力を上げるべく、まずスナイパー達にルナティックヒールを浴びせていく。
 チラと感謝の視線を投げるリノン。眼力が報せるのは己の命中率のみ。だが、幾度もの戦いで仲間の動向は見定めた。唱えるのは足止めの魔法。
「掴まえろ」
 アディス・カロ・マヴロ・ヒェリ――使役する影は奈落に誘う悪魔の手の如く。黒い機体を過たず捕らえる。
「確実に、いくっ」
 超集中の果て、瞳孔までも絞りきり、結乃の狙撃は精確に捉える。たたらを踏むのを逃さず、息ぴったりに躍り出るピリカとボクスドラゴン。
「プリム、行くよっ!」
 強烈なスカルブレイカーとボクスタックルが黒い機体を叩き伏せる。
「影に閉ざされ凍りつけ!」
 すぐさま、ルークは後衛を狙い定める。
「眠いのじゃ~、疲れたのじゃ~、もぉ、やめるのじゃ~♪」
 狼人の影が氷の如く変じて敵を覆い尽くすと同時、何ともだらけたメロディが響く。ヴァルキュリアの魔力を込めた風流の(一応)戦歌は、歌を聴いた敵のやる気を削ぐ。
 そして、厄を重ねた1体へ畳掛けられる集中攻撃。無造作にバスターライフルを手に、リノンはゼログラビトンを射出。エネルギー光弾が風穴を開けば、結乃も負けじと愛銃を構える。
「もう、仕方ないなぁ」
 ケルベロスの怒涛の猛攻に標的の像がぶれ、思わず苦笑する結乃。だが、奔るフロストレーザーに一切の迷いはなく、爆ぜた緑の胸部から見る見る凍結、瓦解する。
 これで、残るは桃色1機。その俊敏は氷上を滑るよう。だが、この期に及んで、ケルベロスも逃しはしない。あかりの懸命なヒールを後押しに、一撃に何倍する応酬が容赦なく。
「速さも気持ちも、負けないよ」
 敵の上手を行き、死角より氷結の螺旋を放つイズナ。得意の剣技をさて置き、風流が鋼の拳で強かに殴り付ければ、反撃しようとしたのか、敵が急旋回する。
「……終わりだよ」
 だが、平静なクリムの呟きと共に迸ったライトニングボルトが、先んじて機体を打ち据える。いっそ呆気なく、最後の1体も崩れ落ちた。

●ディザスター・ナイト・FA
「……あ」
 怪力無双で敵の残骸を片付けたアップルが小さく声を上げる。忙しないジェスチャーで指差す通路の先――最奥らしきどん詰まりに、メタリックに輝く騎士型ロボットの姿。
 待ち構える威風堂々に、こちらも正々堂々挑むのみ。陣形を整え、ケルベロス達は真正面から攻め寄せる。
 ――――!!
 銀騎士の左肩の砲身より、眩い光線が前衛を舐める。
「皆を守る。それが俺の使命だ」
「……うん、持ち堪えさせてみせるよ」
 早速、ヒールドローンを展開し、守りを固めるリューディガー。あかりも愛杖「タケミカヅチ」を掲げ、雷壁を巡らせる。敵の初手が10という数に散らされたのも幸い、ケルベロス達は次々とグラビティを放つ。
「……」
 初戦の量産機と比べ物にならぬ威風を見詰め、リノンは静かに魔法を編む。
「……捉えるっ」
 如何に「一斉攻撃」が叶う状況を作るかが肝心であれば、スナイパーの足止め技は作戦の土台。結乃も早速、得意の狙撃をせんと「six sense snipe」の体勢だ。
「もう嫌になるくらい、いっぱいいーっぱい追い詰めてあげるよ!」
 常の無邪気さと打って変わった、いっそ蠱惑的な笑みを唇に刻み、イズナは掌中に氷結を喚ぶ。ジャマーの凍れる厄は、手数多き優位の更なる援け。
 なれば、確実なる攻撃を。ルークの気咬弾が弧を描き、風流はヴァルキュリアブラストを以て光撃を成す。
「硬いね……」
 手応えの強さは機械の所為ばかりでなく、恐らく銀騎士はディフェンダー。だがその動きは鈍重どころか、一気に前衛をすり抜ける。
「――っ」
 ブレードが直撃する。地面に叩きつけられたのは中衛に下がっていた赤成。
「はやっ!?」
 疾風掠めた感触に瞠目しながらも、ユージンとヤードさんは急ぎヒールを掛けた。左翼からも手厚い援護が飛ぶ中、再び攻撃がダモクレスに殺到する。
「……くっ!」
 銀騎士は怯まない。機械的に照準を合わせ、ビーム砲を発射。中衛の赤成とイズナに爆ぜる。
「各個撃破、か」
 緩く顔を顰めるリノン。ケルベロスの陣形を見定めたダモクレスは、効率的な切り崩しに打って出たか。
「オレの攻撃がそんなに気に食わなかったのか?」
 斬撃と砲撃で徹底的に狙われる中衛、特に赤成は何度も斬撃に身を晒される。
 だが、その全てと言わずともディフェンダー達はチームを超えてよく庇い、メディックのみならずよく癒した。
(「う……は、はずかし……」)
 例えば、あかりの通称「ぐねぐね」とか。微笑ましいダンスは、確かに仲間の力となっただろう。
 一方で、攻撃の手も絶えなかったのは多彩な手数の強味だ。堪え切れず、盾を掲げた銀騎士は、流体金属で装甲の傷を塞いでいく。
「押し切れ!」
 一手が回復に回った好機を逃さず、イガルカストライクを繰り出すリューディガー。
「――不吉の月。影映すは災い振り撒くもの」
 災厄のルーンを掲げるイズナは、不吉と災いを振り撒く古の呪縛『ユーベルコード』で敵の思考回路を捩じ切らんと。
 リノンのゼログラビトンと結乃のクイックドロウは、確実に銀騎士の武威を削いでいく。対して、風流の戦術超鋼拳は敵の装甲を穿ち砕いた。
「そこだぁっ!」
 銀の剣閃と交錯し、ルークの惨殺ナイフが鮮やかな軌跡を描く。呪怨斬月――呪詛を載せた美しき一撃は、損なった装甲にスルリと入り、機体を鋭利に斬り裂く。
「リペイントして上げマース」
 その斬り口へ、アップルはビビッドな塗料を豪快に飛ばし、塗り潰した。

 真っ赤な真一文字を刻まれた銀騎士は、今や重力に任せ、床の上に呈を崩す。
 その向こうに継ぎ目のない壁が迫る。つまりは袋小路。中枢に繋がりそうなダクトの類もない。
「ッチ、ブービー賞もなしか」
 赤成のぼやきに苦笑を浮かべ、イズナは踵を返す。
「行こうよ。戻って、他の搬入口の班の退路確保とか撤退を援護しないと」
 為すべきはまだあるという言葉に、否やはない。ケルベロス達は足早に、元来た路を引き返す。
 ――クロム・レック・ファクトリアの崩壊が始まったのは、彼らが撤退を開始して暫く経ってからとなる。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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