紅葉に潜む狩人

作者:神無月シュン

 長々と続いていた夏の暑さも落ち着き、木々が紅く色付いていく。
 紅葉狩りに訪れた人々の楽しそうな声で賑わう中、景色の一部が、突然緑色の鱗へと変化する。
 その場に潜んでいたドラグナー・堕落の蛇が姿を現す。
「これだけの数が居れば十分だろう。さあ、狩りの時間である。ニンゲンどもよ、グラビティ・チェインを我が主に捧げるのだ!」
「抵抗しないのであれば、特別に若い女は殺さずにおいてやろう。女であれば、生きたまま献上しても、我が主は大いに喜ばれるであろう!」
 合図と共に、数体の堕落の蛇が人々に襲い掛かった。

「皆さん、大変っす! 栃木県の日光いろは坂で、『堕落の蛇』と呼ばれるドラグナー達が現れて、紅葉狩りに訪れる人々を襲撃しようとしてるっす!」
 急いでヘリオンで現場に向かうっす。と黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は集まった皆を急かす。
 ドラグナーが出現する前に、周囲に避難勧告をすれば、敵は他の場所に出現してしまい、事件を阻止する事ができず、被害が大きくなるだろう。
「皆さんが戦場に到着した後は、避難誘導は警察などに任せて、敵に集中してくださいっす」

 紅葉の中に潜伏している堕落の蛇は、一般人の目からは識別不可能だが、ケルベロスであれば注意深く索敵を行うことで、隠密行動中の堕落の蛇を発見できる可能性がある。
 堕落の蛇達が人々に襲い掛かるよりも早くに発見し、先制攻撃を仕掛けることができれば、有利な状態で戦闘を進めることができるだろう。
「堕落の蛇は全部で3体、隠密偽装能力に特化しているタイプっす。その為か戦闘能力は低めっす」
 扱う武器は鎌で、それぞれ得意とするグラビティが違う。しかし共通して毒付きの短剣と長い舌を使った攻撃をするようだ。

「紅葉に紛れて人を襲うなんて許せないっす。ドラグナーの討伐、どうかお願いっす」


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)
蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)

■リプレイ


 日光いろは坂――下り専用の第一いろは坂と、登り専用の第二いろは坂。合わせて48のカーブがある坂道で、秋ともなれば美しい紅葉が見られると、各地からたくさんの観光客が訪れる、名所の一つだ。
 ケルベロス達はその2つの坂道を捜索するべく、第一いろは坂を頂上から下るA班に、八代・社(ヴァンガード・e00037)、蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)、レティシア・アークライト(月燈・e22396)が。
 そして第二いろは坂を麓から登っていくB班に、眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)、ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)、ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)、フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)の4人。
 作戦は2手に別れて各坂の捜索。対象を見つけ次第、もう片方に連絡を入れるというもの。
「カーブとは良きものである。さぁ、数多に描かれた曲線美を目と身体に焼き付けようではないか。俯瞰の視点からそのカーブ一本一本の『良さ』を吟味する仕事……」
「なんのカーブの話してんだルース……」
 どこかおかしな言動に、社は訝しげにルースへと話しかける。
「……分かっている。ちゃんとデカい爬虫類を探すので安心しろ」
「感じるは山の息吹! 大いなる涼しい季節! そんな綺麗な所に現れる不届き者は、私らが成敗しなくっちゃね!」
 ルースがバイクへと跨ると、後ろにカイリが飛び乗る。
「さあさあ、ルース先生! GOGOなのよ!」
「ルース、背中の感触でハンドルを誤るなよ?」
「そんなヘマはせぬよ」
「そんなこと言って、マスターは大丈夫ですか?」
 社の後ろに乗り込んだ、レティシアが背中に抱き着く。
「背中に柔らかいのが当たってるんだが……ん?」
 わざとらしく抱き着いてきたレティシアに、話しかける社。途中、背中に当たっていた感触がもぞもぞと動き出した。
 社とレティシアの間から、苦しそうにレティシアのウイングキャット、ルーチェが飛び出してくる。
「あらら、もう少しからかおうと思ったんですけれど……ふふ、冗談ですよ、冗談。さ、気を取り直して行きましょう」
「了解。とっとと探してボコボコにして、紅葉狩りといこうぜ」
 落ちないようにレティシアが抱き着いたのを確認して、社とルースはバイクを走らせ、第一いろは坂を下り始めた。
「A班あれで大丈夫なんだろうか……」
 通信で聞こえてきていた内容に、フィオはバイクの準備をしながら心配そうに呟く。
「まあまあ、ふざけていても仕事になれば真面目にやるはず……だよ、うん」
 フィオの横に並び、バイクの準備をする戒李がフォローを入れる。
「染まる紅の麗しい事、眺めて愛でるのが愉しみだ。さ、いろは坂を攻めようか」
 これから登る第二いろは坂を見上げながらネロ。紅葉の見頃でもあって、道路には既に車の渋滞が出来上がっている。
 フィオと戒李はバイクに跨ると『サーモグラフィゴーグル』を装着しようとしたが、これだけ車が多いと、熱源だらけになり、運転に支障が出そうと断念する。
「捜索の方は任せてくれればいい。運転の方は任せた」
 そう言うとジゼルは、戒李のバイクの後ろへと乗り込んだ。
「じゃあ私の後ろはネロさんね。さあ乗って乗って」
 フィオに促され、ネロはフィオのバイクに乗り込むと、代わりにゴーグルを装着し熱源で敵の隠れている場所を特定することにした。
 乗り込むのを確認したフィオと戒李は、車の隙間を縫うように第二いろは坂へとバイクを走らせた。


 渋滞の中、慎重にバイクを進めてきたB班。もうじき頂上だというのに、敵の姿が見当たらない。
「これは……A班の方に隠れているのかな……」
「まだ少し残っているし、断定するのは早いだろう」
 フィオとネロが話しながら坂を登る。
 それから少しして、明智平展望台へと辿り着く。少しの休憩を挟もうと、4人はバイクを降り、周りの景色に目を向けた。
「ん……?」
 サーモグラフィゴーグルを付けたままだったネロが声をあげる。
「どうしたのネロ?」
「あそこの樹の下、熱源が3つあるんだけど」
 フィオと戒李もサーモグラフィゴーグルを付け、ネロの指さした方向を見る。
「本当だ、やっと見つけた」
 今回の敵の目的は、グラビティ・チェインの回収。よくよく考えたら、人が一番集まる場所を狙う確率が一番高い。そう……景色を楽しみたいならば展望台に人が集中する。初めにここを調べていれば、あの渋滞の中を大変な思いをして捜索しなくてもよかった。4人の頭の中にちょっとした後悔がよぎる。
「こちらB班。A班、聞こえるか?」
 気を取り直してジゼルがA班へと連絡を入れる。
「ああ、聞こえるぜ」
「明智平展望台で対象を発見した。今どの辺りにいる?」
「今、麓に付いたところだよ」
「となると、頂上近くか」
 A班のメンバーが代わる代わる答える。
「ねえ、マスター。どうして道のない方向にバイクを向けるのですか?」
「そんなの決まってるだろ。ルース、ついてこられるよな?」
「もちろん」
「ちょ、ちょっと待って……」
『きゃあああああああ!』
 レティシアとカイリの悲鳴を最後に通信は切れた。
「あーあ……」
 何が起きたか予想がついたフィオはため息をつく。
「どうやら動きそうだよ」
 敵の動きを監視していた戒李が3人へ声をかけた。
 潜んでいたドラグナー・堕落の蛇3体が姿を現す。
「これだけの数が居れば十分だろう。さあ、狩りの時間である。ニンゲンどもよ、グラビティ・チェインを我が主に捧げるのだ!」
「ネロ達が居るからには、やらせないよ」
 B班のメンバー4人が堕落の蛇の前へと立ち塞がる。
「チッ、邪魔が入ったか。まずはこいつらから始末するんだ。かかれっ!」
 鎌を構え、堕落の蛇が臨戦態勢へ入る。B班のケルベロス達も各々武器を構えた。
「格好良い所、見せておくれね」
 ネロは投げキッスと共に、光輝くオウガ粒子を放出。
 粒子を浴び、堕落の蛇の1体へと距離を詰める戒李。刹那、日本刀『銀弧・艶姫』が弧を描く。
「ギャアアアア!」
「小さき隣人たち、その矢尻の秘蹟を此処に」
 斬撃を受け堕落の蛇が叫ぶ中、召喚された大樹の妖精がジゼル達を光に包む。
「私の眼からは逃げられない……!」
 フィオの瞳の色が緑から紅へと変わる。堕落の蛇の次の行動を予測し、攻撃を撃ち込むと、集中力が切れフィオの瞳は元の色へと戻った。
 戦闘が始まりしばらくして、ケルベロス達と堕落の蛇の間に2台のバイクが割り込んできた。
「待たせたな」
 A班のメンバーがバイクから降りる。髪や服には、無数の葉っぱがへばり付いている。渋滞を避ける為、山の中を直線に突っ切ってきたのだ。
「どうしてあんな無茶するのかしら?」
 おかげで早くついたけれども、と少々不機嫌そうにレティシアは呟いた。


 遅れた分を取り戻すかのように、社が刀を振るう。堕落の蛇が怯んだ瞬間を見逃さずに、戒李が納刀し駆ける。一瞬で懐へと飛び込み、抜刀。鋭い居合の一撃が堕落の蛇を切り伏せた。
「ルーチェついてきて」
 ルーンを発動させた斧を堕落の蛇目掛け、振り下ろすレティシア。続けてルーチェの爪が襲い掛かる。
 更に距離を詰めていたネロの拳が突き刺さる。
「紅き稲妻纏いて、全ての敵を芥と散らさんッ! 砕き燃やせッ! 焔ッ、紅ッ!」
 連続で攻撃を叩き込まれもがく中、カイリが詠唱を終える。紅の雷光へと姿を変え地を駆ける。雷光に貫かれ、堕落の蛇が炎に包まれる。
 その隙を逃さずに距離を詰めるルース。2本の如意棒から繰り出される乱打に、堕落の蛇は堪らずに後ずさる。更に追撃にと放ったフィオの斬撃が襲い掛かる。
 ジゼルが薬液の雨を降らせると、社達の傷が癒えていく。
「これで終わり!」
 カイリが急所を掻き斬り、2体目の堕落の蛇が地面に倒れ伏す。
「仲間達をよくもっ! よくもおおおっ!」
 逆上した堕落の蛇は社の首筋目掛け、鎌を振り下ろす。
「こちらはお任せを」
 レティシアが割り込み攻撃を受け止める。
「幻をボクに、痛みをあなたに」
「此岸に憾みし山羊に一夜の添い臥しを、彼岸に航りし仔羊に永久の朝を」
「何処が痛いんだ。此処か、其処か。ああ、言わなくていい。全部知っている」
 逆上した者は何をしでかすかわからない。早々に決着を付けようと、戒李、ネロ、ルース。3人の詠唱がほぼ同時に響く。
 3人の攻撃が休みなく堕落の蛇へと襲い掛かる。
「これもおまけだよ」
 フィオの放つ霊体を憑依させた斬撃が、堕落の蛇を蝕む。
「ガアアアアッ!?」
「ブースト。派手に決めるといい」
「おう。M.I.C、総展開! 終式開放ッ!!」
 ジゼルの援護を受け、社の全身に電気が走る。拳に魔力を収束。
「いっけえええ!」
 放たれた光弾は一瞬で堕落の蛇を貫き、光へと変えた。


 幸い戦闘で傷ついた樹はなく、外灯や抉れた地面の修復を行うネロ。これくらいなら景観も損なわないだろう。
「ねえ」
「ん?」
 社の袖を引くネロ。紅葉の方を指さす。
「ちょうど紅葉も見頃だし、少し散歩でもしていかないか?」
 ネロの意図を理解した社は皆に声をかける。
「ここまで来て紅葉を楽しまないで、帰るのも勿体ないですものね」
「散歩か、いいね!」
 レティシアとカイリが同意する。
 これだけ色鮮やかな景色を楽しみながらの散歩。反対する声はあがらない。
 皆でしばらく景色を楽しんでいると、避難していた観光客達が徐々に戻ってきた。
 直に展望台も人でいっぱいになるだろう。静かな散歩の時間ももう終わる。
 このまま帰って終わりというのも、少し勿体ないと皆が思っていると、先頭を歩いていた社が振り返る。
「折角だし、二次会を俺の店でどうだ?」
『賛成ー』
「もちろんマスターのおごりかしら?」
「それは……」
 散歩の余韻を味わいながら、ケルベロス達は二次会へと向かう為、いろは坂を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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