星の金華

作者:東間

●日常穢す牙
 モダンな造りの駅舎やその向こうに広がる森。そして駅周辺や森に点在するレストランやカフェが集客源となり、大都会と比べれば穏やかだが、緑豊かな駅前は今日も賑やかだ。
 今日のランチはどこで食べよう。
 どのお店から楽しもうか。
 そんな声が聞こえてきそうな風景を、ズドンと突き刺さった巨大な牙が邪魔をする。
「サア! グラビティ・チェインヲ寄越セ!」
「我ラヲ憎メ! 拒絶シロ!」
「ソシテドラゴン様ノ糧トナッテ死ネ!」
 牙は竜牙兵に変わり、無差別に始まった殺戮が穏やかな日常を血色に染めていく。
 それを良しとする竜牙兵達の嗤い声は、嫌というほど響いていた。

●星の金華
「これが去年のケーキ。チーズケーキの上に、金木犀ゼリーがちりばめられてるの」
「素敵……きっと、とてもいい香りがしたんでしょうね」
 顔を寄せ合いスマートフォンの画面を見ていたアウレリア・ドレヴァンツ(瑞花・e26848)と花房・光(戦花・en0150)だが、視線を交えるとその表情はきりり真剣なものに変わった。
 とある森の中、甘く薫る金木犀に包まれたカフェがある。そのカフェの最寄り駅に竜牙兵が現れると判ったのは、アウレリアの危惧が切欠だった。
 報せを持ってきたラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)は、タブレットに表示していたカフェのホームページを駅前地図に切り替える。竜牙兵が出現するのは、駅前ロータリーのど真ん中だ。
「地元警察には連絡済みだから、現場到着後は彼らが避難誘導に当たってくれる。だから、君達は敵との戦闘に集中して大丈夫だよ」
 現れる竜牙兵は3体。鎌を装備した前衛2体と長剣を装備した後衛が1体。
 しっかりと連携してくるけど万全の態勢で挑めば大丈夫さ、とラシードは笑い、再びカフェのホームページを表示した。
「ドレヴァンツが見付けたこのカフェ、星空がコンセプトなんだね。秋の特別ケーキは毎年変わるらしいけど……え、待ってくれ。凄くフォトジェニックな上に美味そう」
「でしょう?」
 今年の星空ケーキは、柔らかな青に金木犀模った陽色のチョコをちりばめた一品。
 青い表面もチョコレートでほのかに甘く、フォークを入れれば、生クリームを挟んだココアとプレーンのスポンジ層が顔を出す。
 穏やかな星空めいたケーキはホール形だが、1人でも余裕なコンパクトサイズなので、食べているうちにお腹がいっぱいで苦しい──という心配がない。
「星空カフェの金木犀ケーキ、楽しみにしている人は、たくさんいると思う。だから……竜牙兵達が起こす惨劇は、止めなくちゃ」
「ええ。絶対に」
 しっかりと頷いた光が斬霊刀の柄に手を掛ければ、アウレリアは夜空の紫写す瞳をふわり細め、微笑んだ。秋から冬へと移り変わる日々に、人々の血や悲鳴は似合わない。


参加者
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
連城・最中(隠逸花・e01567)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
ヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
美津羽・光流(水妖・e29827)
ピレレ・エルウェー(ウェアライダーの鹵獲術士・e34581)

■リプレイ

●今日という日和に
 牙が竜牙兵になり、人々の間に恐怖と悲鳴が広がる。
 嗤う異形達が人々に飛びかかるよりも早く。瞬きするよりも早く。一瞬で攻撃を叩き込んだのは御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)だった。直後をアスファルト翔た黒鎖が刺し貫く。
「小春日和やな。断じて竜牙日和ではあらへん」
 美津羽・光流(水妖・e29827)が神殺しの毒を注ぐ刹那、交わった夜明けと天色。アウレリア・ドレヴァンツ(瑞花・e26848)は花房・光(戦花・en0150)としっかり頷き合う。
 ──がんばる、ね。
 『Seirios』を握り締め、前へと駆けた瞬間。君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は手にした鈍色の鋼鉄龍から一気に力を放出する。叩き込んだ攻撃で竜牙兵を中心にアスファルトが割れ砕け、同時、ビハインド・キリノの念が売店前にあった物を拝借した。
 鋭く飛んだバニラソフトクリームが、竜槌の一撃から守られた敵の頭に激突してすぐ。駆け付けてくれた皆への感謝を抱いたアウレリアの蹴撃が、流星となって衝撃と共に縫い付ける。
「ケルベロス……!」
 大鎌を構え治す2体を、後ろに控えていたもう1体が癒す──が、敵の描く守護星座への備えは万全。
 連城・最中(隠逸花・e01567)の展開したオウガ粒子が煌めく中、迫ったのはヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)と封印箱に飛び込んだ箱竜・モリオン。音速の拳は加護を砕き、鎧に変わった御業がアウレリアを包み込む。
「光さん、一緒にがんばろうね」
「ええ。頑張りましょうね、エルウェーさん」
 ピレレ・エルウェー(ウェアライダーの鹵獲術士・e34581)に続き、扇越しに戦場を見た光の癒しは前衛へ。
「皆殺シダ!」
「人間共モ、ケルベロスも!」
 空裂いて飛ぶ刃がモリオンを斬り、生命奪う斬撃は寸前で割り込んだヴェルトゥの肩に突き刺さる。
 が、迸った光線の前へ反射的に動いた竜牙兵が顔を強張らせたのを隠・キカ(輝る翳・e03014)は見逃さない。そして警察の誘導で避難していく人々が抱く『恐れ』も。
「この駅はきぃ達がまもるよ。おちついて、今はここから急いで逃げて」
 3体の竜牙兵。最初の撃破を狙うのは敵の攻撃手。
「死にゆく者は無知であるべきだ。要らぬ煩悶は捨てて逝け」
 白陽の攻撃で一切の傷を受けずに己自身を解体されてすぐ、眸の『弾丸』がこれ以上なく的確に撃ち砕く。
 クラッシャーたる2人の火力は『一撃』と表するに留まらない。心身が大きく欠けた所をキリノの念が捕らえれば、1体が骨の骸となって崩れ落ちた。
 ざらざらと砂になり、消える。
 残り2体はそれに何を言う訳でもなく、明確な殺意と共に向かってきた。星辰の剣が再び守護星座を描き、大鎌振り上げた骨の腕、そこに広がりかけた石化が消えていく。
「グァハハ! 死ネ、死ネィ!」
 その刃は確かにモリオンを狙っていたが、斬ったのは箱竜ではなく人の肉。
 最中は『千代見刀』の刃で大鎌を押し上げて即、弾き飛ばす。
 楽しみを語る事もない、従うだけの生を持つ竜牙兵は哀れだが。
「誰かの日常を奪うことは、許しません」
 うん、と同意示したアウレリアが星の名持つ杖をくるり踊らせる。
「おしごと、きっちりさせてもらう、ね」
 雷撃が迸り、最中の握り締めた鋼鬼の拳が続く。連なった攻撃は受けたばかりの加護を砕き、『空』纏った光流の黒鎖が染み込んでいた毒を更に広げていった。

●日常の為
 竜牙兵が痛みに顔を歪ませた、その眼前。音速の拳叩き込んだ夜紺の髪がふわり踊る。
「モリオン」
 おいでと呼ぶような声の後、高く舞い上がったモリオンのブレスが吹き荒れた。
 ピレレは光に前衛への癒しを託す。高められたオーラが最中を癒す間に、御業の『鎧』に守護されたキカが、たた、た、と虹色に光る淡い白金の髪を揺らして走る。
 高速回転させた腕はその細さ、幼さを感じさせない勢いで骨を砕き、そこへいつの間にか突き刺さっていた刃は──白陽が握る『七ツ影』。
「潔く逝って裁かれろ」
 一気に押し広げられた傷に竜牙兵が悲鳴を上げる。一瞬縮こまったピレレだが、仲間が生んだ流れを黄金果実の輝きでしっかりと繋いだ。その輝きを、大鎌手にした竜牙兵がぎろりと見る。
「邪魔ダァ!!」
 回転させながら放たれた刃が空を裂き、吼えるような音を立てる。だが、果敢に飛び込んだモリオンが翼を広げながらブレスを吐き、それを追うようにヴェルトゥの鎖が絡み付く。
 無数の桔梗が星のように咲いて、散って、掻き消えて──竜牙兵が吼えた。
 空気震わせ木霊する声は、ただただ殺気に満ち──。
「……少し黙って頂けますか。穏やかな秋空の下に、無粋な声は似合わない」
「そウだな。残り2体ダ、早急に倒したイ」
 彩度高い鮮やかな緑と深みのある緑。
 眸と最中が交わした視線はすぐに敵の盾役へ注がれ──星の圧満ちた蹴撃が竜牙兵を地に倒し、間髪入れず叩き込まれた鈍色の竜槌がその体を更に沈めた。
「ッ、オノレ──ガァッ!?」
 立ち上がったそこにキリノが突き刺した巨大アイテム。モダンな駅舎を背景にした、顔部分をくり抜かれた制服姿の人物2人。これの名前は確か。光流は記憶を掘り返し、あれやと思い出す。
(「顔はめパネルや」)
 記念写真は撮ってやれないが、代わりにあの世に送る一撃を。
 放った氷結螺旋は一瞬で敵の全身を覆い、光の『満月』がモリオンに触れた瞬間砕け散った。きらきら踊る破片の向こう、現れた流星は──アウレリア。
「グウッ……! ダガ、タトエ最後ノ1体ニナロウトモ!!」
 構えた剣から飛び出した星の煌めき。一気に広がった『射手座』が後衛に向かった瞬間、ヴェルトゥと最中は地を蹴って癒し手2人を守り、キカの紡いだ呪文が光となって竜牙兵を貫く。
「だめなんだよ。ね、キキ」
「そ、そうなの……!」
 落ちていいのは流れ星と、おいしいケーキを食べたときのほっぺただけ。
 香っていいのは金木犀とおいしいケーキの甘い香り。
 だからとピレレは一生懸命声を上げる。
「あなたたちには『めっ』ってするの!」
 言葉と同時に白陽が達人級の技を見舞う。光流が溢れさせた海水は仄暗く冷たい荒波となり、呑まれた竜牙兵が必死に顔を出した所をモリオンのブレスと、桔梗咲かすヴェルトゥの鎖が捕らえていった。
「オノレ、オノレ! セメテ一太刀ッ!!」
「──させませんよ」
 重力宿した斬撃を流銀で受けてすぐに最中は鋼拳を叩き込み、守護描く鎖と満月──ピレレと光の癒しが駆け巡る中、眸は『眼力』で敵を見る。
「十分ダ」
 竜槌が鈍色から地獄焔の色に変わっていく。地を蹴り。振り上げ。一気に落とす。
 轟音と共に焔が鮮やかに弾け、す、と手を向けたキリノが金縛りでもって敵を封じた、その刹那。棘を纏う蔓に実り、花が蕾んで。咲いて。咲いて。咲いて。
「――夢も視ずに、眠って」
「──!!」
 一斉に散った茜色。その向こうに佇む真白い娘。
 それが、竜牙兵が見た最期の景色。

●お楽しみの前に、
 竜牙兵は全て砂になって消えた後、ケルベロス達は仲間達の怪我の有無や、壊れた箇所のヒールに当たった。
「日常に竜牙兵の傷跡なんか要らん要らん」
 戦闘時の寡黙さは消え、普段の飄々とした空気纏った光流は、綺麗になった駅前を見る。色付いたアスファルトは、どこかモダンな駅舎と似合いのデザインになっていた。
「警察には安全確保が完了したと伝えました」
 最中は仕舞っていた眼鏡を掛け、短く息を吐く。
 竜牙兵出現という現実は変わらずとも、この場所は日常を取り戻すだろう。
「アリア、眸、光、おつかれさま。きぃもがんばったよ、えへへ」
「お疲れ様。隠さん、凄くかっこ良かったわ」
「ん、おつかれさま」
 アウレリアは頑張った少女に微笑みかけ──逸れぬようにと眸の服をこっそり掴む。
 掴まれた当人は気付いていたが、掴まれるに任せたままキカに「お疲れさま」と、そっと視線合わせ微笑んだ。
 竜牙兵を倒して。駅前をヒールグラビティで癒して。後は。
 ピレレの耳が、ぴんっと立つ。
「カフェ行くの!」

●星の金華
 すごいの! と歓声上げたピレレは、アルナーと一緒になって目を輝かせていた。
 天井から下がる灯りは六芒星。皿の縁は金色の星が縁取っていて、目の前には青い星空ケーキが1つずつ。
「なんだか私たち、星空の中にいるみたいなの」
 友達と一緒にオシャレなカフェで美味しいケーキを食べる。なんだか素敵なおねえさんになったみたい。
 ──と味わうその向かいでは、一口食べたアルナーが目をパッと輝かせた。
「あまい! ピレレ、星空って甘いのね! アルはじめてしったわ!」
 一度、自分だけでホールケーキ全部食べてみたかったものだが、このサイズなら小さめだから余裕でペロリ、の予感。と、フォークを進める瞳には、すまし顔でケーキを食べるピレレの姿。
(「今すっごいはしゃいでるの、アルにはお見通しよ」)
「にゃ、あ、アル? 何かいてるの?」
 何ってそれは──幸せそうな、似顔絵を。

 雪と向き合い過ごす席は、プロの学生である雪が確保しておいてくれた場所。
 仲の良い友人との会話は自然と盛り上がるばかり。
「空気が凍る季節は星見月見に向いてると思うんだよね。怖いくらい冴え冴えして。良かったらいずれどう?」
「おー! いいよね寒い時ほど空気が澄んで冴え冴えと星々が見えてキラッキラ輝いてる!」
 白陽の提案に雪のテンションが上がった。地上のギャル達は着飾るが、宝石箱を思わす夜空の星々が見せる素朴な煌めきは、ずっと見ていたいものだ。
 声を弾ます雪に、白陽は今日の装いを賞賛しつつ、着飾らないのも良いがファッション選びの楽しみは地上人のメリットと言い──2人は互いに感謝を告げ、笑い合う。

 ここが約束の場所? ウォーレンの思いは、運ばれてきたケーキ彩る金木犀の星に魅了され、一口で広がった仄かな甘みで幸せの渦に落とされる。
「やっぱり。絶対君は好きやと思った」
 季節限定。ケーキ。確かにそういう響きには弱い為、光流へ「うん」と答えるしかないが、好き度はケーキよりも目の前でにんまり笑う彼の方が高い。
「あれ? 食べないの?」
「ちゃんと食うで。せやけど今は君を見ていたい」
 花みたいな笑顔、星みたいに輝く瞳。ケーキを食べたような甘い気持ちに浸る光流にそう言れると、ウォーレンだって見たくなるもので。
 ウォーレンは光流のケーキを一口掬い、自分のも食べるのかと不思議そうな彼の口元へ。
「はい、あーん」
「……」
 耳まで真っ赤な光流の心は、本人が思う以上に混乱していたらしい。竜牙兵の話を始めたそこへ、天の川の話を望む声が添う。

 金木犀の見える窓際の席は、ケーキ待ちの時間も楽しい星探しのひとときに変え──2人で1つとした星空ケーキが、ヴェルトゥとエレオスの目を輝かす。その度合いは少々違うが、切るのが勿体ないという思いはぴたりと同じ。
 半分こした星空の色そのままのように、優しく広がる甘さ。ヴェルトゥは表情和ませ、ふと向かいを見て──笑う。ほのかな甘みは友のほっぺたを落とすほどだったらしい。
「俺の分も食べる?」
「食べさせてくれるんですか?」
 素直に頷く口元へ届けたフォークに乗せた一口分。
「……美味しい?」
「えへへ、美味しいです。……自分で食べた時より美味しい気がします」
 悪戯っぽい笑みに、ふんわり無邪気な笑顔が返る。
 もう一口、のお願いには、勿論喜んで。

 外見は愛らしく、樹の温もり溢れる内装はきらきらと。廃園の温室から見る夜空に似てグランピング気分──と、夜が口にした聴き慣れない単語にアウレリアと十郎は首を傾げ、キカは星を探してきょろきょろ。1つ目は十郎が見付けた手元のフォークに。その次は。
「光、光。これが……」
「今年の金木犀ケーキなのね……」
 複数のテーブルを寄せ合って出来たグループ席にて、夜明け色と天色は仲良くきらきら。陽色のチョコをちりばめた穏やかな青は、彼方の煌めきを切り取って出来た恒星集う星団のよう。
「ふふ。君達も星みたいだ。或いは俺達も星団の一つなのかな」
「キカの青の眸はさしずめシリウス?」
 夜はアイヴォリーと微笑みを交わし、寝転がった皆で星を見上げ語り明かす宵を思い浮かべる。その時も今のように胸弾む想い抱く予感をしながらフォークを手にすれば、
「んと、んと……とれた!」
 キカの声と共に流星が銀を彩った。一口目の前に始まった記念撮影、見入っていた最中も参戦する──が。
「花房さん、コツを教えて頂けませんか」
「喜んで。ケーキ単体なら『料理』か『ミニチュア』がいいかしら……」
(「撮影モード、の事でしょうか」)
 苦戦しつつ撮ったケーキはピントも色合いも完璧。折角なので知人にも教える予定なのだと言えば「劇的料理のあの人?」と楽しげな小声。頷き、旅団仲間も思い浮かべ──伝えたいと思える人がいる幸福をそっと抱く。
「とりあえず最初はラシードさんに自慢しないといけませんね」
「じゃあ私も追撃しようかしら」
 なんて。
 冗談を交えながら金木犀の香りに鼻孔をくすぐられる。外に目を向ければ星の花が舞い降っていた。手元には星空ケーキ。最中を包むのは、戦いの褒美には贅沢過ぎる程の彩りだ。
 いただきます、の声が重なる中、すっとフォーク沈めた眸の顔に表情は現れない。
「甘イものは好きダ。エネルギーの吸収が早く……美味しイ」
 が、どこか喜びの色があるようで、目を細めた十郎は食べる前から満足しそうな心地。チョコとココアの紡ぐ甘い優しさにキカは表情をとろけさせ、アウレリアは早速ぺろり。
「がんばったごほうび、とってもうれしい」
「甘すぎないから何個でも食べれそう。……魔性のケーキなの」
 アイヴォリーの目は、夢のようなひとときと、瞳に映る星々へ。全てを留めておきたくて眸にレンズを向けたなら、
「こウか」
 星の1つを唇に挟んだお茶目な姿にくすり。角度を変え、仔細に眺めてようやく見付けた所から味わっていた十郎もレンズで捉えれば、こそっと光の影に隠れていった。
「いやあの、写真、少し恥ずかしくて……」
「もう、照れないで」
「わ、みんなで一緒にとろ。光と十郎も」
「……という訳だから、覚悟を決めた方が良さそうね?」
「う、そうだな」
 店員に頼み、夜とアウレリアもカメラへ向け笑顔を咲かす。
 レンズの奥に宝物を刻んだアイヴォリーは、憧れの夜空そのものへようやくフォークを入れ──広がる優しさを噛み締めるように、そっと胸を押さえた。
 最後の一口を終えた眸は静かにフォークを置く。感じるのは落ち着いた時間。目に映るのは美しいもの達。
「皆と、この素敵な空間に来られテ良かった」
 こうしてここにいるのも、アウレリアがこのカフェを見つけてくれたおかげだ。
「そしテ、この街を、守れテ良かった」
 自分を見る鮮やかな緑に、アウレリアはふんわり微笑む。
「眸もここのカフェ気に入ってくれた? わたしも、みなと来れてうれしいの」
 外を見れば、秋風に揺れては零れ、地面を彩る金木犀。
 甘く薫る可憐な花々は、来年もこの場所で星と共に咲き誇る。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。